~コーバス星系~
ここコーバス星系は、居住惑星もなく、めったに船が立ち寄らない、ヤッハバッハ領の中でも最辺境に位置する惑星である。
そんな星系で、3隻の宇宙船が互いにレーザーを放ち、火花を散らしていた。一方は1隻で、灰白色の船体に赤いラインが入った100m吸の小型艦だ。もう一方は細長い緑色の長方形状の艦体を持つ300m級の艦が2隻。両者は互いにレーザーを撃ち合っているが、前者の方は所々から煙が立ち上っており、圧倒的に不利なように見える。
紅白の艦は持ち前の足の速さを生かしながら戦場からの離脱を図っているのか、緑色の艦隊の周囲を縦横無尽に飛び回る。
しかしそれを易々と許す相手ではないようで、両者の間の攻防は一進一退を極めていた………
~銀河共和国宇宙軍所属 カンサラー級クルーザー/チャージャーc70改造艦 ”アイアン・シージ ”~
「チッ…………帝国から逃げたと思えば、何なんだこいつらは」
紅白の小型船のブリッジで、操舵席に座る装甲服を纏った男が悪態を吐く。
「焦るなエコー。幸いまだ重要な区画には被害が出ていない。機を見て逃走できる」
その横で、別の男が砲を操作しながらエコーと呼ばれた男を落ち着かせる。
「そうは言ってもよ、こっちは1人怪我してるんだ。只でさえ乗員が少ないのに、これ以上被害が出るのは不味いだろ」
楽観的な彼に対して、エコーが抗議する。
「待て、レーダーに新たな反応だ」
ブリッジの最前列の席に座り、レーダー管制を担当していた別の男が報告した。
「今度は何だ、ファイヴス!」
エコーが尋ねる。
ファイヴスと呼ばれた男は冷静に、レーダーの情報から得られた現状を報告した。
「何かがジャンプしてくる。でかいぞ」
ファイヴスはレーダー画面を睨みながら、何かがワープアウトする兆候があると告げた。
「おい、後方から艦がジャンプしてきた。ヴェネター級だ!」
キャプテン・シートらしき艦橋中央の座席に座る紅白にペイントされた装甲服を纏った男が席を立って、ガラス越しに後方を覗き見る。
彼が目にした艦影は、彼等にとっては最悪なことに
「何! ヴェネター級だと!」
「チッ、追手か!」
声を荒げて、遠吠えのように悪態を吐く男達。
ブリッジの中に、言いようのない確固たる絶望が広がる。自分達の前にいる正体不明の敵艦でさえ手こずっているというのに、後ろから新たな敵が現れたと感じたからだ。
―――ヴェネター級スター・デストロイヤー。
彼等の母国、銀河共和国が建造した主力戦艦。
しかしその共和国軍は一部を除き銀河帝国軍と名を変え、冷徹な皇帝の執行者と化した。
帝国を認めず、共和国軍兵士としての立場を保っていた彼等は、忽ちのうちに追われる側となったのである。
なので、彼等が後方から現れたヴェネター級艦を敵と誤認するのは仕方ないことであった。
「ヴェネターより通信だ」
ファイブスが報告する。
「…………何と言っている?」
エコーが尋ねた。
敵と思われる戦艦から通信。どうせくだらない降伏勧告だろうと思って読み上げを命じたエコーは、直後にその予想を斜め上もいいところで裏切られた。
「《我ハ貴艦二敵意ハナイ。此ヨリ貴艦ヲ援護スル》と言っているが…………」
ブリッジが、沈黙する。
後方にワープアウトしてきた艦は、どうやら敵ではないようだった。
ファイブスが通信を読み上げた後、艦の横をレーザーの光が通過していく。レーザーは前方にいた緑色の艦のうち1隻に命中し、緑色の艦は火を吹いた。
「なるほど。嘘偽りではないらしい。だとしたらブリュッヒャー本部長が寄越した艦か?」
「しかし妙だな。救国軍事会議の所属艦ならIFFに応答がある筈だが…………」
「問題なのは、あれが帝国ではないということだ。そんなことはどうでもいい、とにかく今は目の前の敵を撃破するんだ」
敵でないのなら好都合だとばかりに、エコーは眼前の不明艦への攻撃を命じた。
「よし、ここから反撃だ」
砲手の男は後方に現れた艦の砲撃で損傷した敵艦に照準を合わせ、主砲を放つ。レーザーは緑色の艦の弱った部分に直撃し、蒼い爆発を起こして沈没した。
「よし、あと1隻だ。一気に蹴散らすんだ!」
エコーは舵を切って残った1隻に艦首を向けた。もう1隻の敵艦は、後方の艦から砲撃を受けて既に火達磨になっていた。
「これで止めだ!」
砲手は残った艦に止めを刺すべく、主砲を発射する。もう1隻の敵艦も爆散した。
「なんとか切り抜けたようだな」
「ああ、だがこれからどうする?」
エコーが今後の方針を思案する。
「再び後ろの艦から通信だ。事情を聞きたいと言っているようだ。ついでに報告するが、後ろのヴェネターのIFFは帝国軍でも、ましてや共和国―――救国軍事会議でもない。未知の信号を発している」
ファイヴスが報告する。
既知のどの勢力の艦でもないヴェネター級。怪しいことこの上ないが、それよりも興味が勝った。
「…………あっちに行ってみるか?」
エコーが後ろの艦とコンタクトを取ることを提案する。
彼等は後方のヴェネターへの興味以外にも、艦の修理や負傷者の治療など、やむを得ない事情も抱えていた。
そのこともあって、彼の提案は満場一致で可決された。
「ああ、それがいいだろう」
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~ヴェネター級艦 ”高天原 ”~
《ブランジ/P級2隻のインフラトン反応消失を確認。撃沈しました》
〈高天原〉のブリッジ内で、早苗が報告する。〈高天原〉は、ハイパースペースを出てすぐに艦の前方で不明な小型艦とヤッハバッハが戦っているのを捉え、ヤッハバッハを攻撃していた。
《なお前方の不明艦も、こちらと合流することに同意したようです》
ブリッジの外を見ると、ヤッハバッハと戦っていた不明艦が〈高天原〉とランデブーを図ろうと向きを変えていた。
「分かったわ。ところでコーディ、あれを見たとき何か言っていたけど、何かわかるの?」
艦長席に立っていた霊夢が尋ねた。
「ああ、あれはカンサラー級クルーザーだ。俺達が昔いた軍隊で使われていた小型の汎用艦だ」
「成程、そうしたらあれも古代異星文明の艦ということか。これは興味深いな」
コーディの説明に耳を傾けていたサナダは、接近してくるカンサラー級を見つめながら感心したように呟く。
「つまりコーディと同じ時代の船ってことね。それと、サナダさん、調査するのはあっちが許可してからにしなさいよ」
霊夢はサナダを窘める。
この知的好奇心の塊とも言うべき男は、しっかり手綱を握っていなければ何をしでかすか分からない。共に過ごした短期間で悟った真理だ。
《不明艦より通信、接舷許可を求めています。負傷者が居るようなので、医療要員の援助も求めています》
「まずあっちの人数を聞いてくれない?」
霊夢は早苗に、不明艦の乗員数を訊くように命じた。万が一相手が大人数で、艦を乗っ取られでもしたら困るからだ。そのようなことはないとは思うが、この宇宙は弱肉強食の世界。何が起こるか分からない。
《了解。――――――どうやら相手は6人、負傷者は1名のようです》
早苗から報告が入る。
霊夢は下顎に指を置きしばし吟味する素振りを見せた後、彼等の乗艦を許可することに決めた。
「許可すると伝えて」
霊夢から接舷許可を得たカンサラー級は〈高天原〉の艦底に回り込み、ドッキングポートに接舷した。
「それじゃあ、私は彼等を出迎えるわ。コーディは私についてきて。貴方がいた方が色々話しやすそうだからね」
「イエッサー」
コーディは霊夢の後に続く。
「それと霊沙は艦橋で待機していて。相手に負傷者がいるみたいだから、サナダさんは医務室で待機ね」
「わかった」
「了解だ」
霊沙は命じられた通り艦橋で待機し、サナダは一足先に艦橋を出て医務室に向かった。霊夢とコーディは、カンサラー級の乗員とコンタクトを取るべくドッキングポートに赴いた。
ドッキングポートに着いた霊夢達は、不明艦の相手を出迎えるべくエアロックで待機していた。此方が準備できたと伝えると、エアロックが解放され、相手の船から6人の人間が下りてくる。内一人は仲間の肩に担がれて歩いている。恐らく報告にあった負傷者だろう。相手は皆一様な装甲服を着込んでいるが、装甲服に描かれているラインの色や模様はそれぞれ異なっている。それらの装甲服のデザインはコーディが着ているものと同じだと霊夢は気がついた。
「ねえコーディー、この人達貴方のお仲間かしら?」
「どうやらそのようだな。何故共和国のトルーパーがここにいるのかは分からないが」
霊夢の問いに、コーディが答える。
銀河共和国の生き残りは自分一人。まさか己のようなレアケースはそう何人もいないだろう。
そう思っていたコーディだったが、その認識が間違いだったと思い知らされた瞬間だった。
「この度は危ない所を助けて頂いてどうもありがとう。俺達は共和国軍の兵士で、帝国から逃れてきたところだ。俺はエコー、隣のこいつはファイブスだ」
エアロックで先頭を進んでいたエコーが挨拶する。エコーに紹介されたファイブスも頭を下げる。両名とも、青いラインが入った灰白色の装甲服を着用している。
「私はこの艦の艦長をしている博麗霊夢よ。こっちはコーディ。立ち話も難だから、まずは応接室に案内するわ。詳しい話はそこでしましょう」
エコーが名乗るのを見て霊夢も自己紹介する。
「紹介された通り俺はコーディという。見ての通り、お前達と同じ共和国の兵士だった。今は故あってここで世話になってる」
霊夢に続いて、コーディーが自己紹介する。
そんな彼の様子を見て、青いラインが入った装甲服を着込んだ二人の兵士は驚愕に囚われたかのように、装甲服の上からでも分かるほど仰天した姿勢を見せる。
「コーディ? あのコーディなのか!? 何故こんなところに………」
「まさか、生きていたのか?ウータパウから逃げてきた〈ガーララ〉にお前の姿が無かったものだから、つい………」
「あー………そのことなんだが、話せば長くなるんだ。また今度にしてくれ」
「ごほん、一先ずそのことは置いておこう。エコー、ファイヴス、下がれ。俺はフォックス、こいつは工兵のチョッパーだ。宜しく頼む」
どうやら、コーディと青い装甲服の男達は知り合いらしい。二人はコーディから事の経過を聞き出そうと躍起になるが、それをフォックスと名乗った男が諌めた。
彼は場の空気が流れることを嫌って先に自分達の自己紹介を済ませてしまおうと思ったのだろう。チョッパーとともに霊夢への挨拶を終えた彼は、先ず負傷者を彼女達に預けようと考えて、後ろに控える兵士に自分達の境遇を説明させようと発言を促す。
因みにフォックスは船では銃座に着いていた男で、こちらは赤いラインの装甲服を着用している。チョッパーは艦の修理を担当していた男で、装甲服は無地で白色だ。
「俺は衛生兵のジョージだ。報告した通り、こっちには負傷者がいる。まずはこいつを搬送したい。この怪我をしている奴はタリズマンだ」
衛生兵のジョージは、肩を貸している仲間を治療させるために、霊夢達に助力を求めた。タリズマンは怪我のせいかぐったりしている。
「こっちも受入の準備はできているわ。医務室なら今から案内する。どのみち応接室は医務室の先を抜けないと着かないからね。じゃあ、話の前にまずはこっちに付いてきてくれるかしら?」
「ああ、わかった。しばらく世話になるな」
霊夢に同行を求められたエコー達はこれを快くも了承し、一行はエアロックを後にした。
エアロックを離れた一行は一先ず医務室にジョージと負傷兵のタリズマンを預け、無機質で清潔感の溢れる一室───応接室に辿り着いた。
この艦初の来賓として案内されたエコー達は自らの軍艦と〈高天原〉の内装を比較しているのか、どこか落ち着きがない様子で視線を四方に泳がせている。
そんな様子の彼等を霊夢はとりあえずソファーへと促して、対面する形で席につかせた。
「ところで艦長さん、さっきからクルーをあまり見かけないな。見かけてもドロイドだ。この艦はクルーが少ないのか?」
ヘルメットを脱いで応接室のソファーに腰を下ろしたファイヴスが、一呼吸置いて自らの気分を落ち着かせてから霊夢に尋ねる。
彼は自分の知るヴェネター級と比べてクルーが遥かに少ないことを疑問に思い、霊夢にそれを訊いたのだ。
「うちは色々あって人間は4人しかいないわ。後はドロイドと、自動操縦ね」
「そいつは大変だな」
「そうね。もっと人手がいてくれれば良いんだけど。さて、着いたわ。じゃあまずそこに腰掛けて頂戴。立ち話も難だからね」
霊夢の回答を得たファイヴスは、彼女の気苦労を悟って労いの言葉を贈る。本来のヴェネター級艦に詰めていた人数を知る彼からすれば、このクラスの艦を僅か数人で動かすこと自体相当な労力がかかると知っていたからだ。
「それじゃあ早速本題ね。貴方達は何処から来たのかしら? 大体の予想はつくけどね」
ファイヴスの疑問に応えた霊夢は、次は此方が質問する番だとばかりに声色を尖らせて尋ねる。
「俺達は言った通り共和国軍の兵士だった。その後継の帝国に嫌気が差して逃げてきたところ、船のハイパードライブが故障してこの星系に出だ。そしてあの緑色の艦隊に襲われたところ、あんた達に助けられた訳だ」
エコーは自分達がこの星系へ来た経緯を、かいつまんで簡単に要約しながら話す。
詳しく話せば長くなること間違いないが、そもそも銀河帝国も共和国のことも詳しく知らないだろう目の前の少女にそれを話したところで、余計に話が拗れてややこしくなることは目に見えていた。
故に、エコーは遭難の経緯をぼかしながら説明した。
「そう。ところで───今は貴方達の時代から数万年進んでるって言ったら信じるかしら?」
「何?」
突拍子もない霊夢の質問を受けて、エコー達が顔をしかめる。
「驚かないで聞いてくれ。この時代は俺達がいた時代から何万年も後の時代だ。もう共和国も帝国も存在しない。あるのはその遺跡だけだ」
霊夢の話を補足するためか、彼女の隣に腰掛けたコーディがエコー達にゆっくりと語りかける。
「それじゃあ…………俺達はタイムトラベルしたとでもいうのか!?」
フォックスが、強い口調で目の前の二人を問い質す。
共和国には戻れない。
その事実は、彼等漂流者のトルーパー達の精神を大きく揺さぶっていた。
「信じられないと思うが、これは事実だ。これを見てほしい」
コーディーテーブルの上に携帯端末を置き、映像を表示する。
「これは、カミーノか?」
映像に映されていたのは、現代のカミーノを始めとする共和国や帝国の遺構の数々だ。その多くは、コーディーが霊夢を拾う前に、サナダと2人で銀河を回っていた頃の記録だ。
「そんな、カミーノが…………どうやったら、こんなに荒廃するんだ?」
映像を見たエコー達は、自分達が知るカミーノの姿と、映像の中の風化しつつあるカミーノの構造物を比べて呟いた。
「これで分かっただろう。見ての通り俺達の時代は遥か過去のものとなった。俺は救命ポッドのエネルギーが切れる直前にある科学者に拾われてここにいる。話の流れから察するに、あんた達はハイパードライブの事故でこの時代に飛ばされたんだろう」
「じゃあ俺達は、元の時代には戻れないのか?」
コーディの話を受けて、ファイブスが質問する。
「恐らくな。こればかりは専門外だから何とも言えんが、お前達だってこんな事例は聞いたことないだろう。───つまり、そういうことだ」
コーディの答えを聞くと、チョッパーが拳を机に叩きつけた。
「くそっ! じゃあ俺達はどうやって生きていけばいいんだ?」
エコー達は当然この時代の勝手を知らない。彼等には、見ず知らずの時代で生きていくための知識がなかった。
「落ち着けチョッパー。どうやら俺達は知らない未来に飛ばされたらしいことは分かった。じゃあこっちからも一つ聞くが、俺達が戦っていたあの艦隊のことを教えてほしい」
エコーはチョッパーを窘めて、交戦した艦隊について霊夢に尋ねる。
「あれはヤッハバッハの艦隊よ」
「ヤッハバッハ?」
エコー達は、知らない単語に疑問を抱いた。
「ヤッハバッハはここら一帯を支配する帝国で、その領域は複数の銀河系に及んでいる。ついでに航宙禁止法を定めて許可なく宇宙に出る奴は容赦なく取り締まっているわ」
霊夢はヤッハバッハについて解説する。
「そしてあの艦隊はヤッハバッハの領域を警戒する哨戒艦隊よ。あの規模なら辺境のパトロール部隊だと思うけど」
続いてエコー達が交戦した艦隊についても説明した。
知らない彼等に説明するために、らしくなく噛み砕いて分かりやすい説明を心掛ける霊夢。果たしてその努力は叶ったのか、頭の上にクエスチョンマークを浮かべているトルーパーはいない。
「そうか。ヤッハバッハってのがそんな連中なら、頼る気には慣れないな。それに俺達は、既にそのヤッハバッハとあろうことか戦火を交えてしまった」
エコーは話を一旦区切って霊夢に申し出た。
「俺達はこれから行く当てもない。それにあんたには助けてもらった恩がある。突然だが、ここは一つ、俺達をクルーとして雇ってくれないだろうか?」
エコーは霊夢に自分達をこの艦の乗員として雇ってほしいと申し出た。
どのみち共和国に戻る術がないのなら、彼女の下で生きるしかない。過去に残した同胞達のことが気がかりではあるものの、今はそれしか選択肢がなかった。
「お前達はどうだ?」
エコーは、仲間に確認を取る。
他のトルーパーも同じ結論に辿り着いていることだろうが、リーダー格だったエコーは念のため訊くことにした。
「俺は異存ない」
「同じく。幸か不幸か知り合いがいるんだから、少しはやりやすいだろう」
「確かに。他に当てもないし、仕方ないな」
ファイブス、フォックス、チョッパーの3人も、エコーが思った通り同意する。
「分かったわ。じゃあ貴方達をクルーとして迎えましょう。コーディ、いいかしら?」
霊夢はエコー達をクルーにすることを決めて、コーディーに意見を求めた。
「誰を雇うか決めるのは霊夢の仕事だ。それに、彼等なら君の力になってくれる筈だ。俺は異存ない」
「じゃあ決まりね。これから宜しくね」
コーディーも同意し、霊夢はエコー達をクルーとして迎え入れる。
「ああ、宜しく頼む、艦長さん」
エコーは差し出された霊夢の手を握り、握手を交わした。エコーが手を話すと、4人は霊夢に敬礼する。
「ああ、それともう一つ。ここは基本自由だから、昔兵士だったからといってそうする必要はないわ」
0Gドッグは艦内秩序はあるが基本自由である。なので、霊夢はエコー達にそこまで堅苦しくする必要はないと言う。
「そうか。なら、そうさせて貰おう」
「確かに。堅苦しくするよりこっちの方が楽でいい」
エコー達もそれに同意する。
「さてと、それなら先ずは貴方達の部署を決めないとね。何か特技とかないかしら?」
霊夢はクルーになったエコー達の配属先を決めるため、特技がないか尋ねる。
「俺とファイヴスは主に白兵戦だな。格闘と射撃なら自信がある。伊達に共和国グランド・アーミー最精鋭を謳われた訳じゃないぜ」
エコーはファイヴスに肩を回し、ファイヴスは右腕で装甲服のまま力瘤を作って見せる。
かつてエリート部隊501大隊に属していた彼等は、その経歴も誇らしげに語る。
「俺は部隊指揮に射撃だ。共和国では、警備部隊の中隊長を勤めていた」
続いて特技を教えたのはフォックスだ。
「俺は一般兵だったが、機械弄りが得意だ。ブラスターの修理なら余裕だな」
チョッパーは機械修理が得意なようだ。
「あとジョージだが、衛生兵は色々あって機械修理の技術も持ち合わせている。タリズマンはファイターのパイロットだったな」
エコーはこの場にいない2人の特技も説明した。
「分かったわ。じゃあ、仮の配属だけど、エコーさんとファイヴスさんは保安隊が良いかな」
「保安隊か?」
エコーが尋ねる。
「ええ。基本的に艦の秩序維持が仕事だけど。今は人数が少ないから気にしなくていいわ。主にヤッハバッハに乗り込まれた時の白兵戦要員と船外活動要員ね。白兵戦が得意っていうなら当然鍛えてるだろうし、船外活動にも適任だと思う」
霊夢は役職について説明する。
確かに、白兵戦を主任務としていた自分達には適任だ。
エコー達はそう自分を納得させ、新しい境遇に向けて気を整える。
「わかった。それでいこう」
「了解した」
エコーとファイブスは承認する。
「フォックスさんは・・・保安隊か砲雷長かな。指揮能力があるなら部隊指揮にも向いているだろうし、射撃が得意なら砲撃の照準にも応用できるかなと思うんだけど」
「わかった。それなら暫く兼任でいよう。この艦はクルーが少ないみたいだからな」
フォックスは保安隊と砲雷長を兼任することにした。
「チョッパーさんは整備士ね。うちには優秀な科学者さんがいるから、その人の補佐についてくれないかしら?」
「了解した」
チョッパーは元々機械整備力が高いため、整備士としてサナダの下に付けられた。
「ついでにその科学者はサナダさんって言うんだけど、うちでは医療要員兼任よ」
「なら、ジョージとタリズマンには俺が説明しておこう」
霊夢の話を聞いて、チョッパーが申し出た。
「そうだな。チョッパー、2人への説明を任せた」
「イエッサー」
エコーは、チョッパーに伝令を任せる。
「残りの2人はサナダさんのお付きとパイロットがいいと思うけど、希望も聞いてくれると助かるかな」
「了解しました、艦長。では、自分は失礼します」
チョッパーは伝令のために立ち上がり、部屋を出ようとする。
「ちょっと待って。場所は分かるの?」
霊夢がチョッパーに尋ねた。
「はい、艦の基本的なレイアウトは我々の知るものと大差ないようなので大丈夫です。それに、ここへ来る間の道は覚えています」
「そう。なら心配いらないわね」
チョッパーはそう答えると、応接室を後にした。
「早苗、この人達の登録をよろしく」
《了解です、艦長》
霊夢は早苗を呼び出して、エコー達をクルーとして登録するように命じた。
「話はこの辺りで終わりかな。まずはブリッジを案内するわ」
「分かった。ついて行こう」
霊夢は話を切り上げると、エコー達をブリッジに案内した。エコーは応接室を出ると通信機でチョッパーに連絡し、3人は霊夢の後に続いた。
「よう、話は済んだみたいだな」
艦橋で待機していて霊沙は、霊夢達がが戻ってくるのを確認すると霊夢に話し掛けた。彼女は足をコンソールに置いて腕を頭の後ろに回しており、退屈そうにしている。
「留守番ありがと。それと霊沙、相手の船のクルーだけど、こっちの仲間になってくれたわ」
「どうも初めまして、俺はエコー、これから宜しくな、嬢ちゃん」
エコーを筆頭に、ヘルメットを脱いだ3人が挨拶する。
「うおっ、コーディが一杯いるぞ!」
エコー達の顔がコーディと同じことに驚いて霊沙が声を上げる。
「彼等は俺の兄弟だ。外見は同じでも、ちゃんと個性はある」
驚く霊沙に、コーディが説明する。
「そ、そーなのかー。確かに、服の色とか髪型は違うよな…………」
説明を受けた霊沙は改めてエコー達の姿を見て呟いた。
「そういうことだ。ま、改めたよろしくだなお嬢ちゃん」
「あ、ああ。私は博麗霊沙だ。よろしく。お嬢さんでも嬢ちゃんでもないぞ」
霊沙は自分がまだ挨拶していないことに気がついて、エコー達に自己紹介する。自分の背丈や容姿を理由に、子供扱いするトルーパーへのささやかな抗議も添えて。
「しかしまあ、ブリッジはヴェネター級とは大分変わっているな」
フォックスは、ブリッジの中を見回しながら、自分が知るヴェネター級のブリッジと見比べて呟いた。
「この艦の各部はモジュール化されてるから、部品には互換性があるのよ。艦橋のモジュールを取り替えれば、他の艦橋を取り付けることも可能よ。それに、この艦は大分改設計されてるから、貴方達が知ってるのとは大分違う部分もあるわ。詳しいことはサナダさんに聞いて頂戴」
「そうなのか。思えば、通路に使われている材質も我々が知るものとは違っていたようだな」
ファイブスが、思い出したように呟く。
霊夢の説明だけで納得したのか、彼等はこれ以上追及することはしなかった。そういうものなのだろう、と時代の差から生じる違和感を振り払う。
「そうね。この艦は広いし、さっき言った通り貴方達が知ってるものとは違う部分もあるからね。早苗、あれは用意できたかしら?」
《はい。6人分の携帯端末を用意しました。うち3つはサナダさんの下に届けました。残りは艦長席です》
霊夢は早苗を呼び出し、エコー達の分の携帯端末の用意ができたか尋ねる。早苗から場所を聞くと、霊夢は艦長席に向かって携帯端末を3つ取りだし、エコー達に渡した。
「それは艦内での通信や艦内マップの表示に使う携帯端末よ。電源を入れれば説明が入るから、それに従って頂戴。ちなみに電源はここよ」
霊夢は自分の携帯端末を取り出し、電源の位置を示しながら説明する。
「ありがとう」
エコー達は携帯端末を受け取って、指示された通りに端末を操作した。
「さて早苗、周りに異常はあるかしら?」
霊夢は注意を艦橋の外に移して、早苗に異常がないかどうか尋ねた。
《はい。本艦は現在コーバス星系の第3惑星、第11衛星軌道を通過中です。付近に異常は見られません。ガス惑星の衛星を調査しましたが、残念ながら有用な資源の反応はありませんでした》
〈高天原〉が航行しているガス惑星の衛星であるが、コーバス星系は元々小さな星系のためガス惑星の衛星も小さく、小惑星並みである。一般的にガス惑星の衛星には資源が多いことが知られているため、早苗は衛星をスキャンしたのだが、どうやら期待外れのようだ。
「そう、資源がないのは残念ね」
霊夢は早苗の報告を聞いて肩を落とした。
「でもヤッハバッハがいないのは助かるわ。このまま予定通り進みましょう」
霊夢は艦を予定通り進めるよう指示する。予定では、エネルギー節約のために第3惑星でスイングバイ制御を行い艦を加速し第2惑星に接近、第2惑星を抜けてイベリオ星系へワープする手筈となっている。スイングバイとは、天体の重力を利用して、推進材を消費せずに軌道変更と加速を行う、人類が宇宙へ進出して間もない頃から行われていた伝統的な航法だ。
ちなみに、星系内の移動は障害物が多いため、I3エクシード航法を使わず、さらにヤッハバッハに痕跡を残さないために最低限の軌道修正を除いて慣性航行している。なので、星系内の移動にはそれなりに時間がはかかる。霊夢達はこれとワープを組み合わせて、徹底的に航跡を残さないように図っていた。
〈高天原〉はかねてからの予定通り舵を切り、スイングバイのためにここコーバス星系の第3惑星へと静かに接近していった。
本作の何処に興味がありますか
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戦闘
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メカ
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百合