夢幻航路   作:旭日提督

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第五四話 自治領の終末

 ~首都惑星ゼーペンスト・バハシュール城~

 

 

【イメージBGM:東方萃夢想より「月時計 ~ルナ・ダイアル」】

 

 

 

「御用改めである!覚悟ッ!」

 

 退廃と色香に包まれた不夜城バハシュール城、その玉座の間に続く閉鎖された通路が無理やりこじ開けられて、乱暴に蹴破られる。

 

「野郎共、突撃だ!撃て!」

 

「イエッサー!!」

 

 通路に侵入した集団の戦闘には赤い光刀を手にした緑髪の少女が躍り出て、ブラスターの光線を弾きながら光刀を振るい、通路を護る守備隊を蹴散らしていく。

 その後からは、青いラインの入った白の装甲服を纏った屈強な集団がブラスターをパラライザーモードにして突撃する。

 

「スパルタン8がやられた!衛生兵を呼べ!」

 

「今向かうぞ!それまで持ち堪えろ!」

 

「こちらスパルタン5、援護を頼む!」

 

「了解した!援護射撃だ!」

 

「こちらクリムゾン4、右側の敵の抵抗が激しい!」

 

「フラッシュグレネードを使うぞ!目を閉じろ!」

 

 激しい銃撃戦が展開される通路にて、装甲服を着たうちの一人が守備隊に向かってフラッシュグレネードを投擲する。

 グレネードが宙を舞い両者の間の位置に達すると、それは眩いばかりの強烈な閃光を放ち、その光の前に軽装だったバハシュール城守備隊の面々は耐えきれずに怯んでしまう。だが全身装甲服に覆われた集団―――『紅き鋼鉄』海兵隊員達はヘルメットの防護バイザーの影響もあってすぐに立ち直り、未だに閃光によって視界を奪われていたバハシュール城守備隊を圧倒する。

 

「よし、今だ!畳み掛けろ!」

 

「その首!貰い受けます!」

 

「撃て!集中砲火だ!」

 

 海兵隊員達がバハシュール城守備隊に砲火を集中し、戦闘を駆ける少女―――早苗は手にした光刀で守備隊員を次々と両断する。高圧レーザーの電撃を直に食らった守備隊員達は次々と気絶し、早苗の光刀からの電流を食らった者達もまた同じ運命を辿った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふぅ、これで全部片付きましたか」

 

「そのようだな―――こちらクリムゾン1よりHQ、制圧完了だ」

 

「はい、ご苦労様・・・うわぁ、随分派手に暴れたわね、あんた達・・・」

 

 先陣を切って突撃した早苗とエコーがバハシュール城守備隊を制圧したことを確認したようなので、私は途中で合流したユーリ君と共に通路に入る。

 

 このバハシュール城、外もギラギラで気持ち悪かったんだけど、中に入っても・・・いや、中の方が酷い有り様だった。目に痛いネオンの光はかくや、ヘンテコな装飾品や下品な像なんかも壊滅的なセンスで飾られてるし・・・もう最悪ね。いっそのこと焼き払ってやりたいわ。

 

「れ、霊夢さんのとこのクルーの人達って、本当に凄いんですね・・・」

 

「ハハッ、こりゃ参ったよ。あたしも修羅場は何度も抜けてきたんだが、ここまで手際の良い連中は中々お目にかかんないねぇ・・・こいつはまるで特殊部隊か何かじゃないか?」

 

「まぁ、うちの海兵隊には軍隊上がりも居るからね。さぁ、とにかくバハシュールの野郎を捕まえましょう」

 

 一緒についてきたユーリ君達やトスカさんなんかは、私の海兵隊の練度を前に呆然とした様子だった。領主バハシュールの居室を護る部隊ときたもんだから、当然敵兵は精鋭中の精鋭だったのだろう。なのでとんだ激戦になると思っていたようだけど、様子見に出たエコー達だけで片付けちゃったからね・・・ 若干一命、反則じみた娘が混じってるのもあるかもしれないけど。

 本来なら私も憂さ晴らしに弾幕を叩きつけてやりたいとこだったけど、やっぱりファズ・マティでの件が効いているのかエコーとファイブスは頑なにそれを認めてはくれなかった・・・何よ、私だって少しぐらいは運動したいのに。

 

 ―――なら、精々バハシュールで発散させて貰いましょうかね・・・

 

「―――この先ね」

 

「はい、そのようです」

 

 私は通路の一番奥まで歩いていき、この先の玉座に続く扉に手を掛けた。相変わらず悪趣味な装飾が施されているが、精神衛生上それを視界から外す。

 

「さて―――と、バハシュールのクソ野郎、ケジメつけに来てやったわよ!」

 

 扉から一度身を退き、思いっきり扉を蹴破る。

 

 バタンッ、と金属の重い扉が地面に倒れ、中の様子が視界に入る。

 

 その部屋にいたのは、扇情的な格好をした女共と―――それだけ?

 

「あれ?―――えーっと、バハシュールって、確か男よね?」

 

「はい―――データではその筈です。顔もこんな、売れないイキりアーティストみたいな不細工なんですけど・・・一致する人は居ないようですね・・・」

 

 玉座の間に突入した私達は部屋のなかをを一瞥して件の悪徳領主、バハシュールの姿を探したが、頭に叩き込んだ顔写真と一致する男はいなかった―――というか、そもそも男自体が部屋にいない。

 

「これは・・・逃げられたか?」

 

「でしょうね」

 

 ファイブスが漏らした通り、バハシュールは既に逃げたあとだったらしい。くそっ、少しタイミングが遅かったかな。しかしあの守備隊共、既に守るべき領主がいないこの部屋を護っていた訳か・・・そう考えると、なんか虚しいわね。

 

「しかし、凄い数の娼婦共だな―――例の人身売買で手に入れたって訳か・・・ケッ、恥ずかしい野郎だぜ」

 

 玉座の間にいる扇情的な女共を見て、エコーがそう吐き捨てた。なんというか、ほんと最低な野郎ね、バハシュールの屑っぷりは。

 

「かぁー、見ろよユーリ。こりゃ美女軍団ってヤツだ―――」

 

 ブォォン!

 

「ひっ、な、何だぁ!」

 

「おっと、今はそんな眼をしてる場合じゃありませんよ、トーロ君?」

 

「あっ、ご、御免なさいィ!?」

 

 ・・・一部の男性陣、特にユーリ君のとこの部下のトーロ君なんかはその女共に鼻の下を伸ばしていたけど、そこに早苗が赤い光刀を突き立てて、トーロ君に容赦ない制裁が刺さる。早苗さん、気持ちは分からなくはないけど、少し落ち着こうね?

 

「おいトーロ、大丈夫か?」

 

「あ、ああ・・・なんとかな。それより霊夢さんよ、あんたの副官ちゃん、ちょっと乱暴じゃないか?可愛いけど」

 

「そんなの知らないわ。早苗はいつも通りの早苗だと思うけど。―――まぁ、多少は落ち着いて欲しいものだけどね。大体あんたも、鼻の下なんか伸ばしてる暇があるなら働きなさいよ」

 

「そうですよトーロ君、助平は嫌われますよ!」

 

「へいへー解りましたよ・・・ってなんで俺が命令されてるん?」

 

「ユーリっ、あそこの女の人達に聞いてみたんだけど、バハシュールは東の砂漠に逃げたって!」

 

 私達が漫才じみたことをやってる間にも、海兵隊員達やユーリ君のクルーは先んじて聞き込み調査をやっていたみたいだ。ティータさんがユーリ君のところに駆けよって、バハシュールの行き先を伝える。

 

「・・・ファイブス、確かなの?」

 

「ああ、俺もあの女共に聞いてみたが、嘘を言っているような素振りはなかった・・・っああもう、いい加減離れろ!」

 

「いやっ、ちょっと乱暴じゃない?―――もぅ、いけずなんだからぁ~」

 

 近くにいたファイブスにその真偽を聞いてみたけど、バハシュールが東の砂漠に逃げたというのは少なくとも本当らしい。んでそのファイブスは引っ付いてる女を引き剥がそうと足掻いているけど、娼婦じみた女は中々離れようとはしない。よく見ると、エコーや他の海兵隊員達も女共に媚を売られて困惑している様子だった。

 

「東の砂漠に・・・?そこに何かあるのか?」

 

「エピタフ遺跡・・・砂漠の中にあるって」

 

「エピタフ遺跡が・・・」

 

 チェルシーさんにがユーリ君にそう伝える。私もデータベースからちょっと調べてみたけど、確かにエピタフ遺跡があるようだ。この期に及んで神頼みでもするつもりなのかしら?現人神様は許さない気満々みたいだけど。

 

「エピタフ遺跡か・・・フム、行ってみようじゃないか、ユーリ君!」

 

「ふぇっ、じぇ、ジェロウ教授!?」

 

「君は・・・確か霊夢君だったかナ。何をそんなに驚いているのかネ?」

 

「い、いつの間にここに来ていたんですか、教授・・・」

 

 突然背後から老人の声が響いたもんだから、つい驚いてしまった。ついでに口調も敬語になっちゃうし―――というかこの人、最初バハシュール城に突入したときには居なかったわよね?いつからそこに居たのよ・・・

 

「私かい?研究の為なら何処にでも喜んで行くヨ!さあユーリ君、早く遺跡に向かおうじゃないか」

 

「あ、・・・はい!」

 

 教授はいの一番に玉座の間を離れ、ご老体とは思えないペースで来た道を戻っていく。それにユーリ君達が続いて、玉座の間には私達が残された。

 

「・・・艦長、どうしますか?」

 

「そんなの決まってるわ。早くバハシュールの野郎を追うわよ!」

 

「了解ですっ」

 

「イエッサー!!おいこら、いい加減離れろ!」

 

 バハシュールが砂漠に居るというのなら、私達も早くそこに向かおう。

 ただ、フリーハンドの私と早苗はいいんだけど、纏わり付かれてるエコー以下海兵隊員達は脱出するのに少し時間が掛かってしまった。くそぅ、バハシュールの奴、厄介な置き土産まで残しやがって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~首都惑星ゼーペンスト・東の砂漠、エピタフ遺跡~

 

 

 

 さて、美女軍団を何とか振りほどいた私達はユーリ君達と合流して、強襲艇に乗り込んでバハシュールの後を追った。上空に展開していたRVF-17からも砂漠を横断していた車が遺跡に向かっていたとの報告があったようだし、バハシュールは遺跡に逃げたと見て間違いないだろう。

 

「ロングソード1、降下します。艦長、遺跡に到着しました」

 

「ありがと。あんたはここで待機してなさい」

 

「了解です」

 

 砂漠の地面に降下した強襲艇にはパイロットと数人の海兵隊員を待機させて、私達は艇を降りて遺跡に向かう。

 

「おおっ、ムーレアの遺跡にそっくりだネ!」

 

「確か、エピタフ遺跡とデットゲートには関係があるって・・・」

 

「フム、これでアルピナ君の仮説はさらに裏付けられた訳だ。オモチロクなってきたネ!」

 

 教授は強襲艇から降りるや否や、遺跡を前に目を輝かせている・・・うん、流石にマッドは私でも止められないわ。

 

「艦長、新しい足跡があります。遺跡の方に続いていますね」

 

「バハシュールの野郎が逃げたんでしょう。追うわよ!」

 

「イエッサー!」

 

 強襲艇が降下した地点の近くにあった乗り捨てられた車からは、真新しい足跡が遺跡の中に向かって延びていた。間違いなく、バハシュールのものだろう。さぁて、これで奴は文字通り袋の鼠って奴だ。どうやって料理してやろうかしらぁ―――

 

「霊夢さんがまたすごく悪い顔を・・・ああ、でも素敵です。それでこそ霊夢さん・・・」

 

「よぅし、海兵隊、突撃!悪徳領主をひっ捕らえなさい!」

 

「イエッサー!」

 

 私の号令で、エコー以下海兵隊員達が一斉に遺跡へと雪崩れ込む。私達もそのあとに続いて、遺跡の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長、ヤツを捕まえました!」

 

「ご苦労。エコー、ファイブス、下がっていいわよ」

 

「ハッ!」

 

 私達とユーリ君が遺跡の深部に辿り着いた頃には、既にバハシュールは海兵隊員の手によって捕縛され、拘束装置で縛られていた。ふむふむ、確かに情報にあった写真と同じ顔ね。

 

「ひっ・・・ひいっ!? く、来るなっ・・・来るなあっ!」

 

 当のバハシュールは、私達の姿を見てそんな叫び声を上げている。その顔は恐怖に歪み、必死に私達を拒絶せんとしていた。

 

「あっ、コイツ!間違いねぇぜ」

 

「この女の敵、許しませんッ!」

 

「・・・お前が、バハシュールかっ!!」

 

「ひいっ!?なんで・・・なんでだよぉ・・・。お前ら、俺に何の恨みがあるってんだ、お前ら・・・」

 

 バハシュールの姿を見たユーリ君が、殺気立って彼に詰め寄る。怒気を纏ったユーリ君に詰め寄られて、バハシュールがさらに情けない声を上げた。

 

「シーバット宙佐を殺したこと・・・忘れたとは言わせないぞ!」

 

「シ、シーバット? あ、あいつは・・・保安局の人間のくせに、自治領に侵入したんだぞ!? だからっ・・・だからヤッただけじゃないか。そ、それが宇宙の掟だろ?」

 

「こいつ・・・ッ!」

 

 バハシュールの回答に血が上ったのか、ユーリ君が腰のスークリフ・ブレードに手を掛けた。

 

「れ、霊夢さん―――!?」

 

「―――ただ星に引きこもって好き勝手やって、宇宙に出たこともないあんたがそれを口にするなんて、笑わせる気?」

 

「ひいっ・・・!」

 

 私はユーリ君の肩に手を置いて、彼の前に出る。

 

 遊び半分で人を殺しておいて、なにが宇宙の掟だ。ふざけるのも大概にしなさい。殺していいのは、殺される覚悟のある者だけ―――

 

「宙佐を殺したときのアンタの声、聞かせてもらったわ。よくもまぁ、人間をあんな玩具みたいに扱えたものね―――」

 

「ひっ―――ッ!」

 

 バハシュールは後退りして、柱に当たって尻餅をつく。

 

「ああ、それに恨みならまだあるわ。アンタが海賊のパトロンに人身売買なんてやってくれたお陰で、うちらはその尻拭いよ。本当、面倒なことさせてくれたわね・・・」

 

「ひっ、ひいいいいっ!!」

 

 バハシュールの野郎は怯えるだけで、相変わらず醜態を晒している。それを見る海兵隊員やユーリ君のクルー達の視線は冷ややかだ。

 

「―――エコー、拘束具を外しなさい」

 

「イエッサー!、おいこの野郎、大人しくしろ!」

 

 そこで私は、エコーに命じて彼の拘束具を外させる。バハシュールは何故?といった表情で私を見上げる。

 

 私は彼を見下したまま、腰に差した刀を抜いた。

 

 紅い刃の鋒が、バハシュールの顳顬(こめかみ)を捉える。

 

「―――抜け」

 

「ひっ・・・」

 

 私はただ一言、彼にそう告げた。

 

「抜きなさい。アンタの腰のそれ、飾りではないでしょう?」

 

「いや・・・あ―――っ」

 

 二回、そう告げたにも関わらず、バハシュールは立ち上がらない。

 

「抜けって、言ってるでしょ―――!この愚図がッ!」

 

 

「ばはっしゅ!!!」

 

 三度目―――私は彼に回し蹴りを入れて、遺跡のさらに奥へと吹き飛ばす。

 

「―――立ちなさい。アンタが宇宙の掟を口にするなら、その掟とやらに従ってみせなさい。ここはアンタの自治領でしょ。なら防衛の責任者はアンタを置いて他にはいないわ。もう艦隊も、守ってくれる衛兵もいない。だったらアンタ自信の手で、目の前の侵略者に立ち向かってみせなさい!!!」

 

「く・・・そっ・・・こ、小娘の分際でえっ・・・俺の、俺の楽園をぶっ壊しやがってぇ・・・ッ!」

 

 吹き飛されたバハシュールは、柱を支えに立ち上がる。距離が離れて怯えが多少和らいだのか、それとも私の言葉が頭に入ったためなのか、彼の瞳には恐怖だけでなく、憎悪の念も垣間見えた。

 

 バハシュールはガタガタと震える手で、漸く腰のスークリフ・ブレードを引き抜いた。その鋒は、持ち手と同じように震えている。

 

「れ、霊夢さん・・・?」

 

「早苗―――あんた達、少し下がってなさい。今の私、最悪の気分だから」

 

 一度の深呼吸、昂る感情を落ち着かせる。

 

 目標を視界に収め、地面を蹴る。

 

 対象までの距離は約三間、その距離を一瞬で駆ける。

 

「なっ―――」

 

 目標が刀を降り下ろす。回避―――いや、鍔競り合う。正面から打ち砕く。下段からの斬り上げ、両腕に力を込める。

 

 

 キーンッ―――

 

 

 鋭い金属音が響き、互いの刃が激突する。

 

 敵の刀が弾け飛び、ブラブラと宙を舞う。

 

 今の敵は、全くの無防備―――

 

「ひいっ・・・い、ぎゃぁぁぁぁっ!?」

 

 無防備な敵に落とし蹴りを食らわせて、敵を地面に叩きつける。続いて即座に、肩口目掛けて刃を落とす。

 

 敵の左肩から、鮮血が舞った。

 

 

「いっ・・・ぎゃぁぁっ! い"、痛い、い"た"い"ィィィっ―――!!」

 

 

「―――それが刃の痛みよ。よく覚えておきなさい」

 

「い"い"い"ィ―――――ッ、!!、ッハア・・・っ!ハア―――ッ・・・、この、小娘えええッ!!!」

 

 納刀―――この男の血を、これ以上吸わせる価値はない。

 

 

「え、えげつねぇ・・・」

 

(ああ・・・異変解決の時みたいな無慈悲で凛々しい霊夢さん―――最高です!)

 

「・・・まぁ、こんだけ痛め付けてやれば充分でしょう。後はどっかの星系に無一文で放り出してでもやれば?」

 

「あ、はぁ・・・」

 

「いやぁ、やっぱあんた、容赦ないねぇ」

 

「殺さないだけまだマシよ」

 

 納刀した私に向かって、トスカさんがそんな言葉を投げ掛けた。でもまぁ、こいつの所業を考えれば殺すのはかえって逆効果かな。この手の連中には寧ろ、生き長らえさせて苦しんでもらった方が相応しい。

 

「んで、どうするユーリ?霊夢ちゃんはああ言ってるけど」

 

「―――もう、何も必要ないですよ。バルフォスやアルゴンだって、悪党としては許せなくてもそれぞれのやり方で宇宙の男だった。コイツなんか、その足元にも及びません。こんな奴に宙佐が殺されたと思うと腸が煮え繰り返る思いですが、殺すより生き長らえさせた方が、コイツは苦しむでしょう」

 

「解ったよ。じゃあ放置って事でいいね」

 

「い、いてぇ・・・いてぇ・・・・・クソッ・・・」

 

 流れはバハシュールの野郎を敢えて生き長らえさせる方向に傾き、皆が彼から視線を外すなかで、早苗が一歩前に出る?

 

「なら、その前に一つ・・・」

 

「な、何だよ・・・何を・・・する気だ・・・」

 

 ブォォン、と、光刀が起動する音が響く。

 

「散々奴隷商売なんかやって・・・女の子を拐うような悪い人には・・・これですッ!」

 

「ぐっ・・・ギヤアァァァアァァァァアッ!!?」

 

 早苗は片面だけ起動した光刀を両手でバハシュールの股関目掛けて降り下ろし、バハシュールは今までで一番大きな叫び声を上げる。

 

 ・・・って早苗―――!?あんたそれ、もしかして・・・

 

「はい、これで能無しになりました♪」

 

「ああ・・・俺の・・・俺のモノが・・・」

 

 バハシュールの股関からは、ゆらゆらと煙が立ち上っている・・・この手の奴には尊厳を奪うのが一番きついとは聞いたけど、流石に私でもちょっと引くかも・・・いや、やっぱこれで充分なのかな?

 

「にとりさん特製ラ○トセーバー六十四の機能が一つ、"玉潰し"!これで奴のアレは使い物になりません!」

 

 その様子を見ていたユーリ君やトーロ君といった男性陣は、なんか股関を押さえるような動作をして震えている。・・・まぁ、彼等からしたらあの苦しみが想像できてしまうからでしょう。・・・私には分からないけど。

 

 

 

「・・・あら、何かしら?」

 

 突如、ズズズズ・・・という振動音が鳴り響き、遺跡が地震のように揺れ始めた。

 

「な、何だぁ!?」

 

「こいつは・・・何かデカイのが降りてくるよ!」

 

「でかいのって・・・外の連中は何をしていたの!?」

 

 トスカさんが言うには、なにが大きな質量を持った物体が迫っているとのことだけど、そんな報告、外の連中からは受けてないわよ!?

 

「重力波振動です、霊夢さん!この規模だと、多分戦艦クラスが降下しているのかと・・・とにかく一度出口の方に・・・」

 

「くっ・・・チェルシー、下がって!」

 

 次第に、遺跡の振動が大きくなっていく。

 このままでは不味いと直感した私は早苗の言う通りに後方へ飛び退いた。ユーリ君達も、遺跡からの避難を図っているようで、入り口近くまで後退を始めている。

 

「っ、あ、助け・・・ああああああッ!!」

 

 その直後、一層激しい衝撃が遺跡を襲い、バハシュールの断末魔の叫びが響いた。

 

 

「う・・・んっ・・・」

 

「みんな・・・無事か?」

 

「ああ、俺は何とかな・・・チェルシーも大丈夫だぜ」

 

「東風谷早苗、健在ですぅ・・・」

 

 どうやら先程の衝撃で天井が崩れて、私達はその余波吹き飛ばされたようだ。辺り一面砂埃にまみれている。

 

「そうか・・・バハシュールは・・・?」

 

 ユーリ君が立ち上がり、断末魔が聞こえたバハシュールを探して遺跡の中を見回した。

 

「・・・あすこの瓦礫の下敷きさ。ま・・・埋める手間が省けたってのかね」

 

 トスカさんが、目線でバハシュールの居場所を示す。そこには、天井が崩れて落ちた瓦礫の山に、僅かに染み出した血溜まりが見てとれた。あ~あ、結局死んだのね、彼。

 

 本当ならもっと生き長らえて苦しんで貰いたかったのに、残念な結果だ。

 

 

 

「ほう。バハシュールのボンボンを潰しちまったのか。そいつぁ、ちっと悪ぃことをしちまったかなぁ」

 

 ―――天井から、聞き覚えのある声が響く。

 

「!?っ、誰だ!」

 

「ユーリ、あそこ―――」

 

「!、お前は―――」

 

 チェルシーさんが指した先に、大きな人影が見える。

 その人影は、影の中から次第に姿を表す。

 

 ―――あの時の、海賊・・・

 

 忘れるものか、圧倒的な力を見せつけときた宇宙の大海賊とやらの姿―――その男の名は・・・

 

「「ヴァランタイン!!」」

 

 

「おう!、久しいな小僧に・・・小娘!ちっとはいい面構えになってきたじゃねぇか!」

 

 ヴァランタインが、私とユーリ君を見据えて言い放った・・・って、ユーリ君もこいつに喧嘩吹っ掛けられてたの!?よくまぁ、今まで生きていられたわね・・・

 

「くそっ・・・ゼーペンストの艦隊がもう少し粘ると思ったが・・・」

 

「はっはー!こっちはわざわざてめえらの策に乗ってやったんだ!少しは感謝して欲しいもんだぜ!ガキの考えにノッてやるのも"大人の嗜み"・・・ってな」

 

「くっ・・・負け惜しみを・・・」

 

「さぁて、負け惜しみはどっちかな?」

 

 ヴァランタインの威圧感にも屈せず、イネス君は果敢に彼に食って掛かる。その隙に、私は何とか離脱の隙を伺っていた。

 

 ぶっちゃけ白兵戦ならヴァランタインを瞬殺できる自信はあるが、彼がここに居るということは当然〈グランヘイム〉もここに来ているということだ。ゼーペンスト親衛隊との戦闘で大きく傷ついた現状の艦隊では、あのキチガイ性能を誇る大戦艦を相手取るなど自殺行為だ。というか健在な状態でも相手にしたくない。

 

(艦長、どうしますか?)

 

(今は取り敢えず様子見よ・・・こっちからは撃たないで)

 

(イエッサー)

 

 一度ヴァランタインから退いた私は、隣にいるエコーに小声で方針を伝える。こっちから仕掛けてしまえば、離脱のタイミングを見失ってしまう。

 

《―――提督さん、聞こえる?》

 

「・・・何、アリス?」

 

 エコーに小声で呟いた後、腕に巻いた通信機から、私にだけ聞こえるほどの小さな音量で通信が入る。相手は軌道上で警戒に就いている筈のアリスだ。

 

《〈グランヘイム〉を確認したけど、奴はまだこっちに撃ってきたりはしてないわ。一応警戒は続けるけど、連中をあまり刺激するのは得策とは言えない・・・今は様子見に徹して貰えるかしら?》

 

「誰が好き好んであんな化物とドンパチやろうってのよ。しないわよそんなこと。取り敢えず、外は任せたわ。コーディにも伝えて頂戴」

 

《了解》

 

 用件だけを手早く告げると、アリスからの通信が切れた。

 

 

「・・・お前達の目的の一つはエピタフだろう?そいつは後ろにあるんだぜ?」

 

「あ・・・」

 

 ―――どうも、私がエコーやアリスと打ち合わせている間にも、話が進んでいたらしい。そっちに集中していたお陰で、ヴァランタインの声はあまり耳に入っていなかった。

 

「おおっ、あれがエピタフ・・・まさか本物を目にできるとは・・・っ」

 

 ちょっとマッド爺さん、黙ってよ!気が散るじゃない!

 

「ぐっ・・・ならばもう一度!」

 

「あっ、ちょっとユーリ君!迂闊に突っ込まないで!」

 

 また頭に血が上っているのか、ユーリ君は今にもヴァランタインに斬りかかろうという形相だ。私や早苗ならともかく、あんたの身じゃ叶わないんだから大人しくしてなさいよもう!離脱のタイミングが掴めない・・・

 

「おおっと、落ち着けよ、小僧。俺はお前にこいつをやるつもりで来たんだぜ?」

 

「なん・・・だと・・・!?」

 

「ほれ、受けとれ」

 

 すると、唐突にヴァランタインは徐に背後のエピタフを掴み取って、それをユーリ君に向かって投げる。

 

「あ・・・どうして・・・」

 

「ふふ・・・さぁ~て、お前を生かしておく価値があるか、それともここで・・・」

 

 ユーリ君がそれを受けとると、エピタフは蒼白い閃光を放ち始め―――

 

 ―――あれって、まさか・・・!?

 

 

 

【イメージBGM:無限航路より「Misterio」】

 

 

 

「う、うわあああっ!!」

 

「おお!?お・・・お・・・」

 

「ユーリ、だめえええっ!!」

 

 誰もがその閃光に呆然とする中、ヴァランタインの驚きと歓喜が入り交じったような声に、チェルシーさんの叫び声がその場に響いた。

 

 ―――あの光、まさか・・・あの遺跡での・・・

 

「エ・・・エピタフの・・・・・・形が・・・」

 

「こいつぁ・・・ビンゴってやつだぜぇ!」

 

「なっ、何だ・・・ッ、文字が、浮かんで・・・」

 

 

 

「はっ・・・ハッハーッ、そう、それだ!それこそがエピタフの真の姿!!さぁ、認められし者よ!読み上げるがいい!この宇宙に死に行く、全ての者達へ捧げる墓碑銘をッッ!!」

 

 

 誰かがなにか叫んでいる。

 

 この光―――ああ、そうだ、イベリオ星系の遺跡でエピタフが起動したときの、あの光―――

 

 エピタフの閃光が一層強まり、それは光の柱となって天を貫く。

 

 眩いばかりの閃光を放ち続けていたエピタフは、暫くしたのち、すーっとその輝きを失っていく。まるで、命が抜けていくかのように。

 

「な、何だったんだ、今のは・・・」

 

「艦長、あの光景は・・・」

 

「ええ、間違いないわね―――」

 

 

「ふっふっふ・・・見事だ、門は開かれた。この星の軌道に浮かぶデットゲートがどうなったか、確かめてみるがいい小娘!貴様の機会はまた後にしてやる。それまで首を長くしててでも待っていろ!はーっははははっ!!」

 

 ヴァランタインはそう言い残すと、マントを翻して去っていく。そのすぐ後に、先程のような重力波振動を繰り広げながら何かが飛び去っていった。

 

「あっ、待て・・・!」

 

「ユーリ君、海賊なんてどうでもいい!すぐデットゲートを確認しに行こう!サナダ君のデータ通りなら、アレが復活している筈だヨ!!」

 

「アタシも同意間だねぇ。さっき何が起こったのか、ヤツの言葉を確かめるんだ。そんな訳だから、あたしらはここでおいとまさせて貰うよ」

 

「ええ。縁があればまた会いましょう」

 

 ユーリ君とトスカさんは、そう言うと急ぎ足で仲間と共に遺跡の出口へ駆けていく。

 

 というかさ、あんたら、ここまでどうやって来たのか覚えてないの?

 

「艦長、我々も急ごう」

 

「ええ、そうね。海兵隊、撤収するわよ。艇に戻って!」

 

「「「イエッサー!!」」」

 

 

 ユーリ君達に少し遅れて、私達も遺跡から出る。

 

 

 遺跡から出た先では、案の定、ユーリ君達が立ち止まっていた。

 

「あの・・・すいません・・・帰りもまた乗せてもらえますか?」

 

「別に構わないわ。早く乗り込みなさい」

 

「あ、有難うございます・・・」

 

「よし、全員揃ったな。ロングソード、出せ!」

 

「了解、ロングソード1離陸します!」

 

 強襲艇に海兵隊員とユーリ君達が乗り込んで、欠員がいないことを確認すると、パイロットは強襲艇を離陸させる。

 

 

 離陸した三機の強襲艇は、軌道エレベーター基部を目指して飛行する。

 

「ん、何だ?空が暗くなって―――」

 

《ロングソード!!緊急事態です!回避願います!》

 

「な、何だぁ!?クソッ、兎に角回避運動だ!艦長、捕まってて下さいよ!」

 

「え、ええ。―――何があったの!?」

 

「私にも分かりません!兎に角旗艦からの緊急回避命令だ―――ッ!」

 

 いきなり機内にノエルさんのナビゲート音声が響いたかと思うと、強襲艇の機体が一気に左へ旋回する。

 

 

 

 ゴオォォォォンッッ!!!!

 

 

 

 その直後に、本来進むべき方角―――軌道エレベーターの方から凄まじい振動と衝撃波が伝わるのを感じた。

 

「な、何ッ・・・!?今のは―――!」

 

「か、艦長・・・軌道エレベーターが・・・」

 

「軌道エレベーターがどうしたの!?」

 

「と、とにかく一度ご覧下さい!窓を開けます!」

 

 パイロットの様子からも、先程の衝撃が尋常なものではないことが分かる。

 機内の窓が解放されると、私はいの一番にそこに食い付いて外の様子を確認する。そこには―――

 

 

 

 燃え盛るエレベーター基部に、中程で折れ曲がって破片を撒き散らしながら倒壊する起動エレベーターの姿があった―――

 

 

 

「なっ・・・こんな、こと・・・ッ!?」

 

 

 

「霊夢さん、一体何が―――ッ!」

 

「ひ、酷い―――」

 

「おいおい、何処のどいつだい!?こんなの、――――――明白なアンリトゥンルール違反じゃないかッ!!」

 

 私に続いて、ユーリ君や早苗に、トスカさんが外の様子を覗き見る。反応は三者三様だが、誰もがその所業の前に絶句していた。

 

 唯一、トスカさんの怒りにも似た叫びが耳に響いた。

 

 

《ザザ―――ッ・・・―――いむ、靈夢ッ!》

 

「その声―――マリサ!?何があったの!?」

 

 《惑星の裏側から、いきなりビームが曲がってきたぞ!そっちに向かって飛んでいったけど、お前は大丈夫なのか・・・って今度は何だ!?デカブツが這い出てきた!!》

 

「デカブツ!?〈グランヘイム〉じゃなくて!?」

 

《〈グランヘイム〉なんかよりももっとデカい!3000mは優に越えてる!》

 

 軌道エレベーター倒壊の様子を見たためか、マリサから私を心配するかのような緊急通信が届く。彼女の話では、惑星ゼーペンストの裏側からいきなりビームが発射されたらしいんだけど、一体どうなってるのよ!?

 

 それに加えて謎の巨大艦が現れたという報告だ。もう一体全体、どんな状況なのかさっぱりだ。

 

「そのデカブツとやら、正体は分からないの!?」

 

《いや、私もさっぱりだよ!あんなの識らないし見たことない!なんか楔型の薄っぺらい奴だけど、とにかくデカい!強いて言うなら、靈夢のとこの巨大航空巡洋艦に似てるけど・・・》

 

 巨大航空巡洋艦?もしかして、〈高天原〉のことだろうか。にしてもデカブツの正体は依然として不明らしい。だが状況から考えて、そのデカブツが軌道エレベーターを破壊したと見てもいい。ならば、敵として考えるべきだ。

 

「ああもう、何でこう面倒なことばかり起こるのよ!マリサ!そいつの警戒、頼んだわよ!」

 

《ああ、任せて――――ッ、くそ、野郎撃ってきたな!反撃だ――――ザザ―――ッ・・・》

 

 雑音と共に、マリサからの通信が切断される。

 

 最後にはレーザーの着弾音や爆発音なんかが聞こえたので、例のデカブツとやらがマリサの艦を攻撃してきたと見て間違いない。何処のどいつかは知らないけど、こうしていては私の艦隊も危険だ。

 

 

 一難去ってまた一難、か・・・とにかくこうしちゃいられないわね。予定を切り上げて、早く艦隊に戻らないと・・・

 

 

 

 




ゼーペンスト編はこれで終わりですが、すぐ次章に続きます。相変わらずさでずむな早苗さんです。ラ○トセーバーの"玉(ぎょく)潰し"の機能は、外見は何ともなりませんが中身を能無しにする機能ですw

うちの霊夢ちゃんも、結構えげつないですね。今回は、バハシュールに怒りの感情を覚えさせて自分に向かってくるよう仕向けた後、敢えて正面から圧倒して叩き潰すという芸当をやっていますw まぁ、バハシュールはレイサナコンビにプライドをズタズタにされた訳ですね。インガオホー。

最後に出した3000m級のデカブツ―――、一体何なんでしょうねぇ?

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