夢幻航路   作:旭日提督

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第四八話 旗を掲げて

 ~ネージリンス・ジャンクション宙域、惑星ポフューラ~

 

 

 いま私達の艦隊は、ティロアを出港してこの惑星ポフューラにいる。バリオさんに言われた通り、ここに設置された対策本部を訪れるためだ。

 

「艦長、間もなくポフューラに入港します」

 

「了解。あっちに着いたら私はそのまま地上に行くから、留守は頼んだわよコーディ」

 

「イエッサー」

 

 艦橋の窓を挟んで向こう側には、蒼い惑星が浮かんでいるのが見える。二度目の寄港となる惑星ポフューラだ。

 私は留守を予めコーディに預けて、今回の建造計画に目を通した。どうも私の勘が自治領攻めは避けられないと告げているし、もう少し軍備を拡張しようという心算だ。コストの面も考えて、建造するのはルヴェンゾリ級軽巡2隻に留めてある。

 

「いや、おまえも元の調子が戻ってきたようで何よりだ。カリカリされたままじゃやってられないからな。」

 

 すると、今度は霊沙の奴が絡んできた。あいつが言ってるのは、こないだのティロアでのことだろう。あのときは何だかんだ理由をつけて早苗に甘えてしまったけど、それは本来なら避けるべきことだった。お陰で今も、早苗の温もりが頭から離れてくれない・・・

 

 ―――あんなの、まるで麻薬みたいじゃない・・・

 

 早苗の温もりを思い出す度に、再びあれを求めてしまう私がいる。麻薬は一度でもやってしまうと抜けられないというが、これも似たようなものだろうか。

 

 ―――やっぱりあれ、不味かったかな・・・

 

 私がそんなことを考えて黙っているのが気になったのか、霊沙がまた言葉を浴びせてきた。

 

「・・・なんだ?私に心配されるのは意外か?」

 

 霊沙のやつは意地の悪い笑みを浮かべて、煽るような仕草をしてみせる。

 言われたままというのも癪なので、とりあえず私はあいつに向かって言葉を飛ばした。

 

「・・・余計なお世話よ。あんなの暫くすりゃ元に戻るわ。あんたこそ、こんな場所で油売ってんじゃないわよ」

 

「はぁ?・・・私が折角心配してやったってのに、食えない奴だな」

 

「―――私はあんたに心配されるような魂じゃないわ」

 

「ケッ、そうかよ―――いや、おまえはやっぱこうじゃなくちゃな。」

 

 まさか霊沙にまで心配させるなんて、やっぱりあのときの私は大層酷いものだったようだ。・・・一応私は艦隊の責任者なんだし、今後は気を付けないとね。

 

「ああ、そういえば霊夢さん、確かゼーペンストって、エピタフ遺跡があるんでしたっけ?」

 

 すると、今度は早苗から話を振られてくる。

 ティロアで解析結果を聞きに行ったサナダさんの話だと、なんでも今ゼーペンスト宙域でエピタフの存在を示すなんとか粒子の反応が増大しているという。・・・上手くいけば、依頼のついでにそっちも回収できるかもしれないわね。

 

「確かそんなことを言ってたな。・・・えっと、なんとかヒッグス粒子だっけ?反応があったとかいうやつは」

 

「はい、ドローンヒッグス粒子ですね。エピタフ遺跡とデッドゲートの両方から検出されるので、これがエピタフとデッドゲートの間に何らかの関連性がある証拠だ、みたいな話をされていたと記憶していますが―――」

 

「・・・お前、よく覚えてるな・・・?」

 

「えへへ・・・私、こう見えても記憶力には自信があるんです。なんでも今の私はAIですからね!」

 

 霊沙ほどではないけど、私も早苗の記憶力には少し驚かされた。あの娘はあのとき私と一緒に居たから話は後でサナダさんから聞いただけだと思うんだけど、よくあそこまで覚えられるものだ。私はもう9割ぐらい忘れてしまったというのに。

 

 というか霊沙、あんた確か直接聞いたんじゃなかったの?アルピナさんの解析結果。直接聞いてきたのなら少しは覚えておきなさいよ。

 

「あっ、それで話の続きですが、その粒子の反応が最近ゼーペンスト自治領の宙域で頻繁に検出されてるらしいですね。サナダさんは、それがあの宙域にエピタフがあるかもしれない証拠だとか言ってましたけど・・・ククッ、どうします?霊夢さん。"ちょっと拝借して"いきますか?」

 

 説明を続けていた早苗が、にやっと悪そうな笑みを浮かべた。その意味を察した私は、思わずつられてにやけてしまう。

 

「そうねぇ・・・ゼーペンストには依頼を長引かせられた恨みがあるんだし、もしエピタフがあるとしたら"死ぬまで借りて"も文句を言われる筋合いはないわね」

 

 早苗の台詞に、親友の言葉を借りて返す。というかここまで長引かせられたんだから、それぐらいの補償はあって然るべきだろう。それに加えてマッド共の知的好奇心を満たさせるという意味でも、エピタフがあるなら手に入れた方が良さそうだ。

 

「ハハッ、決まりだなこりゃ。面白くなりそうだ」

 

「ゼーペンストの領主は怠惰に溺れてるとの噂です。そんな奴に持たせて腐らせるぐらいなら、私達で有効活用してやりましょう」

 

「そうね。財は然るべき者が手にするべきだわ」

 

「おい、そりゃ自分がその相応しい者だと言ってるように聞こえるぜ?」

 

「ええ、そう言ってるのが聞こえなくて?」

 

「クッ・・・こいつは一本取られたな」

 

「ふふっ、それでこそ霊夢さんです。ところでゼーペンストの領主は享楽三昧に溺れてるらしいですが、ここは一つ、霊夢さんも見習って、私に溺れてみませんか?」

 

「ちょっ・・・い、いきなりね、早苗―――。わ、悪いけど、それはできないわ・・・」

 

 なんの脈絡もなく、唐突に早苗がそんなことを切り出した。一変して蠱惑的な表情で迫る早苗に少しどきりとさせられるけど、やっぱりそういうのは駄目だと思う。

 

「ちぇ~っ、少しは上手くいくと思ったのに」

 

「あっ、ずるいぞお前!・・・ってさ、こいつが女に溺れるなんて、それこそ性質の悪い冗談だろ」

 

「あら、霊夢さんに私の魅力が分からないとでも?くすっ、大丈夫ですよ霊沙さん。貴女と違って私は包容力がありますからね!」

 

「ぐぬぬ・・・謀ったな」

 

 早苗は自慢げな表情で、見せつけるように胸を張ってみせる。霊沙はなんだか悔しそうな顔してるけど、なんか話が脱線してない?

 

「ちょっと二人とも止めなさいよ。それはともかく、エピタフは頂く方針で問題ないわね?」

 

「おう、それで行こう。なぁに、相手にとっちゃ因果応報だ。奪われたって仕方ないさ」

 

「ですね。堕落領主にお灸を据えるといきましょう」

 

 私が方針を確認すると、早苗と霊沙もにやりと嗤ってそれに同調した。

 私を含めた三人で、まるで悪代官みたいに話し合う。正直依頼の報酬だけじゃ物足りないかもしれないし、自力救済的な意味でもお宝は頂くに越したことはない。

 その話し合いは、"お主も悪よのう?"なんて決まり文句を言ったところで、唐突な乱入者に打ち切られた。

 

「おい、そこの姦しいお嬢さん達、もうすぐ到着だ。準備の方も頼んだぞ」

 

「おう、もうそんな時間か。そんじゃ私は戻るとするか。じゃあな」

 

「あ、はい。お疲れ様でした」

 

 コーディの一言で意識を戻した私達の、その場でお開きにして解散する。寄港と聞いた霊沙のやつは、さっさと艦橋を後にした。

 

「では霊夢さん、入港したら地上に向かいましょう。バリオさん達が待ってますからね」

 

「そうね。ああ、彼等が話し合いに成功してりゃさっきの話は無しなんだっけ・・・」

 

「あっ、そうでしたね・・・まぁ、そのときはそのときです」

 

 バリオさんで思い出したけど、もし奪還対象が保安局の交渉で帰ってくるならゼーペンスト侵攻の話は無しになるのだ。それはそれで少し残念な気もするけど、面倒が減ったと思えばそれも良いかな。

 

 

 暫くして、艦隊はポフューラの宇宙港に入港する。

 私はコーディに艦の留守を預けると、真っ先に保安局の対策本部へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~惑星ポフューラ地上、セグェン・グラスチホテル~

 

 

 

 地上に降りた私と早苗は、連絡にあった保安局の対策本部に向かっている。バリオさんから送られてきたデータでは、セグェン・グラスチ社のホテルにその本部が置かれているらしい。地図でその場所を確認してから、そのホテルへと足を運ぶ。

 というかさ、セグェン・グラスチホテルって、安直な名前よね。普通もっと捻った名前にするでしょ、こういうのって。

 

「あっ、見えてきましたよ。あの建物みたいです」

 

「へぇ・・・結構立派なのね。さすが大企業が出資してるだけのことはあるわね」

 

 早苗が指した方角に、ガラス張りのドームに覆われた流線型の建物が見えてくる。案内にあったホテルの外観を撮った写真と同じ建物みたいだし、あれが件のホテルだろう。

 

「いやぁ~、綺麗なホテルですねぇ。霊夢さんとあんなところに泊まれたら・・・」

 

「はいはい、それはいいから早く行きましょう。バリオさん達も待たせてるし」

 

「了解ですっ」

 

 ホテルを見つけた私達は、真っ直ぐにそこに向かう。

 すると、ホテルのロビーから、誰かが言い争うような声が聞こえてきた。

 

 ―――そんな!?それで良いんですか?

 

 ―――言った通り、保安局としちゃもう何もできない。おまえらも、この件には関わらん方がいい。もう、話すことは何もないさ。じゃあな。

 

「あれ・・・もしかして、バリオさんとユーリ君の声じゃないですか?」

 

「・・・そうみたいね。何かあったのかしら」

 

 その声の主は、知り合いであるバリオさんとユーリ君のものだった。言い争いが終わったのか言葉が止み、ユーリ君達がホテルから出てきたところで私達とすれ違う。

 

「あっ・・・霊夢さん―――」

 

 私達に気づいたユーリ君が声を掛けるが、その顔はどこか曇ったような表情だ。一緒に出てきたトーロ君やチェルシーさんなんかも同じような顔をしている。

 

「また会うなんて奇遇ね、ユーリ君。ところで、さっき言い争ってたみたいだけど、何かあったの?」

 

「ああ、そのことなんだが、シー「トーロ!、余計なことは言うな」

 

 私の質問に答えようとしたのかトーロ君が口を開いたが、それをユーリ君が制する。彼があんなことするなんて、口止めされたか、あまり知られたくない事情なのだろうか。

 

「おっと、そうだったな・・・済まねぇが詳しくは言えねぇ。それじゃあな、霊夢さん達」

 

「あの、お騒がせしました。失礼します」

 

「ってな訳で詳しくは言えないから、今回はこれで勘弁してくれ。そんじゃ行くよユーリ。また縁があれば、どこかで会うかもしれないね」

 

「はい、では僕達は行きますので・・・」

 

「そう、なら無闇に詮索はしないわ。またどこかで会いましょう」

 

「ええ・・・」

 

 ユーリ君達は軽く会釈をしてから、ホテルから離れていく。

 

「・・・結局、なんだったんでしょう?」

 

「さあ?―――まぁ、大体の察しはついたけどね。言い争ってたのはバリオさんみたいだし、彼に話を聞くのが早いでしょ。行くわよ」

 

「はいっ」

 

 ユーリ君達の背中を見送って、私達もホテルに入る。既にバリオさんの姿はなかったけど、ロビーを見回してみると見知った顔があるのに気づいた。

 

「あれは―――」

 

「あっ、霊夢さん・・・!」

 

 同時にあちらも気づいたようで、私を見つけると小走りでやってくる。

 

「・・・どうも。何かあったみたいだけど、詳しく聞かせてくれるかしら?メイリンさん?」

 

 ロビーに居たのは、スカーレット社のメイリンさんとサクヤさんの二人だ。いわば今回の依頼での雇用主なので、バリオさんと一緒にいても不思議ではない。

 

「ええ、元からそのつもりです。あっ、一度バリオさんを呼び戻した方がいいですね。サクヤさん、頼めますか?」

 

「分かったわ。場所も私達が借りてる部屋に移す?」

 

「そうしましょう。ホテルのロビーでするような話ではないですからね。という訳で、詳しくは場所を移して話しますから私についてきてくれますか?」

 

「了解。まぁ・・・何となく面倒な方向に転がってるのは察しがついてるわ」

 

「ええ、残念ですがね―――それではお二方はこちらに」

 

 

 メイリンさんに案内されて、私達はホテルの一室に入る。部屋の中には、先にロビーを後にしたサクヤさんと、保安局のバリオ宙尉が待っていた。

 

「・・・ここが例の対策本部ってやつ?」

 

「ああ、そうだな―――もっとも、ここの役割は終わったも同然だが」

 

 バリオさんは、以前のような軽い雰囲気は鳴りを潜め、深刻な表情をして俯いている。それだけで、事態が好ましくない方向に動いたことは容易に想像できる。

 

「あの―――バリオさん、一体何があったんです?」

 

「―――宙佐が、殺されたんだ」

 

「えっ・・・それは・・・」

 

「言った通りさ。許可を得て宙佐はゼーペンストへ交渉に向かったんだが、あろうことかあの領主は裏切りやがった・・・!何が許可など知らないだ、この畜生!―――、っ、済まねぇ、ちょっと感情的になっちまったな」

 

 バリオさんは怒りに任せて机をダン、と握り拳を降り下ろして叩く。それだけ悔しい思いをしたのだと、聞いてるこちらにも伝わってくる。

 

「いえ、そんなことは・・・」

 

 聞いていた早苗もそれが伝わってしまったのか、気遣うような態度を取った。でも当事者でない私達にはその感情を共感しきることなど到底できないわけで、早苗も言葉を詰まらせて黙ってしまう。

 

「バリオさん、申し訳ないけどそれ、詳しく聞かせてくれないかしら」

 

「ああ―――君達は彼女達の関係者だからね、詳細を聞く権利はあるだろう。ただ、この件は内密に頼むぞ」

 

「元よりそのつもりよ」

 

 黙秘を条件に、バリオさんは事の全貌を話してくれた。この話は先ほどユーリ君達にもしたということだから、言い争いの原因はこれでしょうね。あのときユーリ君がトーロ君を制したのも、宙尉から口止めされてたからか。まぁ、あっちは私達の事情なんて知らないだろうし、普通そうするわよね。

 

 バリオさんの話を要約すると、グアッシュ海賊団に拐われたのはスカーレット社の令嬢だけではなかったらしい。実はこのホテルのオーナーであるセグェン・ランバース社の令嬢までが被害に遭ってグアッシュに誘拐されていたらしく、それで一時的にカルバライヤとネージリンスは協力関係を結んだというのだ。

 

 確かにいがみ合ってるこの二国だけど、互いの有力企業が海賊被害に遭ったというなら話は別らしい。要は敵の敵は味方という訳だ。国にとって有力企業というものは、経済においても政治においても重要なアクターだ。そこからの圧力とか考えたら、互いに手を取り合って共通の敵をボコればいい・・・というのが普通の考えなのだが、相手は自治領、国の機関が強権的に踏み込めばむしろ非難されるのは二国の方だ。自治領というのは、それだけ独立性の高い存在なのだ。だから協力とはいっても、このように捜査協力しかできない。

 

 加えて殺されたというシーバット宙佐は最後に音声記録を残していたらしく、バリオさんもそれで宙佐の死を知ったという。その記録も聞かせてもらったのだけど、胸糞悪さしか浮かばないほど酷いものだった。

 

 ―――大体何なのよ、あの舐めた領主・・・!

 

 宙佐を殺したというゼーペンストの領主は、記録音声から分かる範囲では終始ふざけた態度で「アハァ~」とか言いながら、何の躊躇いもなく宙佐を殺した。宙佐を殺されたという事実より、そっちの方が私にはよっぽど頭にくる。

 

 記録音声と資料で見た領主の顔が重なると、堪らないほど殺意が沸き上がってくる。あんな命を弄ぶような輩を、今すぐ八つ裂きにしてやりたいと。

 

 だけど、それはこの場で出していい感情ではない。私はそれを堪えて、バリオ宙尉の話に意識を向けた。

 

 

 

「―――これが、事の全貌さ」

 

「酷い・・・何なんですか、そのバハシュールとかいうクソ領主!それだけされて、保安局は何もしないんですか!?」

 

 話を聞いて怒りが頂点に達したのか、早苗がバリオさんに詰め寄る。

 

「・・・貴女、さっきの話聞いていたでしょ?保安局は何もしないんじゃない、何もできないのよ。彼だって、それは悔しい筈よ」

 

「それは・・・けど、泣き寝入りなんて、あまりに酷いじゃないですか!」

 

 そんな早苗をサクヤさんが制するが、尚も早苗は納得いかない様子だ。あの娘はけっこう直情的なところがあるから、不条理ってのをよほど許せないんだろう。だから他人事の筈なのに、あんなに怒ることができる・・・私とは、まるで逆ね。

 

「・・・君の心遣いは有り難いが、こればかりはどうしようもないんだ。所詮俺は公僕さ。俺一人の独断で、戦争おっ始めるなんてのは出来ないんだよ・・・」

 

 バリオさんもそんな早苗を落ち着かせようと声を掛けたが、その手は硬く握られていて、見ているこっちも彼がよほど悔しい思いをしてるんだってことは分かってしまう。尊敬する上司を殺されたんだから、本当なら彼が一番敵討ちに行きたい筈だ。だけど、組織の縛りでそれは叶わない。なら―――

 

「バリオさん・・・なら、私達に任せなさい」

 

「は?」

 

 私の言葉の意図が分からなかったのか、バリオさんはそんな声をあげた。

 国家が駄目ならば、私達民間でやればいい。なに、それだけのことだ。宇宙開拓法第十一条、『自治領領主はその宙域の防衛に関し、全ての責任を負う』。要するに、自治領に対する襲撃者が海賊や民間人なら、それは自治領のみで撃退しろってこと。仮に私達がゼーペンストを滅ぼしても、それは全て領主の力不足で済まされる話なのだ。

 ふぅ・・・艦長になってから、色々勉強しといてよかったわ。宇宙関連の法律とか、囓っといて正解だった。

 

「どうせこれで、私達のゼーペンスト侵攻は確定したようなもの。ご令嬢奪還のついでにでも、あの領主は退治してやるわ。メイリンさん、そっちの準備はどうなってるの?」

 

「私達ですか?それなら不測の事態に備えて艦隊を準備してましたから、あと数日もあれば直ぐに出港できますよ!無事に本社からの援軍も到着しましたから」

 

「それは結構ね。ここは一つ、悪徳領主に天誅を下しにいくとしましょう」

 

「フッ、それでこそ・・・御嬢様達を拐った代償はしっかり払わせてやるつもりですから!」

 

 メイリンさんも、ゼーペンスト乗り込みにすっかり乗り気だ・・・というより、あっちはあっちで切実な理由があるんだから、士気が高いのは当然か。

 さて、どうせ乗り込むなら奪還対象にセグェン・グラスチとかいう会社の令嬢も加えておくか。どちらにせよ、ここは短期決戦で片をつけなくてはならない。

 

「おい、元から話は聞いていたが、本当にそれで大丈夫なのか?バハシュールは先代の時に築かれた艦隊に守られて星から一歩も出てきやしない、それに加えて艦隊自体も強力だ。スカーレット社の方々も、本気で乗り込むつもりで?」

 

「元より危険は承知の上、お嬢様を助けるためならそれぐらいのリスクなんぞどうという事はありません」

 

「・・・なら、傭兵は傭兵らしく雇用主の意向に従わなきゃね。個人的にもあの領主は〆なきゃ気が済まないし」

 

「ふふっ、敵討ちですか。これぞ忠臣蔵ですね!」

 

「そこの緑ちゃん、言っとくけどお嬢様方は死んでないわよ?そっちは奪還だってこと、忘れないでね」

 

「心得てますよ!そっちが本来の侵攻目的、いわば主目標ですからね」

 

「分かってるなら、それでいいわ」

 

 私と早苗に、メイリンさんとサクヤさんも、打倒ゼーペンストの方向で一致する。それを見たバリオさんが、ふと、少し口元を緩めた。

 

「すまんな、こっちで何とかできるなら君達を危険な目に逢わさずに済んだのだが・・・。スカーレット社の方々も、お力になれず申し訳ない」

 

「いえ、そんなことはありません!シーバット宙佐も尽力してくれましたから、それに報いる為にも必ず目的は果たしてきますよ」

 

「・・・本当に申し訳ない。・・・武運を祈ってます。君達も、気を付けて行ってくれ」

 

「心配には及ばないわ。今まで通り、力の差で叩き潰すだけ。数が100や200増えたところで、やることは変わらないわ」

 

「あら、士気が高くて何よりね。雇用主として期待しても良いかしら?」

 

「ふふっ、この銀河で私達の行く手を阻めるものなどいませんよ!私と霊夢さんで、道は必ず切り開いてみせます!」

 

「それは結構。ではバリオさん、我々は行って参ります!」

 

「ああ・・・」

 

 最後にメイリンさんが力強く宣言して、ホテルでの話し合いは幕を閉じた。最後のバリオさんの表情は、少し気が晴れたようなものだった。

 

 

 ホテルを出た後、私達はメイリンさん達と打ち合わせをして、具体的な侵攻スケジュールなどを練った。それまでにお互い準備を整えておくとのことで解散となり、この星を出港した時点から侵攻を始めることに決まった。

 それににあっちの好意で物資を少し融通してもらったのは有り難かった。連戦が予想されるだけに、物資はあるに越したことはない。

 

 ちなみに建造していたルヴェンゾリ級軽巡は、それぞれ〈ボスニア〉、〈ブルネイ〉と命名された。万全の戦力とは言えないけど、敵は国だ、戦力などいくらあっても足りないものだ。一0Gドッグでは、用意できる戦力にも限界がある。後はどう戦い抜くか、それを考えるのが今後の課題ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

 

 

「そういえば霊夢さん、私達の艦隊の名前、まだ決めてませんでしたよね?」

 

「うん、確かそうだったけど・・・なんで今さらそんなこと?」

 

 旗艦〈開陽〉の艦橋に戻ったところで、早苗からそんなことを尋ねられた。まぁ、確かに名前は決めてなかったと思うが、それがどうしたのだろうか。

 

「ほら、これからゼーペンストに討ち入りするんですから、武士みたいに名乗りを上げるべきじゃないかなって思いまして。ねぇ、どうですか!?」

 

 早苗は目を輝かせながら、そんな提案をしてきた。なるほど、武士みたいにってのは少しズレてる気がしなくもないけど、宣戦布告なんかをする際にはきちんと名乗れる名前の一つや二つはあってもいいか。

 

「・・・とか言ってるけど、あんた達はどう思う?」

 

 ただ突然のことなので、私は他のクルーにも意見を求めた。私達の艦隊の名前なんだから、他の人にも意見を聞いた方がいいだろうと思ったからだ。こうした重要なことなら、やはりそうすべきことだろう。

 

「うーん、艦隊名ですか・・・でもこの艦隊は艦長のものですし、独断でやっても良いんじゃないですか?」

 

「私も同意見ですね。何よりアイデアがありませんし」

 

 だが、返ってきたのはそんな言葉だ。ミユさんとノエルさんは、この件を私に一任するつもりらしい。

 

「私も同じく。というか私はエンジンが弄れれば満足ですから・・・流石に奇抜なのは恥ずかしいですけどね」

 

 ユウバリさんはそう言ってるけど、なにも心配することはないわ。元より奇抜な名前にする気はないから。

 

「ふむ・・・やはり彼女達の言うとおり、これは貴女の艦隊だ。名前を付ける権利は貴女にある」

 

「だな。なぁに、そう難しく考えるな。そんなの直感でどうにかなる」

 

「パス、面倒くさい」

 

 今度は順に、ショーフクさん、フォックス、霊沙が言う。というか霊沙、あんたも少しは真面目に考えなさいよ。こうやって私が提案してるんだし。

 

「・・・だ、そうだ。どうする?霊夢」

 

 この場にいる全員が発言したところで、コーディが決断を求めてくる。と言われてもそのアイデアが無いからこうして求めた訳なんだけど・・・

 

「・・・ねぇ早苗、うちってさ、他の連中から何て呼ばれてるのかしら?」

 

 もうこうなったら、二つ名とかがあるならそれを使わさせてもらおう。幸い私達は派手に暴れてるんだし、そういうものの一つや二つはある筈だ。

 

「えっと、二つ名ですか?それでしたら、『海賊狩り』とか、『赤き死神』とか『可愛い少女提督』とか」

 

「ちょっと待って、三番目のは何!?」

 

 早苗が挙げてくる二つ名に変なのが混じってるんだけど、何なのよそれは!大体私の顔なんてそんなに見られた訳じゃ・・・ああ、そういえば海賊とかによく通信で降伏勧告してたっけ。それで広まっちゃったかな・・・

 早苗はそれを意に介さず、さらに紹介を続ける。

 

「あっ、こんなのはどうですか?」

 

 そう言って早苗が提示したのは、『紅き艦隊』の名前。

 旗艦〈開陽〉の艦体には目立つ赤い線が入っているし、私の服も赤いから・・・かな?なんかあの吸血鬼みたいな感じもするけど、今までの中だと一番良さそうな名前じゃない。うん、これでいきましょう。

 

「『紅き艦隊』かぁ・・・それなりに良いんじゃない?まぁ、でもそのまんまじゃつまんないから、『紅き鋼鉄(くろがね)』なんてのはどう?」

 

「『紅き鋼鉄』ですか?・・・はい、とっても格好いいです!これなら堂々と名乗れますね!」

 

 どうやら私が考えた艦隊名は、早苗には好評みたいだ。あとは他のクルーの反応だけど・・・

 

「良いんじゃないですか?それ。私は賛成です」

 

「元から艦長に任せましたから、不満はありませんよ」

 

「うん、格好いいし、それで良いんじゃない?」

 

 

「・・・とのことだ。これで艦隊名は決まりだな」

 

「なら、これで行きましょう。後で管理局に登録しておくわ」

 

 こうして無事?、艦隊名も決まった。紅き鋼鉄(くろがね)、か・・・。少し格好つけたけど、まぁこんなものでも良いわよね?

 という訳で、今日から私達の艦隊は『紅き鋼鉄(くろがね)』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ゼーペンスト宙域、ボイドゲート・国境周辺~

 

 

 

 

「ゲートアウト完了、通常空間を確認しました」

 

「後続艦、友軍共に異常なし。全艦システムオールグリーン、いつでも行けます」

 

「前方、距離25000と47000に複数の熱源反応を確認。うち一方はユーリ艦隊と認む。後方の艦隊は識別信号からゼーペンスト領警備隊と判明。艦長、如何されますか?」

 

 バリオさんとの会合から3日後、侵攻準備を整えた私達とメイリンさんの艦隊は合流を果たし、遂にゼーペンスト領に踏み込んだ。

 ゲートから出るや否や、艦の各種レーダーやセンサー類が得た情報が逐一更新されていく。私はそれらの情報と上がってくる報告を考慮して、即座に今後の方針を打ち立てた。

 

「なんでユーリ君が・・・って、成程、ユーリ君も考えることは同じだったってわけか。艦隊各艦は準戦闘配備のまま待機して。まずは慣習に則って、最後通牒といきましょう」

 

 予想外のユーリ君達の存在に、一瞬何故だと思ってしまうが、あれはあれで正義感の強い奴だ。バリオさんの話を聞いて、黙ってはられなかったのだろう。だからあいつらもゼーペンストに侵攻してきたって訳か・・・でも、こうして何度も遭遇するなんて、そろそろ偶然じゃ済まされないかもしれないわね。

 

「了解です。ところで霊夢さん、連中には何て伝えますか?」

 

 隣に控えていた早苗が、最後通牒の文面をどうするかと尋ねてくる。ここはやはり、多少強気に出た方が良さそうかな。

 

「そうねぇ、こっちの要求を伝えるのは当然としても、少しは脅した方が良いかもね。"要求に応じない場合は、貴国の速やかなる滅亡が達成されるのみだ"とかね。ミユさん、それでお願いできる?」

 

「了解です。ゼーペンスト首都星と国境警備隊に向けて最後通牒を送信。首都星への通信方法は超光速IP通信を選択します」

 

 私がミユさんに最後通牒を連中に伝えるように頼むと、彼女は素早くその準備を整えていく。さて、連中がどう動くか。まぁ、恐らくは要求なんて蹴ってくるでしょうけど。

 

「最後通牒文章、送信します。これで如何ですか?」

 

 ミユさんが文章を送信する前に、その内容が艦長席に送られてくる。私はざっと、その内容に目を通した。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 宛、ゼーペンスト自治領政府

 

 0Gドッグ、『紅き鋼鉄(くろがね)』よりゼーペンスト自治領に告ぐ。当艦隊は、貴国に対し以下の事項を要求する。

 

 一、カルバライヤ、スカーレット社社長令嬢レミリア・スカーレット、フランドール・スカーレットの2名及びネージリンス、セグェン・グラスチ社会長セグェン・ランバースの孫娘を速やかに返還されたし。

 

 二、以上3名の返還交渉に際し、許可を得て貴国に赴いたカルバライヤ保安局員シーバット・イグ・ノーズ二等宙佐を信義則に反し不当に殺害した件をカルバライヤ側に謝罪し、同時にその損害を賠償されたし。

 

 回答は一時間以内にされたし。

 以上二点の要求が達成されない場合、本艦隊及び同盟軍スカーレット社は即座に自力救済に乗り出すことを宣言する。その場合は貴国の速やかなる滅亡が達成されるのみである。賢明な判断を期待する。

 

『紅き鋼鉄』艦隊司令、博麗霊夢より、以上。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふふっ、上出来ね」

 

 文章に目を通した私は、思わずそう呟いた。

 

「恐れ入ります。では、この内容で送信しますね」

 

「ええ、任せたわ」

 

 ミユさんが最後通牒文章を送信する。回答は一時間以内とあったが、あんな内容の文章だ、海賊とつるむような悪徳領主には受け入れ難いものだろう。なら、結末など自ずと決まったようなものだろう。

 

 

 

 ここに、ゼーペンストとの戦端は開かれた。




今回は随分長くなってしまいましたが、今後はペースを戻していきたいと思います。

ようやく5章も中盤、ゼーペンスト侵攻となりました。ここでやっと霊夢艦隊の作中での正式な呼び名が決まりましたが、あまり深い意味はありません。名前はアルペジオの『蒼き鋼』に影響を受けて考えたものです。鋼鉄をくろがねと読ませるのは、鋼鉄の艦隊という海戦バカゲーの影響ですね(笑)

ちなみにここの霊夢さんは人の死にあまり心を動かされない子なので(さすがに魔理ちゃんあたりだと違うとは思いますが)、シーバット宙佐の訃報では早苗さんと違って一歩引いた視点にいます。早苗さんの方は根が純粋なイメージがあるので、ああやって素直な描写にしています。

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