ワルプルギスの夜   作:ぬるいコンポタ

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一話 黒と白と赤のコントラスト

生暖かな風が桜の残り香を乗せて吹く季節。

博麗神社上空で二つの人影と花火の様な煌びやかな光が飛び交っていた。

 

黒地に純白のエプロンとフリルのゴシックドレスに身を包んだとんがり帽子の魔法使い、霧雨 魔理沙は自慢の魔箒に跨っている。一方、白と赤の巫女装束をはためかせて宙が飛べる能力を使用している博麗神社の巫女、博麗 霊夢がすっかりこの幻想郷に定着した決闘方法ーー弾幕ごっこをしていた。

 

博麗神社の屋根で、魔理沙が距離を埋める為に加速した。

風の抵抗を最小限に抑えるため身を屈め、とんがり帽子が飛ばされない様に抑える。魔理沙が疾風の如く霊夢に急接近すると魔理沙が通った屋根の瓦がガタガタと音を立てて何枚か床に落ち割れた。

 

「許せ霊夢。弁償はしないぜ!」

 

霊夢は涼しい顔で魔理沙の顔目掛け、礼弾を放つ。

魔理沙は心の中で舌打ちしながら、既の所で重心を横に倒し空中で百八十度と逆さまになる。

 

しかし、霊夢は既にそれを読んでいた。二枚目の札弾が魔理沙に迫る。

 

ーー間に合わない!

 

そう思うのも束の間、魔理沙は反射的に箒から手を離していた。

博麗神社の瓦を巻き込み乍屋根を勢い良く転がる。

 

左腕、左足、肋骨数本を骨折し、数度痛みで気絶しかけたのをまた痛みで意識を覚醒させる。

体の左部位で済んだのも魔理沙の反射神経による物だった。

勝利への固執、それだけが今の魔理沙を作っていると言っても過言では無い。

 

未だ魔女に成れるイメージを見出せない自分、霊夢と言う幻想郷の主人公を越せない自分。

霧雨 魔理沙と言う人間は人外になりたがっていた。

 

ーー立たないと"また"負ける。

 

魔理沙は動く右手で自分の下敷きになっている瓦を叩き潰す。

動く右足で体を支え「倒れているよりはマシだ」と言わんばかりに、激痛が走る左足で補助してなんとか膝を付いた状態になれた。

視線をギョッとしている空中の霊夢に移すが、額を切ったらしくそこから流れる血で左目を開けれない。

 

「魔理沙あんた……」

霊夢の戸惑い/悲しみ/心配が混ざり合った表情を無視して魔理沙は右腕を斜め後ろに突き出す。

 

ーー箒よ来い。

 

すると主人を無くしても旋回していた魔箒が魔理沙目掛けて加速する。

それを何事も無くしっかりと魔理沙は掴み取り、杖変わりにして立ち上がる。

 

「来いよ霊夢……わたしはまだ墜ちてないぜ」

口の端を釣り上げ笑う魔理沙を霊夢は心底恐怖していた。

 

今まで一緒に過ごしていた親友が私の本気を願ってる。でもこのまま続けてたら魔理沙の体も私の心もただじゃ済まない気がする……。

それでも、辞める事は親友を裏切る事になる。私はどうすれば……。

 

魔理沙を心配した顔だけ浮かべて微動だにしない霊夢をキツく睨む。

 

「ごちゃごちゃ悩んむんならこっちから行くぞ!!」

 

魔理沙はそう叫ぶと一つのスペルカードを取り出した。

息を静かに吸うと肋骨に痛みが走るが、自分を振り立たせる為にそれを望んだ。

 

「魔空ぅッ!アステロイド、ベルトォォォォオ!!」

 

魔理沙が吠えると、その激情を表すかの様に煌びやかな弾群が周りから溢れ、彼女中心に全方向へ螺旋を描き乍飛んで行く。

 

ーーあんな状態でも、魔理沙は美しくあろうとしている。

 

霊夢はそれを魔理沙が放った弾幕から感じ取っていた。

光の弾群が視界を遮るがキッチリと人が通れる道が出来ている。

霊夢は親友を心配するあまり迂闊にその道へ入っていく。

 

それが魔理沙の狙いだった。

光群を縫う様に霊夢が進むと、あまりにも視界の悪さで気付けなかった。それが眼前まで迫っていたのを。

スローモーションで光群から突き出される傷だらけの腕にミニ八卦炉が握られていた。

光の向こうに笑顔を釣り上げる魔理沙の顔が浮かぶ。

 

ーー零距離マスタースパーク!?

 

飛び交う光群の音より小さな囁きだったが、霊夢の無限に感じるこの瞬間だけそれがハッキリと聞こえた。

 

「ーー恋符、マスタースパーク……」

 

ミニ八卦炉が周りの光群を掃除機に似た音を立てて吸収すると、霊夢の視界が"一瞬"だけクリアになる。

まだ動く右腕と右脚で箒にぶら下がりながら、目一杯に溜めた雫を垂らし左腕でミニ八卦炉を握っている魔理沙。

親友の痛々しい姿に霊夢は心配のあまり怒り心頭した。

 

ミニ八卦炉から吸収され、圧縮されたエネルギーが一気に放たれる。

空気の振動を感じる。徐々に視界がレーザーに埋め尽くされる。魔理沙、こんな無茶して大丈夫なの?

 

霊夢の逃げ場なんて無かった。そのレーザーに消える霊夢を見て魔理沙は勝利を確信し、保っていた意識を手放す。

身体は先程のマスタースパークで後方へ吹き飛んでいた。

少しずつ闇に埋れて行く視界にこちらへ近付いてくる人影が見えた。

 

 

ーー夢想天生……

 

 

霊夢が持つ究極のスペルカードの一つ。あらゆる物事から浮いた存在になり彼女を倒す一手も干渉出来ずにすり抜けて行く。マスタースパークも例外では無かった。

 

ーーやっぱ強いなそれ。でも霊夢、わたしも取っておきを一つ作って来たぜ。

 

魔理沙はそう思って手を動かそうとしたがそこで意識が消える。

 

それと同時にわたしの意識が覚醒する。

 

 




前にも投稿しましたが納得が行かず書き直し。

今読み返すと魔理沙の怪我はどう見たって自爆で笑が止まりません。霊夢が攻撃しないのは親友にこれ以上怪我を負わせるのが怖いからだと考えましたが流石に少し動かなさすぎたかも?
二話は3月下旬には投稿しようかと思っています。

※誤字脱字はいつも確認していますが多いと思います。

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