夢幻航路   作:旭日提督

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カルバライヤ編も今回で終わりです。
なお、今話は以下の点に注意してお読み下さい。警告は一度だけです。

・R-15
・レイサナ



第四一話 猫神様に奉る

 

 

 ~カルバライヤ・ジャンクション宙域、"くもの巣"周辺~

 

 

 グアッシュ海賊団の拠点"くもの巣"はサマラの移動基地を突撃させるという荒業により壊滅的被害を受け、生き残った海賊達もこの拠点を見限ってサマラの"狩り"から逃れようと足掻いていた。

 

 そんな光景が一段落したところで、霊夢率いる艦隊は"くもの巣"に接近し、戦利品とばかりに残された残骸から獲れるだけ物資を強奪していった。

 

 

 

「艦長、"くもの巣"周辺を調査した所、損傷の少ない造船区画の一部を発見した。巡洋艦数隻分の資源は残されているとの事だ」

 

「回収ね。こんなところで眠らせておくには惜しいわ。私達が有効活用させて貰いましょう」

 

 作業艇が帰還し、サナダさんから調査報告が届けられる。いま私達の艦隊はサマラが荒らし回った後の"くもの巣"宙域に留まっている。今まで通り、海賊から資源を略奪するためだ。

 あれだけ海賊に被害を受けたのだ。最低でも損失艦の代金分は回収させて頂こう。

 

「了解した。資源は工作艦に運び出す。まだ敵の生き残りがいるかもしれないから作業部隊には保安隊か機動歩兵の護衛を頼むぞ」

 

「そうね、後で派遣させておくとしますか」

 

 発見した造船区画には工作艦が接近し、作業艇が降下していく。護衛艦の巡洋艦〈サチワヌ〉〈青葉〉からは残存勢力を掃討するための機動歩兵隊を乗せたシャトルが降下していった。生き残っている区画にはあのサマラによる殲滅戦を生き延びた海賊がいるかもしれないし、一応は警戒しておくべきだろう。何かの拍子に工作艦に乗り込んで破壊工作なんてされたら目も当てられない。

 

 物資の搬入作業は6時間ほどで終了し、完全を確認したあと艦隊は"くもの巣"を離れた。いつも通りの接収を済ませれば後はここに用はない。

 

 このあとは、確かバリオさんから海賊退治の報酬がしたいから保安局に顔を出せって話だったし、取り敢えずブラッサムに向かうことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~惑星ブラッサム・宙域保安局~

 

 

 海賊もいなくなってすっかり寂しくなった航路を抜けて(代わりに民間の輸送船はよく見かけたが)、私は艦隊をブラッサムに入港させた。保安局に顔を出す前に一通り消耗品の補充を済ませておいたが、やはりけっこう高くついたみたい。特にミサイル類と推進剤に艦載機分の資源とか。にゃろう、グアッシュめ。お陰で1万G近く吹っ飛ばす羽目になったわ。残党がいたら残さず略奪してやる。

 

 それを終えたら地上に向かうわけだが、メイリンさんも保安局に呼ばれていたとの事だったので偶然宇宙港で合流した私達は一緒に保安局に向かうことにした。

 宙域保安局の建物に辿り着くと、守衛を通り過ぎて受付に顔を出す。保安局はもう何度も通ったのですっかり顔パスになってしまった。そして中に入ると、作戦室にはウィンネルさんの姿しかなかった。いつも一緒にいるバリオさんはどうしたのかしら?あとシーバットさんの姿もないみたいだし。

 

「あら?今日はウィンネルさんだけなの?バリオさんから報酬の話を聞いていたんだけど」

 

「霊夢さんに、メイリンさんか。ああ、彼等なら別件で席を外しているよ」

 

「別件?というと、残務処理とかのことでしょうか?」

 

「まぁ、そんなとこだと思ってくれ」

 

 メイリンさんの質問にウィンネルさんが答えた。少しはぐらかしたような言い方が気になるけど、あっちにも機密とか色々あると思うから下手に詮索するのは止めておこう。

 

「それで報酬の件についてだが、宙佐から預かっていた海賊退治の懸賞金8000Gと艦船設計図3種だ。そちらの方は本社の口座に振り込ませて貰ったよ」

 

「8000Gなんて随分と大盤振る舞いじゃない。有り難く頂くわ」

 

「有難うございます」

 

 私は素直に報酬を受けとる。これだけあれば、接収した資源と合わせて海賊退治で被った被害を補填して、なおかつ利益も上げられそうだ。保安局も随分と気前がいいことするのね、気に入ったわ。

 

「そういえば、メイリンさんって確か大企業の人なんでしょ?本社の方から何か言われなかったの?」

 

 そこで私はメイリンさんが確か軍事企業に所属しているという話を思い出したので訊いてみた。あれだけの事があれば、流石に本社の方から何か言われてないのかしら?

 

「今のところは心配無用ですよ。社長は『愛娘の奪還は任せた』と仰られていましたし。ただ、お嬢様方の身に何かあれば私の首は飛ばされるでしょうね」

 

 メイリンさんは「あはは~」なんて苦笑で済ませてるけど、それ、よく考えたら笑い事じゃないわよね・・・

 

「・・・でも、これは困りましたね。お嬢様がザクロウにもくもの巣にも居ないとなれば、どこを探せばいいのやら・・・」

 

「ああ、その件についてだけど分かったことがある。少しいいか?」

 

 メイリンさんが一転して黄昏ていると、そこにウィンネルさんが割り込んでくる。

 

「君が捕らえてくれたドエスバンの取締りが進んで、ヤツの人身売買ルートが判ったんだ。ヤツはどうやら海賊にさらわせた人間やめぼしい囚人をある自治領の下へ届けていたらしい。拐われたというスカーレット社のご令嬢も、もしかしたらその自治領にいる可能性がある」

 

「自治領・・・ですか?」

 

「そうだ。一つはバハシュールが統治するゼーペンスト、もう一つはなにかと問題を起こすヴィダクチオ自治領だ。ザクロウの艦船の航海記録とも一致したし、間違いないだろうな」

 

 ウィンネルさんは人身売買の対象だったらしい自治領の名前を上げるが、私にはどんな場所なのかさっぱりだ。一応ニュースにも目を通していたりはするけど、全部覚えてる訳じゃないし・・・

 

「バハシュール?誰よそれ」

 

「ああ、聞いたことならありますね。確かゼーペンスト自治領の二世領主で、親の遺産を食い潰しながら怠惰な生活を送っているとか」

 

「へぇ~。まるで駄目な奴なのね、そいつ。んで、もう片方のヴィダクチオ自治領ってのはどんなとこなの?」

 

「・・・あの自治領のことか」

 

 私が軽く訊ねてみると、ウィンネルさんはあからさまな嫌悪が入り交じった表情を浮かべた。

 これは、何か不味いことでもあるのだろうか?

 

「―――ヴィダクチオはマゼラニックストリームに近い、カルバライヤ寄りの宙域にある自治領だ。そしてあの自治領の内部に関する情報は少ない。だが、伝え聞く話によると内部では相当な弾圧が行われているらしい。それに連中は最近になると膨張主義的な姿勢を見せて軍と対立している。ゼーペンストならまだしも、あそこはまともに入ることすらできない場所だ」

 

 うえっ・・・話を聞くだけでも厄介そうな場所じゃない。それに、そんな場所と人身売買の取引がされていたって事は―――

 

「―――これは困りましたね。もしお嬢様方があそこに売られているとしたら・・・」

 

「恐らく、ただでは済まないだろうな。だがバハシュールも相当な女好きだと聞く。そっちに送られていても・・・」

 

「まさか・・・お嬢様方はまだ10才前後ですよ!?いくらバハシュールに色狂いの噂があっても、流石にロリコンまで併発してるなんて・・・」

 

 メイリンさんはそれに反論しようとしたが、途中で言い澱んでしまう。これでバハシュールって奴の評価が少しは分かった気がするわ。

 しかし、ご令嬢を奪還しても何かされていたようじゃ・・・報酬、ちゃんと出るわよね?

 

「―――ただ、君達も分かっているとは思うが自治領は基本的に宇宙開拓法で治外法権が認められている。保安局としても交渉はするつもりでいるが、それが決裂した時は―――」

 

「・・・ええ、判っています。11条による自助努力をしろ、と言いたいんですね」

 

「―――ああ、済まない。捜査に乗り出したいのは山々なんだが、なにぶん相手が自治領だ。分かってくれ」

 

「問題ありませんよ。そのときは此方で対処するつもりです」

 

 ウィンネルさんとメイリンさんが話を進めていくけど、11条って何よ。私置いてかれてる?

 

「・・・ねぇ、その宇宙開拓法とやらってどんな法律なの?」

 

「え?―――ああ、宇宙開拓法ですか。惑星や宙域の発見者にはその場所の所有と自治権が認められるっていう法律ですね。11条は自治領の防衛に関してはそこの領主が全責任を負うっていう条文です。ですから―――」

 

「成程ね、だからそのときは攻め込んで自力救済しろって言いたい訳でしょ」

 

「はい、理解が早くて助かります」

 

 簡単に言ってくれるけど、面倒臭いことこの上ないわね。海賊の次は自治領滅ぼしかぁ・・・やることは変わらないとはいっても、相手は一応国みたいなもんだし、こっちも相応の戦力を整えておかないとね。

 

「はぁ・・・面倒臭いけど、依頼を受けた手前仕方ないわね。それに、国盗りってのもなんだか面白そうだし、付き合うことにするわ」

 

「・・・なんだか申し訳ありませんね」

 

「別にあんたが気にすることじゃないわ。面倒なことを強いられた怒りはその領主とやらにぶつけてやるから」

 

 ああ、依頼がザクロウで終わればどんなに楽だったことか。もうこうなったら連中からは徹底的に巻き上げてやる。敵の艦船は全部接収よ!

 

「―――悪いが君達、まだ交渉は始まってもいないんだ。我々の交渉が上手くいかなかったときは連絡する。だからその話はそれまで待ってくれないか」

 

「・・・分かりました。ではその間に本社の方にも増援を要請しておくことにします。社長のことですから、相手が自治領と知れば嬉々として艦隊を率いてくるかもしれませんし」

 

「ねぇ、あんたのとこの社長って、一体どんな奴なのよ・・・」

 

 メイリンさんのとこの本社から増援が来るって話は心強いんだけど、嬉々として自治領潰しをやる社長って一体どんな人間なのかしら・・・・・・

 

 そんな訳で、依頼については保安局の方で進展があるまでは自由に行動して良しということになった。ならその間に戦力の拡張でもすることにしようかしら。勿論資金源はそこら辺の海賊で。

 

 

 それと、保安局から報酬として貰った設計図はバハロス級巡洋艦とシドウ級駆逐艦という保安局では割とよく見る艦種2つに例の重巡洋艦ダガロイ級だ。え?ダガロイは空母じゃなかったかって?あんなの空母なわけないでしょ。軍のバゥズ級重巡より砲力強いって一体何様なのよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉自然ドーム~

 

 

【イメージBGM:東方萃夢想より「砕月」】

 

 

 

 いつもは閑散としているこの自然ドームだが、今夜は酒臭さと喧騒に包まれている。恒例の宴会行事の開催だ。

 

 まだ厄介事は残っているとはいえ、海賊狩りの方はグアッシュ海賊団の壊滅という形で一区切りついた。なので今回もグアッシュ壊滅祝いとして、こうして宴会を開いた訳だ。

 

 ふつうの艦ならこんな場所に全乗組員を収めるなんてできないだろうけど、うちは自動化率が艦のサイズに比べたら半端ないのでまだまだドームには余裕がある。それに艦自体は寄港したままの宴会なので、最低限の保守整備要員以外は殆どこの宴会場に参加しているのではないだろうか。

 

 そんな宴会ではあるが、私はいつも通り神社の縁側に腰かけて、何をするわけでもなく喧騒を眺めるだけだ。幻想郷なら魔理沙やらレミリアやらが絡んでくるお陰で喧騒の真っ只中に放り込まれるなんてざらにあったが、今は部署ごとに纏まっているみたいだし、マッド以外は積極的に絡んでくる訳でもないのでこうして静かに過ごしている訳だ。

 

 でも、艦長ということを考えると少しはこっちから絡みに行った方がいいのかもしれない。一応クルーと打ち解けるいい機会な訳だし、艦長はクルーからの信頼があった方が良いのは言うまでもない。そうした信頼を得るためにも彼らと積極的に関わるというのも、案外悪いものではないだろう。

 

 という訳で、私は神社の縁側を降りてクルー達の輪の中に混ざることにした。

 

「あ、艦長・・・」

 

「お疲れ様でーす、艦長!」

 

「貴女達・・・だいぶ酔ってる?」

 

 最初に話し掛けたのはこころとミユさん、ノエルさんのブリッジクルー組だ。ミユさんとノエルさんは一緒にいるところをよく見る気がするんだけど、この三人で纏まっているのは少し新鮮かも。でも仕事柄一緒にいることは多いんだし、案外中はいいのかもしれない。

 

「艦長、今日はお稲荷さまじゃない・・・」

 

「当たり前でしょ?こころ。宴会の度にマッドの玩具にされるなんて堪らないわよ」

 

「え~っ!ふかふかの方が可愛いのにぃ~っ」

 

「ノエルさん―――抱きつかれる私の身にもなってみなさいよ」

 

 そういえば、前回の宴会ではマッド共のせいで狐耳と尻尾を生やされていたんだっけ。勿論あのマシンは封印したので今回の私は正常だ。だけどノエルさんはそれがなんだか御立腹みたい。なんでさ?

 

「あっはは!ノエルったらあのときは艦長にお熱だったよね~・・・私もちょっと抱きたかったかも」

 

「ミユさんまで・・・あれ、以外と恥ずかしいんだけど。あとくすぐったいし」

 

「まぁまぁそう言わずにぃ~!可愛いんだから良いじゃない」

 

「もふもふ・・・」

 

「―――お稲荷さまの方がめでたいですよ?」

 

 して、三者の反応はこんなところだ。どれだけ私にまた狐化してほしいのよ、このオペレーター組は・・・

 というかこころ、あんたまでそっち側に付くんだ。普段の仕草から冷静な子だと思っていたんだけど、酔いが回ると相応にふざけたりするのね。

 

「はぁ・・・それじゃ、私は他のところに行ってくるわ。酔いすぎないよう気を付けなさいよ」

 

「りょーかーい!」

 

 ミユさんとかは顔も赤いしだいぶ酔いが回っていそうだけど、一応これぐらいは行っておこう。あと、また狐になるつもりはないのであしからず。さっさと退散するに限るわ。

 

 

 

 次に向かった先には機関長のユウバリさんと主計長のルーミアがいた。こっちも珍しい組み合わせね。

 

「・・・・だからさ、わざわざこんな場で話すことじゃないよな?こっちは羽根を伸ばしたいんだが・・・」

 

「別にそこまで言ってませんよって。軽いお願いですよ~」

 

 見たところ二人とも酔っているらしいが、ルーミアはともかくユウバリさんは絡み酒みたいだ。ここは間に入った方がいいのかな?

 

「お疲れ、二人とも。それで、何かあったの?」

 

  「ああ、艦長か。いや、このエンジンバカが機関改修の費用を捻出してくれと五月蝿くてな・・・陳情ならまだいいんだが、訳の分からん専門的なことまで語り出す始末だ。このままじゃ延々とエンジンについての蘊蓄(うんちく)を垂れ流しそうだし、何とかしてくれないか?」

 

「―――要するに絡まれたって訳ね。ユウバリさん、聞こえるかしら?」

 

 どうもルーミアはユウバリさんに絡まれて困っているみたいだ。なら、面倒だけど折衝を買って出ることにしよう。部署の長どうしが揉めるのはあまり宜しくない。

 

「あー艦長!なんですかぁ~」

 

 というか、酒くさっ。どんだけ飲んだのよユウバリさん・・・

 

「そーだ。こいつぅ、私が機関を改造するから費用出せって言ってるのにウンとも言わないんですよぉ~!艦長からも何か言ってくださいよぉー!今度のエンジンはケイ素生物対策を万全にした新型なんですよ~!」

 

「はいはい分かったから、それはまた後の機会に検討してあげるわ。とにかく、今はあまり他人に絡まないようにしなさいな」

 

「うぅっ・・・そんなら仕方ないれすねぇー。今日のところはここまでにしておきますよ~!」

 

 私がユウバリさんを諭すと、彼女は一升瓶をぐいっと持ち上げて凄い勢いで酒を飲み干していく。それが終わると、大人しく他の席に移っていった。

 

「すまないな、艦長」

 

「なに、酔っ払いの扱いぐらい任せておきなさい。普段は経理だとかで忙しいだろうし、あんたも今日ぐらいは楽しんでおきなさいよ」

 

「言われなくてもそうするつもりだ。書類が大変なのは相変わらずだがここは福利厚生が充実しているからな。私もそれなりには気に入っているよ。」

 

「そりゃどうも。しかし、私に上がってくる段階であれなのに、あんたのとこに届く書類はどれだけ大変なんでしょうね。其が直接私のところまで来たら、過労で死ぬ自信があるわ」

 

「慣れればただの流れ作業なんだが・・・研究開発費の報告が実態とかけ離れていてな―――それを把握するだけでも大変さ。ロマンを追い求めるのは分からんでもないが、連中はもう少し自重というものをだな・・・」

 

 ルーミアもなんだかんだで酔っているのか、普段は聞かない愚痴なんかを聞かされた。彼女もマッド共の横暴には苦労させられているみたいなので、私もそれに乗っかってマッドの無断行動についての罵倒大会さながらの様相を呈するようになった。ただ、彼等の頭脳が優秀であることには間違いないし、それは艦隊にとって必要なものだということも事実だ。うちのマッド共は、まさに扱いが難しいじゃじゃ馬ってところね。ほんと困ったわ。

 

 

 ルーミアとマッド罵倒大会を終えた後、私は適当に宴会場を徘徊して、クルー達といろいろ話をして、というのを繰り返していた。お陰で酒はあまり進まないけど、クルーと打ち解ける機会もあまりないんだし、まあ別にどうでもいいわ。

 

 ふと周りを見てみると、航空隊の連中がなにやら騒いでいるみたいだ。気になって近づいてみると、どうやら霊沙も一緒らしく、彼女の姿も見える。

 

「お~い、いい加減やめろよぉ――――」

 

「良いじゃねぇかこれぐらい。なぁ?」

 

「はい、隊長。次は私にも撫でさせて下さいよ!」

 

 喧騒の真ん中で、霊沙はいいように揉まれているらしい。バーガーが霊沙の頭をもみくちゃに撫でていて、彼の部隊の2番機についているマリアさんがそれを羨ましそうに眺めている。よく見ると、霊沙の隣には白い獣耳まで見える。あんななりしてるのは椛しかいないので、どうも航空隊だけという訳ではないらしい。よく見ると保安隊の顔も混じっているようだ。

 

 ―――あれ?あいつの頭で何か・・・

 

 動かなかった?今なんか、ぴくって動いたような気がするんだけど・・・

 

「あ、れいむぅ~、こいつら何とかしてくれよぉ~」

 

 私がそこに近付いたところで目が合うと、霊沙が上目遣いで私を見つめてくる。というかあんた、その頭に生えているものは何かしら?

 

「ふふっ、貴女もこれで私のフレンズですね!」

 

 霊沙の隣では、椛が尻尾を揺らしながら嬉しそうにあいつに抱きついている。もふもふして気持ち良さそう―――じゃなくて、なんで霊沙の頭にも猫耳が乗ってるのかしら?

 

「マッド死すとも獣耳死せず・・・がはっ―――」

 

 すると、どこからか息絶えるような声が聞こえた。その方向を探して辺りを見回してみると、サナダさんとにとりが集団の向こうで地面と抱擁を交わしている。その奥には、デフォルメされた私の人形が飾り付けられた―――

 

「・・・・って、何であれが復活してるのよ!!」

 

 あの忌まわしき"ふもふもれいむマスィン"の姿がそこにあった。

 よく見てみると、人形の額には「Mk=2」と書かれている。にゃろう、懲りずにまた作りやがったな!?

 

「ああ、マッドなら吹っ飛ばしといたよ。それより、周りの連中を・・・」

 

「―――隊長、そいつ撫でさせて!」

 

「あ、おいっ・・・あまり乱暴に扱うなよ?」

 

「げっ、マリアさん・・・ちょっ、くすぐったいよ・・・」

 

 あのマッドは霊沙がやったらしい。だとしたら、今度も無理矢理あれに入れられたのだろうか?だけど今回は理性まで獣化してないみたいなので、彼女は今は大人しくしているみたいだ。

 

 霊沙はしばらくマリアさんの撫で撫で攻撃と椛の抱きつき攻撃を受けていたみたいだが、そこから解放されるとよれよれの足取りで私のところまで来て、糸が切れたようにばたっと倒れ込んだ。

 

「あはは~、れいむの膝枕だぁー」

 

 なんか、性格変わってない?

 

 前は私のことはあまり好いていない様子だったけど、今の霊沙はまるで猫みたいに甘えてくる。前回の宴会のときもそうだったけど、こいつは獣になると何故か私に甘えるようになるらしい。

 

 ―――ちょっと、可愛いかも・・・?

 

 その顔は私と瓜二つなんだけど、不覚にも甘えてくる霊沙が可愛いと思ってしまう。そこで魔が差したのか、私は彼女の顎に手を当てて撫でてみた。

 

「―――なうーん、ごろごろ・・・♪」

 

 え、なにこれ。かわいい。

 

 撫でたときの反応が予想外に可愛いので頭も撫でてみると、霊沙は本物の猫みたいに心地良さそうにしている。

 

 ―――こいつ、もうこのままで良いんじゃないかしら?

 

 普段の霊沙の奴と比べれば断然こっちの方がいい。まだ可愛げがある分ましだ。というか、素直にかわいい。

 

「・・・艦長には懐くんだな」

 

「私にも撫でさせてくださいよぉー」

 

「ああ、私のフレンズが・・・」

 

 外野がちょっとうるさいけど、私は霊沙を撫でることに集中する。

 あ、耳ふさふさ・・・

 

「―――あら、こんな場所で何やってるの」

 

「ふぁっ・・・・ああ、なんだ貴女ね。いきなり後ろから声かけないで貰える?」

 

 私が獣耳に囚われていると、ふいに背後から声をかけられて、思わずらしくない反応をしてしまった。振り向いてみると、そこに居たのはブクレシュティだった。

 

「何って・・・まぁ、スキンシップみたいなものよ。ところで、あんたも楽しんでる?」

 

「楽しむも何も、私には必要のないことよ。貴女が来いって言うから来ただけ」

 

「・・・つまらない奴ね」

 

 私がそう訊いても、ブクレシュティは普段と変わらない表情で淡々と答える。同じAIでも、早苗とはえらい違いだ。

 

「あんたが機械だってことは分かってるけど、適度な息抜きは必要でしょ。少しはゆっくりしてきなさいよ」

 

「だから・・・そういうのは私には必要ないの。今日は話したいことがあったのだけれど・・・その様子だと日を改めた方がいいみたいね。それじゃあ私は行くわ」

 

 私が気遣っても、彼女は何処吹く風とばかりにそれを受け流してしまう。

 ブクレシュティは私に用事があったみたいだけど、この様子を見て今は話せることではないと思ったのか、それを諦めて踵を返す。

 

 ほんと、淡白な奴ね・・・

 

「・・・にゃあ~」

 

 私に撫でられている連中がが、眠たそうに欠伸をする。なんか、獣化が進行しているような気がするんだけど、気のせいかしら?

 

 その後も霊沙の獣耳に癒して貰ったが、肝心の彼女が寝てしまったので、私は神社に寝かせるために宴会場を離れた。こいつを独占する形になったためか航空隊と一部保安隊の連中からブーイングが飛んできたけど、霊沙がこれじゃ起こす訳にもいかないし、今は無視よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぬぬ・・・声をかけるタイミングを見失ってしまいました・・・」

 

 物陰から霊夢を覗くものが一人、悔しそうに歯噛みする。

 

「獣化して霊夢さんの膝を奪うなんて・・・霊沙さん、恐るべき敵です!」

 

 その人影―――早苗は、何かを勘違いしたまま、霊夢の膝で撫でられていた霊沙に対抗心を燃やす。

 

「こうなったら、私もあれを使うしかありませんね。霊夢さんの膝は私のものです!」

 

 早苗は霊沙への敵愾心を胸に、ある装置を見上げる。

 

 デフォルメされた霊夢人形が飾り付けられた、人一人が入るぐらいの大きさをしたその装置―――"ふもふもれいむマスィンMk=2"は、静かに佇むだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉自然ドーム内・博麗神社~

 

 

 

【イメージBGM:東方封魔録より「博麗神社境内」】

 

 

 

 自然ドームにある小山の上に建てられたこの博麗神社は実質私の家と認識されているらしく、宴会場から近いにも関わらずあまりクルー達は寄ってこない。宴会の喧騒は充分耳に届くが、それもただの雑音に過ぎない。

 

 私は霊沙に布団を被せて寝かしつけた後、一風呂浴びようと思って浴室に足を運んだ。まだ酔いは殆どないし、これから一人で飲み直すのも悪くない。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、すぐに風呂場に辿り着く。

 神社は幻想郷にあるものを再現したものだが、この風呂場だけはこの時代で一般的なものだ。最初は違和感しかなかったけど、慣れればこれも便利なものだ。機械に頼めば勝手に風呂を沸かしてくれるし、薪割りも火の管理もする必要がない。

 

 服は畳んで風呂場に入り、身体を洗ってから湯槽に身を沈める。

 

 自然ドームの季節は冬の設定で雪も積もっているし、今日は満月の設定だったみたいだから、湯槽に浸かりながら雪見酒なんてのも風流だ。しかし、生憎神社の風呂は露天風呂ではない。う~ん、これは残念だ。

 

 今度にとりかサナダさんにでも頼んで、露天風呂をつけて貰おうかな。場所は、神社の裏手でいいかしら?

 

 

 とまあ、そんなふうに露天風呂について考えていると、突然風呂場の扉がガラッと開く。

 

「だ、誰っ!」

 

 私は曲者かと思って身構えたが、相手の声でそれが杞憂だと知る。

 

「霊夢さ~ん、早苗でございます!お背中流しに参りまし・・・あれ?もう終わってる?」

 

「なんだ、早苗か―――」

 

 どうやら、相手の正体は早苗だったらしい。それを知った私は再び湯槽に身を沈めようとしたのだが、湯気が晴れて彼女の姿が露になると、またもやそこから飛び上がる羽目になる。

 

「―――って、あんた、その頭・・・!」

 

 早苗は身体にバスタオルを巻いて入口で正座している。それは良いんだけど、頭、なにかついてない?

 

「へ?、ああ、これですか?」

 

 彼女の頭で、ぴくっとなにか動く。それは紛れもなく、霊沙にあったそれと同じもの・・・猫耳だ。

 早苗のそれは霊沙とは違い、髪の色とは異なる黒色をしていたが。

 

「なんであんたまで・・・ハァ、まぁいいわ。そこにいても冷めるから、さっさと入ってきなさいよ」

 

「は~いっ♪」

 

 私が呆れ気味に早苗を呼ぶと、彼女は軽快な声で返事をして風呂場に入る。例に漏れず尻尾もちゃんとついていたみたいで、それは終始ぴんと垂直に立っていた。

 というか、あの機械早苗にも効果あるのね。確か、今の早苗はサナダさんが作った義体の筈なんだけど。

 

「ああ、入りたいならまず身体を流しておきなさいよ?」

 

「了解です♪」

 

 早苗は軽く返事をして、自分の身体を流す。それが終わると、また私と向き合って、少し頬を赤らめながら頼んできた。

 

「あの・・・そっちにお邪魔してもいいですか?」

 

「別に・・・構わないわ。広さは充分あるんだし」

 

「なら、お邪魔します」

 

 早苗はゆっくりと、湯槽に足を入れる。「えへへ・・・一緒ですね」なんて呟いているあたり、早苗は嬉しいみたいだ。しかしまぁ、なんで私と入りたいなんて思ったのかしら?

 

 すると、早苗は湯槽に身体を沈めたところで、突然ぶるっと身を震わせる。

 

「早苗―――どうかしたの?」

 

 気のせいか、彼女の顔も青くなってる気がする。先程までは上気してほんのり赤く染まっていた頬も、今や見る影もない。

 普段はあまり意識してないんだけど、彼女の身体は機械なのだ、機械は水に弱いって聞くし、もしかしたらそれが原因で―――

 

「に・・・ぎにゃぁぁぁぁっ!?」

 

 突然、早苗が驚いた猫みたいな叫び声を上げると、ものすごい勢いで私に抱きついてくる。

 

「い、いきなりどうしたのよ・・・ッ!」

 

「み、水っ、水ぅぅ!こ、怖いですっ!」

 

 なんだか訳がわからないけど、早苗はぶるぶると震えて猛烈な勢いで私を絞め上げていく。

 く・・・苦しい・・・

 

「うわぁっ!!」

 

「きゃっ!」

 

 直後、早苗が抱きついてきた勢いのせいか、身体がずるっと滑って私は正面から早苗に抱きつかれたまま全身が湯槽の中に沈んでしまう。

 

「がっ、がばごぼぼぼ・・・」

 

 位置がずれたお陰で、私の顔はちょうど早苗の胸のあたりで抱きつかれる形になってしまい、早苗が強く抱きついてくるお陰で呼吸すらままならない。それに、お湯が入ってくるせいで息が絶えてしまいそう・・・

 

 ―――いい加減、離れなさいっ!!

 

「に"ゃーっ!!」

 

 これ以上抱きつかれていると、ほんとにやばい・・・!

 

 このままだと窒息してしまいそうだったから、私は思わず力いっぱい早苗を押し退ける。

 すると、驚いたような声を出した早苗はゴンッ、と後頭部を壁に打ち付けて動かなくなってしまった。

 

「さ、早苗・・・?」

 

 さっきは必死だったのでそこまで頭が回らなかったが、流石に罪悪感がして早苗に呼び掛ける。だが、彼女は返事のない状態が続いた。

 

「い、いたたた・・・っ!」

 

 しばらくすると早苗は痛がりながら起き上がってきて一安心したのだが、彼女はさっきみたいにまた身を震わせたかと思うと、再び私に抱きついてくる。

 

「み、水ですっ、霊夢さん!!」

 

「ちょっ・・・危ないったら!また滑ったらどうするのよ!」

 

「水・・・こ、怖いですっ・・・!」

 

 早苗は私の呼び掛けにも応えず、抱きついたまま震えるだけだ。

 あれ、猫に・・・水?

 

「―――ねぇ、早苗?」

 

「・・・はい?」

 

 私が落ち着いた声で彼女を呼ぶと、早苗は恐る恐る顔を上げる。

 

「もしかして・・・猫になったせいで水が怖くなったの?」

 

「―――恥ずかしながら、そうみたいです・・・私としたことが、不覚でした・・・」

 

 早苗は耳と尻尾をしょぼんとぶら下げて、落ち込んだ様子を見せる。

 とにかく、これじゃあまた暴れだすかもしれないし、今は早苗を湯槽から出すのが先だ。

 

「今のあんたに風呂は止めておいた方がいいわ。上がりなさい」

 

「・・・はい、申し訳ないです・・・ぐすん」

 

 流石に今の自分では風呂は無理だと悟ったのか、早苗は大人しく湯槽から出る。

 

「取り敢えず、今は寝ておきなさい。神社の布団は適当に使っていいわ」

 

「―――ごめんなさい。では、お言葉に甘えさせていただきます・・・」

 

 早苗はしょぼんとした顔のまま、私の言いつけに従って風呂場を後にした。なんだか落ち込んでいるみたいだし、後で撫でておこうかしら?早苗に効果があるかどうか分からないけど、霊沙があれなら少しは落ち着いてくれたらいいんだけど・・・

 

 

 そんな訳で、風呂から上がった後は酒を飲み直す暇もなく、布団に入って早苗の頭を撫でてあげた。案の定、彼女はご満悦だったみたいで嬉しそうにしてくれた。それは何よりなんだけど、霊沙といい早苗といい、なんで私に撫でられると気持ち良さそうにするのかしら?別に他の人でも変わらないと思うんだけどなぁ・・・・・

 

 

 その後は、私はそのまま早苗を撫でていた体勢で眠ってしまったみたいだった。

 布団の中でも早苗に抱きつかれていたためか、その夜は冬にも関わらず暑苦しくて変な夢を見せられたんだけど、それはまた別の話。

 

 あれは・・・流石に私でも恥ずかしかったわ・・・

 

 

 

 

 




カルバライヤ編もこれにて終了です。次回は4章までの設定を挟んだ後にネージリンス編突入となります。

今回の宴会でも例のマスィンに活躍していただきました。ねこちや可愛いので仕方ありませんね。あのマスィンに入れられると、一部動物の性質も受け継いでしまうようです。お風呂に入ったにゃんこかわいい。早苗さんは猫化したまま浴槽に入ってしまったのであの反応です。シャワーは大丈夫だったか、湯槽に入るまで気づかなかったようなので、直前までは普通にしてます。一応今回のあれは猫化したために起こったものなので、普段はああはなりません。

ちなみに霊夢ちゃんが見た夢の内容ですが、後日東方短編集にぶち込んでおきます。気になる方は本話投稿の3日後ぐらいにご覧下さい。(R-15注意!)

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