~戦艦〈開陽〉艦内~
〈開陽〉の艦橋は上陸休暇のためか、普段より人は居らず閑散としている。尤も、艦橋のサイズに比べてブリッジクルーの人数はかなり少ないから普段でも広々としているのだが、今はそれに環をかけて広く感じる。
私が宙域保安局との話し合いから艦に戻ってきたところ、また艦橋で寛いでいた霊沙が出迎えた。
「おっ、霊夢か。戻るの早いな」
「別に寄り道した訳じゃないからね。保安局の方は大丈夫みたいよ」
「報酬のことか?相変わらず現金な奴だな」
「五月蝿いわよ、ほっときなさい」
霊沙は相変わらず軽口を叩きつけてくるが、私はそれを受け流す。そういえば、こいつは出会ったときは刺々しい雰囲気だったけれど、今は以前より丸くなったように感じる。艦に馴染んできた為だろうか。
「ああ、そういえばリアさんって奴がお前に話があるとか言っていたな」
「リアさん?誰よそれ」
「ほら、こないだくもの巣の近くで漂流していた民間船から助けた奴。覚えてるだろ?」
「ああ・・・あの生存者か―――――へぇ、助かったのね。随分と運のいいこと。それで、話って何なのかしら?」
「私に聞かれても分からないよ。さっさと保安部の部屋に行ったらどうだ?確か身柄は連中が預かっている筈だ。だろ?緑の」
そこで霊沙が早苗に話を振る。確かに早苗なら、艦の統括AIだし知っているのだろう。
「ちょっと、緑のって何ですか!?私は早苗ですっ。ちゃんと名前で呼んでください!」
「面倒くさい奴だ。どうでもいいだろ。んで、そいつは保安部にいるんだろ?」
「えっと、ちょっと待ってください・・・あ、はい。確かに保安部が預かっているみたいですね。それでは霊夢さん、早速行きましょう!」
「あ、ちょっと、だから引っ張らないでって行ってるでしょ!」
私を保安隊の待機室に連れていこうと、また早苗がぐいぐいと私を引っ張っていく。元気なのは相変わらずだが、いい加減服が延びるのよこれ。
「さあさあ善は急げです!早く行きますよ!」
「別に急がなくたっていいでしょ・・・そもそも何が善になるのよ」
「あ、そういえばそうですね。でも時間は有限ですから、早く行くに越したことはないですよ」
「・・・それもそうね。じゃあさっさと行きましょう」
「了解ですっ!」
「おう、いってらー」
私は早苗に連れられて、保安隊の待機室へと向かった。それを霊沙が気の抜けた声で見送る。
しかし話というのは何なのだろうか。別に救助した礼を言うぐらいなら構わないんだけど、これ以上厄介事を抱え込むのは御免だわ。
~〈開陽〉保安局~
私達のはこの〈開陽〉に設置された保安局モジュール区画に件の人物から話を聞くために足を踏み入れた。
あの生存者の身柄を保安隊が預かっているのは、たぶん話し合いでの艦長の安全確保のためと勝手に艦内を出歩かれると困るからだろう。しかし、保安隊の待機室まで移動できるまで回復しているとは、つくづくこの世界の医療技術の高さには関心させられる。話によると眼球や手足の再生治療すら出来るらしい。
「あ、艦長。お疲れ様です」
「あんたも頑張ってるみたいね、椛。ところで、身体の調子はどう?」
「はい!以上なしです。任務に支障はありません」
「それは良かったわ。それじゃあ、あんたも仕事頑張りなさいよ」
「了解です!」
待機室前に着くと、守衛をしていた椛が出迎えた。彼女はあの忌まわしき「ふもふもれいむマスィン」で人間にされた可哀想なモフジなのだが、本人は不満は無いようで今日も保安隊の業務に取り組んでいる。そういえばあの機械、人間に使えば効果はだいたい6、7時間程度で切れるらしいけど、獣に使うと遺伝子の突然変異を引き起こすとか何とかで人の形になったまま戻らなくなるらしい。そんな情報、私にとっては大した役に立たないけれど。
「エコー、私よ。それで、件の生存者はどこかしら?」
「待ってましたよ艦長。あの生存者なら、奥の休憩室で待たせています。今はファイブスの奴が見張っています」
「分かったわ。あそこの休憩室ね」
私はエコーが指した部屋に向かい、早苗もそれに続く。その部屋に入ると、装甲服を着た保安隊員―――恐らくファイブスに、見慣れない若い女性の姿が見える。あれがリアさんなのだろう。
「お疲れ様です、艦長」
「あんたもご苦労様。ファイブス、下がっていいわよ」
「イエッサー」
ここからは早苗もいるし、私自身襲撃されても返り討ちにするには十分な実力はあるから、今まで彼女を監視していたファイブスを下がらせて休ませた。
「・・・あなたが艦長さんですか?」
「ええ。私は博麗霊夢よ。この艦の艦長をやっているわ。んでこっちが早苗。私の副官みたいなものよ」
「―――どうも初めまして、早苗です。貴方がリアさんですね?」
「はい。リア・サーチェスと申します。助けてくれて本当に感謝しているわ」
リアさんが礼を告げる。彼女の容貌は落ち着いた大人の女の人といった感じで、髪は後ろで纏めてオペレーターが身に付けるようなマイクをしている。
「・・・別に、私達は偶然通りかかっただけよ。でも、貴女も運がいいわね。医者の話だと助かるギリギリのラインに近かったって話だし」
「ええ、それは聞いているわ。だからこそ本当に感謝しているの」
リアさんは落ち着いた様子で受け答えに応じる。最初は緊張している様子だったが、私達が少女の姿だからか、幾分かは緊張が解れたのかもしれない。まぁ、確かにあの装甲服と比べたら緊張も薄らぐだろう。
「―――しかし若いのね、貴女。ここ、まるで軍艦みたいだったから、てっきり艦長さんも厳つい男の人ってイメージだったわ」
「さっきこの部屋にいた人なら、元軍人だからしょうがないわ。あれが彼の素よ。それに、人を見掛けで判断しないことね」
「それもそうね、気を付けるわ」
リアさんは今まで保安隊に保護されていたみたいだし、ここはうちの部署の中でも特に軍人比率が高いから、軍隊らしく見えても仕方ないのだろう。保安隊は業務内容もあって規律が重視される部署だからね。
「それで、リアさんはどうしてあんな宙域を航行していたんですか?あんな海賊がうじゃうじゃ出る場所、ふつう誰も近付かないと思うんですけど」
そこで、早苗が本題を切り出す。確かにそこは気になる所だ。あんな場所を航行していた時点で、何かしらの事情があるのかもしれない。
「その件で話したいことがあるの。少し良いかしら?」
「・・・話ならね。いいわ、話してみなさい」
「―――実は私・・・人を探して宇宙を航海していたの。その人は私の恋人なんだけど、彼は射撃管制システムの開発者だったわ。それで彼は、監獄惑星ザクロウのオールト・インターセプト・システムを完成させた後、突然姿を消してしまったのよ」
「だからその彼を探しに、という訳ですね」
「ええ。それで、私は所持金とかもあの船に置いてきちゃったし、今はお金がないの。だから、この船で働かせてくれないかしら?これでも私、航海経験はそこそこ多いのよ?ここで働かせてくれるなら、同時にその彼を探すつもりなの」
リアさんの話を纏めると、恋人を探しに宇宙に出たけど財産をあのククル級ごと失う羽目になったから、彼を探し続けるためにこの艦で働かせてほしいというものだ。私としては、この艦の人材はいつも火の車だから正直助かるわ。
「それなら別に構わないわ。航海経験が多いなら尚更ね。歓迎するわ、リアさん。とりあえず詳しい契約とかは後にするけど、採用って事でいいわ」
「有難うございます。こちらこそこれからヨロシクね、艦長さん」
リアさんは私の許可に対して礼を告げる。話はそこで終わると思ったのだが・・・
「それでね、彼は――――」
このあと、私達は30分ぐらいに渡ってリアさんの色事について聞かされる羽目になった。まるでいつぞやの魔理沙みたいな感じだったのだが、友人の色事ならともかく、さっき知り合った程度の人間の色事なんて正直大した興味など無かったので、話が終わったときにはもうぐったりだ。恋する人間ってどうしてこうなのかしら。だからといって邪険にするのは憚られたし、ほんと面倒だったわ・・・
それに、早苗は早苗でリアさんの話になんだか相槌をうったり、真剣な反応を返していたり、時には相手の話に同じて語りだしたりする始末だ。いったい何が良かったのかしら。
ちなみにリアさんが話していた航海経験のことだけど、0G関連の人材データベースで彼女の記録を洗ったらあっさり出てきた。それを見てみると本当に航海経験が多いみたいだし、人材という面では歓迎だ。
色話はもう勘弁だけどね・・・
~〈開陽〉技術主任研究室~
【イメージBGM:東方妖々夢より「ブクレシュティの人形師」】
霊夢艦隊が誇るマッド共が巣窟とする研究開発ブロックの奥底、技術主任研究室は薄暗い闇に包まれている。そこでマッドの長たるサナダは今日も新兵器研究に取り組んでいた。
「・・・失礼するわよ」
そこに、透き通った少女の声が響く。
「―――もう準備は出来たのか」
「ええ。特に異常もないわ。後は艦に移るだけよ」
サナダは少女―――金髪碧眼の人形に尋ねるが、人形は眉一つ動かさずに淡々と答える。
「―――ところであれ、ちゃんと掃除は済ませたのかしら?いくら私でも、薄汚い海賊連中が使っていたままの仕様なんて御免よ?」
「それなら問題ない。特に艦橋は丸ごと換装した。元の面影など残ってないさ。なんなら好きに模様替えしてくれても構わん」
「それは有難いわね。じゃあ好きに使わせてもらうわ」
人形はサナダに懸念を伝えるが、サナダの答に満足したのか、眼を閉じて腕を組む。
「ふむ、では早速だが接続試験といこうか。と、その前にだな・・・」
サナダは自身のデスクから何かを漁り、それを人形に受け渡した。
「あれは君の艦だ。好きに名を付けるといい。何しろ君の手足となる存在だ。名付けるなら君をおいて他にいない」
サナダが受け渡したのは一枚のデータプレートだ。それを受け取った人形はデータプレートを起動して、その内容を一瞥した。
「そうは言われてもね、ただ私に好きに名を付けろと言われても困るわ。何を基準にすれば良いか分からないのだし」
「だから好きに付けろと言った。君の自律機構は人のそれと近い位置に設定してある。これはそれのテストも兼ねているんだ」
「・・・分かったわよ。それじゃあこれも好きにさせて貰うわよ」
サナダは人形の自律機構を試す意図もあって、人形に与えた艦の名も自分で付けさせようと試みた。人形はそれに渋々と従い、データプレートを眺める。
「そうだな。自分の名を考えるつもりでやってみろ。少しは真剣になれる筈だ」
「余計難しくなるわよ。それに、名というのはふつう親が付けるものでしょう。少なくとも、私の記録にはそうあるわ」
「ハァ、いいから自分でやるんだ。生憎私には、君に何と名付ければよいか絞りきれなかったのでね」
「丸投げって訳ね。ひどい親だわ」
「それは言い掛かりだ。私は自ら産み出したものには責任を持つ質だ。義体の面倒ならちゃんと見てやるさ」
「・・・分かったわ。やれば良いんでしょう」
人形はほんの少し、その能面のような表情に呆れの色を含ませると、黙々とデータプレートを眺める作業に戻る。
10分ほどその作業を続けると、ふいに人形の視線が止まる。そして人形はデータプレートを閉じて、サナダに告げた。
「決めた。これにするわ」
人形はデータプレートをサナダに放り投げる。それを受け取ったサナダはデータプレートを起動して、人形が選んだ名を確認し、ほぅ、と頷く。
「成程、ブクレシュティ、か。何故この名を?」
サナダは人形に尋ねる。彼の知識ではそれは古代の一都市の名であり、特段特別な意味のない名だった。だからこそ、自ら手掛けた人形がこの名を選んだ理由が気になった。
「そうね、単に響きが気に入ったというのもあるけど、強いて言うならば縁を感じた、とでも言っておきましょうか」
人形は淡々と質問に答える。サナダはそれに頷くと、特に何も言うことなくそれを承諾した。
「了解した。では登録しておくとしよう」
~特大型工作艦〈ムスペルヘイム〉~
かつてマッド共の欲望のために建造されたこの特大型工作艦〈ムスペルヘイム〉のドックには、一隻の大型巡洋艦が係留されている。大マゼランの大国、ロンデイバルト連邦国軍が運用するマハムント級巡洋艦だ。
そのマハムント級はかつてグアッシュ海賊団が保有していたものだが、サナダの意向により霊夢達の手に捕らわれた同艦は徹底的な調査と改造を受け、元の面影を残しながらも全く別の艦に生まれ変わっていた。
「この艦、こないだのグアッシュ艦のようですね」
「そうね。しかし調査ならまだしも、こいつをうちで運用する羽目になるなんてね。あのマッド共、また勝手な真似を・・・」
私と早苗はサナダさんに話があると言われてこの〈ムスペルヘイム〉まで出向いてきたのだが、そこにあったのはこないだ鹵獲したこのグアッシュマハムントの姿だ。元々海賊のものなんだし、保安局に渡すか売り飛ばしてしまえばいいものを。
さらにご丁寧なことに塗装まで変えられている。以前のこの艦は他のグアッシュ艦と同じように赤く塗られていたのだが、今は上面を青色、下面を薄い藤色で塗装され、その分け目には黄色いラインが入っている。
「おお艦長、来てくれたか」
私達が件のマハムントを眺めていると、後ろからサナダさんが声を掛けてくる。また私に無断で勝手なことをしていたというのに、全く悪気はなさそうだ。あんたらマッド共の暴走は、そのままルーミア達主計課や私の苦労として還元されるということをいい加減理解しなさいよ。
「んで、話ってのは何なのよ。大方検討はついているけど」
「察しが早くて助かる。今回の話題は他でもない、この艦の仕様解説の為だ」
やはり私の予想通りの話題だったらしい。こんなものを見せられたら、誰だって否応なしに理解させられる。
「いいからさっさと話なさい」
「うむ、了解した。知っての通り、この艦は先日グアッシュから鹵獲したものだ。艦長は売るか保安局に引き渡そうと思っていたようだが、これは大マゼランの、特に技術力が高い国で設計された艦だ。そんなものがカルバライヤ一国だけに渡れば小マゼランのパワーバランスが一気に崩れる恐れがある。艦長も知っているとは思うが、カルバライヤは現在隣国のネージリンスとは対立関係にある。だから、この艦は我々の手で運用することにした」
サナダさんの言い分は以上のようだ。だから私に話を通さず勝手に事を進めるのはどうかと思う。これでも一応艦長なのだ。
「あのー、ちょっと良いですか?」
「何だ?」
そこに、早苗が申し出にくそうにしながらサナダさんに発言の許可を求めたら。どこか気になったところでもあるのだろうか。
「さっきサナダさんは小マゼランのパワーバランスが崩れると仰いましたけど、くもの巣を保安局が制圧してしまえば結局大マゼランの技術はカルバライヤに流れてしまうのではないですか?」
その指摘にサナダさんは表情を凍らせる。全く想定外だと言わんばかりだ。ひょっとしてこの人、研究ばかりに目がいくからほかの部分はおざなりなのかもしれない。
「ゴホンッ・・・ふむ、確かにそのようなこともあるな。では、仕様解説に移ろう」
サナダさんは咳払いをして、話題を強引に変える。本当に今気づいたというばかりの反応だ。
「この艦は戦術指揮と上陸作戦での運用を視野に入れた改造を施している。艦橋直下のCICには新型コントロールユニットを搭載し、無人艦の状態でもある程度の艦隊指揮能力を有する。他の艦のような単純な戦術判断だけでなく、自律した状態で高度な作戦判断を取ることが可能だ。即ち、従来では〈開陽〉のコントロールユニットを介して各分艦隊を指揮していたものが、作戦目標さえ伝えればあとの作戦行動は本艦の指揮の下で独立して行えるようになるということだ」
サナダさんの話を要約すると、このマハムントを分艦隊旗艦にすれば基本的な作戦目標さえ伝えておけばいちいち指示を出さなくても勝手に分艦隊を動かしてくれるらしい。サナダさんは特に言わなかったけれど、作戦を変更するときには、今まで通り指示を伝えれば良いのだろう。
「それは助かりますね。正直、私の能力では今の艦隊規模で精一杯でしたから」
「それはどうも。喜んでくれて何よりだ。元々、このシステムは君の限界を見据えて設計したものだからな」
サナダさんの解説を聞いて、早苗はほっとしたような表情を浮かべた。どうやら、この子にも限界というものがあるらしい。今まではそんなこと意識していなかったけど、少しは気遣った方が良かったかしら。
ともかく費用は別として、早苗の本体たるコントロールユニットの演算リソースに余裕ができるのは歓迎だ。そのことは評価しよう。
ただ、サナダさんがこのようなシステムを作るということは、現在の早苗の演算リソースを越えた規模の部隊を運用するという野望があるに違いない。今後も警戒しておかなければ。
「そして上陸作戦向けの仕様だが、これは今後の対グアッシュ作戦を見越して、海賊拠点の制圧を念頭に置いたものだ。艦内の格納庫には機動歩兵を輸送可能な大型シャトル2機に中型シャトル8機の搭載が可能だ。さらに両舷の武装ブロックには支援攻撃機を20機程度運用可能な格納庫とカタパルトを備えている。これは本来のマハムント級には無かった仕様だな。」
艦載機の運用も可能ということは、元のマハムント級に比べて汎用性が向上しているということだろう。巡洋艦としては中々に有難い仕様だ。うちは何かにつけて艦載機をよく運用するし、サナダさんもその辺りを意識したのかもしれない。
「そして目玉の特殊装備だが、艦底部にはODST投下用HLVの射出ポータルを3基備えている」
「ODST?HLV?なによそれ」
サナダさんの言った横文字の意味が全く分からない。ここに来てから基本的な知識は頭に入っているのだが、さっきの単語には全く聞き覚えがなかった。
「HLVは、確か重量物を大気圏内に投下する降下ポットでしたよね。ものによっては自力で宇宙空間に戻ることもできると聞いていますODSTは・・・私にも分かりません」
早苗が言うには、HLVとは大気圏内に重量物を投下するロケットのようだ。して、早苗でも知らないODSTとは一体何なのだろうか。
「現在のHLVの定義でいけば、概ねそれで合っているな。そしてODSTについてだが、これはOrbital Drop Shock Troopers(オービタル・ドロップ・ショック・トルーパーズ)の略称だ。訳して軌道降下強襲歩兵だな。これは簡単に言えば、降下作戦用の改造を施した機動歩兵のことだ。そして彼等はHLVにより地上へと迅速に輸送され、目的地に展開する。もともとこのHLVは彼等の運用を想定して作ったものだ。通常のそれと違い、こいつは僅かな減速しか行わない。それに伴う衝撃も凄まじいものだ。なので機動歩兵に対して専用の改造を施さなければならなかった訳だ」
「要するに、ほとんど減速せずに機動歩兵を大気圏内か敵要塞に送り込むという訳ですか。でもなんでそんな装備を?まるっきり質量弾か何かじゃないですか!それはそれで素敵だと思いますけど」
早苗の疑問も尤もだ。そもそも私達は0Gドックなんだし、そんな軍事作戦じみた用途の歩兵部隊なんて必用なのだろうか。あと、最後になんか不穏な言葉を付け足しているけど、気にしないことにしよう。
「ふむ、我々は0Gドックとはいえ頻繁に海賊と交戦するからな。今後のことも考えて、ファズ・マティのような要塞惑星を攻略するときに役立つだろうと思ったまでだ」
「ハァ―――まぁ良いわ。使えそうなときには有り難く使わせてもらうから」
「それで構わん」
サナダさんが言うにはあくまで対海賊用らしいが、過剰装備な気は拭えない。まぁ、既にあるというなら使うときには使うことにしよう。
「それでその他の仕様だが、元々こいつに装備されていたプラズマ砲はモンキーモデルのようだったから改造させてもらった。正規軍のものとは引けをとらない威力だ。プラズマ砲はその性質上シールドを貫通するから、中々の威力が期待できるだろう。そしてレーザー兵装だが、大型連装レーザー砲塔1基に中型10基を装備している。さらに艦尾には元々大型ミサイルVLSがあったのだが、これはそのまま残して新型対艦ミサイル〈SSM-716「ヘルダート」〉の専用VLSとした。対空火器も艦橋脇の大型パルスレーザーを始め充実させている。元設計自体が充実したバトルプルーフによって高いレベルで纏まっていたからな。武装の増設は控え目だ。機関も勿論ハイパードライブを組み込んでワープ可能な仕様に仕上げたが、それでも艦内容積は十分な広さがある。将来的には有人艦としても運用できるだろう」
話を聞く限りまた脳筋仕様なのかと思ったが、武装は充実しているが以外とそうでもないらしい。元々の設計が良かったためだろうか。
「成程ね、火力面も申し分なし、か。そういえば、これの艦名を聞いていなかったわね」
私が艦隊の全艦に名前をつけている訳ではないから、この巡洋艦も既に艦名が与えられているのかもしれない。私はそれが気になって、サナダさんに尋ねてみた。
「うむ、この艦はマハムント/AC級巡洋艦〈ブクレシュティ〉だ。今後は是非とも有効活用させて貰いたい」
「分かったわ。既にあるなら有効利用しないてはないからね」
マッド共の勝手な行動には正直腹が立つが、既にあるというなら無下にする訳にもいかないだろう。それに、グアッシュの戦力があれだから私も多少は戦力を拡張するべきかと思っていたところだ。なのである意味これの存在は都合がいい。改造資金にはケチを付けたくもなるけどね。早苗に調べさせたら推定8000Gかかったらしい。下手な駆逐艦一隻分じゃない。今はスカーバレルから略奪した資金がまだあるから何とかなってるけど、普通の状態でこれだけ勝手に使われるのは正直迷惑だ。
「それでだ、ついでに艦内も見ていくかね?」
サナダさんが訊いてくる。私は正直どうでも良いんだけど、横の早苗がなんだか目を輝かせているし、ここは誘いに乗ることにしよう。
「そうね~、じゃあ、折角だし見ていくことにするわ」
「はいっ、是非ともお願いします!」
早苗の反応は予想通りだ。やはりこの手のものには機械としても惹かれる部分があるのかもしれない。
「では、案内するとしよう」
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~〈ブクレシュティ〉第一艦橋~
この〈ブクレシュティ〉に入ってまず感じたのは、通路が〈開陽〉に比べても広めに取られていたことだ。サナダさんによればこの艦が属するマハムント級をはじめとしたロンデイバルト艦船は居住性にも気を使われているという話だから、有人艦として使う分にも不足はなさそうだ。ちなみに将来を見越して乗員船室と食堂のスペースも確保されているらしい。
そのあとは格納庫なんかも見てきたのだが、予想に反してかなりすっきりとしていた。〈開陽〉は通路の天井とか、格納庫とかもパイプや空調設備なんかでごちゃっとした印象があるのだが、〈ブクレシュティ〉ではそれが極力隠されてシンプルな構造になっている。
早苗はそれよりも格納庫内のクレーンとかカタパルトの方に目がいっていたみたいで、終始感心したような声を出してそれを眺めていた。やっぱりああいった機械に惹かれるらしい。曰く「軍事基地みたいで素敵です!」らしい。私にはよく分からないけど、あの子が喜んでいるならそれで良いだろう。
続いてHLVの射出ポータルなんかも見てきた。HLVは大気圏に直接突入させるようなものだし、無骨な艦とは違って極力抵抗を減らすように流線型をしていた。大きさは予想していたものよりもだいぶ大きい。50mはあるとは思う。サナダさんの解説だと機動歩兵42体を搭載できるらしい。敵からしたらそんな数の、あのメタルマウンテンゴリラが降ってくるなんて悪夢でしょうね。
そして今は艦橋に来ている。〈開陽〉は艦橋こそはかなりシンプルに纏まっていてあまりごちゃごちゃしていないのだが、〈ブクレシュティ〉の艦橋もそれに劣らず機能的なデザインだ。ちなみにここは元のマハムントの影も形もないくらいに改造されている。なんでも旗艦装備を施すために艦橋は周りは徹底的に弄ったという話だ。
「―――ようこそ〈ブクレシュティ〉へ。歓迎するわ」
すると、唐突に艦長席から透き通った声が響いた
「・・・誰?」
私はその声がした方向に振り向く。
そこには、滑らかな金髪をショートカットにした、青い軍服のような服装をした人形のような少女が落ち着いた表情で腰掛けていた。
彼女は手に持った紅茶のカップをデスクに置いて、私と向き合う。
「―――貴女が提督さんかしら?」
「まぁ、そうかもしれないけど・・・」
人形みたいな少女はそれに答えず私に尋ねる。私の肩書きは艦長なのだが、艦隊全体の責任者でもあるから提督というのもあながち間違いではない。
少女はそれに頷くと、立ち上がって私達へと歩み寄る。
―――しかし、こんな子、うちの艦隊に居たかしら?
ここまで人形じみた子なら一度会えば印象に残るようなものだが、生憎私の記憶では、こんな子は艦隊には居なかった筈だ。
少女はストレートな金髪を肩まで短く切った髪型をしていて、瞳は碧眼。その容貌はまるで作られたかのように精巧で美しい。例えるならば、あの七色魔法馬鹿みたいな雰囲気だ。髪型とか顔の細かいパーツとかは違っていたりするけど、その在り方は彼女を連想させる。
おまけに頭に赤いバンドも載せてるし、青い軍服の上に白いケープを纏っているから服装の配色まで彼女と一緒だ。正直、あれの姉か妹と言われたら納得してしまうだろう。
「初めまして、私はブクレシュティ。この艦の独立戦術指揮ユニットよ。言うなれば、この艦は私の手足のようなもの。これからは宜しくお願いするわ」
「え、ええ。こちらこそ・・・」
彼女はそう名乗るが、私は未だに状況を飲み込めずにいる。独立戦術指揮ユニットと名乗ったからには、やはりサナダさんが絡んでいるのだろうか。
「ふむ、コミュニケーション機能も上場だな。性格調整にも問題ないようだ。〈開陽〉のコントロールユニットのデータを参考にしただけはある」
「ふぇ!?いつのまにそんなことしていたんですか!」
やはりサナダさんの仕業だったらしい。後ろで早苗が「人の中を覗くなんて変態ですっ!」と言ってサナダさんにビンタを炸裂させているが、自業自得だ。放っておこう。
「―――あ、えっと、サナダさんが作ったってことは分かったわ。貴女、うちの早苗と同じようなものでしょ?」
「その認識で構わないわ。尤も、私はこちらが主で艦が従だけどね」
彼女―――ブクレシュティもそれを肯定する。ただ、早苗とは違ってコントロールユニットではなく義体の方が本体だと言っているが。
「厳密に言えば、AIの本体がこの義体にあるということよ」
成程ね、そういう事か。そういえば、私の方はまだ名乗っていなかったわ。
「そういえば、こっちの自己紹介がまだだったわね。私は〈開陽〉艦長の博麗霊夢よ。よろしく」
「もう知っているわ。さっきのはそれを確認しただけ。ともあれ、今後ともお世話になるわ、提督さん」
彼女はそう言って右手を差し出す。私はそれに応じて握手を交わす。
彼女の人形のような顔が、ほんの少し、微笑んだ気がした。
前々回で予告していたマハムント改造回です。ODSTの元ネタはHALOという洋ゲーに登場する特殊部隊です。カッター艦長のODSTとMAC強いおw
ちなみにブクレシュティのステータスはゲーム内表記に直すとこんな感じになります。
マハムント/AC級
建造価格:25000G
全長:748m
耐久:3500
装甲:71
機動力:34
対空補正:35
対艦補正:40
巡航速度:120
戦闘速度:137
策敵距離:18000
耐久性能はマハムントのモンキーモデルを強化したものなのでそこまで上昇はありませんが、策敵、対艦と足回りが改善されています。ODSTや艦載機運用能力のために船殻を弄ったので装甲は逆に低下しています。価格は特殊装備を詰め込んだので8000G近く高騰しました。
ちなみにブクレシュティ(軍服アリス)ですが、霊夢の記憶の中ではアリスは基本ウェーブがかった髪型だったので、本文中で髪型が違うと言っていたのはそのためです。ちなみに立ち絵はこんな感じになります。髪型はにがもん式のモデルを参考にしました。
【挿絵表示】
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