ジョセフィーヌ・ジョースターの奇妙な幻想譚   作:勇(気無い)者

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其の十一、博麗神社の現状と八雲邸の惨状

 あれから凡そ半年が経った。時期は冬になり、外は降り積もる雪によって白一色に覆われている。

 そんな中、博麗神社では。

 

「…………」

 

 霊夢は一人、居間にあるコタツの中に胴から下を入れて大の字に寝転がっていた。完全に無気力状態である。それは何故か。

 

 ━━━━この半年間、一度としてジョセフが神社を訪れる事はなかったからである。

 

 そう、ジョセフが来ない。来てくれない。

 霊夢の無気力状態はそれが原因であり、しかも三ヶ月以上も前からずっと続いている。

 彼女は拗ねていた。これが彼女なりの拗ね方であるらしい。

 

「霊夢、いるか?」

 

 と、そこへ襖を開けて現れる闖入者。魔女のような服を身に纏い、首もとにマフラーを巻いた少女、霧雨魔理沙である。

 霊夢はチラリとその姿を確認すると、興味なさげに視線を天井に戻した。

 

「いつも通りだな。やっぱジョースターさんは来てないか」

 

 魔理沙はそう言いながら襖を閉め、コタツにいそいそと入り込んだ。

 言うまでもない事だが、彼女の目的はジョセフである。第六部までの『ジョジョの奇妙な冒険』の物語を聞いた魔理沙だが、第七部もあるという事を既に知っている。それを楽しみにちょくちょく神社に通っているのだが、ジョセフには会えていない。

 

「ジョースターさん、どうしちまったんだろうな」

「知らないわよ、そんなの」

 

 もう一度言うが、霊夢は拗ねている。普段から大人びた態度をとる霊夢ではあるが、まだ子供。月に一度は必ず会いに来てくれていた親愛なる恩師が、突然なんの連絡も無しに半年以上も来なくなったのだから拗ねるのも無理はなかった。

 そんな状態が三ヶ月以上も続いているので、魔理沙も霊夢の扱いには慣れている。

 

「まぁまぁ、そんな尖るなよ。ほら、蜜柑持って来てやったからさ」

 

 そう言いながら、魔理沙は帽子の中から蜜柑が入った透明の袋を取り出し、コタツの上に置いた。

 その気配を察するやいなや、霊夢は上体を起こして袋の中から蜜柑を一つ掴み、再びドサッと倒れる。そして、視線は天井に向けたまま、お腹の上辺りで器用に蜜柑の皮を剥いてゆく。

 それを横目に、魔理沙はお茶を淹れるべくお勝手へと入っていった。普段の彼女であれば「私は客だぜ」などと言って霊夢にお茶を淹れろと催促するところではあるが、今の霊夢はジョセフの所為で機嫌が悪い。下手な事を言えば爆発しかねないぐらいに。

 というのも、三ヶ月ほど前にどこぞの吸血鬼が霊夢の逆鱗に触れ、ボコボコにされていたのを魔理沙は見ていたのだ。それから霊夢の前で下手な事は言うまいと魔理沙は誓ったのである。

 しかし、三ヶ月前と言えば、霊夢が本格的に拗ね始めた頃と一致する。ともすれば、彼女がこうなったのはジョセフの所為というより、その吸血鬼の所為と言えるかもしれない。

 まぁ、元凶を突き詰めれば、結局はジョセフの所為である。

 因みに、その吸血鬼は懲りもせずたまに神社へ現れる。不用意な発言は一切しなくなったが。

 

「ほれ、霊夢。お茶だ」

 

 魔理沙が居間へ戻りお茶を出すと、霊夢は上体を起こしてお茶を一口啜る。そして、湯のみをコタツの上に戻して再びドサッと倒れた。もう見慣れた事なので、魔理沙は何も言わない。

 

 そんな少女達の昼下がり。

 

 

 

 

 

 

 その頃、当のジョセフはというと。

 

「ふにゃあ〜……」

 

 今のは(ちぇん)の声。何をしているかというと、猫化している橙をジョセフが膝の上に乗せてブラッシングをしているのである。

 現在、ジョセフは八雲邸から出る事が出来ず、やる事がないのだ。彼女が八雲邸に閉じ込められてから、かれこれ半年近くが経過している。

 何故ジョセフは八雲邸に閉じ込められているのか。それは、(ゆかり)の一言が始まりであった。

 

 

 ━

 ━━

 ━━━

 

 

「ジョセフ」

「どうした、紫?」

「ちょっと藍を連れて友人のところへ悪巧みしに行ってくるから、暫く留守番お願いね」

「えっ?」

「橙を置いていくから、その間は橙と遊んでて」

「え゛っ!? ちょっ、紫様!?」

「それじゃあよろしく〜」

「ちょっ、紫様待っ……! 橙! 私のちぇぇぇぇぇ━━━━」

 

 藍の抵抗も虚しく、紫と藍はスキマの中へと消えていった。

 

 

 ━━━

 ━━

 ━

 

 

 と。まあ、そんな事があった。

 それから半年間、紫達は一度も帰ってきていない。八雲邸の周囲は紫の所為で境界滅茶苦茶になっているので、庭先から外へ出る事は出来ない。

 故に、彼女達は閉じ込められている。

 因みに食料はどこからか、いつの間にか輸送されているようなので飢え死にする心配はない。

 心配はないが━━━━

 

「ふぅ……暇だ……」

 

 溜め息を吐き、天井を振り仰ぐ。

 

 ━━━━やる事がない。

 

 八雲邸は二階建ての普通の一軒家である。普通の家と比べれば広い方ではあるものの、半年間もあれば隅々まで掃除が余裕で行き届く。炊事・洗濯も二人分で済む。買い物に行く必要もない。というか外に出れない。

 ともすれば、橙を可愛がる以外にジョセフのやる事は無いのである。

 ふと、膝上の橙がぴょんと飛び降り、ぽふんという音と共に人の姿へと変身した。

 

「ジョセフ様、そろそろお昼にしませんか?」

「ん、もうそんな時間か」

 

 橙と遊んでいると、思いの外時間が経つのが早いな。ジョセフはそう思いながら、橙と一緒にお昼を用意すべくお勝手へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後。

 

「オラァッ!!」

 

 ジョセフが叫びながら拳を繰り出し、部屋の壁を粉砕した。飛び散る破片と共に、小さな黒い影が飛ぶ。それは羽根をはためかせながら飛び、別の壁へと張り付いた。

 体長は五センチ程。光沢のある黒いボディが特徴的。人に聞けば凡そ九割以上の人が「絶対に触りたくない」と答えるであろう生物。

 

 ━━━━ゴ○ブリ、である。

 

 お勝手より現れたそれは、縦横無尽に飛んで部屋中を逃げ回る。

 

「オラァッ!!」

 

 更にジョセフの鉄拳が繰り出され、壁が粉砕される。が、ゴ○ブリはまるでタワーオブグレーのようにジョセフの拳を回避し、逃げ回る。

 一方で橙はと言うと、ゴ○ブリに出来る限り近付かないように逃げ回っていた。彼女はゴ○ブリが死ぬほど嫌いなのである。

 猫なのに何をと思うかもしれないが、橙は猫である以前に妖怪であり、女の子である。本当の猫ならばゴ○ブリを追い回し捉えたであろうが、彼女には無理だった。

 そして、ジョセフの猛攻撃は続く。

 

「オラァッ!!」

 

 壁━━━━破壊。

 

「オラァッ!!」

 

 天井━━━━粉砕。

 

「オラァッ!!」

 

 コタツ━━━━撃沈。

 

 家の中にある家具、そして家自体がどんどん破壊されてゆく。しかし、ジョセフの拳がゴ○ブリを捉える事はない。

 それでも彼女は拳を振るう。一心不乱に拳を振るう。

 もしもここに紫か藍のどちらかでも居れば、こう言った事だろう。

 

 ━━━━時間を止めて潰せよ、と。

 

 そう、簡単な事だ。ザ・ワールドやスタープラチナの時間停止を使ってプチッと潰せばいい。それだけの事。

 そうでなくとも、マジシャンズ・レッドの炎やホワイトアルバムの冷気で簡単に始末出来る。だというのに、ジョセフは何故そうしないのか。

 

 それは━━━━彼女もゴ○ブリが苦手なのである。

 

 普段から割と冷静沈着な彼女だが、苦手なゴ○ブリを前に冷静さを失っており、スタンド能力の事が頭になかった。

 苦手ならば何故拳で潰そうとしているのかという話だが、ジョセフ的には拳で叩き潰すのは構わないのだ。普通の人はゴ○ブリ素手で叩き潰すなど嫌だというのが一般的だろうが、彼女は少し変わっており、手で潰したのなら手を洗えばいいと考えているのである。

 だが、身体の上を這い回られるのは嫌なのだ。服の中にでも入られたら最悪過ぎる。彼女的にそれだけは避けたい。

 そして、一見するとゴ○ブリを潰そうと果敢に拳を振るうジョセフではあるが、その実できるだけゴ○ブリを近寄せないように及び腰であるため、スタープラチナを身体に降ろしていながらも、その拳には普段のキレがない。まぁ、それでも壁などを粉砕する力が込められてはいるのだが。

 尚もジョセフの破壊活動は続き、そろそろ家自体が倒壊しかねない頃。障子に張り付いているゴ○ブリ目掛けて拳を振り上げながらジョセフが駆け出した、その時。

 彼女の目の前の空間が、ばっくりと()()()。紫の能力のスキマである。

 

「━━━━ッ!?」

 

 ジョセフは急に止まれない。

 その勢いのままに、ジョセフはスキマの中へと呑み込まれてしまった。

 そして、滅茶苦茶に荒れた家の中には猫とゴ○ブリが一匹ずつ。橙はこの世の終わりのような表情を浮かべながらゴ○ブリを見詰め、ガタガタと震えていた。

 頼みの綱であるジョセフはスキマに呑まれて消えてしまったのだ。橙にはどうする事も出来ない。

 そのまま、どれだけの時間が経っただろうか。数秒か、数十秒か、はたまた数分か。極度の緊張により時間感覚が狂った橙にはわからない。

 だが━━━━突然、ゴ○ブリが動いた。橙のところへ真っ直ぐ飛んでくる。

 

「……ッ!」

 

 これを橙はサイドステップで素早く回避。ゴ○ブリはそのまま真っ直ぐ飛んでゆく━━━━かと思いきや、突然のUターン。

 いや、正確にはUターンではなかった。いきなり()()()橙の方へと曲がってきたのだ。

 緩やかな放物線を描いてではなく、()()()

 普通のゴ○ブリでは考えられない挙動である。

 いや、このゴ○ブリは普通のゴ○ブリではなかったのかもしれない。

 冷静さを失っていたとはいえ、ジョセフの拳を躱し続けていたのだし、そもそも境界を弄りまくって蟻一匹も入れないような立地であるにも関わらず、八雲邸に存在していること自体がおかしいのだ。一体、どこから入り込んだというのか。

 だが、橙も未熟とは言え妖怪の端くれ。速度に特化した猫又である。

 幾ら相手が小さく空を飛ぼうとも、幾ら室内が狭くとも。ゴ○ブリ相手に遅れをとる訳がないのだ。

 そう、室内が普通の状態であれば。

 

「━━━━あっ」

 

 ガコッ、と。着地した橙の足元が傾き、彼女はバランスを崩した。転びそうになりながらも、何とか踏ん張って体勢を整える。

 が、それによってほんの一瞬の隙が生じた。

 たった一瞬の隙。されど一瞬の隙。

 その隙を突いて、ゴ○ブリが橙の顔にべちょっと張り付いた。

 

「━━━━」

 

 その事実を理解するのに、凡そ二秒を要した。

 そして、それを完全に頭で理解した、次の瞬間。橙は泡を吹きながらバタンとその場にぶっ倒れた。

 




えー、約半年振りの更新になります。
今まで何してたんだよって話なんですが、実は紅霧異変を書き上げた後、吸血鬼異変についてやろうかなーって思ってたんですが、どうやって導入していいかわかんなくなってしまいまして……。
それで色々グダグダ考えてたけど、結局考え纏まらないまま別のを書き始めて流れて……みたいな。
すいません、全部私の実力不足です。はい。
とりあえず、妖々夢終わるまでの構想はあるので、それまではまたやろうかなーと考えてます。
ちょくちょく更新しますので、宜しければまたお付き合い下さい。
……ただ、この半年で書き方が変わってしまったので、見る人によっては読み辛くなってるやもしれません……。
それではこの辺りで。
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