僕の想像していた魔法世界はこういう世界じゃない 作:キャラメルコーン
海だ。空だ。
本当に今までとは違う世界にきてしまったのだろうか。今見える風景は正直とても別世界とは思えないほど平凡だ。
しかしさっきまでは商店街を歩いていたはずなので、どこかへ移動した、ということはまず間違いない。
持っていた鞄に手を入れると、地図や多少のお金が入っている。近くに人はいないようなので、早速なにか魔法を使ってみることにしよう。手頃な岩があるので標的はそれにする。
「ブリザド! 」
小さめ、と言ってもそこそこの大きさはある氷塊が岩に激突した。周辺も少し凍っていると思う。
本当だ。本当に魔法がつかえるようになった。
これだけでここまでテンションが上がるとは思わなかった。他の魔法も使ってみたい。
「ファイア! サンダー! 」
岩に炎が襲いかかり、電撃が切り裂く。
信じられないが、本当に魔法がつかえる。召喚魔法も使えるのだろうか。試すとしたら、やはりあの召喚獣を呼んでみたい。
「バハムート。」
魔法陣のようなものからゆっくりと黒い大きな飛竜が姿を現す。今おそらく僕は人類で初めて本物のドラゴンを目にした。まぁ、それも前にいた世界での話で、今いる世界では普通のことである可能性もある。
それでも、バハムートが目の前に存在することがただただ嬉しくて、少し涙が出そうだ。
「僕を背中に乗せてくれるかな?」
そう尋ねるとバハムートは黙って頷き、僕を背に乗せてくれた。前の世界の少年たちが見れば、ほとんどの人がこの状況を羨むだろうだろう。日本昔話の龍に跨る少年もこんな気分だったのだろうか。なんとも爽快な気分だ。風が心地よい。
あの時の要求が全て実現されているとすれば、この近くで戦闘が行われているはずである。どんなやつがいたとしても、このバハムートがいる限り僕がやられるなんてことはないだろう。それだけの圧倒的なパワーを彼からは感じられる。
上空から辺りを見渡して、初めて分かったことがある。ここは島だ。遠くにもっと大きな島も見える。そして肝心の戦闘だ。どうやら規模は小規模のようで、まだ始まったばかりらしい。
近くに行ってみようか、と思ったところで街をみつけた。戦闘がそんなに早く終結するとは思えないし、この世界の人々がどんな人なのかを早く見たい。先に街を訪れることにしよう。どんな人がいるのだろうか。耳が長かったり尖っていたりするのだろうか。それとも、翼が生えていたりするのだろうか。なんにしても早く会いたい。
街に降りてみた。何故だろう、嫌に静かだ。人の気配があまり感じられない。もしかして戦闘は始まったばかりではなく、ある程度終わっているのか?
もしそうだとしたら、急いで見に行かないと間に合わないかもしれない、そう思った時だ。物陰からなにか叫びながら複数人の男が現れた。妙に現代風の装備だ。マシンガンやアサルトライフルと思われる武器の銃口をこちらに向けている。もしかしてファンタジーの世界じゃないのか。どちらにせよ物騒な第一村人である。
「貴様何者だ!!
その竜は一体なんだ!! 答えろ!! 」
確かに、突然こんなのが空から現れたら警戒もする。僕だったらチビってしまうかもしれない。
「怪しいものじゃありません、この竜はみたまんまの竜です。すぐ移動しますので、気にしないでください。」
どう見ても怪しいし質問にも返答できていない。無茶苦茶な発言だと自分でも思う。それに銃を向けられて僕はなんでこんなに平然としているのだろう。まだバーチャルの世界だと心の奥底では思っているのだろうか。
「日本の魔法技術がまさかここまで高いなんて⋯⋯
投降しろ!! さもなくば撃つ!! 」
今この人日本って言いました? 国名変わってないじゃん。これでファンタジーの世界という線は消えてなくなった。どうしよう、なんて説明すればいいんだ? さっきの口ぶりだと竜も存在しないような感じだし、敵意がないことを証明して投降したとしても、どこかへ連れていかれるのが目に見えている。
あれこれ考えているうちに、相手は我慢できなくなったらしい。いつの間にか囲まれている。その内の一人が引き金に指をかけた瞬間の出来事だ。
バハムートが集団を攻撃した。たった一撃で何人かの人がバラバラになった。気持ち悪い。いまの異常に高まったテンションでは人がバラバラになっても気持ち悪い、としか思わなかった。
もうこちらから攻撃を仕掛けてしまった。後戻りはできない。全く戦闘を行う気が無かったのだが、こうなれば戦うしかない。僕は生身の人間なのであの銃器で撃ち抜かれたらまあ助からないだろう。とりあえず自分に『リジェネ』『ブリンク』『リレイズ』『プロテス』をかけておく。
相手がこちらを撃つ前に、バハムートの攻撃や、僕の放つ『ガ系魔法』が相手を焼き払い、切り裂き、砕く。そうして一人ずつ命を奪っていく度に、僕の精神は正常に戻っていく。
今僕は人殺しをしているんじゃないか? こんな状況とはいっても、簡単に人の命を奪っても良いのだろうか。そんな考えが頭をよぎったが、気にしないことにした。今そんなことに気を取られてしまったら、僕の方がしんでしまうだろう。
長く感じていた戦闘は一瞬の出来事だったらしい。結局一発の銃弾も放たれることなく終わった。疲れた。まさか最初に戦う相手が人間になるなんて。落ち着いたところに着くまではこのことは考えないようにしよう。
そうこうしていると、建物から複数人の人間が出てきた。さっきとは違い武装はしていない。それでも僕は警戒した。
「私たちは先ほどの人たちとは違います、攻撃はしません。
先ほどの武装集団はこの島に突然侵攻してきた者たちなのです。あなたは一体何者なのですか? もしや救助に来てくださった方なのですか?先ほどの強力な魔法やその竜から考えて、十師族の方でしょうか? 」
なんと答えればいいんだ。この短時間でも異世界から来ましたなんてことが信じられるような世界じゃないことくらいわかる。そして『十師族』てなんだ。混乱してきた。僕の頭ではもう理解が追いつかなくなってきた。
「さ、ささ散歩に来た者です!! 」
「⋯⋯⋯⋯」
沈黙。自分でもなんでこんなことを口にしたのだろう。
「ところで、今ここはどういう状況なんですか? 沖の方に戦艦もいるようですが。」
そう、戦艦もいるのだ。ついに日本も戦争を仕掛けられてしまったのだろうか。そう思うと余計に混乱してきた。
「私たちにも突然のことであまりわかっていないのです。守備隊も多くがやられてしまいました。」
「とりあえずあの戦艦は吹き飛ばしてもよろしいのでしょうか? 」
「はい?」
もう自分がなにを言っているかわからない。バハムートも戦艦をメガフレアで吹き飛ばした。無茶苦茶だ。正直とてもじゃないが耐えられない。このまま僕が侵略者と言われてしまっても仕方がないと思う。立派にテロリストに見えるだろう。戦艦を吹き飛ばすなんて火に油を注ぐようなものだ。戦争は回避できない。思考も纏まらなくなってきたところで、僕は逃げることにした。
「バハムート、家の近くの人気のないところに誰にも見つからず連れてってくれ。」
僕は島を後にした。家が島の中になくて良かったと心から思う。それにしても日本って⋯⋯。ものの数十分で僕の幻想は打ち砕かれてしまった。
魔法科高校要素ほぼゼロ。
きっともうすぐでます。たぶん。