僕の想像していた魔法世界はこういう世界じゃない 作:キャラメルコーン
あれから家にたどり着いたのは何時間も後のことであった。そもそも飛竜に乗っている時点で誰にも気付かれずに本州の家に行くなど到底無理な話だ。鞄の奥底に入っていた地図と住所を頼りに陸路でなんとか家に辿り着いた。
僕の家は東京都内に建っている割と大きな洋館だった。しかも庭付き。普段なら何か反応するところだが、精神的な疲労のせいで特に何も言う気にもなれない。僕はさっさと入って今日は寝ることにした。
夜が明けた。人を殺したという記憶がどうしても蘇ってなかなか寝付けない夜だった。まだ正直寝ていたいが、やることは沢山あるのでそうも言っていられない。
それから僕は近くのコンビニで朝食を済ませ、家の探索を開始した。
少し調べただけで色々なことがわかった。この家は家具の類は一通り揃っている。あの時言っていた必要最低限のものの中に含まれていたのだろう。しかしその必要最低限の中に家族が入っていないのはいただけない。家族はこの家に引っ越してきてすぐに交通事故で亡くなったという設定になっているらしい。僕はまだ精神年齢15歳の子供だ(肉体年齢は13歳のようである)、まだ家族の暖かさは必要だと思う。
僕が欲しがった研究設備は地下にあった。この世界に来てすぐの僕ならそれはもう喜んだだろうがそんな気分じゃない。どうやらこの設備を外観に違和感を与えることなく備えるために、僕の家はこんな豪邸になってしまったらしい。その程度の心遣いができるのに何故家族は与えてくれなかったのだろう。屋敷の広さがより寂しさを強調し、僕の心をナイーブにさせる。
それから、僕の外見はある一点を除いてそのままだった。その一点というのは、瞳だ。僕の瞳は日本人の一般的な瞳から、澄んだ空色の瞳となっていた。おそらく身体能力向上の為に『ソルジャー』にでもされたのだろう。こんなことはどうでもいい。しかし、昨日の僕のミステリアスさはこの瞳によってさらに高められていたことだろう⋯⋯。大きな黒い飛竜に乗って空から舞い降りた蒼い瞳の日本人、不審だ⋯⋯。
マテリアの整理などやっている暇はない。何故なら、きっとこの家は近所で噂にされているに違いないのだから。僕はできれば目立ちたくない。昨日散々奇抜なことをしておきながら今更何を言うんだという話だが、僕は目立つことは嫌いだ。特に、今のこの家は悪い方向に目立っているに違いない。割と珍しい洋風の古い豪邸で、引っ越してきた家族はすぐに亡くなり、子供が一人ですんでいる。まるで幽霊屋敷だ。夜に子供が来たら泣いて逃げ出す位の威圧感がでているし、不気味だ。クソガキに「お前ンち、お化けや〜〜〜〜しき! 」などと言われてもぐうの音も出ない。
図書館でガーデニングについての本を漁り、実践した。幸い、薔薇の種が家にあって、洋風の我が家にも似合うかもと思い、外観はこれでなんとかすることにした。なんでこんなしょうもないことには配慮が行き届いているのだろうか。もっと大事なことは他にあったはずだ⋯⋯。もうあの優しかった家族の元には二度と帰ることはできないのか⋯⋯。何も考えずこの世界に行くことを選択した自分に腹が立った。
結局この日は外観の手入れで丸一日つかった。明日からはこの世界のことを勉強しよう。そんなことを考えながら、眠りについた。
どうやら僕の心は思っていたよりよくできていただったらしい。昨日まであんなに気にしていたことを考えないようになった。
昨日から図書館にはお世話になりっぱなしだ。一日中入り浸って色んなことを調べた。
まず、魔法のこと。この世界の魔法は『超能力』と呼ばれていたものを『魔法式』として体系化したものらしい。僕のつかう
そして、この世界の魔法使いは、『魔法師』と呼ばれ、魔法の杖や箒に相当するものが、『術式補助演算機』、通称『CAD』と呼ばれるものらしい。これを使わずとも一応は魔法を発動する事が出来るらしいが、まず間違いなくこれから必要になるものだろう。
魔法にも種類があるようで、4系統8種の『系統魔法』、精神的な事象を操作する『系統外魔法』などである。僕の魔法は『先天性スキル』に相当するものになるだろう。そもそもこの世界の魔法の枠に収めてしまっても良いのかどうかはわからないが。
それと、やはりバハムートはまずかったらしい。召喚魔法に似たようなものを探したところ、『古式魔法』の『化成体』なる魔法が見つかったが、これはあくまで霊的エネルギーを可視化させ、存在しないものを存在しているように見せつつ『
他にも歴史や地理なども学んでみたが、ぶっちゃけ覚えることが多すぎてうろ覚えとなってしまった。幸い今は夏休みの時期なので、なんとかなりそうだ。
あと一つだけ、一昨日聞いた『十師族』という単語についてだ。これは今の日本で最強の魔法師の家系のことらしい。数ある強力な力を持った家系の中から選ばれた特に強力な10の家が該当するようで、表向きは一般人らしいが、裏ではとんでもない権力を持っているようだ。この人たちに僕の魔法が見つかったらどうなってしまうのだろうか。僕の魔法は半数以上殺傷性ランクBは堅いものばかりだ。戦略級魔法に認定されることがまず間違いないものもある。召喚魔法や回復魔法は魔法界に革命を起こすだろう。そうなるとマテリアはとんでもない危険物だ。あれがあれば老若男女問わず誰でも魔法を使用することができる。そうなれば世界中のパワーバランスは崩壊する。
僕は帰って地下室を入念に隠すことにした。平穏な日々なんて来ない。
果たして翔一は十師族から逃げきる事が出来るのだろうか、いや、いつかきっと捕まる。