夢幻航路   作:旭日提督

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YR1は真理である。


第三二話 動き出す歯車

 

 ~カルバライヤ・ジャンクション宙域、小惑星帯~

 

 

 霊夢の機転によりグアッシュ海賊団の殲滅に成功した艦隊だが、艦隊のほぼ全ての艦がこの宙域特有のケイ素生物により機関に何らかの損傷を抱え、未だに身動きが取れずにいた。

 

 

 

 

 

「・・・それで、完全復旧の目処はまだ経っていないと」

 

《ええ。こっちも全力でやってるんだけど、何分人手が足りないのよ。ほんと、猫の手も借りたいくらいだわ》

 

 さて、何とかグアッシュ艦隊の殲滅には成功したんだけど、予想以上に機関の状態は深刻らしい。今は機関長のユウバリさんとそのことについて話し合っていたところだけど、あっちの話でも修理にはかなり時間が掛かりそうとの事だ。

 機関の異常の原因はどうも、エンジン口に多数のケイ素生物が付着して塞いでいたことが原因だったらしい。さっき助けたスカーレット社の艦長の話を伝えたところ、異常が発生している部位はすぐに特定された。ただここからが問題で、エンジン口のフィルターに付着しているだけならそれを取り除くだけで終わったんだけど、ユウバリさんの話だとそのうち幾つかのケイ素生物が成長し過ぎてフィルターを食い破って機関の内部にまで侵入していたらしい。こいつらが曲者で、エネルギーパイプやなんかを傷付けて回って最終的にはインフラトン・インヴァイダーがオーバーヒートしてしまったという訳だ。ギリギリのところで安全機構が作動してくれたお陰でそこで留まってくれた訳だけど、あのままいけばエンジンが暴走して内部から爆沈なんて事態になっていたかもしれないと思うと、ほんと怖い話だ。

 

《被害の方だけど、保安隊とドロイド達が頑張ってくれていたからフィルターの方は何とかなったわ。ただ、エンジンの方はパーツを総取っ替えしないと駄目みたい。戦闘中だったから各部分に掛かる負荷も大きかったし、その上これだからパーツの痛みが激しすぎるから・・・》

 

「分かったわ。サナダさんに連絡して予備部品を確保して貰うから、今は治せる所だけでも直して頂戴」

 

《了解。では、修理の方に戻りますね》

 

 そこでユウバリさんとの通信は切れた。この〈開陽〉がこんな状態だし、他の艦も同じような損傷を受けているのだろう。今はにとり率いる整備班が他艦の損傷状態を確認しているところだからもうじき報告が上がってくる筈だ。あまりに被害が大きいと、最悪何隻かは修理せずに曳航していくことも考えないといけないかもしれない。それからサナダさんに工作艦で必要な部品を生産させないといけない。一応資源の備蓄はある程度あるんだけど、機関部はけっこうレアメタルとかも消耗するからそういったものの在庫も気になるところだ。

 

 私が今後の修理方針について思案していると、今度は別の通信機に通信が入った。

 

《あ―――こちら整備班のにとりだけど、艦長聞こえてるかい?》

 

「ええ、聞こえているわ。それで、艦隊の方はどうだったの?」

 

《そのことなんだけど、特務艦隊以外の連中は軒並み全滅だね。後方の特務艦隊は戦闘には参加してなかったからフィルターを取り替えるだけで済みそうだし、工作艦はそもそも被害を受けてないから稼働には問題なさそうだよ。だけど他の艦は戦闘中だったせいで何らかの損傷を受けているみたいだ。第三分艦隊の連中は多分ドックで直さないと駄目だね。唯一〈ナッシュビル〉はなんとか動けそうだけど、他は港まで曳航するしかないと思う》

 

「・・・分かったわ。それで、他の艦は?」

 

《ああ、直ぐに動かせそうなのは〈ケーニヒスベルク〉と〈ラングレー〉、〈叢雲〉の3隻かな。こいつらは今ある予備部品で直ぐに復旧できると思う。他の艦は工作艦の備蓄次第かな。まず旗艦の修理にどれくらい資源を使うか目処が立ってからじゃないと他の艦に回す分の見積もりもできないからね》

 

「分かった。一応こっちの損傷状況は確認できてるから今サナダさんに必要な部品の発注をするところよ。使う資源の見積もりができたらそっちに連絡入れさせておくわ。それまでに整備班は引き続き被害状況の確認とフィルターの取り替えをお願い。」

 

《了解。それじゃあ作業に戻るよ。》

 

 にとりの報告によると、やはり他の艦もかなり厳しい状況のようだ。各艦の状況を表している図面でも、ほぼ全ての艦の機関部が赤く染まっており、異常が発生していることを示している。この様子だと、第三分艦隊の艦は曳航かな・・・

 

 ―――それより、先ずはサナダさんに部品を発注しておかないと―――

 

 被害状況が分かっても部品がなければ修理は進まない。考えるのは後にして、先にサナダさんに部品を生産させないといけない。工作艦を管理しているのはサナダさんだからね。

 

 私は端末から被害状況のデータを引き出して、ユウバリさんが"交換の要あり"と判断した箇所をそのままリストアップしていき、そのデータをサナダさんの元に転送しておいた。

 

「こちら艦長。サナダさん、今機関の損傷具合が分かったところだからそのデータを送ったんだけど、届いたかしら?」

 

《・・・ああ、艦長か。今確認したところだ。予備がない部品は工作艦に発注しておくぞ》

 

「ええ、よろしく。生産に使う資源の量が確定したら連絡寄越して頂戴」

 

《了解した。生産が終わり次第〈サクラメント〉をこちらに接舷させよう》

 

 これで部品の発注は大丈夫だろう。あとはどれくらい時間がかかるかだけど。この様子だと当分動けそうにないわね―――襲撃とかなければいいんだけど・・・

 

「・・・はぁ~、ほんと、参ったわね・・・」

 

 事態を改めて確認してみると、思わず溜め息が出る。艦隊が当面動けないのはまぁ仕方がないとしても、今回の戦闘は完全に赤字だ。敵艦隊丸ごとグラニートミサイルで塵も残さず殲滅してしまったから売れそうなスクラップなど当然残っていないし、さらに修理でだいぶ資源を消費することになるだろう。幸い輸送船を売り捌いたお金がまだ残っているから、艦隊運営自体はなんとかできそうだ。

 問題は助けた艦の方だろう。この様子だと、また面倒事に巻き込まれそうな気がする。

 

 ―――私の勘はよく当たるからね・・・面倒な事にならなきゃいいけど・・・

 

 

 

 

「霊夢さん、お茶を淹れてきましたよ」

 

「あら早苗、気が利くわね。ありがと」

 

 私がそんなことを考えていると、後ろから早苗が声を掛けてきた。そういえばしばらく早苗の姿が見えなかったけど、お茶を淹れてくれていたみたいだ。被害状況の確認でちょっと疲れていたし、休憩には丁度いいだろう。

 早苗から遠慮なく湯飲みを貰って、椅子に深くかけ直す。

 

「――――はぁ~っ、落ち着くわ」

 

「そう言って頂けると何よりです」

 

 やはり落ち着くにはこれが一番だ。ここに来てから珈琲とかも試してみたけど、結局これに落ち着いた。しかもこのお茶、玉露みたいだ。この甘さが身に染みていく。

 

「あと霊夢さん、あちらとの面会はいつ頃に設定しますか?」

 

「そうね~、こっちの被害確認も粗方終わったみたいだし、もうそろそろ良いかもね。1時間後くらいで良いんじゃないかしら?」

 

 そういえば、助けた艦の艦長から面会要請が入っていたんだっけ。確かあっちの艦長はメイリンさんって人だったわね。

 

「今は手空きの医療班を派遣するのに接舷しているんだし、来るのにはあまり時間掛からなさそうだからそれぐらいあれば準備できるでしょう。ノエルさん、そういう訳だからあっちに連絡しておいてくれる?」

 

「了解しました。会談の時間は一時間後と伝えておきます」

 

 他のブリッジクルーの皆はやることがなくて暇していたみたいだが、ノエルさんに声を掛けると彼女は直ぐに必要なメッセージを相手の艦に送信していく。

 

「流石ノエルさんですねー。できる女って感じです!」

 

「そう?まぁ、クルーの出来が良いことには私も助かってるわ」

 

 いい加減人手不足な私達だけれど、何とか艦隊を回せているのもクルーの皆が優秀だったりするからね。早苗ほどではないけれど、彼ら彼女達の実力には私も感心している。

 

「うちは人材が火の車だからねぇ~。もし素人ばっかりだったらここまで上手くはやれていなかったわ」

 

「そんなことをはないですよ霊夢さん。私がいるじゃないですか!」

 

 早苗はそう言うと鼻息を荒くして自慢気に私の方を見つめてくる。「私という優秀なAIがいるのだからクルーが素人でも上手くやっていけた筈です!」とでも言いたげな表情だ。実際そんなことを考えているのだろう。

 

 ―――早苗が優秀なのは分かるんだけど、最近どうもそんな感じがしないのよね・・・

 

 あのサナダさんが手掛けただけに早苗のコントロールユニットとしての性能はピカ一なんだけど、あの子が義体を得てからは幻想郷の早苗みたいに振る舞うお陰であんまり優秀そうには見えない。元気が空回りしているといった感じだ。前はもうちょっと真面目そうな感じだったんだけど、何かあったのだろうか。

 

「霊夢さん、聞いてます?」

 

「聞いてるわよ早苗、自分がいればクルーが素人でも大丈夫だって言いたいんでしょ?貴女が優秀なのは確かだけど、クルーも優秀な方が望ましいことに変わりはないわ」

 

「・・・まぁ、そうですよね。最終的にものを動かすのは人間な訳ですし・・・。でも、何で分かったんですか?」

 

「だって、顔にそう書いてあるもの」

 

「はい?」

 

 早苗は「へ?」と首を傾げたかと思うと、ぱっと顔を赤くしてあたふたしている。・・・不覚にも、ちょっと可愛いと思ってしまった。

 

「れ、霊夢さんは読心術でも心得ているんですか!?」

 

「大げさよ早苗、単に貴女が分かりやすいだけ」

 

「そ、そうですか・・・」

 

 続けて「あ、私AIだから読心術じゃなくて読思考術?」何で呟いているあたり、やっぱり早苗は何処かズレているみたい・・・

 

 もうこれ、あっちの早苗が中に入っていると言われても驚かないわよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉応接室~

 

 

 メイリン艦長に会談の時間について聞いてみた所、一時間後で問題ないとのことだったので、予定通り会談の場を設けることにした。

 という訳で、メイリンさんを案内してきた私は応接室にいる。応接室とは言っても、居住区にあるそれらしい部屋を転用しているだけなのだが。

 もうすっかり私の秘書的な立場に落ち着いた早苗が2つ紅茶を差し出すと、メイリンさんが口を開いた。

 

「改めてまして、スカーレット社警備部門所属のメイリンと申します。この度は此方のSOSに気付いて頂いて、どうも有難うございます」

 

「一度名乗ったかと思いますが、0Gドックをやっている博麗霊夢です。それは偶然私達の進路上だっただけですから。それで、会談の用件とは?」

 

 相手がそこそこ名の知れた大企業の人間らしいので、例え見た目があの居眠り門番に似ていても粗相のないようにと話し方も丁寧になってしまう。

 

「・・・先ず、そちらの医療支援に感謝したいと思います。貴女方のお陰でこちらの乗員の多くが助かりました」

 

「それは何よりです」

 

 メイリンさんの表情は暗い。それに、何か言い出しにくそうな表情をしているように感じる。

 

 ―――ああ、これは面倒事のパターンだ・・・

 

 多分、会談の用件とやらはその面倒事に協力して欲しいといったものなのだろう。

 

「ああ、そんなに畏まらなくても結構ですよ?私、そこまで位の高い人間ではありませんし」

 

「そう?なら楽にさせて貰うわ」

 

 慣れない敬語を使うとどうも疲れる。私はメイリンさんの言葉に甘えて、普段通りの態度で接することにした。

 

「・・・用件とやらはそれだけでは無いんでしょう?わざわざ会談を設けるくらいだし」

 

「・・・・はい。実は、海賊に白兵戦を挑まれた際に重要人物を連れ去られてしまいまして、その奪還に力を貸して頂きたいのです」

 

 ―――まぁ、そんなことだろうと思ったわ。

 

 保安局の護衛もついていたみたいだし、大企業のVIPともなればカルバライヤ政府にとっても重要人物という事なのだろう。

 

「で、その重要人物ってのは?」

 

「・・・・・・それが、我がスカーレット社社長ヴラディス様の御息女様なんです・・・。我々はマゼラニックストリームのゾフィで開かれる交易会議に向かうところだったのですが、運悪くグアッシュの大艦隊に捕捉されてしまって・・・。それに、実はそのときに私の友人も一緒に拐われてしまったんです。このまま助けが来なければ、海賊共にどんな目に逢わされるか・・・!」

 

 ―――救助対象は大企業が御令嬢か・・・上手くやれば今回の損失分を差し引いてもお釣りが来るぐらいには稼げそうね。その分リスクは高そうだけど。メイリンさんの友人も、そのとき一緒に助けてしまえばいいだろう。

 それよりもメイリンさんの友人か―――あいつの親交から考えると、咲夜みたいな人なのかしら。だとしたら、その御令嬢とやらはあの吸血鬼姉妹だったりして。今までの例からして、有り得ない話じゃないわ・・・

 

「事態を悪化させてしまったのは全て私の不手際です。ですが、どうか御協力願います!」

 

 私が考え込んでいる様子を見て不安を感じたのか、メイリンさんは深々と頭を下げてお願いしてくる。

 ・・・そんなに必死にされると、なんだが断るのが悪い気がしてくるわ。元から断るつもりは無いんだけど。

 

「・・・分かったわ。出来る限り協力しましょう」

 

「ほ、本当ですか!?、有難うございます‼!」

 

「わ、分かったから、そこまで頭を下げなくても・・・」

 

 メイリンさんはこっちが救助に協力すると聞いて心底嬉しいのだろうけど、そこまでされるとなんだが悪い気がしてくる。

 

 今回の依頼だが、相手はグアッシュなんだし、個艦性能でいけばスカーバレルの連中同様に鎧袖一触なのは間違いない。問題はあいつらの数だが、それもスカーバレルの一件である程度の差なら戦術でどうにかなることは証明済みだ。

 それに、わざわざ保安局が護衛するくらいの人物なのだから、奪還作戦の際には幾らか保安局から支援を受けることも出来るだろう。孤軍奮闘する他なかったスカーバレル戦に比べたらまだマシな方だ。

 

「そのお礼とまではいきませんが、此方の整備士達もそちらの修理作業に手を貸させようと思いますが如何ですか?」

 

「あら、修理も手伝ってくれるの?それは有り難いわ。是非お願いしようかしら」

 

 メイリンさんがお礼とばかりに整備士をこっちの修理に手伝わせると申し出てきたので、有り難く受けるとしよう。今の私達は人手が何人いても足りないくらいだからね。

 

「では、此方の整備士達を後でこちらに向かわせておきますね。それにしても、貴女がまさかあの"海賊狩りの博麗"だったとは驚きです」

 

「は?何よその"海賊狩りの博麗"って。私、あまり名乗った覚えはないわよ?」

 

 どうやら、私達は何時の間にか有名になっていたらしい。確かにエルメッツァでは大暴れしていたけど、特に名を名乗った覚えがないだけに不自然な呼び名だ。

 

「あら、知らないんですか?一部ではそこそこ有名なんですよ、貴女達。なんでもエルメッツァのスカーバレルを軍の助けも借りずに壊滅状態に追いやったとか。それ以前に海賊を見るや否や形相を変えて襲いかかってくる大型戦艦なんて、この小マゼランでも滅多にそんな連中はいませんし、どのみち有名になるのは時間の問題ですよ?」

 

「でも何で私の姓まで知られてるのよ」

 

「ああ、それは物好きな連中が0Gランキングなんかから調べ上げたんじゃないですか?貴女達、その間にけっこう名声も上げていたみたいだから」

 

 成程、情報の出所はランキングか・・・まだランカーには遠かったはずだけど、もうそんなに有名になってるのね。いや、有名なら逆に名を売るのには苦労しなさそうだ。この依頼を果たした暁には、是非有効活用させて貰うとしよう。自分の娘を助けたのが有名な0Gドックとあらばその社長とやらも報酬を出し渋ることは無いでしょうからね。

 

「いや~、それにしても、"海賊狩りの博麗"がこんな可愛い女の子だとは思いませんでした。てっきりこう、年季の入った老提督みたいな予想をしてたものですから」

 

「・・・何よ、別に私、もう子供って歳じゃないんだけど?」

 

 メイリンさんは私がこんな若い小娘の姿なのが意外だという感じで頬を緩めて微笑んでいる。なんか後ろに控えていた早苗までそれにつられて笑っているし・・・もうこのやり取りは飽きたんだけど・・・。でも可愛いって言われるのは悪い気がしない。そこは許してあげるわ。

 

「これはあのサマラと並んで人気が出そうです。うん、綺麗な女の子なのに人相悪そうなところも可愛いげがあって素敵です」

 

「余計なお世話よ。別にファンなんていらないわ」

 

 優秀なクルーなら大歓迎だが、単に私目当てのゴロツキや変態なんかに艦隊に乗り込まれるのはいい気がしない。あの女海賊サマラなんかにも濃いファンがついてるっていうみたいだし、これは有名になった弊害ってやつね。それより、後ろで早苗がクスッと笑ってるのが聞こえた。なんでまた笑ってるのよあんた。

 

 一度気を落ち着かせるために、早苗が淹れてくれた紅茶を喉に通す。メイリンさんもそれを受けて紅茶に口をつけた。

 

「私からの用件は以上ですね。良いお返事が頂けて幸いです。私達はこれからブラッザムの宙域保安局へと向かおうと思います。それでは、失礼致しました」

 

「宙域保安局ね。こっちも修理が終わり次第、そこに向かうことにするわ」

 

 メイリンさんは紅茶を飲み干すと立ち上がって再び頭を下げた。私も立ってから軽く会釈して、彼女を出口に促す。

 

「椛、お客様が艦に戻るから、エアロックまで案内してくれる?」

 

「はい、了解です」

 

 私は扉を開けて、外で待機していた椛に声を掛けた。黒いヘルメットと防具で身を固めた椛はもう保安隊に馴染んでいるようだ。耳と尻尾は見事にそれに隠れている。

 

「お客様、帰りは私が案内いたします」

 

「はい、宜しくお願いしますね」

 

 メイリンさんは部屋を出るときにもう一度頭を下げると、椛に案内されてエアロックに向かっていった。これで一先ず会談は終わりだ。

 

「あの艦長さん、真面目そうな方でしたね」

 

「そうね。あっちはVIPを拐われて大変なんでしょう。大企業の御令嬢っていう話だから、報酬はさぞ高いことでしょうね」

 

「霊夢さんったら、いつもそれですね」

 

「私達は便利屋じゃないんだから、それくらい当然よ。こっちもクルーを預かる立場なんだし、無償で海賊から人を取り戻すなんてやってられないわ」

 

「ですよね。霊夢さんならそう言うだろうなって思ってました」

 

 労働には対価が私の信条だからね。タダでこき使われてやるつもりなんて無いわ。

 

「それよりあんた、メイリンさんの話につられて笑ってたわね?」

 

「え?ああ、霊夢さんが可愛いってとこですか?本当のことじゃないですか」

 

「・・・あーもう、そういうのは気恥ずかしいのよ。こっちは舐められないように頑張ってるのに―――」

 

「ふふっ、でも霊夢さんが可愛いのは事実ですよ?」

 

 早苗はそんなことを口走ると、無邪気に微笑んで私の顔を覗き込んだ。だから、そういうのが気恥ずかしいって言ってるのに・・・

 

「―――この件はこれでお仕舞い!さあ、艦橋に戻るわよ!」

 

「はいっ、了解です、私の可愛い艦長さん♪」

 

「だから、そういうのが恥ずかしいって言ってるのよ!」

 

 ひょっとして、からかってるのかしら。だったら後で仕返ししてやるんだから、覚えてなさいよ早苗・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉自然ドーム・博麗神社~

 

 

 メイリンさんとの会談を終えた後も、艦橋に戻って被害状況の把握と修理の監督に務めていたのだが、やはり修理作業にはかなり時間を要するみたいだ。メイリンさんの艦から応援が駆け付けてくれたから〈開陽〉の修理ペースは幾分か早まったのだが、他艦の被害状況を考えると結局焼け石に水だった。

 〈開陽〉の修理に使う資源の見積もりができたので他艦の修理も本格的に始まったが、にとりの話では艦隊を動かせるようになるまでは丸一日掛かるらしい。さらに全艦の復旧はやはり無理そうなので、第三分艦隊の駆逐艦は〈ムスペルヘイム〉のドックに収容して運ぶことにした。〈ナッシュビル〉は通常航行なら何とかできそうなのでそのままだが、〈ユイリン〉とドックに入りきらなかった駆逐艦〈ヴェールヌイ〉は他の工作艦に曳航させることにしよう。

 

「はぁ・・・ほんと大変だわ。結局赤字だし、資源は凄まじいペースで減っていくし・・・ここは報酬に期待するしかないか」

 

 艦長業務を終えた私は神社に戻って休んでいるところだけど、艦隊の状況が頭から離れない。やることがない分、余計それを考えてしまう。

 ただ、今回の件で機関班と整備班はだいぶ疲れてるだろう。復旧の見通しが立った今では二交替制だけど、当初は総動員だったからね。後で充分休息を取らせておかないと。

 

 今は最低限のエネルギーしか供給されていないので、自然ドームの中は夜のように暗い。いや、星明かりが再現されていないの分夜より暗いだろう。

 

「―――取り敢えず、今は寝よう」

 

 あれこれ考えていたって状況が良くなる訳ではない。機械整備が出来ない自分が考えたって作業ペースが早まる訳ではないんだし、明日に備えて睡眠を取った方が懸命だろう。

 私はそこで考えるのを止めて布団に横になり、意識を落とした

 

 

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 ..................

 

 

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 .....

 

 

 

「・・・・んっ、ううん・・・」

 

 意識が朦朧としている中、徐々に目が覚めてくる。まだ機関の完全復旧はできていないので外はまだ暗い。枕元にある非常用ランプの明かりだけが神社の寝室を照らしている。

 

 まだ眠たいけど、こんな非常時に艦長業務をさぼる訳にはいかない。

 

 そう思い私は身を起こそうと身体に力を入れたのだが、ふとそこで違和感を感じた。

 

「あ、あれ・・・?」

 

 なんだがお腹の辺りが縛られてるような感触。それに、背中が暖かくて柔らかい感触がする。

 

 不審に思って、身を返して背後を確認してみると・・・

 

 

 

「―――う~んっ・・・・・あ、霊夢さん。おはよーございます」

 

 

 

 何故か早苗が抱きついていた。

 

 

 

「ちょ、ちょっとあんた、こんなとこで何してるのよ!?」

 

 義体の癖に眠たそうな顔をした早苗は私から離れるとむくっと起き上がる。

 

「ふぇ・・・・?ああ、エンジンが止まったせいで今は自立モードですから、エネルギーを節約しようと睡眠を取っていたところですよー」

 

 早苗は「この義体は開陽から離れても最大1年は行動できるんですよー」なんて続けてるけど、問題はそこじゃないっての!

 

「だから!なんで私の布団に潜り込んでるのよ!」

 

「え・・・、あれ、なんで私ここにいるんですか?」

 

 私がそう聞いても早苗はきょとんとするばかりだ。AIの癖に、やっぱりどこか抜けているわね・・・

 

「あーもう、いいわよもう!兎に角今は仕事の準備よ!」

 

「は、はいっ・・・それと、霊夢さん・・・?」

 

「今度は何よ」

 

 早苗はなんだが言いにくそうな表情をしている。私の顔に何かついてるのかしら。

 

「その・・・・前、はだけてます・・・」

 

 ―――へ?

 

 早苗に言われて自分の身体を見てみると、確かに寝間着の襟が開いてさらしとお腹がそのまま見えて・・・

 

「――――っ!!・・・・・・今から着替えてくるわ」

 

「あ、はい・・・」

 

 ・・・まぁ、早苗なら別にいいか。

 

 さっさと着替えて、早く艦橋に上がりましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

 

 私が艦橋に上がった頃には、既にユウバリさんとオペレーター二人は席についていた。私が休んでいる間に指揮を取っていたコーディは眠たそうだ。

 

「お疲れ様、コーディ。交替よ」

 

「了解。それでは自分も休ませて頂きます」

 

 指揮を交代したコーディは普段通りの足取りで艦橋を後にした。顔には眠気が出ていたけど行動には出さないあたり、訓練されているんだなって感じる。

 

「・・・ところで、なんで早苗は私の布団で寝ていたのかしらね」

 

「さぁ―――何故なのでしょう」

 

「あんたはAIなんだから自分で分かる筈でしょ。なんで分からないのよ・・・」

 

 ほんと、この早苗の行動は謎だ。日を追うごとに人間臭くなってる気がするし。

 

「それでユウバリさん、機関の状況はどう?」

 

 機関の状態は端末へのメッセージで逐一更新されていたのだが、大事なことは本人の口からも確認した方がいい。

 

「はい、完全復旧まではあと2時間といった所です。現在はレストアの最終段階ですね。今のところ作業は順調です」

 

「それは何よりね。ご苦労様」

 

 ユウバリさんの話でも機関の復旧作業は順調に進んでいるみたいだ。

 私は他艦の状態も確認するために、艦長席のコンソールを操作して各艦の被害状況を示した図面データを呼び出した。

 昨日呼び出したデータでは、ほとんど全ての艦の機関部が赤くなっていたが、今では何隻かは緑か黄色に戻っている。黄色い状態まで復旧できれば通常航海なら支障はない。

 

「にとりからのメッセージだと、こっちの復旧はあと3時間か。やっと終わりが見えてきたわね」

 

 端末にはにとりからのメッセージが入っていた。それによると、艦隊の復旧ももうしばらくとの事だ。

 

「ああそうだ、ショーフクさんに航路の変更も伝えておかないとね」

 

 この後はメイリンさんの艦と一緒にブラッザムまでとんぼ返りだから、航路変更を彼に伝えておく必要がある。

 本当はもっとこの宙域を見て回りたかった所だけど、こうなってしまったからには仕方がない。

 

 

 ...........................

 

 

 ...................

 

 

 ............

 

 

 ......

 

 

「艦長、他のフネの修理も何とかなったよ。整備班の連中も引き上げた」

 

「分かったわ。お疲れ様、にとり。大仕事の後だから整備班の人達には一度休息を取らせてあげて」

 

「了解。それじゃあ私は戻ってるよ」

 

 機関班と整備班が頑張ってくれたお陰で、ようやく艦隊は復旧できた。これでやっと航海を再開できる。

 

「ノエルさん、〈レーヴァテイン〉に此方の復旧作業が終わったと伝えてくれる?」

 

「了解です」

 

 一緒にブラッザムに向かうメイリンさんの艦にもこちらの復旧を伝えておく。これでブラッザムに向かう準備は整った。

 

「それじゃあユウバリさん、機関始動よ」

 

「了解、機関始動!」

 

 ユウバリさんがインフラトン・インヴァイダーの始動を命じると、聞きなれたエンジンの駆動音が艦内に響き始め、エネルギー節約のために落とされていた電源も復旧していく。

 

「非常モード解除。通常モードに移行します。機関出力、順調に上昇中」

 

「メインノズルに接続。反転180度」

 

「全艦、機関始動。旗艦の行動に追随させます」

 

 続いてショーフクさんがメインノズルに火を入れて、〈開陽〉の動力は完全に復旧した。

 スラスターを噴射して〈開陽〉が向きを代えていくと、復旧した艦隊の他の艦もそれに倣って転進する。メイリンさんの〈レーヴァテイン〉も此方のタイミングに合わせて機関を始動して〈開陽〉の前方についた。

 

「通常航行に移行。進路、惑星ブラッザム」

 

「了解。進路をブラッザムに設定」

 

 今までばらばらだった艦隊は素早く陣形を建て直すと、航路に戻るべく加速を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~大マゼラン、アイルラーゼン本国宙域・惑星レンミッター~

 

 

 

 霊夢達がグアッシュ討伐に向けて動き出した頃、大マゼラン有数の軍事大国であるアイルラーゼン共和国、そこに属するこの惑星レンミッターには、大マゼラン銀河の宙域警備を担当する艦隊の一つであるα象限艦隊司令部が置かれていた。

 その司令部の一室に、アイルラーゼン軍将校の三人の男女が集合していた。一人はアイルラーゼン司令部将校の軍服を纏った強面で初老の男性で、もう一人の男はそれとは対照的な若い整った顔をした男性で、黒と深緑色の宇宙軍艦隊の制服に袖を通している。女の方は若い男と同じような軍服を纏っているが、色は青色で細部の意匠も異なるものだ。女の容姿は美人でも中々の部類に入るもので、透き通ったピンク色の長髪の上には艦長帽を乗せている。

 

「・・・さて、全員集まったな」

 

 初老の男―――α象限艦隊副司令、ルフトヴァイス・ザクスンが発言した。

 

「それで副司令殿、今回はどのようなご用件で?」

 

 それに続いて若い男―――アイルラーゼン近衛艦隊大佐、バーゼル・シュナイツァーが尋ねた。

 

「うむ、貴官にはマゼラニックストリーム宙域で開かれる交易会議への出席が命じられている。それについては既に知っていることだと思うが、この機に試作艦の指揮も任されることになった。君の新たな旗艦はレンミッターの軍港に停泊している」

 

「新鋭艦ですか。それは楽しみですね」

 

 生粋の職業軍人であるバーゼルには、民間企業の要人だらけの交易会議の場などは自分に不釣り合いなのではと感じていたが、新鋭艦の話を聞いて頬を緩めた。宇宙に生きる男である以上、新鋭艦を指揮できるというのは一種の憧れであるのだろう。

 

「それで、私もその会議に出席すればいいのかしら?」

 

 最後に口を開いたのは、ルフトヴァイス直属の部下であるα象限艦隊、第81独立機動部隊司令のユリシア・フォン・ヴェルナー中佐だ。

 

「いや、貴官には途中まではバーゼル大佐に同行してもらうが、任務事態は別だ」

 

「へぇ~、それで、どんな任務なのかしら?」

 

 ユリシアは扇子で口元を隠しながら、ルフトヴァイスに尋ねる。

 彼女の口調は穏やかだが、その雰囲気は胡散臭さが全開だ。バーゼルはそんな彼女の態度を見て、少し呆れたような物腰で彼女を眺めた。

 

 二人の反応を機に介さずにルフトヴァイスは宙域図を呼び出すと、ある宙域を拡大した。

 

「ここは・・・小マゼラン?」

 

 拡大された宙域の位置に疑問を持ったバーゼルが声を出したが、ルフトヴァイスはそれに応えずに話を始めた。

 

「この宙域・・・ヴィダクチオ星系と呼ばれる宙域一帯にはある自治領が存在するのだが、軍の情報部はある情報を入手したらしい」

 

 ルフトヴァイスはそこで話を一旦区切ると、ユリシアに一枚のデータプレートを手渡した。ユリシアはそれを起動して記された情報を一瞥すると、無言でそれを閉じ、再び扇子で口元を隠した。

 

「成程ねぇ~、これは面白そうじゃない」

 

「・・・・この情報は恐らくオーダーズにも伝わっている事だろう。今回は直接対立する訳ではないが、もしオーダーズ艦隊を発見した場合はこれの監視も頼みたい。ただ、面倒事は起こすな」

 

「了解。久々に楽しくなりそうだわ~」

 

 データプレートをポケットに入れたユリシアは、心底愉快といった感じでルフトヴァイスの命令を快諾した。

 

「私からの用件は以上だ。それでは諸君、任務の成功を祈っている」

 

 ルフトヴァイスが用件を告げ終えると、彼は二人に敬礼する。バーゼルをユリシアもそれを見て姿勢を正し、ルフトヴァイスに答礼した。

 

「それでは解散だ」

 

 三人は腕を下ろし、部屋から退出した。

 

 

 

 

 




話を追うごとに早苗さんの人間臭さが上昇しています。義体を得る前はAIらしい対応が多かった彼女ですが、義体の彼女は普通の早苗さんです。ちなみに霊夢に対する呼び方ですが、義体のときは「霊夢さん」で、通信を介したり端末から直接呼び掛けるときは「艦長」です。

最後にアイルラーゼン組を少し登場させましたが、ユリシアは私のオリジナルキャラです。容姿と性格は幽々子を参考にしていますが、あまり関係ないので気にしなくて大丈夫です。

今年の東方人気投票も霊夢ちゃんが一位でしたね。私は一押しは彼女に入れました。鈴の凛々しい霊夢も茨の表情豊かな霊夢も可愛いです。
これからもより霊夢を可愛く書けるように精進して参ります。

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