夢幻航路   作:旭日提督

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第五○話 絶対防衛圏

~ゼーペンスト宙域・小惑星帯、〈開陽〉会議室~

 

 

〈グランヘイム〉が撤退したあと、私はそれと戦っていた連中をゼーペンスト侵攻の協力者に出来ないものかと思い付いて彼等を旗艦の会議室に案内することにしたのだが、ここで一つ、頭痛の種が発生した。

 

 

 

「でさぁ、これはいつになったら解いてくれるの?」

 

目の前の赤髪の少女が、猫なで声でそんなことを私に要求した。

赤髪の少女―――マリサは両脇と完全武装の保安隊員にがっちり囲まれ、脱走や襲撃などを図る兆候があれば直ぐに射殺できるよう準備されている。言うまでもなく、こいつが頭痛の種である。

 

元々こいつはよく分からない理由でいきなり攻撃を仕掛けてきたような奴だ。何をしでかすかなんて分かったもんじゃない。

 

「なぁ・・・お前ら、知り合いなのか?」

 

「ええ。殺し殺された仲よ。勿論死んだのはこいつだけど」

 

「はい。死人はさっさと天に召されろですよ」

 

ギリアスがそんなことを訊いてきたので、私はそう答えてやる。ついでに早苗も煽ってるし。ただアイツは私の答えに不満たらたらみたいで、すぐに抗議を入れてきた。

 

「ちょっと待て、私は別に死んでないよ!」

 

「何処に乗艦を消し炭にされて生きてる奴がいるのよ。大人しく死んでおけばいいものを」

 

「なんならこの場で二度目の昇天といきますか?希望されるというのなら、今すぐにでも閻魔様の元にお届けしますが」

 

早苗も早苗でなかなか辛口なことを言う。こいつの所業を考えりゃ、わざわざ止めるまでもないことだけど。クレイモア級重巡1隻造るのにどれだけかかると思ってるのよ。こいつが沈めてくれたお陰で未だに艦隊の重巡部隊は再建できてないんだし。

 

「ねぇ、お前らその言い方は酷くない?」

 

「・・・自分の行動を振り返ってから言ってみなさい」

 

だいたい海賊でもない癖に、いきなり喧嘩を吹っ掛けてくる方がどうかしてる。それに加えて、何処にハイストリームブラスターをまともに浴びて生きていられる奴がいるのよ。あんなもん、一度食らえば大天狗だろうが天人だろうが容赦なく吹き飛ぶ。一体どんなカラクリで生き残ったのよ、こいつ。

 

「・・・お前らが知り合いみたいなのは分かったが、そんなにギスギスするこたぁねぇだろ」

 

「はぁ?あんただってこいつに喧嘩売られてたんでしょ。これぐらいの監視は当然よ」

 

彼女と同じく〈グランヘイム〉と戦っていたギリアスが苦言を呈するが、私からしてみれば以前消し炭にした筈のこいつがのうのうと自分のフネに乗り込んできてるのだ。監視と拘束は当然の措置だ。

 

「あの、霊夢さん、そろそろ本題に入りませんか?」

 

「そうね・・・こいつの戯言に付き合ってる時間も惜しいし。そうさせて貰うわ」

 

「ねぇ、私のことは無視かしら?」

 

このままアレに付き合っていても時間が過ぎるだけだ。ここは大人しくユーリ君が言った通り、本題に入らせて貰おう。マリサの声は無視する。

 

「それで、こっちから融通できる資源のリストには目を通して貰えたかしら?」

 

「ああ・・・他人の施しってのは性に合わねぇが、こればかりは仕方ねぇ・・・副長の奴にもきつく言われたからな。その件についてはとりあえず感謝してるぜ」

 

まず、ギリアスに此方から提示した彼の艦に応急修理を施すに当たって必要な物資の見積りと供給可能な医薬品のリストに目を通したか尋ねてみる。

ちなみに彼の巡洋艦〈バウンゼイ〉は工作艦〈ムスペルヘイム〉のドックに入渠して修理を受けている。あっちには副長が責任者として残ってるみたいだから、そっちの折衝は修理責任者のにとりに任せておいた。

 

「しかし、なんだって他人を助けるような真似をするんだ、あんた。そっちからすりゃ俺なんて赤の他人だろ?」

 

「なに、船乗りとしての掟みたいなものよ。航海者ってのは、困ったときは互いに助け合うものでしょ?」

 

「・・・まぁ、それはそうだな」

 

ギリアスも渋々納得してくれたみたいで、私が助けたことについてはこれ以上文句を言ってくるようなことはなかった。見たところ彼は猪突猛進の戦闘狂みたいな奴だけど、少なくとも自分の艦の状態は把握できているらしい。というか艦長ならそれぐらいは出来て当然だろう。

 

修理に当たっているにとりの報告では、装甲を含めた艦体外骨格の損傷もさることながら、それ以外の箇所も酷い有り様だという。生命維持装置なんかは戦闘の衝撃で部品に罅が入っている箇所があるらしく、エンジンのエネルギー伝導管も、無理をして主砲にエネルギーを送り続けていたせいか焼き付いてしまっているらしい。曰く、どうしてここまで酷使してインフラトン・インヴァイダーがオーバーロードを起こして爆発しなかったのが不思議だ、と文句を垂れていた。ただ艦自体の性能はそれなりに優れているらしいから、それだけヴァランタインの〈グランヘイム〉が規格外な艦だということだろう。あれと撃ち合って生き残れるのは稀有な例だとも聞いてるし。ちなみににとりの奴、ちゃっかりギリアスの艦を調査することも忘れていないみたい。それにサナダさんやシオンさんまで加わってると聞いたときは血の気が引く思いだったけど、今のところ違法改造は行われていないようでほっとした。

どうも連中、〈バウンゼイ〉の装甲や〈グランヘイム〉からの攻撃を受けた箇所の損傷具合のデータを取りたがっていたみたいなので、持ち主のギリアスの許可を経ず勝手に改造するなんてことは無さそうだ・・・無いと信じたい。

 

その〈バウンゼイ〉の損傷具合の方であるが、にとりの概算では最寄りの惑星に辿り着けるかどうかといった損傷具合だということらしいから、あんなことを言っていてもギリアスにとっては私の申し出は渡りに船なのだろう。・・・まぁ、こっちも完全な善意だけでやってる訳じゃないんだし、出来れば対価ぐらいは頂きたいところだ。

 

にしても、艦がそれだけの損傷を受けても艦長のギリアスは無傷なんて、一体どうなってるのかしら。報告では艦橋付近にもいくらか被弾していたらしいんだけど。

 

「しっかしまぁ・・・これだけ壊れてよく生きてられたわね、あんた。うちの修理担当も驚いてたわよ?」

 

「おう!その辺の連中とは鍛え方が違うからな!ヴァランタインだってさっきは逃がしちまったが、居場所は分かってんだ。次は絶対ブッ潰してやるぜ!」

 

「こ、懲りない方ですねぇ・・・」

 

「私の話、聞いてたのかしら・・・」

 

やっぱりこいつ、ただの戦闘狂みたい。あれだけヴァランタインにボコボコにされてもまだ戦うつもりなんて、真性のバカでなきゃそんなことには思い至らないだろう。あまりの戦意に、基本会議では私の後ろに控えてる早苗でさえ、呆れたような視線を向けている。

 

 

「少しは学習しなさいよね・・・それと医薬品の方だけど、生憎こっちは人があまりいないものだから、そこまでの数は持ってないのよね・・・悪いけど、要求通りの量は無理そうよ」

 

「そうか・・・まぁ、それなら仕方ねぇか」

 

続いて〈バウンゼイ〉の副長から要請があった医薬品の補充に関してではあるが、資材は大量に持ち歩いてる私達でもクルーの絶対数が少ないお陰で、他人に大量に融通できるだけの薬の量は持ち合わせていない。一見大規模に見える私達の艦隊だけど、殆どか無人艦なせいでクルーの数でいえばギリアスの〈バウンゼイ〉と同じくらいだし、ユーリ君は倍以上のクルーを抱えていたりする。こればかりは仕方ないし、ギリアスには諦めてもらうしかないかなと思ったとこなんだけど、そこでユーリ君が代わって彼に申し出た。

 

「だったら、僕の方から融通しますか?一応医薬品なら多少の余裕はあった筈ですから」

 

「あ?なんだ白いの。おまえは確か、ユーリとか言ったな。・・・ああ、分かった。じゃあ、貰えるってならそっちにも頼んでもいいか?」

 

「ええ、融通できる分は後で送っておきますよ」

 

「そいつは有難い・・・礼は言っておくぜ」

 

ユーリ君の申し出に対して礼を言うギリアスではあるけど、やはり他人の助けを借りるのは矜持に合わないのか、あまり素直な態度ではない。う~ん、なんだか面倒な奴ね・・・

 

「で、私にはなんかないの?」

 

「はぁ?有るわけ無いでしょ。大体あんたの艦はそこまで酷く壊れてないじゃない」

 

「・・・ちぇっ、じゃあなんで私まで呼んだのよ。折角会えると思って来てみたらこの仕打ち・・・悲しいわぁ」

 

「私だって、相手があんただって知ってたらわざわざ呼ばなかったわよ。施しが欲しけりゃ自分の行いを省みてからにしなさいよね」

 

そこにマリサの奴が施しを要求してくるが、こいつの要求なんて断固拒否だ。大体こいつの艦は〈バウンゼイ〉と違ってピカピカだし、応急修理なんて必要ないでしょ。というより、早くこいつを追い出したい。棒読みで泣かれても私の心は動かないわ。

 

 

「・・・相変わらず仲悪ぃな・・・それよりもお前ら、俺と年も違わねぇのに中々のもんじゃねえか。赤いのはとんでもねぇ戦力だし、ヴァランタインに向かってぶっ放したの、白いのだろ?」

 

「し、白いの・・・?」

 

「この場で白いのなんてお前しかいねぇだろ。ああ分かってるよ、ユーリだろ?」

 

「あ、ああ・・・」

 

どうもギリアスのペースにユーリ君は押され気味みたいだ。にしても、赤いのと白いのって何よ。一応名乗った筈なんだけど。年上への礼の使い方、一度叩き込んでやろうかしら?

 

「・・・あんた、赤いのはないでしょ赤いのは。博麗霊夢と名乗った筈だけど。それに、まさか私が同い年だと思ってるの?」

 

「は?違うのか?おまえ、どう見たって大人には見えないし、ましてやババアでもねぇだろ」

 

「ババアって・・・ちょっとそこ、笑わない!」

 

「くすっ・・・すいません、霊夢さん。ああ、でも霊夢さんの本当の歳は・・・ふふっ」

 

「ハァ、もう・・・・・ってな訳だから、少なくともあんたより年上よ。そもそもあんた、20も生きてないでしょ?」

 

「ま、マジか・・・ああ、そうだぜ。まだ16だよ俺は。で、そういうおまえは何歳なんだよ?」

 

・・・やっぱりこの見た目じゃ間違われるのね・・・早苗は早苗でなんかつぼに入ったみたいだし、どこがそんなに面白いのよ。言っておくけど、仮にギリアスなんかと同い年だったらもっと容赦なかったわよ、私。

 

「おっとギリアス君、女に歳は聞くもんじゃないよ?」

 

「え、あ、ああ・・・済まねぇ」

 

それで歳が気になったのか、ギリアスは私にそれを訪ねてくるが、意外なことに、マリサの奴が彼を窘めた。それ以前に、歳なんて小まめに数えてなんかないし、何歳かなんて自分でも分からないんだけど。

 

「それよりも、ギリアスはなんでサマラさんやヴァランタインなんて危ない連中とばかり戦ってたんだ?」

 

「いや、本当それね。私は用があってヴァランタインに喧嘩売ったけど、ギリアス君は何か理由があるのかな?」

 

「そうですよ。どうせ戦うなら、蹂躙できる相手の方が気持ちいいじゃないですか」

 

話は変わって、ユーリ君がそんなことをギリアスに尋ねる。続いてマリサの奴も、挑発的な態度ではあるが同じことを質問した。

確かにユーリ君とマリサの奴が聞いた通り、何でギリアスはそんなヤバい連中とばかり戦ってるのだろうか。見たところ、賞金稼ぎみたいな感じではなさそうだけど。それより早苗、あんたそれ、本気で言ってるの・・・?

 

「俺は・・・とにかく早く名を上げなきゃなんねぇんだよ。それに、よえーヤツと戦ったって面白くねぇじゃねぇか」

 

そしてギリアスは早苗の言葉を華麗にスルー、と。確かに彼、蹂躙よりも手に汗握る殺し合いの方が好きそうな性格だし。でも私は蹂躙の方がいいかなぁ。強敵なんて面倒なだけよ。蹂躙できた方が異変解決も楽に済むし。

しかし、まるで武人みたいねぇ、彼。私はわざわざ理由なく強者と戦おうなんて思い付かないし(気に入らなかったらシバくんだけど)。何が楽しいのかしら。

 

「まぁ、他人の生き方に文句を付ける筋合いはない、か。それであんたが野垂れ死のうと、それはあんたの勝手だし」

 

「ああ?何だ?まるで俺が負けるなんて物言いだが」

 

「事実でしょ。世の中に絶対はないわ。そんなことを続けてりゃ、いつかは死ぬかもしれないんだし」

 

「そんぐらいは覚悟の上さ。なんせ相手が相手だからな。だけど俺は、それを乗り越えて強くなって、名を上げなきゃいけねぇんだ・・・」

 

ふぅん・・・ああは言ってみたけど、そこのところは覚悟していたみたいね。人の生き方なんてそいつが決めることだし、分かってるなら別にいいか。

そんなことを考えて私が関心を移そうとした矢先、ふと別の声がした。

 

「でも・・・ムチャな戦いは良くないと思う・・・ケガしたり、死んじゃったりしたらダメ・・・」

 

声の主は、ユーリ君の妹のチェルシーだ。今まではユーリ君の後ろに居ただけの彼女だったけど、彼の生き方に思うところがあったらしい。ユーリ君にくっついてるだけかと思っていたから、ここで発言するとは意外だ。

 

「うっ・・・。あ、ああ。まぁ・・・それも一理あるがな」

 

「へぇ~、いきなり態度変わりましたねぇ~」

 

「ふぅん・・・これは・・・」

 

チェルシーさんの言葉にギリアスが一時呆然としたかと思うと、態度を変えてわざとらしく納得したという仕草を見せる。そんなギリアスの態度に早苗とマリサの奴は何かを察したようで、意味ありげに呟いた。・・・一体、何を察したのかしら。

 

「な、なんだよ・・・それより、お前らこそ、こんなとこで何やってんだ?このゼーペンストはけっこうヤバいところだぜ?」

 

二人にそんな態度で見られて話題を反らせたかったのか、ギリアスがぎこちない様子で尋ねてくる。

 

―――これは、こっちの用件を告げるには良いタイミングかな?

 

わざわざギリアスの方から聞いてくれたんだし、目的を告げた上で協力を要請するのにも丁度良い。

 

「ああ、僕たちは・・・」

 

「ちょっと退廃領主をシメに来た、ってとこかしら」

 

「はぁ?・・・っ、おい、それって・・・」

 

ギリアスは私の言葉で目的を察したのか、続く言葉を詰まらせる。

 

 

「簡単に言えば、この自治領を滅ぼしに来たわ」

 

 

「ってことは―――バハシュールの奴をヤるのかぁ!!?」

 

「ご、御名答よ・・・」

 

ちょっと、声大きいんだけど・・・耳が痛い・・・

 

「おっと、済まねぇ・・・。でもよ、それマジで言ってんのかよ」

 

「僕は・・・本気だ。そうしなきゃ、戦争になるかもしれないんだから」

 

「青臭いユーリ君はともかく、私も色々理由があるからね。少なくとも、ここを潰すのは本気よ」

 

私とユーリ君で、ギリアスにゼーペンスト侵攻の理由を説明する。

自治領潰しなんて野心たらたらの海賊とかなら良くある話らしいのだが、弔い合戦や人質救出なんて理由で自治領を攻め滅ぼすのは稀有な例だ。常識があればこんなことで一国の艦隊とガチンコしようなんて思わないのだけど、彼はこちらの話を真摯に聞いてくれた。それでいて、彼はなにか美味しそうな獲物を見つけたかのような眼をしている。

 

 

「ふぅん・・・、面白そうじゃねぇか!俺もいっちょ噛ませてもらうぜ!」

 

「え・・・そんなにあっさり・・・」

 

「おい、ギリアス・・・本気で言ってるのか?」

 

あれ、ここからギリアスを協力者に引き込もうと思ったんだけど、まさか率先して協力してくれるなんて思ってなかったわ・・・。彼の好戦的な態度からすれば、すぐに上手くいくとは思ってたけど。

 

「本気も何も、俺はいつだってマジだぜ。それに、一国の艦隊とヤり合おうってその態度、気に入った!」

 

「あの・・・良いんですか?霊夢さん」

 

「いいも何も、受けない手はないでしょ」

 

元々そのつもりで呼んだのだ。そっちが乗り気だというのなら、これを拒む理由はない。

さて、丁度良い駒が1隻転がり込んできたことだし、何かいい作戦とかないかなぁ・・・

なんてことを考えてたら、今度は別の方から声が上がる。

 

「へぇ・・・なら、私も火遊びに付き合うとするかな。うん、そっちの方が楽しそうだし。それに、面白いことも思い付いた」

 

私があっさりギリアスを協力者にできたのに気をよくしていると、今度はマリサの奴まで協力の意思を見せてきた。戦闘狂らしいギリアスはともかくマリサの奴が協力するメリットなんて思い付かないし、そもそも私とは殺し合った関係じゃない。それなのにわざわざ私に協力なんて意外だ。だけど私の疑問などお構いなしに、彼女は新しい玩具を見つけた子供のような顔をして、一人悦に入っている。もしかしなくても、こいつもけっこうアレな性格なのかしら・・・?

 

「はぁ!?何であんたまで・・・」

 

感情からそれを拒否しかけた私だけど、少し考えてみれば、こいつがわざわざ協力してくれるというのならわざわざ断る理由はない。いや、ここはせいぜいこき使ってあのときの借りを返させてやるのも一興だ。

 

「おまえ・・・何か思い付いたのか?」

 

「ええ。ギリアス君は確か、ヴァランタインの居場所を知っているって言ってたよね?」

 

「ああ・・・だけど、それがどうしたんだ?確かに俺の〈バウンゼイ〉に搭載してるレーダーは特別製だからな、航跡に残った僅かなインフラトン反応でも捉えられるぜ」

 

「へぇ~、そいつは良いモノね。私も欲しいかも。それで、肝心のヴァランタインは何処に?」

 

「ヴァランタインか?ヤツならこの先にあるサハラ小惑星帯に向かったのを確認してるぜ。あの辺りに潜むつもりなんだろう」

 

「ふむ、サハラ小惑星帯ね・・・」

 

「ちょっとそこ!勝手に話進めてるけど、なんか思い付いてるの!?いいから聞かせなさいよ」

 

「そう焦らない焦らない。―――っと、これで良いかな。作戦案、今から話すけど・・・」

 

マリサの奴は一度私を制すると、自分で考えたらしい作戦案を披露する。

最初はそれを半信半疑で聞いていた私だけど、よく考えてみれば此方のリスクを最小限に減らすことができそうな案だった。何せゼーペンストの主力を叩くのは―――

 

「って感じなんだけど、どうかな?けっこう危ない・・・っていうか、奴さんの機嫌次第だけど、上手くいけばバハシュールのヤロウの本国艦隊を根こそぎ削れるよ。んでギリアス君、そっちの方は頼めるかな?」

 

「おう、ちょっと気に入らねぇ役回りだけど、スリルがあって面白そうだ。その役目、引き受けたぜ。んじゃあ修理が終わったら行かせてもらうとしますか」

 

ギリアスの方はマリサの提案に乗り気で、これからちょっと出掛けてくるかのような気楽な雰囲気でいる。役回りを考えれば、普通はあんな風に平然とはしてられないと思うんだけどな・・・

 

「んで、そっちの方だけど・・・」

 

「・・・バハシュールの絶対防衛圏に向かえば良いんでしょ?」

 

私は渋々と、マリサの提案に従って方針を確認する。癪だけどこいつの提案が優れているのは確かなんだし、ここは被害軽減のためにもこいつの案を呑んでおこう。

 

「ええ。到着と同時に作戦開始よ」

 

マリサの奴に仕切られるのはなんだかもどかしくはあるが、現状それに代わる代案はない。なので、作戦計画は彼女のもので行くしかない。あとはこれをメイリンさんに伝えるだけだが・・・

 

「あの、霊夢さん。先程〈レーヴァテイン〉から連絡がありました。どうやらゼーペンスト艦隊と接触したようです」

 

「えっ・・・それで、相手の規模は?」

 

「はい、フリエラ級巡洋艦3隻にリーリス級駆逐艦2隻の警備艦隊とのことですが、既に殲滅したようです」

 

そこで早苗から敵艦隊と接触したとの報せが入ったものだから少し警戒したのだけれど、どうやら心配は杞憂だったらしい。だけど、発見されたというのなら早速動いた方が良さそうね。

 

「分かったわ。ついでだけど、さっきの話、メイリンさんにも伝えてくれる?」

 

「作戦計画のことですね。了解しました」

 

私が早苗にそう頼むと、彼女は艦橋に取り次いでそこから作戦計画を〈レーヴァテイン〉に送信してもらう。

程なくして、メイリンさんからも了解の返事が届いた。

 

会議の用件は全て済ませたので、私達はそこで解散として、ユーリ君達はそれぞれの艦に戻っていった。

 

一度ゼーペンストに発見された私達は、場所を移してギリアスの艦の修理が済み次第、打ち合わせた通りに行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ゼーペンスト宙域、絶対防衛圏内・ゼーペンスト軍要塞~

 

 

自治領の首都惑星ゼーペンストを守護するための絶対防衛圏、その内側に位置する惑星アイナス軌道上にあるこの要塞は、艦隊の出撃基地であると同時に防衛ラインを維持するための最重要拠点である。ただ、要塞とはいっても惑星の軌道上にある建築物に過ぎないので、航路次第では簡単に回避できてしまう位置にある。そのため、この要塞には敵を押し止める役割などは期待されておらず、単に後方拠点という位置付けでしかない。

 

そこで執務に勤しんでいたゼーペンスト軍艦隊司令ヴルゴの元に、慌てた様子で部下が駆け込んできた。

 

「か、閣下!」

 

「む、どうした?何かあったのか?」

 

部下の焦燥にヴルゴもただならぬ事態だと感付き、冷静に報告を促す。部下はしばらく息を切らせた様子でいたが、落ち着きを取り戻すと、その求めに従って報告する。

 

「ハッ、本国艦隊から通信がありました!絶対防衛圏付近で不審な艦を捕捉し、現在第4支隊がこれを迎撃中との事です!」

 

「不審な艦・・・待て、艦隊ではないのか?」

 

「は。報告では艦隊ではなく、単艦との事です!」

 

部下の報告を聞いて、ヴルゴは唸る。

以前聞いた報告では、このゼーペンストに宣戦布告した『紅き鋼鉄』と名乗る0Gドッグは艦隊で行動しているとの事であり、連絡を絶った偵察隊が放った最後の電文でも確かに艦隊と告げていた。それが何の前触れもなく、単艦で攻めてくることがあるだろうかと彼は考える。

 

「して、その不審な艦の解析は済んだのか?

 

「ハッ、報告によれば、データベースに該当は無しとの事です。偵察隊の情報から得られた『紅き鋼鉄』の艦とも、〈グランヘイム〉とも違うものだということです。しかし第4支隊の艦にも既に被害が出ており、強力な火力を持った艦だということに疑いはありません!」

 

ゼーペンスト艦隊が発見したそれは、全くの未確認艦だった。最近領内に出没し、その強大さ故に手出しができず実質放置状態の〈グランヘイム〉であればその強大なエネルギー反応から直ぐに特定できるし、『紅き鋼鉄』であっても断片的な情報とスペースネットに流れる彼等が使う艦の外見を写した映像などから特定は可能だ。しかし、報告にあった不審艦は、そのどれにも当てはまらなかった。

 

「そうか・・・〈グランヘイム〉でないのは幸いだが、一体何処の艦だ・・・それで、敵はどのような行動を取っている?」

 

不審艦が〈グランヘイム〉でないことに安堵したヴルゴであるが、まだ気は抜けなかった。未確認の『紅き鋼鉄』の別働隊の可能性も捨てきれず、新たな賊の可能性も考えられる。

 

「敵艦は我が方の艦隊に向け砲撃戦を挑んだのち、後退するような素振りを見せているとのことですが」

 

「成る程な・・・」

 

部下の報告を吟味して、ヴルゴは対応策を練る。武人気質の彼は今すぐにでも親衛隊を率いて不審艦を撃滅したかったのだが、艦隊司令という職業柄、そう易々とこの絶対防衛圏を後にすることはできなかった。

 

「・・・やはりここは、『紅き鋼鉄』と繋がりのある艦だと判断すべきだろうな。奴等だとすれば、我等を誘引しようと試みているのだろう。ここは第4支隊に任せ、本国艦隊本隊は一旦警戒態勢のまま・・・」

 

ヴルゴが部下に方針を告げている最中に、彼のデスクにあった通信の呼び出し音が鳴り響く。その相手が予想できてしまった彼は呆れながらもそれに応え、通話ボタンを押した。

程なくして、モニターの画面に彼の上司であるゼーペンスト自治領領主―――バハシュールの姿が現れた。

 

「・・・バハシュール閣下、お呼びで」

 

彼は平静を心掛けて領主からの通信に応じるが、今日のバハシュールはいつもとは違い、気が立った様子だった。

彼も部下から侵入者の報告を受けてここに対応を求めようと通信したのだが、バハシュールがでしゃばって上手くいった試しがないために、ヴルゴの側からすれば迷惑この上ないタイミングなのだが、上司の言葉を無下にする訳にはいかない。彼は内心で口を出さないでくれとは思いつつも、バハシュールの言葉に耳を傾けた。

 

「何をぐずぐずしてるんだ、将軍。さっさと全艦隊で侵入者を揉み潰せ!」

 

予想通りの領主の言葉に、ヴルゴは内心で予想が外れて欲しかったと後悔したが、それは無駄なことだった。

バハシュールにしてみれば、彼が自分の庭だと認識している(その割には滅多に自身の居城から出ないのだが)自治領内で侵入者が好き勝手するのが許せないだけだ。それはこの自治領の安寧を一手に引き受けるヴルゴも同じことなのだが、肝心のその命令がいけなかった。

この道のベテランであるヴルゴにしてみれば、侵入者の動きは明らかに不審であり警戒すべきものであるが、素人のバハシュールにはそんなことすら分からない。なので彼は、単純に強大な自身の艦隊をぶつけてやれば全てが解決すると思っているのだ。

流石に今回ばかりは素直に従うわけにはいかないと、すかさずヴルゴは反論する。

 

「それは危険です閣下!敵は不審な動きをしております。ここは一度、様子を見るべきかと―――」

 

「フンンンン!この僕がやれと言ってるんだ!すぐに本国艦隊全艦を出せ!!」

 

「―――はっ・・・」

 

ヴルゴの反論にも耳を貸さず、バハシュールは彼を怒鳴り付けて命じた。これでは幾ら言っても埒が明かず無駄であると悟ったヴルゴは、上司の方針なら致し方ないと、表面上はバハシュールの命令に素直に従う。

 

「では職務に励みたまえ、将軍」

 

その様子を見たバハシュールは満足したのか、そう言い残して通信を切った。

 

「あの・・・閣下?」

 

「領主様の命令とあれば仕方あるまい。直ちに本国艦隊全艦に出撃を命じろ」

 

「ハッ・・・閣下、親衛隊の方は如何されますか?」

 

「親衛隊は此所に残す。出撃させるのは親衛隊以外の本国艦隊だ」

 

「―――了解です。本国艦隊に繋ぎます」

 

ヴルゴの言葉を受けて彼が何を考えているのか察した彼は、何も聞くことなく黙々と命令の実行に移る。

 

「・・・では私は艦隊旗艦に向かい指揮を執る。貴官も続け」

 

「ハッ!」

 

部下が命令文を送信し終えると、ヴルゴは席から立ち上がり、指揮を執るべく自身の旗艦へと向かう。彼の部下も、その後に続いた。

 

 

 

 

程なくして、ゼーペンスト軍宇宙要塞からは総数100隻に迫る本国艦隊主力が慌ただしく抜錨していく。

 

その様子を、ヴルゴは旗艦〈アルマドリエルⅡ〉の艦橋から、目を離すことなく見つめ続けた・・・

 




ここの早苗さんはさでずむです。お忘れなく。

次回は霊夢達の連合艦隊とゼーペンストの本格的な衝突になります。
ちなみにマリサの乗艦はカルバライヤに出た際に描写がありましたが、天クラのファフニールです。大きさはグロスター級戦艦とほぼ同程度です。

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