IS×Fate - No Limited War - 作:No.20_Blaz
さて。聖杯戦争も少しずつ動き出します。
…ケド、IS部分も進めないと…一応どうするかは決めてるけど、場面が決まってないというのが現状なんですハイ
兎も角。なんとか打開してみるとします。
それでは第七話をお楽しみ下さい。
聖杯戦争の基本的な動きは観察と推測。そして行動。
情報を収集し、それを分析。英霊の正体と宝具を見破り、そして行動を起こす。
それは静観であれ遠征であれ同じことだ。
危険な相手であるからこそ、有利な陣地で静観することも重要な事。逆に攻められる時であるのなら攻めるべきだ。そうしなければ相手に僅かでも隙と猶予を与えてしまい、打開策を講じられる可能性だってある。
しかし、その行動原理は基本的なことであって原則的なものではない。
情報収集をどうするのか。どうやって行動を起こすのか。それはマスターとサーヴァントが知恵を振り絞って行うことでもあるのだ。
◇
「―――イチカ。今更なことなのですが、危険ではないでしょうか。いくら相手が姿を晒しているとはいえ、単独での迎撃は隙を見せる」
「分かってる。けど、相手が姿を現してそこに向かっているサーヴァントが居る、そんな状況なら少なからず他の陣営だって偵察したりするハズだ」
「それは理解しています。だが…」
「…やっぱ、死ぬ?」
「下手をすれば…」
「………」
威勢よく言ったはいいが、結果として一夏が足手まといであるのには変わりはない。
直球で言わないよりはマシではあるが、やはり自分が無力であるという事には彼にとって納得しがたいことだ。
「…マスターであるイチカの方針に異議を唱える気はありません。ですが、知らずに自身の命を賭けることだけは自重していただきたい。貴方は聖杯に選ばれたマスターなのですから」
「それだけ…俺の命は狙われやすいって…ことなのかな」
「ええ。マスターを倒せば、アーチャーを除くサーヴァントは高い確率でその場で消滅します。聖杯戦争に参加している魔術師であるなら、それは猶更、優先的に数を減らしにかかる」
「獅子は兎を狩る時にも全力…か。俺は兎以下なのかなぁ…」
自分が兎というよりもただのネズミであるように思えて来た一夏は無力さに悲観してため息をつく。
今でも自分の戦闘能力の無さは自他ともに認めるものであり、人によっては笑われるのも間違いはないと追い打ちをかける。
だが、だからといって直ぐに強化できるわけでもない。
「ご心配なく。イチカは私が守ります」
「…ありがとう、セイバー」
―――斯くして。セイバーの陣営である彼女と、マスターの一夏は直ぐ様サーヴァントの気配のする場所に赴いていた。
他のサーヴァントを知るため、そして可能であるなら呼び水であるサーヴァントや集まったサーヴァントを一体でも倒すため。
賭けに近い戦いだが、一定の価値はある。
「今までで分かっているのは、イチカを襲撃したランサーとそれに便乗するように現れたというアサシンの二体。まだ残り四騎のサーヴァントが居て、特にキャスターが動きを見せていないというのは気がかりです」
「…拠点での防衛戦が得意…だっけ」
「それにクラスとの相性によってはかなり厄介な相手です。諜報や観察。偵察といったものにも役立つ能力を少なからず持っているはずだ」
「なのに、今はその感じがない…?」
「相手が上手く隠れているのか。それとも別の方法で見ているのかは分かりません。いずれにしても、ノーリアクションというのは気持ちが悪い」
「確かにな…だが。今は居ない相手より居る相手だ」
現在。二人はある建物の前に立っている。
そこは、夜の時間帯、特に人気のない所で戦うというのには持って来いと言えるような場所だ。
その巨大な建造物の大きさと迫力はさることながら騒がしい音の中で静かに立つその姿にセイバーは思わず彼に問う。
「…ところで、イチカ。ココはどういう施設なのでしょうか」
「公共の体育館。スポーツ全般はここで行えるし、最近はISのもここでやったりするって言うから、かなりデカいんだ。昔は中学の時に来た事はあったけど、こんなにデカくはなかったなぁ…」
「改装…でしょうか」
「どっちかっていうと増築だろうな。この体育館はそのままだし」
相槌を打ち、正面の扉に近づく二人。
すると出入り口である自動ドアは何事もないかのようにその壁をスライドさせる。
「…閉館時間…過ぎてるよな」
「ええ…」
―――居る。
そこにサーヴァントが居るという確信に二人は小声でささやくように言い交す。
閉館時間はとっくに過ぎているというのに自動ドアは何事も無かったかのように開いている。普通このような公共の場には侵入者を防ぐために鍵を駆けたり電源を落としたりするのが定石だ。
自動ドアの電源を落とし、改めて扉から出て鍵を閉める。
そうすれば、閉館時間を狙って入る侵入者は強行突破か他の方法を模索することになる。
「…どうぞ入って下さい…って言ってるな」
「どうやら、このサーヴァントとマスターは好戦的な陣営のようだ。結界や監視の気配はあるが、罠のようなものは見当たらない」
「真っ直ぐこちらに来てくださいって言ってるようなものだな。逆に怖いな…」
監視はしているが、それはあくまで誰が来たのかを知るためだ。
そして結界は一般人に気付かれないため。
迎撃は全て自分たちが行う。そういったコンビなのだろう。
「イチカ。建物の構造は」
「覚えてる。一階のココ、エントランスから真っ直ぐ行けば大型の第一体育館。左が第二体育館だ」
建物自体の構造は変わってないので、イチカは記憶を辿って内装を話していく。
一つの建物だが、そこには大小合わせて四つの体育館があるのが特徴だ。二階と三階まで吹き抜けた体育館が複数。その周りを囲むように各設備等が並べられている。
「では私の後ろに。気配は正面からしています」
「わかった」
いずれにせよ、そう言ったことについては関係はない。ただ正面の先にある扉の向こう側に敵が待っているという事実だけが、今の彼らにとっては確かなことでありやるべきことだ。
一夏が建物の中へ入ろうとする直前、セイバーは漂わせる雰囲気が変わったと共に周囲に風を巻き起こす。そこから魔力によって編まれた、召喚時の騎士甲冑を纏い右手には見えない剣を握る。未だにマスターであるイチカでさえもその姿は見た事が無いが、それだけ彼女の名前と結びつく縁の強い剣であることは確かだろうと、一応はそれを受け入れているのだ。
「―――行きましょう」
「…ああ」
用意はできた。二人はただ一言だけ交わすと、暗い建物の奥へと入って行った。
ここで一夏が説明しなかったがもう少し入り組んだ説明をしよう。
この体育館は大型の体育館が二つ縦の長い小さな体育館が二つの計四つが特徴でその他のスポーツにも対応した屋外用も用意されているがここは規模が小さくあくまで「ついで」のような感じだ。
それぞれ屋内スポーツや屋内でのイベント等を予想して作られたもので、広さも近隣のと比べると勝っている。
また、売店や用具品販売所なども充実。
近くには公園と規模の大きい駐車場もあり、設備もしっかりと整えられている。
元は大規模なスポーツイベント等を行う場所として使われ、それは今も続いているのだが、現在は新たにIS専用のアリーナを建設するという強引な事が行われたために、その運営を中止せざるえない状況となっている。
その為、現在は残った屋外の施設のみを使い屋内は全て使用禁止。
つまり来るとすればそれは特定の目的を持つ人間だけ。彼らのように、サーヴァントの気配に気づき、立ち向かうとする者たちのように。
「―――一階だから上から狙われる可能性も…あるんだよな」
「その場合は後ろに下がってください。相手の威力次第では貴方も巻き込まれる」
「…その時に、足が動けばいいんだけどな」
中に入ってからの最初の会話だが、その会話も短くアッサリとした内容だった。
それ以後は一夏も自分のことだけで精一杯なのかまともに口が動かず、神経を尖らせて辺りに気を配ることしかできない。
背筋は張りつめて余計な汗を流し、呼吸は溺れているかのように息苦しい。
まだ敵とは一度も出会っていないというのにそこまでの事に成ってしまうのは何故だろう。
そういった分かり切った自問自答に、考えるのも馬鹿馬鹿しいと思い一蹴する。
「…ここです」
「ッ…」
気分の悪さを取り払うようにセイバーの声が耳の奥へと透き通り、意識を引き戻す。
優れない時に長く感じていた道も、彼女の声に気付いた時には直ぐに着いてしまったという感覚になって、何時の間にここまで来ていたのかと驚き気味だ。
「大丈夫ですか? 気分がすぐれないのであれば無理せずに…」
「…いや。ちょっと周りの空気に圧迫されてただけだ。セイバーの声でなんとか持ち直した」
「…あまり無理はなさらないように。貴方はサーヴァントではない。無理に前線に立ったりする必要はないのですから」
「分かってる…けど。もう平気だ」
その言葉が確かな証拠なのか、一夏のは落ち着きを取り戻していて顔色もそこそこだが元に戻っている。
張りつめた戦場に立つということ自体が初めてなのでそれに飲まれていたようだが、セイバーの一声で無事に戻ったと見えたので一先ずはと彼女もそれを信じて再び前に向き直った。
「イチカ。この向こうは」
「体育館だから多分、ほぼど真ん中のフィールドのはず。一先ず後ろと上については気にしなくていい」
「…分かりました。扉を開けたら直ぐにまた後ろに下がって。ひらけた場所であるなら上を取るか奇襲をするかです」
「…ああ」
セイバーに戦闘の一切を任せるということに負い目を感じるが、そうしなければ自分が死んでしまうと言い聞かせると、無理にでも信じ込むように頷く。
体育館へと続く扉は鉄で出来ている両側タイプで、片方を開ければ当然入れるのだが、セイバーは片方の場合マスターである一夏と激突したりとアクシデントが起こると予想したため、あえて多少危険ではあるが両側に開くという方法で中に入ることにした。
「本来なら、サーヴァントである私が前に立つべきなのですが、ここまで明確に気配を漂わせた。だが、それでも危険であることには変わりないので、注意してください」
「奇襲してこないっていうのか?」
「可能性の話ですが。以前、そういったサーヴァントと手合わせしたことがあるので、そういった場合、相手のサーヴァントをおびき出して宝具ないし真名を暴くことに使う方法です」
「なるほど。態と…というか、自分を囮にして相手の正体を暴くのか」
「そういった場合は当然ながらリスクを負う。ですから、そう言ったことが出来る実力と精神を持ち合わせた相手でない限り、こういった方法は自殺行為でしかない」
「それだけ自分の実力に自信があるってことだな」
「ですから、最低限奇襲攻撃の可能性は低いですが、念には念を入れて警戒して下さい」
最後の警告として念入りに押してくるセイバーに言われなくてもとドアノブを握る。
そんな事を念押しされなくても今の自分では恐怖で怖気づくのかもしれないのだ。加えて今までは一生感じることもなかっただろう死への恐怖に反射的に体が動くかもしれない。
言い訳の出来ない理由ではあるが、逃げることに関しては問題ない筈だ。
「―――――行きます」
「…ああ」
刹那。一夏とセイバーは合図と共にドアノブを捻ると、光が差し込んでくる世界へと曝け出した。
◇
時を同じくして―――
「―――どういう事だ?」
職員室で一人、机に向かっている織斑千冬は、目の前のその出来事に思わずそう声を出してしまう。まるで目の前に居る人間に訊ねるかのように言う眼差しの先には彼女にそう言わしめるほどの現実が立ちはだかっている。
疑問というより理解が出来ない。根本的に分からないということで首を傾げていたのだ。
「転入の無期延期…だが向こうからは何も…」
一枚の資料を手元に置き腕を組む彼女は、そこに記されていた事実に驚愕を隠せなかった。
遅れて転入してくるはずの生徒が一人。政府の方から無期延期を申し出て来たのだ。しかも明確な理由も事情も不明、問い合わせても答えられないの一点張り。
つい昨日まで予定通り転入できると言っていたハズなのにも関わらず、何事もなく唐突に告げられたそれは、誰であろうと疑問に思うことだ。
「…答えられないのではなく―――」
答えたくない。口を噤むほど、絶対に話せない理由が向こうにはあるのだろう。
そうでなければ無期延期という事を言い出す理由にもならない。
「ここでは海外のニュースは滅多にやらないからな…向こうで仕入れるか」
呟くとおもむろに携帯を取り出した千冬は、どこかへとメールする。
海外からの詳しい情報がつかめない今では恐らくこの申請の理由はつかめないだろう。ならば、実際にその国に住む人物に訊ねればいいと言う手段で彼女は調べようとしていた。
「…本当はしたくはないのだがな」
言葉通り。本音を言うならばこんな事で頼みたくはないのだがと海外に住む人物のことを思い出して、彼女はため息をついた。
だが調べないわけにもいかない。でなければ何故そうなったのか分からないままだ。
ならばせめて調べて、知ってからそれを納得してもいいのではないか。上からであることは分かっているが、そうしなければ自分が納得できない。理解して引き下がれないのだ。
「―――そういえば…フランスは好きだったか…?」
今更な事を思い出していた時には、既に情報を求むと打ち込んだメールは電波の世界へと飛び立っていた。
―――それから五分ほど経過すると、携帯にメールの返信が返ってくる。
「…番号だけ…か」
ほぼ考えなしに送信したメールなので無視か怒りの籠った文面でも送られて来ると思っていたが、それに反して用件だけを正確に書き記されただけで追伸の一つも書かれていなかった。その文面に用件は口で伝えるという事なのかと思い、さっそく番号を打ち込むとメールに書かれた番号の相手へと電話をする
「あ。織斑先生、ここに居たんですね」
刹那、突然開けられた出入り口から聞こえる声に驚いて携帯を落としそうになり、彼女の体勢はその状態で硬直してしまう。
「…? どうかしたのですか?」
「いや…大丈夫だ…」
突然というわけではないが、気づけなかった自分に恥ながらも冷静さを取り戻した千冬は呼吸を整えると何事も無かったかのような冷静さを装い、後ろから声をかけた人物と顔を合わせる。
彼女の後輩であり今は同じ一組の担任を請け負っている山田真那は多少心配はしていたものの、当人が問題なさそうであるという事と本人の言葉を聞いて、一応の納得をした彼女は、そうであるならと話を始める。
「…みんな集まってるので、区切りが出来たら来てくださいね。今日は多めに買ってきましたので」
「………ああ。もう直ぐ終わる。先に始めててくれ」
「分かりました。それでは」
他愛のない彼女たちだけにしか分からないような話をした後に、返事を受け取ると真那はそれ以上は何も言わずに了解したと返し職員室を後にする。
ポツリと残された千冬は、先ほどまで張っていたはずの肩が少し軽くなったように感じ不思議な感覚になったので小さく息をつくと思わず口元をにやけさせた。
「…私が気負ってても意味はないか…」
調べるなりなんなりは彼女でも出来るが、それにしても制限がある。特にその案件が国絡みのことであるなら尚の事だ。個人情報等に関してなら閲覧できることも限られていて、無理に調べればそれこそ問題になりかねない。
心残りがないと言われれば違うのだが、今はそうするべきではないと思いあえて身を退いた。
「…もう少しだな」
残りの仕事の山を見て呟いた千冬は今日の分を早く片してしまおうと、気分を入れ替えて机へと向かい合う。
これが終わればあとで他の教員たちと共に、とある一室で行われる小さな祭りに参加できるのだ。
彼女が好むビールとつまみ。それを飲み食いし語らうひと時。
聞こえは良いが、実際はただの酒盛りだ。
◇
一方。彼女の弟である一夏は人知れずに戦いに赴いており、光の差し込む世界へと足を踏み入れていた。
「ッ―――」
一瞬、暗闇から明るい世界へと出てしまったことで眩しくなったが、直ぐに視界がそれに慣れて奥の風景を映し出す。
天井にいくつもぶら下がっている電灯が巨大なフロア一つを端まで照らし、至る所の姿を昼間同然に曝け出す。
所せましと並べられている観客席は二階分あり、がらんとした人気のなさは容赦なくその有様を照らしている。客席だけに言えることではなく、放送席や多目的に使われる部屋も、恐らくは使われるハズもないのに関わらず明々と光を灯していた。
無論、それは一階の全てにも言えた事。何処へ行っても天井から照り付ける光によって立っている人間の姿の影が映し出される。
「―――。」
まるで逃げ場などないと宣告されているかのようなこの状態だが、二人は気に留めるつもりはさらさらない。
そんな事を考えている場合ではないのだ。
目の前には予想通り敵が居る。その敵が彼らから周りの風景の様子を切り取ってしまっていた。
「―――なるほど」
ぽつりと口を開く。
驚愕に固まっていた体も、その一言を聞いて動き出し止まっていたものを動かした。
思考。鼓動。呼吸。意識。そして恐怖。
「また会えるとはな。セイバー」
「…ええ。昨日ぶりですね」
緑の服に身を包み、朱色の槍を短めに持つ。
茶色の髪を後ろで纏めた無精ひげの男。
―――忘れる筈がない。
一夏の中でそれは恐怖となり、同時に対抗心となった。怒りにはほど遠い感情。
自分の全てを理解しているというからこその反応だ。怒りと言うのは自分が対等ないしそれに近しい実力を持つと、またそれを考えられるほどの冷静さを持っていない人間がする感情だ。彼の場合は感情が制御できていることで怒りよりも恐怖が優先された。
一度殺されかけた相手。緑のランサーであるなら尚の事だ。
「餌を垂らしてみれば…こりゃまた…最初から大変なのが釣れたもんだ」
余裕気に、さも気まずそうに振る舞うランサーは顔を掻きつつもセイバーと一夏の様子を伺い、なにかを調べるように観察している。それが戦いというのを人生全く経験していない一夏でも察せたのはランサーの向けている目と言葉が一致していないという違和感が僅かに感じられたからだ。
「まさか、貴方がこんな罠をしかけるとは。イチカから聞いた襲撃時ではある意味奇襲のようであったと聞いています」
「まぁね。あの時は穏便に済ませればよかったけど、そこの坊主が抵抗するっていうから結局はそうなっちまったのさ」
「………」
嘘だ。経験上、そういったセリフは絶対に約束されないのが決まりのようなもの。
見られてしまえば殺される。何が原因で秘匿するべきことが漏れるか分からないのだ。口封じをするというのは当然のこと。仮に殺さなかったとしても、かけた言葉次第で口封じは出来るが、効率から考えれば完全に封じてしまった方がいい。
「けど、オジサンは本来こういうのがメインなんでね。ま、許してくれとは言わんさ」
「…貴方は従わせるよりも従う方である。そう言いたいのですね」
「ああ。生前も今もそれは変わらないね。だって面倒臭いし」
「………。」
軽い口調で話すランサーだが、その言葉には反して重く圧し掛かった「何か」を感じられる。薄皮一枚だけではあるが絶対的に硬い皮の向こうに。
セイバーは剣を降ろすと納得して訊ねた。
「では、その従うべき相手…マスターはここに居る。そうですね?」
「ッ…!」
「そりゃ当然。なにせ、今回のウチのマスターはまぁ―――」
「ランサー。話すのは構わんが、私の嫌味だけは言うなよ」
次の瞬間。何処からか聞こえる低くも通った声に一夏とセイバーは反応する。
セイバーは剣を構え、どこに居るかと警戒し、一夏は彼女とは別の方向に目を向けて姿を探す。ランサーのマスターがどこからか話を聞いていて、その会話に割って入って来たので何処かに居るのは確かだ。
しかし声は広い場所の所為で四方から聞こえており何処にいるのか全く分からない。
まるで四方全てから話しかけられているかのように思えるが、そんな事は断じてないと分かっているからこそ二人は周囲に気を配るのだ。
「…この声、どこかで…」
「おや。嫌味を言われて凹むほどでもないでしょ」
「そうはいかん。世間へのイメージというのは大切だからな。余計なところを見せるものではない」
通った声が聞こえ、それと共に歩く音が響いて来る。
重く、しっかりと地面に足を付ける音はそれだけで男性であるとすぐにわかるほどだ。そして足音から履いている靴がスニーカーといったラフスタイルのものではない、革靴の品のあるものだ。
魔術師であるならそれなりに気品を持つものだと、周りの人間からの情報を素に推測した一夏は、ランサーのマスターは無難な自己中心的な性格の魔術師であると思い、どこからか現れるだろうマスターの姿を見ようと音の聞こえるほうへと振り向く。
自ら前線に立つというのだから、それほどに勇猛か。それとも何か策があるのか。あるいは自信過剰なのか。
いずれにしてもそれは会って分かること
だが。
「―――――!?」
次の瞬間。目の前に現れたマスターに信じられないという顔になる一夏。
魔術師というには似つかないことと、何故という疑問の二つに表情が割り切れないのだ。
革靴に合ったスーツを着込み、剃り込んだ頭は整った銀色をしている。顔は年相応にしわが見えており、一夏の見立てでは大体六十そこいらだ。
だが、それに反して体格はしっかりとしておりある程度形が決まってしまっているスーツが彼にとっては拘束具のようにしかなっていない。
唯一、その不自由さから解放されている顔も、鋭い目が宿ってまるで鷹などの肉食系の動物のように一夏とセイバーを
「アンタは…まさか…!?」
「イチカ、知っている相手ですか?」
「…個人的には知らない。けど…」
「知っているのは無理もない。私はそういう立場の人間なのだからな」
「何っ…」
屈強の体を持つ壮年の男。だらりと下がっている右手にはマスターである証拠の令呪が刻まれている。
ランサーのマスターである男は一夏の言葉を肯定し、自らの素性を明かす。
「有澤重工、代表取締役。有澤隆盛」
「―――ISの開発業界に置いて、炸薬、重装甲なパーツ開発に秀でた企業で特に自社でも独自開発のグレネードなどの爆薬系の武装を開発している。
…こと火力に関しちゃ、まず右に出る企業はない」
「如何にも。我が有澤はそうして今の業界で生き抜いているのだからな」
「その有澤重工は二人の兄弟によって、たった一代で今の地位とポジションを確立している…その一人が…まさか、マスターだなんてな」
企業を纏める人物がマスターであるという事に驚く気はない。
だが彼のどこにマスターとして魔術師としての風格があるだろうか。企業を纏める人間としての見た目はありありと目の前にあるが、魔術を持つ人間という感じは全くしてこない。
自らを魔術師と名乗った橙子でさえもそれらしい感覚は感じられたのだ。明らかに異常というよりも、あるべきものが無いというのが正しい感想だろう。
「………。」
「うん? 私になにか聞きたいことでもあるのか。少年」
「…アンタ、本当に魔術師か…?」
ならば思わず問いを投げずにはいられない。思わず口から疑問を吐き出した一夏はそれを言い切る前に少しだが後悔する。
しかし本心と自分自身がそれを問いたいというのは事実で無意識に近い感覚で訊ねたことを否定も訂正もすることはなかった。
それには相手のマスターも考え、何が言いたかったのかというのを読み解こうとしていた。
「組織のトップがマスターである…別に可笑しいことでもないでしょう。そもそも、聖杯戦争に参加するマスターの経歴は魔術師である以外は不一致だ」
「そりゃそうなんだけど…なんつーか…一目で「魔術師だ」って思えるように見えないんだよな…」
「現代では魔術の神秘が薄れていますから、それが原因では…?」
セイバーの言葉にそれが正しいのかと自分に問うが、一夏の本心が返してくる返事は全て否。感覚的にそうではないと断じている一夏の意識に一体何が違うのかと考えるが、それを聞いた隆盛は軽く笑い吹かした。
「…なるほど。つまり、君は私が魔術師らしくない。そう言いたいのだな」
「………!」
「そうか…だが君の考えは正しい。なにせ、私は魔術師
自ら魔術師でないと語った瞬間、二人は驚愕を隠せない顔でそれを疑った。
魔術師でないのなら何故マスターとして彼は参加しているのだろうか。それこそ理由様々だが、隆盛の語る理由はそれとはまったく別の理由だった。
別に魔術師でなくても参加はできる。それが大きな理由の一つだ。
「正確には、魔術使い…というべきなのだよ。私は」
「魔術師ではなく、ただ魔術を行使するだけの者…」
「そうだ。根源へと至ることを目的としているか否か。それで言えば我が一族は異端だろうさ」
魔術師と魔術使いの違いは何を目的としているかだ。
魔術師は「根源」と言われる全ての始まりと言うべき存在(そもそも存在ではないかもしれない)へ至るために魔術を使う。
しかしそれとは違い、根源に至ることを目的とせずに魔術を使う者たちを魔術使いと言う。
それがもし人類のためと言われても魔術師であるとは言えないのだ。
「魔術師であっても、魔術使いであっても魔術を使う時に用いる魔術回路があればサーヴァントを召喚する事が出来る。貴方の場合、魔術使いであってもその回路が存在しているなら、マスターとなることは容易い」
「存外、この街にはマスターに成れる魔術師がほとんど居ないのでな。令呪は容易かったよ」
「そりゃ、聖杯戦争が出来るって知ってたからな…」
いずれにせよ、彼がマスターであること。敵であることに変わりはない。
「けど…今回は真正面からなんだろ」
「まぁな。こうでもしなければ他のサーヴァントも現れんだろ。それに、他のマスターとは一度顔を合わせてみたかったのでな」
「随分と余裕だなオイ…」
「ええ。ですが相手が正面からならやり易い。ランサーとは一度戦った時点でスキルと戦法を覚えています」
勝算はあると意気込むセイバーにランサーとの一騎打ちを任せる。マスターである一夏は戦えないこともあって、前線に立つことはせずに惜しみながらも後ろへと下がっていき、二人の戦いを静観することにした。
すると、その様子を見てまたも観察していた隆盛はぽつりと呟く。
「―――ふむ。そういうことか」
「………?」
「ま。仕方ないでしょ、恐らくはアレでしょうし」
一瞬なにを言っているのかと分からなかったが、次の瞬間。二人の後ろで開いていた扉が鈍い音と共に閉じられてしまう。
「なっ!?」
「ッ…しまった…!」
敵地に踏み込むという事で多少の覚悟はしていた。しかし結果として二人はランサー陣営の罠に嵌り、その場に閉じ込められてしまった。
そして閉じられた扉を見て慌てる彼らの姿を見て、隆盛は淡々と独り言のように話しだした。
「―――少年。どうやら君は…どちらでもないようだな」
「ッ………!!」
「魔術師でもなく、魔術使いでもない。全くの素人………回路だけは開いていたようだが」
一夏の正体がただの魔術回路があるだけの人間だとバレてしまった。一番気づかれたくなかった事実に彼の動揺と焦りはみるみる沸き上がり、全身から熱と冷や汗がにじみ出る。
「それがどうしてマスターになったのかは…まぁ置いておこう。今となっては関係のないことだ」
「マスター狙い…か」
「まさか。私はそこまで非人道的ではない。この場を設けたことがその証拠だ」
「………? どういう意味…」
「…まさか」
「我らの家計では魔術の他にある呪いを持っていてな。それをこの場にも用いたのだ。
―――互いの精神に干渉し、強制的に一騎打ちにさせるという呪いだ」
この場に居るのはマスター二人とサーヴァントが二人。
どの道サーヴァントたちはこのまま雌雄を決する戦いへと転がっていくだろう。
そして残ったのはマスター二人。もし彼の言う呪いが正しいのであれば、一夏は強制的にマスターである隆盛との一騎打ちとなってしまう。
「そうなってしまったら…」
「…マジかよ」
「大マジのマジだよ。ちなみに―――」
「私は当然ながらそれなりに戦えるのでね。ハンデとして教えておこう。
私の魔術は風が圧縮された弾丸。その連射攻撃がメインだ。武器に例えるなら、機関砲だな。しかも、大抵の壁ならば用意に貫通は出来る」
ハンデと言うよりも一夏を追い込んでいるようにしか思えない言動に更に追い詰められていく。呪いが確かなら一夏には逃げ場はなく、仮にセイバーが勝ったとしても彼が勝たなければ意味がない。
「…サーヴァントよりも、マスターがか…しかも風の機関砲ってなんだよ…」
「イチカ。無理に戦う必要はありません。私がランサーを倒したら直ぐに援護に…」
「無駄だぞセイバー。この呪いは助太刀なしっていうマスターの先祖様の無駄に凄い努力が付与されているんだ。仮に倒せたとしても呪いの効果でマスター同士の決着がつかない限りはそのままだ」
「ッ…」
「まぁしかし、まさかホントーに魔術もまの字も使えないとはねぇ…オジサンびっくりしたよ。そんな坊主がマスターなんて」
「俺でもびっくりしてるさ。色々とな…」
いずれにせよ戦わずして逃げるという選択肢がない以上、真向から戦うほかない。
だが一夏にはその戦う術がない。あるのは精々人並みのスキルだけで、彼らのように魔術をどうこうというのが出来ないのだ。
四方を見回してもその窮地を脱することの出来るものはない。あるのはただ己の身だけ。
「―――さぁ始めようではないか…戦いを………!!」
今更になって一夏は後悔する。
踏み込むにしても、もう少し覚悟と用意をしておけばと。
しかしそれも今となっては意味をなさず、あるのはただ現状をどうするのかと諦めない自分と、死を覚悟した自分だけだった。
「―――セイバー…これ、俺死ぬかも…」
次回予告
「その槍は一体…」
「オジサン、タイマンは久しぶりでね」
「結局…俺はなにも…」
「―――立て。立って進め」
次回 「戦う者」