僕の想像していた魔法世界はこういう世界じゃない 作:キャラメルコーン
僕は今、公共交通機関に乗って移動している。もう日も暮れた。手にはいつも弄っているCADの設計図にマテリアの数種入った鞄。隣には達也くんも一緒だ。
「ねえ、何回も聞いて悪いんだけど、これ何処に向かっているの?」
「もうすぐわかる。いや、もう到着した。降りるぞ。」
こうしてたどり着いたのは、
「ここってF.L.T開発センター?」
「そうだが?」
はぁ!? FLTってあの
いや、まだここに用があるって決まったわけじゃない、この近くの別の場所が目的地の可能性もゼロじゃない。
「もしかしてここに用があって来たの?」
「当然だ。他に何処があるんだ?」
どうやら本当らしい。僕は今まで勘の鋭い一人の高校生にバレた程度にしか思ってなかったけど、事態はもっと深刻⋯⋯。開き直ったのはどうやら間違いのようだ。
そうして中に入ると、
「あ、御曹司!」
「御曹司!」
という具合に人が集まってきた。すごい人気だな達也君。ていうか御曹司ってどういうことだよ。達也君って本当に何者なんだよ。
「お邪魔します。牛山主任はどちらに?」
「お呼びですか?ミスター。」
「すみません、お忙しい中突然時間を割いていただいて。」
「おっと、いけませんなぁ。ここにいるのはあんたの手下だ。天下のミスター・シルバーともあろうお方が、へりくだりすぎちゃあ、示しがつきません。俺たちはみんな、あんたの下で働けるのを光栄に思ってるんですぜ?」
ミスター・シルバー? どういうことだ?
「トーラス・シルバーはミスター・トーラス、ここのヘッドであるあなたがあってこそです。牛山さんの技術力が無ければ、『ループ・キャスト』は実現しませんでしたよ。
言葉を失った。この二人が『トーラス・シルバー』だなんて。
「トーラス・シルバーって二人組だったんですね。」
「ミスター、言ってなかったんですかい?」
「ええまあ。それより、本題に入りましょう。ここにいる高倉翔一が例のマテリア流通の大元だったんです。」
「どうも初めまして。高倉翔一です。」
なにを言ってるんだ僕。それどころじゃないだろう。
「てことは、今手に持ってる鞄の中に例の物が?」
「はい。自宅にあったマテリアの中から数種類持ってきました。」
そう言って鞄を手渡した。牛山さんは興味深そうにマテリアを見ている。
そのあと、マテリアの性能チェックなどを行った。その結果に、僕以外のその場にいた全員が言葉を失っていた。それもそのはずだ。これはこの世界での《魔法》とは違う物なのだから。
「こりゃあ驚いた。これを作った奴が魔法師の間で『魔法使い』なんて呼ばれるわけだ。」
魔法使いなんて言われてたんだ。あながち間違いでもないんだけどな。
「これは何処でどうやって手に入れたんだ?」
「自宅で作りました。」
そして自然にまた爆弾を投下していく僕。今までバレていなかったのが不思議だ。奇跡といっても過言ではないだろう。
「これ以外にも種類があるのか?」
「もちろんです。」
今日ここに持ってきたのは『ほのお』『れいき』『いかずち』の三属性に『かいふく』の魔法マテリア、『ぜんたいか』まほうカウンター』の支援マテリア、『マジカル』の独立マテリアだ。これで召喚以外のほぼ全ての説明ができる。ちなみにマジカルはゲームなら魔力が上昇する効果を持っているが、この世界では魔法師の魔法演算領域の拡張と、事象干渉力の上昇の効果を持っている。なんとも信じられないが、こんな効果になったが故にマテリアは有名になった。
「翔一、なにも効果のないものもあるようなんだが、これはなんなんだ?」
「それは『ぜんたいか』だね。基本的にマテリアは武器や装飾品に穴を開けてそこにはめ込むことで使用するんだけど、穴を二つ連結させてほかの魔法マテリアとかと組み合わせてはめこむことで効果を発動するものもあるんだ。このマテリアもそれの一種で、『支援マテリア』って言われてる。」
こんな感じで夜遅くまでマテリアについての実験や説明を行った。
「ところで、この設計図は翔一が書いたのか?」
「うん、そうだけど。」
「見てください、牛山主任。」
そう言って達也君は牛山さんに僕の設計図を手渡す。トーラス・シルバーに見られるなんて恥ずかしいな。人に胸を張って出せるような素晴らしいものでもないし。これはあくまで普通のCADの設計図だ。まあ、マテリア穴は空いているが。
「あくまで普通のCADってとこだが、高校生が書いたものにしちゃあなかなかの出来ですな。⋯⋯ところで、ここに空いてる穴は例のマテリア穴ってやつか?」
「はい。そうです。」
「じゃあこの真ん中が繋がってるのが連結穴ってわけか。ミスター、一回こいつで試して見ますか?」
「そうですね。お願いします。」
思わぬ形であったが立体化してくれるらしい。ありがたいような、そうでもないような。
このようにして、世界初のマテリア対応汎用型CADの純正品が誕生し、同じような容量で『シルバーホーン』のマテリア対応型も完成した。もう日付変更線は越えちゃったけど、数時間でこういうものが出来てしまうあたり、技術力の高さ、『トーラス・シルバー』が一流の魔工師なのだということを実感させられる。
「ところでこのマテリア、商品化するにあたってどういう扱いにします?」
「というと?」
「マテリアの開発者を捕まえたとなると他の企業や団体が黙ってないでしょうからね。噂では海外の国際犯罪シンジケートもこの子の身柄を狙ってるって話ですから。」
なにそれ初耳なんですけど。
「そうですね⋯⋯。ではFLTの専属魔工師が複製、新種の開発に成功したってことにしましょう。翔一もそれでいいだろう?」
「え?構わないけど。」
「決まりですね。名前はどうする?さすがに本名そのままってわけにはいかないだろう。未成年だしな。」
「じゃあ、『シド』でお願いします。」
ファイナルファンタジーの技術者といえば、シドというイメージが僕の中で固まっていた。僕なんかがこの名前を使うのは彼らに対する侮辱かもしれないけど、将来この名前に恥じない技術者になるという目標も兼ねて、この名前を使わせてもらう。よくよく考えると、今まで考えていた未来の目標通りの状況になってきている気がする。
こうして、僕はFLTの社員となった。マテリアは魔法社会の基盤を揺るがしかねないものや威力の高すぎるものは封印されることとなった。汎用型CADには特になんの変哲もないものなのでそのままの名前が、特化型のものはトーラス・シルバーのフルカスタマイズされたシルバーシリーズの最新型ということで、『クイックシルバー』と名付けられた。今月中に全てが発売されるということだ。マテリアの方は一度に全て販売するというのは商売的に良くないので、少しずつ種類を増やしていく、ということになった。
「ところでお前さん、明日は学校休みなんだろ?」
「はい、そうですけど。」
「それじゃあミスター・シドとしての最初の仕事だ。明日一日、できる限りの数のマテリアを作ってきてくれ。」
「俺も付き合おう。一技術者として、これの製造過程には興味がある。」
長い一日が終わりを告げ、更に長い一日がはじまろうとしていた。まさか同級生が上司になるなんて。しかも明日一日も拘束されることが確定だ。とりあえず、帰ったらまず危険物を片づけよう。黒いのとか白いのとか大きいのとか。悩みの種は少しへったような、増えたような、どちらかはわからないけどとりあえず今日からは新しい生活が始まるらしい。
クイックシルバーはヴィンセントの初期装備から名前を取りました。