夢幻航路   作:旭日提督

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第六一話 敵本土への道

 

 ~ウイスキー宙域・ボイドゲート近傍~

 

 

 

 

 ヴィダクチオ自治領・ウイスキー昼間の果てに浮かぶ本国へのボイドゲート。その周囲を取り囲む暗黒星雲のなかで、複数の航空機が死闘を演じていた。

 追う側は4機の円盤形航空機、対して逃げる側は一機の紫色の艦載機―――バーガー達の乗る〈スヌーカ〉だ。

 

 バーガーはヴィダクチオ軍艦隊の迎撃機の追撃を振り切ろうと複雑なマニューバを描きながら、無線機で必死に艦隊へ敵発見の報告を届けた。

 

「こちらグリフィス、敵艦隊見ゆ、繰り返す、敵艦隊見ゆ!敵はボイドゲート付近の暗黒星雲内を航行中!」

 

《了解。敵艦隊の規模は分かりますか?》

 

「はい・・・っ、確認した限りでは、敵艦隊は戦艦1隻とヴェネター級巡洋艦4隻、ナハブロンコ級20隻程度と推察されます―――っ!」

 

 バーガーから引き継ぐ形で、後部座席のマリアが発見した敵艦隊の規模を伝える。

 

 だがその間にもインターセプターは頻りに背後についてはレーザー機銃を放ち、徐々にバーガー達のスヌーカを追い詰める。

 操縦桿を握るバーガーは紙一重でこれを躱しつつ、反撃と離脱のチャンスを窺っていた。

 

「マリア、今だ、旋回機銃を撃て!」

 

「りょ、了解っ・・・!」

 

 後部座席のマリアは報告を終えると同時に、バーガーの指示に従ってキャノピー後部にある旋回銃座の発射ボタンを押した。

 発射指示が下された旋回銃座は自動で敵を追尾するとパルスレーザーの弾幕を放ち、忽ちのうちに一機の敵機をその火線に絡め取った。

 パルスレーザーで撃ち抜かれた円盤形インターセプターの一機は、被弾でよろめいた後に爆発を起こし、ダークマターへと還った。

 

「敵迎撃機一機、撃墜しました!」

 

「だがまだ敵さんウジャウジャしてやがるな・・・こいつは厳しい戦いになりそうだ」

 

 敵機撃墜に湧くマリアと対照的に、操縦桿を握るバーガーの顔は晴れない。

 一機の敵機を撃墜したとはいえ。まだ背後に取り付いている敵機は3機ほど残っていたからだ。

 

《グリフィス1、状況が優れないようですが、救援を出しますか?》

 

「いや、大丈夫だ。こっちは何とか振り切ってみせるさ。それよりも、敵さん攻撃隊まで出してきたみたいだ。恐らくそっちの位置は既に捕捉されている。一機でも多く、攻撃隊の迎撃に割いてくれ」

 

《・・・、了解しました。ご健闘を祈ります》

 

 艦載機のオペレーターを担当するノエルは冷静に状況把握に努めたが、その声色からは二人を心配する気持ちが窺えた。

 だがバーガーは、眼下の敵艦隊が攻撃隊を発進させていることを鑑みて、ノエルの提案を蹴って独力での帰還を選択した。敵が既に攻撃隊を発進させている以上、戦闘機は一機でも多く艦隊の直掩に割くべきだと、彼の元軍人としての判断は告げていた。

 

「悪いな、マリア。ちと厳しい退路になりそうだ」

 

「いえ隊長、元より承知の上です。今はこの状況に集中しましょう」

 

「・・・言ってくれるじゃねぇか―――ま、俺もこんな処でくたばる訳にはいかないんでね、何とかしてみせるさ」

 

 バーガーは額に冷や汗が流れるのを感じながら、マリアに対して精一杯の虚勢を張って見せる。

 互いの戦力差から無事に離脱するのは難しく、さらに激しい空戦機動を繰り返したお陰で最早帰還できるだけの推進材も機体には残されていなかった。

 

 だがバーガーとて生還を諦めた訳ではなく、この状況のなかで生き残るためにはどうするべきか、必死に頭を回転させていた。

 

(くそっ、敵さんもしつこく食らい付いてきやがる・・・旋回機銃は既に使っているから敵も警戒している筈だ。さっきのようにはいかないだろう・・・ならどうする?此方から打って出るか?どのみち帰りの推進材はもうねぇが、幸いレーダー衛星網のお陰で艦隊の方角は正確に分かっている。慣性航行で帰れない訳じゃない。なら身軽になった今はいっそ、後顧の憂いを断つべきか―――)

 

 バーガーは敵の攻撃に当たらぬよう機体を操作しながら、現在の状況を一通り分析し、行動の方針を定める。

 

「―――マリア、打って出るぞ」

 

「・・・了解です」

 

 ただ一言、後部座席の相棒に告げると、バーガーは思いっきり操縦桿を引き、フルスロットルで一気に機体を加速させた。

 

「グッ・・・だが、これで・・・!」

 

 急加速と急上昇で機体を敵迎撃隊の斜め上方後ろに持ってきたバーガーは、敵の位置を確認すると、そこを目掛けて機体を急降下させた。

 

「取った!墜ちろ!」

 

 インターセプターの一機の背後を取ったバーガーは、機首のロケット発射ボタンを押す。

 

 スヌーカの機首両脇に備えられたランチャーから飛び出したロケットは、至近距離の敵を熱反応で捉えると一気にそこへ向けて殺到し、忽ちのうちに敵インターセプターの一機を火達磨にした。

 

「これで、あと2機だな」

 

「はい―――っ!?隊長!後方より新たな敵機です!数は5機!」

 

「はァッ!?ここまで来てか!?」

 

 一難まだ去らぬまま再び一難、今度は別の敵小隊までがバーガーの機体を追撃し始めた。

 

 バーガーは予想外の増援に対して舌打ちつつも、まだ生還を諦めんと突破の可能性を探る。しかし彼は、今度はどうやっても生還のビジョンを描けそうになかった。

 

(チッ・・・倒しきらねぇうちにお代わりかよ!頼んでもいねぇのに次々と・・・しかしこれだけの数、どうしてやろうか―――)

 

 彼等のいる場所は敵艦隊からある程度離れているとはいえど、艦載機なら直ぐに到達できてしまう距離だ。ここでインターセプターとじゃれ合ったとしても、何れ物量差で押しきられてしまうのは目に見えている。しかしだからといって逃走する方を選んだとしても、7機に増えたインターセプターの追撃を躱しながら帰還への道を探ることも容易ではない。

 

「ったく、どうしろってんだよ・・・ッぐぅ・・・!?」

 

「っッ・・・、た、隊長―――!左翼に一発、食らいました―――!」

 

 今まで機体に掠り傷すら許していなかったバーガーだが、極限の集中にも遂に限界が訪れたのか、敵のレーザー機銃を左翼の中央に受けてしまう。

 被弾の衝撃で彼等のスヌーカは一瞬よろめき、左翼は被弾を受けた箇所から、特徴的な逆ガル翼の中央付近でもげて爆発した。

 

「・・・っ、ここが空中だったら死んでたとこだな」

 

「ですが隊長、まだ敵の攻撃は続いています」

 

「んなこたぁ分かってるんだ、クソッ、なかなか食い付きが良い連中だぜ―――!」

 

 バーガー達の機体に一撃を与えることができたためか、インターセプターの群は先程までよりも躍起になってバーガー達を執拗につけ狙う。

 対して操縦桿を握るバーガーの集中は、限界に達しつつあった。

 

「た、隊長ッ、敵にロックされました!」

 

「何・・・ッ、くそっ、やらせるかよ!」

 

 二回目はないと言わんばかりに、二人の機体は胴体への直撃コースでインターセプターからレーダーロックされる。

 バーガーは必死に機体を射線から逸らそうと試みるが、敵もなかなか外れてはくれず、必中のタイミングでレーザー機銃を放たんとする。

 

(ッ―――、ここまでか・・・)

 

 万事休すか、という諦めが生じかけたそのとき、バーガー達を追っていたインターセプターのうち一機が爆散した。

 

「な、何だ!?」

 

 来る筈の衝撃はなく背後の敵機が爆発したことで、バーガーは不思議に思って辺りを見回す。

 

(あれは・・・VF-22か!?)

 

 彼の視線の先には、頼もしい友軍の姿が映っていた。

 

《こちら戦乙女(ヴァルキュリア)2、援護します》

 

「―――こちらグリフィス、救援に感謝する・・・!」

 

 敵機を撃墜した紫色の戦闘機、コールサイン・ヴァルキュリア2のシュテル・スタークスが操るVF-22〈シュトゥルムフォーゲルⅡ〉は、バーガー達のスヌーカとすれ違い、一直線に敵編隊に向けて突撃する。

 

 突然の乱入者に気を取られたのか、敵編隊の統率が乱れた隙に、シュテルはマルチロックで機体のマイクロミサイルを全弾発射し、瞬く間に4機のインターセプターを撃墜した。

 

「ヒューっ、やるねぇお嬢さん。伊達に戦乙女(ヴァルキュリア)を名乗っている訳ではないってか」

 

「隊長、今のうちに態勢を建て直して脱出しましょう」

 

「おっと、そうだな。ヴァルキュリア2には悪いが機体がこの状態じゃあ反撃なんて出来ないからな。この隙に、一気に敵との距離を離させてもらおうか」

 

 機体が中破させられたバーガーは、背後でインターセプターと死のダンスを繰り広げるシュテルを尻目に、この隙に乗じてとフルスロットルで機体を加速し、敵インターセプター群の追撃から逃れた。

 

 対して戦場に一機残ったシュテルではあるが、一度に4機も落とされたためか錯乱した敵インターセプターを一機ずつ片付けると、軽やかな足取りで機体をバーガー達のスヌーカの隣に並ばせた。

 

《―――こちらヴァルキュリア2、敵は全て片付けました。そちらの推進材は心許ないでしょうから、艦隊への帰路は私が誘導致します》

 

「こちらグリフィス、さっきは助かった。でも何でお前さんが俺達の位置まで駆け付けられたんだ?あんたの担当区域はもう少し離れていたと記憶していたんだが」

 

《フフっ、貴方と同じですよ。幾ら探しても敵艦隊が見当たりませんでしたから、出来る限り奥まで探そうとしただけです。そこで敵と遊んでいる貴方を見付けましたので、助太刀させていただきました》

 

 シュテルは柔らかい口調で、バーガーの問いに対して応えた。

 彼女もまた、バーガー達と同じように索敵任務に出ていたところだったのだが、彼等と同じようにまだ見ぬ敵艦隊艦隊を求めて索敵飛行を続けてここまで辿り着いていた。

 

「成程ねぇ。まぁ、それでこっちは助かった訳だから礼は言っとくぜ」

 

「私からも・・・シュテルさん、援護有難うございました」

 

 《いえ、お気になさらず。私は務めを果たしたまでですから》

 

 バーガーとマリアの礼に対して、二人に対してまだ新参の身のシュテルはあくまで謙虚に振る舞う。

 

 死線を潜り抜けたことから来る安堵のためか、2機の間には落ち着いた雰囲気が漂っていた。

 

「ふぅ、ともあれこれで一段落だ。帰りの案内は任せたぜ」

 

《了解です。ちゃんとエスコート致しますよ》

 

 暗黒の雲海のなかを、紫色の2機は帰るべき場所へと向けて飛行していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~旗艦〈開陽〉艦内~

 

 

《総員に次ぐ、本艦はこれより戦闘態勢に移行する!直ちに配置につけ!繰り返す―――》

 

 敵発見の報を受けて、『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉艦内では戦闘配備を告げるアナウンスの音声が鳴り響く。

 

「戦闘配備か・・・悪い、そろそろ私、行かなきゃならないんだが、部屋まで戻れるか?フランドール」

 

「う、うん・・・サクヤがいるから大丈夫だよ」

 

 艦内通路でその放送を聞いた霊沙は、一緒にいたフランドールにそう告げると、彼女が与えられた部屋まで戻るのを確認して格納庫へと急いだ。

 

(なんか最近、フランドールの奴が妙に私にくっついてくるな・・・懐かれた?しかしなんで私なんだ・・・?あいつを助けたのは霊夢の筈なんだから、懐くなら普通そっちじゃないかな・・・)

 

 この日に限ったことではなかったのだが、霊沙は頻繁にフランドールに見付かってはくっつかれていたので、懐かれる心当たりがない霊沙はそれを疑問に感じていた。

 

「やあ。3日ぶりくらいかな?」

 

「よりによって・・・何であんたが居るんだよ?」

 

 格納庫へ赴く通路の途中で、呼び止められた霊沙は立ち止まった。彼女は自分を呼び止めた主に、不機嫌そうな視線を向ける。

 

「ただの偶然よ。しっかし相変わらず可愛いげのない奴ねぇ、あんた」

 

「―――オマエはいちいちそうやって、私の神経を逆撫でする・・・私は急いでるんだ、消え失せろ」

 

 霊沙は一層眼光を鋭くして、警告は一度だけと言わんばかりに眼前の人物―――マリサに対して告げた。

 

「酷いわねぇ。少しは優しくしてくれてもいいのに」

 

「ならまずは消えな」

 

「・・・本当、つれない奴ね―――」

 

 一歩も変わらない霊沙の態度に、マリサは忌々しげに呟く。

 

「―――じゃあな。さっきも言ったが、私は急いでいるんだ」

 

 そんなマリサを横目に、霊沙は彼女の隣を通りすぎようとする。

 霊沙がちょうど彼女とすれ違うそのとき、マリサは一言、霊沙にだけ聞こえるほどの小声で呟いた。

 

「それにしても、あんたの化けの皮が剥がれるのはいつかしら、ねぇ・・・博麗れ―――」

 

「――ッ!?」

 

 マリサが言い掛けたところで、彼女の頬を霊沙が放った弾幕が掠める。

 

「・・・あんた、何者だ・・・?」

 

「そう簡単に、答えるとでも思って?」

 

 臨戦態勢の霊沙に対して、あくまでマリサは飄々とした態度を貫き通す。

 

 二人の間に、張り詰めた緊張感が漂った。

 

「・・・殺すぞ」

 

「あら、やるの?私は別に構わない()?」

 

「!?っ・・・」

 

 マリサがそう告げた瞬間、先程のものよりも力が込められた光弾が彼女目掛けて殺到する。光弾は全て着弾し、通路は衝撃で生じた煙に包まれた。

 

「・・・チッ、外したか」

 

 しかし、煙が晴れて現れたのは、全ての光弾を防ぎきって、なおも余裕の表情を崩さないマリサの姿だった。

 彼女が防御のために突き出した右手の先には、彼女の身体を隠せるほどの大きさの魔方陣が展開されていた。

 

「危ない危ない。乱暴はその辺りにしておいたら?」

 

「あんた、まさか・・・」

 

「おっと、それ以上は言う必要はないわ。それじゃあね、戦闘配備なんでしょ?せいぜい頑張ってきなさい」

 

 霊沙の言葉を制すると、マリサは何事もなかったかのように、彼女に背を向けて立ち去っていく。

 

(―――相変わらず、気に食わねぇ奴・・・)

 

 霊沙もまた、それを呼び止める訳でもなく、当初の目的地に向けて歩き出した。

 

 しかし彼女のなかに生じた思考の靄は、当分晴れることはなかった―――。

 

 

 

 

 

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【イメージBGM:機動戦士ガンダム コロニーの落ちた地で...より「DESPERATE CHASE」】

 

 

 

「敵編隊、第7偵察衛星を通過!会敵まであと10分ほどです!」

 

「迎撃隊の発進を急がせて。本艦隊は前衛として敵艦隊との接触を試みる。全艦砲雷撃戦用意!」

 

「アイルラーゼン艦隊旗艦〈ステッドファスト〉より発光信号です。"本艦隊ハ後方ヨリ貴艦隊ヲ援護ス"」

 

「放っておきなさい。どうせあいつらにまともな航空戦力なんて居ないんだし。敵航空隊の迎撃は私達でやるわよ」

 

「りょ、了解!」

 

 数刻前に偵察に出たバーガーさん達から連絡があってから、艦内の乗組員達は慌ただしく戦闘配備を整えていく。予め敵艦隊が潜伏していることは予想していたけど、いざ戦闘前となると、やはり緊張するものだ。

 

「霊夢さん、スカーレット社の艦隊も後方より援護していただけるみたいです」

 

「あいつらには艦隊戦で働いて貰いましょう。あっちも航空戦力はそこまで高くない筈だし」

 

 いまの各艦隊の布陣は、最前衛に私達が乗る〈開陽〉を中心とした本隊と第二、第三艦隊からなる輪形陣が展開し、少し後ろには空母〈ラングレー〉、〈ロング・アイランド〉を中心とする第一機動艦隊が追随している。

 さらに第一機動艦隊の左右後方には、それぞれアイルラーゼン艦隊、スカーレット艦隊が展開中だ。

 敵攻撃隊の狙いは恐らくこの前衛艦隊に集中する筈だから、ここをどうやって乗り切るかが今回の課題だ。

 

「航空隊各機、発進を許可する」

 

《了解した。ガーゴイル1、マーク・ギルダー、出る!》

 

《ガーゴイル2、エリス・クロード行きます!》

 

 ノエルさんの管制に従って、カタパルトから2機のジムが発進する。ガーゴイル隊のマークさんとエリスさんの機体だ。

 

《ガルーダ1、VF-19出るぞ》

 

 続いて、タリズマンのVF-19エクスカリバーがカタパルトから射出された。

 

 発進した有人戦闘機隊の群は、既に展開している無人機部隊の後に続いて所定のポイントまで移動して敵を待ち構える。

 

《・・・アルファルド1、発進する》

 

「了解。アルファルド1発進を許可する」

 

 最後にやや遅れて、霊沙の機体がカタパルトを蹴って既に発進した艦載機隊の後を追う。

 

 ―――今日のアイツ、いつもの声より覇気が感じられなかったけど、気のせいかしら。まぁいいわ。今は目の前の状況に集中しないと。

 

 展開した艦載機隊は、第二、三艦隊のオリオン級巡洋戦艦、サチワヌ/ルヴェンゾリ級航宙巡洋艦、グネフヌイ(改ゼラーナ)級航宙駆逐艦からそれぞれ発艦した無人のスーパーゴーストとジムの群と合流し、既に迎撃位置についている。迎撃隊の合計機数は、これで120機余りだ。

 

 一方の空母機動部隊の艦載機隊は、敵攻撃隊を迂回して敵艦隊本隊を攻撃する予定だ。バーガーさんからの報告では敵の護衛艦は対空性能の低いナハブロンコ級が中心らしいから、〈ラングレー〉〈ロング・アイランド〉〈ネメシス〉三艦合計250機余りの艦載機隊で一気ヴェネター級からなる敵の機動部隊を叩く計画だ。

 ちなみに攻撃隊の内訳は、対艦攻撃を担当するスヌーカ爆撃機/ドルシーラ雷撃機隊がそれぞれ50機ずつ、それを護衛するVF-19可変戦闘機隊20機に加えてサナダさんが低コストVFとして19を元に量産性を改善したVF-11可変戦闘機隊が100機余り存在する。そしてステルス能力を持つVF-22隊30機は別動隊として異なる方角から敵艦隊を襲撃する予定だ。数を見れば分かることだが、今までの戦いと比べてVFの数がだいぶ増えている。ここまで工作艦の生産ラインをフル稼働させた甲斐があったというものだ。お陰で物資の余裕があまりない。なのでこの戦いでは、できれば被弾は抑えていきたいところだ。

 

 そして攻撃隊の役割は、敵ヴェネター級の飛行甲板デッキを破壊して敵の航空戦力を封じ、此方が有利な長距離砲雷撃戦に持ち込むこと。流石に1000m級のデカブツを100機あまりの攻撃機で撃沈するのは少々荷が重い。敵艦隊の潰走が確認されたら、そのまま艦載機隊を収容してボイドゲートに飛び込む予定だ。

 

 この作戦の一つの鍵となる攻撃隊の操作は、コントロールユニットを務める早苗が管制することになっているので、そっちの仕事に集中しているのか、攻撃隊発進後からは彼女の口数が少ない。ただ戦うだけなら個々の艦載機に積んである簡易AIで問題ないらしいんだけど、こうして緻密な連携が求められる行動ではやはり、彼女が直接操った方が上手くいくらしい。

 

「敵編隊、本艦隊の防空ラインに到達。迎撃隊は対空ミサイルを発射しました」

 

「ようやく敵さんのお出ましね。うちらの艦隊からも盛大に"歓迎"してやりなさい」

 

「了解。対空ミサイルVLS開放、各1番から4番、SALVO!」

 

 ミサイルの発射スイッチを握る管制席のミユさんが発射を指示すると、〈開陽〉の艦体各所にある対空ミサイルVLSから迎撃ミサイルの群が飛び出す。

 周囲の僚艦からも、敵の円盤形攻撃隊の編隊目掛けて合計160発以上のミサイルが飛び出した。

 

 迎撃ミサイルは艦隊前方に展開する迎撃隊を飛び越えて、真っ直ぐに敵編隊向けて飛翔する。

 敵編隊もチャフなどの妨害措置を取ったようで幾らか軌道を外れるミサイルもあるが、マッド謹製の信管を取り付けた改良型対空ミサイルはほぼ正確に目標を捉え、敵円盤編隊に地獄を再現した。

 

「目標に命中!敵編隊350機中102機の撃墜を確認」

 

「敵編隊残り250機余り、尚も当艦隊を目指して進軍中!」

 

 敵編隊は此方の迎撃でその数を一気に減らしたが、数の利があるためか攻撃を諦めてはいないようだ。実際此方の迎撃隊とは数に2倍以上の開きがあるし、自軍編隊は充分に数を残していると敵の指揮官は踏んだのかもしれない。

 

「敵編隊、わが迎撃隊と接触!」

 

 戦況を示す画面上では、霊沙とマークさん達迎撃艦載機隊と敵攻撃隊を示すアイコンが接触し、会敵したことを示していた。

 

 艦載機隊からのカメラ映像では複雑な三次元軌道を描きながら迎撃隊の火線を躱そうとする敵円盤形航空機の姿が映し出されているが、此方のスーパーゴースト隊はその動きに追随して、執拗に攻撃隊を追い詰めている。対してジム隊はスーパーゴーストほどの機動性は発揮できないが、両腕と背中の兵装担架システムのアームに装備した4門のレーザーライフルで濃密な火線を形成して制圧力を発揮し、操作を誤った敵円盤を忽ちのうちにその火線に絡め取っていく。

 

 だが敵の中にも手練がいるようで、一部の迎撃隊は敵の戦闘型円盤と思われる機隊の小隊相手に苦戦しているようだ。その小隊と交戦した迎撃隊は例外なく損害を出し、既に此方の被害も20機に届きそうな勢いだ。

 

《こちらガーゴイル1、敵攻撃機は10機ばかり片付けたが如何せん数が多い。流石に押さえきれないぞ》

 

「問題ありません、ガーゴイル1。此方も対空ミサイルの第二射を敢行します。撃ち漏らしは任せて下さい」

 

《了解だ。だが此方にもパイロットの面子があるんでね、一機でも多くここで食い止める》

 

 マークさんのジムは、映像で見える範囲でも既に小破状態のようで、左側の兵装担架システムが脱落してしまっている。だが彼は通信を寄越した後でも怯む素振りを見せず、果敢に敵編隊へ戦いを挑んでいる。そういえば、いつもは我先にと暴れまわっている霊沙の奴はどうしたのだろうか。

 

《うおっ、もうドンパチ始まってるじゃねぇか・・・こりゃ最後にもう一苦労ありそうだな》

 

《こちらヴァルキュリア2。申し訳ありません、帰還予定時刻を過ぎてしまいました。着艦許可願います》

 

「グリフィス、ヴァルキュリア2、無事で何よりです。敵編隊の攻撃が予想されるので、着艦時には注意して下さい」

 

《了解。これよりアプローチに入ります》

 

《ここまで牽引どうもお嬢さん。後は此方で残しておいた推進材だけでも大丈夫だ》

 

 今度は攻撃隊が現れた方角とは逆側から、敵艦隊発見の立役者であるバーガーさん達の姿が見え始めた。敵に単機追われていると報告があったときにはどうしようかと思ったものだけど、無事に還ってきてくれたみたいで良かった。

 

「あら―――アルファルド1、交戦区域から外れているようですが、何かありましたか?」

 

 バーガーさん達の生還で一息ついたのも束の間、ノエルさんの席から何やら不穏な通信が聞こえたんだけど・・・

 霊沙の奴、なにかヘマでもしたのかしら?

 

《チィッ・・・悪ぃ、ちょっとコイツラ、なかなかの手練みたいでよ・・・こっちが徐々に誘導されている・・・ッ!》

 

「アルファルド1、援護が必要なら要請しますが」

 

《いや駄目だ!こいつら見た目こそ他の雑魚と変わらないが中身は全くの別モンだ!ここは私が・・・ッ、よし、やっと1機め!》

 

 通信の内容からすると、霊沙は敵のエリート部隊と戦っている最中のようだ。それも1機で。本当に大丈夫なのだろうか。

 

「アルファルド1、機体の損耗率が40%を越えているようですが、本当に大丈夫ですか?」

 

《ああ・・・大丈夫ったら大丈夫だ。敵さんあと2機みたいだからな・・・何とかなる、さ・・・!ッ!?》

 

 直後、通信音声の向こう側で爆発音が響く。

 

「っ、ちょっと代わって!あんた、いいから無理はするな!一度戻ってきなさい!」

 

「か、艦長!?」

 

《なっ・・・馬鹿か霊夢!オマエは指揮に集中してろ!・・・っ!》

 

 私は艦長席からノエルさんの通信回線に割り込んで、強引に霊沙に向かって呼び掛けた。

 

「あんたが素直に帰ってくれば良いでしょ!兎に角一度帰艦しなさい!あんたの機隊、もうボロボロじゃない!」

 

《ああ分かったよ!とにかくこいつら片付けてからな!じゃあ一度切るぞ!話してばかりじゃ集中も続かない》

 

 ツー、と、通信回線が切断された音が鳴り響く。

 

 ―――あの、馬鹿・・・ッ!

 

 たたでさえ今日は調子が悪そうなのに、よりによってアイツは敵エースの相手をして、しかも追い詰められているらしい。下手な虚勢なんて張らなくていいのに。アイツは今生死が掛かっているんだから。

 

 ・・・でも今はただ、アイツの無事を祈ることしかできない。

 

「チッ、相変わらず気に食わない奴―――こころ、敵編隊の状況は?」

 

「あっ・・・はい!現在4割ほどが迎撃隊を突破。真っ直ぐわが艦隊を目指しています」

 

「―――中々やるわね。ミユさん、対空ミサイルVLS開放、迎撃しなさい!」

 

「了解です。対空ミサイルVLS、各5番から8番開放、目標敵攻撃機、SALVO!」

 

 私は気を取り直して、再び艦長としての役割に集中する。

 此方の迎撃隊を飛び越した敵編隊は凡そ100機余り、その全てに向けて、艦隊から対空ミサイルの第二射が解き放たれた。

 敵は1度目の迎撃に比べて大きく数を減らしているのに対して、艦隊輪形陣には傷ひとつ付いていない。二度目の迎撃の結果など、火を見るよりも明らかだ。

 

 艦隊輪形陣各艦から発射された対空ミサイル(マッド謹製信管付き)は真っ直ぐ敵編隊に飛んでいき、今度こそこれを虫の息に追い詰める。

 

 しかし迎撃でき入る一歩手前で敵対艦ミサイルの射程に達してしまったようで、一部の機隊からは艦隊に向けて対艦ミサイルが解き放たれた。その数70発。

 

「敵編隊、長距離対艦ミサイルと思われる物体を発射!」

 

「ミユさん、VLSの目標を敵航空機から敵ミサイルへ移行。リアさんは電子妨害をお願い。フォックス、CIWSとパルスレーザーで最終迎撃を頼んだわ」

 

「了解。VLSの照準を対艦ミサイルに変更」

 

「了解しました。電子妨害開始します」

 

「イエッサー。漸く出番だ。腕が鳴るぜ」

 

 敵ミサイル発射の報せを受けて、それぞれ此の迎撃を命じる。他艦の迎撃と合わせれば、捌ききれない数ではない。

 

「早苗、攻撃機の操作で忙しいと思うけど、輪形陣各艦に迎撃目標を指定してくれる?」

 

「っ、了解、しました・・・っ!お安い御用です!」

 

 早苗が僚艦に迎撃目標を割り振るのが済むと、艦隊の他の艦からも迎撃のミサイルと電子妨害が開始される。

 

 敵ミサイルはその大半が此方の迎撃ミサイルとパルスレーザーに捉えられるかソフトキルで無力化されるなどして、最終的には2発を残すのみとなった。

 

「敵ミサイル、一発は回避コース。もう一発は〈ソヴレメンヌイ〉に着弾。損害は軽微です」

 

「ふぅ―――攻撃隊はこれで何とか凌ぎきったわね」

 

「あれ―――か、艦長。〈ソヴレメンヌイ〉艦内でバイオセンサーが高濃度生物兵器汚染を関知しました。自動消毒機構が作動しています」

 

「はぁ?生物兵器汚染?火災じゃなくて?」

 

「はい。間違いありません」

 

 敵の攻撃を凌いだと思ったら、今度は謎の報告が寄せられた。ミサイルが着弾したらふつう起こるのは火災だと思うんだけど。

 

「―――故障かもしれないわね。一応〈ソヴレメンヌイ〉の隔壁は閉鎖しておきなさい」

 

「了解です」

 

 まあ念には念を入れて、〈ソヴレメンヌイ〉は後で調べさせておきましょう。確かあれは第二艦隊の所属だから、ショーフクさんの方にも報告行ってるかな。

 

 さて、肝心の戦況はどうかというと、敵編隊が壊滅したことで此方の艦載機隊にも帰還命令が出されている。一応霊沙の奴も何とか無事のようだ。

 

 そして、こっちの攻撃隊の戦果はというと―――?

 

「霊夢さん、攻撃成功です!此方の攻撃隊は無事敵艦隊を捉えました!」

 

 早苗の様子から分かる通り、攻撃には成功したようだ。

 天井のメインスクリーンには攻撃隊の様子が映し出されているが、敵の直掩隊は100機を越えるVFの群に押し潰され、スヌーカ隊が先鋒とばかりにナハブロンコの群を越えて敵艦隊深部のヴェネター級群に迫っていく。

 敵のヴェネターからの対空砲火で少なくない数のスヌーカが落とされるが、迎撃の火線を潜り抜けたスヌーカ隊は直掩機を蹴散らして手ぶらになったVF隊と共に敵艦表面に取り付くと、しらみ潰しに対空火器を破壊していく。

 

 そしてスヌーカ隊とVF隊が切り開いた突入路を通して量子魚雷を機首に抱えたドルシーラ隊が突撃し、ヴェネターの飛行甲板デッキに向けてそれらを次々と投下していく。

 平均10発前後の量子魚雷を飛行甲板デッキに受けたヴェネターは次々と炎に包まれ、見た目には航空機運用能力を喪失したように見えた。

 

「・・・汚い花火ね」

 

「奇襲成功。攻撃隊帰投します」

 

 この光景を作り出した艦載機の群は、火達磨になったヴェネターを尻目に、この本隊への帰路を辿り始めた。

 

 これで残すは、敵の水雷艇と戦艦だけだ。

 

 

 

 

 

 




第61話です。本当はもっと長くしたいんですが、6~7000字辺りからページが重くなるのでこの辺りが今の限界です。

マリサちゃんの正体?それについてはノーコメントで(笑)

ちなみに前回敵の正体についてお尋ねしましたが、前々回の毒ガス兵器と今回の生物兵器という語が一つのヒントでございます。そして敵の航空戦力は円盤型航空機です。

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