IS×Fate - No Limited War - 作:No.20_Blaz
完全オリジナルというストーリーなので運びはかなりグダグダになります。
自分はそういった経験がないので…(汗
ですがISやFateの中で行われたイベント等も拾い上げていったらなぁと思います。
それと、ここで先に言っておきますが一応ISのメインヒロインたちはちゃんと出ます…
ただし出番の回数については…かなりアレです…
また設定にも原作や元と違い若干アレンジ等が加わる可能性もありますのでその時はご了承を。
それでは、第三話をお楽しみ下さい。
あ。あと今回メチャクチャ長いので注意して下さいッ!
サーヴァントにも一定の自由というのは存在している。
その中のひとつに、サーヴァントの元の姿とマスターに支給されたり自ら着替えたりすることで衣類を自由に着かえることも出来る。
彼らの中にはある事情から一般的な目から風変わりであると見られやすい服装をしている者も多くいる事から、比較的自由が許されている場合、そうして服を着替え外出することもある。
それによってサーヴァントによる現地の情報収集や「聖杯戦争」の時に地形を理解し、それを活用することも出来るからだ。
だが、それはあくまでそう言った自由を許すマスターであればの話だ。
少なくとも。彼女のマスターもその一人なのだろう。
「ッ…やはりこれが限界ね…」
屍食鬼に守られて立つアサシンは、眼前の光景に口をゆがめる。
彼女の周りには六体ほどの屍食鬼が護衛についており、そのほかの二十体前後がランサーに向かって襲い掛かっていた。
しかし、あれから五分ほどしか経っていないというのに、既に屍食鬼の数は護衛を入れて八体ほどにまで減少し、残る全ては彼女によって切り伏せられてしまっており残るのが全て全滅するのも時間の問題だった。
「やはりアサシンだからかしら…それとも…」
「―――――。」
目の前に立つランサーは一槍の槍を構え、その刃を屍食鬼とアサシンに向けている。
宝石かなにかのように輝く薄い紫の槍は刃の部分がハート形になっている。女性らしいといえばそうなのだろうが、同時にその見た目だけに並みならぬ重量を感じさせる物だ。
「とはいえ、やはり正面からというのは私の性には合わないわね」
「…退くのですね」
ええ。と軽く答えたアサシンはまた軽く杖を振るう。それが命令なのか、屍食鬼たちは戦闘態勢を解き、最初の現れた時のように腕をだらけさせた。
ランサーもアサシンが戦う気がないと分かった今、構える必要がないと判断し槍をゆっくりと下げる。ズッ、と重たい音が響き、改めて槍の重量感を感じさせた。
「私はアサシン。貴方たち『三騎士』クラスとは正面から戦えるほどの力は持ち合わせていないわ」
「―――――。」
「これは挨拶。そしてあなた達への宣戦布告よ」
「やはり…そうなんですね…」
「ええ…『聖杯戦争』。その前哨戦よ」
アサシンが言った言葉に眉を顰め口を強く締めた。ランサーは彼女の言葉に偽りはないと確信し、今はその言葉だけをしずかに受け入れていた。
敵であるアサシンが戦う気を無くしたというのは事実だ。しかし彼女もこれで全力を出したとは言えない。序の口にも満たすかどうかだ。
「―――――貴方は…」
屍食鬼たちを下がらせ一人だけとなったアサシンに、ランサーはひとつだけ問いを投げた。
「貴方は、何故この戦いに?」
「…そうね。強いて言うならば…私はこの渇きを満たしたいだけ、かしらね」
不思議とだがランサーにはその言葉を理解することはできなかったが、共感することはできた。
彼女が求めるもの。それは形あるものではなく、自分の中にあるものなんだと。
アサシンはその言葉を言い残すと青い膜のようなものを纏って消えていった。
彼女が退いたのだと、ランサーは小さく息を吐く。これで敵は消えた。あとは
そう思っていた瞬間だ。
「ッ―――!!!」
―――誰かが現れた。
感覚だけで確かなことは分からないが、ランサーの中でそう感じられて気配のする方へと振り向いた。
そして自分が今まで戦いに集中していたことから、ようやく感じ始めた気配や力に気付き始める。
もう一体のサーヴァント。
そしてその近くに居る青年。
そしてそこに現れたのは
「一夏ッ…!」
◇
一夏はただ茫然としていた。
あの一つの嵐が去った後に残ったのが荒れた自宅と傷ついた自分。そして一人の少女だからだ。ただ立ち尽くす一夏は少しずつだが全身の回復に落ち着かせ始め、呼吸を整え、視界に映る光景を認識していく。
一体なにがあってどうなったのか。そして今の状況は。
冷たい夜風が吹いて火照った体を冷ましていくのと共に、彼の頭の中が少しずつだが鮮明になり動き始めた。
自分はあの男に襲われた。
そして箱を守るために逃げ続けた。
そして、その中で彼女と出会った。
自分の命の危機に颯爽と現れた騎士
サーヴァント、セイバーと
「―――退いたか」
敵である男、ランサーが撤退したのを確認したセイバーは力んでいた肩を下ろし警戒心を少しだが緩める。
これで少しは大丈夫だろうと安心するが、まだ不安要素が全て取り除かれたわけではない。
それでも今はとセイバーは立ち尽くしている一夏の方へと顔を振り向かせ近づいた。
「ご無事ですか、マスター」
「え…ああ…」
「…それは何よりです。あのランサーの襲撃からよもやそこまでの怪我だけで済んだとは…魔術か何かを使ったのですか?」
「え…魔術…いや。そうじゃない…」
「………?」
首をかしげるセイバーに、一夏はどうすればいいのかと頭を掻いて整理するがそれでもまだ疑問だったりどういう事なのかと分からない事などが多く、頭の中も正常に機能しない。
一体なにがどうなっているのか。何を訊けばいいのか。
その何もかもが分からない状態でこんがらがった頭を振り回す彼の姿に、セイバーは冷静なまま理解する。
「…なるほど。マスター、貴方は今の状況全てが分からないという事ですね。状況も、襲撃した相手も。その理由も。そして、私が突然現れた理由も―――」
「お前が俺の事をマスターって呼ぶこともだ。色々とワケが解んねぇ…」
「…それは仕方ありませんね。見たところ貴方はこの突然の出来事の所為で、何がどうなっているのか、それすらも分からないのですから」
「ああ。丁寧な説明ありがとう………兎も角ッ」
僅かに怒りを交えた声で一夏はセイバーと目を合わせる。
金色の髪にエメラルドのような瞳を持つ彼女は、さっきの男と戦った時とは違い優しい顔で見ていたため、その端麗さに少し頬を赤らめた。
「先ずはお前…というか君が誰なのか教えて欲しい。それとマスターってどういう意味だ?」
「…分かりました。まずはそこから説明しましょう」
自分の右手を左胸に置き、挨拶をするような姿で自分の名を名乗る。
その姿には慣れと気品があり、まるで絶対に礼儀を守って接せねばならない相手ではないかと思うほどの雰囲気だ。
「先ほども申しました通り、私はセイバーのサーヴァント。言うなれば使い魔の類です。
そして、その私を召喚し主となったのが貴方です」
「…召喚って…俺が?」
「ええ。その証拠に貴方の右手の甲をみてください」
「え…ってなんだコレ…!?」
今まで気づかなかった一夏は自分の右手に刻まれた痣のようなものを見て驚く。
彼の手には今日の朝になかった赤い紋様のようなのが刻まれていたのだ。
曰く、それが彼女と自分がマスターとサーヴァントである証『令呪』であると言う。
「令呪は一人につき三つ。つまり、三回は使用することができます。ですがその三度目を使えば令呪は消滅。サーヴァントとの縁は切れてしまう事になりますので注意して下さい」
「…へぇ…これってそんな力があるのか」
「使い方は様々です。例えば私の能力を強化したい時や私を遠くから呼び出したり、逆に飛ばしたりする事も可能です。それに、場合によってはマスター自身に使い事も可能です」
「俺に…?」
「そうです。ですが、先ほども言いました通り令呪は三回まで。あと令呪を使用する場合、明確な命令を言わなければ無駄遣いになってしまいますので、そこも気を付けてください」
セイバーからの説明に一夏は関心の声を出しながらも令呪を見つめる。
一本の剣と羽。剣は柄の部分で割られているのでそこで分割されているのだろう。
赤い血の色のような証を見つめながら、彼は少しずつ落ち着いてきた思考の中でいくつかの確信を得る。
一つは自分が襲われたのはあの箱の中にあった鞘であるらしいという事。
そしてその中で自分は偶然、セイバーを召喚したという事。
そのセイバーが男を撃退した事。
そして。セイバーが自分のサーヴァントであり味方であるという事。
何にせよ、一夏は今自分が生きているのだというのが最大の収穫だった。
「取り合えず、これで納得していただけたでしょうか」
「…ああ。まだ少し知りたいこともあるが…取り合えず、セイバーは俺の味方…なんだよな」
「はい。それは確かな事です」
「そっか。なら…」
「マスター…今はとりあえずこの状況をどうにかしましょう」
「だな………って、セイバー?」
話に微妙な食い違いがあると彼女の顔を見て感じた一夏は、まるで話を聞いてなかったかのように言い出した言葉に再び焦りを見せた。
「どうやら向こうでもサーヴァント同士の戦闘があったようですが、勝利した方がこちらに向かってきています。私が迎撃しますのでマスターは下がって」
「もう一人、サーヴァント…ってまさか…!!」
一夏は直ぐに脳が見せた光景と言葉に理解する。
彼女の言うもう一人のサーヴァント。それがもしあの時の話と一致すれば、それは彼にとって最悪の事実なのだから。
「待て、セイバ―――」
しかし僅かな差でそれは叶わなかった。
屋根の上から突如として現れた影が、一瞬にしてセイバーに肉薄しその得物を突き落とした。
衝撃の風が吹き荒れ、砂煙が辺りに巻き散っていく。同時に地面のコンクリートが抉れる音が聞こえ、破壊された音よりも彼はその場に居たであろう彼女の安否を気遣う。
だがそれを無駄にするかのように彼女は無事で僅かに跳んで距離を取っていた。
そして、着地して体勢を整えると片足だけで地面を強く蹴り襲撃者に反撃する。身を屈めて懐に入ったセイバーは剣を振るいあげ上半身に当てようとするが、相手がそれを紙一重で回避。身をひねりつつ距離を取り、得物が使いやすい間合いをとって牽制に転じた。
二人の得物。剣と槍が弾かれあいそして響き合う。ぶつかり合うだけで鉄の音が鳴り響き火花が散る。
先ほどよりも動きは見えやすくなっているが、確実に急所を狙うという殺気が以前よりも強くなっていた。
「あ…ま…」
何を言えばいいのか分からない一夏はただ目の前で行われる殺陣に手を伸ばすことしかできない。
だがその間にセイバーは相手の槍の突きを剣で防ぎながら一気に距離を詰める。剣を弾いた筈だが彼女が強く握り詰めていたのが幸いし刃同士がぶつかり合って振動が骨を伝う事以外に大した損傷はない。
剣で防ぎ間合いを詰めたセイバーは好機とみて一気に『決め』に行く。槍を剣で伝い、その槍の持ち主へと切り落とす。
槍の間合いから懐に入られた今、もう
これで勝った。そう確信した
その刹那。
「待ってくれ、セイバーッ!!」
「ッ―――――!!」
―――やめろ、セイバーッ!!
一瞬、脳裏に蘇った光景と声に全身が緩んだ。
そして。二人のほぼ真上から、新たな乱入者が二人の間へと割って入る。
「フッ…!!」
「ッ…!!」
「ッ……!」
互いに地面を蹴り後ろへと下がると、二人の居た場所には上から重力に引かれ落ちて来た男が二本の剣を交わっていた場所に振り下ろしていた。先ほどまでとはいかないが、地面は抉られ二本の剣が土に突き刺さる。
地面に足を滑らせ、勢いを殺すセイバーはようやく止まった刹那、そこに居た男の姿を見て目を見開く。
「な―――」
そして、もう一人の槍使いは乱入者である彼を敵とみなしてか地面に足を付けると勢いをそのままに体をひねって数歩土を蹴って詰め寄っていく。
再び槍で攻撃しようとしていた瞬間、彼女の目の前に一枚の紙が飛ばされ、そこから冷たく鋭い氷が湧き出た。
「ッ……!?」
それを最後に戦闘はぴたりとやんだ。
突然現れた男は地面に顔を向けてしゃがんでいたが、やがて剣を抜き、ゆっくりと立ち上がると低くも聞こえる声で自分の両端に立つ彼女たちに呼びかける。
「―――双方、そこまでだ」
また敵か? と新たに現れた男に警戒する。
後ろ姿だけではあるが、髪は白く肌が浅黒い。そして赤い外套を身に着け、立ち上がった時には二本の白と黒の剣を握りしめている。あれが男の使う武器なのだろう。
「悪いが。これ以上ここでの戦闘は一般の人間に勘付かれる恐れがある。もし余計な事になりたくないのなら、武器を収めることだな」
命令口調で話す男は一度も振り向かず、顔も動かさずに言い放つ。
まるで自分がこの中で最も強い、と強者であることを知らしめているかのように話す口調は一夏には到底納得できず信用もできなかった。
もし言われたのが自分だったら絶対に反論の一つでもしているだろう、と。
だが実際はどうか。両端に立つ二人はそのまま硬直しており、彼のいう事に従うべきかどうかを決めあぐねている。
そして。特にセイバーは何に驚いているのか、目を大きく開いて息を飲んでいた。
「―――――ま、まさか…あなたは…」
セイバーの戸惑いの声に男は小さく口を釣り上げる。
今まで動くことのなかった顔は動き、彼女の方へと向けられると今まで見えなかった黒い瞳を彼女の瞳と合わせ言葉を出した。
「―――――久しぶりだな。あの時以来か、セイバー」
「―――――
浅黒い肌の男、アーチャーはそう呼ばれると、フッ、と小さく微笑んだ。
「ッ…セイバー…」
「………。」
一体どうなっているのか分からない一夏はとりあえずとばかりにセイバーの名を呼ぶ。するとようやく落ち着いたのか険しいのままの顔だが彼女が一夏と顔を見合わせる。
それを見てアーチャーは今度はふん、と息を吐いて一夏のほうへと首を動かす。
「なるほど。それが次のお前のマスターか、セイバー」
「…マスター…私は…」
「ッ…」
「まぁいいだろう。取りあえず、今は双方武器を収めろ。でなければ、これ以上は厄介ごとにしかならんぞ。
それはお前の主とて同じ考えのハズだ『ランサー』」
「………。」
未だ警戒を解かず険しい顔のままアーチャーとセイバーを見つめるランサー。
その姿は先ほどまで一夏が見ていた彼女の服装そのものだ。
だがそれとは違い、今は彼女の右手には一槍の槍が握られている。それは一夏も見たことのないもので、あれが本当に彼女のものか。そしてアレを持つ人間が本当に自分の知る『ランサー』なのかと疑いたくなった。
「ランサー…」
「…一夏、これは―――」
憂いた目で見つめる一夏にどうすればいいのかと分からないランサーは気弱な顔で俯いてしまう。
この状況を、この有様をどう話せばいいのだろうか。
自分が持つこの槍を彼にどう説明すればいいだろうか。
戸惑う彼女の姿にじれったさを感じたのか。どこかで小さくため息がつかれ、そして助け船を出すためにと口を開いた。
「―――――取りあえず。まずは色々と話すことがありそうだな」
「え…」
「………。」
「フッ…遅かったな」
「嘘を言うな。見ていたの分かっていただろうに」
突然耳に聞こえた声に一夏は開いた口が塞がらなかった。
彼の考えでは彼女がここに居ること事態予想外であり、どうしてここにいるかのと理解できなかった。
だが実際はそう疑ってしまうような現実がそこにあり、それを実証する人物がそこに居た。
月の光に照らされた青い髪をなびかせ、また少し若さのある顔は笑顔を見せてこう言った。
「―――取りあえず「こんばんは」だな。織斑」
「…風鳴…先生…」
一夏の担任教師である翼が、堂々とアーチャーの隣に立って彼に挨拶をした。
「…おや。マスター、やっと到着したみたいですよ」
屋根の上から聞こえる女性の声に、耳を傾け翼と一夏、そしてセイバーたちは自宅の門に注目する。
向こう側の一般道から聞こえる車のエンジン音とそれが静かになってドアが開かれる。
聞き覚えのある音にまさか、と思っていた一夏はその門をくぐる二人の人物の足音を容易に察することができた。
「無事か一夏ッ!?」
「千冬ねぇ…!」
「ありゃまぁ…こりゃ随分と派手にやられたわね…」
「橙子さん…」
一目先に潜って来た千冬は真っ先に一夏に抱き着き、今まで溜まっていた心配の念を吐き出す。
「無事か? 怪我は大丈夫か? どこも無くなってないよな…!?」
「うっ………だ、大丈夫……大丈夫だから…千冬ねぇ…!」
強く抱きしめられる一夏は息苦しさを感じながらも、本気で心配してくれていたんだなと悲しくも嬉しそうに小さく涙声で息をすする彼女に感謝した。
本当に自分のことを心配してくれていた。もしかしたら死んでしまったのではないかと怖くもなってしまった。
けど、自分の大切な弟はこうして無事でいる。
それだけが分かっただけでも千冬は嬉しい限りだ。
「そうか…よかった…」
「………ゴメン。心配かけて…」
「…お前が無事ならそれでいい…」
「……………。」
まるで自分が死んでたかのような言い方に、一夏は妙に頼られていないような感じに悲しさを感じた。どう考えても彼女の言動と表情が自分が死ぬこと前提であると思えてならなかったのだから。
「…取り合えず。無事だったようね。一夏君」
「はい。橙子さんもありがとうございます」
「いいっていいって。普段のお礼よ」
さて。と言った橙子は自分の横に立つセイバーの姿を見て興味深そうに彼女の姿を眺める。
セイバーは一夏と千冬の雰囲気にどうすればいいかと放心していたが、先ほどの空気を入れ替えるかのように切り出した彼女の言葉によって先ほどまでの真剣な眼差しとなって彼女を見返していた。
「…なるほど。つまり…そういう訳か。そうよね、翼」
「ああ。間違いない」
まるで友人のように話す橙子と翼の二人に不思議そうに見つめる一夏は、離れた千冬が橙子と同じくセイバーを見始め再び外で見る目つきになったのに気まずさを感じる。
だがそれでも一夏は知りたいこともあるし、千冬の問いに答え訊くべきこともある。
今はそのスタートラインなのだと、拳を強く握り自分の意識をしっかりと保たせた。
「…一夏。お前―――」
「………。」
千冬の問いに一夏が答えようとした瞬間。
橙子が張り手のように手を出して二人を止めた。
「ストップ。二人とも」
「………。」
「二人が訊きたい事や話したいこと…取り合えず…
まずは家の中に入らない? 外寒いから」
この発言に翼以下二名が軽くため息をついた。
◇
辛うじてだがリビングの損傷は始めて男と邂逅した刻につけられた槍の刺さった跡だけで、それ以外は殆ど傷は残されていない。
だがそんな事は今の彼らにはどうでもいいことで、翼の呼んだアーチャーを除く全員がそのリビングに集まっていた。
一夏の前には姉である千冬。その右側に橙子。
逆に左側に翼ともう一人のサーヴァント。
そしてその後ろにランサー。
最後に、一夏の隣にセイバーが座っていた。
「…風鳴。アイツは?」
「外の守りに出してますよ。ここに居ても、皮肉を言うだけでしょうし…」
「アーチャーさん、そこがネックなんですよねぇ…だから人付き合いが悪いっていうか…」
「お前は黙っておけ、キャスター」
まるで子どものようにしゅん、と縮こまったキャスターと呼ばれた女性は翼の言葉に従いしばらくは黙り込んでしまう。
千冬と翼の関係も気になるところだが、と思っていたが一夏はそれよりも先に橙子から切り出された話に集中する。
「…さて。じゃあまず、どこから話そうか?」
―――――当然
「全部だ!!!ここに居る全員が知っていること全部ッ!!!!」
机を強くたたき、大声を上げた一夏に隣に居たセイバーは驚き若干身を退いている。
翼も似たように驚いてはあるが、彼女よりも距離があるためか動きは見せていない。だがやはり彼の上げた声のボリュームには驚いたようだ。
その隣にいる千冬は今何時なのかというのを彼が知っているのかと思い頭を抱えるが、それは同時に彼の返答への苦悩でもあった。
そして、最後に翼の反対側に座る橙子はほぼノーリアクション。ただ目を開いた程度だ。
そして、その中で最初に話し始めたのも彼女だった。
「―――わかった。なら」
そういって静かに眼鏡を外し自分の手元に置く。自分の唾が何かが飛び散ってしまったのではないかと思っていたが、そんな甘い考えは改めて目を開いた橙子の前では無意味になる。
「ここから先の話。聞き漏らすなよ、織斑」
冷たく放たれた言葉に彼の背筋が凍る。
いつも見ているような彼女ではない。冷酷で静かな目で、それは彼を確かに人間として見ていたが優しさがあるかどうかで言われれば無いと言いきれる。
それ程までに彼女が纏う雰囲気と空気が代わり、それには同じく初めてそれを見たセイバーも警戒心を上げるほどだ。
「悪いが、ここからはしっかりと答えてもらうぞ。わかったならハッキリとだ」
「…はい」
「…よし。ならまず、今の時点でお前が知っていることを話してみろ」
まず彼女が話してくれるのかと思っていた一夏はその意外な事に面食らってしまうが、すぐに持ち直すと受け売りのように思い出して話し始める。
と言っても、彼が知るのはセイバーが自分のサーヴァントである事と令呪に関しての説明だけ。そして、セイバーが自分の味方である、という事だけだ。
「―――それだけか」
「はい。状況が状況でしたし…」
「…セイバー、お前もそれは間違いないな」
「ええ。間違いはありません」
臆することなく凛とした表情で答えるセイバーに橙子は目を細めて小さく頷く。
そして確認をし終えた彼女は、足の組み方を変えると口元に手を当てて少し考え込んだ。やがてそれが纏まると橙子はまずはと話を始めた。
「そうだな…なら。まずはこれが一番だろう」
「ッ…」
息をのむ。ふざけも何もない真剣な空気のまま、一夏は橙子の口から語られる言葉を受け入れようとその体勢を取る。
それを見てか、橙子も安心して
「まず。単刀直入に言えば、お前はある儀式に参加させられた「聖杯戦争」という儀式な」
「…聖杯戦争?」
まるで古代の戦争であるかのようなワードに思わず復唱してしまう一夏は不思議そうに話しを聞く。
「そう。名前からして何がどういうのか、大雑把にも分かるだろ?
名前の通り「聖杯」を取りあうための戦い。それが聖杯戦争だ」
「戦争なのに…儀式?」
「厳密には聖杯戦争事態は儀式であって、あくまでそれは呼び名のようなものだ」
つまり聖杯戦争はカテゴリーとしては儀式ではあるが、実際はあるものをするために儀式である。というのが翼の口から付け足される。
儀式と言われても生贄の儀式や召喚の儀式。雨乞いも儀式のひとつとして言えることだ。
ただ。それを元にして考えるにしても、それはどうにも明るい話題にはならなそうだと一夏はこの時薄々とだが察した。
「けど、その名前に偽りはない。聖杯戦争とは事実戦いなのだからな」
「…戦い」
「聖杯戦争は七人の魔術師がサーヴァントを使役し戦う。大雑把に言えばそういう事になる…が」
「………?」
「…率直に事実を言う。聖杯戦争は言わば殺し合いの儀式だ」
「ッ…!?」
戦いという言葉が出た時点でただ事ではないのは理解していた。
だが、そうもスルリと簡単に吐き出された言葉には直ぐに納得しろというにも出来ないことだ。
儀式であるというのに殺し合う意味が一体どこにあるのだろうか。それが、現時点で彼が腑に落ちない事だ。
「殺し合いって…!?」
「実際、そういう事になってしまっているからな。だが本当にそうしなければならないのも事実だ」
「そんな…」
絶句する一夏に見かねた千冬が割って入り、また混乱し始めただろう彼の頭の中を整理させ落ち着かせるため宥めを入れた。
「落ち着け、馬鹿モン。信じられないのも分かるが、そこで混乱してしまっては後がもたんぞ」
「後って…まだあるのかよ…」
「具体的なルールと、聖杯戦争の概要をな。と言っても私は直接参加したわけではないからルールとかについては参加経験のある奴に聞けばいい」
「…それって」
一夏が目線を映し、自分の前に座る姉と目を合わせる。
するとアイコンタクトで何を言ったのか、橙子の目から伝わった事に頭を痛めるが、やがて諦めた彼女は今まで左手を乗せていた右手の甲を一夏に見えるようにする。
そこに刻まれていた聖痕。二本の槍が交差し中心にダイヤ型の結晶のようなの形が千冬の持つ令呪の形だった。
「一応、私もな」
「…二人が」
それに連なり自分もと言い出した翼をも見て、一時的にだか言葉を失う。
つまり千冬たちは前回の「聖杯戦争」に参加したマスターであり、殺し合いの戦いを一度経験していると言うことだ。
それを今の今まで知らなかった一夏は、まるで自分だけが知らさせていなかったような孤独感も湧いてきたが、同時にどうしてそれを隠していたのかという疑問と嫉妬のような感情が渦巻き始めていた。
それも千冬にとっては予想済みであり覚悟はしていたのだろう。まるで彼の心を読んだかのように答えた。
「すまない、一夏。だがお前を巻き込みたくなかったんだ…こんな殺し合いの戦いに…」
「………。」
「平気で人を殺し、犠牲にして栄光を手に入れるなど…私には到底出来ることではない。だから…」
「千冬ねぇ…」
「―――察してくれ、とは言わんさ。織斑。だが分かって欲しい。それだけのふざけた戦いがあったという事を」
「………。」
自分でいうのも、と内心では自身への皮肉を言った翼は俯いたまま呟き、またしばらくはと口を閉ざしてしまう。
「大まかに聖杯戦争の概要を言うならば先ほどの言葉がその全てだ。
七人の魔術師であるマスターがそれぞれサーヴァント召喚。
そしてそのサーヴァントを戦わせ、最後の一人になるまで競い合う。
その聖杯戦争で使われるアイテム。それがサーヴァントを従わせる令呪だ」
「令呪はサーヴァントを強化したりできる…ってセイバーから聞いたけど、他にも出来ることが?」
「行動の制約、本人の対応等への有無。重要な手筈を整えた場合その命令を確実に実行させる事。
命令権としても使用可能だが、お前の言う通り能力強化も一つだ」
そして。令呪を三度失えばマスターとしての権利がはく奪される。
これが一夏が聞いた話だ。
だが橙子はその先があるというのを知っておりそれを打ち明ける。
「そして。三度の令呪全てを消費した場合。残されているのは
死だ」
「なっ…」
令呪を使い切った場合、マスターはいくら力を持っていても参加権をはく奪されたので聖杯戦争に復帰することは殆どできない。
なので用済みとなって強制的に除外させられるのではと考えていたが、彼女の口から語られたのはあまりに過剰ともいえる末路と制裁だった。
当然、それには一夏も、どうして。と問う。
「令呪を全て使い終えたのなら、参加権もないし価値がない筈だ…」
「最もな意見だな。だが…」
問題はそこではない。
令呪というのは膨大な魔力の塊ともいうべき物で、それを行使すれば一般的に「魔法」と呼べるクラスの事を行うことが出来る。
転移、強化、絶対命令、服従
そして自害。
そんな夢のような力があと二回、三回と使えるのならどれだけ良い事だろうか。
そして。そんな事を無駄遣いしてしまえばどう思うだろう。
大抵の人間は後悔するのが当たり前だ。そんな夢の力を何も願わずに使い切ってしまったのだから。
更にもう一つ。仮に令呪を全て消費した場合確かにマスターとしての権利は失われる。
そうすればマスターから力である魔力の供給が絶たれ、サーヴァントは例外なく消滅する。そうした場合、聖杯戦争が終盤でない限り生き残ることなど不可能だ。
何故なら聖杯戦争に参加したという事は命を賭けに出す気があるという事だから。もし聖杯戦争で命を落としてしまってもそれは自分が覚悟した事なのだから。
令呪を使い切ってマスターの権利がはく奪されれば、聖杯戦争の中ではただの人間でしかない。それがどんなに偉大な魔術師であっても。その現実だけは変わる事はない。
令呪が無くなったマスターはただの人間。なら、邪魔される前に消したほうが得策だ。
「つまり。事実、聖杯戦争はマスターとなってしまった時点で降りる事は殆どできない。方法は勝ち残るか、死ぬか。それしかない
特に、この世界では」
「…この世界では?」
「聖杯戦争は元々監督役という人間が居てな。一応前回も居たんだが、今回は突発的で尚且つ、元々この世界にある「聖杯」が不安定な事で開催時期はバラバラなんだ。だからもし聖杯戦争が昨日終わったら、次は一年後かもしれないし一か月後かもしれない。場合によっては明日からまた始まるかもしれない」
「そんなバカな…!そんなの最悪の場合ほぼ一年が全て…」
「複数の聖杯戦争が行われる。なんてこともあるだろうな。だがそれはあくまで場合での話だ
聖杯戦争は元々ある程度周期が決まっていて、そこからマスターの準備期間や参加手続きなどが行われる。そして、七騎全てが出そろった時に聖杯戦争は開戦。監督役はその中で不正行為等の監視や聖杯戦争でマスターのみが残された時に保護できるという役割を持っている。それなら聖杯戦争でマスターだけになっても高い確率で生き残る事は可能だ」
「それがさっき言ってた殆どない、生き残る方法…」
「あとは聖杯戦争に勝ち残るか…運よく隠れきるかだ。別にマスターだけが平然と残ってる事があっても大抵は苦渋飲んで保護されるかどこかのマスターに身を寄せたりするかだろうな」
つまり。聖杯戦争に参加した場合、基本的な生存方法は保護されるか終盤で逃げ切るかしかない。最も前者は聖杯戦争での戦いを諦めるかどうかという本人の意思が分からず、最悪本人が続投での参加を希望することだってある。
後者の場合、生き残れる確率としては高いだろうが、それは同時に自分が用済みであることと同義で、尚且つ自身の命は自分で守るほかない。
だがそれで納得できるかと言われれば…
「―――――そもそも。聖杯戦争にそこまで参加する理由ってなんだよ。名前からして聖杯が手に入るっていうのは分かるけど…あれってただの神話の話だろ?」
「…確かにお前のいう事はもっともだ。だがな一夏」
「この聖杯戦争でのたった一人の勝者に与えられる聖杯。それは、言わば万能の願望器だ」
彼女らの言う聖杯は西洋神話で登場するあの不死の杯ではない。
どちらかと言えばアラジンのランプのように三つだけならなんでも願いが叶うという物だ。
巨額の金が欲しいと願えば叶い、絶対の力が欲しいと思えば無敵の力が授けられる。
そして元の通り不死でありたいと願うなら、望み通り不死になるだろう。
「だからこそ、その願望器である「聖杯」を手に入れるため、魔術師たちは野心を燃やして戦う」
「………。」
以前、どこかの本か何かで読んだ覚えがある。
西洋神話の聖杯は、かの有名なアーサー王の時代に作られた話だ。
円卓の騎士たちは聖杯を探し各地に散らばり、そしてその中で三人の騎士が聖杯を見つけ出す。
ガラハット
パーシヴァル
ランスロット(諸説がありボールスとも)
この中で唯一聖杯に触れられたのはガラハットだけで、パーシヴァルは勇気があっても知恵がなく、ランスロット(ボールス)は不倫をしていたため。
辛うじて触れたのが彼という訳だ。
これをこの聖杯戦争に割り当ててみたらどうだろうか。
聖杯を取れるのはたった一人。その中は何か欠けているという事で脱落、つまり死亡する。
殺し合いである理由は無く、それが極端な話になったからだ。
これはある意味選定だ。知恵を振り絞り、力を競い、そして勇猛に時に狡猾に戦う。
その戦いを制したマスターこそが聖杯の持ち主となる。
それがこの聖杯戦争の大まかな内容だろう。
だがそれでも一夏は問いたい。独占欲のない人間なら一度は考えるであろう方法を。
「…聖杯をみんなで分配する…とかはダメなのか?」
「無理だろうな。特に魔術師の連中に関しては絶対に無理だ」
そんな考えをバッサリと切り捨てた橙子の言葉に分かってはいた事だが、いざ言われるとどうにも悲しくなってしまう。
「それに。聖杯は持ち主を選ぶ。お前が言った神話のと同じくな。それが―――」
「七人のマスターたちの殺し合い…」
「………。」
表情が暗く、そして何か嫌な方向に進み始めたと感じた千冬は、その中から一夏を救い上げるために捕捉を言う。どうやら一夏は本気で殺し合いをする、と考えていたようだ。
「待て待て。一夏、お前マスターは絶対に始末されなければいけないとか考えているんじゃないだろうな」
「…違うのか?」
「ッ―――」
「まぁこんなにダークな話を聞いていたら、そっちに吸い込まれますよねぇ…」
本気でそう考えていたのか、と濁りそうな目で見ていた弟の姿に頭を抱える千冬は隣で座っていた説明者に睨みつける。
それには翼の隣に正座で座るキャスターも苦笑するほどだ。
「…あのな一夏。ルール上「マスターは絶対に始末しなくてはいけない」というのは存在しない。無論、聖杯戦争が他言無用の戦いであるのは絶対必須事項だがな」
「…そうなのか?」
「…確かに使い魔であるなら主であるマスターを倒せば手っ取り早いだろう。だが、その場合、何が原因でマスターを殺したことが発覚して厄介ごとになるかもわからん。
なら、魔術を秘匿するという考えを持つ魔術師を生かしたまま、サーヴァントだけを倒すというのも一つの手だ」
「…そっか。ならマスターを殺した場合の処理もないし、他の人に知られる可能性もない…」
更に、この時にさりげなくだが話していた通り。魔術師たちには「魔術を一般の世界から秘匿する義務」がある。
これは今の科学技術が発展した世界で魔術師たちの魔術が現れた場合による混乱や新たな騒乱。そして他の者たちからの介入などを防ぐ理由など様々だ。
「ただし。サーヴァントだけを倒した場合、マスターに令呪が残っているなら当然まだ参加権利は残されている。加えてマスターだけが死んではぐれたサーヴァントが居る場合はそれとの契約も可能だ。
だから大抵サーヴァントだけを先に倒しても後でマスターたちが何等かの行動を起こすかもしれない。だから私の言ったマスターを殺す、という選択肢が現れる」
「けど、はぐれのサーヴァントなんてそう簡単にいるもんか?」
「…いずれ分かる」
「………?」
はぐらかすような言い方で答えた橙子に対し首をかしげる一夏だが、それを問う間も与えずに彼女は最後の話を彼に言う。
「…さて。とにかく私が話せるのはここまでだ。聖杯戦争の事、理解したか?」
「………。」
「織斑。お前がセイバーを召喚した時点で、道は二つしかない。
令呪を全て使い果たし、マスターとしての契約を切るか。
それとも、セイバーのマスターとして戦うか…
お前は、どちらを選ぶ?」
最後に出された質問は一夏の全てを決める最終確認。
マスターとして戦うか。それとも契約を切ってこれまで通りの生活を送るか。
ただ、聖杯戦争というのを聞いたという記憶は残るし再契約をされた彼女がここに残ることになる。
そして、もし二度目の襲撃があれば、次に自分の命は絶対に無いだろう。
「――――――少し、考えさせてください」
今の自分には少し考える時間が必要だと思い。一夏はそう答えた。
◇
あれから一夏からの答えを聞かず橙子は戻ると言い出し、既に玄関で靴を履き終えて外に出ている。だが、そこに千冬が呼び止めに入り、睨んだような細く鋭い目で問いを投げた。
「―――橙子」
「…なんだ?」
「お前。態と一夏に聖遺物を渡したな」
「私がそんな事をするとでも言うのか、お前は」
「…どうだろうな。だが、今回の召喚
「私がアイツに意図的に召喚するよう仕向け、それを確実なものにするために…ランサーともう一体のサーヴァントを差し向けた?」
「ッ…」
先読みをしていたかのように話す橙子に口元を強く締める。
当人は余裕気に上着のポケットからタバコとライターを取り出して火をつけている。そして、それぐらいは予想できるとばかりに冷たい目で言い返す。
「残念だが、三年前にも言った通りだ。私は聖杯戦争に興味はないし、あれは本当にただの依頼の品だ。協会の連中に見つかりたくないと思って一時的にお前のとこに預けた結果、今回のようなトラブルになっただけだ」
「…全て偶然だと?」
「お前が信じられないのも無理はないだろうが、私も信じたくない。こんな出来過ぎた話を誰が信じる」
偶然魔術に知識を持つ人間が居て。
偶然聖遺物を受け取り。
偶然敵の襲撃から逃げ続けた結果
偶然にもサーヴァントを召喚した。
あまりに偶然が並び過ぎている状態に納得がいかないのは彼女も同じだ。だが、その遠因を作ってしてまったのもまた事実。
偶然の中にも自分たちでそうなってしまうという可能性を残してしまった。
「………。」
「だがな千冬。出来過ぎた事でもそれはパーツさえそろえば出来てしまうものだ。人がいくら奇跡だなんだと言っても、その「奇跡」を生むためには様々な布石や準備も居る。何もしないのに奇跡が起こることなど無いし、それは奇跡とは言えない。ただの『楽』だ」
「…そうなのだろうか」
あまりに心配性な顔で呟く千冬の顔に、ため息と共にタバコの煙を吐き出す。
今更後悔して何んの意味があると言いたい気分だが、そんな事を言っても彼女は真っ向から否定するだろう。
自分は後悔してない、と。
だがそれを曇った顔で言う奴ほど、心配であり後悔しているのだ。
「…確かにピースは殆ど集まっていた。お前が魔術に関係を持っていること。
聖杯戦争が続けられようとしていたこと。お前がそのマスターであったこと。
そして。同じようなところでお前がランサーを召喚したこと」
「…だが可笑しいのはそこだ」
後悔の色は無くなったが、今度は疑問の色を見せた千冬の顔に橙子は半身を回し考える彼女の姿を見る。一体なにがおかしいのかと訊ねようとしていたが、それを口にする前に彼女から先に話を進める。
「あの後…召喚に使った陣はそのままにしていたハズだ。使用後の召喚の陣を使ってもサーヴァントは呼び出せない」
「…誰かがまた使えるようにした?」
「まさか…! いくらそうするにしてもデメリットが多すぎる」
仮にあのガレージで再び召喚に使う陣を使えるようにするのならば、それはあの家に住む一夏か千冬でない限り安心して使用などできない。
敵のマスターであれば敵陣の中に召喚の陣を敷くなど意味がないことだ。
何より、他人の家のガレージを召喚の場所にするなど第三者に見つかってしまう可能性が高くとてもではないがやれる事ではない。
考えられるだけでもこれだけのデメリットがあるというのに一体誰が好き好んで他人の、しかもマスターの家に召喚の陣を再び書くだろうか。
「…誰かが意図的に描いたのか? だとしても誰が…」
「分からん。それに陣の上には物を置いて隠して動かされた痕跡はなかった」
「どこの密室事件だ…全く…」
「私も頭痛の種が増えるのはゴメンだ…」
軽くため息をつく姿を見てタバコを燻らせる。
流石に密室とはいかなくても納得が出来ないのは事実だ。だがもう既にその陣を使われてセイバーが召喚されている。考えるにしても遅い。
「…兎も角だ。お前は今回の戦闘でサーヴァントとやり合った。望まずとも、もう一度参加することになるぞ」
「………この面倒な時に…」
「三年前は余裕があったが…もし被害が広がると思ったら迷わず雲隠れしろ。でなければ生き残れんぞ」
「安心しろ。そうそう死ぬつもりはない」
「なら…いいがな」
橙子はそう言って門へと歩き、軽く手を振って別れを告げた。
また会おう、と皮肉を言っているかのように。
◇
すっかり月明りが周りを照らし、冷たい夜風が吹き抜ける。
奥地に作られた和式の中には文字通り中庭が存在する。
とは言うがこれも実に単純なもので中心に大きな木が一本立っている程度で、それを囲むように古風なガラス戸が張られている。
だがその中で一つだけ開けられたガラス戸があり、その奥には青年が一人風に吹かれている木を眺めていた。
夜に照らす光が木に当たり、そこから光が差し込んでいく光景は不思議な気持ちにしてくれる。幻想的、というには足りないような物。
だからこそなのか、気分が落ち着くのだ。
「…俺は―――」
あの後、自分が参加するかどうかを問われた一夏は、ひとりその場で考え込んでいた。
自分がマスターとして戦うのか。それとも戦わないのか。
他の道を模索しようともそれしかないと言われそうな恐れが彼の中で他の考えを出すことを拒ませ、絞られた二つのうちどちらを選ぶのかと詰め寄ってくる。
もっと別の方法で戦うというのは出来ないのか。
…無理だ。自分にはそんな力も知恵もない。
では自分は戦わず
…論外だ。彼女だけを戦わせることは出来ない。
―――なら。そもそも戦わないという選択肢は?
「ッ―――」
そうだ。姉のように力があるわけでもないし、知恵があるわけでもない。
全て人並み。それに毛が生えた程度。
それであんな危険戦いをどうしろというんだ。
そんな人間、直ぐに殺されるだけだ。
ならば、戦わない方がいい。
守りに専念して…いや、そもそも自分が戦うという選択肢が決めつけられたわけではない。
「―――――――いや」
一体何を言っているんだ。
今までの自分の考えが馬鹿馬鹿しく思えるように否定する。
例え自分が望まなかったことだしても。望まずに殺し合いの世界に入り込んでしまったとしても、それは全てもう起こってしまった事だ。今更変わることも変えられることも出来ない。
そして。逃げることもだ。
自分が突然この聖杯戦争に巻き込まれたとしても、それが赤の他人しか居ないならいざ知らず。自分の姉もそれに関係を持ち、自身も同じ土俵に立ってしまっている。
望まずとも召喚してしまったサーヴァントの事もある。自分が望まなかったからという理由で契約を切ってしまうのはあまりに一方的で理不尽すぎる。いくら使い魔の類とはいえ、それを彼女が気持ちよく納得してくれるだろうか。
「―――――だよな」
今更だが思い出す事に頭を打ち、自分事ながらと小さく笑う。
彼女には恩がある。そして自分の事を信じてくれたことだってだ。
なのに、その彼女を望まなかったからとい理由で関係を断ってしまうのだけは、一夏も納得はしないし出来るはずがない。
ならば。彼の答えは一つしかない。
「ここに居たのですね、マスター」
「セイバー…」
後ろから聞こえる優しい声に振り向くと、そこには先ほどまでつけていた銀色の甲冑を外し青いドレス姿だけになっているが、金色の髪と翡翠のような瞳は間違いなく彼女だ。
足元から甲冑の音がしているのは恐らく彼女がそれしか履くものを持っていないからだ。正に騎士としての一生を過ごしたという名残。だからこそ、彼女がセイバーとして選ばれたのだろう。
「…良い場所ですね。ここに居るだけでも心が落ち着く」
「建てられてからの俺のお気に入りでな。よくココで考え事もしたりするんだ。回り道するけど、普通に靴で入れただろ?」
「ええ。構造といい、あまり装飾がされていないと言うのにここまでの良さがあるのには驚きです」
「質素なものだろ。俺、あまりジャラジャラと装飾されているのって嫌いなんだよな。目が痛くなる」
「私もです。適度な飾りがあれば素材の良さ、というのが引き立つと言いますからね」
まるで新築を見に来たかのように家について話し合う二人。
だが、それを最後に彼らの間での会話は止まってしまい、その目線は互いではなくその正面に立つ一本の木に集まった。
何もない木だが、優しく風に撫でられる音は心地よく感じ心を静まらせる。
そのお陰か、一夏の頭の中は少しずつだが纏まっていったようで、木を眺め耽っていた二人の間で再び声が響く。
「…セイバー。俺、決めたよ」
「………。」
「たとえ、召喚したのが偶然であっても…望まないのに戦わされることになっても、俺はもう戻らない。
こうなってしまった、って事実は受け止めるよ」
「…覚悟はあるのですね」
「この先、命を懸けた戦いが待ってる。それは本当に俺が望んだことでもないし、やりたくないって思ってる。
けど、俺にはその戦いを生き抜く覚悟と、それに手伝ってくれる人が居る
―――なら。俺の答えはひとつだ」
もう悲観することは諦めよう。
何があったとしても全ては起こってしまった事。変えられることではない。
ならば自分に残されたのは進むだけ。前を見て、その先に進んで行くだけだ。
「―――俺は、マスターとして戦う。大して力にはなれないと思うけど…それでも、戦うって決めた」
「―――後悔はないのですね?」
セイバーから告げられる最後の警告。もし自分がマスターとして戦うのなら、恐らくそれは今の彼にとって想像を絶する戦いになるだろうし、最悪どこで命を落とすか分かったものではない。容赦なく襲われる無情な戦い。
それでも、彼はそれに参加し、勝ち残る意志があるのか、と強く念を押して問う。
だが。一夏の意志はもう揺らがない。自分でも感じたことのないほど強く固められた決意は、そんな彼女の警告も軽々と乗り越える。
「無い。そんな事で一々悲観してたら、キリがない」
「聖杯戦争は生き残るだけが全てではありません。それでも…」
「ああ。それでも俺はやるさ。守りたい物がある限りな」
向き合った彼の姿に答えるように、自らも向き合う。
改めて顔を見れば、その表情に迷いはない。決心は揺らがないという意志がしっかりと現れた目で見ている。
「こんな俺だけど…頼めるか?」
そう訊ねる彼の姿は、セイバーにとっては最初の命令であるかのように思えた。
迷いはない。後戻りもしない。なら、彼のその気持ちに応えるだけ。
主がそう望むのなら、自分は喜んでそれを受けよう。
「はい。貴方がそう望むのなら、私は貴方の剣となろう。
ここに契約は完了した。これより先、私は貴方の剣となり、共に戦う事を約束しようマスター」
「………。」
「…マスター?」
恥ずかしそうに頭を掻き、目線をずらした様子に不思議がる。さっきの言葉に何か嫌な事が混じっていたのだろうかと気になってしまったセイバーだが、その答えは簡単なもので一夏の口から現れた。
「…あのさ。その…よければその呼び方は…どうにも『マスター』って呼ばれ方には抵抗感っていうか…」
「……………。」
彼が恥じらう理由はそこだったのかと、面食らったような顔で見るセイバーは小さく息をつくと改まったように答えた。
「では…えっと…イチカ…でしたね」
「え…ああ…うん。そう。一夏。織斑一夏だ」
「ではイチカと。…ええ。私としてはこの方が好ましいですね」
「俺も、マスターなんて呼ばれ方は…少し嫌いかな。なんか、俺が遠ざけちゃったみたいになるから…」
余計なことを気にする性格なのかと、自責をする一夏を見て心配するが、ならばと思い言葉を返す。
「…分かりました。ではこれから出来るだけ、貴方のことをマスターとは呼びません。それでいいですね、イチカ?」
「ああ。名前で呼んでくれ、セイバー」
今ここに、七人の
そして。誰も知らない、聖杯戦争が幕を開ける―――
次回予告
「ついに出そろったか。七人のマスターが…」
「オジサン、この戦いに勝てるかなぁ…?」
「今回の聖杯戦争。私たちを受け入れるのか?」
「それではイチカ。貴方は戦えるのですか?」
「それはぁ………」
次回 「開幕」