夢幻航路   作:旭日提督

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第二八話です。今話からタイトルを付けてみました。以前の話にも付けていくつもりです。ほんとはもっと前に投稿する予定だったのですが、挿絵に手間取って延びてしまいました・・・


第二八話 獣耳異変

 〜〈開陽〉艦橋〜

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ早苗、うちはいつから護送船団(コンボイ)になったのかしら?」

 

《さ、さぁ・・・何時からでしょう?》

 

 私の問いに、早苗は惚けてみせる。

 それよりもこの輸送艦の数・・・一体何処から調達したのよ。

 

 私が目覚めてついさっき艦橋に上がると、窓の外側には今までうちの艦隊にはいなかったビヤットやボイエンの大群が浮かんでいた。しかも〈開陽〉の後ろには見覚えのない双胴型のビヤットが随伴していて、おまけに新しい艦を建造しているようにも見えた。

 

「・・・まぁ、誰の仕業かは見当がついてるわ。大方サナダさん辺りが暴れたんでしょ?」

 

《・・・はい。後で記録映像を御覧になられますか?》

 

「いや、いいわ。」

 

 今の状況でも頭が痛いのに、さらにマッド共が暗躍する様子なんか見せられたら胃薬が必用になりそうだ。それは遠慮しておこう。

 

 

 ーーーーー

 

 

 そのあとコーディさんから私が倒れている間の艦隊の状況を聞いたんだけど、あの輸送艦の大群はファズ・マティから資源を持ち出すためにマッド共が誂えたものらしい。ただ資源を運ぶだけの存在なので、腹の中に蓄えた物資を使い果たしたら一隻を除いて売り払う予定だそうだ。

 

「そういえば、うちの艦隊にガラーナなんていたかしら?」

 

 艦隊の様子を確認しているうちに、画面上にはガラーナ級やゼラーナ級といった海賊駆逐艦も一緒に随伴しているのが見える。こいつらは何なのかしら?

 

「ああ、それはサナダ共が工作艦で作っていた連中だな。あと、後ろで数珠繋ぎになってる連中は鹵獲艦だ。売り飛ばす予定らしいぞ。」

 

 成程、まぁ予想通りね。

 艦隊の後ろには駆逐艦に加えて水雷艇や小数の巡洋艦がクレイモア級重巡に曳航されているが、こいつらは海賊が放棄したり、建造途中の艦のなかで売れそうな艦を鹵獲したもののようだ。目立った外傷は少ないし、中には新品に近いような艦もあるので、売り飛ばせばかなりの金になりそうだ。

 

「それと、こっちは新造艦と建造予定艦のリストだ。艦隊編成を考えておくのもいいだろう。」

 

 コーディはそう言うとデータチップを渡してくれた。それを端末に差し込んで開いてみると、建造予定艦のリストが表情される。

 

「随分と駆逐艦が増えるのか。これなら、今よりも柔軟な艦隊編成ができそうね。」

 

「ああ。サナダが言うには、"小数の艦隊を進路上に展開させておいて、そいつらを海賊共に食いつかせる囮に使ったらどうだ?"らしいな。」

 

「成程ね。あ、それと今艦隊はどこの航路を進んでるの?」

 

「ファズ・マティを出た後は、そこからボイドゲートに向かう航路を取っている。海賊共も俺達が殲滅しちまったから、静かなもんだ。」

 

 確かその航路は、エルメッツァ・ラッツィオ宙域に向かうゲートとファズ・マティを結ぶ大回りの航路だったっけ・・・その航路なら確か元から交通量も少ないし、スカーバレルも全滅したから、通る分には安全そうね。

 

「分かったわ。こっちは編成を考えておくから、何かあったら連絡を入れて頂戴。」

 

「了解。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〈開陽〉自然ドーム・博麗神社〜

 

 

 

 

 

 艦橋で現状確認を終えた後、私は博麗神社に来ている。取り敢えず、ここで艦隊編成を考えておこう。

 

「はぁ~やっぱ神社は落ち着くわ~」

 

 と、その前に、畳に寝転がって休憩だ。前世の実家なだけあって、ここに来ると気持ちが落ち着く。この自然ドームは私の注文通りに作られているから、ここにいる間は今も幻想郷にいるのだと錯覚してしまいそうだ。

 

「・・・・ここの季節、今は秋なのね。」

 

 どうもこの自然ドームでは季節の移り変わりの周期を早めているらしく、辺りの風景は秋の景色に変わっていて、神社の周りは鮮やかな紅葉に彩られている。

 

「―――掃除でもするか・・・。」

 

 秋になると紅葉が綺麗なのだが、同時に落ち葉も溜まる。前世とは違って常に神社にいる訳ではないから、溜まってる落ち葉の量も多い。別に放っておいても問題はないらしいが、習慣なのか、掃除しておかないと落ち着かない。

 

「よいしょっ、と・・・」

 

 私は身を起こし、箒を手にとって境内に向かう。

 

「あ~~、やっぱり結構溜まってるわね。」

 

 さっきは飛んできてすぐ神社に入ったのでよく見ていなかったが、やっぱり落ち葉はかなりの量が溜まっていた。これは一苦労になりそうだ。

 

 

 

 

「おや、艦長かい?」

 

 私が境内を掃除していると、鳥居の方から誰かの声が聞こえた。

 

「その声は、ルーミア?」

 

 声がした方向に振り向くと、ルーミアは手を振って、こっちに向かってきた。

 

「久しぶりだね。確かこの宙域に来てからは、あまり顔を会わせていなかったな。」

 

「そうね~、こっちに来てからけっこう戦闘の回数が増えたから、主計課の方まで顔を出す余裕はなかったわね。」

 

 このエルメッツァに来てからは海賊狩りの指揮で艦橋にいることが多かったから、艦橋以外の部署に務めてるクルーと会う機会が減っていたわね。これからは、暇な時間には積極的に見回りでもしてみようかしら。

 

「―――その様子だと、怪我はもう大丈夫なのかい?」

 

「え、ああ・・・ちょっと気絶してたみたいだけど、今は何ともないわ。」

 

「それは良かった。艦長が医務室に運び込まれたと聞いた時は心配だったからな。」

 

 ルーミアは、私が怪我をしたと聞いて心配してくれたみたいだ。それは素直に嬉しいけど、今後は気を付けた方が良いわね。前線に出るのは良いけど、それで倒れたらクルー達に示しがつかないし、何よりあの女医マッドに何をされるか分かったものじゃない。

 

「もう心配には及ばないわ。それより、立ち話も難だから、一度上がっていきなさい。お茶くらいは出していくわよ。」

 

「そうか。ではお言葉に甘えて。」

 

 私は掃除を一度中断して、ルーミアを縁側に案内した。そういえば、お客さんにお茶を出すのは久しぶりね。魔理沙に毎日茶を出していたのが懐かしいわ。

 

 一度台所に上がって、お茶と菓子を用意する。お茶請けは・・・どっかの星で買った生八ツ橋擬きで良いかしら。

 

「はい、お待たせ。」

 

「おっ、ありがと。艦長も中々気が利くね。」

 

 ルーミアは出されたお茶を手にとるが、飲み終わると、なんか難しい表情をしている。

 

「もしかして、口に合わなかったかしら?」

 

「いや、そうじゃないんだけど・・・なんか、サナダさんが"古代の飲み物だ"とか言って作っていた奴に似ていると思ってね。」

 

「へぇ~、サナダさんが・・・」

 

 どうやらこの時代にも、お茶は伝わっているらしい。でも、サナダさんってそんなことまでしてたのね。なんか機械ばっかり弄っているイメージがあったけど。

 

「そういえば、艦長はこれを"お茶"と言っていたけど、呼び方はそれで良いのか?」

 

「えっ、お茶はお茶よ。他に何て呼べばいいのよ。」

 

「いや、サナダさんは"ヲチャッ!"とかいう変な呼び方してたぞ。なんでも"このアクセントが重要だ"とか言ってたけど。」

 

「・・・・ルーミア、それは忘れても構わないわ。」

 

「あ、ああ・・・・」

 

 取り敢えず、後でサナダさんはシバいておくとしますか。無断軍拡の罪も含めて。

 

「それとだ、艦長。主計課に回せる人材っていないかな?艦隊が増えたせいでうちに上がってくる書類の数が増えてね。ちと増員して欲しいんだけど、どうかな?」

 

「そうね~何処かの惑星に寄ったら募集は掛けておくわ。」

 

「有り難い。」

 

 うちも艦隊の規模に比べたらクルーの数はまだまだ足りないからね。この〈開陽〉以外は全部無人艦だし、〈開陽〉も漸く最低稼働かってレベルだからね。ここの機械は高性能だから何とか回していられるけど、早苗の演算リソースも無限じゃないんだから、主計課も含めて人員は増やさないと不味いわね。

 

 そのあとはルーミアと適当な話をして別れたわ。ルーミアが帰ったあとは掃除の続きをして、それが終わった後は艦長室に篭った。サナダさんが大量建造した艦の配備先を考えないといけないからね。

 

 

 

 

「取り敢えず、こんなもんでいいかしら?」

 

 早苗の力を借りて、艦隊編成表を作り上げた。画面上には、たった今完成した編成表が出力されている。

 

 

 

 

 

 

 本隊

 

 戦艦:

 改アンドロメダ級/開陽

 

 空母:

 改ブラビレイ級/ラングレー

 

 重巡洋艦:

 クレイモア級/ピッツバーグ、ケーニヒスベルク

 

 巡洋艦:

 改ヴェネター級/高天原

 

 駆逐艦:

 ノヴィーク級/霧雨、叢雲、夕月

 

 

 

 特務艦隊

 

 工作艦:

 改アクラメーター級/サクラメント

 プロメテウス級/プロメテウス

 ムスペルヘイム級/ムスペルヘイム

 

 輸送艦:

 ボイエン級/蓬莱丸

 

 巡洋艦:

 サチワヌ級/サチワヌ、青葉

 

 駆逐艦:

 ヘイロー級/ヘイロー、春風、雪風

 

 

 

 第一分艦隊

 

 巡洋戦艦:

 オリオン級/オリオン

 

 巡洋艦:

 改サウザーン級/エムデン

 

 駆逐艦:

 ノヴィーク級/ノヴィーク、タシュケント

 グネフヌイ級/グネフヌイ、ソヴレメンヌイ

 

 

 

 第二分艦隊

 

 巡洋戦艦:

 オリオン級/レナウン

 

 巡洋艦:

 改サウザーン級/ブリュッヒャー

 

 駆逐艦:

 ノヴィーク級/ズールー、タルワー

 グネフヌイ級/コーバック、コヴェントリー

 

 

 

 第三分艦隊

 

 巡洋艦:

 サチワヌ級/ユイリン、ナッシュビル

 

 駆逐艦:

 ノヴィーク級/早梅、秋霜、パーシヴァル

 グネフヌイ級/ヴェールヌイ、アナイティス

 

 

 

 

 

 

《一応各艦の戦力バランスも考慮されているので、それほど問題はないと思われます。》

 

 艦隊編成はコーディが言っていた通り、複数の分艦隊に分けてみた。基本的に第一~第三の分艦隊が艦隊の前衛と哨戒を行い、海賊を発見次第交戦するという想定だ。本隊は中央に置いて、援護ができるように配慮する。艦隊の最後尾には工作艦とその護衛艦を置く。この部隊は基本は戦闘には加わらないが、後方からの攻撃も想定して、強力なヘイロー級駆逐艦を護衛艦として配置している。

 特務艦隊にはボイエン級が一隻編成されているが、これはスカーバレルから奪ったフネのうち状態が良いものを弾薬補給艦として再利用したものだ。今後は工作艦で生産されたミサイル類を備蓄して、弾薬補給艦として使用するつもりだ。現在は素のボイエン級のままだが、建造ラッシュが終わったら〈ムスペルヘイム〉のドックでそ装甲を強化する予定らしい。

 ちなみに、このボイエンの命名者は私だ。

 

「貴女が言うなら別に問題は無いでしょ。しかしまぁ、よくこれだけ作るわね。」

 

《ファズ・マティにあった造船資材は殆ど持ち出されましたからね。尚、輸送艦の資源は半分以上消費された模様です。》

 

 私は今の戦力でも充分だと思うんだけどな~。やっぱり資源は輸送艦ごと売った方が良かったんじゃない?まぁ、今となっては後の祭りだけどね。

 

「そうだ、早苗。食料の備蓄ってあとどれくらいあるかしら?」

 

《あ、えっと―――食料なら此方になりますね。》

 

 私の求めに応じて、早苗が艦の食料備蓄の量を表示する―――これ位あれば問題は無さそうね。

 

 それじゃ、艦隊運営の仕事も一息ついたところだし、もう一つやっておかないとね。

 

《それで艦長。食料備蓄なんか聞いて何をされるんですか?》

 

「決まってるでしょ。戦勝の後は宴会よ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:東方緋想天より『砕月』】

 

 

 

「そうそう、やっぱりこれがなきゃ締まらないわね~。」

 

 自然ドームの時刻は夜になり、神社周辺は宴会場となっていた。元々博麗神社には宴会用の土地を作っておいたから、前世同様に大勢参加する宴会が開けるのだ。

 私はその宴会場を一瞥してから、盃にお酒を注いだ。

 

 宴会の開催を決めてからは、厨房の人達と打ち合わせをしたり会場を用意したりとで忙しかったから、漸く一息つけた。まぁ、この後も片付けが残ってるんだけどね。

 

「やあ艦長。これで宴会は2度目かな。」

 

「あ、ルーミアじゃない。今日は酔ってないのね。」

 

 確か前に宴会を開いた時は、ルーミアに付き合って二日酔いになったんだっけ。以外と肝臓強いのね、彼女。あの時は絡み酒で他の連中を酔い潰していたみたいだったけど。

 

「まだ始まったばかりじゃないか。ああ、前のような失態はしないから安心して。」

 

「別にそこまで気にしないわ。宴会の時くらいは少しははめを外しても大丈夫よ。」

 

「そうかい、まぁ、ほどほどにしておくよ。」

 

 ルーミアはそう言ったら元いた集団に戻っていく。主計課の人達かしら。

 

 

 ―――しかし、紅葉の元で宴会ってのも飽きないわね~。

 

 季節は秋の設定なので、宴会場の周りの木々は赤や黄色に彩られて、それがライトアップされて中々綺麗だ。ご丁寧に、夜空には満月まで浮かべられている。

 

「こりゃ(すすき)と月見団子でも用意しておくべきだったかな。」

 

 でも、それだと宴会の雰囲気にはあまり合わないかな~。あれは静かに楽しむのが個人的なイメージだし。

 

「おお艦長、此所にいたか。」

 

「・・・何よ、サナダさん。」

 

 せっかくの宴会だってのに、私の前に頭痛の原因が現れた。まぁ、サナダさんには感謝してるんだけど、少しは自重ってものを覚えて欲しいわ。

 

「自重なら充分していると思うがね。それより、少し付き合ってくれないか?」

 

「はぁ?折角の宴会なのに、何であんたに付き合わなきゃいけないのよ?」

 

「まぁそう言わずに。これも宴会を盛り上げる為だ。」

 

「・・・仕方ないわね、分かったわよ。」

 

 そこまで言うなら少しは付き合ってやろうと私は思ったんだけど、まさかあんな事になるなんてね・・・。

 

 

 

 

 

 さて、私はサナダさんに着いていくと、終着点にはあのマッド三人衆が大集合していた。この時点で危険が危ない。

 

「おお、やっと来たか!」

 

「待ちましたよ、艦長。」

 

 にとりとシオンさんが出迎えてくれるけど、ちっとも嬉しくないわね。それより背後の機械は何なのよ。なんかデフォルメされた私みたいな人形が飾り付けられてるし。

 

「へぇ~、何ともいえない愛嬌があるな、あの霊夢人形。」

 

「―――霊沙、いつからそこにいたのよ。」

 

「は?さっきからだけど。」

 

 なんか知らない間に、霊沙の奴が私の隣でまじまじと機械を観察していた。ほんと暢気な奴ね。

 

「ようこそ艦長、これが"ふもふもれいむマスィン"だっ!!!」

 

 サナダさんが機械の前に立って、「どーん」って感じで腕を広げた。サナダさんって、あんなキャラだっけ?

 

「マスィンって何なのよ。普通にマシンで良いんじゃないの?それより、これで何するつもりなのよ。」

 

「サナダ主任曰く、アクセントが重要らしいですよ。」

 

「艦長には、これからもふもふになってもらうよ。」

 

 ―――は!? 何よそれ。

 

「取り敢えず、ろくでもないこと考えてるってのは分かったわ。」

 

 冗談じゃないわ。宴会の時までマッド共の実験になんか付き合ってられないわ。

 

 と、私はそこから立ち去ろうとしたのだが、後ろからがしっと拘束された。

 

「おっと、逃がさないぜ?霊夢。」

 

「・・・あんたもグルだったのね。」

 

 私の背後から、霊沙は腕を回して私の体を拘束している。どうやって逃げようかしら。

 

「よし、そのまま装置に投げ込め!」

 

「アイアイサーっ!覚悟しろ霊夢!」

 

 ちょっと、いきなりぶん回して何するの・・・

 

「っ、ちょっと止めなさ・・・きゃぁっ!」

 

 そのまま勢い余って、哀れ私は機械に投げ込まれてしまった・・・

 

 

 ーーーーーー

 

 

「ところでこれ、人体に影響とかないのか?」

 

「計算上では問題ありません。」

 

 霊夢を機械に投げ込んだ霊沙がシオンに尋ねる。

 

「計算では問題ないから、人体実験で確かめてるのさ。」

 

「ほほぅ、なるほど・・・。」

 

 にとりの説明に、霊沙は成程と頷いた。

 

 "ふもふもれいむマスィン"は中に霊夢を入れられたままゴゥンゴゥンと重低音を響かせて振動する。

 

 しばらく経ったあと、"チーン"というトースターが焼けたような音と共に、霊夢が機械から放り出された。

 

 

 ーーーーーー

 

 

「ぅ―――う"ぇぇっ・・・」

 

 き、気持ち悪・・・・

 

 機械がよく回るもんだから、目が回るし吐き気がするわ・・・

 私は胃の中身をリバースしそうになのを堪えながら、この元凶であるマッド共と霊沙を睨んだ。

 

「おっ、可愛いねぇ。霊夢なのが残念なくらいだ。」

 

「・・・出来は中々のようだな。」

 

「計算通りです。」

 

 そんな私を意に介さず、元凶は口々に評価を下しているようだ。特に霊沙、ぶっ飛ばすわよ?

 

「あ・・・艦長がお稲荷様に・・・」

 

 と、そこに通りかかったこころがなんか意味不明な言葉を呟いた。私がお稲荷様にってどういう意味なのよ――――ってまさか・・・!?

 

 そこで私はある可能性に思い立って、自分の頭をまさぐってみる。

 

 ―――やっぱり、そういう事ね。

 

 どうやら、私の頭には獣の耳が生えているらしい。こころの発言から考えて、狐耳だろう。

 そういえば、こころってお稲荷様のことは知っているのね。感心したわ。

 

「ほれ、手鏡。」

 

 霊沙がクスクス嗤いながら手鏡を放り投げる。私はそれを手にとって、自分の体を確認してみた。

 

 頭には手で触った通り、白い狐の耳が生えている。鏡を離してみるとそれに加えて、お尻の辺りからは白くてもふもふした狐の尻尾まで生えていた。成程、もふもふってそういう事か―――

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

「―――って、何やってるのよ!!!」

 

 ちょっと、私の体に変な加工なんかして、戻らないとか言ったらただじゃおかないわよ。

 

「大丈夫です艦長。効果は6~7時間で消えます。」

 

「・・・・・そう。戻らなかったらただじゃおかないわよ。」

 

 ほんと、今後この姿のままとか洒落にならないわ。戻らなかったら命の保障はしないわよ。

 

「では艦長、早速だが・・・」

 

「五月蝿いわよっ‼」

 

 サナダさんが何か言いかけたが、その言葉を遮って弾幕でぶっ飛ばしてやった。宴会を盛り上げるためとか言ってたけど、結局は実験がしたかっただけみたい。いい加減自重ってものを覚えてほしいわね。

 

「全く・・・付き合ってらんないわ!それ、適当に片付けといてよね。」

 

「あ、艦長・・・!」

 

「ま・・・待て!」

 

 もうマッド共になんか付き合っていられない。ここは大人しく退散ね。ここは神社に戻って酒盛りの続きでもしましょう。後ろで騒ぐマッド共は無視よ。

 

 

 ーーーーーー

 

 

「おい、逃げられたみたいだぜ?」

 

「くっ―――やはり上手くはいかなかったか・・・」

 

 霊夢が去っていくのを尻目に、霊沙が顔面に弾幕を叩きつけられたサナダに話し掛けた。

 

「主任、大丈夫ですか?」

 

「ああ、何とかな。」

 

 サナダは土埃を払いながら立ち上がる。

 

「宴会場にケモミミの艦長を放り込んで盛り上げる、だっけ?結局上手くいかなかったねぇ。」

 

「いや・・・まだ手はある。」

 

 にとりは諦めの入った声で呟いたが、サナダはまだ諦めていないという様子で、目の前にいた霊沙を直視した。

 

「・・・・ふむ、シオン君、プランBだ。」

 

「了解です。」

 

「ん、プランB?なんだそりゃ―――って、ぅわあっ・・・!な、何だこれ!?」

 

 サナダが指先を鳴らして指示すると、刺々しい見た目の機械が瞬時に現れ、霊沙を羽交い締めにした。

 

「艦長が去ってしまった今、計画実現の為には君を生贄にするしかないな。」

 

「お・・・おいっ、そんな話聞いてないぞ!」

 

 霊沙は機械の上で必死に抵抗して拘束を振り解こうとするが、機械の拘束が緩む気配はない。

 

「よし、そのまま突っ込め!」

 

「了解です。ポチッとな。」

 

「まっ、待ちやが―――、っぎゃぁぁぁあぁっ!!!」

 

 必死の抵抗も空しく、霊沙は"ふもふもれいむマスィン"に放り込まれ、機械は怪しげな駆動音を響かせながら稼働する。

 

 暫くすると、霊夢と同じように獣耳と尻尾を生やされた霊沙が機械から放出された。

 

「うむ、どうやら成功のようだな。」

 

「おっ、艦長とは違うみたいだな。今度は何の動物だ?」

 

「・・・どうやら、ヤマネコのようですね。」

 

 起き上がらない霊沙をマッド三人衆が取り囲んで、まじまじとその様子を観察する。

 

「よし、では宴会場まで運ぼ――「にゃあ?」

 

 サナダがクルー達の集まる宴会場まで霊沙を運ぼうと手を伸ばすと、目覚めが悪そうに霊沙が起き上がり、サナダを見つめた。

 

「に"に"に"っ・・・・キシャーッ‼」

 

「な―――ぐはあっ‼・・・」

 

「しゅ、主任!」

 

 すると、霊沙はいきなりサナダに飛び掛かり、爪でサナダの顔を引っ掻いた。

 霊沙に引っ掻かれたサナダはそのまま地面に倒れ伏す。

 

「がるるるるるっ・・・」

 

 霊沙はサナダを引っ掻いた勢いのまま地面に着地し、残るマッド二人を威嚇するような声を出して睨む。

 

「おい、なんか行動まで動物的になってるぞ?いいのか?」

 

「・・・どうやら調整を誤ったみたいですね。」

 

「――――」

 

 にとりとシオンは霊沙の行動について考察するが、その間に霊沙は向きを替えて、別の場所に移動し始めた。

 

「逃げたみたいですね。」

 

「ああ。ま、効果時間が切れたら元に戻るでしょ。」

 

 二人は楽観的な観測を述べながら、霊沙を見送った。

 

「・・・主任、起き上がりませんね。」

 

「君、一応医者なんだから後で治療しておけよ?」

 

 霊沙に引っ掻かれて起き上がらないサナダの様子をシオンは観察する。にとりの忠告を受けたシオンは、やっと治療する気になったようで、白衣から消毒液と傷薬を取り出して一通りの処置を施した。

 

「・・・ふぅ、これで終わりですね。」

 

「あとは起き上がるだけか。―――そういえばさ、あれに動物を放り込んだらどうなるんだろう?」

 

「それは計算していませんでしたね。言われてみれば、私も興味が湧いてきました。」

 

「何かいい実験体、転がってないかな~」

 

 にとりの言葉で、二人は動物実験にも興味を持ち出し、丁度いい実験動物がいないか辺りを探し始める。

 

「おっ、あれは・・・」

 

「モ"フ"ッ"・・・!!!」

 

 にとりの目に、丁度目の前を通り掛かったモフジの姿が捉えられる。モフジは本能的に身構えたのか、びくっと体を震わせた。

 

「・・・シオン、今日はついてるみたいだ。」

 

「同感ですね。」

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

「あ~~~もふもふ~~♪」

 

「・・・あの、ノエルさん、艦長も困ってるみたいですよ?」

 

「もふもふ~♪」

 

 ―――、一体どうしてこうなったのよ・・・

 

 少し前にあのマッド共に狐にされた私はあそこから逃げてきたんだけど、途中でノエルさんとミユさんのオペレーター二人組に見つかってしまった。それだけならまだよかったんだけど、ノエルさんは私を見るなり硬直したかと思うと、気が狂ったのかいきなり飛び付いてきたのよ。それからずっとこの調子で、私は尻尾に抱きつかれ続けられているままだ。

 まぁ、ノエルさんの気持ちも分からないでもないわ。いつぞやの魔理沙に化けた狐も襲っちゃったからね。狐耳と尻尾をつけた魔理沙がもう可愛くて可愛くて―――

 

 ・・・これは思い出さないでおこう。あの事まで思い出しちゃうわ。

 

「ノエルさん、そろそろ良いかしら?」

 

 でも、いつまでも抱きつかれてても困るのよね・・・声掛けても止める気配はないし、どうしようかしら・・・

 

 

「ギャーッ・・・!」

 

「グハーッ!」

 

 ―――?、何かしら・・・

 

 すると、何だか叫び声みたいなのが聞こえてきた。まぁ、大方宴会の空気で騒いでいるんでしょう。羽目を外しすぎない限りは別に放っておいても構わないでしょう。

 

 

 ーーーーー

 

 

 一方、獣化した霊沙は宴会場に乱入すると、手当たり次第に付近のクルー達を襲い始めた。既にコーディやバーガーといった幹部クルーの何人かもその凶刃の前に倒れ、屍の如く地面と熱い抱擁を交わしている。

 まさに宴会場は地獄絵図となっており、暴れ回る霊沙とそれを止めようとする生き残りクルーとの間で大乱闘が繰り広げられていた・・・

 

「おい、そっちに行ったぞ!」

 

「クソッ、援護しろ‼」

 

「おーい、にゃんこちゃ~ん、怖くないz・・・グワーッ!目が、目があぁぁッ‼」

 

衛生兵(メディック)ーッ!」

 

 エコー、ファイブスの二人は保安隊員を率いて霊沙の捕獲を試みるが、獣化したせいか勘と運動能力が向上した霊沙を捕らえることはできず、なんとか懐柔しようと近づいたフォックスは顔面を引っ掻かれて沈黙した。それを衛生兵のジョージが後方に引き下がらせて、応急処置を施す。

 

「隊長、目標が移動を開始しました!艦長の自宅方面に向かっています!」

 

「何、それは不味いぞ!」

 

 茶色の長髪をした航空隊の新入女性隊員―――グリフィス隊2番機のパイロットであるマリア・オーエンスが、霊沙が神社(クルー達には靈夢の自宅と認識されている)の方向に向かうのを見て、隊長のタリズマンに報告した。

 報告を受けたタリズマンは万が一艦長が襲われたら一大事だと考え、他のクルーに号令を掛ける。

 

「よし、野郎共、追うぞ!」

 

「イェッサー!」

 

 タリズマンは霊沙が消えた方向に向けて走り出して、それに3名の生き残り保安隊員を率いるエコーとファイブスが続く。

 

「クソッ、茂みが邪魔で中々進めねぇ!」

 

「こんな事なら装甲服を着たままの方が良かったな。」

 

 保安隊員含め、宴会ということもあって彼等は碌な装備を持っていなかった。そのため、行軍スピードは遅い。

 

 

「え、ちょっと何なのよ・・・って、ぅわぁあぁぁぁぁっ――!!!」

 

 

「・・・あれは、艦長の声だ。」

 

「不味いぞ、急げ!」

 

 彼等の耳に、霊夢の叫び声が入る。事態を察したタリズマン達は無理矢理にでも行軍ペースを上げて艦長である霊夢の下に急行した。

 茂みを掻き分け、枝を潜り、時に木のトゲに刺されながら巨大キノコが繁茂する魔法の森擬きをやっと抜けたタリズマン達は、空間が開けている方向に飛び出した。

 

「艦長っ、無事です・・・・か?」

 

 一番に飛び出したエコーが霊夢を案じて声を掛けたが、その光景は彼等が予想したものとは大分違ったものだった。

 

「なうーん♪」

 

「も、もふもふ・・・がはっ・・・」

 

 彼等の目に映ったのは、懐いたペットのように霊夢に抱きついている霊沙の姿と、何故か霊沙と同じように、白い狐の耳と尻尾を生やした霊夢の姿だった。

 霊沙は今までの暴れようが嘘のように、尻尾を振りながら穏やかな表情を浮かべて霊夢に甘えている。

 一方の霊夢は霊沙に抱きつかれた衝撃のせいか尻餅をついており、突然の事態に思考が追い付いていないのかその表情は困惑気味だ。時々、霊夢の頭に生えた白い狐耳はびくん、と動いている。

 霊夢の尻尾の位置には、下敷きになって苦しそうにしているが、どこか満足気な表情を浮かべているノエルの姿があった。

 

「か・・・艦長・・・?」

 

「あ―――――こ、抗議ならサナダさん達にやってもらえるかしら・・・?」

 

 予想外の光景に、ファイブスが素っ頓狂な声を出して霊夢を見据えた。

 霊夢もタリズマン達の突然の来訪に困惑気味で、やや的外れな言葉を呟いた。

 

 しばらくタリズマン達は雷に打たれたようにその場で硬直していたが、突然端末を取り出し始め、端末のカメラ機能を起動すると霊夢に向かってシャッターを焚き始めた。

 

「な、何なのよ―――!」

 

 霊夢の抗議も介さず、撮影を終えたタリズマン達は端末の画像を眺め、呟いた。

 

 

「「「「「「・・・かわいいぜ――――。」」」」」」

 

 

 その言葉を聞いた霊夢は顔を真っ赤にして立ち上がり、羞恥心と怒りの籠った表情でタリズマン達を睨み付ける。

 

 

「―――――っ、夢想封印ッ!!!」

 

 

 羞恥に染まった霊夢がスペルを唱え、タリズマン達は色彩りの弾幕に包まれた。

 

 

 

 この日、〈開陽〉自然ドームには大穴が空いたとか空かなかったとか。なお、獣化した霊沙による被害者については、一通り治療が施された上で、マッドの予算を削る形で保障が行われた。

 

 

 

 結局、この騒動の元凶となる「ふもふもれいむマスィン」を作製したマッド3人は半年間4割減給の刑に処せられ、霊夢は今後マッドの手綱を強く握ろうと誓ったという。

 

 一方、タリズマン達が撮影した狐霊夢の写真は撮影者の一人である保安隊のクルーの手により艦内に流通し、それは高値で取引されたという。その写真は一部クルー達の癒しになり、艦長親衛隊の設立に繋がったとか。




これにて獣耳異変、終了です。エルメッツァはあと1話を残すだけとなりました。早く進めたい・・・大マゼラン突入は何時になるんだ・・・?

宴会で狐霊夢を出すというのは書き始めた時から構想があったのですが、やっと書くことができました。今回の霊夢は鈴霊夢を意識してます。服装は以前上げた艦長服のラフ画と変わりません。
一応挿絵はまだ下書き段階なので、着色したら差し替える予定です。そのときは小説の後書きや活動報告の方で連絡致します。そのうち艦隊内で流通した狐霊夢の写真も描いてみたいですね。(尚、作者は絵を描くペースが遅い模様)

今話から、航空隊員として新キャラのマリア・オーエンスを登場させました。元ネタはGジェネのオリジナルキャラです。(正確には二六話で台詞がありますが、あの段階では航空隊の面子はまだ決まっていませんでした。)航空隊には他にオリキャラや他のコラボ作品のキャラなんかを出していく予定です。


あと、活動報告の方に本作での霊夢の設定を上げておきました。よろしければご覧下さい。

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