ただ陽乃さんとイチャコラしたいだけの人生 作:暇なのだー!!
──ただ、陽乃さんとイチャコラしたかった人生だった....
そう、今日で無事十九歳を迎えた俺は、自分に降りかかる災難を避けるのを諦めていた。
迫る車。そのスピードは緩められたようで緩まず、真っ先に我が身へと飛び込んでくる。
目の前には一人の高校生とその腕に抱き抱えられた一匹の犬。
俺の命とこの一人と一匹の命を天秤にかけたら....俺は迷わず自分の命を取るのだが....いかんせん勝手に体が飛び出してしまった。何自分でも何故飛び出したのか分からない。どうやら絶対に怪我をさせたくないという本能的なナニカが働いてしまったようだ。
....俺は陽乃さんの次に自分が大好きだったが、どうも、厄介事は避けられない性らしい....
ははっ、と自らのカッコつけ方に失笑し前を向くと、最早眼前に車体が迫っていた。
「あっ....!」
誰の言葉であっただろうか、短くも絶望を纏ったその声は浮かんで消えていった。
ドンッ!と車体が我が身にめり込む。脇腹に食い込むのはとてつもない衝撃。やばい、と感じる間も無く俺の体は吹っ飛ぶ。まるでゴムボールのように地面をバウンドし、中を舞った。
その中でも思うのはただ一つ。
──本当に、陽乃さんとイチャコラしたかっただけの人生だったぜ....
「柱さーん、起きてますか?」
ぱちくり、と目を覚ます。目に映るのは知っている天井。
病院で三度目の朝を迎えた俺は声の主を探した。
「柱さーん」
....また家族でも来たのだろうか?
そう思いながら声の聞こえる方を向くと....
──大きな双丘があった。母性を感じさせるようなその膨らみは、この世のものとは思えない程に造形美が漂っていて、思わず顔をうずめたくなりそうだった。
....ここが天国だったのか、なら俺はいつの間にか死んだのだな....と思うのも束の間。せめて生の間際にと、そのたわわに実った果実を持つ人物を見ようと顔を上げると、天国なんて生易しいものでは無かった。
「おはよー」
想像して欲しい。目を開けて隣を見ると、女神が佇んでいる光景を。正に今はその神話のワンシーンの再現である。
ひらひら、と手をこちらに向けて振る人物はさながら女神。
黒髪を肩まで伸ばし、にこにこと顔を笑顔を張り付けている眼前の女神は、窓から入る日光を背に当て、神々しかった。
俺が声も出せず口をぱくぱくさせていると、再び眼前の女神は口を開く。
「こうやって話すのは初めてかな?初めまして、私は雪ノ下陽乃」
「....
俺の口から発せられた声は弱々しくなってしまった。しかし、そんなことも気にせずに会話は続く。
「ごめんなさい。貴方を羽飛ばしたの....私の家の車なの」
誠意の籠った声で謝罪をされた。その姿はさっぱりとしていて不思議と好感的な印象を植え付けられる。
彼女は尚も頭を下げていた。生憎と俺は美人に頭を下げてもらって喜ぶようなサディスティックな趣味はお持ちでない。逆に陽乃さんに踏まれたい側である。…しかし、本当に申し訳なさそうに頭を下げている姿を見ると、こっちこそ申し訳なくなってしまう。
「良いんですよ....体が反応しちゃっただけですから」
そう言うと彼女はぱっ、と顔を上げる。その顔には先程までの申し訳なさそうにしていた顔色は無く、爽快なるまでの笑顔を浮かべていた。
─相変わらず、高校生の時から変わらないなぁ…
「ありがとう」
嘘偽り無い声。その笑顔が眩しすぎてくらり、と体がベッドに蹲りそうになったが、どうにか理性で押さえ込む。どうやら、先程までの俺に謝罪をするという案件は終わったようだ。
その後、何個か質問を投げかけられたが、目の前に美人さんが居るということでガチガチに緊張した俺はしどろもどろの答えしか答えられなかった。その度に陽乃さんに笑われたが、美人さんの笑顔を見ることができたので悪い気はしなかった。
そして、時は既に日が落ちる頃となっていた。
「そしたらねー、雪乃ちゃんがねー、『それは私のパンさんなの!姉さんは触っちゃダメ!』って言ってねー....もうあれは流石の私でも凹んだよー....」
「あはは、それは可愛らしい妹さんだ。」
「そうだね、私の雪乃ちゃんは可愛いからね」
胸を張って誇らしげに言われた。....これは眼福ですわぁ....
あ、ちなみに一時間ほど話してたら普通に話せるようになりました。さっきまでの口調?カッコつけたに決まってるでしょう。
「っと、もうこんな時間だね....今日は残念だけど帰るねー。....泊まっていいかな?」
上目遣いで俺の目を覗き込む陽乃さん。
思わずすぐにyes!フォオオオ!と叫び、俺の股間がMAXファクトリーになりそうだったが抑える。stay、stay....OK、Q,目の前の女の子は誰? A,人類ではありません、崇める対象です。即ち女神。
OKOK、別に距離感が縮まったとかは思ってない。今のはただの冗談。
彼女居ない歴=年齢の俺でも分かる、陽乃さんからしたら俺はただの話せる人N、良いね?
そうやって自らの気を沈めていると、再び陽乃さんが口を開いた。
「あはは、うそうそ、冗談。君と話せて楽しかったよー」
ひらひらと手を振りながら陽乃さんは帰って行った。想像通り、去り際までさっぱりとした人だった。
──陽乃さんが帰ると、部屋は静寂に包まれる。あの事故が起きてはや三日がたち、やっとこの殺風景な部屋にも慣れてきたはずだったのだが....先程まで会話をしていた分、急に話相手が居なくなると寂しい。
窓から差し込む夕日によって照らされる、先程まで陽乃さんが座ってた椅子は、どこか陽乃さんの余韻を残すように温かみを放っていた。
だんだんと、この部屋に再び孤独になってしまったと悟り、気弱になってしまう。
(....いかんいかん!)
両手をパン!と頬に打ち付ける。じんじんと晴れるほっぺ。それで自らの心意気を変える。
(認められなきゃな)
自分が陽乃さんに対しての感情は好意。対して、陽乃さんから俺に対しての感情は話せる人間G。
もはや対極の感情だが、最低値からスタートなら、後は登るしか道は無い。
そう、俺は俺しかいない空間で、自らを鼓舞する。
俺が目標としているのは陽乃さんに認められるという事。理由は話せば長くなる。
そこに一切の偽りも下心も無い....無い、と思う。
陽乃さんと対等とまでは行かないが、凡人である俺が努力を重ねて陽乃さんの足元にたどり着かなければ、あの人には反応さえもしないだろう。
今日会話が弾んだのだって、陽乃さんの話術が上手かっただけであり、決して自分のトークでウケてたとかではない。むしろウケさせて頂いた方。
──そして俺は早速コミュ力つけようと決心し、これから何度でも使用させていただくであろう、俺の唯一の親友、S○riちゃんを呼んだ。
「....コミュ力のつけ方を教えて」
『ピロピロピローン....はい、おそらく機械である私に教えてもらう時点で、コミュ力活性化など不可能だと存時上げます』
oh..ナニコレ、坂○忍さんでもここまでスパっと切らないよ?ちなみに今切れたのは俺の精進しようとする心。故に最早前に進めない。Game Over.
始めるから結果は決まっているとはこういう事、身を持って体験させていただきました。
リアルでorz状態になる俺だが、ここでめげてはいられない。
俺は携帯に内蔵してあるメモアプリを開くと、そこにカタカタと文字を打ち込み、ベッドに倒れ込んだ。
『第一目標 雪ノ下陽乃さんのお友達になる』
ただ陽乃さんとイチャコラしたいssを書きたかっただけ。
これからの事はノープランですが、ノーリターンで行きます←