ジョセフィーヌ・ジョースターの奇妙な幻想譚   作:勇(気無い)者

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ゴキ◯リのくだりと妖々夢編の話しか考えてなかった事に気付き、悪戦苦闘中。


其の十三、彼女の剣の腕前は

 門を潜ってジョセフの目にまず飛び込んできたのは、大きく立派な日本屋敷であった。年代を感じさせる木造の作りでありながらも、建築してから十年も経っていないのでは、と思えるぐらいに綺麗である。手入れが行き届いている証拠であろう。

 次に目を惹くのが、横に広がる日本庭園。

 本来、日本庭園の構成は池を中心にして土地の起伏を生かす形のものが多い。しかし、白玉楼の庭園は水を用いずに石や砂、植栽(しょくさい)にて水流を表現した作りとなっている。見事な職人技によって作られたそれは、見る者全てが足を止めて見入ってしまう程に美しい。

 

「お待ちしておりました」

 

 と、いつの間にか玄関先に立っていた少女が恭しく頭を下げながらそう言った。魂魄妖夢である。背中には長い刀、腰には少し短めの刀をそれぞれ帯刀している。

 彼女はそのままジョセフの元まで歩み寄り、

 

「紫様からお話は伺っております。ジョセフィーヌ・ジョースター様ですね。私は魂魄妖夢と申します、以後お見知りおきを」

 

 と、再び恭しく頭を下げた。ジョセフも「アッ、ハイ」と、戸惑いながらも応じる。

 

「我が主がお待ちですので、早速ですが中へご案内致します」

 

 そう言って妖夢は戸を開けて中へ入ってゆき、紫とジョセフもそれに続く。

 玄関口は広々としており、さながら旅館を思わせるような造りであった。妖夢と紫は靴を脱いで上がり、ジョセフは裸足なので足裏をきちんと払ってから上がる。

 長い長い廊下を真っ直ぐ、時折右へ左へと曲がり、案内されたのは広い庭が一望出来る縁側。

 そこには、縁側から足を外に出して腰掛ける、紫と同じぐらいの年頃の少女が一人。白玉楼の主、西行寺幽々子である。

 彼女はジョセフの姿を見るなり、口を開いた。

 

「あなたが、ジョセフさん? はじめまして、私は紫のお友達の西行寺幽々子。よろしくね」

「アッ、ハイ。ジョセフィーヌ・ジョースターデス。コチラコソ、ドウゾヨロシク」

 

 ほんわかした口調の幽々子とは対照的に、何だかぎこちないジョセフ。珍しく緊張しているらしい。

 それを見た紫が眉を(ひそ)めながら問う。

 

「何をそんな緊張しているの?」

「い、いや……何か紫と違って、ご令嬢って雰囲気が……」

「何それ。私と違ってって、どういう意味?」

「あ、いや、別に悪い意味で言った訳じゃ(いふぁ)(いふぁ)(いふぁ)い!」

 

 紫がむぎゅっとジョセフの右頬を抓る。痛そう。

 

()()()()へいよう(西洋)()ひほふ(貴族)()()()()()()()()ひほ()()()()()()()()()()()()()ひえ()ひゃは()()()()()

「わがまま? 私ってわがままなの?」

ひは()()! ひふ(比喩)()()ひふ(比喩)!」

 

 どんな比喩だろうか。余り比喩になっていない、ただの悪口に聞こえるのも無理はない。というか、紫もジョセフの言葉になっていない言葉をよく理解出来るものである。やはり天才。

 そんなやり取りを見ながら、幽々子がクスクスと笑う。それを見て、紫はジョセフの頬から手を離した。

 

「うふふっ……ごめんなさい。二人とも、本当に仲が良いのね」

 

 そんな彼女の言葉に、紫は照れたように顔を逸らし、ジョセフは痛む右頬をさする。

 そして、幽々子は(おもむろ)に立ち上がると、ジョセフの前まで歩み寄る。

 

「あなたの事は紫からよく聞いていたわ。もし良かったら、私ともお友達になってくれると嬉しいのだけれど、どうかしら?」

「あ、ああ。私で良ければ」

 

 紫とのくだらないやり取りで緊張がほぐれたか、ジョセフに先程までの硬さは無かった。

 

「それでね、ちょっとお願いがあるのだけれど」

「お願い?」

「ええ。と言っても、これは私からじゃなくて、そこに居る妖夢からのお願いなのだけど」

 

 言われて、ジョセフは妖夢の方へと視線を移す。妖夢は軽く一礼し、口を開いた。

 

「紫様から、ジョースター様の剣の腕前は達人級であると伺いました。宜しければ、一手ご指南頂ければと思っております」

 

 そして、再び頭を下げる。

 ジョセフの剣の腕前が達人級というのは、ポルナレフの記憶の影響からである。シルバー・チャリオッツの凄まじい剣捌きもさる事ながら、ポルナレフ自身の剣の腕前も相当なものなのだ。

 しかし、妖夢の言葉にジョセフはというと。

 

「そ、そうか。いや、しかしな……」

 

 言葉を濁して、紫の方へと視線を移す。

 現在の幻想郷では、弾幕ごっこ以外の私闘は禁じられている。妖夢が言っているのは勿論、剣と剣を交えるガチの仕合━━と言っても命の取り合いとかではない━━であり、それは明確なルール違反となってしまう。

 しかし、ジョセフの視線に気付いた紫は、ジョセフの元まで歩み寄るとスキマから何かを取り出し、ジョセフに手渡した。

 

「……これは」

 

 紫が取り出したのは、レイピアであった。”斬る”事よりも”突く”事を重視したその剣は、先の尖った細い針のような形状をしている。

 ジョジョの奇妙な冒険でも、ポルナレフのスタンド『シルバーチャリオッツ』が手に持っていたのはこれである。

 だが、これを渡したという事は、仕合を受けてやれという意味を指している。

 

「……いいのか?」

「いいも何も、今から行われるのはただの仕合。あのルールは幻想郷の秩序を保ちつつ、妖怪達から力が失われるのを避ける為のものであって、この仕合でそれが乱される事はないわ。今、この場には私達しかいないし、ね」

 

 と、そう言って紫は可愛らしいウィンクした。

 まぁ、そういう事らしい。ジョセフは溜め息を吐きながら、仕合に応じる事にした。

 

「それで、どこでやるんだ?」

「そこの庭で大丈夫よ」

 

 と、幽々子が指差したのは、縁側の外に広がる広い庭。入り口で見た日本庭園のようなものではなく、ここのは少し殺風景な庭である。

 少し高めの塀が敷地内を囲っており、その内側に腰辺りまでしかない小さな木が等間隔に並んでいる。それだけ。

 

「なら、靴が欲しいな。妖夢、と言ったか? の分も必要だ」

「ここにあるわよ」

 

 紫がスキマから二人の靴を取り出した。ゆかえもん便利。

 そして、コートを脱ぎ━━波紋の呼吸でそれなりに身体は温まったので、それ程寒くはない━━靴を履いたジョセフと妖夢は庭に出た。中央辺りで少し距離を置いて向かい合う。

 妖夢は右手に長い刀を、左手に少し短めの刀を持ち、少し姿勢を低くして構える。

 対するジョセフは右手にレイピアを持ち、顔の前でレイピアの先端を天に向けて構え、左手を腰に据える。

 

「仕合開始の合図は、このコインが地面に落ちたと同時よ。準備はいい?」

 

 紫の言葉にジョセフは頷き、妖夢は「はい」と返事をした。

 それを見て、紫がコインを弾く。ピン、という音と共に宙へと舞い上がったコインはやがて落下し始め━━━━地面に落ちた。

 その次の瞬間、妖夢が地を蹴って目にも留まらぬ速さで肉薄し、斬り掛かる。

 

「む……っ」

 

 予想外の速さに少しだけ驚いたジョセフであったが、数々の修羅場を潜ってきた彼女にとって対応出来ない速さではない。一歩後ろに下がって、紙一重の距離で回避。

 そこへ妖夢の更なる追撃。薙ぎ払うような横の一線。これもジョセフは腰を引いて回避。

 まだまだ妖夢の猛攻は続く。二太刀、三太刀と目にも留まらぬ斬撃がジョセフに襲い掛かるが━━━━当たらない。

 どれだけ妖夢が刀を振ろうと、ジョセフはそれを全て回避する。掠る気配すら無い。

 

「……ッ!」

 

 痺れを切らした妖夢は、賭けに出た。ジョセフの右肩を狙った、大きく踏み込んでの右の長刀による突きの一撃。だが、これは躱されても構わない。寧ろ、躱させる為のフェイントだ。

 本命は、その後に控える短刀による突き。その為に、相手が左へ━━妖夢から見て右へ━━避けるようにわざわざ右肩を狙ったのだ。左の短刀が自分の右腕に隠れ、相手からは見えづらい位置になるように。

 しかし、ジョセフは動かなかった。刃の切っ先が眼前に迫っているにも関わらず、身動き一つない。

 

 ━━少なくとも、妖夢からの視点ではそう見えたのだ。

 

 だが、次の瞬間。妖夢の刀は凄まじい力で跳ね返された。

 両方ともが、である。右手の長刀も左手の短刀も両方が弾かれ、妖夢は気が付いたら万歳のような体勢をとりながら、たたらを踏んで後退していた。

 

「……ッ!」

 

 妖夢はすぐにバックステップで飛び退き、距離をとる。

 

 ━━━━何をされたか、全く解らなかった……!

 

 頭を占める思いは、それだった。妖夢にはジョセフの攻撃の瞬間が全く見えなかった。攻撃していた筈なのに気が付いたら反撃されており、訳もわからぬまま後退していた。

 あのまま追撃を受けていたら。そこで仕合は終わっていた。

 もしも、これが命の取り合い━━━━真剣勝負だったら。そこで妖夢は死んでいた事になる。それ程の致命的な隙だった。

 

「くっ……!」

 

 その事実を理解し、妖夢は歯噛みする。

 別にジョセフに対して憤りを感じている訳ではない。追撃してこなかったのが何故かは解らないが、手を抜かれたとかそういう訳ではないだろう。

 一瞬だけとはいえ、剣を交えた妖夢だからこそ解る。ジョセフが手心など一切加えていないという事を。

 寧ろ、妖夢は自分に対して憤りを感じていた。

 紫からジョセフの剣の腕が達人級であると聞いていた妖夢ではあった。だが、それでも相手は”人間である”と。今の自分でも良い勝負が出来るんじゃないか、と。心のどこかでジョセフの事を舐めていたのかもしれない。

 

 ━━━━馬鹿か私はッ!! 恥を知れッ!!

 

 自分を叱責する。

 ジョセフの剣技は自分のそれと比べて、間違いなく格上である。たった一度の反撃を受けただけで妖夢はそれを悟った。相手は未だ自分に到達出来ぬ領域に居る格上なのだと。

 その上で、今の自分の全力をぶつけてみたいと、妖夢はそう思った。

 しかし、真っ正面からの斬り合いでは、どう足掻いても勝機はない。剣の技量は相手が遥かに上なのだ。

 ならば━━━━

 

「行きますッ!!」

 

 妖夢は意を決したように叫び、動いた。ジョセフを中心として、その周囲を縦横無尽に駆け回る。

 相手は格上。剣の技量などは、今の自分では足元にも及ばない。

 なればこそ、身体能力(ポテンシャル)で━━━━つまり、速さで相手を圧倒する。それが妖夢の出した答えだった。

 目にも留まらぬ速さで動き続ける妖夢。ジョセフはどうするでもなく、その場から動かず突っ立ったままだ。

 そして今、妖夢が攻撃を仕掛けるべくジョセフの死角である背後から襲い掛かった。

 

 しかし、妖夢は再び目を剥く事になる。

 

 完全な死角からの奇襲だった筈。が、唐突にジョセフが振り向いた。思わずギョッとする妖夢だが、既に攻撃態勢に入っており、今更軌道変更は出来ない。

 だから妖夢は思い切り刀を振るった。どの道、自分の攻撃は躱されるのだから、空振りの勢いを利用して次の攻撃に備える。妖夢はそうしようと咄嗟に決意した。

 だが、またしてもジョセフは避けなかった。身動き一つない。思わず一瞬だけ躊躇したが、それでも妖夢は刀を振り抜いた。

 そのまま刀の刃がジョセフの身体に触れ━━━━

 

 ━━━━手応えがなかった。

 刀はただ空を切り、妖夢はその勢いのまま身体を横回転させつつ、地に足を着けて制動を掛ける。

 そして、妖夢は見た。

 

 ━━ジョセフの姿が、三人に増えているのを。

 

「……は?」

 思わず呆けてしまう。

 先程まで一人しか居なかった筈のジョセフが、三人居る。その事実を前に、頭の理解が追いつかない。しかも、心なしか彼女の身体が少し浮いている。

 妖夢が目を白黒させていると、ジョセフが動いた。それぞれが身体を入れ替えるように回りながら妖夢に接近してくる。

 対する妖夢はジョセフを警戒して距離を取ろうと後方へ飛び退く。が、ジョセフの方が速い。

 三人のジョセフが入れ替わりながら目にも留まらぬ突き(ラッシュ)を繰り出した。これに妖夢は二刀で何とか捌きながらも、更に後方へ下がる。いや、下がらなければ為す術なくやられてしまう。

 

「ホラホラ! どうした!? 守ってばかりでは勝てないぞ!」

「くっ……」

 

 そう言われても、妖夢にはそれが精一杯であった。反撃どころか、態勢を立て直す事すらままならない。

 それでもジョセフの突き(ラッシュ)は更に苛烈さを増してゆく。

 

「ホぁーッ!!」

「うあぁ……っ!」

 

 ━━遂には妖夢の刀が二本とも弾き飛ばされた。

 そして、ジョセフの姿が一つに戻り、妖夢の喉元にレイピアを突きつける。

 

「……、……参りました」

 

 妖夢の降参宣言。仕合はジョセフの勝利で終わった。

 




来月は更新出来るのかな……。
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