夢幻航路   作:旭日提督

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第四三話 ギルド

 ~ネージリンス・ジャンクション宙域、惑星ヘルメス~

 

 

 ネージリンス宙域に来てからはリリエ、ポフューラと惑星を回ってきたが、どこの星でもめぼしい情報を得ることはできなかった。ポフューラには保安局の捜査本部が置かれるという話だったが、肝心の保安局の姿は見当たらなかった。どうも、まだ到着していなかったらしい。此方の動きが早すぎたようだ。

 なので、保安局が捜査本部を置くまで時間がありそうだと判断した私はこうして他の惑星を見て回ることにした。

 

 現在停泊しているヘルメスという星には造船工厰があったので、戦力補充の一環として巡洋艦1隻を建造することにした。リリエでブクレシュティ―――アリスと相談した通り、建造するのはルヴェンゾリ級巡洋艦だ。艦名は〈モンブラン〉と命名されたらしい。次の相手は海賊ではなく国ときたので、この程度の戦力増強ではまだ不安だ。ついでに〈サチワヌ〉を工作艦のドックに入れてルヴェンゾリ級に改修している。新造艦での戦力強化では足りなさそうだから既存艦からも改修して艦隊の強化を図るという訳だ。

 

「霊夢、艦隊編成のことだが、これで良いか?」

 

「うん?・・・ああ、こんなところね。良いんじゃない?」

 

 艦隊は既に宇宙港に入港しているんだけど、今回はいつもの補給作業を済ませた後は惑星には降りず、艦橋に留まっている。その理由は、こうしてコーディと今後の艦隊編成について議論していたからだ。

 

 艦隊編成の方は一度見直して、今までの第一~第三分艦隊を解散して一から編成し直している。わざわざ編成し直す理由なんだけど、今後のゼーペンスト戦に備えた戦力の再配置が主な目的だったりする。それで、決まった現状の艦隊編成は以下の通りだ。

 

 

 主力艦隊

 

 戦艦:

 アンドロメダ級/〈開陽〉

 重巡洋艦:

 クレイモア級/〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉

 駆逐艦:

 ノヴィーク級/〈霧雨〉〈叢雲〉

 

 

 第一機動艦隊

 

 空母:

 改ブラビレイ級/〈ラングレー〉

 巡洋艦:

 改ヴェネター級/〈高天原〉

 改サウザーン級/〈エムデン〉〈ブリュッヒャー〉

 駆逐艦:

 ノヴィーク級/〈ノヴィーク〉〈タシュケント〉〈ズールー〉〈タルワー〉

 

 

 第二巡航艦隊

 

 巡洋戦艦:

 オリオン級/〈オリオン〉〈レナウン〉

 巡洋艦:

 サチワヌ級/〈ユイリン〉〈ナッシュビル〉

 ルヴェンゾリ級/〈サチワヌ〉〈モンブラン〉

 駆逐艦:

 グネフヌイ級/〈ソヴレメンヌイ〉〈ヴェールヌイ〉〈コーバック〉〈コヴェントリー〉〈アナイティス〉

 

 

 第三打撃艦隊

 

 巡洋艦:

 改マハムント級/〈ブクレシュティ〉

 駆逐艦:

 ヘイロー級/〈ヘイロー〉〈春風〉〈雪風〉

 改アーメスタ級/〈ブレイジングスター〉

 改アリアストア級〈有明〉〈夕暮〉

 

 

 支援艦隊

 

 工作艦:

 改アクラメーター級〈サクラメント〉

 プロメテウス級/〈プロメテウス〉

 ムスペルヘイム級/〈ムスペルヘイム〉

 給兵艦:

 ボイエン級/〈蓬莱丸〉

 輸送艦:

 バクゥ級/〈亜里山丸〉

 巡洋艦:

 サチワヌ級/〈青葉〉

 駆逐艦:

 ノヴィーク級/〈早梅〉〈秋霜〉〈夕月〉

 

 

 編成上で大きな変化は、以前の分艦隊は戦力が均等になるよう配置されていたのだが、それを空母機動部隊と巡航打撃部隊に再編したことだろう。以前は巡航時に海賊と交戦することを念頭に置いた編成だったが、今度のそれは艦隊決戦を想定したものだ。

 

 以前の本隊は主力艦隊に再編し、空母を追い出して砲撃戦主体の戦艦と重巡洋艦、それに護衛の駆逐艦2隻で編成している。これは艦隊決戦時の主力打撃部隊として敵艦隊との砲撃戦を想定した艦隊だ。

 第一機動艦隊には本隊を追い出された空母〈ラングレー〉と航空巡洋艦〈高天原〉を加え、護衛はサウザーン級と防空駆逐艦で固めている。敵への攻撃は基本艦載機が主体で直接敵と砲火を交えることは想定していないので護衛の巡洋艦は能力で劣るサウザーン級が配備されている。

 

 第二巡航艦隊は巡洋戦艦2隻を中核とする巡航打撃艦隊で、その速力と機動力で敵艦隊に対して優位に戦うことを想定した編成だ。この艦隊に配置された艦は全て艦載機を搭載できるので、従来の分艦隊のような前衛艦隊としても運用できるよう想定している。

 

 〈ブクレシュティ〉を中核とする第三打撃艦隊も同じように速力と機動力を重視した艦隊だが、此方はより決戦時を意識した艦隊だ。駆逐艦は何れもスカーバレル艦より攻撃力に優れた艦種で構成し、水雷戦隊といった様相を呈している。運用法も正に水雷戦隊といった形で、駆逐艦群の突撃と近距離雷撃戦により敵前衛艦隊を消耗させることを目的としている。その運用法から此方も消耗は免れないだろうが、その為にわざわざ〈ブクレシュティ〉を旗艦に配置している。彼女の能力なら艦船の機動力を限界一杯まで引き出すことができるので、他の艦を旗艦にするよりは消耗を抑えられるだろう。

 

 最後に支援艦隊だが、これは以前とはあまり代わり映えしない陣容で、工作艦や補給艦を集めた補助部隊だ。以前との違いはせいぜい護衛艦が減ったくらいだろう。今まで工作艦への襲撃を恐れて高性能なヘイロー級を護衛につけていたが、それを水雷戦隊に引き抜いたので代わりにノヴィーク級を護衛につけている。

 

 決戦時はこのような形で艦隊を纏めることにしたが、一部の能力だけに長けた部隊を普段でもそのまま運用すると支障が出てしまいそうなので通常巡航時には第二巡航艦隊を解いて警戒部隊として運用することにした。2、3隻にばらけてしまえば広い警戒網を構築できるし、海賊から見ても美味しそうな"餌"に見えてくれることだろう。そこに寄ってきた海賊をパクリと頂いてしまおうという魂胆だ。

 

「しかし、こうして見ると随分思いきった変更だな。まるで軍隊みたいな編成だ」

 

「あら霊沙、居たのね」

 

 出来上がった編成表を、霊沙は横から顔を覗かせて窺う。議論を始めたときは艦橋に居なかった筈だけど、いつのまにか潜り込んできたみたい。

 

「次の相手は自治領だからな。今までの海賊とは訳が違う。こっちも本気で叩き潰さなきゃならんって訳だ。まあ、元軍人の俺がアドバイスしたってのもあるがな」

 

「へぇ~、しっかしまぁ、よくここまで増えたもんだ。サナダ様々だな」

 

「お陰でこっちは維持費のやりくりで頭が痛いってのに・・・まぁ、海賊相手に余裕でいられるのも、忌々しいけどあのマッド共のお陰なのよねぇ・・・」

 

 編成表を見ても、合計でざっと30隻以上の艦船がうちの艦隊には在籍している。数自体では今まで戦ってきた海賊に比べればずっと少ないんだけど、海賊とは違って一纏まりで運用している上に維持管理も彼等のように杜撰ではないので(鹵獲して分かったんだけど、海賊船の整備ってけっこういい加減らしい。外見は同じなんだけど、中身はボロボロかオンボロかゴミ屋敷しかなかった。最低限度を除いてろくな整備もやってないらしい。そのいい加減さが大所帯の海賊らしいっちゃそれでお仕舞いだけどね。ただ宇宙に出る上で整備もいい加減なのは少し考えにくいから、単純に腕と設備が悪いだけかもしれないけど)、その辺りの関係書類がけっこう多いのよ。これでもし全艦に人員が配置されていたらその分人件費が上から降ってくるわけだから、考えただけでもぞっとする書類の量になるのだろう。無人艦ばんじゃーい!

 

 はぁっ―――、なんだか思考がおかしくなったみたいね・・・

 

「とまあ、編成はこんな感じで良いでしょう。慣熟訓練は出港してからでいいわね。それじゃコーディ、後は任せたわ」

 

「イエッサー」

 

 編成作業も終わったことだし、恒例の0G酒場にでも繰り出すとしよう。この星では、使えそうな情報が手に入ればいいんだけど・・・

 

 

 

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 .......................

 

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 ............

 

 

 

「えっと・・・ギルド、ってのはこの辺りかしら」

 

「はい、地図上ではこの周辺にあるみたいですよ」

 

 早苗を引き連れて地上の0G酒場に繰り出した私だが、今はギルドという施設を目指している。酒場ではゼーペンストに関する情報は噂話程度しか手に入らなかったのだが、そこのマスターの話だとこの辺りにギルドなるものがあるということだ。ギルドとはどうやら0Gドッグの組合のようなもので、腕に覚えがある人達が仕事を求めて集まる場所らしい。いわば人材発掘所といったところだ。

 正面戦力なら一介の0Gとしては充分すぎるほどある私達だけど、相変わらず人材は火の車なので、少しでも優秀なクルーを増やしたい私としてはあのマスターの情報は大変有難い。そのため、情報を頼りにこうしてギルドを訪れにきたというわけだ。

 

「あ・・・あの建物みたいですね」

 

 早苗が指した方角には一件のビルが建っている。地図上の住所とも一致するので、あれがギルドで間違いないだろう。

 

「そうみたいね。じゃあ行きましょう」

 

「はい、善は急げですよ!」

 

 すると、早苗は私の腕を掴んでぐいぐい引っ張っていく。いつも早苗の行動力には引っ張られてばかりいるから、なんだか疲れるわ・・・

 

「はいはい、そんなに急がなくてもギルドは逃げないわよ・・・」

 

 私は早苗に引っ張られたまま、ギルドの施設内に入る。

 建物に入ったところで辺りを一瞥してみると、柄の悪そうな連中から大物っぽい風体の奴までいろんな人材がいるようだ。事前に集めた情報では、こういう所で人材を雇うには雇用契約だけでなく前払いでお金を払う必要があるらしい。もしぼったくり詐欺師なんかに引っ掛かったら目も当てられないわね。まぁ、そのときは詐欺師が死ぬだけなんだけどね。

 あと、基本ギルドに集まる連中は腕に自信がある連中ばかりという話なので、ある程度の名声がないと門前払いされるらしい。最近ランキングの方は見てないけど、散々海賊狩りしてきたんだしその辺りは大丈夫でしょう。

 

 ―――さてと、早速始めますか。

 

「そんじゃ始めるわよ。ここは一応、二人で行きましょう」

 

「了解です♪」

 

 取り敢えずこっちから動かないと始まらないので、適当に見定めた人達と直に交渉して雇用契約に応じるか、応じるなら額はいくらかという感じで話を進めていく。

 私が早苗と一緒に行動するのは、単独だと女一人かと侮られそうな気がしたからだ。ここは自分の腕に自信がある連中が揃うらしいので、それだけ傲慢な連中だっているかもしれない。そういう人達に対してては、見た目が小娘というだけで交渉が不利になる可能性だってある。

 

 それに、早苗もけっこう自分に自信を持ってる娘だから、そういう連中と当たったときに厄介事を起こしてしまいそうで恐いのよ。そのときにお目付け役が居なかったら際限なく暴走してしまいそうだから、こうして私の側に居させている。こうなるんだったら、保安隊のエコーとファイブスでも連れてきた方が良かったかも。

 

「あ、霊夢さん、あそこの方々なんてどうです?」

 

 めぼしい人材に声を掛けながら施設内を回っていると、ふと早苗が人混みの奥の方角を指し示す。

 その先に居たのは、一ヶ所に固まっている3人組の人達だ。

 

「そうね、あっちも女の人みたいだし、外見で侮られるってことは無いんじゃない?」

 

 よく見てみると、その人達も女の人だったみたいだ。先程までは外見のせいで交渉以前に終わることが多かったので、次は多少期待できるかもしれない。

 

「それじゃあ早速声を掛けてみましょう!ほら、こっちですよ霊夢さん!」

 

「分かったから、そんなに急がないで」

 

 私と早苗はその人達の元へ歩み寄って、声を掛けてみる。その人達は私達が近づくと、少し気にしたように目線を向けてきた。

 

「そこの貴女達、ちょっと良いかしら?」

 

「ん、なんだ小娘、我に用か?なら先ずは名乗ってみせよ」

 

 私が3人に話し掛けてみると、その中の一人が応える。

 私に応えたのは、短めの銀髪をポニーテールにした、茶色い制服を着た人だ。声を掛ける前はふつうの女の人みたいだったけど、以外と尊大な態度のようで少し驚いた。その人の眼光も鋭く、威圧的な雰囲気を纏っている。

 

「失礼、私は霊夢、0Gドッグよ。率直に言うけど、私の艦隊に来てくれないかしら?」

 

 私は名乗りを済ませて、銀髪の人にフェノメナ・ログ(0Gドッグ個人に付随する航海記録装置)を渡す。そのログには辿ってきた航路や戦闘記録、所有艦なんかが記載されている。今までの連中はこれを渡す以前に門前払いされる場合が多かったけど、これを見せれば嫌でも悔い改めてくれる筈だ。

 実際に、私のフェノメナ・ログを眺める銀髪の人は感心したような表情を浮かべている。

 

「隊長、どうかされました?」

 

「シュテルか・・・一度これを見てみよ」

 

「ほう、これは・・・」

 

「へぇ~中々凄いみたいだね、この人達」

 

 銀髪の人の背後から、残りの二人がフェノメナ・ログを覗き込む。一ヶ所に固まっていたから想像できていたけど、多分この人の仲間なのだろう。片方は短めの茶髪で、紫っぽい空間服の上にスカートと軽い装甲をつけた服装の人だ。もう片方は水色のツインテールに青い軍服っぽい服を着ている。茶髪の人は落ち着いた雰囲気なんだけど、水色の人はなんだか早苗と同じ匂いがする。

 

「それで、どうかしら?」

 

 私はそう銀髪の人に尋ねる。今の反応だと、手応えありって感じかしら。

 

「ふむ・・・霊夢とか言ったな。見掛けによらず、中々の戦果を挙げているときた・・・良かろう、貴様の傘下に加わってやる。我はディアーチェ・K・クローディア。紫天傭兵団の隊長だ」

 

「参謀役のシュテル・スタークスと申します。以後お見知りおきを」

 

「レヴィ・ラッセル、紫天傭兵団の突撃隊長さ。ヨロシク!」

 

 どうやら3人は雇用に応じてくれるらしく、隊長のディアーチェさんから順に名乗る。それと同時に、あちらのログも手渡された。

 

「取り敢えず、我等の技能を示したデータだ。金額は・・・そうだな、三人纏めて3500Gでどうだ?」

 

「そうねぇ~、まぁ、技能も中々みたいだし、その金額で良いわ。改めまして、艦長の博麗霊夢よ」

 

「早苗です、宜しくお願いしますね!」

 

 ログの内容を確認したところ、彼女達の技能も中々のものらしいので、提示された値段で承諾する。

 契約内容も纏まったところで、改めて相手の3人と握手を交わした。

 彼女達の技能の方だけど、ディアーチェさんは傭兵団の隊長なだけあって指揮能力は高そうだ。茶髪の参謀役、シュテルさんは通信管制と操縦が得意なみたいで、水色の突撃隊長、レヴィさんは突撃隊長と名乗るだけあって白兵戦とパイロットが得意なようだ。

 

「よしっと、配属場所は後々考えるとして、早苗、この人達のクルー登録、やっといてくれる?」

 

「畏まりましたっ、艦隊にデータを転送しておきますね」

 

「ふむ・・・ところで貴様、年は幾つだ?」

 

 早苗が端末を操作している間に、ディアーチェさんが私に尋ねる。今度のそれは、今までとは違ってあまり威圧感を感じられなかった。

 

「さぁ、忘れたわ。ここでは少なくとも見た目以上はあると言っておこうかしら」

 

 ・・・やっぱり、私の外見とその戦果が釣り合わないのが気になっていたみたいだ。0G瀝が浅いのは確かだけど、多分あんたより年上よ、私。

 

「ほぅ。しかし、だとしてもこの戦歴は中々のものだぞ?大抵の0Gは海賊団なんぞ恐れるばかりで近寄らん。小娘の身でここまでの戦果を挙げるとは、中々骨のある奴のようだな、気に入ったぞ!」

 

「それはどうも。これから宜しく頼むわ」

 

 ディアーチェさんの世辞を軽く受け流して、もう一度周りにめぼしい人材が残っていないか

 確認する。が、既にそういった人は残っていないみたいだった。

 

「しかもこの艦長さん、中々かわいいじゃん!僕も気に入った!」

 

 今度は水色のツインテールをした人・・・レヴィさんが何故か私の頭を撫でてくる。

 別に撫でられるのは悪い気はしないけれど、あまりこう、わしゃわしゃしないで欲しいな・・・

 

「ああっ、霊夢さんは私のですよ!」

 

「おっ、やるかい、緑の」

 

 すると今度は早苗まで乱入してきて、私の頭上でバチバチと火花を飛ばす。

 早苗もレヴィさんも、あまり私を挟んで喧嘩しないでくれるかしら?鬱陶しいわ。

 

「・・・ふむ、ところで、そちらの艦載機、少し借りられますか?」

 

「艦載機?まぁ、良いけど。取り敢えず出港したら訓練でもやるつもりだったから、艦に行ったら航空隊の方に声掛けといてくれる?私の方からも言っておくわ」

 

「有難うごさいます。フェノメナ・ログでは艦だけでなく搭載機の方も中々の性能だったようですから気になりまして」

 

 シュテルさんはどうもうちの艦載機に興味があるらしく、彼女は私が艦載機を貸すと承諾したらほっこりと頬を緩ませた。

 

「うちの艦載機はマッド共が手にかけた一級品だからね、期待してなさい」

 

「マッド?」

 

「ああ、いや、こっちの話よ。それじゃ、もうスカウト対象も居ないみたいだから、そろそろ行きましょう」

 

「心得た。おい、レヴィ、もたもたしていると置いていくぞ!」

 

「あっ、隊長、今行く!」

 

「待ってくださーい、霊夢さーん!」

 

 もうこのギルドには用はないので、そろそろ出るとしよう。

 私達が早苗とレヴィさんの二人をよそに歩きはじめると、二人は慌てて追いかけてきた。

 

 人材の方だけど、だいたい10人くらいは雇えたかな。艦隊の規模を考えるとまだ足りないけど、優秀そうなクルーが揃ってきたので満足といえば満足だ。

 

 ディアーチェさん達を艦隊に案内したときは、私が本当に30隻以上の艦隊を率いていると実感して驚いたみたい。ドックの一角を占領するフネ全部が私の艦隊なんて、ふつうは信じないでしょうからね。でも、これで彼女達もフェノメナ・ログにあった記録を実感できたことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ネージリンス・ジャンクション宙域、惑星ティロア周辺軌道~

 

 

 

 ヘルメスを出た後の艦隊は、新しい編成での艦隊機動演習を重ねながら、どきどき見かけるグアッシュ残党を食らいつくして惑星ティロアに向かっている。グアッシュも元々の数が多かったみたいだから、この宙域にある程度の残党が流れてきているらしい。逃げた連中には悪いけど、海賊は残さず私の財布に入ってもらうわ。

 

 そして今は、艦載機隊の慣熟訓練の途中だ。ディアーチェさん達は3人ともパイロットの技能があるみたいなので、航空隊に配属することにした。それに加えて、にとり達整備班が開発した試作機動兵器の量産試作機のテストもやっている。

 

《ヒャッホーゥ、こいつ凄いぞ!加速も機動力も今までの機体とは段違いだ!》

 

《こらレヴィ、あまり暴れるな!推進材の残量に気を配れ!》

 

《隊長、今のレヴィには何を言っても無駄ですよ》

 

 艦隊の前方では、先日雇ったディアーチェさん達が飛行訓練をしている。機体はディアーチェさんが指揮通信能力を重視したRF/A-171の有人仕様、シュテルさんはYF-21の制式量産型〈VF-22 シュトゥルムフォーゲル〉、レヴィさんにはYF-19の制式量産型〈VF-19A エクスカリバー〉だ。量産機のデータを取るのも目的らしい。

 

 レヴィさんのVF-19は宙返りやロールを繰り返しながら派手に飛んでいる。その様子から、本当に機体の性能に魅入られているみたいだ。ちなみに機体の塗装は髪の色と同じ水色を基調としたもので、それに白が加わっている。

 一方のシュテルさんは訓練メニュー通りの飛び方で、彼女の真面目な性格が伺える。最初に会ったときもそんなイメージがあったけど、どうもその通りの性格だったらしい。こちらのVF-22は紫と赤を基調とした塗装だ。

 

「ふむ、機動性は試作機とあまり変わりないか。一部はコストダウンの為に一般流通品の部品を使用したのだが、これなら充分だな。ところでシュテル、操縦系統の方はどうだ?」

 

《はい、特に問題はありません》

 

 サナダさんはその飛行映像を解析しながら、何やらメモを取っているようだ。VF-22はコストダウンの為に脳波コントロールシステムを撤去したという話だが、シュテルさんの報告では操縦に問題はないらしい。サナダさんは機体の様子の方にも目を遣りながら、真剣にデータを観察している。

 

「サナダの可変機には負けてられないね。チョッパー、試作機の様子はどうだ?」

 

「飛行試験の方は問題なしです。ああ、格納庫内での重力下試験の方も順調のようです」

 

「それは何よりだ。ガーゴイル1、2、機体の調子はどうだい?」

 

 同じく試験飛行の様子を見に艦橋にきていた整備班のにとりとチョッパーも、彼等が開発した機体の様子を観察している。こちらの機体は〈RGM-79A ジム〉という名前らしく、人型の機体各所にスラスターを装備した機動兵器で、白い機体の胸部を赤く塗装している。以前から試験を重ねていた〈RRF-06 ザニー〉のデータを元に開発した戦闘用の機体らしい。人型ということでスピードや機動力は戦闘機より劣っているイメージだけど、宇宙空間では摩擦がないのでそこはあまり関係ない。実際、ジムのスピードは宇宙戦闘機とあまり変わらないものだ。

 

 ちなみにジムの試験をしているガーゴイル1と2の二人だけど、彼等はエルメッツァのスカーバレル戦から活躍してきて人達だ。ガーゴイル1が確かマーク・ギルダーっていう男の人で、元々軍のパイロットだったらしい。ガーゴイル2はエリス・クロードという女の人だ。元々バーガーさんの3番機だったみたいだけど、機動兵器の訓練のために引き抜かれたらしい。

 

《こちらガーゴイル1、制御系統は大丈夫だ。兵装テストに移る》

 

 艦隊の側面を飛行しているジムの1機はマシンガンを構え、標的機に向かって射撃を始める。レーザー光のマシンガンの弾はあっという間に標的機を捉え、それを爆散させた。

 

《よし、一機破壊っと。ガンマウントもテストするか?》

 

「ああ、宜しく頼むよ」

 

 にとりがテスト続行の許可を出すと、ジムは背後のバックパックに装備したアーム―――可動兵装担架システムを起動させ、腰の脇から銃口を標的機に向け、両手に持ったものと合わせて4門のマシンガンが標的に向けられた。そこから撃ち出される火線は濃密で、そこに囚われた2機の標的機はあえなく蜂の巣となった。

 

「ふむ、可動兵装担架システムも異常なし、っと。宇宙空間での使用も問題ないみたいだね」

 

「ガーゴイル2、重力下試験の方はどうだ?」

 

《こちらガーゴイル2・・・はい、歩行訓練の方は問題なしです。振動吸収機構もちゃんと働いてくれているみたいで》

 

「了解した。そのまま試験を続行してくれ」

 

《分かりました》

 

 一方の格納庫では、もう1機のジムが重力下での運用を想定した訓練をしているようで、その様子も艦橋のモニターに映される。

 格納庫のジムは歩行で前進と後退を繰り返し、射撃ポーズやしゃがみ等の体勢に移行する。

 

「重力下での重心配置と振動吸収機構も異常なし、と。班長、こちらも順調に訓練メニューを消化しています」

 

「ふむ、機体性能の方も計算通りの内容だ。これなら実戦運用でもやっていけるだろうね。」

 

 テスト内容を受けて、にとりが満足げに頷く。

 

「試験の方は順調みたいね、にとり」

 

「ああ、我ながら満足のいく出来だよ。次の戦いでは期待していいぞ!」

 

 にとりは無駄に大きな胸を張って私に応える。やはり自分が手掛けたメカには自信があるようで、彼女の表情も自信に満ちたものだ。

 普段の私だったら湯水の如く開発費を使われちゃあ黙っていないけれど、今の艦隊はゼーペンストとの戦いを控えている。使える戦力は多いに越したことはない。

 

「それで、配備の方はどうなるんだい?」

 

「そうねぇ~、まだ決まったわけではないけど、〈開陽〉に8機、〈オリオン〉と〈レナウン〉に24機ずつかしら。高さがあるから、空母じゃ使えないからね」

 

 この〈ジム〉についてだが、今のところオリオン級巡洋戦艦2隻に配置する予定でいる。オリオン級もにとりの設計なので、予めこの種の機動兵器を搭載できるよう設計されていたからだ。

 そしてサナダの可変戦闘機の方だが、こちらは〈開陽〉を中心に配備する予定だ。〈開陽〉の戦闘機のうちSu-37CをVF-19、F/A-17SをVF-22で更新した後は空母の戦闘機にも配備することになるだろう。

 

 さて、目をディアーチェさん達に戻してみると、今度は戦闘訓練をやっているみたいだ。ディアーチェさんの機体は索敵や通信に特化したRF/A-17だ。背面に搭載されたレドームで敵の位置を捕捉し、適切な目標をシュテルさんとレヴィさんに振り分ける。無人状態だとただの偵察機としか使ってなかった機体だけど、人の手ならばこんな使い方もできるのかと感心する。

 ディアーチェさんの指揮の下で、シュテルさんとレヴィさんは与えられた目標―――標的機に向かってミサイルとレーザー機銃を撃ち放ち、これを撃破していく。

 

《隊長っ、全部片付けたよ!》

 

《此方も終了しました》

 

 二人の空戦機動は、素人目に見てもバーガーやタリズマンに比べても遜色ないものだ。よくこんな短時間で、慣れない機体を自在に動かせるものね。

 

「ヴァルキュリア1、間もなく予定時刻です。帰艦準備に取りかかって下さい」

 

《了解した。よし、シュテル、レヴィ。訓練終了だ。帰艦するぞ》

 

《えーっ、まだ暴れたりないぞ!》

 

《了解です。レヴィ、行きますよ》

 

《ああっ、置いてくなって~》

 

 レヴィさんの機体は、人型に変形した状態で器用に駄々をこねたような格好をさせる。それを無視してディアーチェさんとシュテルさんが帰途につくと、慌てて機体を変形させて二人に続いた。

 

「ガーゴイル1も、一度帰投して下さい」

 

《了解だ。これより帰艦する》

 

 ディアーチェさん達が〈開陽〉に帰艦すると、テストをしていたジムも同じく帰艦する。機体を回収した〈開陽〉は、そのまま惑星ティロアを目指す航路を進む。

 

「いやぁ、ロボット兵器、格好いいですよね!霊夢さん」

 

「うーん、私はあまりそういうこと考えないから、いまいち分からないわ。早苗はああいうのが好きなの?」

 

「はい、勿論です!――――ふふふ、まさかジムをこの眼で見られるなんて、にとりさんに入れ知恵した甲斐があったというものです!」

 

「あの・・・早苗?」

 

 早苗は続けて一人でなんか喋っているけど、私の位置からだとよく聞こえない。でもなんだか満足そうにしてるんだし、まぁいいか。

 

「はっ・・・霊夢さん!どうかされましたか!?」

 

「いや・・・別に何でもないわ。それより、入港準備の方、よろしく」

 

「りょ、了解ですっ」

 

 もう少しで惑星に入港することだし、そろそろ準備の方も進めてもらおう。

 

 その後は、艦隊は何事もなくティロアに入港した。艦載機の生産用に資源を注文していたから、ごっそりお金を持っていかれたわ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、ジムときたら次はガンダム!さて、何を造って貰おうかな~♪ノーマルもいいけど、やっぱりまずはアレですね!」

 

 〈開陽〉の通路内で、早苗は上機嫌な様子で一人言ちる。

 

 その手に握られたデータプレートには、「サイサリス開発計画」と記されていた・・・

 

 

 

 




今回登場させたギルドの3人組は、魔法少女リリカルなのはportableに登場したマテリアル3人組です。ちなみにロリではありません。主人公組のstrikes相当の姿です。マークとエリスの二人はGジェネシリーズから出演いただきました。

艦載機に関してですが、レヴィのエクスカリバーはVF-Xレイヴンズの塗装です。
ジムは、只のジムではなくジム改の姿です。バックパックにはマブラヴの戦術機のようなアームがあるので、そこに兵装を携行しておくことができます。隊長機の頭部はジムコマンドと同型。マークのジムがコマンド仕様、エリスのはジム改のままです。

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