僕はこの世界で英雄になりたいんだ!   作:サンマ味のヨーグルト

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Lv.1
プロローグ〈上〉


迷宮都市オラリオ

 

神々が降臨する以前、古代から存在する大都市であり、世界唯一ダンジョンと呼ばれる迷宮を有する迷宮都市。別名冒険者ホイホイ。市販のホイホイよりもはるかに粘着力が強大である。

 

オラリオに存在するダンジョンは未だ最下層まで到達されたことも無い未開の、無限の迷宮。凶悪なモンスターの坩堝となっている。

ダンジョンは構造は数多の種類の階層に別れ、森や湖などの様々な生態が発見されているも、実態ははっきりと解明されてはいない。一説によるとダンジョンは巨大なモンスターの腹の中と言われているが、定かではない。

 

ダンジョンは階層を降りるつれ、面積が増加している傾向があるが、これが迷宮と呼ばれる特徴となっている。

当然下層に蔓延っているモンスターは手強く、過酷になっている。しかし欲望とは凄まじく、冒険者達は腕を上げ、技術を上げ、様々な力を得て迷宮に挑み続けた。ある者は力の為。ある者は金の為。そしてある者は誰かの為。そして異なる種族が結束し、群れを作り始めた。

その活躍ぶりをある者は、書籍へと書き上げた。それは後に【迷宮神聖譚】と呼ばれていた。

 

 

 

◇◇◇

 

迷宮都市オラリオの東の主流にあたる大通り。商売人や様々な種族の冒険者に溢れる大通りは、慣れた者にとっては心地よくなる喧噪に溢れていた。慣れていない者もドワーフ、ノーム、獣人にホビットなどが溢れるこの光景は、新鮮で色鮮やかに映り、目を輝かせることだろう。それがオラリオでは日常だ。ある意味慣れる時はもうオラリオから離れられなくなっているだろう。

 

「嬢ちゃん!飴食べないかい?おまけするよ!」

「ジャガ丸くんいかがっすかー」

「今度一緒に潜ろうよ~」

「兄さん、何色のパンツ穿いているんですかぁ?」

「零細ファミリアはキツイな……」

 

 

オラリオには様々な神々が古来より降臨しており、ファミリアという眷属で構成されている組織を精力的に作っている。【神の恩恵(ファルナ)】を与えられた者はスキルを始めとした強化を与えられるのだ。ファミリアを形成する理由は多々あったが、大体は自身の娯楽の優先のためだろう。

 

 

「うちのファミリア入りませんかあああ!!」

「俺と良い事しよおおおおおおおお???」

「産まれる前から好きでしたあああああ!!」

「すけべしようやああああああああああ!」

 

あと少しは趣味だろう。

 

規模の少ないファミリアの主神は多種多様な誘い文句でオラリオに来た無垢な冒険者を誘致している。将来有望な冒険者を狙って箔を付けたいのだろうが、そうしなければオラリオの人気を二分すると言われているファミリアに持っていかれるという焦燥感から来る被害妄想からかもしれないが、神々は執拗に誘ってくる。中には初心者に対する特典を付けている神も居る。大抵失敗もするが…。

 

ファミリアには種類がある。

ソーマファミリアを始め商業系や、鍛冶などを主とするヘファイストスファミリアを始めとした製作系。ディケアンヒトファミリアなどが主流の医療系。更には国家系なども存在する。

 

最後に当たり前だが冒険者系。これが最も多い。オラリオの人気を二分する二つが羨望を集めているだろう。フレイヤファミリア、オラリオで唯一のLv.7。【猛者(おうじゃ)】のオッタルを擁している。オッタル以外にも、フレイヤの美貌に陶酔している冒険者が多く加入しており、その層はオラリオでも追随を許さないだろう。そしてもう一つ。それは―――――――

 

 

 

「頼むわ!うちのファミリアに入ってえええええ!」

 

ロキファミリア。柿色の髪を後ろに束ねた軽装の少女、女神ロキが主とするオラリオの二大ファミリアである。フレイヤのようにLv.7という規格外は擁していないが、【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナを始めとしたLv.6を大量に所属している大型ファミリアである。ロキファミリアに所属しているLv.6はオラリオで知らない者は皆無であり、それが常識となっていた。その噂は世界に轟いており、片田舎の村ですら名前を憶えられている程である。

 

そのロキが積極的に、勧誘しているのは非常に稀である為、大通りの注目を疎らだが集めていた。…………尤も、ロキの風体は少年と相違無い為、ロキだと気づいている者はそれ以上に稀なのだが。大多数は大声をあげているのを迷惑そうに見ているだけである。

 

大型ファミリアである分、ロキは勧誘などはあまりしないスタイルであるのだが、一体彼女は何を思っているのだろうか……。

 

「ええー!嫌だよ!僕の貞操を狙っているところに行くなんて【飛んで火にいる夏の虫】ってやつじゃないかー!」

 

しかし相手は否定の返事をロキに叩きつけた。ロキの【剣姫(アイズ)】に対する執着を知って拒否しているのだろう。それほど必死にロキのラブコールを拒否している。

 

「ぐへへ、別にうちは同性愛者じゃないでぇ。可愛いモンは愛でる趣味なだけやでぇ」

 

「もっと酷いじゃないか、怖いよ!」

 

「あの【ロキ・ファミリア】やで?入っただけでもプレミアもんやでぇ?この時期募集すらしていないんやで?羨望の的やで?『あいつ新人の癖にあのファミリアに入ったとは、まさかアイツすげえんじゃねえか?』とか『ああ、あの今話題の○○(←ここに二つ名が入る)さんだ!サイン下さい!とか言われんで!………ええい!有象無象がウチのお気に入りに触れるな!」

 

自分で想像したのに自分で妄想を罵倒するなど、ロキはいつも以上に荒ぶっていた。なんというトリックスター。流石ロキ様(棒)

 

ロキのファミリアは人気である為、加入できるのは試験などを通過した者だけである。その分有望株の冒険者が入れるが、数が非常に多い上、試験官はあの【凶狼】である。勝てるというより根性を見せる方が稀である。もっともロキには別にどうでもいいことなのだが……。

 

 

 

「頼むわああああアア!!!飴ちゃんあげるからああああああアアアアアアッッ!!!」

 

 

 

ロキは半狂乱気味に叫び声を上げた。テンションが上がり過ぎたのか、顔は天に向けており、両腕は勧誘されている相手に向かって突き出している。いかにあの【剣姫】でもここまでロキを荒ぶらせることは出来ないであろう。寧ろ触れようともしないだろう。あの寡黙の中には要領よさも備わっている彼女は適当に無視するだろう。彼女は感情が無いわけではない。ただ顔の筋肉を動かそうとしていないだけだ。感情ははっきりと備わっている。ジャガ丸くんをあげれば普通に反応する。

 

 

 

 

ロキがこんなに大声をあげて勧誘しているのには、少し前の時間に遡る。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

ロキの朝は早い。

ロキが起床するのは丁度太陽が地平線に顔を出す頃に起床する。ロキの部屋は陽の光がよく入ってくる部屋を所望したので、太陽が昇るのがはっきりと見える。

起床時間、これはロキが決めた血の誓約である。起床したロキはテーブルの上に置いてあるソーマを飲み、頭を醒ます。これは日課であるが、眷属であるリヴェリアに「高いから止めろ」と言われている為、いつもこそこそと飲んでいる。飲兵衛である眷属の一人、ガレスにはバレていてお零れを渡しているが、多分他にはバレていない。

 

「うまっ……ソーマのやつ完成品くれへんかな」

 

「行くか……」

 

ソーマを口に含んだロキは、こっそりと部屋から出る。あまり大きな音を立てたくないからだ。音を立ててしまうともう一つの日課をこなすのが大変難しくなる。慎重が重要なのだ。そろりそろりと夜逃げする一家のような姿勢で階下を目指す。この時、目撃されれば即アウトだ。慎重さと人気の無さがモノを言う。

 

匍匐前進で進み、角でこっそりと覗き見る。これほどロキの胸の無さが役に立つ瞬間は無いだろう。本人は意識外なので気にしてはいないだろうが。

 

「ふんッ………!」

 

ごろりん。

 

ロキは人気を察知したのでローリングで交差路を通り抜ける。わかりづらい人は某伝説の蛇の動きをベースにしたらいいだろう。別に被り物をしながら松明持って儀式を始めたりはしないが……。

 

「………………おらんな」

 

階段に到達したロキは気配を窺う……。長年鍛えたロキレーダーが真価を発揮する時だ。

 

階下に到達することは達成条件ではない。目的はもっと先だ。「ああ~イケるイケる。こら楽勝」などと思いあがれば直ぐに敵に見つかることになるだろう。敵はそれほどに手ごわい……。

 

「見えた………」

 

階下を降りたロキは、ついに目的の部屋を見つける。しかしここで油断してはならない。ここが一番の目的であると同時に、ここが一番危惧している敵の住処が近いのだ。無意識に緊張していたと気づいたロキは喉をごくりと鳴らし、首を回したり緊張を解きほぐしていく。

目的の部屋は目前ではあるが、警戒に集中しているロキの頭の中で、ある一つの言葉が反芻される。無意識に反芻しているが、この言葉にロキは長い人生でも数少ないといえる程に非常に感銘を受けた。拍手喝采していると言ってもいい。

 

「…………【狩りは獲物を仕留めた時が一番危ない】」

 

至言である。仕留めたと思ったときが一番に警戒する時であると、冒険者ではないロキも共感した。これが心に置いておくことの出来ない一般ピープルはH○H3巻でも読んで出直してくることを推奨しておく。

 

氷海に流れる流氷の如くロキは自制心で興奮を抑える。欲望を抑えない神ではありえない光景だ。大多数の神は天真爛漫と振る舞っている為、自重することが滅多にない。理性的な神もいるのだろうが、この光景は本に珍しいのだ。

 

この時のロキは珍しく滅多に開かない目を開眼していた。この珍しさはフィンすらもあまり見たことが無いほど、ポケモンのタケシが開眼するという天変地異が起こってもありえない展開になる程、ジョーイさんにアタックが成功する並に珍しい。余談ではあるが最初はジャイアンにしようかと思ったが、映画版で「あれ、結構優しくしているよね。別に映画版多いから珍しくともなんともないよね。」と思ったので対象にはしなかったのだ。

 

一歩一歩すり足で目的の部屋にまで移動する。歩き方に気を配っているロキであるが、ロキレーダーはびんびんに作動している。廊下の隅に存在しているゴキブリですら気配を感じ取る事ができるのだ。

 

(あとで掃除当番に説教やな………!)

 

掃除当番は確かアイツだった筈だ……。と周囲を警戒しながらも内心魔女裁判の如く犯人を気配で探り始める。食堂でおばちゃんが料理をし始めているのを知覚し、少し焦る。太陽が顔を出し始めたのだ。ロキファミリアは朝食を団員全員で食べる事を義務付けている。これはロキの指針でもあり、幹部も賛成している。だがこの時にとっては「なんで決めたんだろう…?」と後悔してしまうのだ。

 

(しまった……。時間を掛け過ぎたか……?)

 

諦めるか……?と一瞬目線を下げた。しかしロキは敢行した。ロキの目指すヴァルハラは目前である為、この既知感は枯渇している為、部屋に到達するという未知を求めているのだから……!

 

(うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!)

 

匍匐前進で周囲を警戒しながらもロキは激しく昂ぶっていた。先ほどの流水の如き自制心を解き放ち、この熱き想いと冷たき誓いを同居させている。その時、ロキの額には滝のような汗が流れていた。それほどに危険が伴うのだ。言うなれば、熱いロキがスーパーロキ。冷たい誓いを持つロキがスーパーロキゴッド。これら二つを合わせた状態がスーパーロキゴッド状態のスーパーロキと呼ぶだろう。2は髪が伸びるが胸が大きくなることは無い。

 

目的の部屋のドアノブに手が伸びる。虎視眈々と狙っていたロキにとっては生唾モノの状況である。

 

(はあはあ……アイズたんの寝顔……………ッ!)

 

この目的こそが、ロキのスーパーロキゴッドの力の理由足らしめていた。アイズの寝顔を拝見し、prprすることがロキの血の涙の誓いであったのだ。未だ成功したことはないが、ロキはめげずに太陽と共に起床している。かれこれ2年は続けている。

 

(ああ……アイズたんと朝ちゅんするというグローリア!おお、素晴らしい……)

 

乾いて充血する目を細めるロキ。頭の中ではアイズがカモン!している。為、自然と鼻血が溢れ出る。これは吉良喜影がモナリザの手を見て勃起したような劣悪な感情ではなく、唯々純粋にアイズに対し、愛情が溢れ出るだけなのだ。娘の彼氏を認めないお父さんと同じであるのだ。

 

(いいや我慢できないッ!『押す』ね!)

 

今まで這っていた隠密行動を取りやめ、アクティブに行動するロキ。かつて此処まで到達できたのは皆無(・・)だったからだ。人間、今までかつてないほどの偉業を達成した時、無邪気に、無警戒に悦ぶという。これは神も例外ではなかったというわけだ。心の片隅に置いていたH○Hの言葉もかなぐり捨てて駆けだす。第三者から見れば今まで戦争で帰って来なかった恋人と再会して熱い抱擁を熱望し駆けだすカップルに見えるように走っていた。

 

「アイズたああああああああん!待っててなあああああああ!」

 

待って居ろアイズたん。愛しのアイズ。後ろの名前がよく大統領と間違えられるアイズ。それをからかわれて拗ねるアイズ。胸が小さい事を気にしているアイズ。ジャガ丸くんサワークリームオニオン味を食べて恍惚の笑みを浮かべるうちのアイズ。待ってろよ。

 

今、うちが行きます

 

 

「いざ!」

 

 

 

扉に到着したロキは、深呼吸をし、倒錯した思いを頭に循環させる。生きている神生、今までで一番に渇望した。目的を今、遂げる。叶えたい夢が叶う。罵倒されようとも、批難されようとも、ウチは今まで頑張って来た―――――。

 

ドアノブを回し、ドアを――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「何をしている。ロキ」

 

 

 

 

―――――――――閉じた。

 

 

「い、いや?なんにもしてまへんで?そ、それよりもどうしたんや?こないな時間に

 

 

――――――――――リヴェリア」

 

リヴェリア・リヨス・アールヴ。

ロキのファミリアに於ける最古参の一人であり、Lv.6。ファミリアでは母親のような役割であり、人望も高い。ドワーフであるガレスとは当初は仲が悪かったが、今はそれほどでもない。【九魔姫(ナイン・ヘル)】とオラリオでは呼ばれており、その二つ名で最強の魔法使いとなっている。エルフである為、魔法は得意中の得意としているから、本人も鼻が高いだろう。あと王族であるらしいが、ロキにはぶっちゃけ今はどうでもいい。

 

ロキの肩を叩き、話しかけてきたのはリヴェリアだった。別段朝に弱いわけではないリヴェリアだが、どこか顔に不機嫌さが混じっている。

 

「いや、私はロキが居たので挨拶を、と思ったのだが………」

 

「だが………?」

 

ロキの背中に汗が流れる。既にべたついて不快になるも、目の前にある悪魔に意識を裂いており、気にする余裕もない。

 

(気配はせえへんかった!なんでバレたんや?!)

 

「………………………………」

 

だが、の次から喋らなくなり、黙ったリヴェリア。ロキにはそれが堪らなく恐ろしかった為、焦燥感に駆られ、怒りの矛先を反らそうと必死になる。

 

「違うんや違うんや!別にアイズたんの寝顔とか拝見しようとかおっぱい揉もうとか思ってないで?!ウチはただアイズたんを起こしてあげようとしただけなんや!親切心や!」

 

「……………………言いたいことはそれだけか?」

 

(あ、あかんかった………………)

 

しかしいらんことまで言ってしまった為、次第にリヴェリアの眉間がピクピクし始めた。明らかに激怒している証拠だ。ロキは次第に口数を減らしてゆく、最早誤魔化すことは不可能になった為、あとロキの語彙が少なかった為、諦めたように口を閉ざした。ロキは肩を落とし、視線を地に向け項垂れた。あとは死刑執行を待つのみだ。ロキのヴァルハラは見えなかった。

 

ロキはリヴェリアに首根っこを掴まれ、地面に引き摺られながら連れて行かれた。苦悶と泣き声をあげるも無視された。その光景は出荷されてゆく牛のようであった。

 

 

 

「知っているかロキ……。私たちの尻が二つに割れているのは、片方が損傷しても問題なく生活できるからだそうだぞ……?」

 

「ノウッ!!それあかんやつや!」

 

かくして、ロキの既知感は永劫回帰された。ロキがリヴェリアの制止を振り払い、アイズの部屋に夜這いが成功するという未知に到達することはあるのだろうか?

 

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

 

 

「うううん………ロキ、うるさい……ジャガ丸くんサワークリーム……」

 

ロキの叫び声はホーム中に響きわたり、「ああ、朝か」と一部を除いてアラーム代わりに重宝されるようになったという。ロキは極めて遺憾であると文句を言ったが、エルフのリヴェリアさんに「じゃあアイズに夜這いを掛けなければいい」と言われ、大人しくなったらしい。

 

 

◇◇◇

 

 

その後、リヴェリアの折檻から命からがら生き延びたロキは朝食も食べずにオラリオを彷徨っていた。知り合いに挨拶されるも、テンションが皆無なロキは気づくことも無く、無視していた。奇異な目で見られる事も慣れていた為、周りの眼はどうでもよかった。

 

「もう、どうあがいてもリヴェリアに邪魔される……うちの夢は叶う事はないんか……」

 

大通りから外れ、人気の無い道にまで彷徨ったロキはばたりと糸の切れた人形のように倒れ、ポつりと呟いた。どうあがいても絶望ならぬどうあがいてもリヴェリア。

ロキの周りには暗澹とした空気が流れており、それはまるでリストラされたことを家族隠し、一口酒を片手にブランコに時間を潰すサラリーマンのような状況であった。まあロキの場合は自業自得なのだが。

 

(アイズたんとちゅっちゅするのは、夢のまた夢なのか?)

 

ロキは天を仰ぐ、神が、彼女らが住んでいた原初の場所を。何も起こらないとはいえ、かつての住まいを。いつでも暖かかった炬燵に対して郷愁を……。

 

 

「大丈夫―?ジャガ丸くん食べる?明太子味だけど。僕の口には合わなかったんだね。僕はオニオンパセリ味が好きなんだー」

 

その時、瀕死のロキに一筋の光が伸びてきた。その声の主はロキのうつろに開いた口にジャガ丸くん明太子味を捻じ込んだ。ロキは苦し気な声を上げたが、文句を言う事はなかった。

 

ロキは感動していたのだ。目の前に現れた少女はメシアのようだった。比喩ではない、本物のメシアと確信してしまった。

 

「どうしたの?」

 

アイズがロキにとって理想の女性ならば、目の前の少女は理想の少女。

腰まで伸びる桜色の髪を三つ編みに縛り、活発そうなパッチリと開いた眼はチャーミング。一筋の白いメッシュ。顔は少女然として魅力的。故に

 

「お、お名前は何ですか?」

 

ロキがこう言うのも無理は無かった。

 

少女は頬に指をあて、しばらく考え始めた。何を思っているのだろうか。うーんうーんと唸っているその姿すらロキにとっては魅力的に映った。

 

「あ、あかんのか?」

 

「うーん、そうじゃないんだけど、人の名前を訊くときは自分からだー、て言われたんだー」

 

焦るロキ。オラリオは広大だ。ここで機会を逃せば彼女は他の神に拉致同然の勧誘を受けるだろう。だが少女の回答は、斜め上のモノでロキは驚き半分納得半分だった。

 

「あ、あー。うちはロキっていうんや。知ってるやろ?」

 

「あー!ロキファミリアの主神さんかー。びっくりー」

 

「そ、それでやけど、はあはあ、君、名前、なんていうの?はあはあ」

 

興奮混じり、ロキの急かすような声に少女は「忘れていた」と少し謝罪し、そして太陽の如き笑顔を向けてロキに名乗った。

 

「僕の名前はアストルフォ!【アストルフォ・イルマ】って言うんだ」

 

アストルフォと名乗った少女の笑みは、ロキがプライドをかなぐり捨ててまで眷属にさせようとする箍を外してしまったのだった。

 

 

 

これが、後にオラリオに名を轟かせる【悪戯(トリック・スター)】と呼ばれるアストルフォ・イルマと、悪神ロキの出会い。【眷属の物語】の始まりであった。

 

 

 

 

 

「アストルフォたんかあ。はあはあ……はあはあ……」

 

 

そしてアストルフォは身に迫る危険に気づいていない。

 

 

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