夢幻航路   作:旭日提督

25 / 109
最近は昼間でも涼しくなってきて、もう秋かと感じています。夏が過ぎるのも早いですね。

あと、活動報告の方に霊夢艦隊の艦船のステータスを掲載しました。気が向いた方はご自由にご覧下さい。

それでは、第二三話、始まります。


第二三話 宇宙(そら)の濁流

 〜スカーバレル・巡洋艦船倉〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:Fate/EXTRAより 「突破口」】

 

 

 

 

 

 

「ううっ――――――ここは・・・?」

 

 薄暗い空間の中で、破かれた服を纏った華奢な少年―――イネスは、目を覚ました。

 彼は自分が何処にいるのか状況確認に努めようと、室内を見回す。

 乱雑に置かれた酒瓶や小物類に、コンテナや段ボールが積まれているのを見て、自分が酒場で酔いつぶれた後、酒場の倉庫にでも放り込まれたと思ったイネスだが、床に感じた感触がそれを否定した。

 

 ―――床は―――金属か?

 

 彼が座っている床はひんやりとした感触であり、触ってみると硬く、それが金属製であることは容易に想像できた。通常、酒場の床は木造か、高級店では花崗岩等の建材も使われているが、少なくとも金属は見えない箇所では使われていても、床張りに使われることはない。そこからイネスは、今度は酔った自分は艦の船倉にでも放り込まれたのかと考えたが、近付いてくる足音を聞いて、一度考えを中断した。

 

 ―――人が近付いてくるな・・・取り敢えず、誰かに状況を聞いてみよう。

 

 近付いてくる人に状況を尋ねようと思い、立ち上がろうとしたイネスだが、その前に、エアロックが開放され、2人の男が室内に入ってきた。

 その男達は、自分が乗り込んでいた艦のクルーとは明らかに異なり、汚い衣服を身に纏っていた。さらには離れた場所にいるイネスにまで、エアロックが開放された後から、むさ苦しい汗の臭いが彼の鼻をついた。少なくとも、自分が乗り込む艦の艦長であるユーリは、指揮は未熟であれ、衛生管理はしっかりやっていた。なので、彼の艦ならここまで臭い匂いがする筈はないと考え、もう一度男達の方を見た。

 男達は、汚い衣服を着ていて、さらには自分に向けて、下衆な笑みを浮かべていた。

 

「へっへっへ・・・アルゴン様に差し上げる前に、ちょっと楽しませてもらおうか・・・」

 

 今の台詞で、イネスはここが、海賊船の船内だと理解した。アルゴン様、なんて言うのは、スカーバレルの海賊以外は有り得ないからだ。

 

「おう、早いとこ済ましちまおうぜ。」

 

 別の海賊が、イネスの服を剥ぎ取ろうと、彼に手を伸ばした。

 

「わっ、わっ・・・ちょっと待て!」

 

 イネスは予想外の事態に混乱し、必死で彼等に制止を訴えながら、頭をフル回転させて、ここから逃れる方法を探る。

 

 ―――おいおいおい、僕は男、それもあんな薄汚い奴等なんかに掘られたくなんてないんだ!ヤバいぞヤバいぞ、このままじゃ・・・・・掘られる!!!

 

 このままではイネスは「アッー!」確定である。少なくとも、彼はゲイではないし、例えゲイであっても、こんな汚い連中はお断りである。いや、ブルーベリー色のツナギを着たいい男でもノーセンキューだと彼は思った。彼は自分の貞操を死守するために、必死で脱出する術を考る。

 

「おい、よく見ろ!僕は男だぞ!」

 

 イネスは、海賊は女を欲しているのであるから、自分が男だと素直に告げれば、少なくとも貞操の危機からは脱出できると踏んだ。しかし、その希望は、すぐに粉砕されてしまう。

 

 

「なにぃ~」

 

「男ぉ〜」

 

 

 海賊達は、イネスを舐め回すように、彼の体をまじまじと見つめた。

 

 

「まぁ・・・・・」

 

「それはそれで・・・」

 

 

 海賊達の言葉から、イネスはこれが、完全に失敗であると悟った。

 

「う・・・うわぁぁぁっ!!」

 

 男の手が伸ばされ、完全に恐怖で動転したイネスは、何とか逃げ出そうと、必死で彼等から離れようと足掻いた。

 

 ―――おいおい、あいつら男だって食おうっていうのか!冗談じゃない!僕は・・・・僕は、ゲイじゃないんだ!!男なんかとは絶対ヤりたくないんだ!!!―――

 

 イネスは必死に逃げ回るが、ついには男に腕を捕まれてしまう。

 

「逃げるんじゃねぇよ。なあ、俺らと楽しもうぜぇ~?」

 

「ひぃっ・・・」

 

 海賊の欲望に染まった表情を見て、イネスは恐怖に固まる。

 

 ―――くそっ・・・!

 

 イネスは海賊の腕を振りほどこうとするが、中々取れないそれに、一層失望する。

 元々彼は、その体形の通り、あまり力事は得意ではなかった。火事場の馬鹿力という言葉もあり、普段よりは力を出して抵抗していたイネスだが、海賊の腕っぷしはそんな彼より上らしく、全くといっていいほど、海賊の腕はびくともしなかった。

 

 

 ―――僕は・・・・ここまでなのか・・・・・!?

 

 

 イネスの心にも諦めの色が出始め、彼の脳裏に、走馬灯のように今までの記憶が掠めていった。彼には、あの海賊達に行為をされた後、生きていける自信がなかった。

 自分の人生はここまでなのかと悟り、せめて楽に死ねたらと考えたイネスだが、その直後、ドゴォォン、と、大きな衝撃が艦を襲い、艦が大きく揺れた。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 いきなりの事態に海賊も混乱したらしく、片方の海賊が、素っ頓狂な声を上げた。

 さらに二度、三度と衝撃が加わり、さらに艦は揺れる。

 

 程なくして揺れは収まったが、今度は廊下から、「なんだてめぇ!」、「死ねぇ!」、「ヒャッハー!」等の声と共に、何かの発射音やけたましい爆発音が聞こえると、人がバタバタと薙ぎ倒される音がひっきりなしに聞こえてきた。

 すると、一度閉じられた部屋のエアロックが、バゴン!という音と共に蹴り倒され、イネスは、そこに小柄な人影を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:東方幻想郷より 「少女綺想曲~Capriccio 」】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、此所に居たのね、探したわよ。」

 

 

 

 そこには、赤いリボンを付けた、脇が開いている白い袖付きの、紅白の色合いをした空間服に身を包んだ少女の姿があった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――あれは・・・確か、霊夢さんか!?いや、だが何故ここに・・・それに彼女は女の子だ、こんな所にいたら―――

 

 

 イネスは、少女が昨日酒場にいた0Gドックの霊夢であると気がついたが、霊夢の見た目が少女であることを理由に、彼女も海賊に襲われてしまうのではないかと心配する。

 しかし、その心配は杞憂に終わった。

 

 

「へっ、なんだ、女か。」

 

 侵入者の姿を見て、海賊達はは侮ったような態度で霊夢と対峙した。

 

「なぁ、そんなに俺達とヤりたかったのかい、お嬢さ・・・ごぶっ!」

 

 海賊が少女を挑発するが、言葉の途中で、霊夢はいつの間にか海賊の目の前まで移動して、海賊の腹に向かって膝蹴りを喰らわせた。

 霊夢の膝蹴りを間近に受けた海賊は、そのまま壁際のコンテナに向かって吹き飛ばされ、沈黙した。

 

「な、なんだてめぇ!」

 

 仲間を吹き飛ばされたことに驚いた海賊が、ナイフを抜いて霊夢に襲いかかるが、海賊がナイフを振るった後には既に霊夢の姿はなかった。直後、背後に回っていた霊夢の踵落としを脳天にもろに喰らい、もう一方の海賊も意識を落とし、力なく床に倒れ伏した。

 

「ふぅ・・・・・暫く体を動かしてなかったから、結構鈍っていたかしら?」

 

 霊夢は慣れた手付きで海賊を制圧すると、さぞ疲れたように肩を回し、イネスの方を振り向いた。

 

「ほら、帰るわよ。あんたのとこの艦長が心配してるわ。」

 

「あ、ああっ・・・・」

 

 差し出された霊夢の手を見て、イネスは今までの恐怖から開放されたのか、糸が切れたように床に座り込んだ。

 

「―――――はぁ・・・一応男なんだから、もうちょっとしっかりしなさいよね。悪いけど、体格的にあんたを背負って脱出する余裕なんてないわよ?」

 

 霊夢はそんなイネスを尻目に、端末を取り出して、彼の上司の下へ連絡した。

 

「あー、聞こえる?ユーリ君。あんたの部下はこっちで見付けたわ。シャトルに乗せたら、真っ直ぐそっちに送っておくからね。」

 

《えっ、見つかったんですか?ありがとうございますっ!》

 

「どういたしまして。じゃ、次はそっちで会いましょう。」

 

 霊夢は、ユーリに用件を伝えると端末を切って、次は自艦のAIである早苗を呼び出した。

 

「あ、早苗?悪いけど、私のいる場所に機動歩兵一体寄越してくれないかしら?」

 

《了解しました。》

 

 早苗が霊夢の指示を受けると、破壊された倉庫のエアロックから、今度はごつい人形のロボットが姿を現した。

 ロボットは倉庫の中に入ると、床に座り込んでいるイネスに引っ張り上げて、彼を連行していく。

 

「お、おいっ、なんなんだこれは!?」

 

「ああ、そいつは私のところの歩兵だから、安心していいわよ。取り敢えず、シャトルまで運んでおくから。」

 

 いきなり引っ張り上げられたイネスが、霊夢に抗議の姿勢を示すが、霊夢はそれを気にすることはなく、機動歩兵改にイネスを任せた。

 

「さてと、あとはもう一人ね・・・」

 

 霊夢は、もう一人の捜索対象であるミイヤを探すべく、薄暗い倉庫を後に駆け出した。

 

 

 

 

 イネスを助けた後、ミイヤを探すためにスペルカードや体術で海賊を気絶させ、頭がヒャッハーな海賊は刀で斬り伏せて、威力過剰なスペカのお陰で海賊船内で無意識のうちに破壊活動を行いながら駆け回っていた霊夢だが、一向に彼女の姿は見当たらなかった。

 なので、霊夢は近くで伸びていた海賊を適当に尋問(という名の拷問)し、彼女の居場所を聞き出そうとしたのだが、既にミイヤは別の海賊船に乗せられて一足先にファズ・マティに連れていかれたらしく、この艦にはいないと海賊は答えた。嘘の可能性も考えて他の海賊も拷問した霊夢だが、皆が同じ答えを言うので本当だと感じた彼女は、これ以上海賊船に留まる意味はないと考えて、海賊船を強襲するときに乗り込んでいた装甲シャトルに戻ることにした。

 

「エコー、ファイブス、聞こえる?私よ。」

 

 《艦長ですか?如何されました?》

 

「目標は既に連れ去られた模様よ。もうこの艦に用はないわ。撤退するわよ。」

 

《了解です。》

 

《了解。》

 

 霊夢は共に海賊船を強襲した保安隊のエコーとファイブスを呼び出して、撤退を命じた。

 

 霊夢がシャトルに着いた頃には、既に他のメンバーは乗り込んだ後だった。霊夢が乗り込むと、シャトルは海賊船のエアロックから離れる。

 シャトルは一機しかなく、救助したイネスも乗せていたので、霊夢はパイロットのタリズマンに命じて、シャトルを〈開陽〉ではなく、船足の関係でやや遅れて現場に到着したユーリの巡洋艦〈スレイプニル〉へと向かわせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜巡洋艦〈スレイプニル〉艦橋〜

 

 

 

 

 

「ありがとう・・・お陰で助かったよ、霊夢さん。」

 

 〈スレイプニル〉の艦橋で、海賊船から助けられたイネスは、着替えを済ませると、霊夢に礼を告げる。先程は礼を言う間もなく連れていかれたので、彼はこの場で改めて霊夢に感謝の気持ちを告げた。

 

「別に気にすることはないわ。私も最近は指示ばかりで体を動かしていなかったから、久々に暴れたかっただけよ。まぁ、お礼は受け取っておくわ。」

 

 霊夢がイネスから礼を受けると、トスカが会話に割り込んだ。

 

「いや、でも良かったじゃないか。無事で何よりだねぇ。」

 

「何言ってるんですか。貴女が変な服を着せるからこんな目に遭ったんでしょう。」

 

「な~に言ってんだい、そこのお嬢さんの素早い機転がなかったら、あんた貞操の危機だったんでしょ?」

 

「危機どころか、食われる寸前だったんですよ!!」

 

 イネスは、自分を揶揄うトスカに抗議するが、彼女はそれに構わず話を続けた。

 

「そういえば、ミイヤって奴はどうしたんだい?」

 

 トスカは、霊夢が連れてきたのがイネスだけなのが気になり、もう一人のさらわれた少女のことを訊ねた。

 

「あっ、言われてみれば、ミイヤさんが居ないな。」

 

 トスカの言動でミイヤが居ないことに気づいたトーロも、同じ疑問を口にした。

 

「彼女は別の艦に乗せられていたみたいよ。一足先に、ファズ・マティに送られたんでしょうね。」

 

「そうか・・・急いで彼女も助けないと・・・」

 

 霊夢の答えを聞いて、ミイヤの救出に向かおうとするユーリだが、それを聞いた霊夢の額に青筋が浮かんだ。

 

「ねぇ、あんた正気なの?」

 

「は・・・?」

 

 霊夢の言葉に一瞬戸惑うユーリだが、彼女は言葉を続けた。

 

「あんたね、ファズ・マティは敵の本拠地だってことを分かっているの?駐留戦力だって今までの海賊の比じゃないくらい、簡単に想像できるでしょ?」

 

「それは・・・・・だけど、放っておいたらミイヤさんが危ないじゃないですか。相手は海賊ですよ!」

 

 霊夢の言葉も正論だが、ユーリの意見もまた正論であった。

 ユーリ艦隊は僅かに巡洋艦が1隻に駆逐艦が2隻。霊夢の艦隊も幾ら性能差があるとはいえ、その数は12隻しかない。一方、海賊は自分達の本拠地でもあるので、かなりの戦力がファズ・マティに常駐していることは容易に想像できたことだ。

 しかし、ここでミイヤ・サキを見捨てることは、彼女が海賊の慰みものになることを意味している。海賊に囚われた若い娘の運命など、碌なものではないという事は、この場にいる全員にとって常識だった。つまり、ミイヤを助けるなら、タイミングは今しかなかった。

 

「それは分かっているわ。だけどね、あんたは"艦長"なのよ。そこは理解しているんでしょうね?私達はね、自分の艦に乗り込むクルーの命を預かっているのよ?わざわざ一人のために、艦隊全体を危険に晒すのはリスクが高すぎるわ。」

 

「それは・・・・ですけど・・・・!」

 

 霊夢の言っていることは、艦長としては正論だ。ミイヤは彼女達にとって、前日に知り合った程度の関係だ。わざわざ危険を冒して助けにいくというほどの関係ではない。

 それでもユーリは霊夢に抗議するが、彼女の正論の前に、彼は反論の言葉が思い浮かばなかった。

 

「・・・・エコー、どう思う?」

 

 しかし、彼女は瞳を閉じて、自分の後ろに控えていたエコーに意見を求めた。

 

「――――確かに、戦術的には艦長が正解だ。あのミイヤとかいうお嬢さんの救出に、わざわざ俺達が関わる必要性はない。」

 

 エコーは一呼吸置くと、意見を続ける。

 

「だが、"海賊団の壊滅"という依頼の観点から見ると、今ファズ・マティを攻めることは、敵にとってそれは奇襲となる。此方が戦力を整え、エルメッツァ軍と連携した場合は、それは敵の知るところになるだろう。幾ら海賊といえど、敵は馬鹿ではない。迎撃の準備は充分に予想される。しかし―――――――ここで俺達が攻撃を仕掛けるとすれば、敵にそれを事前に察知する術はない。敵の警戒網は平時体制のままだろう。罠を張る時間もない筈だ。」

 

 エコーは、かつては一部隊を率いて戦っていた軍人だ。彼は軍人としての経験から、戦略的観点で霊夢に意見を述べた。

 エコーの意見を聞いていたユーリの顔が、僅かに明るくなった。

 彼が意見を告げた後も、エコーの意見を吟味するように霊夢は無言で眼を閉じていたが、しばらく経つと、彼女は眼を開いて顔を上げた。

 

 

 

 

「・・・・・分かった、貴方の意見を採用するわ。ユーリ君、ファズ・マティに行くんでしょ?なら私達も一緒するわ。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 霊夢の決断を聞いて、ユーリは彼女に頭を下げた。

 彼女はそれを尻目に、踵を返して〈スレイプニル〉の艦橋を後にする。

 

「行くわよ、エコー。」

 

「イエッサー!」

 

 霊夢がエコーを呼ぶと、エコーは彼女の一歩後に続いて、二人は艦橋を去り、自分のシャトルに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〈開陽〉搭載シャトル内〜

 

 

 あのあと、ユーリ君と別れた私達は、〈開陽〉に戻るため、シャトルに乗り込んだ。

 そういえば、なんで私達がイネス君を助けるために海賊船に斬り込んでいたかって?まぁ、先に言った通り、最近は身体が鈍っていたから運動したかったってのもあるけど、単に私達の艦隊のほうがユーリ君の艦隊よりも船足が早かったってのもあるわ。一応緊急事態だった訳だし、救出は早いほうが良いかなと思って、先に斬り込んでいた訳よ。

 

「しかし、まさかこのタイミングで攻めることになるなんてね・・・」

 

 あのときユーリ君にはああ言ったけど、改めて考えると頭が痛くなるわ・・・

 幾ら海賊でも、本拠地なのよ。どうやって戦術を立てようかしら・・・

 

「そうですね、将軍なら、何か良い案を思い付くでしょうが――――」

 

「将軍?誰それ。」

 

「ああ、俺達がここに来る前に、我々の上官だった人です。」

 

「へぇ~。その人って、どんな人だったの?」

 

 私はエコーの言う"将軍"のことが気になって、彼に聞いてみることにした。

 

「そうですね・・・指揮官としては、柔軟な思考をお持ちの方で、非常に優秀でした。」

 

「柔軟というより、破天荒といった方がしっくり来るな。」

 

「ははっ、確かにその通りだ。」

 

 エコーとファイブスは、昔を思い出したのか、楽しそうに話していた。その"将軍"って人は、それほど彼等に慕われていたらしい。

 

「成程ね〜。ま、取り敢えずは、あれを何とかしないとね・・・・・」

 

 私が窓越しに見上げた先には、小惑星の群が濁流となって荒れ狂う宇宙海流が見える。

 

「メテオストームか・・・」

 

「デフレクターがあれば大丈夫とかいう話だが、本当に大丈夫なのか、アレ。」

 

 ほんと、二人の言う通りだわ。

 サナダさんの話だと、デフレクターがないと突破は難しいという話だったけど、デフレクター有りでも厳しいんじゃないの、これ。

 

「艦長、間もなく〈開陽〉にアプローチします。」

 

「分かったわ・・・まぁ、そのときにでも考えましょう。」

 

 タリズマンが、もう少しで〈開陽〉に着くことを教えてくれた。

 今は何も思いつかないので、とりあえず私は思考を切ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〈開陽〉艦橋内〜

 

 

 

 

 

 

 艦橋に戻った私は、海賊船への斬り込みについて主にコーディやミユさん、ノエルさんから"もっと自分の立場を〜"とか文句を言われたけど、私があの程度の海賊に遅れを取るわけないでしょ?第一、あのときは時間優先だった訳だし、一番制圧力が高い私が乗り込むのは戦術的には正しいじゃない。さっきのユーリ君みたいに、決して無鉄砲って訳じゃないわ。その筈よ。あ、そういえば霊沙を差し向けるって手があったかな――――いや、でもあいつは何でもぶっ壊しそうだからねぇ・・・

 

 で、相変わらずメテオストームは私達の前を流れている。それはもう、「この先には行かせんぞ~」って感じで。一体どうしろっていうのよ、あの小惑星の濁流。正直、デフレクター有りでも不安なのよね。

 

「サナダさん?あのメテオストームって、何とかならないの?」

 

 私はサナダさんに意見を求めようと、コンソールを操作して、研究室にいる彼を呼び出した。サナダさんが科学班の主任になってから、研究スピードは上がったんだけど、こういう時はなんか面倒くさいわね。ああ、関係ない話だけど、サナダさんの助手みたいな感じでいたチョッパーは整備班の副班長になったみたい。元々機械整備が得意だから、そっちに回ったらしいわ。

 

《そうだな、話したとは思うが、あれは2つの巨大ガス惑星の引力によって引き起こされているものだ。流れを止めるというのなら、どちらかの惑星を破壊するしかないな。ハイストリームブラスターの最大出力なら・・・・》

 

「今は時間がないし、それは出来ないわ。それに、あれからハイストリームブラスターは最大出力の65%に制限されてるでしょ?」

 

 以前のマリサ艦隊との戦闘でハイストリームブラスターを撃ったとき、砲口が損傷したんだけど、どうもあれは設計上の想定をかなり越えた威力があるらしいのよね。一応砲口の修理は終わったんだけど、まだ改良は済んでいないのよ。だから、ハイストリームブラスターは無闇に使えない訳。

 

《むぅ、そうだったな・・・だが、あれが沈静化するにしても、まだ周期ではないぞ?》

 

「そう――――――分かったわ、サナダさん。もういいわよ。」

 

《では、私は研究に戻るぞ。》

 

 私はサナダさんとの通信を切った。

 どうやら、サナダさんもあれにはお手上げらしいわ。これは、此方でどうにかする他ないわね―――

 

「・・・・ショーフクさん、艦をメテオストームの上流に向けてくれる?」

 

「了解しました。しかし、何故ですかな?」

 

 あれを渡るには、もうこれはセオリー通りにする他なさそうね。大体こういう濁流は、真横から突っ切るより、ある程度流れに任せた方が良いってのは昔から相場が決まっているわ。それをショーフクさんに言ったら、彼も承諾してくれたみたいで、〈開陽〉と艦隊を上流に向かわせてくれた。

 

「ノエルさん、ユーリ君にも、こっちに続くように言っておいて頂戴。」

 

「了解です。」

 

 メテオストームを渡るために、ユーリ君にもこっちに続いて上流に移動してもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、艦隊はこれである程度メテオストームの上流に来た訳だけど、ここで一度陣形変更を行っておく。

 

「早苗、陣形変更よ。左から順に、こっちの戦艦と重巡洋艦の列、空母、巡洋艦の列、駆逐艦、工作艦の列に展開させて。それと、ユーリ君にはこっちの巡洋艦の列に加わるように言ってくれるかしら?」

 

《了解しました。しかし、それでは一列目の艦がが足りませんね・・・》

 

 私は一番防御の固い戦艦と重巡をメテオストームの流れてくる方向に配置して、他の艦を護りながら突破しようと思っていたのだが、どうも戦艦と重巡が足りないらしい。まぁ、3隻じゃあ、他の列をカバーしきれないのは仕方ないわ。

 

「ヴェネターを隊列に加えたらどうだ?あれの防御力は、俺達が保証するぜ?」

 

「ヴェネター?ああ、〈高天原〉のことね。」

 

 フォックスが言ったヴェネターとは、先代旗艦の〈高天原〉のクラスのことだ。〈高天原〉は他の重巡に比べたら防御力は低めだが、決して著しく劣る訳ではない。それに、空母と工作艦を除けば、一番防御力が高いのは〈高天原〉だ。一列目に加えるなら、この艦しかないだろう。

 

「分かったわ。それで行きましょう。」

 

《では、その陣形で指示しますね。》

 

 フォックスの進言を了承して、〈高天原〉を一列目に加えた状態で艦隊の陣形を変更させた。

 

 

 

 

【イメージBGM:艦隊これくしょんより 「敵超弩級戦艦を叩け!」】

 

 

 

 

「インフラトン・インヴァイダー、出力上昇中!あと30秒で最大に達します!」

「重力井戸(グラビティウェル)、出力調整完了!」

 

 メテオストームの突破に向け、艦内、特に機関班の動きが慌ただしくなる。機関長のユウバリさんとミユさんが、それぞれインフラトン・インヴァイダーと重力井戸の状態を報告してくれた。

 

「よし―――メテオストームを抜けるわよ、機関、最大戦速!デフレクターは最大出力で展開!」

 

「了解。機関、最大戦速!」

 

「デフレクター出力、最大まで上げます!!」

 

 ショーフクさんが舵を引いて、〈開陽〉が動き出す。続いてユウバリさんがデフレクターが起動して、〈開陽〉の周りを楕円形の防御重力場が包み込んだ。

 

《後続艦に異常なし。》

 

 後続の巡洋艦も、〈開陽〉と同じようにデフレクターを展開して、メテオストームを目指す。

 

「メテオストームの影響圏まで、距離あと3000!」

 

「総員、衝撃に備えて!」

 

 メテオストームへの突入が迫り、全乗組員が衝撃に備える。突入前に、艦橋の窓が装甲シャッターに覆われた。

 艦がメテオストームに突入した瞬間、ドゴォォンという轟音と共に、艦が大きく揺れる。

 

「きゃあっ・・・!」

 

「くっ・・・」

 

 その衝撃で、艦橋ではミユさんとコーディが席から降り下ろされそうになった。

 

「はっ、こりゃ凄いな。」

 

 フォックスは、嗤いながら席にしがみついている。

 かくいう私も、さっきの衝撃で席から落ちそうになった。咄嗟にコンソールにしがみついて難を逃れたけどね。

 

「ああ、揺れる揺れる!揺れるねぇ!!」

 

 霊沙もなんだか嗤いながら、断続的に揺れるこの状況にスリルを感じているらしい。というか、こいついつの間に艦橋に居たのよ。いつも用もなくぶらついたりしてるけどさ。

 

「センサー感度―――大幅に低下します。」

 

 こころは、なんとか席にしがみつきながら、センサーの状態を報告した。

 この嵐の中では、センサーの感度が下がるのも無理はないわね。

 

「脅威になりそうな小惑星の接近に気をつけて!」

 

「―――了解です・・・!」

 

 こころに隕石の監視を頼んだ後、天井のメインパネルを見上げた。そこには、艦外の様子が映し出されている。

 映像の中で小惑星の破片が猛スピードでデフレクターの幕にぶつかる度に、艦が小さく揺れる。時折大きめの小惑星が飛来して、艦を大きく揺らしていった。〈開陽〉や後続の重巡洋艦に衝突した破片は、ぶつかった衝撃で上下方向に流されて、軽巡や駆逐艦、工作艦の隊列を掠めていった。やはり、大型艦を上流に配置して正解だったようだ。

 

《デフレクター出力、6320~7150の間で変動中―――やや不安定ですね・・・》

「機関の方は・・・なんとか大丈夫そうだけど・・・」

 

 早苗とユウバリさんから報告が入る。どうもデフレクターの調子が悪いらしい。

 

「それは不味いぞ。霊夢!」

 

「分かってるわコーディ。にとり!デフレクターの調子が悪いわ。すぐに整備班を向かわせて!」

 

《もうやってるよ!あと少しで到着する!》

 

 私はにとりを呼び出してデフレクターの修理を頼もうとしたのだが、流石はにとり、もう整備班を向かわせているみたいだ。

 

《艦長、どうやら一部のエネルギーバイパスが負荷に耐えきれなくていかれているみたいだ!今から交換するけど、その間少し出力が落ちるよ!》

 

「どれくらい時間がかかるの?」

 

《う~ん、30秒あれば足りる!それまで何とか耐えてくれ!》

 

「分かったわ。急いで頂戴。」

 

 どうもにとりが直々に指揮を取っているらしく、彼女からダメージ報告が入ってきた。

 

「という訳だから、周囲の警戒を一層厳にして!」

 

「了か―――あっ、本艦隊の進路に交錯する大型小惑星確認!」

 

 今度はこころがレーダーに、ヤバめの小惑星を捉えたらしい。

 にとりがデフレクター出力が一時的に落ちると言った矢先でこれだ。何よ、今日は厄日じゃない筈よ!

 

「緊急回避!」

 

《駄目です、それでも僚艦との衝突コースです!》

 

 私は咄嗟に回避を命じたが、早苗の演算装置はそれでも艦隊全体が小惑星を躱すことは出来ないと結論づける。ならば、取るべき手は一つだ。

 

「フォックス、主砲で迎撃!徹甲弾装填!」

 

「了解した!主砲1番から3番、徹甲弾装填!目標、左55度、上下角+18!!」

 

 フォックスは射撃諸元を入力し、小惑星を狙う。

 現在、艦のエネルギーはデフレクターに回されているため、レーザーでの砲撃は大幅に出力が低下する。というかジェネレータ出力的にやばい。なので、実弾射撃をフォックスに命じた。フォックスが主砲を操作し、上甲板の3連装砲塔に徹甲弾が装填され、目標の小惑星を指向した。

 付け加えると、デフレクターを最大出力で展開していた場合、重力場の影響で射撃が出来ないのだが、今は一時的に最大出力が弱まっている影響で、何とかそのまま主砲を撃つことができそうだ。

 メインパネルには接近する大型小惑星の姿が映し出され、霊沙も含めて、ブリッジクルーの表情が固まる。

 

「主砲発射!!」

 

 フォックスがトリガーを引き、主砲から徹甲弾が打ち出された。実弾なので、目標に達する前に他の小惑星に当たってしまった弾もあるが、大半は正確に目標の大型小惑星を撃ち抜き、小惑星はバラバラに砕けた。

 

「目標の破壊を確認、破片の大きさは基準値を越えません!」

 

「よし、やったぜ!」

 

 こころから迎撃成功の報告が入る。しかし、迎撃距離が近かったせいで、〈開陽〉に破片が降り注ぎ、艦が小刻みに揺れた。だが、デフレクターを突破できるほどの破片はなく、他の小惑星と同じように、破片は上下に流され、艦隊を通り過ぎていく。

 

《艦長、にとりだ!デフレクターの修理、終わったよ!》

《デフレクター出力、回復します。出力7000±80で安定しました!》

 

 小惑星の迎撃を済ませている間に、にとりは修理を終えたみたいだ。早苗からも、デフレクター出力の安定が報告される。

 

「間もなくメテオストームを抜けます!」

 

「よし、このまま突っ切るわよ!」

 

 私は自然と握りしめていた拳を解いて、クルーを鼓舞する。どうも、ミユさんの報告で少し安心したみたい。

 でも、まだ気を抜けないのは事実だ。

 

「メテオストーム突破まで、あと20!」

 

 艦隊は小惑星に揺られながら、メテオストームの向こうを目指す。メインパネルに表示されている小惑星の濁流も、外側に近付くにつれて、流れてくる破片の量も減っているように見えた。

 

「メテオストーム、突破まであと5・・・,4・・・,3・・・,2・・・,1、間もなく影響圏を抜けます!」

 

 ミユさんのカウントダウンで、艦橋に緊張が走る。

 

 

《メテオストーム、突破しました!》

 

 早苗の報告と共に、今までの振動が止んでいき、装甲シャッターが格納されて通常の宇宙空間が窓の外に見えた。

 

 

 

「「ああ、助かった―――――」」

 

「ふぅ~、何とかなったな。」

 

 ブリッジクルーの面々も、メテオストームの突破を受けて、安堵の表情を浮かべる。

 

《後続艦に異常なし!》

 

「ユーリ君の艦隊も、ちゃんとついて来ているわね。」

 

 早苗から僚艦の状態を聞かされ、私も、ユーリ君の艦隊が問題なく続いていることを確認した。

 

「安心するのは分かるけど、ここは既に敵の勢力圏よ。警戒体制を維持して!」

 

 

 

「「「っ、了解!!!」」」

 

 

 既にここは海賊共の勢力圏なので、警戒は怠る訳にはいかない。

 だけど、メテオストームの突破で多少艦隊に損害が出ているのも事実だ。特に、負荷を掛けたデフレクター関連の設備は戦闘前に確認した方がいいだろう。乗組員にもさっきの緊張状態のまま艦隊戦をさせるのは酷なものだ。何処かで一度、休息を取った方が良さそうね。

 

 

 

 

 という感じで、私達の艦隊はメテオストームを突破し、スカーバレルの本拠地へと足を踏み入れた――――。

 




メテオストームを抜けて、スカーバレルとの決戦が迫って参りました。

今回から、本文の書き方を変更しています。具体的には、台詞の間を一行開けています。他の方の小説を色々読んで、こちらの方が読みやすいと感じたので変更してみました。ご意見などありましたら、感想の方にお願いします。


それともう一つ、コーディの片仮名表記を今まで間違えてコーディーとしていたことにやっと気付きましたw
以前の話も、本文の書き方を修正するついでに直しておこうと思います。

本作の何処に興味がありますか

  • 戦闘
  • メカ
  • キャラ
  • 百合

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。