夢幻航路   作:旭日提督

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第七四話 一件落着

 

 

 

「はぁ、はぁ・・・・・・・これで、転移は、完了です―――」

 

見事、転移術を発動させた早苗は、見た目にも分かるほど消耗している様子で、肩で荒く息をしている。

 

「よく頑張ってくれた。お前は暫く休みなさい」

 

「はい・・・それでは、後は・・・」

 

ふらり、と早苗の身体が揺らぐ。

 

糸が切れた人形のように倒れる早苗の身体を、神奈子が優しく抱き留めた。

 

「―――寝ているな」

 

「あれだけの技を使ったんだ。疲れているんだろう。あの巫女から貰った霊力も、殆ど使い果たしているみたいだからね」

 

神奈子と諏訪子の二柱は、やはり早苗のことが心配なのだろう。倒れた彼女を、二人で介抱している。

 

「―――サナダさん、こっちは終わったわ。外の様子はどう?」

 

―――早苗のことも気になるけど、まずはこっちの確認が先だ。ここまでやって脱出失敗なんて事態になったら本当に笑えないわ。

 

《ああ、艦長―――通常空間に出たことを確認した。全艦健在だ》

 

「そう―――良かった。成功したのね」

 

《うむ。では艦長、後で色々と聞かせてもらうぞ》

 

「うっ、分かったわよ・・・」

 

そうだ・・・一応建前はアイツの発明で脱出――――ってことになってたんだ。名前を使う代わりに術のことを色々話せって言われてたんだっけ。う~ん、どうやって話そう・・・

 

・・・サナダさんのことは後に回して、いまは早苗の様子を確認しよう。

 

「おお、巫女か。早苗なら、疲れて寝ているだけさ。しばらく寝かせておけば、そのうち起きるよ」

 

「・・・体調の方は、大丈夫なのね?」

 

「ああ、体調―――とはいっても、今は人の身体じゃないから私達にもよく分からんが、問題はない筈だ。一時的な消耗だからな」

 

「そう、良かった―――」

 

「ふむ・・・」

 

早苗なら、二柱が言うには大丈夫らしい。それなら安心できる。

 

・・・んで、あいつらの視線は何なのかしら。なんか良くないことを要求してきそうな気配なんだけど―――

 

「なぁ、博麗の巫女―――」

 

「・・・何よ」

 

「今回の件、私達も早苗に力を貸してやったんだ。それがなければ、この艦隊の脱出も不可能だっただろう」

 

「・・・そうね。礼なら言うわ」

 

「うむ。それはそれで受け取っておこう。だが―――」

 

あ・・・これは間違いない。なんか要求してくる流れだ。

 

「それだけでは些か足りないんじゃないかなー?実はね、この自然ドームのなかには私達の分社があるんだけど、それをこの神社に移して貰えたら嬉しいかなーって思うんだよね」

 

「・・・ついでに、私達も神社に住まわせろ。どうせこの神社に神は居ないのだ。別に私達が、祭神になったとしても構わんだろう?」

 

「な、何言ってるのよ!分社はともかく、ここは私の神社よ!第一あんたら、どうせ分霊なんだから戻ろうと思えばどうせ幻想郷の神社に戻れるでしょうが?」

 

「ほぅ、あくまでも受け入れないと・・・だが、この艦隊の軍神たる私に対して、敬意が足りないのではないか?霊夢"艦長"?」

 

「ぐっ・・・」

 

「それに、ここでは信仰がないとはいえ私は祟り神だぞぉ?いいのかな~放っといてもさ~?」

 

「ぐぬぬ・・・」

 

こいつら・・・何かと思えば言いたい放題言いやがって―――それでもここは私の神社なんだから!乗っ取りなんて、この私が許すもんですか―――

 

「へぇ・・・抵抗するっていうのなら、この『ドキッ☆れいむとさなえの吸血えっち♡』を艦隊じゅうに公開しちゃうけど、いいのかなー?」

 

「あ・・・そ、それは・・・!?」

 

諏訪子が懐から取り出した一枚のビデオ・・・その表紙には私に迫る早苗の姿が印刷されていて―――中身は、言うまでもないだろう。

 

「あ"ーッ!!?あ、あ、あ・・・アンタ達、なんちゅうモン作ってんのよ!それに、いつの間に―――確かに結界で遮断した筈なのに・・・」

 

「フフン、甘いなぁ博麗の巫女。この諏訪子、大事な娘の初夜をみすみす見逃すとでも?このクロちゃん帽が誇る六四の機能が一つ、『早苗ちゃん監視アイ』からはどんな手を打とうとも逃れられないぜ?」

 

「くっ・・・ひ、卑怯よ・・・!」

 

な、何が『早苗ちゃん監視アイ』よ・・・!何なのよその変態じみた機能は・・・大体初夜って・・・あれはただの霊力供給、そんなんじゃないんだし―――ともかくこのチビ神、絶対許さないんだから―――!

 

「ん~良いねーその顔!いい顔だぐへっ!?」

 

「・・・その辺にしておけ、諏訪子」

 

私が諏訪子を睨んでいると、彼女の頭に拳骨が落とされた。・・・神奈子の拳だ。

 

「いったた・・・もぅ、何だよ神奈子・・・いいところだったのにさ・・・」

 

「ちとやり過ぎた。・・・で、そのビデオ、いつ造った?」

 

「へ?これは・・・その・・・アハッ☆」

 

「問答無用ッ!!」

 

「ま、待ってくれ神奈子、話せば分かギャァァァ!?」

 

・・・諏訪子は鬼のような形相をした神奈子に絞められて、すっかり伸びてしまった。うん、流石にあれはやりすぎよね。もう一柱に常識があって良かったわ。これで恥ずかしいビデオが拡散されることは無くなっただろう。

 

「―――済まん。諏訪子が迷惑をかけた」

 

「いや、別に私達いいわよ。どうせアイツにもアレをばら蒔く気なんて無かったでしょうし。・・・恥ずかしいのは変わんないけど」

 

「むぅ―――本当に済まん。アレの暴走癖は昔からのことだが、私も今回のあれは見抜けなかった。本当にいつあんなモノを作っていたのやら―――」

 

・・・そう、あのビデオ、こんな短時間でなんで用意できたのかしら。―――まぁ、あとで厳重に封印させて貰うけどね。

 

「それで、・・・件の話についてだが、どうする?」

 

「どうするも何も、好きにすればいいでしょ?幸い空き部屋ならあるんだし、その方が早苗も喜ぶだろうから」

 

「―――済まん。かたじけない」

 

「いいのよ別に。異変を起こしさえしなければね」

 

「異変、か・・・懐かしいな。ああ、ここでは最早そんな力はない。心配せずとも大丈夫だ」

 

「なら安心ね。とりあえず、分社は後で建て替えさせておくわ。それじゃ、そろそろ私は行くわ。いい加減、艦橋の方にも顔出さないといけないし」

 

「難儀だなぁ。昔のお前は、ただ縁側で茶を啜っていただけの不良巫女だったというのに」

 

「・・・余計なお世話よ。ああ、早苗のことは任せたわよ」

 

「うむ。心配無用だ」

 

倒れた早苗の面倒はあいつらに任せて、私は神奈子達を背にした。この後は航路の確認やサナダさんに付き合ったりしないといけないし、本当に忙しい。ああ、昔の私が懐かしいわぁ・・・。昔は縁側でぐーたらして、魔理沙とかの相手をしてれば良かったんだし―――あ、そういえばあの礼儀知らず、どうなったのかしら。ま、どうせ霊沙のやつが排除したでしょう。後で確認しておくか。

 

 

 

..................................

 

.........................

 

................

 

 

 

「・・・よう。そっちは終わったのか」

 

「ええ、お陰様で。んで、あいつはどうしたの?」

 

神社の参道を下っていた途中、上空から霊沙のやつが降りてきた。この様子だと、予想通りあの無礼者は吹き飛ばしてきたと見ていいだろう。

 

「ああ、アレなら殺したよ。存在そのものが不愉快極まりないからな。文字通り消し炭だから、骨すら残ってないだろう」

 

「・・・そう、殺したのね」

 

―――まぁ、ここまであっさり言われると少し思うところがない訳ではないけど、これで艦隊の治安は保たれたようだ。ああ、世話になっておきながら襲いかかってくるなんて、とんだ無礼者だったわね、アイツ。

・・・だけどアイツ、確か誰かに命令されたようなこと言ってたわね。何処の馬鹿かは知らないけど、この艦隊を狙っている組織が居るのだとしたら、そっちも警戒しておかないと。

 

「どうした?霊夢」

 

「いや―――あんた、アイツと戦っているとき、何か言われなかった?」

 

「・・・特に、何も」

 

「そう―――なら良いけど。確かアイツ、背後に組織がいるような言い回ししてたから、もしかしたらなんか聞き出せてないかと思ったんだけど・・・まぁ、期待するだけ無駄だったみたいね」

 

「チッ、どうせ私は戦うしか能のない奴さ。期待に応えられなくて悪かったねどうも」

 

「あ、いや、そうじゃなくて・・・アイツ、何度聞いても話そうとしないから、多分あんたにも話してないだろうなって意味であって・・・」

 

霊沙のやつがいきなり拗ね出したので、慌てて弁解の言葉を紡ぐ。素直に話したら、あいつは「ああ、そんなことか・・・」と納得したような台詞を吐いた。

 

「ハァ、紛らわしいんだよ全く・・・んで、艦長さんはこれからお仕事かい?大層なことで」

 

「そうよ。あんたと違って私は忙しいの。何なら書類整理ぐらい手伝ってくれたって―――!」

 

「え、ちょっ、お前―――!?」

 

霊沙との会話の途中、いきなり身体から力が抜けて、ゆらりと身体が倒れていく。

 

・・・視界が、黒くぼやけていく。思うように、身体に力が入らない―――。

 

私を呼ぶあいつの声が、どんどん遠ざかっていく。

 

 

 

そのまま私は、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

―――ここ、は・・・?

 

ゆっくりと、瞼を開く。

 

知っている天井だ。どうやら、〈開陽〉の医務室らしい。

 

あれ・・・私、どうして・・・

 

―――ああ、確か、霊沙と話していた途中に倒れたんだっけ?でも、何で―――

 

「目が覚めましたか」

 

「シオンさん―――ええ、お陰様で」

 

私はよっと身体を起こして、シオンさんに挨拶する。彼女はいつもの白衣姿だったけど、表情は少しやつれているように見えた。・・・サナダさん達と事象揺動宙域の調査研究をしてたって話だから、それで寝ていないのかもしれない。その上で私の介抱なんかしてくれたんだから、相手がいくらこのマッド女医でも少しは申し訳ない気持ちになる。

 

「身体の方は―――疲労が溜まっていただけみたいね。暫く休めば回復する筈よ」

 

「・・・有難うございます」

 

疲労、か。早苗ほど消耗はしてない筈・・・と考えたけど、思えばずっと結界を維持してきたんだった。ならこの消耗も当たり前か。

 

「礼には及ばないわ。元々、これが本業な訳だし。ただ、少し厄介なことになっていてね・・・」

 

「厄介?何かあったの?」

 

「ええ。貴女が表向きサナダの発明と偽って、どうやってかは知らないけど事象揺動宙域から脱出したところまでは覚えてるわね?」

 

「ええ・・・」

 

「んで、厄介なのはその続きなんだけど、脱出した際に時間軸がズレたのか、あの宙域に居た間に外では1ヶ月以上が経過していたみたいなの」

 

シオンさんは、内容とは裏腹に淡々とした口調で説明を続ける。

 

時間軸がズレた、か・・・無理矢理脱出した弊害でしょう。多少位置座標や時間がズレるとは思ってたけど、まさかこんなにズレるとはね―――ってことは!?

 

「ちょっとシオンさん!スカーレットのあの二人―――」

 

「ああ、それなら艦長が寝ている間、コーディさんが連絡してくれました。いま、艦隊は彼等の本社がある惑星バルバウスに向かっている筈ですよ」

 

・・・私が寝込んでいた間に、全部解決済みって訳か。これだと、艦長としての面目が立たないわね―――。本当なら、彼等には私の口から伝えるべきだったのに――。

 

「・・・じゃあ、向こう側は私達が健在なことは把握しているのね?」

 

「ええ。私も通信には同席しましたが、彼等、事象揺動宙域の件を話しても半信半疑といった様相でしたよ。まぁ、当然の反応ですが」

 

「うう・・・ちゃんと報酬金、貰えるかしら」

 

「さぁ?社長令嬢を届けるのが遅れた分、さっ引かれる可能性もありますね」

 

「・・・だよねー」

 

そりゃあ・・・不可抗力とはいえ1ヶ月も遅れたんだから、先方痺れを切らしてるだろうなぁ・・・うっ、それを考えると会うのが辛いわ・・・

 

「―――んで、艦隊はいまどの辺にいるの?」

 

「確か、カルバライヤ・ジャンクション宙域でしたよ。今しがた、惑星バハロス付近の宙域に差し掛かったところかと」

 

「バハロスか・・・だとしたら本国行きのボイドゲートはもうすぐか」

 

「ええ。では艦長、話は変わるのですが・・・」

 

シオンさんはそう言うと、白衣に手をかけて、よいっと身体を私の方に乗り出してくる。

 

・・・その瞳は、獲物を前にした肉食獣のような、期待に満ちた眼光を湛えていた。

 

「な、何よ・・・」

 

「―――その身体、じっくり調べさせて貰えませんか?どうせサナダに全部話すんでしょう?なら、私にだって教えてくれても、構いませんよね?」

 

「な―――なんでそうなるのよ!大体脱がせる必要なんて無いでしょこの変態マッド!?」

 

シオンさんは何故か、その白い指先を這わせて、私の着物の襟元に手をかけた。ついでに、いつの間にか馬乗りされてるし―――

 

「あら?貴女、最近あの統括AIにお熱なようだし、てっきりそっちの趣味に目覚めたのかと思ったのだけど」・・違いましたか?」

 

「だ、誰が早苗に―――!」

 

・・・違う違う違う。断じて私にそんな趣味はない。そりゃあ・・・吸われるのは気持ちよかったけど、あれはそもそも勘定外だ!それに、寧ろあっちがやたらと懐いてくるだけで、私の方は何も、何も―――

 

「あら、本当?でも―――」

 

・・・シオンさんはその白い指で、私の顎にそっと触れた。

 

「今の貴女、とっても紅くなってますよ?」

 

「~~~!!?ッ!!」

 

その言葉が引き金になったのか、一気に羞恥心が込み上げてくる。・・・今の私は、外から見ればさぞ茹で蛸のような状態だろう。

 

・・・不覚にも、シオンさんの指先を早苗のそれと重ねてしまって、変な期待を抱いてしまった自分がいることが恥ずかしい・・・。

 

「ふふっ、どうやらそっちの気もあるみたいね。―――ねぇ、このまま私に委ねてみない?じっくり、調査してあげますよ・・・」

 

「だ、駄目っ―――そういうのは・・・」

 

・・・ベッドの下から出てきた拘束具に捕まって、手足を思うように動かせない。

 

シオンさんは恍惚に満ちた瞳で私を見据えながら、胸元のボタンを外していって―――

 

 

 

 

「そこまでですッ!!」

 

 

 

 

唐突に、声が響いた。

 

 

「な、何ッ!」

 

「霊夢さんは私だけのものです!悪徳女医科学者の手になんか渡しませんッ!!」

 

「さ、早苗っ・・・!」

 

ああ、良かった。これでとりあえず解放はされそうだ。

いまの私には、早苗のことが救世主のように見える。・・・所々、台詞が不穏ではあるのだけど。

 

「チッ、気付かれるのが早かったか―――!」

 

「霊夢さんを手籠めにしようとしたその狼藉、この東風谷早苗は見逃しません!さぁ、覚悟―――!」

 

早苗はビシッとお祓い棒を突き立てて、弾幕を生成していく―――ってそれ!この位置だと私も巻き込まれるって!ストップストップストップ!!!

 

「あ、ちょっとタンマ」

 

「問答無用ッ!!受けなさい、奇跡『白昼の客星』!!」

 

早苗が宣言したスペルが、真っ直ぐ私とシオンさんに向かって飛んできて―――

 

 

私の視界は、真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~カルバライヤ本国宙域・惑星バルバウス周辺~

 

 

 

「艦長、間もなくバルバウスです」

 

「う、うん・・・とりあえず、入港手続きを進めてくれる?」

 

「了解です」

 

事象揺動宙域から脱出した艦隊は、真っ直ぐこのバルバウスに向かっていた。目的は――スカーレットの令嬢を送り届けること。それは良いのだが・・・

 

「か、身体が痛い・・・」

 

「もぅ・・・大丈夫ですか霊夢さん。医務室ではしっかり休んでおかないと」

 

「だ、誰のせいだと思ってるのよ、全く・・・」

 

そう―――医務室の一件で早苗の弾幕で気絶させられた私の身体は、医務室に運び込まれる前より深刻な状態になってしまった。具体的には、全身筋肉痛みたいに身体がズキズキ痛む・・・

 

早苗ったら、「てへっ、やり過ぎちゃいました☆」なんて可愛い子ぶって誤魔化そうとするんだから、つい私も彼女を吹き飛ばしてしまった。・・・まぁ、助けてくれようとしたこと自体は素直に有り難いんだけど、何事にも限度ってもんがあるでしょう―――まぁ、そのときは反省していたみたいだから良しとしたけど、果たしてどうだか・・・

 

「・・・大体ね、あの変態マッドの巣窟で落ち着いて休めるわけないでしょ。ついでに神社も乗っ取られたし―――」

 

「む、乗っ取りとは何事ですか。神奈子様達はあそこをちゃんとした神社にしただけですよ!それに、霊夢さんのプライベートに干渉する訳でもありませんから!ええ、乗っ取りなんかじゃありません!」

 

早苗はぷいっと、顔を背けてしまう。

 

・・・私が境内に分社を置く許可を出した経緯は聞いているみたいだけど、やはり早苗はあいつらの味方らしい。―――幸い神奈子には常識があるから、変な改装とかはしないでしょうけど、問題は愉快な性格の土着神ねぇ・・・変なことしなきゃいいんだけど。

 

それに、早苗は単体では無害なんだけど、あの二人が絡むとなんか異変でも起こしそうだし・・・杞憂であって欲しいわね・・・

 

「むー、そこまで言うなら、新しいプライベートルームでも作っちゃいますか?幸い空き部屋なら幾らでもあるんですし」

 

空き部屋かぁ・・・そういえば、未だにこの艦、最低稼働人員で動かしているようなもんだからねぇ・・・頼もうかしら、と言おうとしたところで、早苗が「霊夢さんと二人っきりのプライベートルーム・・・あんなことやこんなことが・・・ぐへへ」なんて呟いてるのを聞いちゃったから、この話は無かったことにしよう。うん、私は何も聞かなかった。

 

・・・やっぱり早苗単体でも要注意ね。

 

「いや、止めにするわ。やっぱり神社の方が落ち着くし。あの二人がいても、私にちょっかい出してこないならそれで良いわ」

 

思えば、前世でも神社には妖精や小鬼に居着かれたり、しょっちゅう魔理沙が転がり込んだりしていたんだから、居候の一人や二人、問題ではないか。

 

「そうですかぁ・・・ちょっと残念です。でも、霊夢さんと御二柱が一つ屋根ってことは、実質私達はカップルも同然・・・」

 

―――やっぱり早苗は危険だわ。全く、前世ではここまで言うような危ない娘ではなかったのに、どうしてこうなったのかしら・・・

 

 

.......................................

 

...............................

 

......................

 

 

~惑星バルバウス・宇宙港~

 

 

【イメージBGM:東方紅魔郷より「魔法少女達の百年祭」】

 

 

・・・まぁ色々とありましたが、私達は無事に宇宙港へと辿り着くことができました。これから偉いさんとお話すると思うと気が滅入ります。まる。

 

 

「―――それでは、私達はこれで」

 

「ええ。短い間だったけど、お疲れ様。縁があれば、またどこかで会いましょう」

 

さて、宇宙港に着いた私達だけど、ここであの二人とはお別れだ。

あの二人―――蓮子さんとメリーさんはそもそも別の0Gドックだし、航路が別れるのは必然だ。

 

それにあの二人、乗ってきた駆逐艦こそヴィダクチオ旗艦に取り付いていたお陰で今も手元に残っているけど、ヴィダクチオ宙域には彼女達の工作母艦が取り残されているって話だし、早急に戻る必要があるのだと言う。多少名残惜しくはあるけれど、残念ながらここでお別れだ。

 

―――別にメリーさんが紫に似ているからって、寂しいわけじゃないんだからね・・・

 

「はい。こちらこそ、有難うございました。それに、こんなに頂いてしまって・・・本当に良かったんですか?」

 

「ええ。あのマッド共がいいって言うんだから、別に良いんでしょう。私は別に構わないし」

 

「そうだよメリー。貰えるモンは貰っておかないとね!」

 

それで彼女達には、あのマッド共からの厚意という形で様々な研究資料やデータ、希少な研究材料なんかが幾らか手渡されていた。私にとっては別に彼女達にあげても懐が痛むわけでもないし、協力の対価にもできるのでそのまま渡させていた。彼女達も喜んでいるみたいだし、あれで構わないでしょう。

 

「蓮子はいつも通りねぇ・・・では、有難うございました。このご厚意は忘れません」

 

「いやいや、そんなに畏まらなくても・・・ま、とりあえずは一件落着ね。それじゃあ、また」

 

「はい―――では、また」

 

「お世話になりました」

 

「ええ、それじゃ」

 

私は彼女達と別れて、互いに別々の方向へと向かっていく。

宇宙は広いし、また会えるなんて可能性は低いだろうけど、きっとどこかで航路が絡むときがあれば、また会うことになるでしょう。私には、そんな気がした。

 

 

「あ、霊夢さーん!例の件、終わりましたよ!」

 

「お疲れ様、早苗それで、どうだった?」

 

蓮子さん達と別れたらところで、早苗が人混みを掻き分けながら私のもとに駆け寄ってきた。その後ろには、コーディの姿も見える。

 

「はい!それはもう物凄い大収穫ですよ!なんと驚くことなかれ―――6万Gで売れましたッ!!」

 

「よ、6万!?凄いじゃない!フフ・・・これで暫く、お金には困らないわね!」

 

さて、早苗と話していることであるけれど、6万というのはあのリサージェント級戦艦の売却額だ。

 

中身はまだ機動歩兵による"掃除"の痕が残っているし、何よりワープ機関―――ハイパードライブは機密保持のため破壊したからそこまで高く売れるとは思っていなかったけど、やはり図体がでかいだけあって単純なスクラップでもかなりの値がついたみたいだ。

ちなみに、神社の裏にある供養塔の大きさが二倍になった。

 

ふふふん、このお金、どうやって使おっかなー♪

 

「リサージェント級は全長3000mにも及ぶ巨大艦だ。それに遺跡由来のレア物と来たら、ここまで値がつくのも当然だ」

 

「あ、コーディ。お疲れ様。私がいない間は苦労かけたわね」

 

「いえ、お気になさらず。それが私の任務ですから。では、彼女達を降ろしてきます」

 

「ええ、任せたわ」

 

コーディさんはそう言うと、〈開陽〉を止めたドックの方へと戻っていった。―――レミリアとフランを呼んでくるのだ。

 

あんなことが立て続けに起きた訳だし、宇宙港についたからといってすぐに彼女達を下ろすのは流石に気が引けた。なのでまずは腕利きの海兵隊員を何人か予定進路上に配置して、事前に安全を確認して貰っている。これ以上、あの二人に危害を加えられる訳にはいかないからね。流石にもう一度襲われたりなんかしたら、今度こそ逆に違約金を請求されてしまうかもしれない。

 

・・・程なくして、〈開陽〉を止めてある方角から足音が聞こえてきた。それも、ザク、ザクと非常に規則整った、力強い足音が―――ん?ちょっと待って。

 

「あの・・・霊夢さん?あれって―――」

 

「ええ。流石にちょっと、やり過ぎじゃないかしら―――ねぇ・・・」

 

その集団の中心にはレミリアとフランに、メイリンさんとサクヤさんも居るのだが、問題はその取り巻きだ。

 

そこには、フルで装甲服を着込んだ一個小隊の海兵隊員達が、彼女達を取り囲みながら規則正しく行進している姿があった。・・・流石に公共の宇宙港で堂々と火器を携帯してこそいないけど、姿が姿なだけあって悪目立ちしすぎている。・・・銃こそ堂々とは携帯していないけど、代わりになんか犯罪者制圧用の棒みたいなもの持ってるし・・・

 

その異様な集団は、私の前まで来ると一斉に立ち止まって敬礼した。

人がいる中で恥ずかしいけど、一応私は彼等の上司なので、ちゃんと答礼してあげた。

 

「海兵隊スパルタン小隊ブルーチーム、コマンダー・チーフ分隊長です。護衛対象をお連れしました」

 

「そ、そう・・・有難う。さ、は、早く行きましょう。あまり止まっている訳にはいかないし」

 

「了解です。さ、中へ。・・・総員―――進め!」

 

私と早苗がコマンダーに促されて隊列の中央に入ると、彼はそれを確認して再び隊列を行進させた。

 

「霊夢艦長。今回はどうも、有難うございました」

 

「本当に、お嬢様達を助けて頂いて・・・報酬の方は期待して下さい!」

 

「いや、こっちだって・・・特に最後のあれでだいぶここに来るのが遅くなってしまったし―――でも、お礼なら受け取っておくわ。それに、彼女達も無事で良かった―――」

 

隊列の中に入るや否や、サクヤさんとメイリンさんからお礼を言われた。

・・・事象揺動宙域に入って、脱出作戦を考えていた頃から今まで会う暇もなかったし、久し振りに会ったような感覚だ。

 

ただ、その事象揺動宙域のせいで彼女達を送り届けるのが遅れてしまったのは、ちょっと私のミスだったかな・・・

 

「あ・・・霊夢さん」

 

「あ、あはは・・・御免なさいね、ちょっと悪目立ちしすぎる護衛で」

 

隊列の中に入ると、サクヤさんに手を繋がれたレミリアに呼び掛けられた。案の定、彼女はとても気恥ずかしそうだ。

 

「ううん、大丈夫よ。この人達、全然怖くないし。むしろ可愛いわ!」

 

「「か、かわいい・・・(ですか)!?」」

 

レミリアが発したちょっとした爆弾発言を前に、思わず早苗と一緒になって驚いてしまった。か、格好いいなら分かるんだけど、フルアーマーの海兵隊員を可愛いって・・・

 

「フフッ、ちょっと変わった慣性でしょう?お嬢様は」

 

「そ、そうみたいですねぇ・・・アハハ」

 

「うー、べつに変わってないわ」

 

サクヤさんが頬を緩めて私達の思考を肯定すると、レミリアはむーっと頬を膨らませて彼女を見た。その仕草は、年相応に可愛らしい。

 

「あっ、お姉様ばかりずるいわ!」

 

私達とレミリアが話しているのを見て、メイリンさんに手を繋がれていたフランが駆け寄ってくる。そして、強引に私の手を繋いだ。

 

「ふ、フラン?」

 

「ああ―――妹様なら今まで構ってもらえなくて寂しかったみたいですから、暫くそうさせてやってくれませんか?」

 

「うう・・・メイリンさんが言うなら―――」

 

「えへへ・・・」

 

「フフッ、霊夢さんったら、お姉ちゃんみたい」

 

「―――あんたは一言余計よ、早苗」

 

メイリンさんに頼まれて、フランにはそのまま手を繋いだままにした。なにが嬉しいのか分からないけど、フランは終始ご機嫌みたいだ。

 

「霊夢さん霊夢さん、お姉さまを助けてくれてありがとー!」

 

「あら、どういたしまして。もう大丈夫だからね。レミリアも、身体は大丈夫なのかしら?」

 

「うむ、大丈夫だぞー。あの医者が良くしてくれたからね!」

 

「ええ―――お嬢様の容態も、サナダ殿に渡された薬を飲ませてからはそれはもう劇的に改善しました。彼等の話ではウイルスはもう残っていないということでしたから。―――有難うございます」

 

「いや、それは私がしたわけじゃないし―――でも、無事で良かったわ」

 

レミリアが無事でいてくれたことは、本当に良かったと思っている。彼女はあの吸血鬼とは違ってただの子供だ。私達の不注意でトラウマものの経験をさせてしまったけれど、この様子なら、きっと立ち直れそうね。

 

―――彼女からも、時折あの吸血鬼みたいなカリスマを感じるし。さて、将来はどうなることやら・・・

 

 

 

私達は海兵隊員に囲まれて、周囲の視線すら忘れながら、暫し談笑に興じていた―――

 

 

 




これで六章も完結です。次回からは、久し振りに原作回帰となります。

レミィ達の出番がやや少なかったと感じられるかもしれませんが、彼女達の見せ場は原作青年編の時期なので・・・そこまで行くのにいつまでかかることやら(遠い目)

そしてちょっとした予告ですが、挿絵欄に「大戦艦フソウ」のラフイラストを投稿しました。気になりましたらご覧下さい。

この先ちょっとした裏話

――――――――――――――――――――

この六章は構想初期からありましたが、当初は単に友民党モドキを霊夢ちゃんがぶちのめすだけのお話でした(笑)そして再初期の設定では、レミリアがゼーペンスト、フランがヴィダクチオに囚われているというものでした。
途中の見直しで霊沙の閑話やレミフラ周りの設定変更がありましたが、その段階ではレミフラのどちからと一緒に霊夢ちゃんか早苗さんのどちらかも誘拐されるプロットがありましたが、他章に比べて長くなりすぎ、時間も取られ過ぎるために断念しました。ここはこの章を書き始める最後まで悩みました・・・(笑)

このまま原作少年編ラストまで突っ走るので、今後ともよろしくお願いします。チュートリアルはやっとそこで終わりです!

原作は青年編が実質本編・・・(白眼)

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