夢幻航路   作:旭日提督

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第六八話 怒りの刃

 ~『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉~

 

 

 時は遡り、敵旗艦、リサージェント級戦艦を撃破した直後~

 

 

「・・・敵旗艦、沈黙しました―――!」

 

 霊沙の操る"グリント"の突撃により、霊夢達が最大の脅威と認識していた敵巨大戦艦の歪曲レーザー砲は見事破壊された。

 

 その光景を間近に見ていた艦橋クルー達は、一瞬呆然として沈黙していたが、オペレーターのミユの報告を聞いて彼等は意識を現実に引き戻す。

 

 主砲を破壊された敵旗艦は沈黙を守っているが、彼等はまだ敵艦の最大の武器を破壊しただけであり、まだまだ艦自体は健在だ。そして主砲を失っても尚、敵旗艦には100門を越える中小口径のレーザー砲が残されていた。それを思い出した彼等は、すぐさま自らの任務に集中する。

 

「アルファルド1、見事でした。直ちに帰還を・・・っ、アルファルド1、応答願います!」

 

 艦載機隊の管制を担うノエルが作成成功の立役者であるアルファルド1―――霊沙に呼び掛けるが、彼女からの返答はない。

 異常を感じたノエルは、直ちに対処策を思案する。

 

「艦長、アルファルド1―――霊沙さんからの応答がありません。機体か本人かは分かりませんが、何らかの異常が発生した模様です。ガーゴイル1に回収を担当させます」

 

「・・・分かったわ」

 

 報告を聞いた霊夢は、静かにノエルの対処策を認めた。

 

「ガーゴイル1、申し訳ありませんが、アルファルド1の回収をお願いします。此方からの呼び掛けに応答しないので、何らかの異常が発生したのかもしれません」

 

《了解だ。任せろ》

 

 ノエルからの指示を受けたガーゴイル1―――マーク・ギルダーは、連戦で所々に傷を受けたペイルライダーを、最後の一踏ん張りとばかりにスラスターを全開にして霊沙のグリントの元へ駆け寄らせる。

 幸いにして敵の円盤形迎撃機は発進してくる様子はなく、彼は難なく霊沙の回収任務を終えた。

 

 ―――あいつがいなけりゃこの作戦は失敗していたかもしれないけど・・・全く、無茶しすぎなのよ、あいつは・・・

 

 その様子を眺めながら、霊夢は内心で霊沙のことを案じていた。

 最初会ったときには警戒しかなかったが、共に同じ艦で過ごしていくにつれ、いつしか彼女のことも仲間と見なすようになっていた。同じ屋根の下で過ごして同じ釜の飯を食えば、自然と親愛の情も湧いてくるものなのだろう、と彼女は想う。

 

「・・・あの、霊夢さん?」

 

「―――御免なさい、少し考え事をしていたわ。彼女は帰艦次第、また医務室に放り込んでおきなさい」

 

 目を瞑って物思いに耽っている霊夢を見て、隣に控えていた早苗が彼女に声を掛ける。

 その声で現実に引き戻された霊夢は、霊沙の今後の処遇について指示を下した。

 

「くすっ、やっぱり心配なんですね、霊沙さんのこと」

 

「そりゃあ、まぁね・・・病み上がりでマッドのじゃじゃ馬に乗った訳だし・・・どうせ今頃気絶でもしてるんでしょう。目覚ましたらなんか一言言ってやらないとね」

 

「そのときは、ちゃんと労ってあげてくださいよ?心配なのは分かりますけど・・・」

 

「―――善処するわ」

 

 早苗は、ぶっきらぼうながら霊沙のことを心配している霊夢のことを、微笑ましく見守る。面倒くさがりで何事にも無関心に見える彼女だが、こうして時々覗かせる優しさもまた、彼女の魅力の一つだと早苗は考えていた。

 無論、病み上がりで無茶をした霊沙のことも、彼女は心配していたが。

 

 

「ッ、艦長!敵艦に新たな動きです」

 

「―――何が起こったの?」

 

「はっ・・・敵艦より通信が・・・あっ、メインパネルがジャックされました!」

 

 ミユの報告を聞いて、霊夢は雰囲気を一変させる。

 

 直後、〈開陽〉の艦橋天井にあるメインパネルにノイズが入り、程なくしてパネルジャックの犯人と思しき人影の姿が映し出された。

 

 その人影は、体格から男であることが容易に想像できた。さらに際立つ特徴として、顔全体を包帯のような白いマスクで覆っており、その中心には自治領の紋章か何かなのか、目のような模様の中心に人差し指を天に掲げた手を配置したマークが描かれていた。

 それは国――自治領の紋というよりは、何らかの宗教的な意匠を感じさせる模様だった。

 

 その男の姿を見てすぐに、霊夢はこの男こそが件の事件の黒幕だと確信する。

 

《―――やぁ。会いたかったよ、『紅き鋼鉄』・・・》

 

「・・・あんた、誰?」

 

 男はこの場に不釣り合いなほどに、友好的なトーンで語りかける。

 霊夢はさらに目をつり上げて、最大限の警戒をもって男に対して尋ねた。

 

《僕は―――そうだね、"教祖"とでも呼ぶといい。皆そう呼んでいるからね》

 

「・・・あんたが敵の黒幕ってことで、間違いないわね」

 

《―――ああ、そうだよ》

 

 男は静かに、霊夢の言葉を肯定する。

 霊夢は込み上げる怒りと不愉快さを心に押し止めながら、自らを事件の黒幕と肯定した男に対して要求する。

 

「なら話が早いわ。ゼーペンストで拐った二人を返しなさい」

 

《それは無理な相談だね。見たまえ》

 

 男はきっぱりと霊夢の要求を否定すると、メインパネルに映し出されている画面を引かせる。

 男が座る椅子の横の床から、ナニカがせり上がってくる。

 

 それは、磔にされたレミリアの姿だった。

 

「なっ・・・あんた、彼女をどうする気―――!」

 

《簡単なことさ。人質だよ》

 

 男はさも当然といった風体で公言する。

 

「子供を人質にだと!何を考えている!」

 

 男の言葉に、霊夢を始めとする艦橋クルーは皆怒りを覚えた。まだ年端もいかぬ子供を利用することなど、一般的な道徳観念を持ち合わせた彼等彼女達にとっては到底許しがたい行為できあったからだ。

 そんな感情を代弁するかのように、コーディが男に向かって吠える。

 

《君達は理解する必要はない。これから僕からの要求を伝えるよ。君達は散々僕の計画を邪魔してくれたから、まずはその旗艦を賠償として置いていって貰うよ。次に、今後僕の計画を一切邪魔しないことだ》

 

「なっ・・・そんなこと、出来るわけないでしょ!何考えているのよあんた!」

 

 あまりにも荒唐無稽な要求を打ち明けられ、霊夢は激昂し即座にそれを拒否する。

 

《そうか・・・それは残念だ。ならば、こうするしかないね》

 

 霊夢の回答を、さも残念だと芝居がかった態度で受け取った男は、椅子にあるボタンを押す。

 すると、彼の部下らしき白衣を纏った女が、注射器を手にもってレミリアの隣に侍る。

 

《な・・・なにする気なのよ―――!》

 

 ひどく窶れた様子のレミリアは、それでも尚強気に男とその部下らしき女を睨むが、彼等はそんなレミリアを無視して霊夢に告げた。

 

《―――これは、僕達が開発した細菌兵器だ。要求を受け入れられないというのなら―――》

 

 男は女を一瞥し、女は頷くと、磔にされたレミリアの腕を持って注射器を押し当てる。

 

《や、やめ―――やめてッ―――!》

 

「くッ、止めなさい!」

 

 レミリアと霊夢の必死の懇願も虚しく、女は何の躊躇いもなくレミリアの腕に注射器を入れた。

 

《い、嫌―――ッ!!!止めろ、止めろ、止めろォォォッ!いやだ、たすけて―――サクヤ、メイリン、れいむ・・・助けてーッ!!》

 

 あまりに痛々しいレミリアの叫びに、艦橋クルーは全員己の無力を呪うかのように歯を食い縛り、画面に映る男と女の姿を睨む。

 

《いや・・・たすけ、て・・・っ》

 

 注射器の中身が全てレミリアに注がれると同時に、彼女は恐怖のあまり気を失い、がくりと磔にされたまま項垂れた。

 

「なんて―――ことを―――何てことをするんですかッ!」

 

《この細菌兵器は、ウイルスが体内に入ってから24時間で感染者を死亡させるものだ。そして最後の症状を発してしまえばもう助からない。時間の猶予は24時間以内だよ。それまでに、僕の要求に従うか否か、よく考えることだ。僕の要求に応えるというのなら、彼女の治療を約束しよう。だが―――》

 

 凄まじい怒気を含んだ早苗の叫びをさも存在しないものであるかねように無視して、男は霊夢に対して告げる。

 

《もし要求を断るというのなら、彼女の命はない》

 

 その言葉を最後に、メインパネルにノイズが走り、男の姿が砂嵐に飲まれていく。

 

 最後には、ぷつり、と画面が途切れ、艦橋を静寂が支配する。

 

「・・・・・・」

 

「―――霊夢さん」

 

「・・・霊夢、どうするんだ?」

 

 静かに佇む霊夢に対して、早苗は怒りの感情を押さえきれない声色で、コーディも平静を装いながらも先程の蛮行への怒りを感じさせる低い声で呼び掛ける。

 

「―――殺すわ」

 

「・・・は?」

 

「殺すわ。あいつらを。奴等全員、地獄に叩き落としてやる。そして拐われた二人を助け出す。治療する、なんて大口を叩いたんだから、奴等の旗艦には抗生物質でもあるんでしょう。それも根こそぎ奪いましょう。そして奴等に報いを受けさせて―――」

 

 静かな口調ながら、明らかな殺気を含んで、霊夢は独り言のように呟く。

 その様子に、怒りに駆られていた二人は不気味なものを感じたのか、しだいに顔色が青ざめていく。

 

「―――ッ、敵艦、反転しています!ワープ準備に入った模様!」

 

「・・・追え」

 

「は・・・っ?」

 

「追いなさいッ!今すぐに!それと早苗、直ちに全艦隊を結集!奴等を決して逃がすな!!」

 

「は・・・はいッ!」

 

「り、了解っ!」

 

 一転して鬼のような形相で、霊夢は早苗と艦橋クルーに指示を下す。

 

 滅多に見せることのない霊夢の本気の怒りを前にたじろぐクルー達だが、すぐに己の務めを理解して各々の任務に没頭した。

 

 ―――あんな・・・あんな命を弄ぶような真似を・・・!許さない―――許さないわ、ヴィダクチオ―――

 

 自身の命令で行動に移ったクルー達を眺めながら、少女は静かな黒い怒りを己の心に渦巻かせた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉会議室~

 

 

 敵旗艦がワープしてから、霊夢は直ちに他の艦隊に呼び掛けて、事態の説明と対処に務めた。制限時間が短いだけに、事態を知る者の表情は重い。

 

《・・・成程。事情は理解しました。では、我々は最優先に敵本星に突入すると》

 

「ええ。敵が言っていた制限時間は24時間。だから足の早い私達が先行して敵本星に突入する。残念だけど、ユリシア中佐の艦隊とスカーレットの皆さんは連れていく余裕はないわ」

 

《それは残念・・・出来れば一緒に行きたかったところだけど、ここは素直に諦めましょう。私達は私達で、任務を果たすことにするわ》

 

《・・・悔しいですが、我々もそうするしかないようですね・・・霊夢艦長、お嬢様のことはお任せします》

 

 ホログラムの向こう側にいるユリシアは無表情で、〈レーヴァテイン〉の副長は悔しさを滲ませた表情で霊夢の案を肯定する。

 

 霊夢の案は、ワープ装置を持った快速の自艦隊のみで敵旗艦を追撃し、通常のインフラトン機関しか有さないアイルラーゼンとスカーレット艦隊は一度ウイスキー宙域で行ったような曳航型ワープは時間の都合上行わない、というものだった。

 幸いにして敵艦隊主力はこの会戦で粉砕されているので、敵に残された戦力はさほど多くはないと判断され、『紅き鋼鉄』単独で突入しても問題はないとされた。

 

「・・・じゃあ、私からは以上よ。中佐、今までの協力に感謝します」

 

《ええ。そちらこそ、ご武運を》

 

 会議も終盤となり、ここで別れることになるユリシアに対して、霊夢は別れを告げた。ユリシアも彼女の言葉に応え、一足先にこの場から立ち去った。

 

《・・・では、我々もここで。最大速度で追いかけます。サクヤ殿、お嬢様を、お願いします》

 

「安心して下さい。着いた頃には全て終わらせていますから―――」

 

「―――言われるまでもありません。お嬢様は、必ずや―――!」

 

 続いて、スカーレット艦隊の指揮官も会議室から退出し、彼のホログラムが消失する。

 

《では艦長、私も戻らせていただきます。預かった艦隊の面倒を見なければならないので》

 

「分かったわ。私は敵艦に突入することになるだろうから、引き続き艦隊の指揮をお願い」

 

《御意》

 

 最後に、ホログラムのショーフクが退出する。

 会議室には、霊夢と早苗、サクヤとサナダの4名のみが残された。

 

「―――霊夢艦長、この度を、私を部隊に加えて頂き有難うございます」

 

「・・・事態を知れば、貴女は必ずそうするだろうと思ったからね。時間がないわ。突入準備はワープ中に済ませるわよ」

 

「はい。では、私は海兵隊と共に赴けば宜しいのですね?」

 

「そうしてくれると助かるわ」

 

 残った4人は、突入作戦について簡単に打ち合わせを行う。

 突入作戦の手順は、まず艦隊主力が敵本星にワープアウト、敵旗艦を確認次第、〈開陽〉は全力で突撃し、至近距離で突入部隊を載せた強襲艇を吐き出す。

 そして〈開陽〉はそのまま離脱し、艦隊と共に敵残存艦艇を掃討。海兵隊と機動歩兵隊を中心とする突入部隊は敵旗艦の艦橋を目指して前進し、レミリアを奪還する。姿が見えなかったメイリンも同艦に囚われていると推測し、敵旗艦内でハッキングを行い捜索するというものだ。

 

「サクヤ殿、私からも一つ。ウイスキー宙域で我々が受けた攻撃のなかに、件の細菌兵器を搭載したものと思われるミサイルによる攻撃があった。その際採取したデータを元に、我々も独自に抗ウイルス剤を作成することに成功した。臨床試験は経ていないが、敵艦内に抗生物質がない可能性もある。そのときには、を使ってくれ」

 

「―――有難うございます」

 

 サナダはサクヤを呼び、彼女に自作の抗ウイルス剤を手渡した。サクヤはそれを受け取ると、服の中に仕舞う。

 

「あの、霊夢さん?」

 

「なに、早苗」

 

「その・・・一つ気になるんですけど、敵の目的って、一体何なんでしょうか?」

 

「そんなこと、私に聞かれても分かんないわよ。あんな畜生外道のやることなんだから、どうせしょうもないことに決まっているわ」

 

「そう・・・ですよね」

 

 早苗は、皆と同じく敵の所業には憤りを感じていたが、同時に敵の目的についても気になっていた。しかし、敵はそれを語ろうとはしなかったので、敵の目的は未だ不明なままである。

 グアッシュ海賊団の後ろで糸を引いて、尚且つスカーレットの令嬢を執拗に狙う理由が、彼女には思い付かなかった。

 

「ふむ、敵の目的、か――手掛かりがない以上、考えても無駄だな。今は、スカーレットの令嬢救出に全力を掛けよう」

 

「そうね。奴等を全員叩き斬る。余計なことを考える必要なんてないわ、早苗。準備に移りましょう」

 

「・・・はい」

 

 未だに静かな怒りを湛えた霊夢に続いて、サナダとサクヤも会議室から退出し、各々の準備に取りかかる。

 最後に一人残された早苗も、霊夢のあとに続いて会議室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ヴィダクチオ自治領本土宙域・本星ヴィダクチオⅣ周辺~

 

 

 ヴィダクチオ自治領の再奥の本土星系にある巨大ガス惑星、その衛星の一つ、ヴィダクチオⅣこそ、この自治領の首班が治める自治領本土の星である。

 

 その星が浮かぶすぐ側の宙域に、蒼白い光点が幾つも輝き、忽ちのうちに数十隻の艦隊が姿を現した。

 

 

 

 

「―――ワープアウト完了。位置座標、誤差0.005。」――ヴィダクチオ自治領本土っすよ、艦長」

 

「周辺の警戒を開始。敵旗艦を探せ」

 

「了解―――居ました。本艦前方、距離25000!既に戦闘態勢の模様。エネルギー反応急速に拡大中!」

 

 レーダー手を担当するミユが、敵旗艦発見の報を霊夢に伝える。

 

 敵旗艦―――リサージェント級は、僅かな残存艦と共に本星ヴィダクチオⅣへの道を閉ざすかのように布陣していた。

 

「敵旗艦より通信です」

 

「・・・メインパネルに回しなさい」

 

「了解」

 

 敵旗艦からの通信が届けられ、霊夢は通信手のリアにそれをメインパネルに投影するよう指示する。

 

 程なくして、数時間前に、彼女達の前に現れた覆面の男の姿が映し出された。

 

《やあ。その様子だと・・・要求は拒否するみたいだね》

 

「当然よ。私はあんたみたいなクソ野郎の言葉なんて訊かないわ。そしてレミリアは返してもらう。ついでにお前は死ね」

 

《―――怖いなぁ。じゃあ僕も、遠慮はいらないね。ここで沈んで貰うよ》

 

 二、三の言葉を交わしただけで、通信は途切れる。

 

 クルー達は、霊夢の指示を待つかのように、真剣な眼差しで彼女を見詰める。

 艦橋内を静寂が支配した後、霊夢は口を開き、号令を掛けた。

 

「―――突撃、開始!!」

 

 

【イメージBGM:Fate/Gland Orderより「英霊剣豪七番勝負 通常戦闘BGM」】

 

 

 霊夢は腰のスークリフ・ブレードを引き抜いて、鼓舞するように号令を下す。

 巫女服の上に着込んだ突入装備と、刀の擦れる金音が響く。

 

「了解!機関、最大出力!!」

 

「最大戦速、回避機動始めっと!艦長、あのクソ野郎を存分に吹っ飛ばしてきて下さいよ!」

 

「全火器管制ロック解除。俺達0Gの誇りを見せてやれ!」

 

「ガーゴイル隊、ヴァルキュリア隊、発進位置へ!ガルーダ1とグリフィス1は待機せよ!」

 

 霊夢の号令を受けて、艦橋クルー達は艦を戦闘態勢へと移行させる。

 〈開陽〉の巨大な艦体が、急激な加速により打ち付けられるような軋む音を上げた。

 

「・・・霊夢、ここは俺達に任せてくれ。あんたは敵の指揮官を」

 

「・・・言われなくても分かってるわよ、コーディ。ここは任せたわ!行くわよ、早苗!」

 

「はいッ!」

 

 霊夢は艦の指揮をコーディに任せると、いつぞやの尋問官装備に着替えた早苗を伴い強襲艇の発着デッキに向かって駆け去っていった。

 

 ...............................................

 

 ....................................

 

 .............................

 

 .......................

 

 

「艦長、全機発進準備完了です」

 

「有難う。あとは突入のタイミングね」

 

 私達が発着デッキに着いた頃には、既に全ての強襲艇が発進準備を追え、発艦の時を待っていた。

 

 敵艦の抵抗が激しくなっているのか、私達が移動する間から、断続的に被弾によるものと思われる揺れが続いている。

 

「艦長、こちらに」

 

「サナダさんに・・・サクヤさん?あんた達もこの機に―――」

 

「はい。サナダさんが手配してくれましたので」

 

 どうやら私達が乗る機には、海兵隊員の他にもサナダさんとサクヤさんが同乗するらしく、装甲服のサナダさんと銃火器を持ったサクヤさんが待っていた。

 

「艦長の装甲服は私が開発した新型だからな。なにか不具合があったら困る。そのときは私の出番ということだ」

 

 サナダさんは、私が今着ている突入装備の面倒を見るためについてきてくれたようだ。何ともサービス精神旺盛なことね。多分それだけが目的ではないでしょうけど。

 

 ちなみにこの突入装備、普通の装甲服と違って全身に纏うわけではなく、主に手足や背中の部分に増加装甲や装備を追加するという形式のものだ。正直窮屈だけど、サナダさん曰く使い慣れれば生身の私を上回る性能を出せる・・・らしい。

 

「あんたの世話にならないことを祈っているわ」

 

 敵艦内のど真ん中で装備が故障なんて事態には、遭遇したくないものだ。そうなったときはサナダさんには悪いけど、装備を脱ぎ捨てて敵の首魁の元へ行くつもりだが。

 

「霊夢さん、そろそろ発進ポイントかと・・・」

 

「―――もうそんな場所まで進んだのね。パイロット、準備は大丈夫?」

 

 艦のコンピューターと繋がっている早苗が言うんだから、確かなことなのだろう。なら、発進を指示するまでだ。

 

「はい。いつでも飛び立てます!」

 

「よし。ならいくわよ。全機発進!」

 

「了解!ロングソード1発進!」

 

 発着デッキのシャッターが開き、強襲艇が滑り出す。

 目の前には、至近距離まで迫った白亜の巨艦。

 これから私は、あの艦に乗り込む。

 

《ロングソード2、発進!》

 

《こちらにロングソード3、発進完了だ》

 

《ロングソード4発進。接舷ポイントに向かう》

 

 私達が乗る機体に続いて、海兵隊員を載せた強襲艇が続々と発進していく。

 

 最終的に有人、無人合わせて10機の強襲艇が発進し、一路敵旗艦を目指して突き進む。

 

「っ、敵さんの対空砲火です!揺れますのでご注意下さい!」

 

 パイロットがそう告げると、機体は複雑な航跡を描くコースに移行する。

 

 突然、隣でボォン、と衝撃が走った。

 

「れ、霊夢さん・・・隣の機体が!」

 

「チッ、やってくれたわね。無人機だからよったけど、戦力が減ったのには違いないわ」

 

 私達が乗る機の右隣を飛んでいた無人の強襲艇が撃墜されたらしく、その機は一瞬で火玉になって遠ざかっていく。

 

「艦長、間もなく接舷ポイントです!」

 

「分かったわ。―――総員、突入準備よ!」

 

 強襲艇が敵のハンガーデッキの側まで迫ったようで、パイロットがそれを報告する。

 

 見ると、敵旗艦の巨大なハンガーデッキは隔壁を閉じて私達の侵入を阻もうとしていた。

 

「霊夢さんっ!」

 

「分かってるわよ!パイロット、このまま突っ込みなさい!」

 

「了解!」

 

 そうはさせまいと、私はこのままデッキに突っ込むように伝える。

 他の強襲艇も同じように、ハンガーデッキに滑り込まんと速度を上げていた。

 複雑な機動と未だに続く敵の対空砲火によって、ガンガン機体が揺れる。

 

「っ―――突入します!」

 

 私達の機体は、見事敵艦の隔壁が閉じる前にハンガーデッキに滑り込み、機体後部のランプを解放した。

 

「―――行くわよ!総員突入!」

 

「「「了解!!」」」

 

 勢いのある海兵隊員達の返答を背に受けながら、私は一番にランプを蹴って敵艦に降り立つ。

 

 続いて早苗、サクヤさん、他の海兵隊員達が降下し、最後にサナダさんが降り立った。

 

 他の機も無事突入に成功したようで、機体後部や側面の扉を開いて海兵隊員達や機動歩兵を降ろしている。

 

 全員の降下が完了すると、別の機の方角から、装甲服を纏った二人の海兵隊員が駆け寄ってきた―――エコーとファイブスだ。

 

「報告!クリムゾン小隊40名降下完了!」

 

「同じくスパルタン小隊38名、降下完了です」

 

「了解。エコーは私と一緒に艦橋に向かって。ファイブスの隊は強襲艇の守護をお願い。機動歩兵隊は散開し、一部隊ずつ私とファイブスに付けて。後は好きなように暴れさせなさい」

 

「イエッサー!」

 

 私の指示を受けて、二人は素早く散開して部下に指示を与えている。

 

「艦長、敵旗艦のコンピューターに侵入した。これが艦内見取図だ。早苗、これを全員に転送してくれ」

 

「了解しました」

 

 流石はサナダさん、仕事が早い。

 早速私の端末にも、サナダさんが見せてくれた見取図が届く。

 

「―――準備はいいわね。今回は時間との勝負よ。雑魚は10秒で殺しなさい。手練れは20秒で殺せ。あのイカれた教祖とかいう野郎に今までの報いを受けさせてやりましょう。突撃、開始!!」

 

「「「「「了解ッ!!!」」」」」

 

 総員の全身準備が整い、私は通信機を持って突入部隊に指示を下した。

 

 私達がエコーの部隊と合流して、サナダさんがハッキングによって得た情報を元に艦橋を目指して進もうとしたそのとき、遂に敵の迎撃部隊がやってきた。

 

 敵は慌てて銃を取ってきたのかまともな装甲服は着ておらず、全員がオレンジ色の隊服とヘルメットを着ているだけで、手にはレーザー銃らしきものが握られている。

 

「敵襲、敵襲!」

 

「第一分隊、射撃始め!」

 

「第二分隊、撃て!」

 

 それを認めた海兵隊員達は素早く行動に移り、敵部隊の展開が終わる前にブラスターによる射撃を始める。

 まともな装甲服がない敵兵はバタバタと倒れていき、対してこちらの海兵隊員はマッド印の優秀な装甲服のお陰で一発二発の被弾ではびくともしない。

 

「艦長、敵の襲撃です!」

 

「見れば分かるわ。だけど厄介ね。今し方出てきた敵部隊を突破しないと艦橋に続く通路に出られない。―――エコー、押し通るわよ」

 

「イエッサー。クリムゾン小隊全員に告ぐ!敵兵を強行突破だ!制圧しろ!」

 

 装甲服と顔全体を覆うヘルメットに身を包んだエコーは私の指示に頷くと、即座に部隊に対して命令を下す。

 

 命令を受けた彼の部隊の海兵隊員達は、被弾を避けるために屈んでいた姿勢から突撃態勢に移行して、ブラスターを撃ちながら敵陣に向かって突撃する。

 エコーの小隊と後方のファイブスの小隊、そして機動歩兵隊からの突撃と十字砲火を浴びた敵軍は瞬く間に総崩れとなり、統率が破壊され効果的な射撃が出来ずにいる。そのまま分断された敵は各個撃破の対象となり、一兵残らず殲滅された。

 

「・・・艦長、制圧完了です」

 

「凄いですね・・・あの数の敵兵をあっという間に・・・」

 

 私と早苗が介入するまでもなく、戦闘は終結する。

 ハンガーデッキ内には、打ち倒された敵兵の骸が散乱していた。

 

 エコーの小隊のうち何人かが、警戒のため敵が陣取っていた箇所に近づいていく。あの敵兵の死骸を越えていかなければ、艦橋に続く通路に入れないからだ。

 

「・・・艦長、如何されましたか?」

 

 ―――その様子を見た私は、言い様のない悪寒に襲われた。

 

 ―――あれは・・・駄目だ。()()()()がする。

 

「ッ!退がって!!」

 

「な―――どうした、艦長!?」

 

「霊夢さん!?」

 

 隣で、エコーと早苗の驚く声がする。

 そんなことよりも早く、先行した彼等を一刻も早く連れ戻さないと。

 

「か、艦長―――?」

 

 私の声で呆気に取られたのか、先行した海兵隊員が振り向く。

 それと同時に、()()()()()敵兵が動き出し、彼の足首を掴んだ。

 

「な―――コイツ!」

 

 驚いた海兵隊員が敵兵に銃口を向けるが間に合わない。

 

 ならば―――ッ!

 

「消え失せろっ!」

 

 私は彼の居場所まで一気に飛翔し、思いっきり敵兵を蹴飛ばして海兵隊員から強引に引き剥がす。

 

 次の瞬間、引き剥がされた"敵兵が爆発"した。

 

 

 ハンガーデッキの中を、爆発の熱風と轟音が駆け抜ける。

 

 皆は一瞬何が起こったのか理解できないといった様子で、呆然と立ち尽くしていた。

 

「か、艦長、今のは―――」

 

 海兵隊員が、恐る恐る訊いてくる。

 

 あれは―――信じたくはないけれど・・・

 

 あの教祖とかいうクソ野郎が、ここまで命をコケにする奴だったなんて―――!!

 

 

「気を付けなさいッ!()()()()()()()()よ!!」

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