夢幻航路   作:旭日提督

67 / 109
投稿遅れて申し訳ありません。この通り生きてます。

半分はお仕事が原因ですが、もう半分の原因はギ○ンの野望という神ゲーのせいですw

ガンダムに大戦略要素とか、ドツボに嵌まる要素しかありませんよね?


第六三話 新兵器開発事情

~『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉艦内工場~

 

 

ウイスキー宙域を抜け、ヴィダクチオ自治領本土宙域へ進軍する博麗霊夢率いる0Gドック艦隊『紅き鋼鉄』・・・

その旗艦〈開陽〉の艦内では、ヴィダクチオ自治領軍との決戦に向けて新兵器の開発、量産が進められていた・・・

 

艦内工場では、『紅き鋼鉄』整備班の猛者達が試作した新型機動兵器の試作機群が並べられ、それらの組立や各種テストが行われている状況にあった。整備班長のにとりは、それらの兵器の開発状況を確認するため、自分の専用研究室を出て艦内工場へ視察に訪れていた。

 

「班長、現在の開発状況になりますが、"サイサリス"と"次期量産機"は無事稼働テストに持ち込めました。しかし"グリント"の開発は芳しくない状況です・・・」

 

「むぅぅ・・・"グリント"は敵大型艦対策の切り札になるかもって思っていたんだけとなぁ・・・それは残念だ。ちなみに実戦には投入出来そうかい?」

 

「"グリント"は試作一号機が何とか稼働状況に持っていけるかという状況ですから、決戦までに実戦投入することは厳しいかと。まだ試作ブースターユニットを接続させた場合の強度テストも済んでいません。ですが"サイサリス"と"次期量産機"の投入は可能だと思います」

 

にとりと会話していた整備班のチョッパーは、工場内で最終調整が行われている2機の試作機へ視線を移した。にとりも彼と同様に、その試作機へと視線を向ける。

 

その試作機のうちの一機は、トリコロールカラーに塗られた重圧な威容を誇るロボットで、右手には大型のバズーカユニット、左腕には機体の全長ほどもある巨大なシールド、背部には3連装ミサイルランチャーが2基セットされており、総じて重火力・重防御機といった印象を与える。両肩に装備された大型のブースターユニットも、その印象に拍車を掛けていた。

 

もう一機の試作機は前者とは対照的にスレンダーな機体で、現行の〈ジム〉をそのまま発展させたような印象を与えるシルエットを持っている。機体は全身青系統で塗装され、宇宙での迷彩効果を狙っていることも見て取れた。細かなシルエットも〈ジム〉に比べるとより複雑化しており、装甲が全体的に強化されている他、頭部にはアンテナも追加されている。武装はジムに装備されたのと同型のレーザーマシンガンを右手と左手にそれぞれ一挺、左腕には新型のシールドも装備されている。背部の可動兵装担架装置は再設計されたのか形状がジムのものとは異なり、搭載されている火器も折り畳み式の長距離大口径砲とガトリングレーザーと、ジムに比べてより高火力化しているのが分かる。

 

「ふむ・・・この2機は順調なみたいだね確か"サイサリス"は重火力機だって訊いているけど」

 

「はい。"サイサリス"は対艦・対地を意識した機体として開発しています。大型バズーカには艦船用の量子魚雷を改造した弾頭を装備していますから、コルベットクラスなら一撃で仕留められます。このバズーカは換装により通常の誘導弾頭を発射する仕様にすることも出来ます。背部のミサイルも対艦、対地と二通りの弾頭を用意しました。脚部には地上移動用のホバーを装備しているので、地上では高い機動性を発揮できます」

 

「うへぇ・・・改めて聞いてみると、かなり凶悪な機体だねぇ・・・欠点を挙げるとすれば、宇宙での機動性が低いことかなぁ」

 

「そうですねぇ。この機体、重量に比べたら機動性は良い方なんですが、やはりメインスラスターが両肩という構造上、あまり大出力のエンジンを積めないもので・・・それに高コストですから、あまり量産も出来ませんね・・・」

 

「確かに、支援機としては優秀なんだけどねぇ・・・」

 

「はい。この機体はコストがかなり高めですから、生産したとしても一部のパイロット用に留まるでしょう。一応支援機としての役割は"次期量産機"の武装オプションを増やしたことで解決しましたが」

 

にとりとチョッパーは、"サイサリス"についての批評を交わした。実はこの機体、にとりは直接設計や開発に携わっていたわけではない。艦の統括AIである早苗が提案したコンプセントを基に、チョッパー以下整備班の有志達が開発した機体なのだ。ちなみに外見に関しては早苗から詳細な注文が為されており、概ね彼女のデザインスケッチ通りの形状に仕上がっている。

 

一方で後者の"次期量産機"は文字通りジムの後継を意識して開発した機体のため、設計段階からにとりが関わっている。ジムはマニピュレーターによる武装の切り替えで汎用性を確保していたが、実際には対艦載機に特化した武装しかなかったという反省点を生かし、この"次期量産機"では各種支援火器とそれを運用する可動兵装担架装置が新規に設計されていた。これらの武装は、ジムにも装備できるよう規格が揃えられている。

 

二人は話題をサイサリスから、次期量産機へと移した。

 

「ふむ・・・で、その"次期量産機"に関してなんだけど、やっぱり新規設計の武装オプションの分、コストが嵩んでいるって主計課のルーミアからうるさく言われてさ、もしかしたら、ジムとのハイ・ローミックスでいくかもしれない。完全に置き換えるのは多分難しいよ」

 

「やはりそうなりましたか。元々ジムもまだまだ新しい機体ですし、今の段階で置き換える必要性は薄いですからね」

 

「まぁ、私もコイツでいきなりジムを淘汰できるとは考えてない。これはまだ想定の範囲内さ。ところで、新型の戦闘用AIの方はどういう状況だい?」

 

「はい、現在は概ね好調です。可動初期は何回か暴走事故がありましたが、AIを既存品の改良型に切り替える措置を施したので問題はありません。直近のテストでも、暴走を起こすことは無くなりました。班長が提案した予備AIの製作案が役に立ちましたよ」

 

『紅き鋼鉄』の艦載機の大半が無人機であるため、この"次期量産機"も自律AIの搭載が予定されていたのだが、チョッパーが説明した通り、初期には幾度も暴走事故があり機体の完成が危ぶまれていた。しかしこれは、AIを完全新規の仕様ではなく、既存のそれの改良型に切り替えたものに変更されていた。これにより当初の予定と比べて無人時の反応速度が落ちることになったが、兵器としての完成度は著しく上昇した。

 

「新兵器開発に失敗は付き物だ。それを想定して複数のプランを立てておくのが一流の技術者というものさ。仮に一つのプランが失敗しても、予備のプランを用意しておけば開発は進められる。今回の失敗も、次に生かせればいいさ」

 

「ハッ、肝に銘じておきます」

 

AI開発の失敗に対し、にとりは叱責するわけでもなく、その失敗を次に生かすべきだとチョッパーに説く。

その言葉だけ聞けば大変良いものに聞こえるのだが、その裏では莫大な費用が掛かっている。そして『紅き鋼鉄』一番の金喰い虫は彼女達マッドである。

そのため主計課のルーミアと艦隊指揮官の霊夢は、マッドの暴走により喪われた金額に、毎回頭を抱えているのであった・・・

 

「それと、新型兵装の方はどうなっている?」

 

「はい、まだテストには漕ぎ着けていませんが、計画されていたものは全て完成しました。大半は問題なく撃てると思いますが、折り畳み式の長距離支援砲は機構が複雑なのでテストしてみないことには使い物になるのか分かりません」

 

続いて二人は、"次期量産機"に用意された武装オプションの話題へと移行する。

この"次期量産機"の開発に当たっては、現在機体に装備されている折り畳み式長距離支援砲と制圧力に重点を置いて開発されたガトリングレーザーの他に、火力強化を目的とした6連装多目的ミサイルランチャーや4連装対艦ミサイルランチャー、狙撃による友軍支援を実現するためのレーザースナイパーライフル、格闘戦能力の強化を意識したスパイク・シールドなど多彩な武装が用意されている。新型機を開発するついでに機動兵器用の新型武装も開発してしまおうという魂胆だ。その武装の大半は既に完成しているが、機体同様稼働テストは未着手のため、戦力価値は未知数である。

 

「この機動兵器群最大の売りは武装換装による汎用性だ。いち早い戦力化を頼むよ。既存のジムの火力強化にも繋がるからね。テストは最悪実戦で済ませてもいいから、敵さんとの決戦までにはミサイルランチャーとガトリングは一定数配備してくれ」

 

「ハッ、了解しました」

 

にとりはチョッパーに、これらの新型兵装の量産を指示する。彼女が言った通り、機動兵器用の新型兵装は既存のジムでも運用できるように設計されているので、大量配備が叶えばジム一機種でも制空、対地、対艦攻撃など多彩な任務をこなせるようになるのだ。そのためにとりは、これらの武装を機体に先んじてでも量産する価値があると践んでいた。

 

「さて・・・じゃあ最後に"グリント"の開発状況を詳しく聞かせてもらうよ。チョッパー、どんな調子なんだい?」

 

「はい・・・"グリント"は一応形にはなりましたが、まだまだ未調整部分が多いのが現状です。試作ブースターは完成していますが、先程お伝えした通り、ブースター接続状態の強度テストを済ませないことには実戦で使うには危険すぎます」

 

「ふむ・・・やっぱりコイツが一番難航しているか―――それで、最初に予定していたデフレクターユニットの小型化は上手くいってるのかい?」

 

「ハッ、それが・・・流石に艦船用のデフレクターを小型化するとなると要求される技術レヴェルが高いもので、未だに実物は完成していません・・・幸いAPFSの搭載には成功しましたので、対レーザー防御力は予定の水準を満たすことができました」

 

二人は格納庫の最奥に佇む、黒い機動兵器へと視線を移した。

 

この黒い機動兵器―――通称"グリント"は、単独で敵艦隊中枢に突撃し、その制圧力を以て敵の指揮系統を破壊、戦線を自軍有利に押し進めるというコンプセントで開発された強襲型機動兵器だ。その目的を果たすために、機体両腕には先程の4連装対艦ミサイルランチャーを装備可能なハードポイントが設けられ、専用の手持ち式レールガン・ライフルも開発されている。先程から話題に登場しているブースターは、機体に接続することで通常の航宙機を遥かに上回る速度を発揮し、敵艦隊中枢に突撃を仕掛ける為に開発されているものだ。

そしてこの機体最大の特徴は、APFシールドとデフレクターユニットの装備にあった。機体にAPFSとデフレクターを装備することにより艦載機としては破格の防御力を手にする予定だったのだが、流石に艦船用デフレクターユニットの小型化は容易ではなく、現在製作されている試作一号機にはデフレクターユニットは装備されていない。APFSの装備には成功しているので、既存機よりも高い対レーザー防御力を誇る(ただ小型化の代償として出力は当然ながら大きく低下しているため、艦船や航空機のパルスレーザー程度しか防げない)

機体自体も、APFSとデフレクターユニットを小型化して装備するとはいえジムサイズでは搭載不可能と想定されたため、全高18mのジムに対して26mと凡そ1,5倍のサイズとなっている。機体の外観もジムや"次期量産機"と異なり、鋭角的なシルエットだが、これは機体の設計時にネージリンス系の航宙機技術を一部採用しているためだ。機体の塗装も、宇宙での視認性低下を狙って黒を基調とした塗装が施されている。

搭載機関については、ジムや"次期量産機"用に用意されたジェネレータではなく、新規設計の大出力ジェネレータが装備されている。これはAPFSやデフレクターユニットに供給するエネルギーを確保するという目的もあるが、その副産物としてブースター切り離し後は高い機動性を発揮することができ、速度性能も"次期量産機"を遥かに上回る。しかし現時点では冷却に難があり、試作一号機では動力パイプが露出していたり、両肩部にはわざわざ冷却用のケーブル状ユニットが接続されているぐらいである。(本来の設計では両肩部にもブースターと兵装のハードポイントを設ける予定であった)

 

"グリント"は総合的に見れば、開発されている機種のなかでは最も高性能な機体といえるが、同時に係るコストもまた膨大であった。

 

「ふむ、状況は大体分かったよ。今後はデフレクターの小型化が課題だけど、ジェネレータの冷却問題もある。まだまだ課題が多い機体だね。人員と予算をもっと投入する必要がありそうだ。今度主計課に掛け合ってみるよ」

 

「有難うございます。この"グリント"が完成すれば、我々の艦隊の戦力は飛躍的に上昇します。何とかヴィダクチオとの決戦には間に合わせたいものです」

 

「ああ、ご苦労さん。これからも頑張ってくれたまえ。開発に行き詰まったときはいつでも頼ってくれていいよ。それじゃ、私は自分の研究室に戻るからね」

 

「ハッ、お疲れ様です」

 

にとりは工場の視察を一通り終えると、自身の研究室へと戻っていった―――

 

 

 

~『紅き鋼鉄』特大型工作艦〈ムスペルヘイム〉~

 

 

にとり達が旗艦〈開陽〉の艦内工場で新型機動兵器の開発に興じている間、『紅き鋼鉄』が誇るマッドサイエンティストの一人、サナダはこの巨大ドック型工作艦〈ムスペルヘイム〉を訪れていた。民間でも一般的に使われているビヤット級貨物船を横に2隻並べ、その間に造船/整備用ドックを設けたこの艦は、通常の宇宙船ではまず造ることができない巡洋艦や駆逐艦といった普通は宇宙ステーションのドックで建造される宇宙船も造ることができ、さらに本格的な整備、修理作業も可能な高性能工作艦である。

その能力を以て『紅き鋼鉄』の屋台骨として日々働いているこの艦のドックには、一隻の巡洋艦が係留されていた。

 

「・・・改修作業に必要な資材は充分あるな。これなら例の三重連星系を越える頃までには何とかなりそうだ。当初のプランからは大分メニューが削除されているが、今は時間が優先だ。これで構わないな?」

 

「―――ええ。それでいいわ」

 

〈ムスペルヘイム〉の艦橋部で艦の工作機械に改造内容を指示したサナダは、隣に佇む軍服姿の金髪碧眼の女性―――アリスに尋ねた。彼女が此処にいる理由は、言うまでもなく〈ムスペルヘイム〉のドックに入渠している艦が彼女の旗艦〈ブクレシュティ〉だからである。

 

「今回の改造内容は超遠距離レーザー砲の設置だが・・・少し無理すれば増設格納庫も設置できると思うぞ?それはいいのか?」

 

「そこまでやっていたら決戦には間に合わないわ。"慣らし運転"の時間は出来るだけ多く取りたいしね。それに、私一隻の為に資源を使いすぎたら、あの提督さんが怒るでしょう?」

 

「確かに、それもあるな。では、改造を始めるぞ」

 

サナダはアリスから改造についての同意を得ると、コンソールを操作して作業開始を工作機械に指示する。工作機械が稼動し、自艦の改造に着手する様子をアリスは無機質な視線で眺めていた。

 

いま〈ブクレシュティ〉の艦体に取り付けられんとしているのは、かつてアリスが霊夢に提示した武装強化プラン、ディープストライカー装備にて計画されていたものの一部である。本計画ではこの超遠距離レーザー砲の他に増加装甲や大型対艦ミサイル、追加のエンジンノズルや増設格納庫などを設置して、複数の無人戦闘機群を搭載して一隻で一個小艦隊分の能力を持たせようという野心的な目標が設定されていた。実際にシュミレーション上ではスカーバレル全艦隊を一隻で殲滅可能という結果が出されたのだが、改造に係るコストがあまりにも膨大なために霊夢の手によってプラン自体が御蔵入りさせられていた。しかし自分の半身ともいえる〈ブクレシュティ〉の戦力強化を諦めきれないアリスは密かにタイミングを窺い、ヴィダクチオとの決戦という大義名分を得た彼女はサナダと共謀して自らの野心を実現せんとしていた。

 

―――表面上は無機質な彼女だが、その本質は隣にいるマッドサイエンティストと同じなのかもしれない・・・

 

「改造では超遠距離レーザー砲の増設に伴って、機関の改良工事も実施する。この工事でインフラトン・インヴァイダーの出力は従来の1,5倍まで上昇するだろう。駆逐艦並・・・いや、それ以上の速度が発揮可能だが、同時にピーキーな機体になるぞ。そのことは頭に入れておけ」

 

「それは承知の上よ。そもそも私の義体(カラダ)を造ったのは貴方でしょう。私がこの程度の改造で演算能力の限界に達するとでも?」

 

「いや・・・要らぬ心配だったな。ついでに訊いておくが、お前はこれでどう戦うつもりだ?超遠距離レーザーのアウトレンジだけでは、大軍相手には決定打に欠けると思うのだが」

 

「いや、今はこれで充分よ。副産物とはいえ艦速の大幅な向上も図れるのだから、これを使わない手はないわ」

 

「ふむ、強化した速度性能を生かすと・・・となれば遠距離からのアウトレンジとは矛盾しないか?」

 

サナダは、アリスの答えに対してそう疑問を呈した。改装されて能力が大幅に向上したとはいえ、〈ブクレシュティ〉は火力に関しては並の巡洋艦からはあまり大きく逸脱していない、常識的な範囲に収まるものだった。今回の改造においては超遠距離レーザーによる大幅な火力増強が達成される予定だが、それをどう速度性能と関連付けるのか、サナダには彼女の考えていることが予想できなかった。ふつう宇宙戦で速度を生かす戦法といえば、駆逐艦や水雷艇が取る近距離雷撃戦術なのだが、それは今回の〈ブクレシュティ〉の改造コンプセントとは真っ向から対立する戦術だからである。

 

疑問を投げ掛けたサナダに対して、アリスは無表情のまま言葉を続けた。

 

「なに、速度を生かす戦法は駆逐艦みたいな戦い方だけではないわ。敵射程外からの砲撃と優秀な速度性能を組み合わせれば、敵の陣形の弱点を突ける射点に素早く移動出来るでしょう。仮に敵旗艦が自軍から見て陣形の後方に位置しているのなら、そこを砲撃できる地点まで迅速に展開することが可能になるわ。それに本体から離れて行動することで、敵の目を盗んで移動することができる。いわば、宇宙戦版のスナイパーみたいな戦いね」

 

「ほう、宇宙艦隊戦でスナイパーとは・・・君もよく考えたものだな。まさか白兵戦の概念を艦隊戦に持ち込もうとは・・・」

 

「そんな大したことじゃないわ。現にカルバライヤだって、超遠距離からの砲撃で敵の陣形に穴を開けるという戦術を採用しているのだし。尤も、あっちはノロマだけどね」

 

アリスが考案した運用法とは、本体から離れて単艦で行動し、優秀な速度を生かして素早く射点に付き、敵の射程外から砲撃を敢行するというものだ。これは彼女が話した通りスナイパーの戦いに着想を得たもので、優秀な速度は素早く射点に付けるのみではなく、同時に離脱も素早く行うことが出来ることを意味していた。これとアクティブステルスやジャミングなどの措置を加えることで、文字通り宇宙のスナイパーとして艦を運用することが出来るのである。さらに加えて、ヴィダクチオ自治領軍との決戦が予想されているサファイア宙域は、レーダー障害を起こす暗黒ガスが非常に多く充満している宙域でもあり、より隠れるのに適した場所であった。この地形条件を生かすことによって、敵が察知し得ない方向から砲撃ができる可能性も高い。暗黒ガスによって自艦のレーダーも影響を受けることになるが、それは偵察機とのデータリンクで解決することができる問題だ。

 

「カルバライヤのあれは事情が違うだろう。そもそも彼等のアウトレンジ戦術は、ネージリンスの艦載機に対抗するためのものだからな」

 

「あら、そうだったかしら。私もまだまだ知識不足ね。そういえば貴方、また妙なもん造ってない?ここまで来る途中、艦の工場に変な奴等が大量に安置されていたんだけど・・・」

 

アリスは話題を一転して、サナダが開発しているらしき新兵器について尋ねた。

サナダは特に隠すわけでもなく、彼女の問いに素直に応える。

 

「ああ、アレのことか。なにも変わったものではない。ただの突撃艇だよ」

 

「突撃艇?まぁ、サイズと形からすればそうだろうとは考えていたけど・・・貴方らしくないわね。貴方はもっと高性能なものを好む人間だと思っていたのだけど」

 

「それは勘違いだな。生憎私のポリシーは"使えるものを造る"でね。必要とあらば、安価な兵器の開発と大量配備も躊躇わんさ」

 

サナダはアリスの問いに応えながら、コンソールを操作して話題の突撃艇のデータを取り出した。

 

その突撃艇は全長50m程度で、艦首部にはフランコ級やレベッカ級の両舷艦尾に接続されている推進材タンクをそのまま流用した即席ミサイルランチャーを装備し、その後方から延びた支柱の先に艦の制御を担当する簡易AIを載せた艦橋部を設置、艦橋下部には円形の推進材タンクが3基並び、それを挟む形でエンジンブロックが艦橋部から延びた支柱とタンクによって接続されている。総じて簡易的な構造であり、いかにも安価な兵器という印象を与えていた。

 

「この突撃艇であるが、武装は艦首の大型対艦ミサイルランチャーに、エンジンブロックに設置したフランコ級と同型の小口径レーザーが4門のみだ。戦力価値は、我々の技術でフランコ級を改造した場合とそれほど大差はない。しかし、こいつの最大の売りはコストにある。フランコ級一隻の建造に必要なコストは約3000Gほどだが、コイツはその三分の一、約1000Gで建造が可能だ。コストを抑えるためエンジンからはワープドライブを外しているが、加速力や速度性能は駆逐艦にも劣らない。貧乏性の艦長にはお似合いの兵器さ」

 

「貧乏性か・・・確かに提督さん、お金のことよく気にしてるわね―――」

 

「まぁ、平たく言ってしまえばその場限りの使い捨てと割りきってもらって構わない。こいつを10隻程度配備しても価格は約10000Gだ。駆逐艦一隻分だな。駆逐艦一隻分の予算で、的が10個増やせるのだ。さらに10隻も造れば、巡洋艦の1隻2隻はミサイル攻撃で落とせるだろう。一般的な巡洋艦の価格は15000~20000Gだから、敵巡洋艦2隻と引き換えに壊滅したとしても充分お釣りが来るレベルだな」

 

「それは分かったけど・・・使い捨てなんて、それこそ貴方らしくないわ。これも対ヴィダクチオ用の兵器なの?」

 

サナダが突撃艇の仕様を解説するが、今度はアリスがそれに対して疑問を呈する。

サナダのマッドサイエンティストな性格からすれば、自分の発明品にはかなり愛着を持つ筈であり、わざわざ使い捨ての兵器を造るのだろうかという疑問が彼女の中にはあった。ヴィダクチオとの戦力差があるとはいえ、そのような兵器を進んで開発するとは、彼女には想像できなかった。

 

しかし、サナダの答えは、意外なものであった。

 

「対ヴィダクチオか・・・それもあるが、実はコイツの主敵は、ヤッハバッハなのだよ」

 

「ヤッハバッハ・・・?」

 

「ああ、私はね、この艦隊がヤッハバッハと再び戦う羽目になるだろうと予測している。仮に小マゼランから上手く脱出できたとしても、奴等なら間違いなく大マゼランまで進軍してくるだろう。そうなってしまえば、最早我々に安息の地はない。ヤッハバッハから身を守るための戦力が必要だ。それに自給自足体制を確立するためにも、サマラが有していたような移動要塞も不可欠になるだろう。しかし、その要塞を護るための艦隊戦力を揃えるのにも時間がかかる。今までのように、艦船の損失を抑えることも難しいだろう。ならばいっそのこと、安価で強力なコルベットクラスの艦を複数揃えるべきだ・・・私はそう考えたのだよ」

 

サナダがこの突撃艇を開発した理由・・・それは、来るべきヤッハバッハとの戦いに向けてのことだった。

小マゼランの戦力ではヤッハバッハの進攻を抑えきれないと見ていた彼は、仮に大マゼランに逃れたとしても、艦隊がヤッハバッハの進撃から逃れることは最早不可能であると結論付けていた。だが彼とて、ヤッハバッハの支配下で生きるつもりなど毛頭ない。彼等の支配下では自由な研究活動ができないからだ。そこで彼は、艦隊を護るためにこの突撃艇の開発を決意したのだ。

 

「・・・まさか、貴方がそこまで予測していたなんてね。ただの発明馬鹿かと思っていたけど、以外と他のことにも頭が回るじゃない」

 

「失礼だな。君を造ったのは誰だと心得ている」

 

「発明馬鹿ってことは、要は頭が良いってことでしょう?遠回しにわが生みの親を褒めたつもりなのだけど」

 

「・・・それの何処が褒め言葉だというのだ・・・」

 

アリスはサナダの予測に感心はしているのだが、生みの親に対しては中々に毒舌であった。

 

また性格の調整にしくじってしまったのかと、サナダは毒舌を浴びせられながら思案していた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~〈開陽〉艦内通路~

 

「ねぇ霊夢さん、今更なんですけど・・・」

 

「なに、早苗?」

 

艦のコントロールルームを後にした二人は、艦橋に戻るために、艦内通路を歩いていた。

そこで早苗が、霊夢に対して話題を切り出す。

 

「なんでこのタイミングで、私のことについて尋ねられたんですか?ホームシックだけが理由じゃないような気もしまして・・・ああ、別に違ったらそれでいいんですけど・・・」

 

早苗の疑問は、本当に霊夢が自分の正体について尋ねてきたのはホームシックだけが理由なのだろうか、ということだった。霊夢からすればそれが一番の理由なのだが、彼女には、もっと別の理由があるのではないかとも思えていた。なので、そこだけが未だに引っ掛かっていた。

 

「タイミングなんて・・・どうでもいいでしょう?たまたま私が寂しくなったというか、全部アイツのせいなんだけど、それに―――」

 

「それに、なんです?」

 

霊夢は早苗の問いに応えるが、一呼吸置いて、一番の理由を話す。

 

「ここで聞いておかないと、後がないかな、って思ってさ・・・」

 

「霊夢、さん―――?」

 

後がない―――その言葉の意味を悟った早苗は、一瞬思考が固まってしまう。

 

「・・・クスッ、後がない、なんて縁起でもありませんよ、霊夢さん!ここはもっと楽観的に行きましょう!」

 

「そう言われても・・・昔とは違うんだし・・・」

 

「そんなことないですよ!今までだって乗り越えて来れたんです!今回もきっと何とかなりますよ!」

 

―――なんたってこの艦隊には、本物のご加護があるんですから―――

 

早苗は励ますかのように、悲観的な霊夢を諭す。

彼女の明るさに影響されたのか、霊夢の表情から影が退いていく。

 

「加護、か・・・確かにあんたが居てくれるなら、本物の加護があるのかもね」

 

「はい!頼りにして下さい!(・・・本当は、私の加護じゃないんですけど・・・今は黙っておきますか)」

 

早苗は本来現人神だったためか、霊夢は早苗の言った加護とは彼女のものなのだろうかと思案する。

実際は、それとは異なっているのだが――――

 

「あら―――霊夢さん、あれって・・・」

 

「どうしたの、早苗・・・」

 

二人が通路の曲がり角に差し掛かったとき、早苗がなにかを見つけたのか、先程までの笑顔を止め、枝分かれする通路の方角を向く。

霊夢もそれにつられて、早苗と同じ方角に視線を向けた―――

 

「あれって、もしかして霊沙さん―――」

 

「―――!!ッ」

 

早苗の言葉が終わる前に、霊夢は駆け出す。

 

霊夢が駆けた先にあったのは、床に倒れ伏した霊沙の姿だった。

 

「ちょっとあんた!?こんな場所でどうしたのよ!」

 

「うっ―――だ、だれ――――?」

 

霊夢の呼び掛けに対して、普段の様子からは信じられないほど弱々しい声で、霊沙が応える?

 

「もしかして・・・戦闘で何処が痛めて、それが今になってきているのかも・・・霊夢さん!早く霊沙さんを医務室に!!」

 

「わ、分かったわ!早苗、コイツを運ぶわよ!」

 

「了解です!霊沙さん、ちょっと失礼しますよ」

 

「ぅ―――う・・・ん」

 

意識が朦朧としているのか、早苗の呼び掛けに対しても、彼女は弱々しい反応しか返さない。

 

「全く、心配ばかり掛けさせて・・・!異常があるならすぐに言って頂戴よね、ほんと」

 

「よいしょ―――っと!霊沙さん、すぐ医務室に連れていきますから、もう暫く我慢してて下さいね!」

 

「・・・・・・」

 

霊夢と早苗は二人で霊沙を抱え、急ぎ医務室を目指す。

 

余裕のない二人は、霊沙の頬を静かに流れた涙滴に気付くことはなかった―――

 




今回は主に新兵器の開発にスポットを当ててみました。

"サイサリス"はもうお分かりかと思いますが、原作にない要素として、地上ではドムじみた活動が可能になっています。ガ○ダムの形をしたドムですw (南極条約に従って核は装備されてませんw)

"次期量産機"はジムベースの機体ですが、モデルはジム系統でもかなり凶悪なアイツですw

そして通称"グリント"・・・これだけ世界線が違いますねw
コ○マはないのであしからず。

そしてサナダさんが開発した突撃艇は、ジ○ンが誇るジッコ宇宙突撃艇です。機体自体は平凡ですが、搭載するミサイルがマッド印の凶悪仕様なので大物食いも可能ですw 原作やギ○ンの野望同様雑魚と侮るといつの間にかダークマターに変えられることでしょう。

今後はこれらのたのしいフレンズ(笑)が大暴れします。

本作の何処に興味がありますか

  • 戦闘
  • メカ
  • キャラ
  • 百合

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。