夢幻航路   作:旭日提督

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第七八話 別れの旅立ち

 

「…は?いま、何て言った…?」

 

 偶然同じ星に寄港していた知り合いの0Gドック……ユーリに一声掛けようと彼の艦を訪ねていた私だけど、そこで、衝撃の事実を知らされることになった。

 

「ですから…大マゼランに逃げても、ここで食い止めなければ無駄なんです……」

 

 "逃げられない"……正直、耳を疑った。

 

 どう足掻いても現有戦力ではヤッハバッハには対抗できないし、何より"来客"とクルーの安全の為にいままでヤッハバッハとは極力戦わない方針できたというのに、ここに来てあの大艦隊を足止めしなければ助からないとは、まさに絶望的状況だ。

 

「ヤッハバッハ先遣艦隊の総司令、ライオス・フェムド・ヘムレオンは確かにここの長老に対して"大マゼランへの案内をして欲しい"と頼んだ。それが、奴等が小マゼランだけでなく大マゼランをも目指している最大の証拠さ。それに、このマゼラニックストリームが敵の手に落ちれば"案内人"も奴等の手中さ。そうなったら、奴等は12万の大軍を率いて大マゼランをも強襲するだろう。……そうなったら、大マゼランも終わりさ」

 

 ユーリ君の副官―――トスカさんが、敵、ヤッハバッハの目的を語る。

 

 奴等が大マゼランを目指して進軍してくる以上、大マゼランに逃げても無駄、という訳か。……小マゼラン諸国は足止めにもならないだろうし、幾ら強国蔓延る大マゼランといえど、10万単位で押し寄せる敵の奇襲を受けてしまってはあっという間に瓦解してしまうだろう。……正直、手詰まり状態だ。

 

「くっ……参ったわね、これは」

 

 ここでいまの私達が戦ったところで、ヤッハバッハの大軍に押し潰されるのは目に見えている。だけど、大マゼランに逃げるためには誰かがここでヤッハバッハを足止めしなければならない。それも、長期に渡って……

 

 ――勝算、あるの?

 

「アイルラーゼンの連中は、エクサレーザーとかいう大層なモン使うつもりらしいけどねぇ」

 

「エクサレーザー?なにそれ」

 

「アタシも詳しく知ってる訳じゃないが……なんでも極太レーザーで恒星を貫いて、超新星爆発を引き起こそうって魂胆らしいけど」

 

「超新星………」

 

 トスカさんも、あまり詳しくは知らないのだろう。その説明は中身を見れば曖昧なものだ。だけど、要領は得ている。要するに、あの赤色超巨星ヴァナージにそれを撃ち込んで、超新星で敵を足止めしようって魂胆なんでしょう。けっこうえげつない手を考えるのねぇ……って、待てよ、超新星―――ってことは………

 

「………まさか、それでゲートを通行不能に」

 

「当たりさ」

 

 ―――成程、そういう手があったのか!

 

 ボイドゲート自体の破壊は極めて困難だけれど、通行不能にしてしまえば奴等が大マゼランに到達することはない。それに、超新星の余波で敵艦隊そのものにも大打撃を与えることができるかもしれない。

 けど、超新星爆発なんて起こしたら、どうやって離脱しようか……

 

「ああ、離脱なら心配ない。私達はヤッハバッハを側面から強襲して、敵を一時的に混乱させて足止めして、そのレーザーのチャージ時間を確保するのが役割だからね。それが済んだら離脱していいって言質もバーゼル――アイルラーゼンの司令官から取っている。だから……協力、してはくれないかねぇ」

 

「僕からも、お願いします。小マゼランを守るためにも、その力が必要なんです!霊夢さんの艦隊があれば、ヤッハバッハへの奇襲時の攻撃力は僕達だけに比べて遥かに上がるんですから!」

 

 トスカさんとユーリ君はそう言って、私に作戦への参加を要請した。……だけど、ここで即決するには、敵があまりに強大過ぎるというか………

 

(………早苗、どう思う?)

 

(え、私ですか?……そうですねぇ、どのみちヤッハバッハの足止めに失敗したら彼等は確実に大マゼランに雪崩れ込んでくる訳ですから、ここで逃げても彼等が失敗したら意味が無くなりますよね。それなら、彼等に協力して作戦成功の確率を上げた方がよろしいのかと。ああ、レミリアさん達は事前に別の艦に移して逃がした方がいいですね)

 

(やっぱりそうかぁ……なら、ここは腹を括るしかないのかなぁ。あまり気は乗らないけど、そうしないと助からないってのならやるしかないか………)

 

 早苗と小声で相談してみても、やはりここで一戦交えるほかないようだ。なら、いっそのことユーリ君達に協力して、その作戦の成功確率を上げるのか一番確実な道だろう。

 

「……分かったわ。今回は特別に協力してあげる」

 

「そうですか!?有難うございます!」

 

「いやぁ、済まないねぇ、巻き込んじまってさ」

 

「いえ、そうしないと、どのみち私達も逃げられそうにないと判断したまでよ。………ところで、ヤッハバッハに奇襲といっても、何処から仕掛けるつもりなの?確かヤッハバッハの連中はヴァナージに通じる航路に居たと思うんだけど、あそこ、航路一本しかないでしょ?」

 

 ヤッハバッハの艦隊は、あの後赤色超巨星ヴァナージの周囲に繋がる宙域に後退していったらしいけど、そこに通じる航路は確か一本しかなかった筈だ。それでは、奇襲以前に見つかってしまうのではないだろうか。

 

「……それなら、私が説明します」

 

「貴方は………」

 

 何処かで聞いたような声が響いた。だけど、何処て聞いたかはよく思い出せない。

 ユーリ君達の後ろから、その声の主と思われる白髪のおじさんが現れる。その顔も、何処かで見たことがあるような……

 

「………もしかして、シュベインさん?」

 

「おお!覚えていただけてましたか。光栄です。貴女と会うのは、確かエルメッツァのボラーレ以来となりますね」

 

 ―――思い出した。確か小マゼランに来てすぐの頃に、エルメッツァの宇宙港で会ったのがこの人だった。私はあんまり人の顔と名前を覚えるのは得意ではない方なのだが、よく覚えていたなあと我ながら感心する。

 

「……シュベイン、知り合いだったのか」

 

「ええ。以前エルメッツァに寄った際に、少々……」

 

 トスカさんは元からシュベインさんと知り合いだったらしく、私を見た彼の反応に少し驚いていたみたいだ。が、彼はそこそこに話を誤魔化すと、早速本題に入った。

 

「実はこの先のハインスペリアから、ヴァナージの裏手にあるRG宙域に向けて秘密航路が伸びています。そこを通れば、小規模な艦隊なら気付かれることなくヤッハバッハの泊地を強襲出来るでしょう」

 

「なーるほど、秘密航路かぁ………」

 

 ちょっと格好いい響きよね。知る人ぞ知る抜け道みたいで。それはともかく、ヤッハバッハに知られていないというのなら事前に探知されるリスクも低いだろう。奴等からしたら、いきなり側面から敵艦隊が突っ込んでくるのだ。その衝撃は計り知れない。それにあれだけの大艦隊だ。反応するまでには必ず大きな隙が出来る。でかい艦隊というものは、それだけ動きも緩慢だからだ。その間に敵の懐に飛び込んでしまえば、敵も迂闊には手を出せまい。………うん、なんだか上手くいくような気がしてきた。

 

(だからって、油断は禁物ですよ霊夢さん)

 

(分かってるわよそんなこと)

 

 それでも、リスクは高い。……だけど、ここでしくじれば大マゼランにすら逃げ場が無くなるのだ。私達の生存圏確保の為にも、彼等の作戦は成功に導かねばなるまい。

 

「分かったわ。私も一緒に行動させて貰うわ」

 

「おお!そうですか!ならば宜しくお願いします!」

 

「ええ。任せておきなさい。私が参加するからには、必ず成功させてみせるわ」

 

 

 こうして、私達はユーリ君達と合同してヤッハバッハに当たることになった。後は、この事をクルーの皆に説明しないとね。色々意見とか出そうで面倒だけど、ここは艦長として、しっかり艦隊を纏めないと………。

 

 

 

 

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 ~『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉大会議室~

 

 

 

 ユーリ君の艦から〈開陽〉に戻った私はすぐに幹部クルーの皆を召集し、会議を開いた。彼からもたらされた情報は、それだけ重大なものだった。

 

「……状況は理解した。つまり、我々が大マゼランに逃れたところで、ヤッハバッハが大マゼランへの進攻を画策している以上、逃げるのは無駄であると」

 

「そんなところね。ここで皆に聞くわ。ヤッハバッハとの戦いに身を投じるか、それとも奴等はユーリ君とアイルラーゼンに任せて一路大マゼランを目指すか」

 

 説明が終わったところで、私は意見を求めた。

 

 一様に皆、難しい表情を見せて考え込む。

 

「……艦隊の保全を最優先とするなら、アイルラーゼン艦隊を身代わりに大マゼランへ急ぐべきだろうな」

 

「……つまり、貴様は逃げるべきだと言いたいのか?」

 

「最低でも、"来客"の安全は確保せねばなるまい。それが出来なければ戦うべきではないだろう」

 

「だが、逃げたところで追ってこられては意味がない。ここは戦うべきではないか?それに、アイルラーゼンが上手くやるという保証もないだろう?」

 

 サナダさんとフォックス、そしてディアーチェが意見を交わす。

 

 ……サナダさんの言うとおり、戦うにしてもレミリア達の安全は確保しなければ。ここは艦隊を分割して先に大マゼランに逃がすべきだろうか。艦隊の戦力は低下することになるだろうが……

 

「だが、アイルラーゼンが失敗するという前提が決まったわけではない。なら、最低でも来客は逃がすべきだ」

 

「そうだな。少なくとも、託された以上我々には彼女達を安全に送り届ける義務がある」

 

「同感だな」

 

「ま、逃げるってならそれで良いんじゃねぇの?」

 

「むぅ………」

 

 コーディとショーフクさん、加えてロビンさんも、それに賛意を示した。

 ディアーチェさんは、やや不満気だ。

 

 サナダさんはやけに楽観視しているけど、これは私が事前に彼にはアイルラーゼンの"隠し玉"を伝えておいたからだろうか?

 

「だが、安全を確保すると言ってもどうやるんだ?まさかこのまま乗せて戦うということはできないだろう?」

 

「そうだな。それに、一介の0Gとして、このまま故郷が蹂躙されるのは見ておれん」

 

 一方で、フォックスやディアーチェのように戦うべきではないかと言うクルーも引き下がらない。それに、一部のクルーにとって小マゼランは故郷だ。0Gなんてやってるから国自体にそれほど執着がない彼等だが、こと故郷に至っては別だ。彼等にも、それなりの愛郷心は備わっている。……私も、幻想郷が蹂躙されるとなったら全力で抵抗するだろうし。

 

 ……そこで、私は口を開いた。

 

「……戦うなら、艦隊を分けるしかないわね」

 

「艦長!?」

 

 私の言葉にフォックスが驚きの声を上げた。

 

「それでは、戦力が分散されてしまうぞ」

 

「仕方ないでしょ。ここでヤッハバッハを食い止めなければ逃げるどころか逃げ場すらなくなるのよ。だからといって彼女達を巻き込む訳にはいかない……ショーフクさん、彼女達をお願いしてもいいかしら?」

 

「……それは、〈高天原〉を脱出艦とする、という事ですか?」

 

「ええ。護衛艦も何隻かつけるわ」

 

「承知した」

 

 ショーフクさんにレミリア達のことをお願いしたところ、彼は快く承諾してくれた。

 

「……ま、艦長がそう言うなら従うだけだ」

 

「だが、敵との戦力差は如何ともしがたい。戦うとしたら、正面からぶつかるのは絶対に避けるべきだな」

 

「同感だ。奴等は数、質共に一介の0Gでは勝てるような存在ではない。幸いアイルラーゼンという盾がいるんだ。それを有効に使うべきだろう」

 

 エコーは、戦闘するにしても正面からは戦うなと釘を差す。

 無論、私も正面からヤッハバッハと戦うつもりなど無い。

 

「だが、どうやって奴等をこの宙域に足止めするんだ?奴等は旗艦を落とした程度で止まる敵ではないでしょう」

 

 続いて、コーディが質問する。

 

「それについては……一つ策があるわ」

 

 確かに現有戦力では、アイルラーゼンを含めてもヤッハバッハを足止めすることは難しい。……だけど、今回のアイルラーゼンには切り札がある。

 

「アイルラーゼン艦隊には、エクサレーザー砲艦タイタレスが随伴していると聞いた」

 

 聞き慣れない語に、会議室内でざわめきが広がる。

 

「エクサレーザー?」

 

「タイタレス……何ですかその艦は」

 

 矢継ぎ早に質問が飛んでくるが、私はそれを制し、皆が落ち着いてから説明する。

 

「まぁ、ともかく落ち着いて。いまから説明するから……………。ユーリ君から聞いた話だけど、その艦は巨大なレーザー砲を搭載した砲艦らしいわ。エクサレーザーってのがどんなのかは知らないけど、かなり強力な砲らしい」

 

 私の説明で、再びざわめきが広がった。

 

 ―――その砲を使えば、ヤッハバッハ艦隊に大打撃を与えられるのではないか、と………

 

「……成程、つまりその砲艦を使って、ヤッハバッハに大きな出血を強いることができる、と」

 

 フォックスが言葉に出したのは、この場に集まるほぼ全員が頭に描いていた光景だろう。それほど強力な砲があれば、もしやヤッハバッハに対抗出来るのではないか、と。

 

 だけど、その幻想は直ぐに否定される。

 

「それは無理だろう」

 

 言葉の主は、サナダさんだ。

 

 その発言で、全員の目がサナダさんに向かう。

 

「無理とは、どういうことだ?」

 

 ディアーチェさんが、睨むような事前にでサナダさんを問い詰めた。

 サナダさんからそれに臆することなく、説明を始める。

 

「言葉通りの意味だ。エクサレーザー砲艦が幾ら強力だといえ、相手は10万を越える大艦隊だ。一方でアイルラーゼン艦隊はその十分の一以下。その程度の戦力差があれば、エクサレーザーで敵を凪ぎ払う前に護衛艦隊が壊滅して砲艦も沈められるだろう。それまでに出来るのは、たかだか二、三射だ。その程度の攻撃回数では敵にインパクトは与えられても、足止めまではとても出来まい」

 

 サナダさんの言葉に、会議室は一様に沈黙した空気に包まれる。

 だが、彼は続いて、希望の言葉を紡いだ。

 

「………だが、その砲艦の使い方を変えれば別だ。ヤッハバッハの足止めも、充分可能だろう」

 

「なんだと!?」

 

 一度打ち砕かれたと思われた希望が再び提示されたことで、皆サナダさんの言葉に飛び付く。

 

「……エクサレーザー砲は、恒星に撃ち込めば核融合反応の異常増幅を引き起こし、超新星爆発に至らしめることが可能だ。それを利用すれば………」

 

「超新星爆発の影響で、ゲートを通行不能にするという訳だな!」

 

「その通りだ。ヴァナージほどの質量を持った恒星なら、その爆発はハイパーノヴァとなるだろう。近傍の恒星系を呑み込み、ゲートを通行不能に陥らせるには充分過ぎる代物だ」

 

 ディアーチェの言葉をサナダさんは肯定した。一般に、ボイドゲートはボイドフィールドによりあらゆる攻撃を受け付けず破壊は極めて困難とされている。あれ自体古代文明の異物らしいけど、そこまで強固なフィールドを持っているんだからその文明水準もかなり高いものらしい、ってサナダさんが言ってたっけ。おっと、本筋から外れた。

 だけど、幾ら強固なボイドゲートといっても近くで超新星爆発でも起これば話は別だ。ゲート自体は崩壊せずとも、超新星爆発で引き起こされるガンマ線バーストや衝撃波の影響でゲートの機能が停止し、ゲートは通行不能に陥る。超新星爆発後も付近に広がった恒星の残骸―――超高熱のガス雲からなる超新星残骸の影響で、付近一帯の航路は全く使い物にならなくなるだろう。今回の作戦は、それを人為的に起こそうというものだ。

 

「……アイルラーゼン艦隊も、その方向で動いているみたいよ。そこで私達の役割だけど、ユーリ君達の艦隊と合同して、敵艦隊側面を強襲、旗艦を撃沈して敵の指揮系統を一時的に麻痺させるというものよ」

 

「その後は速やかに戦線を離脱、超新星爆発に伴うガンマ線バーストと衝撃波から退避します」

 

 サナダさんの解説が終わったところで、私と早苗が作戦概要の説明を行う。

 

「……そのエクサレーザーとやらを発射するまでの、時間稼ぎか」

 

「ええ。この作戦の成否は、エクサレーザー砲を発射できるか否かにかかっているわ。幾ら精強なアイルラーゼン艦隊とはいえ、正面から十倍以上のヤッハバッハ艦隊と戦っていてはそう長くは持たないし、もしかしたら発射前に戦線が瓦解する恐れもある。それに、超新星爆発を引き起こすほどのエネルギーを持った砲艦よ。当然エネルギー反応も異常に高い。そんなのが戦場後方に控えていたらヤッハバッハの連中は躍起になって前線の突破を図るでしょう。艦隊指揮官が誰だってそんな危険な代物を放置してはおけないわ。そこで、私達が敵艦隊に強襲を掛けて一時的な混乱を引き起こすことで、ヤッハバッハの進撃速度を一時的に停滞させる。幾らヤッハバッハといえど、陣形の中に入られては同士討ちを恐れて迂闊に手を出せない筈よ」

 

「……つまり、如何に早く敵の懐に飛び込むかが、この作戦の要であると」

 

「そういうことね。何か質問は?」

 

 説明を終えた私は、質問が出ないかどうか確認する。が、今ので皆納得してくれたようで、特に質問はなかった。

 

「……ま、かなーり厳しい戦いになりそうだが、艦長が言うなら付いてくしかないっしょ」

 

「ヘッ、またあの野郎共にこれで一泡吹かせてやれるってもんだ」

 

 ロビンさんやフォックスのように、クルーの皆は戦いに向けて意気込んでいる。確かに今まで以上に今回は危険が伴うけど、それでも付いてきてくれるというのはやはり艦長冥利に尽きる。同時に、責任も………

 

 だけど、戦いに赴く前に、一度伝えておかなければならないことがある。

 

「意気込んでいるところ悪いんだけど……クルーの半分くらいは〈高天原〉と共に大マゼランに向かってもらうわよ?」

 

「な、何ィ!?」

 

 本来、ここで艦隊は〈開陽〉中心の主力艦隊と、レミリア達を乗せた〈高天原〉率いる先発隊に別れる算段なのだ。〈高天原〉にもショーフクさんのクルーが居るけど、それだけではマゼラニックストリームを越えるには人手が足りない。それに、大マゼランに着いても現地の海賊達から彼女達を守らなければならないのだ。そのためにはやはり、もっと人手が必要なのだ。

 

「そういえば…そうでしたっスねぇ」

 

「……で、その先発隊とやらには誰を連れていくつもりなのだ?」

 

 ディアーチェさんが、私に先発隊の構成を質問した。

 

「先発隊については、ショーフクさんのクルーの他に、艦橋クルーからはコーディにリアさんとこころ、航空隊はガルーダ、ガーゴイル、ヴァルキュリア隊を除いた全てのパイロット、保安隊はエコー、ファイブス、椛以外の全員よ。その間向こうの保安隊は、チーフに隊長代理を務めてもらうわ。整備班は三分の二くらいはあっちに移して、他のクルーは、最低限の運用人員を残して全員〈高天原〉に移ってもらうわ」

 

「……保安隊、了解した。だが随分と向こうに回す人員が多いな」

 

「それだけ、この先の航路が過酷だろうってことよ」

 

 分派する人員の説明は終えたが、やはり疑問は出るようだ。だけど、あちらにはレミリア達を乗せる以上、人員に妥協はできない。

 

「コーディはショーフクさんの下について、彼の補佐を。そしてショーフクさんには、私が戻るまでの間、クルー達をお願いします」

 

「イエッサー」

 

「心得た。……だが、合流地点はどうする?まさか艦長はここで尽きようという魂胆でもあるまい。生存を前提とするならば、あちらで落ち合う場所くらいは決めておいた方がよかろう」

 

「あ………」

 

 しまった、そのことを忘れていた……。ショーフクさんに指摘されるまで気付かないとは、不覚………

 

 しかし、落ち合う場所といっても大マゼランの地理なんてさっぱりだ。何処がよさそうな場所かなど全く分からないんだけど……

 

「それなら、私に提案がある」

 

「サナダさん!?」

 

 そこで思わぬ助け船だ。本当にサナダさんにはお世話になるなぁ。………彼、知らないことなんて無いんじゃないかしら?まぁ、素行にそこそこ問題有りだけど。

 

「大マゼランの端、ゼオスベルトという宙域には、何処の国にも属さず0Gドックを支援するための組合が統治している自治領があると聞く。そこなら国家から余計な干渉が入る確率もかなり低い上に、何より目印として分かりやすい。どうだろうか、艦長?」

 

「そこにしましょう。じゃあ待ち合わせ場所はゼオスベルト、で良いわね?」

 

「了解した」

 

 これで、最後の懸案も解決した。後は、戦いに向けて準備をしていくだけだ。

 

「では……諸君の健闘に期待する。解散!!」

 

 暫く大半のクルーとは別れることになるし、ちょっと格好をつけて、私は会議の解散を告げる。そしてクルー達は、慌ただしく準備に取り掛かっていった………。

 

 

 

 

 

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「霊夢……本当に行っちゃうの?」

 

「ええ。でもここでお別れって訳じゃないわ。悪い奴等をやっつけたら、また直ぐに戻ってくるから」

 

 出港当日、私はレミリア達の下に赴いて、一時の別れの挨拶を告げた。二人とも不安そうな表情で、ちょっと申し訳ない気持ちになる。……気分的には、幼子を残して出征する父のような心境だろうか。

 

 そういえば、彼女達にはあまり構ってあげられなかったなぁ……大マゼランに着いたら、存分に構ってやるか。二人ともあっちと違って大人しくて可愛いし。

 

「じゃあ……約束だよ?また会ったら、そのときは一緒に遊んでくれる?」

 

「お姉様だけじゃなくて、フランともね!」

 

「……ええ、約束するわ。また会ったら、そのときは構ってやるわ。だから、今は我慢」

 

「……分かった」

 

「うん!」

 

 二人とも、納得してくれたみたいだ。

 

 ……約束したからには、必ず生還しなきゃね。尤も、最初からくたばるつもりなど毛頭無いが。

 

「………では、こちらに」

 

「たっしゃでなー!」

 

「またね!霊夢さん!」

 

 レミリアとフランは、大きな声を上げて私に別れの挨拶を言う。それは何処か、悲しさを気取らせまいと気丈に振る舞っているようにも見えた。

 

 二人は護衛担当のチーフに連れられて、〈高天原〉のタラップを登っていく。

 

「……では、私達もこれで。お嬢様達の為にも、必ず生きてまた会いましょう」

 

「私も社長からお嬢様を託された身です。今度こそ、何があってもお嬢様達を守り抜きます。ですから、霊夢さんは心置きなく、目の前のことに集中して下さい」

 

「二人とも、有難う。………じゃあ、そろそろ行くわ」

 

「はい」

 

「では、お気をつけて」

 

 レミリア達が乗艦した後、サクヤさんとメイリンさんとも、別れの言葉を交わし合う。二人はそれぞれ、挨拶を終えると〈高天原〉と〈レーヴァテイン〉へと別れていった。

 

 さて、私もそろそろ艦橋に戻らないとね。

 

 ................................................

 

 

 がらりと人が居なくなった通路を過ぎ、〈開陽〉の艦長席に座る。艦橋のクルーも、所々空席が出来ていた。

 

「……食料、弾薬、共に満載状態です」

 

「エンジンの暖気運転は済ませています。いつでも行けますよ」

 

「レーダー、センサー異常なし。索敵機能は万全です」

 

「火器管制は万全です。いつでもぶっ放せます」

 

「重力井戸、異常なし。飛び立つんならお好きなときに」

 

 早苗、ユウバリさん、ミユさん、フォックス、ロビンさんから報告が入る。

 

 私は艦長席を立つと、力強く命じた。

 

「―――〈開陽〉、出港!!」

 

 

「イエッサー!〈開陽〉、発進!」

 

「インフラトン・インヴァイダー、出力巡航モード!」

 

 カシュケントの港から、エンジン音を盛大に響かせて〈開陽〉が出港する。随伴の艦隊も、〈開陽〉に続いて続々と宇宙港を後にしていく。

 

「〈高天原〉より発光信号!」

 

 すると、艦隊主力より別れ行く〈高天原〉の艦橋で、サーチライトがチカチカと光るのが見えた。

 

「……読み上げて」

 

「はい……『貴艦隊ノ健闘ヲ祈ル。我再ビ見エルコトヲ願ワン』……です」

 

 ミユさんが、〈高天原〉から発せられた発光信号を読み上げる。

 

 ……多分、ショーフクさんが送った信号だろう。中々洒落た真似をしてくれるじゃない。

 

「――本艦も発光信号で返信『貴艦ノ航海ノ無事ヲ祈ル』………」

 

「了解」

 

 ミユさんに命じて、〈開陽〉のサーチライトで〈高天原〉に向けて返答させる。発光信号を交わし合う二隻の姿は、別れ行く戦友の身を案ずる兵卒のように感じられた。

 

「……〈高天原〉が離脱していきます」

 

 信号を交わし終えると、〈高天原〉は護衛艦のドゥガーチ級空母〈ロング・アイランド〉とリーリス級駆逐艦〈フレッチャー〉〈スコーリィ〉〈ドーントレス〉、そして補給艦の物資を売り払って手に入れたなけなしの金で作った新造のスタルワート級重フリゲート〈フォワード・オントゥ・ドーン〉の5隻を率いて大きく転舵し、大マゼランに向かって旅立っていった………。

 

「本艦隊も目的地に急ぎましょう。機関全速!目標RG宙域!」

 

「了解!機関、全速前進!!」

 

 〈高天原〉と別れた後、ユーリ君達の艦隊と合流した私の艦隊は、一路ヤッハバッハの主力が潜む臨時泊地に向けて進撃を始めた………。

 

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