夢幻航路   作:旭日提督

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永遠ノ巫女、墜チル


第八六話 ケイヤク

「うっ、つ………ここ、は………?」

 

 衛士(センチネル)や防衛機構との攻防を潜り抜けて出た先には、あたかも惑星の地上を飛んでいるのかと錯覚させるほどの広大な青空と、眼下にはどこまでも続く緑の絨毯が広がっていた。

 

「外、に出たみたいですね……」

 

 早苗もその光景に見惚れてしまっているのか、操縦桿を握る手の力が緩む。

 

「このフネ、移民船みたいでしたから居住区はあるだろうと思ってましたが、まさか中の環境まで生きていたなんて……これは驚きです」

 

「そんなに凄いことなの?」

 

「そうですよ霊夢さん!だってこのフネ、一万年以上前のものなんですよ?それがこうして生きてるんですから、これはもう世界遺産も同然ですよ!」

 

「そ、そうなのね。……とりあえず、凄さは分かったからどこか着陸できる場所を──」

 

 熱く語る早苗にすこし気圧されて、声が籠りがちになってしまう。

 とりあえず先ずはどこかに着陸して調査を始めようと思ったとき、ヴー、ヴー、と機内にけたたましい警報音が鳴り響いた。

 

「ちょ……今度は何よ!」

 

「センチネルが追ってきたみたいです!また揺れるので注意して下さい!」

 

 早苗が有無を言わさずいきなりぐいっと操縦桿を傾けて、機体がぐん、と右に傾いて旋回する。数秒後、ついさっきまで機体が飛んでいた場所を一条のレーザーの矢が飛んでいった。

 

「何でここまで……撒いたんじゃなかったの!?」

 

「私にも分かりませんよもう!………っ、しつこい奴は、嫌われますよ……ッ!!」

 

「ひゃっ、ぅわあぁぁっ!?」

 

 ぐるん、と機体がその場で宙返りして、ガンポットが連射される。その攻撃で、追ってきたセンチネルが一機撃墜された。

 

「う、うぇぇ……ぎ、気持ち悪………」

 

「霊夢さん!?もう暫くの我慢ですから―――!」

 

 ぐるんぐるんと回る機体に振り回されて、内臓がシェイクされたような感覚に陥る。やば……胃の中のモノが………

 

「一機、撃墜―――っわぁ!?」

 

「う"、う"ぇっ………」

 

 センチネルを一体破壊するのとほぼ同時に、ドォン、と機体後部になにかがぶつかったような衝撃が走った。

 機内では赤色灯が点滅してアラームが鳴り響き、機体はどんどん高度を落としていく。

 

「ぐっ……不覚です……。まさかこの私が撃墜されるなんて……!」

 

「やば………もう、無理……っ」

 

「ちょ……霊夢さん霊夢さん!頑張って抑えて下さい!あともう少しで不時着できますから!えっと、エチケット袋は―――」

 

 数秒後、ドンッ、という一際大きな衝撃がするとそのまま機体は滑るように地上の森林を薙ぎ倒しながら移動して、しばらく進んで大きな木に衝突するとようやく停止した。

 

 私の中で暴れていたモノは、ギリギリのところで決壊せずに済んでくれた。

 

 

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「―――早苗、水」

 

「はい、霊夢さん」

 

 中で暴れていたモノを排除し終え、早苗から持ち込んだ水を受け取って強引に焼けた喉に流し込む。三、四回とうがいをして洗浄を済ませて、残りは喉の奥まで流て残留物を注ぎ落とす。胃酸で焼け爛れた喉が痛むが、構わずに無理矢理押し込んだ。

 

「っ、ぱぁ………。あー生き返ったわ。ったく、連続であんな乱暴な操縦されたらこっちの身体が持たないっての」

 

「ごめんなさい………迎撃に夢中になって、つい………。けど意外ですね。霊夢さん、昔はあんなに弾幕戦でブイブイ言わせてたのに、まさか乗り物酔いするなんて……」

 

「それとこれとは別。戦闘機でドッグファイトなんて初めてなんだし、そもそも飛行機自体幻想郷には無かったんだから慣れてないのよ。自分で飛ぶ分には、なんも問題ないんだけどね」

 

 そもそも、この世界に来てからというもの飛行機には乗れど、それは大抵移動用の輸送機だった。多少揺れこそすれあんな激しい運動はしない。フネはフネで、しっかり慣性制御や人工重力が働いているからあんな酷い揺れ方はしない。ここまで失態を晒したのも、単に私が不馴れな状態だったからだ。決してこの私が、乗り物に弱いなんてある筈がない。……きっとそうよ。

 

「そうですか………霊夢さんが乗り物に弱かったなら、連れ回してぐったりさせたところで襲えたのに……」

 

「………何か言った?」

 

「いえ、何でもありませんよ~~」

 

 さらっと聞き捨てならないことを言っていたような気がしたのだけれど、問い詰めようとしたら爽やか営業スマイルで躱してきやがった………。 コイツ、今までは惰性で甘やかしてきたけど、そろそろ本格的に釘を刺しておかないと不味いことになるかもしれない。調子に乗られて襲われる前に。……私が許したのは霊力の譲渡であって、身体ではないんだから。

 

「………しっかしまぁ、派手に煙吹いてるわね。これ、帰れるの?」

 

 悪い可能性から目を逸らすかのように、私は気分を切り替えようと話題を変えた。

 ………目の前にあるこの壊れたVF。肝心の足が壊れてしまっては、探索どころではなくなってしまう。幸い大事には至っていないものの、ちゃんと帰れるかどうか心配だ。……どれもこれも、早苗がしくじったのが悪い。

 

「う~ん、見た目派手に火吹いてますけど、確認したところ片肺のエンジンはまだ生きているみたいです。―――まぁ、さっきまでみたいなドッグファイトは土台無理な話ですけど」

 

「飛べるだけでも僥倖、か……。だけどこれじゃあ、センチネルが跋扈するあの空間は飛べないわね……帰る前に制圧なり何なりして安全を確保しておかないと」

 

「それなら大丈夫ですよ!今度は失敗しませんから!」

 

 そう言うと早苗は右腕を変形させて、ハッキング用の触手状ケーブルやプラグを見せびらかす。………前科が前科だけに不安しかないんですけど………。

 

「ああっ、霊夢さん、いま"うわっ……なに調子乗ってんだこいつ"みたいな顔しましたね!」

 

「……何よ。その通りじゃない」

 

「違いますっ!今度ばかりは大丈夫です!私が保証します!えっへん。この"ミラクル☆ハッキングまーくつー"の手に掛かれば貫けない防壁なんてありません!どんなセキュリティでも強引に犯しちゃいます!!」

 

「犯すってあんた、その言い方………」

 

「ここの防壁強度はさっきので大体掴めましたから、あとは直感とサナダさん印の頭脳が弾き出した最適解で………こう………ぱぱっと片付いちゃう筈です!!」

 

 ―――駄目だ。余計に心配になってきた。

 

 どうやら早苗の頭の中は完全に東風谷早苗に置換されているらしい。融合したとか言ってた元のAIの成分は微塵も見出だせない。……あくの強い早苗が呑まれたのだから、発現しなくて当然か。………ちょっとだけ、彼女がまだ素直だったあの頃が懐かしくなる。

 早苗も素直と言えば素直な子だけれど、このテンションには気が滅入る。―――嫌いな訳じゃないんだけどね。もうちょっと、慎みも覚えて欲しい。………というか、今更だけど早苗まで性格若くなってない?こいつの

 大人時代は、多少なりとも昔に比べて落ち着いていたと思うんだけど………

 

「霊夢さん?どうかしました?」

 

「い、いや………何でもないわ」

 

「そうですか………ならいいですけど。ともかく、もう今の私はちょっと前までの私とは違います!どーんと期待してて下さいね!!」

 

「はいはい、期待してるからそれは仕舞いなさい」

 

「はーい。――――いや、霊夢さん。………私、だいぶ運動したのでちょっと疲れちゃいました」

 

「それが何よ――――!?」

 

 早苗は間延びした返事をして面妖なあのハッキング触手を仕舞おうとする。が、唐突になにか思い立った風な顔をすると、なにやら悪そうな顔をして悪戯っぽくそう告げてきた。………あ、これはヤバいパターン………

 

「だ・か・ら・、霊夢さんの………くれませんか?」

 

「それ自体はいいけど……但し………って何よコレ!?ちょ、絡みつくな………っきゃあ!?」

 

「えへへへ………に・が・さ・な・い♡」

 

 やましいことは無し、霊力供給だけ………そう言おうとしたのに、早苗の手はそれよりも早く、私を捉えて引き寄せる。

 釘を刺そうとする隙すら与えられず、獲物を前にした蛇のような俊敏さで絡み付いてきた早苗の触手は、あっという間に私の身体をぐるぐる巻きにすると引き摺り込むように早苗の方に引き寄せてきた。

 

「う、動けない………」

 

「ふふっ、さぁ霊夢さん、もう逃げ場はありませんよ?」

 

 早苗は残った左腕も私の背中に回して、ゆっくりと、焦らすように顔を近付けてくる。いつの間にか琥珀色から鮮血のような深紅になっていた彼女の瞳の、蛇のように細長い瞳孔に私の姿が映る。――――気がつくと、絡み付いていたハッキング用触手とやらは、彼女の髪飾りのような白い蛇へと変貌していた。

 

「ちょっ、あんた………いい加減に止めっ………んんッ!?」

 

 ぎゅうう、と締め殺すように巻き付く蛇の力が強まって、私と早苗との間の隙間を強引に埋めていく。締め付ける力が強まるのと一緒に彼女の唇が覆い被さり、蛇のように細長い舌が私の唇を抉じ開けて舌に絡み付いてくる。

 

「!!?っ―――ぅう……ッ!!」

 

 ………また、あの命を吸いとられるようなおぞましい感覚―――全身の力が、急激に抜けていく。喰らわれて、奪われて、空っぽになっていく。

 

 

 もうどうにでもなれと、私を貪ることに夢中な早苗に身体を委ねた。…………いや、最初から選択肢なんて、無い。

 

 

 いまの私は、神棚に捧げられた生贄でしかないのだから………。

 

 

 

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「ばかばかばか。早苗のばか。この色情魔。最低。あり得ないわよあんなの」

 

 早苗の強引な一方的霊力強奪で乱れに乱れた着物を直しながら、私は当の元凶である早苗を睨む。

 早苗は早苗でまるで反省の色など見せず、私の反応を観察して楽しんでいる節すらあるようだ。叶わないと知っていながらギャンギャン吠える小型犬を可愛がるような視線が私に刺さって、余計に早苗に反発してしまう。

 

「嫌がらない霊夢さんも霊夢さんです。あんなに気持ち良さそうにしてくれたら、もうガンガン攻めるしかないじゃないですか」

 

「人を身動きできないぐらいにぎちぎちに縛っておいて、どの口が言うのかしら」

 

「本当に嫌だったなら、霊夢さんはとっくの昔に私を突き飛ばしてます。それか夢想天生なり何なりで抜けてますよね?それがないことが、霊夢さんが嫌がってない何よりの証拠です」

 

 反論しようと口を開けても、そこから声は出ない。………図星だった。

 

 嫌がってない………確かに、その通りだ。早苗の為と言い訳しながら、滅茶苦茶にされるのを心待にしている自分がいる。口では拒んでいながらも、あのまま喰らい尽くされて死んでもいいとすら思っている。

 

 ――――我ながら、矛盾も甚だしい。

 

「………霊夢さん?どうかしたんですか?………もしかして、図星だったとかですか?」

 

 茶化すような態度で、早苗が尋ねてくる。俯いていた私の顔を、どや顔を浮かべながら覗き込んできた早苗と目が合った。

 

「うっ………」

 

「え……、もしかして、本当だったんですか……」

 

 早苗はあくまでも、軽い気持ちで訊いていたのだろう。普段の私だったなら、きっとすぐに否定して追い返していたに違いない。

 

「…………ばか」

 

 両膝に顔を埋めるようにして、じーっと早苗を睨む。今はなにも答えたくない。

 

 口から漏れたささやかな罵倒は、せめてものの抵抗だ。

 

「………クスッ」

 

「………なによ」

 

「いや、霊夢さんは可愛いなぁと思いまして」

 

「………ふん」

 

 一体何が面白いのか、笑いを溢して温い視線を向けてくる早苗から、ふいと顔を逸らす。

 

 ………自分でも、なんだか馬鹿らしく思えてきた。

 

 これ以上あんたが踏み込む余地なんて無いんだから、と示そうにも、これではまるで拗ねた子供みたいだ。早苗にいいように弄ばれる未来しか見えない。

 

 じーっと、互いに観察しあう。私は牽制、早苗のは好奇心か、はたまた別の感情か。背けた視線を時々早苗のほうに戻してみては、早苗の温い視線と微笑を返される。その度にまたふいと視線を戻して………というもどかしい時間が続く。

 

「………いい加減素直になったらどうです?」

 

「…………」

 

「ハァ……、もう、相変わらず頑固なんですから。では、失礼して……」

 

「ちょ、な、何よ!?」

 

 さっさと折れてくれないかしら、なんて思ってた私が馬鹿だった。彼女が昔の彼女に戻っていると分かっていた筈なのに、こいつの行動力を見誤っていた。

 

 早苗は私に向かって身を乗り出すと、私の両手首を掴みそのまま勢いに任せて押し倒す。早苗から逃げようにも、手首を固定され上に乗られては身動きが全くできない。おまけに力を強奪された後なので、早苗を振りほどく力も気力もとうの前に無くなっていた。

 

「………何のつもり?霊力供給なら、さっきやったでしょ?」

 

「ええ、そうですね。けどそれとは別の用事です」

 

「何よそれ。私が許したのは霊力供給までよ。退いて」

 

「嫌です。霊夢さんがそんなふうに頑なだから、こういう手段を取らざるを得なかったんです」

 

「………」

 

 早苗の髪が、私の頬にかかる。

 

 早苗は本気だ。このまま押し問答を続けても、彼女は絶対に引き下がらないだろう。ついでに私を完全に、物理的に抵抗できなくするよう仕掛けてくるあたり周到だ。

 

 ………早苗は本気で、私を犯す(温める)つもりなのだ。

 

 早苗の顔が、目と鼻の先にまで近づく。お互いの吐息がかかるほどまでに。

 

 その真っ直ぐな瞳の視線に射られて、思わず息を呑む。

 

「………霊夢さん、もう、止めましょう?自分で自分を縛るのは、もう終わりにしませんか?」

 

「………」

 

 言葉が、出ない。

 

 それだけあれば、早苗が何を言わんとしているかなんて簡単に理解できた。

 

 ………私に全部、晒け出せと。

 

 全部全部晒け出して、みんなみんな洗い流して、私の腕の中に来て下さいと、早苗はそう、言っているのだ。

 

 けどそれは、一度きっぱりと拒絶した話で。

 あのとき私は、早苗が差し伸べてきた手を振りほどいたのだ。

 一度振りほどいたのだ手なのだから、もう一度差し伸べられたときはその手を取るなど矛盾している。私は………彼女を拒絶しなくちゃいけない。

 

 けど………身体も口も、全然動こうとしなかった。

 早苗に力を奪われたから、ではない。自分から――動こうとしなかったのだ。

 

 早苗の唇が、私の唇の先に触れた。

 

 いつものように、その先に来るおぞましい感覚を覚悟して目を瞑る。………が、そんな感覚はついぞ流れてくることはなく、柔らかい接吻の感覚だけが唇に残る。

 

「………もう、拒まないんですね?」

 

「………」

 

 せめてものの抵抗に、首を反らして早苗からを外す。

 

 私には、本来そんなものを受け取る資格なんてない。

 

 ……今まで、両手の指では数えきれないぐらいの人妖の返り血を浴びてきた。………その度に、至ったあの子(魔理沙)を文字通りに退治する夢を見てきた。………私は、本質的にそういう人間だ。昨日まで笑い合っていた仲だとしても、必要ならば躊躇いなく―――いや、余分なものを削ぎ落として機械になって、"成すべきこと"を成すように出来ているのが私という人間(絡繰)だ。そんな私が表面までならいざ知らず、深いところまで他者に晒け出して寄り添うなんて、許されることじゃ、ない。

 

 けどこの娘(早苗)は、それでも尚(よし)と言って、私を肯定(否定)するのだろう。貴女にも誰かと寄り添う資格はあると優しく私を受容して包み込んで、私の本質を上書きするように滅茶苦茶に犯すのだろう。

 

「私に全部、委ねてください。資格なんて、必要ないんです。………楽になりましょう?霊夢さん」

 

 ご丁寧に、いまの私達はこの広い箱庭のなかで二人っきり。誰かが邪魔してくるなんて期待はできない。さっきまで徘徊していた衛士(センチネル)共には、見ていたとしてもこの行為の意味なんぞてんで分からなかっただろう。

 

 唇を離した早苗は、耳元に口を寄せて誘うように囁く。普段より低い彼女の声に、ゾクリ、と刺激されて身体が仰け反る。

 

「あ、あんたは……私がどんな奴かなんていい加減分かってるんでしょ……? なのに、何で………」

 

「―――最初は、憧れと妬みでした」

 

 意を決したように、早苗が口を開き、言葉を紡ぐ。

 私はただ、早苗の独白に耳を傾けた。

 

「意気揚々と幻想郷に乗り込んだはいいものの、そこで霊夢さんにこてんぱんにやられちゃいました。………覚えてますよね?」

 

「ええ。あのクソ生意気な面、今でも覚えてるわよ。いきなり人様の根城に乗り込んで堂々と宣戦布告してくるなんて、ほんといい度胸してたわ」

 

「うっ……… まぁ、それはさておいて………そこで霊夢さんにやられたとき、私は……貴女に憧れたんです。最初会ったときはのほほんとしていて大したことない奴だな、なんて思ってましたけど、いざ戦ってみるとめちゃめちゃ強くて……動きにも無駄がなくて、何より目が違ったんです。ああ、これは届かないな、なんて思っちゃうぐらいに神秘的だったんです」

 

「それで憧れと妬み、か……。こんなに面と向かって言われると、なんだか恥ずかしいわね」

 

「存分に恥ずかしがってて下さい。それぐらい誉めちぎってあげますから」

 

「余計なお世話よ」

 

「赤くなって恥ずかしがってる霊夢さんが可愛いのがいけないんです」

 

「こいつ……言ってくれるわね」

 

 面と向かって堂々とこんな告白をされては、流石に私も気恥ずかしい。……さっきまで負の方向に振れていた心の針が、正の領域まで持ち直してくれたような気がした。早苗と話していると、そんな気がしてくる。……認めたくはないけど、それこそ昔の魔理沙や……紫みたいに。

 

「ふふっ、ちょっと怒ってる霊夢さんも可愛いです。それにですね、こんな私より年下の子に負けたのかってつい意地になっちゃいまして……妬いちゃったんです。それでなにか弱点がないものかと探ろうとしたら霊夢さんったら………もう普段は猫みたいでものすごく可愛いくて……」

 

「ね、猫って……」

 

 私がそんなふうに見られていたなんて驚きだ。猫、って……あの猫よね。にゃ~ん?

 

 ―――なに考えてるのよ私………

 

「戦ってみたときはあんなに凛々しくて格好よくて神秘的だったのに、普段の霊夢さんったら意外と女の子してて面食らっちゃいました。俗っぽいし、気まぐれで猫みたいで、おまけにけっこう悪ノリしてくれますし、もう楽しくて楽しくて、霊夢さんのことが好きになっちゃったんです。その奥に何が居ようと、私が見てきた霊夢さんも紛れもない本物です」

 

 早苗の告白は続く。

 まさか、そんな前からそういう目で見られていたなんて……私から見たらあの頃の早苗なんて、有象無象の人妖の一人にしか過ぎなかったなに、あっちはこんなに膨らむぐらいに情を溜め込んでいたのだ。……ほんの少しだけ、ちょっとだけど……申し訳ない気持ちになる。

 

「もうそんな気持ちで一杯一杯で、ずっと一緒に居たいなぁって思ったんです。一番深いところにいる霊夢さんがどんな姿をしていようとも、私は霊夢さんの全部を肯定します。霊夢さんの本質が霊夢さんのあの笑顔を曇らせてしまうのなら、それを忘れさせるぐらい滅茶苦茶にしてあげます。あの霊夢さんが偽りだなんて、全力で否定します。ですから………」

 

 早苗の瞳が、紅に変わる。

 

 普段みたいに楽しそうな声で話していた早苗は、急に声を低くして私を誘う。

 

 悪魔のような、邪神のような妖しさで、私に微笑みかけて最悪(最高)の契約を持ちかける。

 

 

 

 

 

「一緒に、地獄まで堕ちましょう?霊夢さん」

 

 

 

 

 

 蛇の邪神(女神)は、妖しく嗤って手を差し出した。

 

「あ………うっ………」

 

 手は、既に目の前にある。

 

 この手を取れば、私は楽になれる。堕ちるところまで堕落して、享楽に身を委ねられる。私の本質なんてどうでもよくなるぐらいに、滅茶苦茶に犯して……罰してくれる。

 

 もしかしたら、ボロボロになるまで滅茶苦茶にして貪って喰らって犯し尽くして……私の本質を否定してくれるかもしれない。

 

 本性(霊夢)ではそんな淡い期待を抱きつつも、理性(博麗)は待ったと警報を鳴り響かせる。

 

 私にそんな資格はない、惑わされるな。今までの距離感で充分だ、寧ろ今でも近過ぎる。このまま彼女を深いところまで受け入れたら………あの娘(魔理沙)みたいな存在を増やしてしまったら………、(オモリ)が二倍に増えてしまうぞと。

 

 だけど、それでも………早苗は私を否定(肯定)してくれる。あいつの言うことなんて間違いだ。早苗なら……私を優しく両の手で抱いて癒し(肯定し)てくれて、滅茶苦茶に犯して私の本質まで一緒に癒し(否定し)てくれる。(博麗)の代わりに、(霊夢)を縛って罰してくれる。

 

 

 

 ―――なら、………迷うことなんて、ない。

 

 

 

 私は………………悪魔(早苗)が差し伸べたその手を、取った。

 

 恋慕の契り(ケイヤク)を、結んだ。

 

 どうせ地獄まで堕ちるのならば、せめてものその道は、可憐で美しい花々で飾ってもらうのも悪くない。………その花が、ヒトを溶かす猛毒を秘めていたとしても。

 

 

「これで、コイビト………ですね、霊夢さん♪」

 

「そう、………ね」

 

 そうなのかな、と言いかけて、思い留まって訂正した。

 

 普通の、恋人同士とは違うかもしれない……そもそも女同士なのだ、違うに決まってる。だけど………一緒に居たいというのは本当だった。なら……コイビト同士で、なにが問題あるというのだろうか。

 

 

「………ねぇ、霊夢さん」

 

 耳元に顔を近づけて、早苗がねだるように囁く。

 

「―――なに?早苗」

 

「また………あのときみたいに、………吸わせてくれますか?」

 

「………いいわよ、早苗」

 

 あのときみたいに………事象揺動宙域のときみたいに、また血を捧げてと早苗がねだる。

 それを私は、何の躊躇いもなく、何も考えることなく承諾した。

 

「ふふっ、そんなあっさり認めちゃうなんて……。霊夢さん、心変わりでもしましたか?」

 

「………まぁね。ほら、早くきて。接吻(キス)じゃ足りないって言ってたのはあんたでしょ?」

 

「もう、せっかちですね霊夢さん。そんなに慌てなくても、気持ちよく吸っ(コロシ)てあげますから」

 

 ………また、早苗の声が低くなる。

 

 潤んだ紅い瞳に見初められて、蛇に睨まれたの如く硬直する。

 

 (博麗)否定し(コロシ)て、(霊夢)が望む逢引(破滅)をくれる。

 

 鎌首をもたげて匕首を突きつけてきた快楽の前に、破滅的な行為を待望して身が震える。

 

「………では、失礼して」

 

 早苗の唇が近づいてくる様を見て、息を呑む。

 

 肌蹴させられた巫女服の襟に、早苗の顔が埋まる。

 

「―――っうう………ッ!?」

 

 突きつけられた牙から猛毒を挿れられて、全身が飴細工に変換されていく。

 霊力と一緒に、それが溶け出していた血肉が甘い飴の液となって早苗に喰われる。

 ずず……ずず、と一口吸われていく度に、あり得ない破滅的な快感に浸されて、意識がトびそうにナル。

 

 紅い………紅い血が、早苗に貪られて、彼女の………血肉に…………

 

 

 悪魔(カミサマ)に捧げる………

 

 約束の………

 

 ケイヤクの、血…………




プロフィールが更新されました

~博麗 霊夢~

筋力:E-
耐久:D
敏捷:EX
霊力:EX
宝具:ー

属性:中立・悪 (New!)

skill

・艦隊指揮:C

・直感:A

・空を飛ぶ程度の能力

・永遠の巫女:C- (New!)

・破滅願望 (New!)

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