ジョセフィーヌ・ジョースターの奇妙な幻想譚   作:勇(気無い)者

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ノリと勢いだけでやった。後悔も反省もしている。


其の一、八雲家の居候

「……ぅ…ん…」

 

 とある和室にて。布団の中で安らかな寝息を立てている少女がいた。

 金色の長い髪をした少女だ。年の頃は十代半ばといったところか。整った顔立ちをしており、とても幸せそうな寝顔を浮かべている。

 そこへ、襖を開いて部屋の中に入ってくる人物がいた。

 見た目から察するに、二十代前半の背の高い女性。その身長は百七十にも及ぼうかという程。

 長く艶やかな黒髪は腰辺りにまで達する程で、端正な顔立ちは中性的に近い。引き締まった肢体をしており、鍛えられた身体であると解るが、別段筋骨隆々というわけでもない。胸元には大き過ぎない程度の立派な双丘。

 服装はノースリーブの白シャツに、デニムのショートパンツというラフな恰好。シャツの裾は胸の下辺りで縛ってあり、へそ出しルック。右の二の腕辺りに赤いスカーフを巻いている。また、腹筋が目立たない程度にうっすら割れている。

 その女性が、布団で寝息を立てている少女の元まで歩み寄り、肩を揺らす。

 

(ゆかり)。紫、朝だぞ」

「ん〜……あと五分…」

 

 紫と呼ばれた少女が呻く様な声を出す。

 

「あと五分? あと五分寝たら起きるのか?」

「…あと五分…寝かせて…」

「本当にあと五分で起きるんだな?」

「…うん……」

「だが断る」

 

 女性が紫の毛布を勢い良く引っ剥がした。紫の体がゴロンと、布団の上から畳の上へ投げ出される。

 

「…ぅ〜……酷いじゃないの、ジョセフ…」

 

 抗議の声をあげながら、紫が体を起こす。対するジョセフと呼ばれた女性は小さく溜め息を吐いた。

 

「さっさと起きないお前さんが悪い」

「だって、まだ眠いんだもの…」

「折角私が朝食を作ったんだがな。紫の分まで食べてしまうぞ」

「…ん〜…やだぁ〜ん……」

 

 紫は寝ぼけ眼で立ち上がり、

 

真っ裸(まっぱだカ)ーニバル」

「…フフ…ッ…!」

 

 意味不明な台詞と共に寝間着を脱ぎ捨て、一糸纏わぬ裸体を晒した。

 紫の渾身のギャグはジョセフのツボを捉えたらしい。彼女は口元を抑え、肩を震えさせ失笑していた。

 それを見ながら紫は満足そうにニコニコと笑う。

 

「フフ、ウケた様ね」

「ああ、今のは面白かった。かなり大爆笑」

「じゃあ、私は顔を洗って着替えてくるわ」

 

 紫がそう言うと、彼女の足元がばっくりと割れ、異空間の様なものが出現した。"スキマ"と呼ばれる彼女の能力の一端である。

 紫はスキマの中へピョンと飛び込み、彼女の全身が呑み込まれるとスキマは閉じられた。

 

「やれやれだね…」

 

 誰とは無しに呟く。

 彼女の名前はジョセフィーヌ・ジョースター。つい最近まで博麗の巫女が不在の間、代理を務めていた人間である。

 そして、幻想郷の代表ともいえる妖怪の賢者、八雲紫の親友でもあった。

 

「さて、布団を畳んで私も下へ行こうか」

 

 そう呟くと布団を押し入れへと片付け、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 ジョセフィーヌと八雲紫が初めて出会ったのは、何と四十年も昔の事。

 彼女は今と全く変わらぬ外見をしており、山で倒れていたのを紫が発見した。

 当時、彼女が身に纏っていたのはボロボロの外套一枚のみであり、しかしながら外傷は一つもない状態であった。

 それを見た紫が最初に抱いた印象は、まるで打ち捨てられた人形の様だな、というものであった。

 そして、其処へ通りかかった獣の妖怪。つまりは知性の欠片もない妖獣。

 それが彼女に襲いかかったのだが━━━どう察知したのか、その女性は突然起き上がり、一言。

 

星の白金(スタープラチナ)

 

 そう呟いた後、彼女は妖怪の突進を躱した。

 だが、妖怪の追撃。二度目の突進に対して━━━

 

「オラオラオラララオラァ━━━ッ!!」

 

 目にも止まらぬ拳のラッシュを叩き込み、妖怪を撃退したのだ。

 凄まじいまでの力だった。妖怪の顔が原型を留めておらず、グチャグチャに変形していた程である。

 彼女が紫へと向き直った。まるで威圧する様な鋭い眼光。喧嘩でも売っているのか。

 対する紫は不適な笑みを浮かべる。まるで人間風情など相手にならんとでも言わんばかりの尊大な態度。それは大妖怪である、彼女の(さが)がそうさせるのだ。

 妖怪は人間よりも強い。そういう驕り高ぶった心こそが妖怪の原動力となるのだ。

 睨み合う両者。

 やがて口火を切ったのは、人間である彼女の方。

 

「私はジョセフ。ジョセフ・ジョースター。ジョジョって呼んでくれ」

 

 唐突な自己紹介だった。先程までの雰囲気とは打って変わってフレンドリーな様子に、紫は思わず吹き出しそうになったが何とか堪える。

 

「ジョセフとは、まるで男の様な名前ね。女らしくジョセフィーヌとでも改名したらどうかしら?」

「成る程、確かに。じゃあ私はジョセフィーヌ・ジョースター。ジョジョって呼んでくれ」

「…フフ…ッ…!」

 

 今度こそ堪えきれず、軽く吹き出してしまった。

 小馬鹿にしたつもりで言ったのだが、あっさりと改名してしまった。しかも、何事もなかったかの様に先程と同じ自己紹介。

 紫は彼女に興味を持った。

 

「私は紫。八雲紫よ。紫でいいわ」

「そうか。よろしく、紫」

「…………ええ」

 

 何がよろしくなのかは解らないが、紫は自然と彼女の手を取り握手を交わしていた。人間が相手だが、不思議と不快感は無かった。

 そして、ジョセフィーヌの一言。

 

「で、私は何者なんだ?」

「はぁ?」

 

 彼女の問いに、紫は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

 

 

 

 それからジョセフィーヌに色々と聞いてみると、様々な事が解った。

 まず、彼女の能力について。

 曰く、「ジョジョの奇妙な冒険」という物語に登場する人物の技や能力を操る事が出来るらしい。

 厳密には、登場人物の知識と技、更にキャラクター達の能力である「スタンド」を自分の体に降ろして、「スタンド」の持つ特殊な能力を行使する事が出来る、というものらしい。

 後々、紫は「ジョジョの奇妙な冒険」の物語を彼女から聞いて知り、それがどれ程とんでもない能力であるかを理解するのだが、この時点では神降ろしの様なものであろうと当たりをつけていた。

 

 で、次に記憶。

 これについては何も解らないというのが解った。

 何と彼女は先程覚醒した以前の記憶が全く無いのだという。

 それはつまり彼女が何者で、何故この場所で倒れていたのか、家族や知人はいないのか、年は幾つなのか、これまで何処で生活していたのか、何故能力が使えるのか等々。彼女自身の情報が全く解らない事を意味している。

 更に後で判明した事だが、名前すらもその場でつけたものであった。しかも、キャラクターの名前である。いい加減過ぎる。

 だが、紫は彼女が何も知らない事を「都合が良い」と思った。

 一年前に博麗の巫女が息を引き取り、現在は博麗神社に巫女が居ない。仮にも幻想郷の管理者が空席のままでは拙い。

 だから紫は、次の博麗の巫女が見つかるまでジョセフィーヌに博麗の巫女の()()を頼む事にしたのだ。強さや能力についても申し分ない。何より人間である━━少なくとも紫はそう感じた、妖怪の類では絶対にない━━彼女なら適任だ。

 これをジョセフィーヌは、

 

「解った、任せろ」

 

 質問等一切無く、二つ返事で即座に了承。

 そうして四十年にも及ぶ長い期間、つまり現代の博麗の巫女である博麗霊夢が見つかるまで代理を務め続けたのであった。

 因みに、あの時のジョセフィーヌの台詞に今なら抱かれても良いと思った、とは紫の談。恐らく冗談だろう。恐らく。

 

 何にせよ、紫はジョセフィーヌこと、ジョセフと(つる)む様になる。その内に紫は彼女の事を愛称で「ジョセフ」と呼ぶようになった。

 しかしその所為か、八雲紫は人間と連んでいると噂され、妖怪達はそれを小馬鹿にする様になってしまった。それは、八雲紫の立場や評価が下がってしまう事に繋がる。

 だが、紫はそれを不満には思わなかった。ジョセフと連む事は自分にとって有益であるし、何より彼女は掛け替えのない親友なのだから。

 というか、それらの妖怪は軒並みジョセフによって叩きのめされたので、噂は自然と「八雲紫は人間風情と連んでいる」から「あの人間はマジでヤバい」という評価へと変わり、結果紫の面目は保たれた。

 

 不満に思ったのは紫の式神である、九尾狐の八雲藍であった。

 何故かと言えば━━━

 

「藍」

 

 ジョセフに呼び止められる。

 

「突然だが、ギャグを考えた。オリジナルギャグだ。考えたんだ」

「………」

「いいか、一回しかやらないからよ〜く見てろよ」

「………」

 

 ジョセフが指を四本真っ直ぐ伸ばした状態で手を(かざ)し、

 

「そこちょっと、失礼(シ・トゥ・レィ)〜〜」

 

 指の数を「失礼」の下りに合わせて四本から二本に減らし、二本から親指と人差し指で(マル)を描く。

 

「つぅ〜ギャグ。どよ?」

「………」

 

 ……沈黙。

 やがてジョセフが、

 

「紫、紫〜」

「どうしたの、ジョセフ?」

「渾身のギャグを見せたのに藍が無反応なんだ……慰めてくれ…」

「あら、可哀想に。よしよし、私の胸でお泣き。藍ったらいけない子ね」

 

 ━━━これだ。

 二人掛かりで藍をからかってくる。藍はこれが(すこぶ)る不満だった。

 ジョセフが紫の前に現れてからというもの、紫は変わってしまった。何というか、ちょっと駄目な方に変わってしまった。それが兎に角不満だった。

 

「はぁ…」

 

 思わず溜め息を吐く。

 嗚呼、自分が紫様の式神となったあの日。調子に乗りまくっていた自分の鼻っ柱を見事にへし折り、大妖怪としての威厳に満ち溢れていた紫様は何処へ行ってしまったのか。

 それもこれも、全てあの人間の所為である。

 だが、藍はジョセフが嫌いな訳ではない。寧ろ、在る意味尊敬の念すら抱いていた。

 何故なら、彼女は八雲紫の横に並び立つ事が出来る力を秘めているから。

 紫に頼まれた博麗の巫女の代理を務め、十二分以上の活躍を果たし、当時幻想郷の管理者とは名ばかりであった博麗の巫女の地位を向上させたのは紛れもない、ジョセフ自身なのだ。

 並み居る妖怪を片っ端から千切っては投げ、千切っては投げ━━━いつしか、博麗の巫女は幻想郷のパワーバランスの一角を担う存在となった。

 八雲紫と肩を並べる実力がある。だから尊敬はしている。

 尊敬はしているが━━━

 

「嗚呼、紫〜」

「よしよし。もう、藍ったら駄目じゃないの。一発ギャグっていうのは、スベった時のダメージが計り知れないのよ。愛想笑いくらいしなさい」

 

 勘弁して下さい。

 藍は心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 長くなったが、ここで漸く冒頭のシーン━━━を、少し進んだ所へと戻る。

 丁度、ジョセフの作った朝食━━トニオ・トラサルディーの知識を用いたイタリアン━━を食べ終えた直後。

 

「ああ、美味しかったわ。ジョセフのイタリアンはやっぱり最高ね。毎日食べたいくらいだわ」

「ふふ、紫。それは愛の告白なのかい?」

「………」

 

 チラリ。

 紫とジョセフが藍へと視線を向ける。まるでツッコミはまだかと催促する様な視線。

 だが、藍はこれをスルー。黙々と食器を片付けてゆく。

 

「もー、藍ってばノリ悪いわ。そこは何かユニークなツッコミを入れてくれなきゃ!」

「そーだそーだ!」

「………」

 

 一貫してスルー。

 

「……お父さん、私達の娘が無視してくる! 反抗期だわ!」

「ああ、母さんや。藍も思春期なんだなぁ」

「…っ…もう! お二人共お巫山戯が過ぎますよ!」

「やぁ〜ん、藍が怒った〜(棒)」

「こわ〜い(棒)」

「くぅ…っ! もう知りません!」

 

 藍はぷりぷり怒りながら部屋を出ていった。

 

「うーん、ちょっとからかい過ぎたかしら」

「そうだな。なんか最近は藍の抜け毛が凄いし、余りからかい過ぎるのは良くないかもな」

「それは換毛期の所為じゃないかしら。最近、気温が高くなってきてるし」

「成る程、そうか」

 

 妖獣にも換毛期はあるのだろうか。

 

「それより、ジョセフは今日どうするの?」

「ああ、今日は博麗神社へ行く事になっている。霊夢に会う約束をしているんだ」

「そう。じゃあ、近場まで送るわ」

「ああ、頼む」

 

 紫がスキマを開き、ジョセフが中へと入る。

 

霊夢(あの子)の事、よろしくね」

「勿論だ。行ってくる」

 

 そして、スキマは閉じて消えた。

 紫は霊夢に一度も会ってはいない。妖怪と人間が仲良くしていると、人里に住む人々から信用されづらくなってしまう。

 それこそ博麗の巫女の代理を務めていた、最初の頃のジョセフの様に。

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「あー……(ちぇん)に会いたい…」

 

 藍は自室にて、自分の唯一の癒しである式神の名前をポツリと呟いていたのであった。

 




藍様はハゲてない。ハゲてないぞ。
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