IS×Fate - No Limited War -   作:No.20_Blaz

3 / 9
完全オリジナルとなっている本作の第二話。

当然と言えば当然な型月のドル箱の登場です。

さて。今回のストーリーで「可笑しいな?」って思うところがあると思いますが…まぁそこはそれでOKだと思って下さい。
ただ誤字とかについてはドンドンお願いします。

一応クロス相手がISという事でちゃんとISも出したりしますので。
ですがそれと共になんかどこかで見たことのある奴らが出てきたりも…

あと。できれば誰が参加するのかぐらいは一応出そうかなと思ってます。


それでは第二話、お楽しみ下さい。


#02 「青き剣」

 

 

 

 

 

 

少し昔の話―――

 

 

 

 

「―――――ああ…貴方が………私の英雄(マスター)なんですね」

 

「マ…スター…?」

 

「―――ええ…私はランサー。貴方のサーヴァント」

 

「サーヴァント…」

 

 

「私は貴方のために、この身を捧げましょう」

 

 

始まりは突然だった

そして出会いも

運命も

何もかもが突然、彼女の前に現れた。

 

その瞬間、何処かで何かが動き出したかのように思えた彼女は異国の地で行われた戦いに身を投じる事になると、出会った瞬間は分からなかった。

 

しかしそれが切欠となり、彼女は様々な事を知る。

世界の事、この世の事。出会いし彼女の事。

光が当てられていく真実に、何度も挫けそうにもなった。

だがそれでも。

彼女には守りたい者が居る。

たった一人の肉親。彼を守るためならば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喜んで、私は修羅の道を進もう―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

奥の和式の屋敷から外の庭に出る。

庭と言っても普通に木が植えられて芝生がある程度で、品のあるようなものではない。

そこまで芸術とかを求めたわけでもない。ただ普通に縁側と庭があって、そこで体を休めたりすることができればいい。

それが建築当初に千冬が求めたこの家のイメージだ。

お陰で殺風景とまではいかないが、それなりに合った建築になって何かと利便もきく。

 

例えばそう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵襲時、敵がどこにいるかが分かりやすいという事か。

 

 

 

 

「あら。意外と早く見つけたわね」

 

「―――――。」

 

 

 

 

縁側に一人立つランサーは、どこからか聞こえる声に耳を傾ける。だがどこからか聞こえるというよりも、「声」が風景そのものというべきで四方から響く声は彼女に余計な警戒をさせる。自分が見ている景色、その全てが敵で今すぐに自分に襲い掛かってくる、そんな気がしてならないと普通の人間が見ればそう思うだろう。

 

しかしランサーはそんな馬鹿げた事であるとは微塵も思っておらず、どこにいるか分からないが潜んでいる相手に向かい、ぽつりと呟いた。

 

 

「―――嘘が下手な声」

 

「………。」

 

「本当は…見つけてほしくてたまらない…私を―――殺すために、自分の姿を晒したくてたまらない。

貴方のその感情は殺意と興奮。私を自分のものにしたいという欲求―――」

 

「ッ………」

 

一瞬だがランサーの肌に周囲の空気が変化したように思えた。彼女の言葉が姿を見せない愛てにとって痛い言葉だったようだ。

そして反応したのを感じて、一気に詰めを行った。

 

 

「―――そうですよね アサシン(・・・・)

 

ランサーがそういった刹那。冷たく夜風だけが透き通っていた筈の周囲の空気が壊れるような感覚と共に、彼女の視界が崩れていくように見えた。

 

―――否。今までが偽りであるため、元々の風景、元の世界に戻されたのだ。

 

ガラスのようにひび割れて崩れる世界は元に戻り、隠れていた者が姿を見せる。

赤いボンテージのドレスを纏い、その外側には網目になって鉄が張られ首輪が吊るされている。顔には仮面が付けられ爪は異様なほど長い。これだけでも目の前に居る人物の異様さを際立たせるが、その一番の象徴は女性の背にある棺桶だ。

人の顔と手のある棺桶はそれだけでも何か狂気を感じてしまう。恐らく中身もその塊りだろう。

 

「…随分と…きっぱりと当てたわね」

 

「貴方の気配は殆ど分からなかった。気配を遮断する能力は暗殺者(アサシン)の『サーヴァント』でない限り出来ないことです」

 

 

ランサーの言葉に軽く笑ったアサシンは、そうね、と焦りもなく答える。

彼女の言うことは紛れもない事実ではあるが、同時に自負していたからだ。気配を遮断できても完璧ではないし、第一自分はそんな事をするのは得意でも好きでもない。

あくまでサーヴァントとして付与された能力を行使しているにすぎないのだ。

 

 

「やはり、貴方のような同じ(・・)サーヴァントには、このスキルは余計なものね」

 

「………。」

 

不適な笑みを浮かべるアサシンは杖を持つと、それを軽く振るって何かを振り撒く。何を振り撒いたのかはランサーも分からないが、恐らくは彼女が何か仕掛けるための布石なのだろう。

 

 

「改めて。私はアサシンのサーヴァント。今宵より始まる戦いに呼ばれて参ったわ」

 

「…始まる…」

 

「ええ。厳密には『もう直ぐ』だけど。間もなく最後の一人のマスターが現れる。そういう訳だから、私は少し物見遊山がてら貴方を見に来たのよ」

 

「―――私を、ですか?」

 

 

「そうよ、三年前に召喚されたサーヴァント、ランサー。貴方が美しき戦乙女と聞いて、居ても立っても居られなかったのよ」

 

「―――狙いは…私?」

 

「厳密には貴方たち、かしらね。貴方のマスターも良いけど、先に好きな方を食べるのが私の主義なの」

 

 

何を知っている。何故知っている。思う事は色々とあったが、ランサーはそれよりも先にまずは今の事を優先するべきだと目線を下へ落とす。

先ほど振るった杖の力なのだろうか、地面から黒い煙と共に異形の人型が姿を現し、うめき声と共に次々と立ち上がる。

ゾンビ、屍食鬼(グール)。考えられるものは多くあるが、今は敵であるという事だけで十分だ。

 

 

 

「アサシンと言っても私は暗殺とかを行った事はないわ。そんなものには素人同然。だけど、私にはこれがある。こうして呼び出したりする事も。魔力で生成した似非な攻撃も」

 

「―――。」

 

「さぁ三年前の続きと行きましょう。あの無慈悲な戦いの続きを

そして貴方の姿を見せて頂戴。でないと、貴方はこのままこの子たちに食われることになるわよ?」

 

ぐるりと回りを見回すと、いつの間にかランサーは異形のものに囲まれており、そのどれもが今か今かと彼女に襲い掛かるのを耐えていた。アサシンの指示があればいつでも襲い掛かれるという意味なのだろう。それだけの自信があるというのは今の状況とアサシンの余裕気な表情を見て分かることだ。

 

 

―――なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――ッ」

 

 

 

「ッ―――――!!!」

 

 

 

 

刹那。口元を歪め、怒りの色を漏らしたアサシンは異形のものたちに対しランサーへの攻撃を指示する。ゆっくりと動き始めた彼らは、うめき声を強くして四方から彼女に襲い掛かる。武器などは持ち合わせていないので彼らの攻撃は全て手か口によるもの。だがそれでも致命傷になるものだってある。

 

なのに。なのに何故、ランサーは直前にあんなことを言い出したのだろう。何故、あんな状況であるのにあのような言葉を言えたのだろう。

それがアサシンにとって不服であり、怒りの根源でもあった。

 

 

愁いた目で、悲しそうな顔で、同情するような声で、彼女は言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――可哀そうな人たち と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時折、テレビや映画を見て思うことが一夏にはあった。

もし自分が命の危機に瀕したらどんな事を思うのだろうかと。

今まで誰かが助けに来てくれると分かっていたからこそ感じられなかった事だが、もし誰の助けもなく、本当にたった一人となってしまった時、自分はどう思っているのだろうか。

 

誰も助けに来なかったことを恨むか。

それとも自分の運が悪かったと悲観するか。

それとも、これが自分の最期か、と呆気なさに呆れるか。

 

もしかしたら、それすらも思う時間も無いのだろうか。

 

 

 

 

 

 

だが。今は少なくとも、そう思える自分が居た。

 

 

 

 

 

「―――――誰だ?」

 

 

 

 

「…さて。誰だろうね」

 

 

音もなく消された電気に気付きスイッチがある方に振り向いた。

そこには見慣れない男が一人、土足のまま立っており自分のことを見つめていた。

気だるい顔と無精ひげを生やし、風変わりな緑の服を着る。そして右手には一本の槍が携えられている。偽物や玩具ではない、正真正銘の本物だ。

それぐらいは素人である一夏にも一目でわかる。

 

だが問題はどうしてそんな人間がここに居るのかだ。

玄関の鍵もかけていたし、何より足音も気配もなく現れたのには不気味さを感じてしまう。

そしてそんな彼が、どうして自分の事を見ているのだろうか。

 

 

「―――――。」

 

「イキナリ来ちゃってゴメンね僕。けど、これオジサンの仕事でね。そこにある箱を取って来いってウチの上司がうるさいんだよねぇ」

 

「箱――――ッ…!」

 

「安心しなよ。オジサン、そこまで人殺しでもないから。僕が大人しくそれを渡してくれたなら、オジサンの上司に死んじゃったって嘘ついておくからね。命は保障するよ?」

 

「ッ…イキナリ人の家に上がり込んどいて、それはないぜ…オッサン」

 

「…ま。そりゃ当然だな。けど仕方ないだろ? オジサンこういう身なりだし。変人扱いされてお縄になるのはゴメンだからさ」

 

「今から俺がそうしてやろうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――出来るのなら、な」

 

 

終始余裕気というより軽い話し方をしていたが、一夏の言葉に敵意と反抗の意味を受け取ったのか、彼の纏う空気が変化するのを感じられた。

今まではまだ剣を収めていたが、今は剣を抜いて臨戦態勢、と言った感じだろうか。いずれにしても、今は少しでも言葉を間違えれば確実にあの男に殺される。

 

「オジサン、こう見えてこの槍使うのは得意なんでね。その気になれば僕を軽く串刺しなんてできるのよ」

 

「―――。」

 

「だけど。そんな事をして大事になるのもゴメンだから、こうして交渉しているってワケ。分かる?」

 

先ほどと話し方は変わらないのに、この寒気と怖さはなんだろうか。

身震いを感じていた一夏は全身に力を入れて恐怖に抵抗するが、それでも体が正直なせいで震えは止まる事はない。

それでも一夏は必死に抵抗するため、最後の勇気を振り絞る。

 

 

「…もし、断るって言ったら?」

 

 

 

「――――――残念だけど………死んでもらわないとね」

 

 

 

 

気配が変わった。そして、足を強く踏みしめた。

 

 

 

 

「―――――そうかよ…!!」

 

 

刹那。それが全てへの返礼であるかのように一夏は箱を持って逃走を図ろうとする。

初めから箱を渡す気など毛頭ない彼は、せめてそれだけでもと最後の抵抗に出たのだ。だが、当然槍を持った男はそれを使って殺しに来る。彼の顔に、それを偽るという気はかけらもないのだ。

 

「―――残念」

 

強く踏みしめた一歩をロケットのように踏みけり跳ぶ姿を見て、背筋から全身に掛けて死への恐怖と冷たさが伝わっていく。

あれが本当に人間なのかと疑ってしまうが、現実そうして襲い掛かってきているのだ。

 

 

「むんッ!!」

 

槍で突いて来る。しかもその速さは並ではなく、高速ともいえるような速さで正確に一夏の急所を狙いに来ていた。

最初から殺しに来ていると当然の事を考えながらも自分の命が危機にさらされているとようやく頭と体が認識した時、冷や汗と共に体が無意識に動き自分の命を最優先に半身をひねって避けていく。

 

「ッ―――――!!!」

 

 

僅かに足に掠った感覚があったが、それで死ぬという事はないだろう。

まだ生きているという実感。それだけがあれば十分だと、逃げた勢いで壁に激突した一夏は痛みが全身に響きながらも、それを鞭にして体を動かし箱を持って逃げ続ける。

それよりも速く男は動き、直ぐに槍を抜くと今度は足を落として動きを止めようとしたが、若干床が滑りやすかった事で彼が滑ってしまい、それが間一髪触れずに避けきってしまう。

 

「逃げるのだけはうまいなぁ坊主」

 

「ッ…」

 

優勢であるからか余裕げな顔をする男の表情に苛立ちながらも、一夏は箱を持って逃げ続ける。

これだけは守らなくてはいけない、という使命感に突き動かされ

そして。不思議とそうしなければいけないと無意識に思ってしまっているのだから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠たげだった彼女の顔の近くでバイブ音が響く。顔を伏せて仮眠をとっていた千冬は手に持っていた携帯が震えているのを感じると、体温でほんのりと温まった机から顔を上げて画面を見る。

長くバイブが続いていることから電話であるのは確かだが、時間が時間なので一体誰なのかと半ば苛立っていた千冬は低い声で答えた。

 

「はい…」

 

『気持ちよく寝ていたようで悪いんだけど、私よ』

 

「何の用だ、橙子…」

 

『単刀直入に言うわ。今そっちに向かっているから直ぐに正門の所に来て』

 

「―――。」

 

突然何を言い出すと思っていたが急ぎのように言う橙子の声に不穏な感じを拭えなかった千冬は眉を細めて寝起きとは思えない様子で問いを投げる。

 

「…何があった」

 

『今、一夏君のところから出て念のために結界のルーン置いてたけど、どうやら反応(・・)があったようなの。ランサーの戦闘も確認したわ』

 

「何っ…」

 

『反応は二つ。恐らくは…』

 

 

携帯のスピーカー一杯に千冬が電話越しに何故だ、と叫ぶ声が聞こえ反射的に耳を遠ざけた橙子は言い訳のようにしか聞こえないが、思う限りの可能性を打ち明ける。

突然の襲撃には彼女も何故と問いたいが、彼女の場合は考えられる事がいくつかあったので冷静な態度を保てていた。

 

「恐らく、私が預けた荷物の中身を連中は知っていた。そうとしか考えられない」

 

『荷物…橙子、まさかお前…!』

 

「…この際だからここでハッキリと言っておくわ。あの中身は魔術協会が喉から手が出るほど欲しい物。

 

『聖遺物』よ」

 

『やはりか…』

 

「けど、だからって協会が介入する口実にはならないし、第一向こうもそこまでの事は関知していない筈よ。なにせ、私が居るからといっても蛮族極東の地で起こった事なんて向こうは知ったこっちゃないんだから」

 

『確かに言えてる。だがだったら誰が…』

 

 

「可能性はいくつかある。同じ極東の魔術師か。聖堂教会か。それとも…」

 

 

 

―――分かるでしょ?

電話越しからでもそう問われているように思える千冬は直ぐに察するといつの間にか職員室から飛び出していた足を止め、自分の右手の甲を見る。彼女が言う可能性、その一つが彼女の手元にあったのだ。

 

 

「…参加者の魔術師…?」

 

『しかないでしょ。サーヴァントを動かすとなると、今回の聖杯戦争の参加者しかいない。大聖杯のバックアップ無しにサーヴァント…英霊が召喚できないのだから』

 

「だがだからと言って何故『今』だ…まだ参加者も揃っていないし。サーヴァントも…」

 

『サーヴァントは一人につき一騎。けどそれは絶対的なものではない。

 

―――特にこの世界では』

 

 

歯を強く噛みしめ、再び歩を進めた千冬は真っ直ぐ正面玄関から正門へと向かう。エレベーターなどを待つ余裕もない彼女は体力を消費するのを覚悟で階段を駆け下りながらも、携帯の向こう側に居る橙子に呼びかける。

 

「いつ着く!?」

 

『待って。今渋滞にハマってる…けど、場所が近いからあと十分…いや七分待って』

 

「ッ…もしこれで一夏が死んだらお前らを恨むからな!!!」

 

『殺させはしないって。それに、彼女(・・)だって向かってるんだから』

 

階段を下り正面玄関に立った千冬は、橙子の言葉に目を見開き疑ったような表情で聞く。

『彼女』というのが一体誰なのか知っているが、あまり信用しきっていないせいで、どうしてもそれが本当なのかと疑ってしまう。

 

―――確かに三年前は助けてくれた。だが今回はどうなるか…

 

「アイツ…クソッ…!!」

 

『苛立ってISなんて引っ張り出さないでよ』

 

「出すか、馬鹿が!!!」

 

怒号を飛ばした千冬は再び走り始め、正門へと向かう。目的はその先で待っている筈の橙子との合流。そして、そこから一気に一夏の居る自宅への直行。

早くしなければと言う焦りが思考を鈍らせ、苛立ちが全身に余計な力を入れてしまう。

更にヒールなので動きも遅く、自分が思っているような速度と安定した走りをする事ができない。今更ながらヒールであった事に後悔した千冬はせめてものなのか愚痴をこぼす。

 

「こんな事ならブーツかシューズにしておけばよかったか…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ランサー…大丈夫かな…」

 

時を同じくして。一夏は未だ箱を持って逃げ続けており、全身には槍でつけられた傷が至る所に刻まれていた。足や腕だけでなく、頬や耳。そして脇腹などにも。

しかしそれでも動くことに支障がないので、肩で息をする体であっても無理やりでも動かし男から逃げ続けていた。

 

「くそ…アイツ、槍があるからって舐めてるのかよ…」

 

まるで自分で遊んでいるかのように余裕気な顔と真剣な顔を交えた攻撃に、一夏は自分に戦う術がないからと言って遊ばれていると思い、彼の行動に苛立ちを隠せなかった。だが現実はそういう事しか出来ないほど体力を消耗しており、正面から反撃に転じるという事かできなくなっている。逃げ続けたはいいが体力はない。

そして。彼はまるで追い立てられるかのように、ここに足を踏み入れていた。

 

 

「―――――ガレージ…つっても、俺はバイク運転できないし…」

 

ガレージの中には外出用の軽の自動車が一台と予備のバイクが一台(千冬が一夏を乗せようと買った物)。そして、それに関係する物や倉庫代わりとして色々な物が置かれている。

しかし広さは車二台分は入る規模で、恐らく橙子が自分の車を入れるために作ったのだろう。しかもバイクなら四台は入るとのことで、完全に自分の第二倉庫代わりにでもしようとしているという本音が見え切っていた。

 

今はそんな事を考えている暇はない。たった一人ガレージの中に逃げ込んだ一夏は、もしあの男が来たらどうするべきかと考え、その場に何があるかと必死に探し回る。

 

「修理工具…ダンボールの中は何があ…これ、非常食か…」

 

その他、オイルや予備のタイヤなどかあるが目ぼしい物は何一つない。しいて上げるなら修理工具が武器にでもなりそうだが、槍に対していくら鉄であっても長さが足りない。投げるにしても弾かれたらそこで終わりだ。

 

「そう都合よく鉄パイプとかはないか…」

 

自分の運の無さに悲観するが、今はそんな事を考えている暇はない。直ぐにでも男が襲ってくるはずだと、頭の回転が鈍くなっていくのに焦りながらも抵抗の策を考え続ける。

だが。ガレージのシャッターが変に開けられる音を聞き、彼の焦りと恐怖は頂点へと昇り出した。

片手で強引に開けられた鉄のシャッターの向こうから男が槍を持ってまた現れたのだ。

 

 

「な―――」

 

「お。見っけ。どこに行ったのかって思ってたけどやっぱりココだったのか。オジサン探してたんだよ?」

 

「アンタ…一体…!?」

 

シャッターを片手で軽々と開けることなど、もう人間としての域を超えている。槍さばきにしても、動きにしても本当に人間かと疑う事はあったが。それが今になって本当に信じられなくなってしまった。

 

「それは僕がその箱を渡してくれたら…教えてあげなくもないよ。まぁ…ここまで逃げたんだ。

覚悟はできてる…よな?」

 

「ッ―――――」

 

男の目の色を見て一夏は察した。この男は何を言おうと自分を殺す気だ。

あの時に逃げた自分を見て、既に男は彼を敵とみなしていた。だからこそここまで追い込み、確実に殺そうとしている。最初に出会った時に簡単に殺せたのではないかと思うが、今の一夏にそこまで考えられる余裕も力もない。

虫の息ではないが体力も殆ど無く、体中に傷がついて動きを更に鈍くしてしまう。

 

「くっ…!!」

 

最後の抵抗に出る。ここから再び逃げるため、もしかしたらという可能性のために一夏は最後の行動を起こす。

箱の蓋を開けて男へと投げつけ、その直後に外に逃げ出そうとする。

 

 

「開けてくれてありがとうねッ!」

 

槍が木の箱を突き、更にそのままの勢いで一夏の左胸へと飛ばしていく。長方形の箱で見えないというのに、攻撃に迷いはなくそのまま彼の心臓を抉ろうとしていた。

 

「ッ………!!」

 

しかし逃げるために身を屈めていた事が幸いし攻撃は肩を掠る程度で済んだ。また一撃を回避できたと安心した一夏はそのまま逃げだそうと男の横を通ろうとしたが、槍が外れた事に気付いて男は行動を先読みし足を振るって彼の逃走を阻んだ。

 

「あがっ………!」

 

「避けるなぁ…どうなってる?」

 

蹴り飛ばした相手を見て男は不思議そうに顔をしかめる。槍さばきには自信があったようで、その攻撃の殆どが悉く外れていたのだ。

最初はただのマグレかと思っていたが、ここに来てそれが疑問として彼の脳裏に浮かび上がっている。

 

ただ運がいいだけ?

それとも何かあるのか?

 

男の脳裏ではどうしてなのかという可能性を考え、その傍らではゆっくりと一夏に近づいてトドメを刺そうとしていた。

 

 

「―――ま。それももう終わる事かね」

 

何にしてもここで終わる命だ。あとで分かったとしてもそれはもう終わった事。気にする事でもなくなるだろう。

男は槍を構え、今度は確実にと一夏の心臓にしっかりと狙いを定める。

 

「箱の中身は…飛んで行っちまったか」

 

後で探すのが大変だな、とこの後の事を考える。

しかし。それを正面から見ていた一夏は、彼の勝手すぎる考えに怒りを震わせ、全身に力を入れてぼやける男の姿を見ていた。

 

まだ生きている。まだ死んでない。

 

だが、これから死んでしまうのかもしれない。

 

もう殺されると確定した事に怒りを感じたのではない。

自分が殺されることに理不尽を感じたのでもない。

ただ無力な自分に、一夏は悲しかった。

 

 

 

姉に助けられ、小さな約束も守れず、戦うだけの力も自分を守れるだけの力もない。

ただの荷物。そう。自分はただの足手まといだ。

 

 

それが一夏には悲しかった。

せめて。せめて、何かひとつでも。彼女たちを守れる力があればよかった。

守れる力さえあれば。もしかしたら誰か助けられたのに

と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ざけるな」

 

 

「ん…?」

 

 

「…ふざけるな―――」

 

 

それは自分か。それとも男か。

どちらに言ったのかも分からない言葉。

しかし。一夏はそういう事しかできない。

 

そう言わなければいけないと。誰かに突き動かされるように。

 

 

 

「助けてもらったんだ…

 

 

 

助けてもらったからには、そう簡単に死ねない―――」

 

 

 

 

 

 

かつて。そう言った男が居た。

 

 

 

 

 

―――俺は生きて、義務を果たさなければいけないのに、死んでは義務が果たせない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「守りたい人が居るのに―――守りたいものがあるのに―――俺はこんなところで死にたくない―――――」

 

 

 

 

 

 

 

―――こんな所で意味もなく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平気で人を殺せる…お前みたいな奴には―――――!!」

 

 

 

 

 

 

鏡のように。しかし鏡のようではなく。

だからこそ人は人である。

 

 

例え目的が違っても。

理想が違っていても。

 

 

 

 

 

 

 

彼女(・・)はそれに応えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風が巻き起こり

 

光が発せられ

 

力は呼び覚まされる。

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後のサーヴァント―――――!?」

 

 

 

槍を構えていた男は咄嗟に守りの構えをとって奇襲の攻撃を防ぐ。

それは男だけではなく、一夏も驚いており、目の前に起こる現実を唯々見つめることしかできなかった。

 

 

 

金色の髪を風に揺らし、青と銀色の騎士甲冑を纏う。

両手には先ほどの男を飛ばした筈の武器が握られているはずだが、その姿はない。

だがその構えは。紛れもない剣の握り方だ。

 

 

 

 

 

「――――――――――。」

 

 

 

風が一夏の体を通り抜けていく。

それは今まで感じたことのないほど、透き通ったものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――問おう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたが私のマスターか」

 

 

 

それが。一夏と彼女(サーヴァント)との初めての出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ます、たー?」

 

 

突如現れた少女の第一声。それは問いだった。

一夏がマスター、すなわち主であるかという問いだ。

だが彼はそんな事は分からず、何故そう問われたのかも分からない。

それでも彼女は淡々と一人言葉を続けた。

 

「サーヴァント『セイバー』。召喚に応じ参上した。マスター、指示を」

 

 

少しずつだが頭の中が整理され、次第に状況がつかめて来たが、やはり彼女の言葉がどういう意味なのかは分からない。

だからこそ疑問を口にしてしまう。

 

 

「お前…一体…?」

 

「………私は―――」

 

 

 

 

「なるほど。君が最後の一枠…セイバーのサーヴァントか」

 

 

頭を撫でながら立ち上がる男に、セイバーと呼ばれた少女と一夏は目を向ける。

傷などはないが、突き飛ばされでもしたかのように立ち上がる姿はちゃねっけでもありそうだが、状況からして一夏も笑う気は毛頭ない。

ただまだ平気なのか、と戦慄するばかりだ。

 

「…とんだ貧乏クジを引いたな、俺も。その身なり、相当の剣士だと見たけど」

 

「…それはこちらもだ。召喚から直ぐの初撃をああも簡単に防いだのは二人目です。ランサー(・・・・)のサーヴァント」

 

「えっ…『ランサー』…!?」

 

「ハハハハハ。どうやらオジサンよりも強いサーヴァントと以前、戦った事があるようだね。こりゃあ流石に参ったな。イキナリ嫌な相手と対峙してしまった…」

 

「それにしては随分と余裕だ。勝算があるとでも言いたいのですか?」

 

 

「――――――『無い、訳ではない』。オジサンも一応はサーヴァントだからね。場数はちゃーんと踏んでるさ」

 

「…なるほど。なら、そのような相手には早々倒れて貰わなければなりませんね」

 

 

セイバーはある筈のない剣をしっかりと握りしめ、再び目の前にたつ男『ランサー』との戦闘に臨む。だが、その前にと彼女は後ろで倒れている一夏に声をかけた。

 

 

「マスター。恐らく貴方はこのイキナリの状況に把握しきれていないのでしょう」

 

「え…」

 

「ですが安心して下さい。私は貴方の味方だ。その手にある令呪が、その何よりの証拠だ」

 

「令呪…」

 

「今はそこに居てください。私はあのランサーを倒します…!」

 

 

「ッ…ま、待ってくれセイ―――」

 

刹那。セイバーは飛び出して行き、夜空の下で槍を構えるランサーとの死闘に入った。

ジャンプしてからの切り落としに始まり、それを回避して槍で突く。

だがそれを素早く見切り、見えない剣で懐へと入る。軽々と見切られた攻撃に男は焦るが直ぐに牽制でセイバーとの距離を取り、再び間合いを取る。

 

「ッ―――」

 

「――――――シッ…!!」

 

小さく舌を鳴らして再び肉薄する。が、今度はさせまいと槍を振るう。

それを剣で返し、また槍を鞭のように振るってはじき返す。

ただそれだけだというのに、攻撃と防御はまるで機関銃のように一秒で何十回と行われる光景は、一夏の目では追うのでやっとだ。

 

「ッ…!」

 

 

「はあっ!!」

 

力を入れたセイバーの剣が槍を弾き飛ばす。男の顔は先ほどまではなかった苦の色を見せており、それを見た彼女は一気に畳みかける。

一瞬の内に逆手に剣を持ち替え、見えないこととリーチが読みにくいのを利用して首を狙う。

しかし間一髪、男は頭を後ろにまげて回避し僅かに髪が切られた程度で済んだ。一瞬の判断と彼の運が、首の皮一枚を繋ぎ止めたのだ。

 

 

だが。セイバーの攻撃はそれで終わりではない。

逆手に持ち替えた剣を手の中で滑らせて再び握りしめる。先ほどまで柄の部分だったが、元に戻したという事は今、彼の目の前には剣の刃があるという事だ。

 

 

「くっ―――!」

 

このままではやられる。そう見た男は突然飛び上がり、セイバーから少し離れた場所に着地する。

着地した時の顔を僅かだが見られた一夏は、先ほどまでの余裕さが消えて真剣な眼差しとなった男の顔に驚くとともにセイバーの強さに目を奪われた。

 

「―――『仕切り直し』か」

 

「…見えない剣…何者だ」

 

「ほう…セイバーであるからといって必ずしも剣しか持っていないという事はないぞランサー。『英霊』によっては剣だけではなく、槍や斧、盾だって持ち合わせていたりもする。それに、戦車もありえるぞ?」

 

「戦車はないだろうけど…槍や斧であることもないだろうね」

 

当然の返しに表情ひとつ変えないセイバー。あれだけの剣劇をしたというのに、彼女は息を荒げるどころか汗の一つもかいていない。それどころか、あれがまるで歩いていただけであるかのように平然としている。

 

「見えない剣を持つ女剣士…聞いたことがないな…お嬢ちゃん、どこの英霊だい?」

 

「さて。もしかしたら貴様とは近しい時代かもしれんし、近い国の英霊であるかもしれんぞ」

 

「―――――ま。そう簡単に話てくれないよね」

 

 

ランサーは本気でその問いに答えてくれると思っていたのか、セイバーの返答に諦めたような顔で溜息をつき構えを解いた。ゆっくりと下げられた槍を見て、セイバーはだまし討ちかなにかを警戒したが、ランサーの目線と様子からその可能性が少しずつ薄れていき、本気でそうなのかと彼の行動を疑ってしまう。

 

「貴様…!?」

 

「しかし…まさかこうなっちゃうなんてねぇ。オジサン上司に怒られちゃうよ」

 

「ッ…」

 

「残念だけどここまでだ。セイバー

俺の命令は「聖遺物を回収して来い」だ。だがその聖遺物が無い今、仕事はなくなってしまった。それに、その剣と戦うには…今は悪すぎる」

 

「えっ…」

 

「逃げるのか、ランサー!?」

 

「逃げるもなにも、仕事が無くなったからねぇ。それだけでも報告はしないと」

 

後ろを振り向いたランサーに戸惑いを隠せないセイバーだが、当人は本当に撤退しようと軽く挨拶なのか手を振ってどこかへと消えてしまった。

最後に跳んでいくような体勢で消えていった姿を見て、セイバーは口を開けたままどこへと去って行ったランサーの見るように、しばらくそこに立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく…こんな事なら事務所に戻ってハーレーでも持って来ればよかった…!」

 

「今更戻っても仕方あるまい。それよか基準速度は守れよ!ここで捕まるのだけはゴメンだからな!」

 

荒々しい運転で一般道を爆走する橙子は千冬を回収して急いで彼女の自宅へと向かっていた。

基準速度を守った運転とはいえ、本当にそうなのかと疑ってしまうがどういう魔術なのか速度はギリギリで守られており、まるで暴れ馬であるかのように道路を激走する。

 

「ぶっ…橙子、お前本当にしょっ引かれても知らんぞ!!?」

 

「気にしなさんなって。これ一応守ってるから」

 

「だからってなぁ…!!」

 

まさか映画さながらに車の間をすり抜けて通っていくとは思っていなかった千冬は、突然現れては前やら後ろやらを通らせてもらった車に心の中で謝罪していた。

恐らく許してはもらえないだろうし、何時かは誰か警察に通報するだろうと、あとになって絶対起こるだろう事を予想して、今は隣でハンドルを切る彼女の運転を信じていた。

 

 

「―――――本当は、お前にこんな事をさせたくは…」

 

「千冬。望む望まないも…これはもう起こった事だ。諦めなさいって」

 

「だがな…!!」

 

 

「ッ―――」

 

 

刹那。橙子は何かを感じ取ったのか口を止めて片手で千冬を制する。

そして、なにか分かったとぽつりと呟く。

 

「…撤退した?」

 

「なんだって…?」

 

「兎も角。今は戻ることが先決よ」

 

 

 

それを最後に橙子は再び黙り込んでしまい人気の少ない道路へと入っていく。

その隣で千冬は彼女が言った言葉にどういう意味なのかと、同じく前を向いて一刻も早くつかないかと心の中で急いていた。

 

(――――――何が起こっている?)

 

 

 

一体なにがあったのか。何が起こっているのか。

それが彼女にとって予想外の事であっても、今はその場へと急ぐだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――始まるのだな。聖杯戦争が」

 

 

 

 




次回予告


「それではイチカと…ええ。私としてはこの方が好ましい」


「単刀直入に言えば、君はある儀式に参加させられた」


「やるもやらないも自分次第。決めるのは君だ」


「貴方のその剣は………ああ…そうなのですね」


「それで良いんだな。一夏」

「…ああ。これでいい」



次回 「集結」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。