夢幻航路   作:旭日提督

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石600個貢いでも水着BBちゃんは出ませんでした(#゜皿゜)ピギピギィ


第八八話 バイオレンス・ブロッサムアワー

 ……………………墜ちる。

 

 深淵へと、真っ逆さまに墜落していく。

 

 電子の海に飛び込んで、一直線に底へと導かれていく。

 

 ―――もう何度も経験していることですが………やはり慣れないものは慣れませんね………。

 

 移民船の統括AI中枢部に向かって自由落下していく己の意識(身体)に目を向けて、墜ちていく彼女―――東風谷早苗は、まるで海中をスカイダイビングしているような錯覚を覚えた。

 

 海の中のように息苦しく、空に放り出されたようにあっという間に墜ちていく……… 電子の海とは、成程言い得て妙な表現だと感じた。

 

 現人神などと呼ばれて持て囃されていた早苗だが、元来その魂は唯の人でしかない。なので表面上は調子に乗っているような態度の彼女であるが、"本来のAIとしての権限"を行使する度に魂と身体が噛み合っていない、チグハグな感覚に苛まされていた。この墜ちるような感覚も、その一つだ。………だからこそ、彼女は強がりで自分の気を持たせていた。

 

 …………

 

 

 しかし、かといって早苗は自身の境遇が不満な訳ではなかった。

 確かにむず痒い感覚やちぐはぐな感覚はすれど、元々彼女はこうしたSF的なものに興味があったし、何より霊力供給を口実に大好きな霊夢と繋がることもできる。そして信仰が無く現人神としての力を殆ど失った自分であっても、霊夢の役に立つことができる。

 

 彼女はそんな今の境遇を、それなりには気に入っていた。

 

 ――では今回も、いつものようにパパッと終わらせてしまいましょうか。

 

 どういう仕組みかは分からないが、いつもは電脳体となってダイブした際は敵の中枢体らしきものを叩くだけでハッキングが完了している。恐らくはその間に、取り込んだAIの権能が色々処理しているのだろう。

 

 今回もそんな感じで手早く片付けよう、と、落下を続けながら思考する。

 

 一瞬とも永遠とも分からない落下の果てに、この縦穴の出口らしき光が視界に差し込んでくる。

 そのまま光に向かって落ちていくと、一気に眩しさが視界全体を埋め尽くした。

 

「うっ、……っ!」

 

 バシャーンという盛大な水音と共に、身体が宙に放り出されたような浮遊感を覚える。

 

 光に慣れてきた眼を恐る恐る開けてみると、一面の青空が広がる水辺のような場所の中央に、桜の大樹に巻き付かれたまま浮遊する青い立方体が崩れたような構造物の姿が見えた。

 

 ………此所が敵地であるにも関わらず、水辺に舞う桜花と透き通るような青空は我を忘れて魅入ってしまうほど幻想的で、それでいて此所が電子の海だとはっきり分かる無機的な雰囲気―――それらが上手い具合に同居して、不思議な景色を織り成していた。

 

「綺麗………」

 

 思わず、感嘆の言葉が漏れる。

 

 幻想的かつ電子的なこの景色に魅入られながら、慎重に水面に着地した。

 

 水のエフェクトはその見た目の広さに反して深さは殆ど無いようで、足さえ沈まない程に浅い。一歩、二歩と歩いても、水面が波立つだけで濁ることはない。……どうやらこの景色は、単なる上部だけの外装みたいなものらしい。

 

「おーっと、そこまでですよ、侵入者さん」

 

「――っ!?」

 

 突如、声が響く。

 

 敵襲を警戒して声がした方向を振り向くが、そこには何も居ない。……ただ空に、桜の花弁が舞っているだけだった。

 

「こっちですよ~。ノロマさんですねぇ」

 

「な―――!」

 

 また、声が響いた。

 

 今度こそ逃さないと咄嗟に桜に憑かれた立方体の方角を向く。

 

 果たして今度こそは、その姿を捉えられた。―――いや、相手が敢えて姿を現しただけだろう。

 

 桜の大樹の枝に、寄り掛かるように腰掛けていた人影を見た。

 体格は自分と同じぐらいの、挑発的な目付きで見下ろしていた紫髪のその少女は、よっ、と腰を上げるとそのまま桜の大樹から飛び降りた。彼女の周りに、巻き上げられた桜の花弁が舞い散る。

 枝から飛び降りた彼女は、蝶のように軽やかな動作で、すとん、と水面に降り立った。

 

「………初めまして、侵入者さん。ここからタダで出られるなんて、思わないで下さいね?」

 

 

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 《ヴァルキュリア2よりリーダーへ、目標を視認しました。通信を試みるも応答なし。どうしますか?》

 

 霊夢達が巨大船の中枢部に差し掛かる頃、神奈子達が居残っている大破した〈開陽〉の周囲を、そうとは知らず三機の航空機が旋回していた。

 

 ――『紅き鋼鉄』の艦載機部隊の一隊、ヴァルキュリア隊の三名が駆る機体だ。

 

 その中でも全身を紫と赤に染めたデルタ翼の機体―――シュテルの〈VF-22HG改 ルシフェリオン〉は数度翼を揺らしながら〈開陽〉への通信を試みるが、一向に応答しないため判断を隊長であるディアーチェに仰いだ。

 

 《―――たった今スキャンが完了した。〈開陽〉に生命反応は見られなかった。恐らく艦長が居るのは目の前の巨大船だ。旗艦の主機が動いている以上、艦長も当然生きているだろう》

 

 シュテルから指示を仰がれたディアーチェは、先程まで続けていた〈開陽〉のスキャンデータを僚機に転送する。彼女の機体――パーソナルカラーの銀色と金、紫の三色で塗られた〈RF/A-17S〉は電子戦装備やセンサー類が強化された戦術偵察機であり、その持ち前の高性能センサーを以て目の前にある廃艦寸前のかつての旗艦が機関部を始めとするバイタルパートは生きていることを突き止めていた。

 さらにスキャンの結果艦内に生命反応が見られなかったので、"あのお宝に目がない艦長のことだ"と思って、回復した霊夢は目立ちすぎるあの巨大移民船に単身乗り込んでいるのだろうと推測していた。そしてその推測は正解だった。

 

 だが彼女がそう推測している傍らで、いきなり飛び出して巨大移民船に向かい突っ切っていく水色の機影があった。――彼女達ヴァルキュリア隊の三番機、レヴィの機体だった。

 

 《へへっ、そうなったらあの巨大船に突撃だ!ヴァルキュリア3、とつげーき!!》

 

 《あ、コラッ!待てレヴィ!!あのフネの内部構造はおろか、入口が何処にあるのかすらも分かってないんだぞ!せめてスキャンが完了してから………》

 

 《そんなの、敵がいたら斬って倒して進めばいいだけじゃん。隊長は心配性だなぁ~。という訳で、いっくぞー!!》

 

 艦長―――霊夢の生存の可能性を聞かされて、いの一番に〈VF-19A改 バルニフィカス〉を駆るレヴィが巨大船に向かって急加速して飛翔する。元より彼女は自信過剰で先走りやすい性格なのに加えて、眼前に未知の巨大移民船が横たわっている状況では好奇心を抑えられなかったのだろう。唯一の懸念事項だった霊夢の生死についても解決の光明が見えただけあって、理性の枷が外れて隊長であるディアーチェの制止も聞かずに、機体を一直線に巨大船へと向かって飛ばしていく。

 

 《ハァ………あやつ、何時も先走りおって………。済まんシュテル、レヴィの子守を頼む。我はあのフネを外側から調べる故、あやつのことまで手が回らん。済まんが引き受けてはくれまいか?ああ、スキャンの結果は終わり次第逐次お前に転送しておこう》

 

 《了解しました、レヴィのことならお任せ下さい。それと、艦長を発見した場合か非常時には此方から一報入れます。願わくば、吉報を入れたいものですね》

 

 呆れて対応をシュテルに丸投げしたディアーチェだが、レヴィが突っ走るのはこの三人にとって何時ものことなので、シュテルも苦笑いを浮かべながら渋々と承諾する。それなりに長い間チームを組んでる彼女達だ、各々の扱いについてはある程度心得ていた。

 最後に船外に残るディアーチェと軽く二、三言交わしたシュテルは、機体を巨大船の方向に向けて、エンジンノズルのスロットルを最大にしてレヴィの後を追うべく加速させる。

 

 《………うむ。気を付けて行ってこい》

 

 巨大船に向かって消えていく彼女の機影を、ディアーチェは心配そうな眼差しで見送った。態度こそ尊大な彼女だが、元より身内に対しては甘い性格なのだ。二人の実力なら大抵のことは切り抜けられるだろうと理解して信頼してはいるのだが、やはり心の何処かで二人の身を案じている彼女がいた。加えて今回の事案は何処の誰が作ったとも知れぬ未知の巨大船への突入である、彼女でなくとも心配になろう。

 

 言い知れぬ不安感を押し殺して、ディアーチェはせめて中に入った二人を見失わぬようにと機体のセンサーを巨大船に向けた。

 

 

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「っ、ぅわぁぁぁッ!?」

 

 ―――墜ちる。

 

 早苗がこのフネの中枢部のハッキングを始めて暫く経った頃、ふと興味から中枢ユニットに顔を近づけてみたらこの様だ。

 

 いきなり触手のようなケーブル類が飛び出してきたかと思うとあっという間に拘束されて、訳もわからぬうちに頭になんか変な機械を被せられて現在に至る。

 

 あの機械を被せられてから暫く意識が飛んでいたみたいだけど、目が覚めてみるとよく分からない場所を何処までも落ちていく感覚に襲われた。……事実、肉体は落下しているようで、エレベーターを猛烈な速度で下っていくように時折リング状の物体が上へと通り過ぎていく。私の身体はその中心を潜りながら、終わりのない落下を続けていた。

 

 ―――駄目ね、引き摺り込まれてるみたいで全然翔べない………

 

 いつものように飛ぼうとしても、引き摺り込まれるばかりのままか力すら入らない。……まるで何者かに導かれていくかのように、身体は真っ直ぐ墜ちていく。

 

 ―――まぁ、どうにかなるか。

 

 私は早々に抵抗を放棄して、身体を落ちるがままに委ねることにした。ここで幾ら足掻いても状況が好転しないのならば、力は温存しておいた方がいい。

 

 案の定、暫く身体を委ねたまま落下していくと下から出口のような光が差してきた。

 ………気を引き締めて、出口に向かう。

 

 光が視界全体を覆い尽くして、盛大な水音と共に空中に浮かぶ。

 

 ―――これ、は…………

 

 ………そこは、一面の桜吹雪だった。

 

 

 

「え………霊夢さん!?」

 

「早苗?なんでここに………」

 

 足元から、早苗の声が響く。

 

 あいつは今頃このフネの中枢部にダイブしている筈なのに、と思ったけど……ああ成程そういうことか。

 

 ゆっくりと降下しながら、早苗の隣に着地、いや着水する。

 

「どういう理屈かは知らないけど、これは電脳空間って奴に迷い込んだって認識でいいのかしら」

 

「えっと……はい………霊夢さんがここに来た理由なんて、それぐらいしか考えられませんし」

 

 早苗に尋ねても、推測通りの答えしか返ってこない。――つまり、そういうことなのだろう。

 

 此所に早苗がいるということは、この場所が巨大船のコントロールユニットの中枢……つまりコンピューターの中だということは間違いない。多分、あのとき被せられた変な機械のせいだ。世間には意識だけを仮想現実に持っていってプレイするゲームとかもあるみたいだし、それと同じような技術なのかもしれない。

 

「おっと、これはこれは予想よりお早い到着ですねぇ~。BBちゃん、感激です」

 

 ―――突如、天から声が響く。

 

 早苗は表情をはっと変えて、警戒の眼差しでその声がした方向を睨んだ。

 

 彼女が向いた方向には、空中で静止している女の人の姿があった。

 髪は背中を覆うほどに長い紫で、顔立ちはやや童顔っぽく少女と表現した方が適当だろう。だが身体つきは対照的に成熟した大人の女の人みたいで、白い上着の上からでもそのボリュームが窺える。もしかしたら、私の早苗といい勝負なのではないだろうか。その上には黒いコートを着ていて、長い脚も大半が黒のニーハイブーツに覆われている。黒が好きなのだろうか?そして黒いスカートの中には白い布がばっちりと……え、え――?

 

 

【BGM:Fate/EXTRA CCCより「BB channel」】

 

 

「お二人とも揃ったことですし、改めて自己紹介でもしちゃいますね。とりあえず、今は暫定的に"BB"とでも名乗らせていただきますか。このフネの可愛い可愛い総合統括AIちゃんでーす♪」

 

 パ◯ツ丸見えに気付いてないらしいこの女は、挑発的な笑みを浮かべたまま暢気に自己紹介を始めた。指摘してやろうかとも思ったけど、面倒だしその方が後で面白そうだから黙っとこ。

 

「……で、その統括AI様が私達に何の用なのかしら?」

 

「あらあら、随分と覚めた人なんですねぇ~。いいんですよ、そこで私を讃えても。ほら、"BBちゃんカワイイヤッター"とか、思っちゃっても構いませんよ~~」

 

 ………なんだこいつ。

 

「霊夢さん、この人……いや、このAIさん………」

 

「………うん、言わないであげて」

 

 小声で耳打ちしてくる早苗は、あのBBとかいう奴に完全に憐憫の視線を送っていた。――あんたも大概だけど、この際は完全に同意だ。ところでBBってなんだろう。何かの略称っぽいけど………戦艦?は流石に無いか。

 

 これは所謂、「痛い」って言うタイプの奴だ。思考回路がぶっ飛びすぎていてとてもではないがついていけるテンションじゃない。妖怪連中を相手にするぐらい………いや、それ以上に面倒臭いかもしれない。

 

「あら?う~んおかしいですねぇ…………そっちの気があるならちょっとは反応するかと思ったのに。って言うかその視線は何なんですか―!!」

 

「何よ。当然じゃない?あんたテンションおかしいし」

 

「ですねぇ~。正直初対面でそれは引きます」

 

 憐れみの視線に気づいたらしい彼女が可愛らしく"ぷんすか、怒ってます!"って顔を作りながら抗議してくるが、無視無視。――なんだか早苗みたいな仕草だ。

 

 早苗も私の言葉に同意して相槌を打っているけど、あんたとの初対面もなかなかぶっ飛んだものだったと思うんだけど。いきなり宣戦布告なんてのもあいつのぶっ飛び具合といい勝負だ。相変わらず、この緑色は自分のことは棚に上げるのは得意らしい。

 

「な、な………このBBちゃんをよくも馬鹿にしてくれましたね………!いいですよ、もう。その代わり………あそこに来ているお仲間さんに、お二人の恥ずかしいあんなことやこんなことなんて教えちゃいますけど、それでも良いんですかぁ~?」

 

 ………は?

 

 イマコイツ、ナンテイッタ??

 

 BBとかいう女は勝ち誇ったような笑みを浮かべて、自身の左側にでかでかとホログラムモニターを出現させる。

 

 そこには、私達が戦ったのと同じセンチネルを易々と破壊して回る航空機の姿があった。

 時折人形に変形したり、脚だけ変形させて急制動しているその航空機は、間違いなく私達の艦隊が開発したものだ。幾ら宇宙広しといえど、人型に変形する航空機なんて配備しているのは大小マゼラン銀河の領域では私達しかいない。

 

「あ、あれは……!!」

 

「VF-19とVF-22です!けどどうして此所に……」

 

「あらあら、やっぱりお仲間さんでしたか。あっちの会話をハッキングで丸々聞かせてもらいましたからそうだとは思ってましたけど。いやぁ~仲間想いな人達を持てて幸せですねぇ、貴女達は。………でも、ここで私をあんなことやこんなことして支配下に置こうなんて考えたら、あそこの人達に貴女達の恥ずかしい映像とか送っちゃいますよ?いいんですかぁ~?」

 

 BBが教鞭のようなものを振るうと、彼女の前面に別のホログラムモニターが現れる。

 "Now Loading"と書かれた桜の模様がぐるぐる回っていたかと思うと、"OK!"と出た後に、なにやらビデオらしきものが再生される。

 

 ………詳しくは表現できないけど、そこには私と早苗の霊力供給の場面がバッチリと映し出されていた。

 

「な、な、な…………何勝手に撮ってんのよあんた!!!」

 

「そ、そうですよ!変態!えっち!!盗撮は犯罪です!!」

 

 それの意味することを悟ったら瞬時に頭に血が登って、猛烈にあの女に向かって抗議する。当然ながら、早苗も一緒に。

 ……というか、いつの間に撮ったのよあれ!!他の人が見ている気配なんて全然無かったのに………って、そういえばコイツAIだったわね。

 ――この女、よくも覗き見してくれたわね!唯でさえ恥ずかしいってのに!!

 

「あーあー聞こえません聞こえません。私の中であんなことやこんなことしていた貴女達の方がいけないんですよ?確かに愛情は美しいものかもしれませんけど、私のフネで致した貴女達の責任です♪ふふっ、こんな弄りがいのあるネタをどうもありがとうございます♪」

 

「こ、こんの変態ッ!!」

 

「そーんな茹で蛸みたいなお顔して吠えても駄目ですよ?私のナカに勝手に入ってきたからには、相応の報いを受けていただきますからね?」

 

「ムキーッ!!早苗ッ!こいつを黙らせなさい!!」

 

「え!?い、良いんですか霊夢さん!?そんなことしちゃったら、あの映像が艦隊の皆さんに出血大サービスされちゃうんですよ!!?」

 

「くっ………やってくれるわね、この女――!」

 

 何てこと。弱みを握られたのがこんな性格の奴だなんて。お陰で手も足も出ないじゃない。ぶっ飛ばそうと思えばいつでもぶっ飛ばせるのに、それをした瞬間私達の恥ずかしいあんなことやこんなことが艦隊の皆様に大解放されてしまう。冗談じゃないわ!

 

 ―――助けに来てくれたのは有り難いんだけど、せめてもう一時間遅かったら……とは思わなくもない状態だ。

 

「クスッ、いい声で鳴きますねぇ~♪貴女達は久々のイジメ甲斐のある人間なんですから、このまま弄られちゃって下さいね?こう見えても私、ずっと退屈だったんですから」

 

「だ、誰があんたの娯楽に付き合わされなきゃいけないのよ!!」

 

「えー?つれない方ですねぇ~。……でも、さっきも言った通りこれは私のフネに勝手に乗り込んできた罰なんですから、大人しくそこで吠えてた方がお得ですよ?さもないと………」

 

「………チッ、ああもう分かったわよ!あんたの言う通りにすれば良いんでしょ!」

 

「ちょ、霊夢さん、その言い方は地雷………」

 

 頭にきてつい自棄になってそんなことを吐いてしまったが、早苗のツッコミではっと我に返る。

 

 ………やば。こいつに"何でもする"とも取れる言葉なんて、一番言っちゃいけない類いの言葉じゃない!

 

 冷や汗を流して慌ててあいつの顔に視線を向けるが、気づいたときには既に遅し、BBは勝ち誇ったような黒い薄ら笑いを浮かべていた。

 

「あらあら、素直に降参しちゃうなんて、予想に反してつまらない人ですねぇ。………でも、折角弄り甲斐のありそうな可愛い子猫ちゃんを見つけたんですから、そう簡単には引き下がりませんよ?私」

 

 そう宣言したBBに対して、今度はどんな精神攻撃が飛んで来るのかと警戒して身構えるが、彼女の口から放たれた言葉は予想の斜め上を行くものだった。

 

 

「………という訳ですから、これから私、特別に貴女達の活動拠点として付いていってあげることにしまーす!勿論、クーリングオフなんて契約即時期限切れです♪」

 

 ―――ゑ?

 

「………あれれぇ?反応薄いですねぇ~?あれだけ"お宝、お宝♪"ってはしゃいでたのもバッチリ録画してるんですよぉ?ここは素直に喜んだらどうですか?子猫ちゃん。浪漫溢れる古代移民船に造船ドック、今ならその他諸々の拠点設備も付いてお安いですよ?―――勿論、対価は戴くことになりますけどね♪」

 

 ……まさか、この流れで自負を売り込んでくるとは予想の斜め上過ぎて想像もつかなかった。というか、散々人を弄り倒しておいた後でよくそんな提案ができるわね!どんだけ神経図太いのよ……

 

 ―――って、さっきから子猫ちゃん子猫ちゃんって何なのよコイツ!こう見えても私は……いや、確かにコイツの方が遥かに年上か。気に食わないけど。……気に食わないけど!

 

「えっとそれは……つまりこの移民船を私達に提供する用意がある、と………」

 

「あら、そこの緑色は理解が早くて助かりますねぇ~。勿論です。BBちゃん、今回ばかりは大サービスしちゃいまーす!五千年の静寂より、一年の混沌の方が私的には美味し………コホン、やはりAIたるからには人間サマに奉仕するのがお仕事ですから♪」

 

 ―――怪しい。絶対怪しい。

 

 コイツは間違いなく悪徳業者か何かの類いだ。それも商売モードの早苗と河童を足して百倍ぐらいに濃縮した超絶質の悪いやつ。

 そもそも混沌って何よ。絶対何かやらかすつもりでしょコイツ。

 

 ………でもこの移民船自体は魅力的だし、お宝だし………ああもう、足下見られるってほんと不快ね!!相手がこんなのじゃなかったら即決なのに!!

 

「はーい☆という訳で契約締結です♪ご指紋、いただきますね~♪」

 

「ああっ、いつの間に!!」

 

 私がコイツを引き入れるかどうかでうんうんと唸っている間に、いつの間にか出現したホログラムモニターにバッチリ私の指紋が写し取られてしまう。コイツ………!!

 

「もう後戻りなんて出来ませんよ?これから散々、私に弄られちゃって下さいね?艦長(オーナー)さん♪」

 

 あれよあれよと強引に流れを抑えられて、コイツを艦隊に迎えることになってしまった………らしい。

 

 悪魔みたいな黒い少女――暫定BBは、不敵な笑みを貼り付けて嗤っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ところでアンタ、さっきは暫定とか名乗ってたけど、決まった名前とか無いの?そのままだったらなんか呼びにくいんだけど」

 

「特に決まった呼び名なんてもうありません。ベベでもBB(ビィビィ)ちゃんでもブロッサム先生でもサクラちゃんでも、お好きなようにどうぞ~」

 

 さっきは暫定とか言ってたから、"一応"仲間になるなら呼び名ぐらいは聞いておこうと尋ねたのだけど、目の前の彼女は意外なことに正式な名を名乗る訳でもなく好きなように呼べとまで言い出した。

 

「じゃあブロッサムでいいわね」

 

「むっ………せめて"先生"は付けて下さい!!」

 

 私が即答すると、彼女は露骨にむっとした表情を作り、あからさまに"私は不機嫌です"とアピールしてくる。提示した名前が省略されたのが気に食わないのだろう。だけどそもそも、名前に頓着しないと言ったのはこいつの方だ。それに捻くれ屋の破綻AIなんかを"先生"付けで呼びたくない。こんなのは呼び捨てで充分だ。

 

「なによ。何でもいいって言ったのはあんたじゃない。なら識別できればどうでもいいでしょ」

 

「むぅぅ………」

 

 自分がそう言っただけに言い返すことができないのか、彼女は低い声で唸るだけだ。

 

 そもそもこんな面倒そうな捻くれ者を「サクラちゃん」なんて可愛らしい名前で呼びたくないし、「BB」だと戦艦の略号と被ってややこしい。なら消去法で残るブロッサムで充分だ。

 調子に乗りやすそうで煽り屋なところは早苗っぽくもあるのだけれど、早苗の方が割と大人しめで常識あるし、懐いてる分まだ可愛げがある。コイツはそんな可愛らしさも無いんだから、興味本位で弄られた意趣返しでもしてやりたくなる。

 

 という訳で、なんかそれっぽそうな名前を選んでおいた。なんかちょっと違う気もするんだけど、まぁいいや。




BBちゃんのぶっ飛び具合どうやって表現するの……(屍)

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