IS×Fate - No Limited War -   作:No.20_Blaz

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第六話です。


相変わらず次回予告に対し悩みを持っている状態…

いっそのこと次回のサブタイだけにしようかなと考えています…もうだまして悪いかはしたくないので…



さてさて。今回は少しマスター、つまり主人公について食い掛かろうかと。一応、いっくん現時点であんな状態ですからね。

それでは、第六話をお楽しみ下さい。


#06 「マスター」

 

 

 

 

奥に通じていた扉が開くと、一夏と橙子の二人が暗い中から姿を現す。

片や多少疲れたような表情で、もう一人は眼鏡の奥から分かるほどのつくり笑顔なので、黙ってソファに腰かけていたセイバーは何かされたのではないかと心配げに彼のもとに駆け寄る。

 

「イチカ、無事ですか?」

 

「あー…血ぃ抜かれた後ってこんなにクラクラするんだなぁ…」

 

検血で血が抜かれたので体内を流れる血の量が少なくなり、動きも少しだけふらつきが見え隠れしている。橙子自身、そこまでの量を抜き取ったわけではないので否定はしないが、せめてと思い進言だけはしておく。

 

「慣れてないのなら、しばらく過度の運動とかは控えなさい。それと、普通に血の元を食べることね」

 

「そうすることにします…」

 

医療技術も持っているのでもう少し専門的な事をいうのかと思っていたがと拍子抜けにも感じてしまい、まるで分かっていないかのような答え方で返事をしてしまう。

 

「ついでに健康診断もしておいたから。取りあえずいう事はそれぐらいよ」

 

「…で。あれの結果って何時わかるんですか?」

 

「そうね…取りあえず二日…ってとこだと思うわ。そんなに時間かからないし、もしくは明日には分かるかもしれないわよ?」

 

「随分大雑把ッスね…」

 

「ま、やる事がやる事だから、時間もそんなにかからない筈よ」

 

「分かりました。わかったら電話して下さい」

 

「ええ。それと―――」

 

 

 

 

 

 

 

振り返ると、蒼崎橙子は眼鏡を外していた。鋭い目は睨んでいるようにも見えるが、その瞳が捉えている相手は単に逃がさないようにと掴まれているように思えた。

 

 

 

「―――聖杯戦争は七人のマスターが競い合う戦いだ。当然、マスターは基本人間。

 

 

 

 

…マスターは揃ったが…全員ここに集まっている訳ではない。

 

規則がほとんどない以上…途中乱入も考えられるんだ。

常に目の前の敵だけが全てだと思うなよ」

 

 

 

 

警告。いや、忠告なのだろう。

それにしては嫌に予言じみた言葉だったので、彼の背筋に冷ややかな寒気が走り抜けたので一夏は真に受けて息をのんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ…セイバー」

 

「なんでしょう?」

 

「聖杯戦争の参加者は魔術師がほとんどだろ? 参加する以上、魔術って必要不可欠なのかな?」

 

日が落ちていき、段々と夜の姿に街並みが変わり始める頃に一夏は隣を歩くセイバーに真剣な顔で訊ねる。

唐突に聞かれたことに多少は困っていたが、少し考え込むと彼女なりの回答を出す。

 

「…聖杯戦争のマスターが基本魔術師であるので、魔術を心得ているというのはある意味常識というよりも当然のこととして捉えらている筈です。なので、もしイチカが他のマスターたちと出来るだけ同じ土俵に立ちたいというのであれば、魔術を取得することに意味はあるでしょう」

 

「…なるほどな…」

 

「ですが、イチカは魔術師としての教育や鍛錬を一切行っていないので無理にすることもありません。魔術の鍛錬は一朝一夕で出来ることではありませんし、何よりできたからと言っても経験や実力的な差は簡単に埋められません…」

 

無理にしてしまえば荒削りなところもあって余計な負担やボロが出ることだってある。逆に丁寧過ぎては時間がかかり過ぎて中途半端だったり未完成だったりと絶対に完成には至らないだろう。

もしかしたらそう言った所を気にしていたのではないかと、セイバーは余計だとは思っているが出来るだけ気負わせないように、また明るい目に続ける。

 

「聖杯戦争は何が何でもマスターを七人揃えさせます。ですから、中には魔術回路が使える状態のままの一般人だったりが参加することだってあります。

それに、もし貴方が今からでも魔術を学びたいと言えば無理とは言いません。が、中途半端というのはやるかやらないかを決めないほど始末が悪い。やるにしても出来るだけ時間をかけて行わないと…」

 

「…けど、魔術師の戦いに参加する以上はそういった知識とか技術は必要だ。確かにセイバーの言う通り、やるにしても時間が必要だしそういった事ができる環境だって要るはずだ。

でも知識だけなら、せめてそれだけでも知っておけば…ある程度はマシなハズだ」

 

 

一夏はあえて技術や実戦といった使うことではなく、そういった知識を学ぶことで聖杯戦争に活かそうと考えていた。

それも、彼曰く聖杯戦争、つまり戦いの場で使われる、使われた物に対する知識だけでも知っておけば幾分かは分かって活動に役立てるだろうというのだ。

 

「…なるほど。つまり技術そのものを諦めて知識を先に習得する。そして、それを聖杯戦争に活かす…ですか」

 

「知識なら直ぐに飲み込めるし、それを知っていれば対策とかも出来るはずだ。知っておいた方が損はない…だろ?」

 

「確かに、それはそうですが…魔術師たちが使う魔術は多種多様です。そういった魔術を知っている人間はそうそう…」

 

 

「…居るだろ。二人」

 

 

「…イチカ、まさか…」

 

「参加できるかどうかって手をこまねいているんだ。それだけでも役立ってもらわないと」

 

まるで策士のように笑いながら言う彼の姿は、セイバーからも少し頼もしく思える。

今まで彼女が知るマスターの中では最も実力・知識共に一般人レベルと言えるが、頭の回転とコミュニケーションで言えば上位ではある。特に後者はセイバーにとって言葉にはしないが絶対に必要なこと。マスターとの意見交換やコミュニケーションは聖杯戦争ではある意味重要なことだ。

それを欠いてしまえば、いくら陣営として成り立っていても瓦解は容易過ぎる事だ。

 

 

「…分かりました。では、戻ったら私が知る限りの事をお教えしましょう」

 

「ああ。頼む―――――けど、その前に…」

 

 

腹が減っては何とやらだ。

そう言って一夏はセイバーを引き連れて夕方の魔窟であるモールへと足を踏み入った。

今日一日、戦いのためとはいえ付き合ってくれたささやかな礼と今後への活力のために。

 

 

 

 

「…セイバーって嫌いなものはあるのか?」

 

「嫌いなもの…ですか」

 

モール入って早々に、嫌いな食べ物はないかと問う一夏。

流石に嫌いなものを無理に入れることや今後それを避けていくという事はしないが、一応参考程度にと思い聞いてみる。いくらサーヴァントと言っても実態は人間だ。

人である以上好き嫌いはあるだろうし、アレルギーだってある筈。

それに加え、彼は少しでも彼女を知る機会になればと、小さな興味と出来心を抱いていた。

 

 

「そうですね…基本、そこまで嫌いなものは無いのですが…」

 

ふむ、と考え込む姿のままひょいひょいと人を避けて随伴するセイバーに、一夏はよく当たらないなと感心していた。

騎士として気配察知は鍛えられているのだろう。それが自然と発揮されている、というのが一応の見解だが、どちらかというよりもそういった事が慣れていると言うような立ち振る舞いなのだ。

すると、真剣に考えていた彼女の顔が曇り回答を導き出した。

 

 

「強いて言うなら…その…」

 

「…その?」

 

「……………蛸が…」

 

 

 

 

蛸。あの軟体生物が嫌いであるという事に、驚くことも無ければ無反応というわけでもなかった。むしろ、それは上等と納得していた彼はへぇと声を出す。

 

「あのぬめりが嫌いなのか?」

 

「…まぁ…それに…」

 

「………?」

 

何か思い詰めたような顔で俯くセイバーに、買い物かごを取った一夏は首をかしげる。

別に蛸が嫌いだというのに疑問を持っているわけでもないし、バカにしているわけでもない。なのに、どうしてそこまでと、思うとどんより雲のような顔で顔を上げた。

 

 

「…いえ。別に…あとは私情ですので…」

 

「…そうか…別に無理に理由を言えって言わないし、嫌なら嫌でそう言ってくれたなら助かる」

 

彼女が何故蛸が嫌いなのかは本人も話したくないのだろう。なら、無理に聞くより自分なりの解釈で納得しておけば互いの為になる。

一夏は本日のこんだてから蛸を除外し、何か精のつく物をと思い歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

血が抜かれたのでまだ少し頭がふらつく一夏は、とりあえず血液を作るものをと思い何がいいかと探し歩く。

ベターに肉、大豆、ホウレンソウ、魚類もそういったものがあったなと記憶している。

だが魚類で蛸は出さないようにと自分に対し言い聞かせると魚の売り場から離れ、肉の売り場に移動した。

 

 

「…さて。昨日はなに食べたっけ…」

 

不意に昨日のこんだてが何だったかと思い返す。聖杯戦争の開戦という事で多少メニューに変更はあったが大幅に変わったというわけではない。

先ずは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白米、味噌汁、カボチャの煮物、塩魚、豚の生姜焼きです」

 

 

………僅か数秒足らずで昨日のメニューを全て的確に言い当てるセイバー

 

それには後ろを振り向かなかったが一夏も硬直するほどだった。

しかも、その後に彼女の夕食に対する感想が延々と流れていたので、

 

 

 

「…今日はやけに店内放送がうるさいなー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。今日は蛸にしよう。と

ついでに対極のイカも戦線投入を決心したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある程度だが買い物は順調に進んでいた。

残念ながら蛸は無かったが、その代わりにイカの切り身があったのでそれを代用に使う事にした。

ちなみに後ろから涙ぐんだセイバーの声が聞こえていたが、一夏は空耳だろうと一蹴して鮮魚コーナーを後にした。

 

ホウレンソウと大豆、そして魚類。本日は照り焼きにしようと、ブリを三人分購入。

ついでに前者二つでゴマ和えを付け加える。

これで二品ほど埋まった。

 

 

 

「…さぁて…次はどうするかな…」

 

「………ゴメンナサイ、イチカ…」

 

先ほどからしょげた声を出すセイバーにそろそろ慈悲を与えてやろうかと思い、後ろに振り返る。

 

「…別に感想については怒ってないけど、リクエストとかが流石に多い。

あと、感想はご簡潔にお願いします」

 

「はい…私も少しはしゃぎすぎました…あまりにイチカの料理がおいしかったので…」

 

「まぁ別に料理を美味いって言ってくれることには感謝してる。それが作った人にとっては一番の報酬だからな」

 

だが流石にリクエスト五十品は多すぎだ。と最後にトドメをさす。

こうして、美食魔将セイバーは呆気なく倒されたのだ。

 

「すみません…」

 

「けど、蛸以外は特に嫌いなものはないなら、作るのは簡単だけどな」

 

嫌いなのが蛸だけであるなら、それを避けて作ることは容易だ。

複数あれば苦戦するだろうことだが、セイバーの場合はひとつだけに絞られているのでそれさえ入れなければいい。

 

 

「…取り合えず(白米)と味噌汁は必須として、あと一つぐらいは出すべきかな…」

 

 

 

「では。今日は妥協して浅漬けというのはどうでしょう?」

 

 

 

 

ふと。何処からか聞き覚えのある事が聞こえてくるので、二人は声のする方向へと顔を振り向いた。

桃色の髪と狐の耳。尻尾がないのは魔術で隠しているからだろうか。

だがそれでも覚えのある姿であるのに変わりはない。

セイバーと同じく私服姿であるキャスターがマスターの同伴としてか買い物カゴを持ち立っていた。

 

 

「先生。それに…」

 

「キャスター…」

 

「お話は悪いと思いますが聞かせていただきました。やはり、日本人である以上は和食は必須!! 洋食・中華でご主人様のハートをがっつり鷲掴みしたいこのキャス狐ちゃんなのですが、私であればそこに更にもう一品プラスッ!!!

ズバリ! ホウレンソウと大豆の見事なスーパーリンクを解除してホウレンソウをおひたしにして大豆昆布にすることでしょ…ぐへえ!?」

 

延々と語りつくそうとしていたであろうキャスターに後方から鉄拳の制裁をする翼は軽くため息をついており、直ぐに二人に謝罪する。

 

「スマン。二人とも。ウチのダメ狐が」

 

「あ…いえ…お構いなく…」

 

マシンガントークを終わらせてれた事に感謝して礼を言う一夏だが、その後ろに居るセイバーは固まった顔で彼女らを見ている。何をしにきたのだと言う顔で見つめられていることに気付き、翼は小さく息をつくと相手をセイバーに移す。

 

 

「………」

 

「…言っておくがセイバー。私たちはまだお前たちと敵対すると決まったわけではないし、そもそも参加できるかどうかでさえも分からない。だから今はまだ、敵意を向ける意味はないはずだ」

 

「ええ。ですが、もし参加できるのであれば貴方は敵だ。それに…貴方にはそこのキャスターと、もう一人―――アーチャーが居る」

 

「………なるほど。早期から警戒して、攻撃を受けた際のダメージを出来るだけ軽減させようと…確かに、聖杯戦争はバトルロイヤルであるから、共謀もあれば裏切りもある」

 

セイバーが言うことは正しいだろう。

カゴを持ちあげ、ついでにキャスターに起きるようにと言う。

それでも彼女は余裕げだ。

 

「だが、生憎とアイツは今は別行動中でな。呼び出すことも出来るが…」

 

「…キャスターと貴方だけでも、私たちを倒せる、と?」

 

「そうは言っていない。ただ、敵意があるのであればもう少し構えはしてくるはず、という事だ」

 

無防備とはいかないが、翼の意見に確かにと納得する一夏。

キャスターは他のサーヴァントとは違い、拠点防衛が主な戦闘方法だ。そのキャスターがこうして堂々と陣地の外に出てマスターと共々買い物をしているのであれば、本気で戦いに来ているのか疑いたくなる。

これがもし普通に買い物に来ただけと言われれば誰でもそう思ってしまうだろう。

 

「………分かりました。ですが、今は聖杯戦争中です。過敏でなくても、警戒するに越したことはない」

 

「それは分かるが、だからといって三百六十度が敵であるというわけでもあるまい。少し気負いしすぎではないか?」

 

「………」

 

口を尖らせで黙ってしまったのは、図星だったからだろう。

まだ彼女という人間の性格が分からない一夏にはどう言い返すかも難しいが、それだけは理解することができた。

だが。

 

 

 

「…なら。先生は結局、どっちだって言うんですか」

 

「…と言うと?」

 

「助けてくれるという事で一応味方寄りだとは思ってましたけど、言い方からして敵対してもいいっていう様な言い方だ。人間的に言えば一番いい加減な立ち位置に居る。

敵であるのか味方であるか…先生はどっちなんですか?」

 

「………」

 

一夏からの反撃に目を逸らした翼。だが、表情は図星であるというよりも考えているといったもので、そこから返された言葉も冷静なものだった。

 

「…少なくとも、織斑女史と関係がある以上は敵ではない。だが、もし聖杯戦争に参加するのであれば…私たちは敵だ」

 

「…じゃあ―――」

 

 

 

 

 

 

「―――お前は斬れるのか。大切な友人を」

 

「ッ―――」

 

「聖杯戦争は事実自分以外敵と見て考えてもいい。つまり、相手を信用しきってしまえばそれが仇となって自分の懐や弱点を突かれる。

今ここでそうなってしまえば、次は何が漏れ出てしまうは分かった物ではないぞ」

 

 

常在戦場。いくら親しき相手でも気を許し過ぎてはいけない。

だが、だからといって厳しすぎては逆に自身を締め付けてしまう。

常に冷静に。物事を見定めろ。

まるで彼女がそう言っているかのように思え、それ以上一夏たち二人は優位に立つことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…少し…気負いしているのか」

 

「…かも、しれませんね。サーヴァントはマスターの性格が反映されると聞きます」

 

「………」

 

遠回しに指摘されていると思いながらも、それに反論しないのは自負しているからだ。

人見知りではないが、時に周囲に神経質すぎる。一夏は以前、姉にそう指摘されたことがあり、それによってトラブルを起こしたこともある。

そのトラブルは幸い最小限に抑えられたが、それ以来一夏は少しずつ他人との関わりに疑いを持ち始めていた。

今回は、それが影響したのかもしれない。

 

 

「…子どもの頃」

 

「はい…?」

 

「まだ小さかった頃。よく虐められててさ。理由もなんてことのない、年相応の勢いっていうか…」

 

「嫉妬ですか?」

 

「いや。それは別。もっとシンプルっていうか…誰だって冷静さを失えばそうなる」

 

「………。」

 

つまり自分たちが冷静であると思っている時ほど、冷静さを欠いて激情に身を任せる。

 

 

「まさか…特に理由がないのに…ですか…」

 

「子どもなんてそんなモンだ。単にうざいからとか、自分にとって気に食わないなら手あたり次第に喧嘩を売る。そして、自分の立場に心酔していく。

現実、そんなのが無力だなんて知らないんだ。社会や、自分たちの置かれている立場とか。そういったのがこの世で最も安全だから、そういった威張りが出来ているんだって」

 

「………」

 

 

 

今でも思い出すと、気分が暗くなる。

理不尽な暴力というより、意味のない空の権力にひたすら酔っていた彼らの姿に吐き気だけでない、苛立ちと怒りを感じられた。

所詮、ああいう人間はそういう物だと、そう割り切ってしまった。

 

 

「…一つ。訊いてもよろしいですか?」

 

「ん…?」

 

するとセイバーが唐突に訊ねてくる。顔は硬いままだが、どうやら気にしているらしい。

 

「今朝出会ったあの青年たち。彼らは同じ学校に?」

 

「…いや。入学式に見たけど、入ってなかった」

 

「なら。別に気にすることではありません。彼らは部外者であり今のイチカとは何の関係もないのです。関わりが断たれたのなら、素直にそう割り切るべきです」

 

「…まぁ…そうだけど…」

 

「それに。”そんな奴ら”に気を逸らすのであれば、聖杯戦争に集中するべきです」

 

上機嫌に言うセイバーの顔は、一夏から見て妙に嬉しそうだった。

彼女なりに気遣ってくれている。そう思えると、少しだけ気が和らぎ表情が明るくなる。

自分が散々嫌っていた相手を「そんな奴」と一蹴してくれるのもセイバーだからこそなのだろう。

 

 

「…そうだな。ありがとう、セイバー」

 

「いえ。マスターに何かあるのであれば、サーヴァントとして見逃す理由はありません。万全を期して臨む。それが、私たちの大切なことなんですから」

 

「…万全…か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それも万全のひとつか?

 

 

当然です。イチカからの魔力供給では―――

 

 

そう言って一夏の目の前でセイバーがまた一つ、大きなパフェを完食したのだった。

 

 

 

 

「…よく食べるな」

 

「あの体格で既に三つ…よく太りませんね」

 

「いや、お前らに太る概念ないだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――さてと。そろそろ帰るかな」

 

買い物の袋を両手いっぱいにもった一夏はモールの前で翼たちと別れようとしていた。

互いに自宅の場所が違うのも理由のひとつだが、それ以上に参加可能か否なかは別としてマスターだからということでもある。

 

「今晩はお魚ですか。火加減にはご注意してくださいね」

 

「大丈夫ですよ。何年あの人の傍らで家事していると思ってるんですか」

 

「…そういえば、織斑女史は…」

 

「表じゃ隙なしって言ってますけど、本人はかなりズボラですから」

 

きっとどこかで彼女がくしゃみでもしているのではないかと思いながら本音を暴露する一夏に何とも言えないといった顔で溜息をつく。

彼女の弟であるからこそ知っていることであり堂々言えることだと分かっているが、それを人気のある場所でいうところも、流石は唯一の肉親だと思っていた。

自宅での二人の会話を見る限り、対等ないし千冬の方が少し上の立場であると思っていたが、どうやら前者が正しかったようで二人の複雑な家庭事情であるからこそそういった関係が出来ているのだと見た。

 

 

「…あまり表で堂々と言ってあげるなよ。彼女もそれなりに苦心する」

 

「…ええ。そうしときます」

 

この場では、と付け足すように諦めた一夏は目線を少し逸らしそのまま解散するかのように帰ろうとするが、やはり今するべきだと思い帰ろうとしていた翼たちを呼び止める。

 

「…あの、先生」

 

「なんだ…?」

 

「………。」

 

聞くべきは一つ。それは昼に橙子に訊いたことと同じ、魔術についてだ。

しかし魔術は一応普通の人間の前では絶対に秘匿しなければいけないので直線的に聞くことはできない。なので、一夏は少し遠回しで彼女に問いを投げる。

 

 

「…やっぱり、(魔術)って…必要なんですか?」

 

 

「………」

 

 

直球勝負の一言に最初は少し面食らっていたが、やがて言葉の意味を知ると彼の目を見て考え、そして結論を返した。

 

 

「…戦うのであればな。特に、お前には―――」

 

「ッ…」

 

「…ハッキリ言えば、戦う力がないと生き残ることは先ず難しい。何処で指揮をするなりにしても、自分のことを自分で守れる程度には力は必要だ」

 

「………。」

 

「お前は彼女と一緒に前線に立つのだろ? なら、なおさらだ。前線は戦いの場で最も熾烈極まる場所。生半可な力やそもそも力が無ければ生き残ることはではできない。

重武装の前線に裸の人間を放り込むのと同じでな」

 

「けど、今からじゃ…」

 

「そこは自分でなんとかするんだ。自ら先頭に立つと決めた以上、そこをどうするかもマスターとして…戦う人間として重要なことだ。誰かに聞くより自分でやったほうが自然と自分にあった物になっていく」

 

アドバイスは与えられないが、助言は出来る。そう言わんばかりに淡々と自分の考えを話していく翼に、自然と彼の隣で静観していたセイバーも顔を頷かせる。

長い間、戦いの中で培った経験は確かなものであり、それは一度経験したことであれば正否は直ぐに分かること。特にセイバーは歴戦の騎士として、ひとりの剣士としても彼女の意見には納得していた。

 

(だが…)

 

「が。突貫工事でどうにかなるものではない」

 

「ッ…!」

 

「こればっかしは事実であり現実だ。たった一週間かそこいらで他の相手と戦えるレベルなぞ、偶然か仕込まれたことでもない限りは無理な話だ」

 

「それは…」

 

「それに時間をかけるにしても、そこまで続く戦いでもないしな。長くて十日…短くても一週間。その間に生き残れるか、それまでに戦う力を身に着けられるか。力云々よりもお前の問題はそこだ」

 

「―――ッ」

 

 

セイバーと同じく、時間的に間に合わないと指摘する翼に言葉が返せない一夏。

しかしそれを知っているからこそ、翼はそこに自分の言葉を付け加える。

 

 

「だが諦めろとは言わない。

自分のやり方で。自分の方法で。

その術を見つけるんだ。誰が示したことではない、自分で考え、見つけた方法でな」

 

 

武人として。一人の戦う人間として。

それが彼女、風鳴翼からの助言だった。

 

 

「………。」

 

「先生…」

 

「何を見つけるか…楽しみにしているよ」

 

「それって負ける覚悟バリバリってことですよ、翼さん」

 

「負ける気はないぞ? キャスターだけの場合は腹を切るが」

 

「みーごと私を戦力としてアテにしてませんよねソレ」

 

「物理的には極端だからな、お前」

 

 

キャスターとの会話に少し空気が和やかになる。

二人の会話は親しみと明るさ、そして信頼があるもので見ているだけでも気分が和らぐ。

このまま彼女が味方であってほしいと願いたいが、それは「そうならないかもしれない」という考えに阻まれていた。

それでも彼女らの会話にそんな感覚があることで気を緩めていた、が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――イチカ」

 

「なんだ?」

 

「…おや。コレは…」

 

日が沈んだ空を見上げる二体のサーヴァントは、自分たちの自前の能力を頼りに感じたものがなにかと探していく。

空気に漂う気配。肌から神経を伝う感触。そしてそれを脳が刺激されて記録の中から呼び覚ます。この気配が一体なんなのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この気配…(サーヴァント)です」

 

 

「ッ…!」

 

 

「しかも…これは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どういう事だ。一体なにが…いや。なぜ…と言った方が正しいか。この場合は」

 

次第に夜の世界に変化していく街の中、アーチャーは異様ともいえるサーヴァントとマスターの行動に驚くしかなかった。

来るものを拒まず。

 

マスターの一人が、堂々と自分の居場所を教えて来たのだから。

 





次回予告


「サーヴァントよりも、マスターがか…」


「また会えるとはな」


「アンタは…まさか…!?」


「さぁ始めようではないか、戦いを………!」



次回 「交わる時」

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