IS×Fate - No Limited War - 作:No.20_Blaz
そんな第五話です。
今回は普通に歩いて歩いて…といった感じです。
というか次回予告のセリフをちゃんと入れたいです…今回少しだけでしたから…
残りは多分次回だと(汗
そんな状態ですが、一応は出来上がりました。
第五話、お楽しみ下さい。
不思議な光景だった。
光輝く板版には様々な情報が記され、そこにはありとあらゆる知識が調べれば泉のように湧き出る。
地図や情報。歴史に映像。
まるでその板版ひとつに世界が内包されているかのようだ。
「素晴らしい…」
「そうなのかな。けど…確かに俺たちにとっちゃ当たり前でも、セイバーにとっては新鮮なんだよな」
「はい。私もこの『パソコン』というのを見て動いているのを見るのは初めてです」
興味津々にパソコンのモニターを見るセイバーは、そう言って彼が操作して切り替わる画面の映像のひとつひとつに興味と好奇心が掻き立てられた。
マウスと呼ばれた物とキーボードを使えば、無限に知識や情報が映し出され彼女が目を輝かせるほどの物を容易に出すことができるのだ。
生前の時代にはなかった物で、ここまで便利なものがあるというのは大きな発見だ。
「それでイチカ。地図を調べられると言いましたが、それは?」
「ああ。ちょっと待ってろ…」
検索サイトから地図を出し、そこから更に衛星からのリアル画像に変更する。
すると画面には実際の建物や道路が映し出され、邪魔にならない程度に建物や地名などが表示され、セイバーの目はモニターに釘づけにされる。
「おお…」
「もし普通に地形とかだけを調べたいなら出来るけど…」
「いえ。こうして実際の街の様子が見られれば後は現地に赴くだけです」
地形の情報などが正確に判明し、しかもどこにどんな物があるのかまでも明記されている。これほど地形情報に困らないのであれば迷う事はまずないだろう。
それに加え、現地の地域の情報に詳しい人間が近くにいるというのも情報をより明確にするためにはありがたい事だ。
「―――で、イチカ。私からいくつかその地図を用いての質問をしてもいいでしょうか」
「ん…いいけど、時々分からないところもあるからあまり正確さは期待しないでくれ」
「構いません。まず、街の北東にある森林地帯ですが…」
指を刺して訊ねられた質問に一夏は頭の中にある情報を総動員しひとつずつ確実にたが返答していく。
セイバーがまず最初に指さしたのは首都圏の近くから離れ、今回の聖杯戦争の開催地である街の北東部にある森林地帯についてで、そこは一夏の記憶にも新しい情報があるのを思い出す。
「そこは首都の都市化に伴って野生化して行き場をなくした野生動物の保護も兼ねて作られた自然保護区だ。二年前かな…凄い巨費をかけてつくられた場所で開発当時はいろいろいざこざもあったらしい」
「それが北東の深くにある元々の森に繋がってる…といった感じですね」
「首都圏が都市化して自然が無くなってるから、その補いもかねてらしい。それにどうやら繋がってるのも意図的って感じなんだよな」
「…そうなんですか?」
「…ああ」
一年ほど前の事だったか。テレビを見ていると開発を終えた自然保護区のことを取り上げた番組があり、その番組は自然保護区が開発された理由についてを都市伝説のように話していた。
自然保護区のある土地はかつて古い社が建てられた場所であり、そこには古い言い伝えがあったと言う。
平安の時代。そこには多くの魑魅魍魎が居て、それを排除するために陰陽師が社を建ててそこに使い魔を降霊させたと言う。
以来、鎌倉の時代になってその地は役目を終えると、今度はその土地を守る土地神のいる所として大切にされてきたらしい。
しかし、大東亜戦争(太平洋戦争)で首都圏が空襲された事によってその社も丸々燃やされたという。
その後復興こそされようとしたが、戦後の疲れ切った日本に余力はなく、それ以後は廃墟として。そして数十年前にとうとう取り壊しにされたのだ。
「―――そのあとになって更地だったそこに自然保護区が作られた…って話だ」
「…なるほど」
「気になるのか?」
「ええ。一応は見るだけ見に行ってみようかと」
話を聞き少し考え込むセイバーに了解する。どうやら彼女には話に引っかかるものがあったらしく、それを確かめに行きたいようだと見て、一夏はその姿だけでも騎士としての風格が十分だと、パソコンを操作しながら考えていた。
騎士としての風格。そして洞察力や思考。彼自身もそんな人間を見るのは正直初めだ。
戦いの場を慣れているからこそなのだろうか。その慣れが、彼女の行動や仕草には色濃く出ていた。
…が。
「…それと、イチカ」
「ん…?」
「その…パソコンでは…色々と調べられるのですよね?」
「ああ。まぁ大抵のものはな」
「…なら。ぜひ、食事を取れる場所も是非…」
事、食事に関しては年相応のようだ。
◇
街に出たセイバーは興味深そうに眺めて言う。
―――ここまで発展した街を出歩くのは初めてだ、と
彼女の時代の町といえば大抵は二階三階の木製の建築物がほとんどだが、現代はそういったものは山奥などになりを潜めて、基礎は鉄骨に壁はコンクリートと言った科学と無機物の世界だ。自然の温かみはなく、生活性と機能性が重視された建物は今やかつての建築物を鼻で笑ってしまう。
鉄にまみれた無機物と無情が主の森林。それが、セイバーが街を見回し感じたものだ。
「凄い人の数ですね」
「首都圏だからな。それに、この国の機能の殆どはここに集約されてるしな」
迷子にならないようにと少し前を歩く一夏は横目で彼女の姿を確認しながら人の中を掻い潜って進む。
別に目的地があるわけではなく、単に探索程度なので時間に急かされることなく悠々と街を歩く二人は高くそびえ立つビルに時折目を向けつつ人込みの中へと消える。
入学式の翌日、運よく祝日であったために休みになった一夏は現在セイバーと二人今回の聖杯戦争の地である首都圏近郊の街を歩き、現地の偵察などを行っている。
パソコンで調べれば楽なことたが、騎士である彼女曰く「実際に赴かなければ分からないこともある」らしい。彼女の言葉に一理あると分かっているが、彼にはどうにも他の魂胆が見えて仕方がない。
「―――なぁセイバー」
「なんでしょう?」
「…その服、どうしたんだ?」
召喚された時の騎士の甲冑とドレスではなく、現代の服装となった彼女の姿は実に風景に溶け込んでおり、誰も彼女がかつての英雄であるのにはマスター以外は絶対に気付けないだろう。
白い上着と紺色のスカート。そして青いマフラーを巻いている。
ニーハイソックスから履いているブーツは動きやすいものらしい。
出かける時になってその姿になった事に驚いた一夏は、内心の心境から今まで訊くに訊けず今まで持ち越されていた。
「―――貰い物…ですかね」
「…貰い…物?」
一体誰からのなのかと問おうとしたが、刹那セイバーの表情に魅入られて口を止めてしまう。その表情はあまりに意味が多く含まれていたのだ。
懐かしむと同時に嬉しくも悲しい表情。
複雑といえばそうなのだろうが、彼女の場合その周りだけが思い返す時間に巻き戻されたようで、自分とはまったく別の場所にいるように思えた。
「ッ…」
「………。」
話が進まないと見た一夏は話題を直ぐに切り替えようとするが、その瞬間彼の背筋に嫌な嫌悪感と共に寒気が走る。
殺意ではない内心から苛立ちも巻き起こる感情に一夏は覚えがあった。
「よう、織斑ッ」
「ッ…」
「………!」
感傷に浸っていた彼女と一夏の後ろに現れたのは見るからに典型的なチンピラ…の一歩手前である不良高校生の姿で、彼を呼びかけた青年を含め後ろには六人ほど不適な笑みを浮かべて二人を見ていた。
「…浅黄」
「なにしてんだよお前。しかもそんな女連れてよ」
浅黄と呼ばれた青年は一瞬だけ彼と目を合わせるが、興味はないという様子で直ぐに後ろに居たセイバーに移す。おおよそ何を考えているか分かっているが、今は穏便にと思い黙り込む一夏は迂闊に手が出せずにいる。
「…別にいいだろ。何だって」
「…ああ。そっか。こいつお前のコレか!?」
「………。」
両手で性行為のやり方をする浅黄は挑発するように言うが、返事のない一夏はそれに怒りをもって拳を強く握りしめる。
「ははははは! こりゃ傑作だ、お前みたいなのがこんな女とか!!」
「………?」
イマイチ彼らの話を理解していないセイバーは不思議そうな顔で首を横に動かし、黙り込んでいる主の姿を見る。彼らと遭遇してからあまり口を動かしていない様子に、もしかして、という可能性の話を浮かべようやく状況を把握する。
(…嫌悪…なるほど。イチカが嫌う相手のようですね)
「まぁ君名前はなんて言うんだよ?」
「…名前、ですか」
「お。日本語うまいねぇ! 俺英語とかマジで無理だから助かったわ」
「………。」
「オイ、この子貰うぞ。お前なんかが満足させられるワケがねぇからな」
「なっ…!?」
突然言い出した事におどろいた一夏は、ぞろぞろと後ろにいた者たちが罵声などを自分にふっかけてからセイバーの周りに近づき何処かへ連れ去ろうとする。
それだけは絶対に嫌だと、怒りながらも冷静に動いていた頭の中で思わず声を上げて彼らを止めにかかろうとした。
「お、おい―――」
「それは無理なご相談です」
「…は?」
しかし、セイバーはどうずるどころか無表情のままバッサリとそれを拒否。
彼女のハッキリとした言葉に眉を寄せた浅黄は、単なる悪あがきだろうと一蹴しあの手この手で誘惑や勧誘をするが、表情は揺るがず頑なに拒否する彼女に次第に苛立ちが経ち始める。
「…ですから、私は彼と行動をするのでその誘いには乗れません」
「………あのな。アイツといて何が面白い? ロクに面白くもない奴と一緒にいて楽しくもないだろ?」
「………。」
「俺らは確かに世に言う不良…なのかもしれねぇよ? けど、楽しいかどうかで言えばアイツよりも大分マシだぜ?」
「…と言うと?」
「だってアイツ、俺たちの命令に従わないしやっても面白くもねぇ。金だってあんまり持ってねぇし」
「………。」
「な。面白くないだろ?」
他の面々はそれで同情と同意をするだろう。だがセイバーはそれでもというより当然の如く、それを鼻で笑うように振り払う。
「それは貴方たちの見解によるものです。それに他人から金銭を奪うのはどうかと思いますが」
「奪う? 違う違う。俺たちは貰ってるの。アイツから」
強調するように言う浅黄の表情に容易に真意を察すれるセイバーは、既に内心では彼のことがどうでもよくなって来はじめ、さっさと彼と共に現地めぐりと昼食を行いたいと思い始めていた。
「もういいだろ、アイツのことなんか。どうせ面白くないし、いざとなれば姉貴に縋るだろうしさ」
呆れて納得させようとするが、同意する意味も理由も杜撰なことにどう納得しろというのかと、セイバーも飽きて来たのでトドメにかかる。
「そうですか。なら、やはりあなた達とは同行もできませんしその思想に同意することもできません」
「………は?」
「………!」
「私は彼と共に居ると誓った。それは揺ぎ無いことだ。他人からの略奪を正当化するあなた達こそ、私にとっては面白くない。早々にそこをどいてもらおう」
セイバーの言動。態度。表情。
その全てが、その瞬間浅黄にとって気に入らないものになり、遂に本性を現してセイバーに食って掛かる。
「テメェ舐めてんのか。オイ」
「………。」
「舐めてんのかって聞いて―――」
「―――相手を愚弄するのは、騎士の誇りに反する。だから…」
自分の頭をつかもうとしていた腕を逆に掴んだセイバーは片腕だけで受け止めると、間を置かずにその腕に力を入れる。華奢な体とは似つかわないような怪力がつかもうとしていた腕から送り込まれ、浅黄の表情はみるみると痛みに青ざめていく。
「いった…痛いんだよ…!?」
「………。」
そのままの力で腕をゆっくりと下ろすとそれに中の筋肉が連なって痛みと共に浅黄の体は地面に伏せっていく。
突然痛みに叫び出した彼の姿に驚く者もいれば馬鹿じゃないのかと嘲笑う者もいるが、浅黄の顔は冗談をいうようなものではないと後になって気付き始める。
「そ、そういえばセイバーって…」
サーヴァントにはそれぞれステータスが存在し、それがEを最低として最高EXとしたものに振り分けられている。
耐久、筋力、敏捷、魔力、幸運、宝具。
この六つがそのステータスであり、同時にマスターとしての素質などが反映される。
一夏の場合、マスターとしては未熟なためステータスは低いが元であるセイバーの能力が高いことからランクダウンは一つまでにとどまっている。
ちなみにセイバーの筋力はB+。
並みの人間は大体E-かEをうろついているらしい。
当然、浅黄も例外ではなくセイバーの見立てではE辺り。
つまり、圧倒的に差があり過ぎるのだ。
「―――――!」
その隙に左右から一人ずつセイバーを両側から抑えようと手を伸ばすが、軽く半身をひねって回避。後ろから伸ばした手で掴まれるのを避けるため一歩前に踏み込む。当然、目の前に居る浅黄に当たることになるが、その浅黄をつかんだ手を横に振るい一人を纏めて突き飛ばす。
すると、彼女の目の前に一本の細い道が出来るのでそこを見逃さずにすり抜けていく。
「っ…浅黄重いっての!!」
「うるせっ!」
「何してんだよお前ら…」
「…セイバー」
「…私もイチカと同意見です。この者たちは好かない」
ハッキリと言ったセイバーに怒りをあらわにする浅黄。大きく舌打ちをして拳に力を入れた彼は、実力を持って屈服させようとしていた。
しかしそんな相手でも―――だからこそ、セイバーは余裕を持っていられる。
「ですが武器を持たない者を斬るのは騎士の名折れです」
「騎士だぁ…?」
「もし。貴方たちがこれ以上なにもしないというのなら、それはそれで良しとします。私も大人しくこの場を退きましょう。
ですが、もしそれでも挑んでくるのであれば…」
余裕を持ち凛とした風格を保つセイバーに言われ、ますます癇に障り出した浅黄は怒りを顔に貼り付けずんずんと足に力を入れて近づき始める。
彼女の余裕げな表情と言動。そして冷たい目に我慢がならなくなった。
なにが騎士だ。何が名折れだ。そんなものを持っている奴なんてロクな奴じゃない。
上から物を言われるのを特に嫌う彼らにとって、セイバーの対応は逆鱗に触れた。
「…イチカ。少し下がっててください」
「え、ああ…」
後ろに居るマスターの安全を確認し、セイバーは目の前に立つ浅黄とその腕を見て軽くだが感心する。もうここまで来たのか、と彼の足の速さに。
腕を振り下ろしセイバーの髪を掴もうとするが、ふたたび受け止められ動きを止められる。
また同じ手口かと思っていた、その隙を突くため浅黄は反対側の手で横腹へと拳を振り上げる。
「………。」
「あ…!?」
だが、素早く察知し拳を手で覆われてしまう。それは正にじゃんけんでグーがパーに弱いのと同じ。しかも彼女の筋力によって拳は食われたかのように指一本動けなくなってしまう。
二度同じ手には食わない。それを利用した攻撃もセイバーには無力だ。
「ッ…!」
それでも浅黄は諦めず最後の抵抗とばかりにきき足を上げて蹴りを入れようとするが、当然ながらそれも彼女に見抜かれて同じ足で止められてしまう。
「な…」
「………!」
そして再び筋力による拘束、しかも今度は両手で先ほどよりも強く握られているので腕から伝わった痛みは全身を駆け巡り足の姿勢を保てなくなってしまう。
両腕からの苦痛に情けない声で地面に伏せる浅黄に、後ろで集まっていた青年たちは後ろへとたじろいでしまう。
彼らの知る浅黄はこんな声も出さず喧嘩もそれなりに強い方だ。なのにその彼が少女一人にあそこまでされるのには驚きというより恐れしか感じられず、演技じゃないのかと疑う者も居るが、事実は変わらず浅黄はセイバー一人によって地面に屈した。
「あ…あがっ………!?」
「二度と私たちに近づかないと約束しなさい」
「ッ…いやだ…」
更に強く握りしめる。痛みが強くなり、金切り声がより強くなっていく。
それには他の通行人も驚き、一体なにがあったのかと目線を集めてくる。
それでもセイバーは止めず腕を拘束して再度言う。
「二度目は言いません。貴方がそれでも彼を襲うというのなら…それ相応の覚悟をしていると見受けることにしますが―――」
「ッ………!」
その言葉を言われた瞬間わずかだが顔を見上げられた浅黄は自分を見下すセイバーに一矢報いろうとするが、目を合わせた時に彼の背筋に悪寒が走り抜けた。
天高くから見下ろすその目は冷たく、そして何物にも屈しない鋼のようだ。
目を合わせた瞬間から彼の動きはそれだけで留められたようなもので、逃げ場を失った彼はそれを最後に抵抗もなにも出来なくなってしまった。
もしそれに逆らえば重い罰が待っているかもしれない。そう思えてしまったのだ。
「………!」
すると、後ろからそれを見守っていた一夏が呼びかけ、直ぐについて来るようにと指示を仰ぐ。
「どうかしたのですか?」
「警察だ。厄介ごとになるから、ここは逃げよう」
「………。」
「今は騎士道は諦めて!」
「…はい」
しょげたセイバーを後ろに付け、一夏は表通りから裏の小道へと逃げる姿に浅黄の周りに居た青年たちは怒号で呼び止めようとする。しかし二人が止まる筈もなく、そのまま小道へと逃げて行ったのを見て二人ほど後を追いかける。
それがもう少し早ければ、それが出来ただろう。
「オイ、そこの君たち!!」
「げっサツだ…!!」
時すでに遅く、彼らの前と後ろから二人ずつ警察官が姿を現し周りを囲んだ。
その時には既に二人の姿は無く、足音も際限なく聞こえる音にかき消されてしまっていた。
◇
「…あのさ。セイバー…助けてくれたのは嬉しいけど…あまり大事にはしないでくれよ?」
日が影によって遮られた小道を歩く一夏は、しばらく静まり返っていた互いの間で口を開く。別段、彼女を りつけるつもりで言ったわけではないが、今回は流石にと思い彼も注意ぐらいはするべきだと思い至った。
「すみません…まさかあそこまで拗れるとは…」
「…まぁ、あの手の奴らは自意識高い奴らだからな。自然と他人を弱者とみて見下してる。そういった連中さ」
「…そんな者たちなんですか、彼らは」
「別にアイツらに限った話じゃない。この世界…この町の裏側は大抵そんなモンさ」
「女尊男卑…ですか」
一夏が小さく頷く。白騎士事件を皮切りに日が当たったISは飛躍的に進化を遂げ、そして社会に浸透していった。だが、それが原因で社会秩序そのものに悪影響が及び、現在はそれが原因となって多くの問題がある。
女性優位の社会の女尊男卑。ISこそ絶対のものであるIS至上主義。
歴史的に見れば、ISは毒であり剣であるのだ。
「女尊男卑の所為で、男…特に俺たちの世代は肩身が苦しくてさ。ああいった奴が多いんだ。女はみんなISに夢中で、ISを持っても居ないのに権力者ぶる。それが嫌で嫌で…次第にアイツらはああなったってワケだ」
「逃避者の成れの果て…ですか」
「俺も千冬姉もISが絶対だとは思っちゃいない。そりゃ強力な兵器ではあるけど、だからこそ使い方を誤れば…」
「はい。使い方を誤ってしまえば自分の身を破滅させかねませんし、かえって悪い方にいってしまう」
「だから…千冬姉はそれを正すのに…間違った考えを無くすのに必死なんだ」
ISであるからこそ、という絶対定義の破壊。それが千冬の目的のひとつだと言う。
「絶対」という物質が存在しないからこそ、それを実証するために彼女は日々奔走しているのだ、と。
「イチカはそのISをどう思っているのですか?」
「俺か? まぁ…強い兵器…ぐらいにしか思ってないかな。だからってそれで世界制覇が出来るなんて思ってもないし」
「そんなに凄いのですか、それは…?」
「らしいぜ。どっかの馬鹿の話だと、それが総動員されれば世界制覇なんて軽いって聞くし」
しかし実際そう簡単に行くはずもない。
世界制覇といってもISは所詮兵器だ。ある程度はその時の対策も講じているだろうし、そんな愚行をするにしても先立つ物があって、それを封じられてしまえば元も子もない。
豪語した者も恐らくそこまでは考えず口にしたに違いない。
現実はそう甘くはないのに、ISなら、といういい加減な理由からの根拠。そんなものは考えなしと同義だ。
「世界制覇…ですか」
「…あまり真に受けないほうがいい。そういうのって妄言だからな」
「ですが、今の科学などを見る限りそんな話が夢物語ではないのもまた事実です。偏に妄言として捨てるのも、油断のひとつですよ」
「そうだけど…考えられるか? 世界中に散らばったISの中枢であるコア。それとパイロットを集め組織を作り、世界の軍隊を相手にする。そんなことが…出来ると思うか?」
一夏もそれが夢物語だとは限らないというのには同意する。だが、実際そんな事を出来るかどうかで聞かれれば絶対に不可能だと断言できる。
世界の情勢。力関係。権力の有無。
仮にできたとしてもそんな事をすればどうなるのか、誰もが容易に想像できるはずだ。
だが。だからこそなのだろう。
もし、それが実現してしまったらというifの考えが、現実となってしまったらどうなるのだろうか。その時の自分はどう思うのだろうか。どうしてそうなってしまったのだろうか。
興味はある。だがそれは同時に恐怖でもあるのだ、と。
「…そろそろ小道から出よう。このあたりならもう大丈夫なはずだ」
「…はい」
ガラにもない事を言ってしまったと、頭を掻く一夏は無理にでも明るい表情を作りセイバーに付いて来るようにと言う。二人の間には少し気まずさが残っていたが、まだ十分修正できると思っていた彼は光が当たる表道へと歩き、日の当たる場所に再び姿を見せる。
時刻はそろそろ十一時を回る。
小腹がすき始めるときだが、それ以上にセイバーは周囲の景色に目を奪われた。
一歩道に踏み込むと、そこはまた違った街並みがそこにあったのだ。
「………!」
「ああ、ここは街のなかでも数少ない昔の風景が多く残ったところでさ。大体90年の終わりごろから殆ど変わってないって話だ」
「何年もこのままだったんですか?」
「再開発もないしあまり重要視されてないっていうのもあるけど…こういった昔の街並みは残すべきだって人たちが居てさ。それで今もこうして残ってるんだ」
古い雑居ビルや建物が多く並ぶそこはいわば下町ともいえる町並みで一夏が言った通り、二十年ほど前の景色がそのまま残り切り取られたような雰囲気だ。
僅かな汚れやホコリっぽさは生活感があり錆や欠けたところも昔から使い込まれている。
時間忘れ去られたような感覚は懐かしさと共に不思議と心が落ち着く。
「あそこから随分離れたな…保護区は近くだし…さてどうするかな」
「………。」
わざとらしくセイバーに話を振る一夏は、彼女がどういう気分でありどうしたいのかと遠まわしに問う。それに気づくと少し戸惑った顔で考えていたが、その時間は直ぐに終わってしまう。
まさか先にマスターの方が腹の虫を鳴らしたのだから。
「………」
「………イチカ」
これには彼も弁明も何も出ず、ただ笑って目を逸らす他なかった。
◇
「…すまん」
「いえ。こういうのは慣れて…はむっ」
町中にあるファストフード店に逃げ込んだ二人は、向かい合って人気だというハンバーガーを口にする。
セイバーは魔力供給のこともあって一夏が二つ頼み、まるで自分が食いしん坊ではないか、と若干不機嫌そうに黙々とバーガーの二つ目を食べていた。
まさか十一時で既に空腹になるとは思っておらず、これには本人も申し訳ない顔で赤らめていた。
「穴が会ったら入りたい…」
「そ、そこまででしょうか…別に空腹になる事に罪がある理由ではないのですから」
「いや…こういうのって基本女の子が腹を空かせるパターンだしさ…どうにも逆っていうのは情けなくて…」
「…この国の言葉で「腹が減っては戦はできぬ」と言います。今は聖杯戦争中ですし、体調については素直になるべきです」
「セイバー…それフォローになってない…」
つまり腹が減ったら素直に言え。そんな事は普通我慢するところではないか、と反論したいが当人が善意で言っていることから言うに返せず、どうすることもできないまま薄く塩が味付けされたポテトを口に運んだ。
「それよりもイチカ。ここは随分と人が…」
「ああ。まぁこの店があるから多少若い人もいるけど、実際ここら辺って住んでる人が少ないんだ。一軒一軒の坪の広さが大きい方だから、人工的にもな。それに老舗が多いから若い人もあまり寄り付かないんだよな」
「…なるほど。同じような店が人気の多いところにもありましたが、あちらのほうがかなり入っていたので、不思議に思っていましたが…」
「立地条件が悪いって事だな」
どの店も場所が悪ければ意味はない。この場違い感はそれが原因だろうな、と食べ終えた一夏はぼやき、店で接待している店員の様子に脱力感があり無気力な空気が流れていた。
客足が少ないのと、人気が無いのがその原因だろう。
「これからどうしますかイチカ。予定通り、現地の下調べを続けますか?」
「…ああ。取りあえずは下調べ…も兼ねて、少し寄り道を」
「寄り道ですか?」
「そう。寄り道。ココからなら近いからさ」
がらんどう。と言う言葉がある。
何もない状態のことを言い、その語源は「伽藍堂」という仏寺の事を斥す。
一夏が初めてこの語源の意味を知った時、一体どちらの意味なのだろうと考えた事があるが、知識がない自分には到底分かることではないのだろうと諦めてしまった。
だが実際はもっと単純明快な理由なのかもしれない。
「―――あら。いらっしゃい、一夏君」
大学の研究室だとこんな感じなのだろうかと、未来予想のように思った一夏は一つだけあるデスクに座る、彼女の歓迎に呆気にとられながらも言葉を返した。
伽藍の堂
蒼崎橙子が経営する建築デザイン事務所。
しかし他にも人形工房なども行っているが事実よろずの店ともいえる。
なにせ彼女の請け負う仕事柄かそうしなければ生計が立てられないからだ。
「珍しいわね…まさか、会いに来るなんて」
「千冬姉からここに構えてるって聞いたんで」
「…なるほど」
ぼそりと呟いた橙子になにかあったのかと訊ねるが、すぐに何でもないと言い返され話題もそこからまた別のものに変えられてしまう。
「…彼女、サーヴァントを使役しているってことは…」
「はい。参加することにしました」
聖杯戦争に参加するか否か。それの報告も兼ねてらしいが、実はこの時一夏はある「お使い」を千冬から頼まれており、それを渡すために来たのだと言う。
だがまずは参加したという事も一応ながら伝えるべきではないかという事で、彼は話を進める。
「…正直、まだ決心とかは固まってないけど…これ以上守られるのも嫌だ。だから…」
「命の駆け引きに参加した…か。まぁ確かに戦う理由としては不十分ね」
苦笑しながらも現実を突きつけられた一夏は唇を強く噛みしめ拳を強く握る。悪意があるわけではないし彼女も事実を告げただけ。だが自分でも分かっていた事を他人から言われると思うところもあるのもまた事実だ。
「ですが、戦うのに消極的や隠れて指揮するだけの人間よりも彼は覚悟がある」
マスターである彼をフォローするように口を開いたセイバーは、遠まわしにマスターを侮辱するなと言っているようで、それには橙子も否定と訂正の言葉を返す。
「…私は別に彼を愚弄しているわけじゃないわ。ただ、理由はもう少しちゃんと纏めてきなさいってこと」
「………」
「それに、貴方の意見ももっとよ。工房に引きこもって戦っているよりは、彼はずっとマシなマスターよ」
曰く。マスターとして参加する魔術師は、基本自分のアジトである「工房」を構え、そこを拠点に聖杯戦争を行う。工房はいわば魔術師たちの基地でもあり、そこでは魔術を使った迎撃システムも組み込まれたものが多い。
例にするならば
結界二十四層
魔力炉三器
猟犬代わりの悪霊、魍魎数十体
無数のトラップ
一部異界化
といった感じだ。ちなみにこれは過去にあったと言われるとある魔術師が構築した迎撃システムの内容であり、その後どうなったのかは魔術師たちは分からない。
「…で。まさか…それだけの為に来たわけではあるまい」
眼鏡を外し、鋭くなった目になる。以前、家で聖杯戦争について説明するときに見せたものだ。彼女のその雰囲気には一夏も無意識に気を引き締めて背筋を伸ばしてしまう。
そうしなければいけない。と思ってしまう。
「あ…そうだ。千冬姉からこれを渡せって頼まれて」
「アイツから…?」
手渡されたのは一枚の手紙で簡単に封に入れられ中身も白い便箋一枚。デザインも当然ありはしない。
しかしそれ以上に手紙になにが書かれ、何の用事だったのかというのが気になってしまい、静かに手紙を読んでいる橙子とは別にその手に握られている手紙に注目してしまう。
普通にメールなどでやればいいのに、態々手紙を書いて持たせた理由。それが気になって仕方がなかった。
「…なにぼさっとしてる。待つのなら座って待ってろ。今読んでる最中だ」
「あ…はい」
投げるように言われたのに反応し、一夏はデスクの前に置かれているソファに腰を下ろす。
手前側に自分が陣取ると反対側にはセイバーが座るが、今の彼には眼中になく読み終わるまで子どものように大人しく読み終わるのを待つことにしていた。
が。それも我慢ならないのか直ぐに目が動き、周囲の物を見回し始める。
元から周囲の事に興味と好奇心があったので、自然と目が動いて辺りの様子を見たがっていたのだ。
(凄い散らかりようだな…)
散乱する紙媒体。資料らしきファイルブック。ホコリが被っている本の山。
中でも一番目を引いたのは気味が悪いほど高く積み上げられ百目のように重なり合う旧式テレビは、それも十台近くはある。夜に見たら不気味にしか思えないだろう。
「………」
テレビの様子に妙な恐怖を感じた一夏は身を退くように目を逸らす。
反対側に座るセイバーも待つだけでは暇なのか目と顔を少しだけ動かし何かを観察しているが彼のように室内の様子を見るのではなく、何かを探しているように辺りを見回していた。
「………?」
すると、デスクに座っていた橙子が読み終わったのか小声でぼやいた。
「…全く、あの小娘は…」
「え…」
「…いや。こっちの話だ」
誰に悪態をついたのかは分からないが、内容は彼女にとってあまりいいものではなかったようで、手紙を折りたたんで放り投げるとタバコを吸い始める。
「取りあえず手紙については確かに受け取ったと伝えておいてくれ」
「分かりました」
「全く…私は態の良い人間ではないのだぞ…」
苛立った様子でデスクに放り投げた手紙を見つめる橙子は、内容が気に入らないものだったらしく煙を燻らせるついでにため息をついた。
すると彼女の目に入って来たのは無表情のような顔で自分の顔を観察する少女の瞳で、それに乗ったのか、独り言のように話し始める。
「…不思議だろうな」
「―――ええ」
「………?」
静かに答えたセイバーに何が不思議なのかと首をかしげる。
しかしその彼を放っておき、橙子は彼女との間だけで話を進める。
「これをかけているか否かで私はいつも切り替えているんだ。だが、これはあくまでスイッチであり拘束具ではない。
どちらも私であって、偽物ではない。私の中にそういったものがあると言うだけだ」
「なるほど。二つあるが、絶対に片方しか姿を見せる事は出来ない、という事ですね」
「そうとも言えるな。だが結果的に根幹は私、蒼崎橙子だ。もう一人の人格があるわけでもないし、乗っ取られているわけではない」
「…それは無意識によって?」
「…かもしれん。実際、私も知らぬ間こうなっていたからな」
一体何の話なのだろう。そう疑問に思っていた一夏に、ようやくかそれとも態とか、気づいた橙子は眼鏡を掛け直すとタバコを灰皿に押し込めて火を消した。
そして、さてと。と呟くと椅子から立ち上がって彼に手招きする。
「一夏君、ちょっとこっちに来てくれない?」
「…え? 俺…ですか?」
「そう。別に嫌な事とか痛いこととかじゃないから」
「………はぁ…」
ギシッと音を立ててソファから立ち、一夏は橙子の下に歩く。それについて行こうとセイバーも立つが直ぐに橙子から待てと狗に命令するように止められてしまう。
「セイバー、貴方はここで待っててくれない?」
「な…」
「大丈夫よ。別に取って食うわけでもないし。直ぐに終わるわ」
「ですが…」
「彼の安全は保障します。この先が異次元で消えるわけでもないから」
「………」
橙子に説き伏せられたセイバーは、その言葉を信じてソファに再び座ったが、目線だけは一夏に送り続けていた。
彼も、大丈夫だ、と目で返し自分が戻ってくることを約束する。まるで今生の別れのようになってしまったが、橙子はその気はないのにと呆れると二人共にもう一つのドアの奥へと潜っていった。
◇
異質だった。
信用できる人物であるからという事で付いて行ったが、一夏が始めに思ったのがその異質さだった。
階段を一つ下り、薄く赤く光る扉の向こうに入ると、そこは一言で言うなれば悪の科学者の実験室だ。
ただ違うのであれば、その張本人がまだ信用できることと実験動物の代わりに造りかけの人形の数々があるぐらいか。それでも異様さは変わりなく、一夏は肩身を狭めて橙子の後ろを付いて行くが、周りの人形から感じる事のない視線に寒気を感じたので、血の気が引きつつあった彼は思わず意識よりも先に口が動いてしまう。
「…ここはぁ…一体?」
「ここは私の仕事場。一夏君も知ってるでしょ? 私が人形造っているの」
「…知ってはいますけど…なんていうか…」
「別に、一夏君をこの材料にしよう、なーんて事はしないわよ? 第一、そんな事するのはそういう趣味がある魔術師か馬鹿ぐらいだから」
ハッキリとそんな事をいうかと橙子の場違いな明るさに、気が和らぎつつも心配に思えて来た一夏は、部屋の中心に置かれた大きな台座を見て再び顔を青ざめさせる。
周りにぶら下がっている人形とセットで、何もないのにその台座が恐ろしく思えて来たのだ。きっとあの上で人形を作っているのだろうと思うと彼の背筋に嫌な寒気がまた走り抜ける。
本当にどうなるのか。今更だが、一夏は無関心で考えなしな自分を恨んだ。
「さてと。ちょっと用意するから…一夏君、その台座に座って」
「え」
「大丈夫よー別に。言ったでしょ? とって食うつもりはないって」
「………」
「それと、上着は脱いでね。邪魔になるから」
何気なく言う言葉の一つ一つに恐怖を感じ、一夏の全身には汗が噴き出す。
そして全身の体温が下がり、何か走馬灯のようなものを感じ始めていた。
「ほ、本当に…大丈夫なんでしょうか…」
「本当に大丈夫。ただの検血だから」
その内、魔術で眠らされて人体実験。などにはならないかと恐怖していた一夏は、恐る恐る橙子のいう事に従い、着こんでいた上着を脱いで隣に置く。
銀色のトレイの上に検血に使う注射器と消毒液などのセットを乗せたのをもってきた彼女は上着とは反対側にそれを置くと、一夏と面と向き合う。
「よし。じゃあ一夏君。早速だけど…」
「は、はい…」
「服。脱いで」
再び眼鏡をとった橙子は、上半身が露わになった一夏の目を見る。
ちなみに彼の頭の上には現在真新しいコブ出来ているが、それが誰が付けたのかは誰も知らない。
そんな少し和んだ空気の中で、また細く鋭い目になった橙子は低い声を出した。
「さて。あの夜に話せなかったが…これはお前に直接関係のなかったことだからだ。これから話すのはある意味、聖杯戦争に関する事と、お前自身に…まぁ関係のあることだ」
「…それと…この状態に何が?」
「―――織斑。お前は「魔術回路」について聞いた事はあるか?」
「…無いです。今まで魔術なんて知らなかったんですから。千冬姉に聞いている筈ですよ。俺が魔術の経験ゼロってこと」
「それは知っている。だが、念のためにな。今回の検血はそれも兼ねてだ」
魔術回路というのを調べるためか、と聞かれればそうではない。と橙子は返す。
元々はしっかりとした設備があるところで行うのだが、一夏たちの立場上そういった場所に行けないことから橙子に話が回って来たらしい。
今回、一夏の検血で調べることは二つ。魔術回路についてと、彼の『属性』について。
「魔術回路。名前の通り、魔力を通す回路のことで魔術を行使する。そのために使われるのがソレだ。回路の本数や質は人間によって様々で、大抵の人間は数が少なく、質もそこそこだ。だが魔術師は本数で言えば常人よりも多く、質もそれなりに良い物が揃う。そうでなければ魔術師としてやっていけないからな」
いわば、回路が多いことは魔術師としては必須条件である。と言うことだ。
「で。もう一つは属性。これは魔術にどんな特性があるか、どんな魔術と相性がいいかというのを定めるもので…まぁ言うなればゲームとかであるアレと同じと考えてくれ」
「…四つの属性みたいなのですか?」
「そういう感じだ。魔術での属性は五つ。
火・土・水・風・空
この五つが主な魔術師たちが持っている属性だ。中には例外もあるが、これが普通だと考えろ」
「…火とか水は分かりますけど、どうして空が? 空なら見た目的に風に部類されるんじゃ」
「普通の人間ならそう思うが、空はいわばそれらとまた別の存在だ。いわば事象。
…アカシックレコードは知っているか」
「…確か、人間の輪廻転生がどうの…って漫画か何かで」
「アカシックレコードは言うなれば事象に起こったことや人間の存在といったものが記録されていると言われている。それを属性とするのが空。いわば天空だ」
「…つまり、そういった事で事象とか弄れる魔術師が?」
「さてな。そこまでは専門外だし、話に関係はない」
あくまで今回はその属性と回路についてを知る事が目的であって、魔術についての勉強をするときではないと断言する。本人も早くこういった事を終わらせたいのだろう、少し呆れた様子で一夏を見ていたのだ。
「検血は三本。三回行うからな。途中で泣くなよ」
「子どもじゃないんですから…」
検血用の注射器を構える橙子に苦笑して答える。針のものが迫ると恐怖感が沸いてしまうが、今は我慢するときだ。
自分の体にそう言い聞かせ、一夏は台の上に寝転がると無言のまま始まる検血に目を閉じた。早く終わらないか、と恐怖が過ぎるのを待つ子どものように。
次回予告
「やっぱり、魔術は必要なんですか?」
「戦うのであればな。特に、お前には―――」
「…どういう事だ。一体なにが…」
「この気配…サーヴァントです」
次回 「マスター」