IS×Fate - No Limited War -   作:No.20_Blaz

2 / 9
第二話です。

やはり予告通りの話運びは難しいですね…
ですが気分転換だとしても始めたのですからキッチリしないと…

ちなみに。今回から他所の作品のキャラが出ますが、そこは…まぁ…質問は感想などで…


#01 「召喚」

 

 

 

 

世界は実に不安定だ。

それが一夏の思う今の世界への感想。その全てだ。

 

女性優位の社会として成り立っている現状だが、実際は私利私欲しかない者たちによる逆恨みだ。その所為で連日テレビに取り上げられるニュースはその彼女たちが引き起こした騒乱の一部始終ばかり。

 

一夏の受験時に言われた論文のテーマもその一つだ。

今や子どもや孫の世代にまで浸透し始めている女尊男卑の問題。

それを正しく自覚している者とそうでない者が居る。

例えば―――

 

 

 

 

 

「…何かあったのですか?」

 

「ああ。入学した女子が男について不満たらしてちょっとした騒動になってたらしい。んで…」

 

案の定つまみ出され、彼女は後日入学権利をはく奪された。

それが明日聞いた事だ。

自尊心と自意識過剰さが原因となっている彼女たちは、もはや彼の目には正常な状態であるとは思えない。異常ともいえる目と妄想に浸りきってしまった思考ルーチン。

そして、勝手すぎる解釈。

その信仰者には姉である千冬を女尊男卑の神として崇める者も居たりするというのだから、そればっかりは誰からも異常ととらえられている。

 

「…世も末だな」

 

「イチカも気を付けてくださいね」

 

「そうする。中には猫被った奴も居そうだからな…」

 

 

無事に空海原の受験に合格した一夏は、首都湾と太平洋が見える学園の敷地内である体育館前にランサーと二人でいる。

千冬も本当は彼の入学式に行きたがっていたが、同日に彼女が担任をする学園の入学式であった事でそちらの方に嫌々ながら向かっていた。

 

―――卒業式でもこうなったら潰す

 

そう呪言を残して。

ちなみにランサーはその為の代理とカメラを使って彼の入学式の風景を出来るだけ多く撮ってきてくれと頼まれての事らしい。

 

 

「新入生の皆さんはそろそろ並んでくださーい!」

 

「お。んじゃ行ってくるよ」

 

「はい。しっかりと撮っておきますよ」

 

「無理しない程度にな」

 

声のする方へと人込みの中向かって行った一夏に、手馴れないカメラを持ったまま見ていたランサーは、さて、と小さく息を吐いて周囲を見回すと式が始まるまでどうするかと考えるが、先に場所を取っておけと念入りに言われたので館内へと歩く。彼女もカメラを使う事は初めてだが、知識自体は持ち合わせているのでさほどの苦労もない。

 

「…さて」

 

 

 

しかしその刹那。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――驚きましたね。まさかそこまで人として振る舞えているとは」

 

「――――!」

 

「ああ、ご心配なく。私、今回は敵として現れた訳では御座いません。ですが味方としても違いますがね」

 

何処かから聞こえる声に振り向かないランサーは独り言のように言う。

 

「…なるほど。貴様、キャスターか?」

 

「………さぁ。どうでございましょ?」

 

その言葉を最後に、キャスター彼女が言った気配は姿を消す。

魔術の類を使ったのではと考えるランサーは一瞬だが後ろに振り返るが、そこにはもうただの人込みしかなく、彼女は警戒したような顔で体育館へと入っていった。

 

 

 

(…サーヴァント…それもキャスターが、何故ここに?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外海に面した土地の近くに構える学園は敷地内に多くの森林やかつての地形を残している。

そこを利用した森林での学習も、その類の職などに付くために残されていると言ってもいいが、同時に森に棲む動物などの保護活動も行っていると言う。

一学年のクラスは四つ。その後、進みたいコースや職のために二年からは分かれると言った仕組みだ。

 

その中で一夏のクラスは一組。幸運なのか、後ろの窓側だ。

 

 

 

「………はぁ」

 

恐らく知り合いが誰も居ないであろう学校に一人、ぽつんと座る一夏はため息をつく。

教室に入ったはいいが、見知った顔というのは誰一人としていない。やれ有名校だ近くの私立公立だ。彼の通っていた学校は、そこから大分と距離が離れた場所のため、知り合いはゼロだ。面白さと期待半分に新入生の名簿を見たが、本当に知っている人間は誰一人としていない。

完全に一夏は一人孤立していた。

 

(覚悟はしていたんだけどな…)

 

いざとなれば一人は孤独だ。憂鬱そうに机の上に伏せると、担任の教師が来るまでの間、時間つぶしに寝ていようと目を閉じた。

しかしタイミングよく引き戸の扉が開く音がしたので、苛立った彼は不機嫌そうな顔を持ちあげる。どんな教師だろうとも、軽く睡眠を取ろうとしていた彼にとっては第一印象はある意味最悪だろう。

 

だが入って来たのは彼の予想とは大きく反した人物だった。

長い髪を腰まで伸ばし、顔立ちはまだ若い。スタイルも整っているが一見すればまだ大学生と言われても不思議ではない背丈だ。

そして、服装も恐らく時を同じくして姉も着ているであろうスーツに身を包んだ女性で、これがある意味決定打となった。

 

姉とそっくりの女性。それが一夏が持った彼女への第一印象だった。

 

 

「若いな…」

 

「本当に先生か?上級生じゃ…」

 

「けど私、あの人が先生たちの所に居るの見たよ?」

 

「幾つだろ…二十歳かな…?」

 

 

息を鳴らし生徒たちの目を自分に引き付ける。そして教卓の前に立った教師は鋭い眼差しで喋り始めた。

 

 

「新入生一同、入学おめでとう。私はこの一組のクラスを預かることになった国語科担任

風鳴翼だ。よろしく頼む」

 

 

若い。声からも分かるほど年齢の若さを感じる姿に生徒たちはざわめき、中には不信感だったり異性的な興味を持つ者もちらほらと居た。

恐らく、華奢な彼女の体格に簡単に出来ると思っていたのだろう。

 

「さて。この時間は生徒同士の自己紹介…と行きたいが、それはまた後日。今日はしばらくの予定の説明と私についての簡単な質問の時間だ。担任であるなら。ある程度情報開示は必要だからな」

 

手馴れている話し方に舌を巻く一夏は他の生徒が何を質問するのかと興味を持ちながら、挙手して質問をしたがる生徒たちの行動を眺めていた。

 

「はい。先生って歳いくつなんですか?」

 

「うわっ…イキナリそれ聞く?」

 

「だって…」

 

天然な生徒なのか、突然年齢の事を尋ねられたが翼は苦笑して直ぐに返答する。

 

「ふむ…いいだろ。今年で二十二だ」

 

「二十二ッ!?」

 

生徒の誰かが声を上げる。そして波紋が広がり、本当に二十二なのかと疑いたい者もいたようだが、なんなら免許書を見せようかと言われたのを最後に全員がその場で納得してしまう。

嘘をついている顔でもないし、そもそもその顔が最もな理由だ。

 

「あ、じゃあどうして教職に?」

 

「…まぁ、『教える』という事に意欲が沸いた…かな。実際、感覚的にここまで来ているからな。今更辞める気ももとより無い」

 

「じゃあ大学とかは?二十二ってどう考えても大学生じゃ…」

 

「それは四年での話だ。私は短期の方を出ているからな」

 

「あそっか…」

 

理由と補足、そして穴埋めが終わり生徒たちの彼女への疑問などが次第に薄れていく。

それと同時に彼女の親しみやすさに理解を覚え始め、固まっていた顔の生徒は少しずつ柔らかさを取り戻していく。

だが、中にはそれが度を越した生徒もいるようで…

 

「じゃあ俺たちと付き合っても問題ないですよね!」

 

(…阿保か?)

 

これには一夏他多数の生徒も言い出した生徒に向かい似たような事を考える。どうやら頭が悪いのか、それとも自意識過剰なのか。平然としていた彼女にそう言うが、翼は笑顔で答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言い忘れていたが、私は空手と柔道。そして剣道の免許皆伝を貰っている。

 

つまり。『付き合う』とはそういう意味なんだな?」

 

 

 

刹那、その言葉に再び教室内は極寒の寒さと恐怖に覆われた。

顔は笑っているのに、感情と威圧感が笑えずしかも彼らを喰うほどの覇気のようなものを出している。正面からやり合えば絶対に命が幾つあっても足らない。

彼らが節操のない狗であるなら、恐らく彼女は千年は生きているだろう狼か何かだ。

そして今。眼前で狼が立ち、彼らは逃げることも出来ずに立ち尽くす。

 

 

「―――――すみませんでした…」

 

 

 

この後。彼女へのそうした言動は一切禁じられた。

ある意味の暗黙のルールがこの時点で構築されたのだ。

しかしならばと思った女子生徒が軽い気持ちか空気を換えるために質問を投げた。

 

「なら。先生って恋人とかって居るんですか…?」

 

「…恋人…か」

 

真剣に考える姿に、これは大丈夫か?と思った生徒たちだったが、次の瞬間彼女の発言に再び驚く。

 

 

「まぁ…居るには居るな」

 

「…え?」

 

「ん?居るぞ?普通に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女を使い遊ぶ事は不可能。

恋人は居る。単に感覚で教職を続ける免許皆伝持ちの二十二歳。

 

これが、この時点で彼らの知った担任の情報だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんつー恐ろしい先生だよ…」

 

帰り支度を済ませ、そんな担任教師が居る魔窟から逃げ出そうとする一夏は真っ直ぐ正面玄関へと歩く。

今日一日で知り合いや友人ができた訳でもないので特に留まる理由もなく、加えてランサーとは直ぐに出てくると約束してしまった彼は律儀にそれを果たそうと少し急ぎ気味だ。

何より、知り合いの一人も居ない場所では居る意味もない。

孤独感から逃げたかったのだ。

 

「…はぁ」

 

ため息をつき、気だるそうな顔で廊下を歩くと、それに気づいたのか今日聞いた声が目の前から彼の耳に聞こえた。

 

 

「―――随分と落胆しているが。何かあったのか?」

 

「―――あ…」

 

 

あの笑みこそ浮かべていないが、真剣な眼差しで自分の事を心配しているのには変わりない。そう思い一夏は目の前に立つ翼の問いに答えた。

 

「…いえ、別に―――」

 

「…話に聞いていたが…そこまで第一志望に落ちて残念か、織斑一夏」

 

「えッ…!?」

 

まるで自分の事を知っているかのように話す彼女に驚く一夏は、どうして、と問う。

逆に自分が残念だ、と言わんばかりの顔で聞いていた翼は先に思っているだろう問いに対して答える。

 

「話は君の姉から聞いているよ。姉思いの弟だとな」

 

「…千冬ねぇの…知り合い?」

 

「プライベートでのな。残念だが、私にIS適正はからっきしない。というより、白だ」

 

「あ…え…でも…」

 

「プライベートと言っただろ?必ず関連があると思うのはダメだぞ」

 

「…はぁ…」

 

取りあえずは彼女と姉の千冬が知り合いであるという事を知った一夏は、改めて自分が落胆していた事に対して問われ、その答えに迷う。堂々と彼女が恐ろしいとは言えないが、それ以上に一夏はこの場というものに対し残念さを感じていたのだ。

 

「…なんていうか…その…友達じゃなくても知り合いの一人も居ないから…」

 

「見知った顔が、か。確かに、ここじゃお前の家は遠かろうて」

 

「ええ。まぁ分かってはいた事なんですけど、いざとなると…」

 

本人も隠す気はなく、堂々と落ち込ませる姿を見せその悩みが本気である事を示す。

教師に対して友人のような関係を持つ人間は居らず、何よりそんな関係を作ろうという気にもなれなかった。

そして、今度は誰も知る人間が居ない場所で独り。

この上ない孤独感は寂しいという言葉では不十分だ。

 

「…私も無理に作れとは言わん。そうなっては道を外してしまうかもしれないからな」

 

静かに手を差し出す彼女に一瞬どういう意味かと思うが、その手の意味は考えればシンプルなものだ。

頼れる人間が居らず、見知った人間も居ない。

なら、今は自ら手を差し伸べてくれる人間を頼るしかない。

 

「だから。お前がここでの生活に慣れるまでの間、手を貸そう。無論、一人の教師としてな」

 

「あ…はいッ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…マスター、年下が好みなんでしょうかね?」

 

「変な事を言うな。それに、それは貴様の趣味ではないのか、キャスター?」

 

取りあえず今は彼女がある意味助け船になってくれるだろう。

不安の残る事ではあったが、今はそれを信じ一夏はそれを受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日。千冬の居るIS学園でも無事に入学式を終え、僅かに寂しさを感じていたが慣れてしまっているのか顔に出さずに一日を乗り切った彼女は、日が傾いてきた時に一人屋上で誰かと連絡を取り合っている。

午前の時間に既に生徒たちが寮だったりに向かっているのでまだ人は居るが、屋上には彼女以外だれも居ない。

つまり本心を隠さずに出せるという事だ。

 

「…で。話とは?」

 

『んー…実はね。昨日ある物を偶然手に入れちゃって…それを今日一日預かってほしいの』

 

「ある物?」

 

『そ。ルートも曰くつきで嫌な予感はしていたのよねぇ…それが案の定、厄介ごとを運んできたってワケ』

 

「…お前のルートは大体がそれだろ?」

 

『失敬な。私のルートの大半は公で堂々と話せるものです』

 

携帯の向こうから聞こえてくる女性の声にため息をつく。嘘を言っている様子でもないが、そう自信満々げに言えるものでもない。

 

 

『まぁ………今回はお前の言い分が正しいがな』

 

電話越しに聞こえてくる声のトーンが変わり、眉を寄せる千冬は同時に伝わってくる違った空気に小さく息を飲む。

 

「…何を手に入れた?」

 

『手に入れた…というより、預かったと言えばいいか。兎も角、それが厄介なブツでな。話が纏まるまでは私の所に置いておけん。何せどこの馬の骨とも知らん連中が嗅ぎまわっているからな』

 

「お前なぁ…」

 

『すまんな。だが今はどうしてもそうしなければならない。今日一日だけでいい』

 

「ッ…分かった。ランサーの奴にも伝えておく」

 

『ああ…っと。受け渡しは今日の六時ぐらいだ。居るか?』

 

「…無理だな。だが一夏が居る」

 

『アイツか…大丈夫か?』

 

「何かあれば連絡で直ぐに飛ぶ。だから…」

 

『…分かった。こっちも一応警戒はしておくからな』

 

話が纏まり、電話を切ろうとしていた瞬間。向こう側から言葉をつなぐ声が聞こえ再び耳を傾けた。また嫌なことではないかと考えていたが、軽い話し方からどうやら別の事らしい。

 

『それと。偶然なんだがアイツの受験会場に彼女(・・)が居た』

 

「ッ…アイツ…」

 

『どこほっつき歩いてたかは私も知らん。本当にただの偶然だったからな。だが…』

 

「未練に諦めずに、か」

 

『そうらしい。影から彼を追っていたからな。たぶんアッチで何かをしでかす気だったんだろう』

 

「だから止めておいたか?」

 

『そういう事。アイツがこの国に居るのは間違いない。気を付けておけよ』

 

「―――そうするさ」

 

改めて電話を切った千冬は、そのまま一夏に連絡しようと指を動かしていたが咄嗟にある事を思い出し少し考え込んだ。朝出かける前に彼から今日の予定を言われていたのだ。

入学式を終えた後に一旦家に戻るが、そのあと近くのモールで買い物をしてくると言っていたので、その移動中なのではないかと心配になっていたのだ。些細なことではあるが、ふと気になってしまった彼女は一旦は躊躇したが、彼が移動中ではない事を信じて連絡した。

 

「…ああ。一夏か。私だ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え。あ、うん…分かった」

 

電話を切り、携帯の充電バッテリーを確認した一夏は上に着こんでいたコートのポケットに携帯を滑り込ませると、買った物を確認し再び歩き出す。

 

千冬からの電話を聞いて直ぐに帰ろうと、物を入れたリュックを背負う狭い本棚の間を歩き書店から出る。参考書などを見て漁りに来たが、まだ早いかと断念して適当に漫画本なんかを見て回っていた。肝心の買い物は既に終えており、それが全てリュックの中に詰まっていたのだ。

 

「飯とかの買い足しはこれで全部だし…後は下でもう一度買い物してから帰るかな」

 

吹き抜けの内側にあるエスカレーターに乗って下の階にある食料品の階に降りていく。一応はエスカレーターと吹き抜けの間にガラスが張られているが、時折そこから下を眺めると落ちる事が出来るんじゃないかと想像してしまう。だからこそのガラスではないかとは思うが一夏にはそれが妙に信用できなかった。

 

(もし映画とかドラマとかがあればここから飛び降りたりするんだろうな…)

 

と、そんな現実あり得ることのない事を考えながらエスカレーターを下りた一夏は、ふとその階に広がっていたある会場が目に入り、思わず足を止めて釘づけになる。

一体なんなのかと一瞬思っていたが、それは思えば薄々とは勘付いていた物。それを一度は正面から見たいと思っていた。

女性優位の社会が構築されたその大きな原因。そして理由。

 

 

インフィニット・ストラトス

 

人はISと略しその存在を認知している。

ある者には兵器として

またある者にはスポーツの道具として

そしてある者には自分たちの地位の結晶体として

見方は様々だが、見るだけ、認知するだけでは誰でも自由だ。

ただ一つ、ISの持つ特性。それを知らなければ別に死にはしないがそれを認知する場合に絶対的に付属される説明がある。

ISはどういう仕組みかは不明だが女性にしか扱えないのだ。

これが理由となり、世間は完全に女性優位の社会へと変化していった。

 

 

 

 

「へぇ…展示会かぁ」

 

イベントなどに使われる場には一機のISが展示され、そこには多くの警備員が配置されていた。

どうやら今回特別にISが一般公開される日で偶然その日に当たったらしい。中には女性だけではない、カップルや親子連れといった者たちから研究者らしき人物、果ては―――

 

「………。」

 

一夏がそこから先へと足を踏み入れる事を止めさせるほど、自己中心的な雰囲気を醸し出している者たち。しかも、その姿はどうみてもガキ大将とその子分だ。

 

「…ま。別に見るだけだし、変ないちゃもんはされないだろ」

 

そう言って帰る筈の素振りを見せていた一夏は引き寄せられるように入っていった。

 

「…ありゃ?」

 

抜けた声で入っていく姿を目撃した人物が居ると知らずに―――

 

 

 

 

 

 

 

会場に入れば、そこはISを中心に人が寄り集まっていた。

多くの人は写真を撮り、また他には興味深そうに眺める者も居る。人によって千差万別、色々な表情と行動をしていたが、皆目の前のISに興味津々だ。

かくいう一夏もその一人で少し知識を持って良そうな顔で展示されていた機体を見ている。

 

(確か、ラファールって言う海外の機体だっけか。千冬ねぇが言ってたな。今の世代で結構配備数があるとかなんとか…)

 

姉である千冬がISに関しての関係を持っていることから必然的に話の中にそういったものが混ざっており多少は彼も知識を持ち合わせていた。それでも一般人に毛が生えた程度のものなのであまり見栄をはって言えることでもない。

 

(どっちかっていうとパワードスーツって感じがするな、やっぱ。全身装甲じゃなくても大丈夫なのか?)

 

また、彼も時には話を聞き流していることもあるので知っているだろう事も知らないでいたりする。

 

「…っと。時間時間…」

 

興味深そうに見ていたのですっかりと時間が経っているのに気づいた一夏は腕時計を見て時間を確認し、急いで下の階に行かねばと人込みから出ていく。

 

 

 

その刹那、後ろに居た誰かが一夏を見つけると音と気配もなく静かに近づいてくる。当然、気配も無いまま近づかれているので気づくことも出来ずゆっくりと伸ばされた手は彼の背中を強く押そうとした。

そして。

 

 

「っと!?」

 

勢いよく、されども突き飛ばさない程度に叩かれて少しふらつくが、体勢を立て直してしっかりと足を踏みしめる。

ギリギリ足で踏ん張った一夏は誰が叩いたのかと思い後ろを振り返ると、そこに立つ女性の姿を見て驚きの声を出す。

 

 

「なにしてるんだ、青少年くん」

 

「って橙子さん!?」

 

くずんだ赤色の髪をしたスタイルの整った女性。眼鏡をかけた姿は不思議と魅力を感じてしまう。

そんな服装をした蒼崎橙子は一夏に軽い挨拶をすると不思議そうな顔で自分を見る彼の顔に笑みで答える。

 

「どうしてここに?」

 

「いやね。貴方がここに入っていくのを偶然見かけたから。何しているのかなって思ってたら興味深々だったんで、つい…」

 

「いやついって…」

 

「というか、織斑君こそココで何してるの。単にコレを見に来たワケじゃないんでしょ?」

 

「買い物。んで、ここには…まぁ偶然」

 

「偶然…ね」

 

歯切れ悪く答える彼をみて、不適な笑みを見せる橙子は顔を近づけて小耳で呟く。

 

「…乗りたいの?」

 

「ッ…乗れるわけないでしょ」

 

「…よね。まぁお姉さんがお姉さんだし…」

 

悪戯好きの子どもかよ、と近づいて来た顔に頬を染める。彼女が近づくと綺麗な肌色と香りが漂ってくるので、それを意識してしまい純粋に恥ずかしくなってしまう。

そんな一夏の姿を見て、愛いやつめ、とまだ近くで呟く彼女にいい加減にしてくれと目で訴えかけ、顔の直ぐ近くから引き離す。

 

「ていうか、橙子さんはどうして?そっちこそ、ただブラついてただけじゃないでしょ」

 

「私?私は当然…」

 

「…酒か」

 

 

滑らせるように下げていた鞄から中身を持ちあげると、そこには包まれた酒瓶が入っており再び手を放して中へと落とす。

理由がある意味彼女らしいと呆れていた一夏は、とりあえず人込みから出ようと彼女と共にその場から移動する。途中、妙に視線を感じだが、誰かが無意識に自分を見ていたのだろうと思い特に気にも留めなかった。

 

「………どうして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼崎橙子は酒豪ではないが、ヘビースモーカーだ。

以前は何処かの不味いタバコを吸っていたと本人は言うが、今ではよく見るタイプの物を吸っており、それは時折一夏も目にしている。なんでももうかなり前に全て吸いきったらしく、今ではタバコでの出費もキツくなっているらしい。

一夏たちは禁煙ないし数を少なくすればいいと助言するが、本人は改める気はなく今もこうして吸い続けているのだ。

 

「そっか。今日入学式だったんだ」

 

「ええ。だから帰り早かったんで早めに飯の調達をって」

 

「へぇ。何処に入ったの?」

 

「空海原です」

 

「ああ。あの何でも学校ね」

 

言い方の適当さに少し癇に障ったが、ある意味正解であるため言い返す事はできずにそれで納得してしまう。事実、あそこは本当になんでも対応できているのだから。

 

「いいじゃない。私も仕事で一度あそこに行ったことあるけど、良い場所よ?生徒は兎も角として」

 

「…何かあったんですか?」

 

「うん?何もなかったわよ?」

 

恐らくその言葉の中に、誰かをぶちのめした、と付け足されるハズだった事に一夏は目線を逸らす。彼女にはたった一つのNGワードが存在し、それをもし踏んでしまえば曰く一秒となくぶち殺されるらしい。

それでなくても恐らくはセクハラか何かをされての自衛(本人談)をしたのだろう。

恐らく、その所為ではないかと思い当たる学生三十名の一斉入院事件があったと思うが、そんな事は絶対に無いと、気のせいだと思って再び話を戻す。

 

「…千冬ねぇも言ってたんですが…あそこってそんなに良い所なんですかね?」

 

「自分から進学しといてイキナリいちゃもん?まぁ、生徒と教師については同意するけど、あそこなら職については困らないでしょ。食ってくにも十分なほどの体制よ。卒業生が泣きついてそこでハローワークしたって話もあるぐらいで」

 

「…将来そんな奴に成りたくねぇ…」

 

「なら頑張ることね」

 

タバコを燻らせる橙子は他人事のように言うが、残念ながらそれは事実だ。

それに頭を悩ませる一夏は時計の時間をみて、もうこんな時間かと窓の外を見る。日が傾いて落ちていくので焦りを感じた彼は立ち上がる。

 

「ヤバッ…早く買い物しないと…」

 

「終わったんじゃないの?」

 

「必要品とかは買いましたけど、晩飯はまだ…」

 

「………なら。付き合おっか」

 

「…え?」

 

「私今日は車だし。重い荷物持って帰るの大変でしょ?だから―――」

 

「………等価交換?」

 

 

当然ッ

口元でたばこを吹かす彼女の笑みに、恨むなら姉を恨めと言われたように思え、断ることも出来ない彼はその後橙の背後霊に付きまとわれていた。

ちなみに一夏は自転車だったので先に彼女に荷物を送ってもらい、自分はその足で帰る事にした。当然、先にたどり着くのは車である橙子のほうなので、彼女は敷地の車庫の前に車を置いて、彼らの家を見て呟く。

 

 

「しっかし…改まってデカい家よねぇ…何してここまでの出来るのよ」

 

完璧超人と言われるだけあって資金周りは完璧か、と思っていた橙子は金欠である自分の財布を叩いて遅れて帰って来た家の住人と共に中に入っていった。

 

邸と呼べる規模の自宅。それが全て千冬の稼ぎからなり、その結果が今の彼らの家であるということだから驚くしかない。

今まで住んでいた家から増設された廊下を伝えば、そこから先は別世界と言えるほど和を中心とした屋敷になっているのだから。しかし普段住人三人は今までの家でしか生活せず、向こう側は客室だったり大間だったりはあるがあまり使われることはない。

何故ここまで広げたと言われると、実際彼女の本意ではないと言われると思い当たる事は一つ。

建築した側の趣味が完全全開だという事だ。

 

「いや作ったの橙子さんでしょうが」

 

「ああーそういえばそうだったっけ」

 

「………。」

 

 

自分が建築に関わった家である事を忘れながらも堂々と足を踏み入れる橙子に、一夏は深いため息を吐いて後から上がり込む。

自分の家に帰って来たというのに、この虚しさは一体何なのだろうと変に感じてしまった感覚に頭を悩ませる。

その原因たる本人は何も動じずに入っていき、真っ直ぐリビングに向かった。

そこでは彼の帰りを待っていたランサーが居ており、現れたのが彼ではなく橙子である事に疑問を浮かべた。

 

「戻って…貴方は…」

 

「ハイ、ランサー。元気にしてるかしら」

 

「…蒼崎。貴方、どうしてここに?」

 

「彼の荷物持ちを手伝って報酬を貰いに」

 

「…一夏?」

 

ばつの悪い顔で現れた一夏は、軽くだが事情を話し納得させる。話には納得しているが、それでも直ぐに受け入れろといえばそうもならない。

その理由として、客人である彼女が堂々と冷蔵庫や近くにあるワインセラーを漁っているのだ。

 

「…橙子さん。取るのはいいですけど、ちゃんと千冬ねぇに言ってくださいね」

 

「分かってますって」

 

「あと。責任はとりませんから」

 

「彼女、そんないい物持ってた?」

 

「偶に貰い物でそういうのがあって、その中に―――」

 

「あ。これか。んじゃコレに…」

 

教えなければよかったと今更に後悔するが、既に堂々セラーから高そうなワインボトルを一本取っていた姿を見て言えなくなり、最早なすがままになれとヤケクソになって頭を掻いた。

当の本人も後ろではそんな顔をしているとは気にせず、銘柄を確認してからあてつけのように携帯で写真を撮り、それを添えて送りつけていた。悪気がないのは確かだが、善意もないのも確かだ。

 

「にしても…貰い物のためだけにセラーなんて、ちゃんと飲んでるのかしらね」

 

「知り合いに酒好きが居るからって言ってたから…その人と飲むんじゃないですか?俺、千冬ねぇがワイン飲んでる姿なんて一度もなかったですから」

 

「本人が似合いそうなのってビールと日本酒ぐらいよね」

 

「マジでそれ言わないで下さいね。多分火の粉、俺にもふっかかって来ますから」

 

八つ当たりは御免だ、と厨房で手を動かしてぼやきながら何かを作っているので、そろそろ夕食かと思っていたが、まだ仕込みも終わっていないと本人から返され、一夏はそれまでの「繋ぎ」を作っている最中だった。

 

「何作ってるの?」

 

「絶対ただで帰る気がない橙子さんに貢物を」

 

「―――バレてた?」

 

「冷蔵庫から堂々ビール缶取り出してた時点で気付いてました」

 

「相変わらず観察眼鋭いわね」

 

隠していてもしょうがないと思ったのか、ついには堂々と缶を開けた橙子は中に入っていた冷たいビールを飲み寛いでいた。

いつもの事だと諦めていた一夏はそのまま作業しており、ランサーは彼に釣られて諦めている。あまり率先して口を出す性格でもないので二人の会話に流されるばかりだ。

 

 

冷たいビールを飲み一息ついた橙子は、そういえば、と話を切り出し一夏に問いを投げる。

 

「そういえば彼女…千冬はまだ帰ってないの?」

 

「ああ。千冬ねぇは一旦戻ってくるけど必要な物を取ったら直ぐにとんぼ返りするはずですよ」

 

「…なるほど。そういえば」

 

当面向こうでの寮生活があるから休日でない限りは彼女も帰ってくることができない。

彼との話でようやくそれを思い出したのか、納得げにまた一口飲んでいき次の質問を投げる。彼女が当分戻ってこれないのなら彼に話が来ているはずだ。

 

「なら。彼女からの電話、聞いてる?」

 

「電話…ああ。橙子さんからの預かり物…でしたっけ」

 

「そう。今日一日だけ預かってほしいものがあるの」

 

なら丁度いい。双方が同じ事を思った刹那、一夏の作業が終わり橙子が話を切り出した。

 

「…もしよかったら。今預かってくれない?」

 

「いいですよ。こっちも終わりましたし」

 

 

そう言って一夏はカナッペをいくつか作って彼女らの前に出すが、先に荷物を預かってからと言う事で、子どものように手を洗えと言われたような気分だった橙子は渋々だがそれに従って先に荷物を取りに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

「んっ…相変わらず器用ね…おまけに美味しいし」

 

小さなカナッペの一つを食べる橙子はビスケットの上に綺麗に盛られた具を見て感想を言う。別に調理はしていないがと言うが、それでも見た目も整っていることから味は良いようだ。

 

「料理って言っても姉がああだから…」

 

「そういえば…一夏、千冬は料理は…」

 

「ド下手。飯を炊く事ぐらいはできるけど、手の込んだ料理とかは全然ダメ」

 

当人は弟がやらせてくれないと言っているが、実際はそれを目撃したからこその断りだろう。次は大丈夫と思っているらしいが、その次がダメである事を重々知っているからこそだ。

味は一夏曰く「走馬灯が見えた」らしい。

 

「まぁ千冬ねぇが中学高校を全部家のために頑張ってたから、何も言えないんだけどさ…」

 

「だから家事とかが自分でやらなければならなくなったと」

 

「炊事、洗濯、掃除、整理整頓…特に千冬ねぇの部屋を」

 

「ああ。部屋が魔窟だって話ね」

 

彼女が家を空けている時に掃除に入り、そしてまた散らかしたら掃除する。

これがある意味恒例行事となったため、女性の下着を見てもあまり驚かなくなったと言うが、これを千冬に話したら外で口外するなと口止めされた。

 

「足の踏み場もないんだって?あと、何がどうなっているのか分からないって」

 

「平気で下着が散乱してますし洗濯物も散らかってますし、開けた袋は床下に食べかすと一緒に。んで缶も転がってて中にはまだ飲みかけの奴も…」

 

「随分手を焼いてるようね」

 

「あれで世界最強ですからね…」

 

 

そう言って苦笑する一夏はそれでも苦には思っていないと言い、自分にも責任があると遠まわしに言う。それには彼女らも気付いており、小さく息を吐いて話を区切る。

 

「さて。私はそろそろ行くわね」

 

「え、もうですか?」

 

「もうも何も一時間居たら十分な方よ。それに、そろそろ用事があるし…」

 

脱いでいた上着を着直して自分の物を確認した橙子は、一夏に忘れないようにと重ねて言いまるで子どもに注意するかのように付け足す。

 

「ああ。それと、中身を触っちゃだめよ。すっごく貴重なものが入ってるんだから」

 

「分かってます。けど、そこは開けてはいけないって言う所じゃ…」

 

「まぁそうなんだけど、別に開けるだけなら問題ないわ。肝心なのは触ってはいけないって事。わかった?」

 

「…はい」

 

妙に触ることに注意するなと疑問に思っていたが、彼女からの言いつけを守ることにして素直に頭を頷かせた。

 

「明日には取りに戻るから。それまでよろしくね」

 

ついでとばかりに出された料理についても言うと、軽く別れのあいさつをして橙子は暗くなった空の下へと出て行った。

直後、彼らの家のガレージから強くアクセルが踏みしめられた音が聞こえたが、彼女が車で来ればそういうお約束であると知っていた二人は特に気に留めることもなく夕食の準備へとかかろうとしていた。

 

「さて。晩飯を作るとしますかね…」

 

袖を捲り調理に入る姿となった一夏はキッチンに入り、仕込みを終えたままの料理に手を付けようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ―――」

 

 

だが。まるで彼女が帰って行った事を待っていたかのように、空気が変わったをその時の彼はまだ気づくことはできず、ただ一人ピタリと動きを止めたランサーだけが、その異変に気付けた。

 

 

「―――一夏。私は少し、奥の和式に居ます。何かあれば呼んでください」

 

「ん…?」

 

 

違和感に気付けていなかった一夏は、突然どうしたのかと思っていたが別に問題はないと答えてしまう。まるで何かを警戒しているかのような顔に違和感は感じていたが、その意味が変わらなかった彼は、何も聞かずに彼女を行かせてしまった。

 

 

「………ランサー…?」

 

不自然さを感じていたが、特に気に留めず行かせた彼女の姿に、あとから疑問を浮かばせた一夏は振り返るが既に気配どころか姿や形でさえも消えていた事に言葉を失う。

一体どこに行ったのかと探そうとしたが、この広い自宅の中ではすれ違いや行き違いはよくある事だと思い、彼女が戻ってくるまで待つことにする。

 

「…仕方ない。仕込み終わってるし、少し待つか…」

 

寂しさを紛らわせるためにと、自分に言い訳していたが本心は当然ながら寂しくもあり心細くも感じていた。

一人残された一夏はしばらく暇になったと何かで時間を潰そうかと思っていたが、時間帯のせいで長く潰せるものはない。テレビもあまり見ないし、携帯もそこまで長く使う事も無い。

 

寂しさが暇さでようやく消えて来た頃、ふとある事を思い浮かべそれに興味を持つ。

少し前から気にはなっていた物を今ここで見たい。あの中身が一体何なのかと好奇心が擽られる。

 

 

「………。」

 

開けても良いが触ってはいけない。彼女がそう言ってたのだからと、我慢の限界になったのか渡された荷物に手を伸ばす。

荷物は大きく、チェロやギターと言った弦楽器が入れるようなケースに収められており、リビングに置かれたテーブルの殆どを埋めるほどだ。

しかしそれが袋包みにはされず、木製のケースだけを露出させておかれているのは既に誰かが開けたあとなのだろうか。それとも、元から包まれていないのか。

外見に不思議さを感じていたが恐らく後者なのではないかと考えた一夏は、いよいよ中身を開ける。箱のように蓋が閉じられているので上から優しく蓋を持ちあげた。

 

 

「…これは…」

 

 

 

 

中にあったのは未だ輝きを失わない、古い剣の鞘だった。

傷もなく、汚れすらもないその姿に一夏は言葉を失うとともに目を奪われる。

鞘の状態があまりに良く、そして美しいもので今さっき作られたかのように艶やかなもので、それでいても歴史を感じられる。

今出来たかのような、それでいて何千年も昔からあるという矛盾した感覚に上手く言葉を表すことが出来ない。

 

「けど…鞘、だけ?」

 

だが問題はそれが鞘だけしかない事。

いくら芸術的な物であっても、本来の使い方である収める剣が無ければ意味はないし、これだけの品をそこらの安っぽい剣などて代用すればそれこそ侮辱だ。

 

「他にあるって事なのかな…」

 

鞘だけという事は剣か他にあるという事かと、そこにある鞘を眺めながら言う。

黄金と共に青い装飾が成された鞘は、誰の目から見ても美しいものだ。きっと、剣もそれに似合った物なのだろうと思い、一夏はまた静かに蓋を閉める。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――問おう。

 

 

 

 

 

 

 

「ッ――――」

 

刹那。

彼の頭の中から聞きなれない声が響く。痛く響いた声に手を置く一夏は、急に聞こえて来た声に驚くとともに頭を抱える。

一体誰の声か分からないもので、テレパシーにでもあっているのかと疑ってしまう。

だが生憎とそんなものには縁のない自分だ。きっと空耳か何かだろうと、無視を決め込もうとしたが、再び声が頭に響く。

 

 

 

―――あ――が―た―――スターか―――

 

 

 

今度はハッキリと聞こえない。途切れ途切れにしか聞こえず、ほんの一欠けらほどしか分からない言葉に頭を抱える。だが原因は分かっている。先ほどと違い、頭の中に声が響いただけでなく、何か幻覚のようなものが今度は送られてきたのだ。

 

 

「な、ん…だ…コレ…」

 

 

まるでその記憶が自分の体験した出来事であるかのように、そしてその時の感覚が再現されているかのようで、全身に不可思議な痛みや苦痛などが響き渡る。

送られて来る映像に拒絶反応を起こす一夏はその場にへたり込み、五月蠅く響く頭の痛みに苦痛の表情となる。

それでも頭に流れてくる映像は止まらない。殆ど砂嵐のようであろうと、何が映っているのか分からない物であろうと、まるで彼に何かを伝えるかのように映像は動き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

恐らく、一秒すらない光景

されど。

その姿ならば、たとえ地獄に落ちようとも鮮明に思い返すことができるだろう。

 

月の光に漏れた髪

 

 

一瞬だが、鮮明に刻まれたその姿は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「問おう。あなたがわたしのマスターか」

 

 

 

その日。

少年は運命の夜に、出会った。

 

 

 

 

 

「―――――マス…ター…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告


「いよいよ始まるのだな。聖杯戦争が」



「望む望まないも…これはもう起こった事だ」


「本当は、お前にこんな事をさせたくは…」



「三年前の続きと行こうかしら?」

「…とんだクジを引いたな、俺も」



「貴方が望むのなら、私は貴方の剣となろう」


「―――なら。俺の答えは」





次回 「青き剣」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。