僕の想像していた魔法世界はこういう世界じゃない 作:キャラメルコーン
あれから数日が過ぎた。僕はここ数日間風紀委員として行き過ぎた勧誘などの取り締まりをしている。この学校では『部活動勧誘週間』、つまり四月最初の一週間は魔法を用いたデモンストレーションを用いた勧誘などが認められており、風紀委員や生徒会役員以外の生徒にも放課後の校内CAD携行が許可されている。一応審査もあるにはあるのだが、名前だけの状態となっている。そしてこれが魔法の撃ち合いや乱闘に繋がりやすく、今日も既に憲法部と柔道部の乱闘騒ぎを収めた。今もパトロール中というわけだ。
パトロールなので人気のないところも一応見て回っているのだが、それが仇となってしまったのかもしれない。妙な視線を感じる。まるで隙を伺っているかのような⋯⋯
気のせいかもしれない、そう思った瞬間僕の体は宙を舞い、背中から道端の木に叩きつけられた。普通の人間なら気絶してもおかしくないが、相手が悪かったな。ソルジャーの耐久力を舐めるなよ!
辺りを見回すと、こちらに背を向けて逃げる男が一人。他には誰も見当たらない。間違いなく走っている男が犯人だろう。僕が追いかけ始めると、男は自己加速術式まで使用した。捕まる気は全く無いようだ。これでは普通に追いかければたとえヘイストを使って倍速で追いかけても追いつくことは無いだろう。
「クイック! 」
時を止めた。この『クイック』は僕以外の時間を止める魔法だ。この止まった時の中でも僕は普通に他のものに干渉できるし、魔法を使った攻撃も可能だ。他の人には僕が瞬間移動しつつなんらかの攻撃を行ったとしか映らないだろう。
僕は男に近づき、CADを奪って更に『スリプル』をかける。これは相手を眠らせる魔法。これでこいつの無力化は終了し、時も動き始めた。僕は通信を入れ、この出来事を報告する。
「一年の高倉です。パトロール中魔法を使った攻撃を受け、これに応戦、犯人を確保しました。これより風紀委員会本部に連行します。」
報告が終わったところで後ろから達也君が声をかけてきた。
「翔一、大丈夫か?」
「達也君、いたんだね。それなら同じ風紀委員会なんだし魔法で助けてくれれば良かったのに。」
達也君は生徒会推薦枠で風紀委員になった。最初は驚いたが、達也君の活躍は物凄いもので、すぐに納得した。
それよりも見られただろうか。
「いや、俺が来たのは犯人を確保する直前だ。それよりもさっきの魔法はなんだ?」
うわ、バッチリ見られてんじゃん。こういう時は、ありのままの事実を伝えた方がいい場合が多いと、僕は個人的に思っている。
「あれは瞬間移動とか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃないよ。時を止めたんだ。」
「時を止めた、だと?」
「うん、僕が時を止めた。そして犯人に追いつき、かつ眠らせることができた。僕の数ある先天性スキルの一つだよ。」
最近先天性スキルで誤魔化すことが多すぎて、もうだめなんじゃないかと思い始めている。
「そうか。⋯⋯今日の夕方、空いているか?」
「う、うん。空いてるよ。」
今日は土曜日で、僕も達也君も夕方は非番なのだ。
「翔一の家にお邪魔してもいいだろうか?CADのことについてや、さっきの魔法について話したい事がある。他人に聞かれるとまずいだろうから、二人だけでだ。いいな?」
断ったら絶対にマズイ気がする。こういう時の勘ってものすごい確率で当たるよね⋯⋯。
「わかったよ。じゃあ僕はこいつを連れて行かなくっちゃいけないから、また後で。」
終わったな。これは間違いなく終わったな。
風紀委員会本部に着くと、渡辺先輩が
「風紀委員に攻撃してくるなんて、度胸のあるやつもいたもんだな」
なんて言って歓迎してくれたのだが、それも一瞬の話。犯人を見た瞬間、
「事情が変わった。今回はもう下がって、引き続きパトロールを続けてくれ。」
と言って僕は部屋から追い出されてしまった。犯人に何かあったのだろうか。しかし犯人にこれといった特徴はなかったはずだ。有名人というわけでもなかったのに、一体どういう事だろう。強いて言うなら、腕に赤と青のラインで縁取られた、白い帯をつけていたくらいだ。
この事が少し気になったが、この後の事を考えたらそれもどうでもよくなった。
そして約束の時間。僕と達也君は今僕の家の庭にいる。
「立派な屋敷だな。庭もよく手入れされている。一人暮らしなんだろ、庭は業者の人に手入れしてもらってるのか?」
「いや、庭は僕が手入れしているよ。とりあえず上がって。」
「自分でやっているとは驚いたな。お邪魔します。」
こうして僕はそうと思わず一番の危険人物を家に上げてしまった。そしてこれで僕に逃げ道は無くなってしまったのだ。
「早速本題に入ろう。お前、何者なんだ?」
うわー、もう完璧怪しまれてるじゃん。
「何者って⋯⋯。高倉翔一、それ以外の何者でもないよ。」
「質問を変えよう。お前、これがなんだか分かるか?。」
そうして達也君が取り出したのは⋯⋯
「マテリア!⋯⋯あ。」
「まさかこんなに簡単に反応が返ってくるとはな。お前、これをどこで手に入れた?」
「ねえ待って。なんで僕は校内でマテリアを使用していないのに僕がマテリアを持っているって思ったの?」
「校内で使用していないだと?」
「うん。」
「ではさっきの魔法は本当に先天性スキルだったのか?」
クイックはマテリアを使用しても習得できない魔法だから、肯定しても構わないだろう。
「そうだよ。」
「まあいい。翔一がマテリアを所持していると確信したのはさっきの反応を見てからだ。怪しいと思ったのは入学式翌日の一件や、さっきの時を止める魔法だ。マテリアは不可能を可能にする正体不明の物体と聞いていたし、最初にマテリアを世に出した人物は宝石のような蒼眼の老人で、とてつもなく身体能力が高いとも聞いていたからな。
老人の姿はおそらく変装だと思っていたし、老人という条件を除けばお前はすべての条件を満たしている。まあ、これは偶然ということもあり得るし翔一がマテリアを生み出した謎の人物とまではさすがに思っていないが、親戚という線もある。そこでカマをかけてみたというわけだ。あっさり漏らしてくれたおかげで翔一がマテリアを所持していることはわかったというわけだ。」
何この人、怖いんですけど。ていうがさっき僕がうっかり口にしなければまだわからなかったってことじゃないか。クソ! 痛恨のミスだ。ここまで分かってるんならもう言い逃れはできないし、開き直ってもいいんじゃないかな。
「そうだよ。僕はマテリアを持っている。」
「どこで手に入れたんだ?これはそこそこ高価な代物だ。一人暮らしの子供に手にできるような物じゃない。」
「最初から持ってた。」
「なんだと?」
「そう。僕がその老人なんだよ。魔法で老人に変装してたっていうわけさ。僕は一体これからどうなるの?警察に通報されたりするのかな?まだ一週間も経ってないけど、みんなとの日々は楽しかったよ。」
もうこうなったら正面からぶつかっていくしかない!
しかし、ここからは僕の予想を上回る突飛な展開が待っていた。
入学一週間もしない内に十師族に捕まってしまった翔一選手。本人はまだそのことに気づいておりません。
敗因は能力の使いすぎ、です。