僕の想像していた魔法世界はこういう世界じゃない 作:キャラメルコーン
翌日、僕が登校すると、クラスメートからの視線はあまり歓迎的なものではなかった。昨日の出来事が捻じ曲がって広まったようで、『ウィードの味方をする一科の恥』という風な扱いになってしまったようだ。更に、実技試験ではドーピングを行って不正に一科に入ったのではないかというような根も葉もない噂までたっている。ドーピングの手段を広めたのは僕で間違いないのだが。
深雪さんは森崎君たちのグループとあまり関わらなくなった。余程昨日の一件が嫌だったのだろう。僕は自然と深雪さん、光井さん、北山さんの三人と一緒にいることが多くなった。そしてそれが気に入らない森崎君はやたらと僕に突っかかってくるようになった。
そして、実技の授業の時間、僕の成績は森崎君より上だった。加速魔法と減速魔法の実習で、発動までは森崎君の方が速かったが、発動後の速度、精度ともに僕の方が勝り、総合的な成績で森崎君を上回ったのだった。
「高倉! 僕はこの結果を認めない! お前に模擬戦を申し込む。先生、許可を頂けますか?」
こうして、僕は昼休みに森崎君と決闘することとなってしまった。なんでさ⋯⋯。
そして、その昼休みが来た。ギャラリーも大勢いる。中には二科のみんなや、光井さんと北山さんの姿もあった。ただし、司波兄妹の姿は無かった。
この模擬戦に対する世間の感想は、「ウィードとたいして変わらない高倉が森崎君に敵うわけがない」といったものが大半だ。ここまで言われると流石に腹がたつ。森崎君は自信満々、といった表情で、
「おい高倉、逃げるなら今のうちだぞ?」
などと挑発してくる。強引に模擬戦を決めたくせに何を言うんだ。この自信はおそらく、森崎君が家業のボディーガードを2年近く手伝っていたということから来ているのが一つ。先生方が話しているのが聞こえたことで知った情報だ。大方実戦経験のない一新入生に負けるわけがないとか思っているんだろうな。
でも、僕はただの新入生には当てはまらない。僕にはかなりの実戦経験があると自分では思っている。商売の途中で奇襲をうけたこともあるし、無人島での召喚獣との戦闘経験もある、森崎君より経験がないなんてことは間違いなくない。森崎君が知る由もないことだが。
森崎君のもう一つの自信は、森崎一門が編み出した『クイックドロウ』にあるのだろう。魔法師同士の戦闘は魔法を先に展開した方がほとんどの場合勝利する。つまり、CADを超高速で操作するクイックドロウは、それだけで森崎君を勝利に大きく近づける。さっきの授業中に見たが彼のCAD操作は尋常じゃない速さだ。おそらく研鑽に研鑽を重ねてきたのだろう。自分の実力に自信があるのも頷ける。
彼は間違いなく油断している。油断は時に人を簡単に敗北に追い込む。
そんなことを考えているうちに時間が来たようだ。審判を務めてくださるという先生からの声がかかる。
「相手を死に至らしめる術式、並びに回復不能な障害を負わせる術式、捻挫以上の負傷を負わせる直接攻撃は禁止だ。それと武器の使用は禁止、勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不可能と判断した場合に決する。双方、準備はいいな?」
「はい、大丈夫です。」
「もちろんできています。」
「それでは、始め!」
開始の合図と同時に僕は跳んだ。下からは、
「あれが、森崎のクイックドロウ、速え!」
「おい、高倉はどこへ行った?」
などという声が聞こえてくる。僕は無防備な森崎君の頭部に黒魔法『サンダー』を撃ち込んだ。流石に実戦経験のある森崎君は上を見上げたが、その時には魔法は発動済み。森崎君は電撃によって気を失うのとほぼ同時に僕は着地した。
「しょ、勝者、高倉翔一!! 」
ギャラリーから歓声が巻き起こる。
「なんだよ今の! 」
「あいつ一体何メートル跳んだんだ?」
「ホントに人間かよ!」
というような声も聞こえてくる。うん、少しだけ人間は辞めてるかな。『サンダー』の閃光が気になったのか、校舎の中からもこちらへの視線を感じる。
応援に来てくれたみんなもすぐに駆け寄ってきてくれて、
「やったな翔一! 」
「今の跳躍魔法使ってないわよね?」
「高倉君って本当に人間じゃないみたい。」
と声をかけてくれた。正解だけど、友達から人外扱いされるのは少し傷ついた。
森崎君も目を覚ましたようで、
「司波達也も、お前も、僕は絶対に認めないからな!」
という捨て台詞を頂いた。なぜだ。
「そういえば達也君たちは?」
「ああ、達也たちなら、なんでも生徒会に呼び出されたとかで、今は生徒会室だぜ。」
そうかこの間の生徒会からの要件ってやつか。
こうして、僕と森崎君の決闘は僕の勝利に終わった。
昼食がまだだったので、そのままみんなで昼食を食べに行くことになった。
「翔一って本当に無茶苦茶だよな。昨日もオレたちより離れたとこから一番最初に森崎のCAD掴んでたしよ。」
「何食べたらそんな風になるの?」
「いや、食べ物はみんなと変わらないよ。」
「実は山籠りとかしてたりして。」
「けっこう近いよ。よく無人島でサバイバルとかしてたから。」
「その顔でサバイバルって、アハハ!」
「だから顔は関係ないだろ!」
「ところで高倉君って、綺麗な目をしてますよね?ご親戚に外国の方とかいらっしゃるんですか?」
「いや、僕の親戚には外国の人はいないよ。」
「嘘、じゃあ突然変異みたいなもの?」
「そうだね。」
「高倉君ってどの辺に住んでるの?」
「ここから徒歩10分くらいかな。割と目立つ洋館に一人暮らし。」
「もしかして、薔薇のたくさん咲いたお屋敷?」
「光井さんよく分かったね。」
「私も知ってる。たまに雑誌に載ってたりするし、TVに映ったりしてるから。」
「関東に住んでる人ならみんな知ってると思いますよ?」
マジかよ。TVの取材は断ったんだけど、ロケの途中で写り込んだりしたんだろうな。
「今度さ、高倉君の家に遊びに行かない?」
ですよね。この流れだとそうなるよね。」
「あまり片付いてないからまた今度ならいいよ。」
本当はあまり入れたくないけど。
そうして予鈴が鳴って教室に戻ると、
「高倉さっきのジャンプ凄かったな!バッタみてえ! 」
「高倉君ホントは人間じゃないんじゃない?」
なんでさ。
放課後、先生に呼び出され、
「高倉君、君に教師推薦枠で風紀委員になってもらいたい。本当は森崎君にお願いしようと思っていたのだが、今日の模擬戦の結果や成績を考慮して、君を推薦しようという意見が多くてね。お願いできるかな?」
「僕なんかでよろしいのでしたら、是非お願いします。」
断るのもどうかと思ったので、風紀委員に就かせていただくことにした。なんかごめんな、森崎君。
こうして僕は風紀委員となった。僕に務まるのだろうか⋯⋯。
森崎、本当にごめんな。