ジョセフィーヌ・ジョースターの奇妙な幻想譚   作:勇(気無い)者

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さりげなく評価が入ってて驚きました。ありがとうございます!
喜びの余り、思わずギャングダンスを踊っちまいました。

それでは、本篇をどうぞ。


其の十、少女達の一日

 あれから一月が経過した。

 紅い霧の影響で閑散としていた人里は活気を取り戻し、人々は今まで通りの日常を送っている。

 幻想郷に再び平和が訪れた。特に異変も起こっていない。

 そう、平和なのだ。

 また神社の縁側でお茶を啜りながら、その平和を享受出来る。そう思っている時期が霊夢にもありました。

 

「霊夢ー! 遊びに来たわよー!」

 

 ━━━霊夢の平和な時間を邪魔する輩が庭先に姿を現した。

 紅霧異変の首謀者、レミリア・スカーレットである。従者の十六夜咲夜も一緒だ。彼女の方は日笠と小さな紙袋を持っている。

 霊夢は溜め息を吐いた。

 あの異変以来、何故かこの二人はちょくちょく神社へ遊びに来る様になったのだ。しかも、今の時間帯は昼前である。吸血鬼の癖に日中出歩くとは一体どういう事なのか。

 その原因は霊夢にある。

 以前、夜にレミリア達が訪ねて来た事があった。その時の時間は夜の十一時過ぎ。丁度霊夢が寝ようとしていた頃である。

 その非常識な時間帯に「遊びに来た」と抜かしたレミリアを、睡眠を邪魔され激怒した霊夢が叩きのめして追い返した事があるのだ。時間にして一分も掛からなかったとか。

 以来、レミリアは日中出歩く様になった、というのが真相である事を霊夢は知らない。

 

「またあんたなの…」

「そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃないの。ちゃんとお土産だってあるのよ。咲夜、渡して頂戴」

「はい、お嬢様」

 

 咲夜から紙袋を受け取った。中には彼女お手製のお菓子が入っている。

 

「お茶ぐらいしか出さないわよ」

 

 あっさり買収される霊夢であった。二人分のお茶を出し、再び縁側に座る。

 その左隣にレミリアが足を投げ出して腰掛け、咲夜も同様にレミリアの隣へ腰掛ける。

 縁側は日影になっているので、日笠は畳んでおく。

 レミリアが早速お茶を一口含んだ。音は立てない。外国人気質。

 

「紅茶も美味しいけど、緑茶も悪くないわね」

「そ。それは良かったわね。飲んだら帰っても良いわよ」

「相変わらず素っ気ないわね。この私が遊びに来てあげたっていうのに」

「誰も頼んでないわよ。あんた達が勝手に来るんでしょうが」

「だって暇なのよ」

「あ、そ」

 

 三人揃ってお茶を一口。音を立てているのは霊夢だけ。

 

「にしても霊夢。お茶を飲む時に一々音を立てるのはどうなの? 淑女としてのマナーがなってないわよ」

「日本じゃそれが当たり前なの。あんたらがおかしいのよ」

「変な文化ねぇ」

 

 その時、咲夜が音を立ててお茶を啜った。

 

「……咲夜……あなたね…」

「お言葉ですがお嬢様、日本にはこういう(ことわざ)があります。郷に入っては郷に従え、と」

「……………」

 

 レミリアは手に持ったお茶へ視線を落とした。数秒ほど逡巡した後、ずずっとお茶を啜り、

 

「ッ! ゲホゲホッゲホッ!!」

 

 咽せた。慣れない事をするからである。

 

「おーい! 霊夢ー!」

 

 と、其処へ(やかま)しいのがもう一人現れた。霧雨魔理沙である。

 箒から降りて庭先に着地。此方へ駆け寄ってきた。

 

「何よ魔理沙、何か用事?」

「いや、用事は特に無いが暇だから遊びに来た」

 

 霊夢が溜め息を吐く。

 

「あんたら暇だと何で此処に来る訳? 意味が解らないんだけど。新手の嫌がらせ?」

「そんな嫌そうな顔するなよ。ほら、美味しい茸を持ってきてやったんだぜ」

 

 魔理沙は頭に被った三角帽の中から袋を取り出し、それを霊夢に渡した。何処に入れているのか。

 

「お茶ぐらいしか出さないわよ」

 

 またしても買収される霊夢であった。魔理沙の持ってくる茸は美味しいのだ。お茶を用意し、再び元の場所に座る。魔理沙もお茶を受け取り、足を投げ出して霊夢の右隣に腰掛ける。

 そして、狙ってやったかの様に四人同時にお茶を一口。レミリアだけは音を立てていない。

 

「なぁ、霊夢。ジョースターさんはいつ来るんだ?」

「さぁね。あの人はいつも気紛れにフラッと現れるから」

「おい、あの女の話はするな。茶が不味くなる」

「あー? お前の都合なんか知らねーよ。私は霊夢と話しているんだ。引っ込んでろ」

「何だと? 未熟な魔法使い風情が随分とナメた口をきくじゃあないか。喧嘩売ってるのか? 良いぞ? 買うぞ?」

「上等じゃねーか。お前とはまだ()ってなかったしな」

 

 レミリアが立ち上がる。

 

「言ったな小娘。良いだろう、其処まで言うなら腕に自信があるんだろうな。相手をしてやる」

 

 魔理沙も立ち上がる。

 

「あー、お前如きに負ける要素は何一つ無いね。ジョースターさんにケツ叩かれて泣きべそかいてたお子様なんかによ」

「泣いてねーわ。適当な事抜かしてんじゃないわよ」

「はー? ケツ叩かれながらごめんなさいごめんなさいって謝ってたじゃねーか泣きべそかきながらよ。滑稽だったぜ」

「言ってねーわよ耳が腐ってんじゃないのか小便臭い小娘が」

「小便臭いのはどっちだこの幼女吸血鬼」

「黙れ糞ガキ泣かすぞ」

「やってみろ幼女」

「あ?」

「お?」

「二人とも」

 

 一触即発の二人に声を投げたのは霊夢である。彼女は目を伏せたまま静かにこう言った。

 

神社(ここ)で暴れたらぶちのめすわよ」

「………」

「………」

 

 魔理沙とレミリアは静かに腰を下ろした。

 二人共、霊夢がキレた時の恐ろしさは重々承知しているのだ。怒らせてはいけない。

 そんな中、咲夜だけは我関せずの顔でお茶を啜っていた。

 沈黙。蝉の鳴き声が辺りに木霊する。

 そして、四人は同時にお茶を啜った。打ち合わせをしている訳でもないのに何故こうも息ぴったりなのか。謎である。

 と、其処へ更に闖入者が庭先から姿を現した。手に袋を持った背の高い女性。

 

「ジョースターさん!」

 

 ジョセフィーヌであった。

 その姿を見た霊夢が喜色の窺える声を出し、隣の魔理沙も嬉しそうな表情を浮かべる。レミリアだけは舌打ちしていた。咲夜は相変わらず我関せずの顔。

 

「久しぶりだな、霊夢」

「ええ、会いに来てくれて嬉しいわ。今お茶を用意するわね」

 

 霊夢が奥へと引っ込んだ。

 

「ところで、今日は魔理沙とレプリカも来てたんだな」

「レプリカじゃねー! レミリアだ! 何度間違えれば気が済むんだお前は!?」

「あー、そうだっけ? すまんすまん、わざとだ」

「……この女は…! この女は本当に……!」

 

 レミリアの頬が怒りで痙攣している。今にも襲いかかりそうだが、神社で暴れると霊夢が激怒してしまう。我慢するしかない。

 

「お待たせ、ジョースターさん」

「ああ、ありがとう」

 

 奥から戻ってきた霊夢からお茶を受け取り、魔理沙の隣に腰を下ろした。

 そして、五人同時にお茶を啜る。完全に同時。何故此処まで揃うのか。最早ちょっとした異変ある。

 

「そうそう、西瓜(すいか)を持って来たんだ。食べるよな?」

「本当に!? 嬉しいわ、早速食べましょう!」

「そうだな、じゃあ」

「ジョースター様。私が切り分けて来ます」

「そうか? では頼む」

 

 切り分け役を名乗り出た咲夜は西瓜を受け取り、お勝手へと入っていった。

 

「ジョースターさん、ジョースターさん」

「どうした魔理沙?」

「アレの続きが聞きたいぜ」

「アレ……ああ、ジョジョの奇妙な冒険の事か」

「そうそう! あれからずっと続きが気になっててさ」

「あー、だからあんたジョースターさんが来てないかって何度も訪ねてきたのね」

「そうだったのか。そいつはすまなかったな」

「ちょっと、ジョジョの奇妙な冒険って何よ。私も話に混ぜなさいよ」

 

 レミリアが会話に割り込んできた。一人だけ話についていけないのが気に入らないらしい。寂しがり屋。

 これに魔理沙が適当に返す。

 

「ジョースターさんの冒険譚だ」

 

 嘘は言っていない。主人公がジョースターなのは二部までだが。

 その言葉でジョセフの冒険譚と勘違いしたらしいレミリアが面白くないとばかりに舌打ちをする。

 

「ふん、お前の人生譚なんか聞きたくない。不愉快だ」

「じゃあ帰れよお前。私はジョースターさんの語る冒険譚が聞きたいんだ」

「知るか、お前の意見など聞いていない。お前こそ帰れ」

「あ?」

「お?」

「お待たせ」

 

 再び魔理沙とレミリアがヒートアップしかけた所へ、咲夜が切り分けた西瓜を持って現れた。ナイスタイミング。

 それによって二人の意識も西瓜へと向いた。

 

「とりあえず食べようか」

 

 ジョセフの言葉に全員が頷いた。

 西瓜は丁度五等分に切り分けられている。流石は瀟洒なメイド長。

 それぞれ西瓜を手に持ち、一口。矢っ張り同時。ここまでくると軽いホラーである。

 そして沈黙。皆、無言で西瓜を黙々と食べている。

 暫くして、魔理沙が種をプッと吐き出した。三メートル位は飛んだだろうか。

 次にレミリアが種を飛ばした。五メートル地点で落下。魔理沙に何処か勝ち誇った様な顔を向ける。淑女としてのマナーはどうしたのか。

 対する魔理沙は「ぐぬぬ」と悔しそうな声を洩らし、西瓜を一口。そして、種を飛ばす。今度は六メートル地点まで飛んだ。

 勝ち誇った顔をレミリアに向ける。

 レミリアもまた「ぐぬぬ」と分かり易いぐらいに悔しがり、再び種を飛ばす。記録は六メートル五十センチ。

 そうして二人の幼稚な争いは激化してゆく。七メートル、七メートル二十、七メートル三十、七メートル六十と、二人は徐々に記録を上げてゆく。

 それを横目に霊夢は呆れた様な溜め息を吐き、咲夜は矢っ張り我関せずの顔。

 そこでジョセフが急に種を飛ばし━━━弾丸の様に真っ直ぐ飛んでいった種は、木に突き刺さった。

 

「これ、波紋の悪用法ね」

 

 原作でジョセフがシーザーにやった事の応用番である。あれはイカ墨のパスタであったが。というか、別に悪用法でもない。

 魔理沙は「流石ジョースターさん!」と、幼いディオの取り巻きの台詞を吐き、レミリアは面白くなさそうにそっぽを向いた。

 とりあえず、二人の幼稚な争いに終止符が打たれた。流石ジョースターさん。

 暫くして西瓜を食べ終えた五人は、再びお茶を淹れて一服。何とも長閑な雰囲気である。

 

「さて。それじゃあジョジョの奇妙な冒険を語ってあげるとするかな」

「よっ! 待ってました!」

 

 ここぞとばかり魔理沙がヨイショする。レミリアは耳を塞ぎ「あーあー」と聞こえない様に声を出し、霊夢に五月蝿いと注意されて止めた。咲夜はそれでも我関せずの顔。

 

「どこまで語ったんだったか? 三部? 四部?」

「四部までなのぜ」

「そうか、なら五部からだな。まず、広瀬康一が承太郎の依頼を受けてだな━━━」

 

 それからジョセフはジョルノの冒険譚を語った。

 魔理沙と霊夢は勿論の事だが、レミリアと咲夜までもが聞き入っていた。そして、六部まで語り終えた所でその日はお開きとなり、それぞれ帰路についた。

 それからレミリアとジョセフは少し仲良くなったそうな。

 

 

 

 

 

 

 八雲邸にて。

 庭先の宙空にスキマが出現し、中からジョセフと紫が姿を現した。博麗神社までの送迎はいつも紫が行っている。というか、八雲邸の周囲は紫が境界を弄りまくっており、スキマ以外の方法では出る事も入る事も出来ない。

 ざっ、ざっ、と庭先から玄関前まで歩くと、紫が不意に足を止めた。

 

「どうした、紫?」

 

 ジョセフが問いかけるも、彼女は無言のままである。

 首を傾げながらも返答を待っていると、紫の肩がわなわなと震えだした。

 そして、バッと振り返りジョセフの肩を両手で掴むと、

 

「なんなのあの吸血鬼!?」

 

 と。ヒステリー気味の声をあげ出した。

 更に続けて、

 

「私が霊夢に会いたくて会いたくてしょうがないのを我慢して我慢して我慢してるっていうのに何であいつが神社に訪れて来てる訳!? 私の霊夢を狙ってるの!? 私の霊夢に手を出す気!? 許さないわ許されないわ!! そもそも吸血鬼のくせに昼間から外を出歩くってどういう事なの!? 意味が解らないわ意味が解らないわ!! 日中は棺桶の中で永眠してなさいっての!! 大体ジョセフもジョセフよ!! 人の居る所にいきなり西瓜の種を飛ばしてきて!! 吃驚したじゃないの! バレたのかと思って吃驚したじゃないの!! ジョセフの馬鹿馬鹿! ジョセフばっかりずるいわ!! 私だって霊夢とお茶したい!! 霊夢とお話したい!! 霊夢と仲良くしたい!! したいしたいしたぁーい!!」

 

 癇癪を起こした子供の様に喚き散らし、そのままジョセフの胸に顔を埋めて身体を預けた。とりあえず紫を抱き留めるが、ここまで取り乱した彼女を見るのは初めてであるジョセフはどうして良いか解らず、オロオロしている。

 数分程して、(ようや)く紫が顔を上げた。その表情は何処かスッキリしている様にも見える。

 彼女は小さく「ふぅ」と息を吐き、

 

「見苦しい所を見せちゃったわね、ごめんなさい」

「あ、ああ…いや、別に構わないが……それより、そんなに霊夢に会いたいのなら、会ったら良いんじゃないか? 紫が私の時の事を気にしているのは知っているけど、霊夢は私の様にはならないと思う」

「ええ、私も霊夢に会うわ」

「…あ…、…え…っ!?」

 

 紫の発言に、驚きを禁じ得なかった。

 今までジョセフは何度も紫を説得してきた。だが、紫は一切聞く耳持たず、頑なに霊夢と会う事を拒否してきた。巫女が妖怪と仲良くしている所などを人に見られようものなら、人里に住まう人間達から霊夢が避けられてしまうかもしれないと思ったからだ。実際、ジョセフはそうであった。

 だが、今日レミリアが何の気なしに神社を訪ねて来て、それを霊夢が受け入れていたのを見て、悩んでいたのが馬鹿馬鹿しく思えたのだ。

 だからもう、我慢はしない。

 

「でも、いきなり霊夢の前に姿を現すのもアレだから、まずは切欠を作る事にするわ」

「……切欠…?」

「ええ。明日辺り、私の友人をちょっと(たぶら)かして来るわ」

 

 紫がウインクを飛ばし、家の中へと入ってゆく。

 何の事だか解らぬジョセフは、首を傾げながらも後に続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、二階に居る藍はというと。洗濯物を畳みながら、先程の紫の癇癪をバッチリ聞いていた。

 

「違うんだけどなぁ…」

 

 誰とは無しに一人呟く。

 ジョセフが人間から避けられているのは紫と連んでいたからだと二人は思っているが、本当の所はそうではない。

 いや、全く関係ないという訳ではないのだが、直接的な原因ではないのだ。藍だけはそれを知っている。

 

「うーん…」

 

 話すべきか、話さぬべきか。

 しかし、今のタイミングで話すと、紫の癇癪を藍がバッチリ聞いていた事がバレてしまう。そうなると、主である紫を辱める事になってしまうのだ。あの癇癪は、藍には絶対に聞かれたくない事の筈。紫が意外とそういう事を気にする性格だと、藍は心得ている。

 数秒程悩みに悩んだ末、面倒になった藍はそのうち考えるのをやめた。

 




過去編とかやりたいけど、どのタイミングでやるべきか解らない…。
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