ジョセフィーヌ・ジョースターの奇妙な幻想譚 作:勇(気無い)者
八雲邸にて。
ジョセフと紫は縁側で、お茶を片手に煎餅をパクつきながら
障子全開の室内では、藍が洗濯物を畳んでいる。それも急ぎめに。
何故か?
そろそろ、ジョセフと紫の藍イジリが始まる頃だから。
しかし、こういう時に限って洗濯物が多い。多分、紫の罠である。藍はそう思っていた。
「……そろそろね」
ほら、始まった。藍は洗濯物を黙々と畳みながらも身構える。
「もうそろそろ始まるわよ、ジョセフ」
「……ああ」
「彼女達に動きがあったから確実よ」
「……そうか」
「私達の可愛い霊夢は大丈夫かしらね」
「……ああ」
「……ジョセフ」
「何だ?」
「貴女、私が何の話をしているか解ってないでしょ?」
「……、……そんな事はないぞ?」
「反応が遅いわよ」
「………………何で解った? ダービー弟でもないのに」
「貴女、キレた時と状況をイマイチ理解していない時に承太郎の雰囲気が漂うのよ」
「何で承太郎の雰囲気とか解るんだ?」
「貴女が"ジョジョの奇妙な冒険"の物語を語ってくれた時、キャラクター達に感情移入しながら迫真の演技で語っていたからよ。例えば『俺が裁く!』とか『裁くのは俺のスタンドだー!』とか」
「おい、やめろ紫。何か恥ずかしい」
「あと『スターフィンガー!』とか『スタープラチナ・ザ・ワールド!』とか」
「やめろというに」
「『スターパンチ!』とか」
「いやそんな台詞無いだろ。何を勝手に捏造してるんだ」
「承太郎関連の台詞は兎に角凄かったわよ?」
「そろそろ口を閉じないと舌を入れてキスするぞ」
「あら、望むところよ?」
「…………………………」
「うふふ、本気にした?」
「冗談だったのか」
「冗談だったわよ」
「それは残念だな。
「それはまた今度お願いするわ」
「そうか、じゃあ替わりに藍と熱い」
「うわわわわわわっ! コッチ来ないで下さい! 私にそんな趣味はありません! 気色悪い!」
「……、……冗談だったんだが……そんな嫌そうにされると……傷付く……」
ジョセフは深い悲しみに包まれた。
「らーん。冗談ぐらい見抜けなくては駄目よ」
「貴女方の冗談は解りづらいしタチが悪いですよ!」
「紫……傷心の私を慰めてくれ……」
「よしよし、私の胸でお泣き」
「……もうやだ…この人達……橙…橙に会いたい…」
藍も深い悲しみに包まれた。
さてさて。
冒頭で紫の言っていた「そろそろ始まる」とは、一体何の事か。
聡い人ならもうお分かりであろうが、レミリア達による紅霧異変である。
この異変は実のところ出来レースに近い。
三年近く前、レミリア達が幻想郷へと殴り込んできたあの日。紫と藍とジョセフの三人で彼女達を叩きのめし、レミリアにある契約を結ばせた。
それは
そして、当時は幼く未熟であった霊夢に、博麗の巫女としての華々しい第一歩を飾らせる為に。
もうすぐ、異変が始まる━━━。
★
数日後。昼下がりの博麗神社にて。
縁側に座る霊夢の前に立つジョセフが、
「なぁ、霊夢」
「なぁに、ジョースターさん」
「今日はいい天気だな」
「そうね、絶好の洗濯日和だわ」
「ところで北西の空を見てくれ。どう思う?」
「何だか紅いわね」
「うん、アレ異変なんだ」
「な、なんですってー!?」
結構ノンキしてた霊夢。異変に気付かなかった。
「全然気が付かなかったわ…!」
「うん、今お茶飲みながら凄い寛いでたしね」
「私は早速異変解決に向かうわ。手早く片付けてすぐ戻ってくるから!」
そう言い残し、霊夢は紅い空の方へと飛んでいった。
まさか、紅い霧が発生してから三日も経っているというのに、霊夢が全く気付かないとは思わなかったジョセフは深い溜め息を吐いた。
「全く、先が思いやられるわね」
と。いつの間に現れたのか、紫が縁側に腰掛けていた。
ジョセフも「全くだ」と肩を竦めてみせる。
「だが、まぁ異変はすぐに解決するだろう」
「ジョセフったら、やけに自信満々ね? もしかしたら霊夢が負けてしまうとか考えないの?」
「無いな」
「あの吸血鬼がルールを破って霊夢に襲い掛かるかも」
とは言ったものの、それは絶対に無いと紫は思っている。悪魔にとっては契約は絶対であり、それを破ったりする事はまず無い。
特にあの吸血鬼、レミリア・スカーレットはプライドが高い。自ら禁を破る事はしないだろう。
これは単に霊夢に対するジョセフの信頼度を確かめているだけだ。
しかし、ジョセフは全く動じない。
「それでも霊夢は負けないさ」
「その根拠は?」
「少し前なんだがな。あの娘が私ですら舌を巻く様な、とんでもないものを見せてくれた」
「……貴女ですら?」
紫が眉を顰める。
スタンドを自らの身体に降ろし、多種多様な能力を操るジョセフが舌を巻く程の事。幾ら霊夢の才能を買っている紫とて、俄に信じ難い話だった。
「紫。お前が拾ってきたあの娘は……霊夢はとてつもない才能を秘めている。間違い無く天才だ」
「……貴女にそこまで言わせるとは、私の慧眼も捨てたものじゃないわね」
「ああ、紫は大したものだよ。という訳で行こうか」
紅い霧の蠢く方角を見ながら、ジョセフがそう言った。
「……? 行くってどこへ?」
「決まっているだろう」
ジョセフはニヤリと笑みを浮かべて紫の方を振り返り、
「私達の可愛い霊夢の活躍を草葉の陰から見守りに、だ」
★
空を覆う紅い霧が次第に濃くなり始めた。空を行く霊夢は、異変の元凶が近い事を悟る。
「ちょっと待ちなよ!」
やがて湖の上空に差し掛かった所で、霊夢の前に一匹の妖精が立ちはだかった。
青のワンピースに身を包んだ、霊夢より一回り幼い少女。髪は薄い青色で、背中の辺りに六枚の氷が翼の様に漂っている。
何故か怒っている様で、言葉に怒気を感じる。
が、霊夢はコレを無視。迂回して先へと進む。
「待てやコラァ! 無視すんなコラァ!」
しかし、その妖精は再び霊夢の前に立ちはだかる。一体何だというのか。
霊夢は面倒くさそうに舌打ちをする。
「何よ、何か用なの?」
「アンタ! よくも私の友達をやってくれたわね!」
「友達…? ……ああ」
先程、進路上に居た緑の妖精を蹴散らした事を思い出す。恐らく、それが目の前の妖精が言う友達なのだろう。
それで御礼参りにやってきた、と。
妖精がポケットから一枚のカードを取り出した。スペルカードだ。
まだ始まったばかりであるスペルカードルールは、幻想郷に浸透している様である。紫の根回しのお陰だが、そんな事は霊夢が知る由もない。
「大ちゃんの仇ィーーー!! 氷符『アイシクルフォール』!」
瞬間、妖精の横方向に氷塊がずらりと並び、それらが更に氷弾をバラ撒き始めた。氷弾は弾幕となって霊夢へと襲い掛かる。
氷を操るという事は、氷の妖精であるらしい。力も妖精にしては中々強い様だ。
だが、無意味。
「イージーね」
対する霊夢はぼそりと呟き、前進。飛んでくる氷塊をひらりひらりと避けながら前へ前へと進んでゆき━━━あっという間に氷精の眼前に躍り出る。
「うゎっ!?」
「チェックメイトよ」
氷精の喉元にお札を突き付ける。
一瞬は怯んだ氷精だったが、掌に氷塊を作り出し霊夢へ投げつける。それを予備動作から見切っていた霊夢は、急上昇して回避。ふわりと身を翻して、再び氷精との間に距離を置く。
「まだまだ! 次はコイツだ! 雹符『ヘイルストーム』!」
氷精が続けてもう一枚のカードを取り出した。まだ続けるらしい。
今度は、氷精の翳したスペルカードから氷弾が発生し、弾幕を形成してゆく。それらは途中で軌道を変更して曲がり、前方右方左方から霊夢に襲い掛かる。
「やっぱりイージーね」
だが、矢張り無意味。先程と同じく氷弾は掠る事すらなく、霊夢は氷精へと距離を詰める。
そして、残り数メートルの所まで近付くと、霊夢は一枚のお札を投げる。それはまるで意志があるかの様に氷弾を躱しながら飛んでゆき、氷精の顔にベチョっと貼り付いて両目を覆い隠した。
視界を閉ざされた氷精が「ぬぁっ!」と驚いた声をあげ、弾幕が途切れる。
「何何何!? 急に真っ暗になったよ!? 何なの!? 暗いよー! 助けてー! 大ちゃーん!」
「………」
前方を探る様な手つきで両手をバタバタさせながら、氷精が明後日の方へ飛んでいってしまった。
それを見送りながら霊夢は「お札は顔に引っ付く効果は無い筈なんだけど…」と考える。一時的な目眩ましのつもりで放っただけなのだ。
それは彼女が氷精であるが故に起こった現象。紙で出来たお札が、まるで氷に引っ付いた紙の如くに彼女の顔へ貼り付いてしまったのだ。そんな事は霊夢に知る由もないが。
すぐにどうでもいいかと思考を切り替え、再び異変の元凶の元へ向かおうとした、その時。
「おーい、霊夢ー!」
聞き覚えのある声が霊夢の耳に届いた。
振り返ってみれば、其処には箒に跨がる友人の姿があった。霧雨魔理沙である。
「何よ、魔理沙。私、今忙しいんだけど」
「異変の解決だろ? 動き出すのが遅いんだよ、お前は。ジョースターさんに言われる前に自分で気付けよ」
「う、うるさいわね。というか、何でアンタがそんな事を知ってるのよ?」
「いや、いつまで経ってもお前が動かないから、私が異変について教えてやろうと思って神社に行ったんだよ。そしたらジョースターさんが神社に
「ふーん、そう。何か用事なの? 重ねて言うけど、私は忙しいのよ」
「いやなに、異変解決を私も手伝ってやろうと思ってな」
魔理沙の意外な言葉に、霊夢は目を丸くした。好奇心の塊みたいな奴だとは思っていたが、まさか彼女が異変解決にまで首を突っ込んでくるとは思わなかったのだ。
「……何が目的なの」
「何、友人としてお前の力になってやろうと思っただけだぜ」
「本当は?」
「面白そうだからやって来た」
「はぁ…」
思わず溜め息を吐く。何のことはない、ただのお祭り野郎である。
そう、霧雨魔理沙はそういう奴なのだ。
「下手打って怪我しても知らないわよ」
「大丈夫だ、問題ない。此処へ来る前、変な黒い球体に包まれた妖怪を撃退してきたしな」
「あっそ。好きにしなさい。邪魔しなければ何でもいいわ」
「おう、好きにさせてもらうぜ」
其処で会話を切り上げ、霊夢は異変の元凶の元へと再び飛び出した。魔理沙もそれに続き、霊夢と平行して飛んでゆくのであった。
★
少しだけ時間を遡り、博麗神社にて。
「私達の可愛い霊夢の活躍を草葉の陰から見守りに、だ」
ジョセフはそう言って紫の方を振り返ると━━━其処に居た筈の紫の姿はどこにも無かった。
「………」
ドヤ顔で言っただけに、これは中々恥ずかしい。
「………紫の意地悪…」
「おーい、霊夢ー!」
と、いじけているジョセフの耳に聞き覚えのある少女の声が届いた。声の主の方へ視線を移すと、矢張り見覚えのある魔女の格好をした少女の姿。
霧雨魔理沙が箒に跨がり、此方へ飛んできていた。
「ああ、成る程…」
小さく呟く。紫が姿を消したのは意地悪ではなく、姿を見られない為だ。霊夢と近しい友人という立場の魔理沙に存在を知られるのは拙いという事だろう。
気にし過ぎだとジョセフは思っているが。
「霊夢━━━っと、ジョースターさん…!」
魔理沙が庭に降り立ち、ジョセフの元まで駆け寄る。
「何か霊夢に用があったのかい?」
「あ、うん……霊夢に伝えたい事があって……霊夢、居ないの?」
「ああ、ついさっき異変の解決に向かったよ」
「ああー……って事はジョースターさんが異変の事を教えたんだ」
「余りにも霊夢がノンキしているもんだからな。さっきまでお茶を飲んでいたんだぞ、あの娘は」
「あはは! 霊夢らしいや」
カラカラと笑う魔理沙。それにつられてジョセフもクスリと笑みを零す。
「……霊夢が行ったんなら、私も行かなきゃ」
「……まさか、魔理沙も異変解決に乗り出す気か?」
「うん、アイツ一人じゃ心配だし。それに━━━」
一旦言葉を切り、箒に跨がる。
「私はアイツの友人で━━━ライバルだから、さ!」
肩越しにそう言い残し、魔理沙は紅く染まる空の方へ飛び去ってゆく。
そんな彼女の背中を、ジョセフは笑顔で見送った。
「……さて。紫! 紫ー!」
何処かに居るであろう紫に声を張り上げて呼び掛ける。が、紫は姿を見せない。
「紫ー? 居ないのかー? ゆーかーりーちゃーん!」
矢張り姿を見せない。何処へ行ってしまったのか。
ジョセフは軽く溜め息を吐き、
「紫ー! 先に行ってるからなー!」
これ以上待っても時間が勿体無いので、一人で行く事にした。もたもたしていると、霊夢の活躍を見る事が無いまま異変が解決されてしまう。
「ハイウェイスター!」
能力を発動し、スタンドを自らの身体に降ろす。
そして、自動車の様な速さ━━━時速にして六十キロの速度で走り出し、博麗神社を後にした。
其処へ空間を歪めて現れるスキマ。中から姿を現したのは勿論、紫である。
「……あら? ジョセフ…? ジョセフー! 居ないのー?」
縁側に降り立つ彼女は、ジョセフの姿を探す。
二人はすれ違っていた。合流するのは少し後の事である。
原作では夜に出発するのに、昼に出発だって…!?
こんなの…普通じゃ考えられない…!
それもこれもあれもどれもみんなジョースターって奴の仕業なんだ…!
おのれジョースタァー!
ジョセフ『おめぇちょっとしつけぇぞ』
その台詞、悟空じゃね?
どうでもよかった