僕の想像していた魔法世界はこういう世界じゃない 作:キャラメルコーン
地下室への入り口を念入りに隠し、新しい問題に頭を悩ませる。やはり慣れない一人暮らしは寂しいし疲れる。最悪家政婦さんでも雇おうか、などと思っていたが、マテリアのせいでそれもできない。
それについてはいつか慣れる日が来るだろうが、もう一つの方はそうはいかない。くだらない悩みだが召喚魔法が使いたくて仕方がないのだ。使うなと言われるとやはりどうしても使いたくなってしまう。なんせカッコいいし、強力な召喚獣を従え大規模の魔法を放つ自分を想像していた分、彼らを出せないのは我慢できない。一度召喚してしまった時の爽快感が頭から離れない。
どうにかして召喚獣を使っても何も問題のないようにはできないだろうか。⋯⋯駄目だ何も思いつかない。
そうして長い時間無い知恵を絞り続けた。そして、ある間違った結論に辿り着いた。
そうか、召喚魔法が一般的じゃないから問題なんだ。なら一般化させてしまえばいい。マテリアを販売して、徐々にその存在を一般に認知してもらえばいいんだ ! なんでこんな事がおもいつかなかったんだろう !
お金はある。技術もある。警察に捕まらない自信もある。正体を隠してこれだけのことをやり遂げるなんて造作もないだろう。
なぜこんな事を思いついてしまったのだろう。どうして実行してしまったのだろう。どこからこんな自信は湧いたのだろう。マテリアは世に出した時点でアウトなのだ。必ず問題になる。この時の僕は十師族を舐めていたし、それに目を付けるのは十師族だけじゃない。ありとあらゆる国家、企業、組織、団体がマテリアやそれに関する技術を欲するだろう。少し考えればわかる事だ。
そこからの行動は早かった。色んな地方に行き裏路地で怪しい露店商の様に、いやそのものなのだが、マテリアを販売した。といっても、強力な魔法や召喚獣は流石に売らなかったし、背格好もあらゆる手を使って誤魔化した。空色の瞳だけは誤魔化せなかったが、それがかえって良かった様で、風の噂で青い瞳の怪しい露店商の話は広まり、マテリアは高価な値段でも買い取られる様になった。移動資金も増える一方だし、材料費はかからないので資金が尽きる事はなかった。
してはいけない努力を何日も続けていると、たまに襲撃を受ける様になった。殺す訳にもいかないので麻痺や眠り、暗闇のステータス異常を駆使してやり過ごした。もっとも、無駄に高い身体能力や『ヘイスト』などのおかげで戦闘が起こるまでにほとんどは逃走できていたのだが。
僕が間違いに気づいたのは夏休みももうすぐ終わり、といった頃だった。既にマテリアもかなりの数が売れていた。ほとんどはステータス上昇のマテリアだったのだが、『かいふく』のマテリアや召喚マテリア、技マテリアも少しだけ世に出してしまった。僕は疲れていたのだ。でなければこんなにぶっ飛んだ、それも本当に僅かでも考えればすぐに気づく事ができた間違いを犯してしまうはずがない。
インターネットでもマテリアは少し話題になっていた。"突然路地裏で販売された謎の宝玉"として。一般人が魔法を放って暴動が起きたなんて事はニュースになっていなかったので、そこに関しては今のところ問題ないらしい。一般人には魔法に関係する道具を使用するという発想は無かったようで安心した。これは後からわかったことだが、この世界の魔法師以外の人間はMPを全く持っていない。『ライブラ』の魔法を使って確認したので間違いない。つまり一般人はステータス上昇マテリアを装備したうえでマテリアを使用したとしても、魔法を発動することはできないのだ。それでもマテリアを外にばら撒いてしまったことは問題だし、パワーバランスの崩壊を引き起こすということは変わらない事実である。
それに、既に何度もマテリア目当ての襲撃を受けている。なんらかの組織が目をつけたということだ。これからは以前よりも警戒して生活を送らなければならないし、もしマテリアを僕が販売していたということがバレてしまった時のために、戦いの腕も磨いておかなければならない。自分で自分の首を絞めてしまったのだ⋯⋯。
夏休みももう終わり。僕は学校に通うことになった。目立つ洋館に一人暮らしの身だし、家族を事故で亡くした境遇、そして宝石のような瞳。どうしよう⋯⋯。クラスで浮く要素がてんこ盛りである。クラスで浮くというのはやはりキツイものがある。ただでさえストレスの溜まりやすい生活を送っているのだ。これ以上ストレスの原因は増やしたくないのに⋯⋯。
僕は意を決して学校に行くことにした。
歩き慣れない通学路を歩いていると、どうしても人の目が気になる。別に誰かに見られている、というわけではないのだが、緊張が僕に幻覚を見せる。落ち着くんだ、中学校生活は一度送っているんだ。なんともないさ。ここからのことはあまり覚えていない。
中学校の新しいクラスメートはいい人ばかりで本当に良かった。そりゃあ僕の目や見たり、家のことを聞くとみんな最初は驚いたが、すぐに受け入れてくれた。久しぶりの人の心のの暖かさに少し泣きそうになった。これまで出会う人はほとんどはマテリアを買いに来たお客さんか僕を捕縛しようとする人たちだったので仕方のないことかもしれないが、いきなり泣き出すのはなんとか我慢することができた。
しかし新しい問題もある。やたらと僕の家にクラスメートが集まることだ。
僕の家には隠さないとならないものがある。しかし、僕の境遇に同情して来てくれた友達を追い返すことは僕にはできなかった。するとどうだろう、ほぼ毎日のように友達が遊びに来るようになったのだ。広い、お金もち、親がいない、僕の家は少年少女たちの憩いの場となってしまった。ほぼ100%地下室のことはバレないようにはしてあるが、流石に恐ろしい。
本当に余計なものを手にしてしまったようだ。今のところマテリアが僕に与えた利益よりも、代償のほうが大きい気がする。マテリアの販売はもう二度とできないだろうし、これからはマテリアの抱えるリスクだけを背負って行くことになるのだろう。こんなはずじゃなかったのに⋯⋯。