ジョセフィーヌ・ジョースターの奇妙な幻想譚 作:勇(気無い)者
「南無南無南無南無南無南無ゥ━━━━━ッ!!」
みたいな。
心底どうでもいい疑問だった。
紅美鈴は紅魔館の門の前で待機していた。
辺りに誰も居ない事を確認し、紅い霧の広がる真っ赤な空を振り仰ぐ。
あれは三日前の事だった。紅魔館の主要人物━━レミリア、パチュリー、咲夜、美鈴、数人のメイド妖精━━が集められ、異変の決行を伝えられた。
本当に急な事だった。だが、その場に居た者の中に異議を唱えた者は居ない。例え事前の連絡など無くとも、下された命令は速やかに遂行する。それが僕のあるべき姿だからだ。
━━━本当は美鈴にのみ事前連絡が無かったという事を、彼女は知らない。メイド妖精達でさえ事前連絡があったというのに。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
その時、美鈴は主であるレミリアから直々に声を掛けられたのだ。
『美鈴。お前はいつも通り門番として門を守れ。外敵を一人たりとも侵入させるな。それがお前の役目だからな。期待しているぞ』
━━━期待しているぞ。
その言葉を掛けられた美鈴は、心が震える様な心地だった。
お嬢様に期待されている。この期待には絶対に応えたい。いや、応えなければならない。
美鈴は使命感に燃えていた。
「……む。あれは」
ふと、上空から館へ近付いてくる人影が二つ。白黒と紅白だ。真っ直ぐ此方へ近付いてくる。
「賊か!」
今こそ、お嬢様の期待に応える時。己が全力を持って侵入者を排除する。
美鈴は地を蹴って飛び上がり、上空へ飛翔。そのまま賊と思しき二人の少女に向かって飛んでゆく。
そして、魔理沙の前に躍り出ると、
「そこまでだっ!」
「わっ! バカ!」
「ぐぇっ!」
━━━魔理沙の乗っている箒の柄が、美鈴の
MKT━━━魔理沙は急に止まれない。
何の見せ場も無いまま、お嬢様の期待━━レミリアは端っからしてない━━に応える事も出来ずに美鈴は撃沈した。
「何? 今の?」
「さぁ? まぁ、急に飛び出してくる方が悪い。行こうぜ」
「ええ」
そして、霊夢と魔理沙の侵入を許してしまうのであった。
★
その頃、ジョセフはというと。雑木林の中を、一人爆走していた。
スタンド"ハイウェイスター"の能力のお蔭で、時速六十キロという人にあるまじき速さで走る事が出来るものの、流石に木が乱立する雑木林の中では減速せざるを得ない。それでも時速四十キロに近い速度で走っているのだが。
ジグザグ走行で木々の間を縫う様に走ってゆく。
何となくスティール・ボール・ランの1st.STAGEを連想する。コースをショートカットする為にジャイロ、ジョニィ、ポコロコの三人が雑木林を突っ切ったのだ。他にも後に続いた者はいるが、全員脱落したのでどうでもいい。
まぁ、彼らは馬に乗っていた訳だが。
そんなどうでもいい思索に耽っていると、遂に雑木林を抜け出た。目の前に広がるのは、広大な湖。霧の湖である。
レミリア達の棲む紅魔館は近い。というか、対岸に館が見える。
ジョセフは"波紋"を使って湖の水面を行くのが早いか、それとも"ハイウェイスター"で汀線沿いを突っ走るのが早いかで逡巡し━━━湖の汀線沿いを駆けてゆく方を選んだ。波紋の呼吸は疲れるからだ。面倒くさい。
残り半分程の距離に差し掛かった所で、少女がうつ伏せに倒れているのを発見して立ち止まる。
緑色の髪をした幼い少女だ。青いワンピースに身を包んでおり、背中に虫と鳥の羽根を足して二で割った様な羽根が生えている。
妖精だ。頭に大きなタン
「……クレイジーダイヤモンド」
ジョセフは少女を抱き起こし、クレイジーダイヤモンドの能力で彼女のタン瘤を治す。
「…ぅ…ん…」
すると、少女は意識を取り戻し、ゆっくりと重い
彼女の目に飛び込んできたのは、端正な顔立ちの女性。どことなく中性的で、男の様なカッコ良さもあり、女の様な美しさもある。
次に自分の置かれた状況を把握する。目の前の女性の腕に抱かれている。力強くて暖かい腕。何故だか気持ちが安らぐ様な心地よさがある。
「大丈夫かい?」
「ぁ……はい……」
女性に手を引かれ、ゆっくりと立ち上がる。力強くて、それでいながら優しい手の引き方。
「すまないが、私は急いでいてな。失礼するよ」
「ぁ…、あの…!」
去ろうとした女性を呼び止める。
「うん? 何だい?」
「……ぁの……ぉ…お名前…聞いてもいいですか…?」
「……ジョースター。ジョセフィーヌ・ジョースターだ」
「ジョースター、さん…」
「もういいかい?」
「ぁう…はい…! すみませんでした…!」
「縁があれば、また会おう」
それだけ言い残すと、ジョセフは途轍もない速さで走り去っていった。
その背中はあっという間に見えなくなってしまったが、少女は何時までも彼女の去った方角を見詰めていた。
「……ジョースター、さん…」
少女は自問する。何故だろう。あの人を想うと胸の鼓動が高鳴るのは━━━。
「……ジョースター、さん…」
少女━━━大妖精は顔を赤く染めながらポツリと呟く。彼女がジョセフに対して、どの様な気持ちを抱いているか一目瞭然だが、当の本人はそんな事など知る由もない。
そのジョセフはというと、紅魔館に到着した所であった。門の前で立ち止まる。
「……此処へ来るのは三年振りだな」
館を見上げながら、感慨深く呟いた。
そう、三年振り。レミリア達が幻想郷へ殴り込んできた、あの日━━━
「いや、過去を振り返っている場合ではないな」
此処へ来たのは、霊夢の活躍を生で見る為である。チンタラしている場合ではない。異変が終わってしまう。
いざ中へ足を踏み入れんと一歩踏み出し、
「此処に居たのね」
背後からの声。振り返ると、其処には紫が立っていた。
「……紫」
「探したわよ、ジョセフ。もう、何で一人で先に行っちゃうのよ」
「紫がいつまで経っても来なかったからだ」
「えぇ〜? 割と直ぐに向かったわよ? まぁ、そんな事はどうでもいいけど。霊夢は……もう中かしら?」
「ああ、多分な」
「じゃあ行きましょう」
「そうだな━━━うん?」
門の中へ入ろうとして、ジョセフが足を止める。
「どうしたの?」
「ああ、いや。彼処に倒れている人が…」
門から少し離れた所に人が倒れている。
近付いて見てみると、中華風の衣装に身を包んだ、紫と同じ年頃━━外見年齢━━の少女だった。うつ伏せに倒れてピクピクしている。気絶しているらしい。
「……怪我人か。何故こんな所に倒れているんだろうか」
「さぁ? 知らないしどうでもいいわ。早く行きましょうよ」
「まぁ待て、一応治して行こう。クレイジーダイヤモンド」
今日は何故か倒れている者が多いなと思いながらも、ジョセフは少女の体を治す。
すると、意識を取り戻したらしい。少女がゆっくりと目を開く。
「大丈夫か?」
「…あ、貴女、は…。……っ!?」
掠れた声で呟き━━━ジョセフの背後に立つ紫を見た瞬間、カッと目を見開いた。
そして、ジョセフの腕を払いのけて飛び退き、
「お前は…ッ! 八雲紫!」
警戒心と敵愾心を露わにし、闘いの構えを取る。
「何だ紫、知り合いか?」
「いいえ、知らないわ。全然。ちっとも。これっぽっちも」
「私は紅魔館の門番だッ!」
中華少女が憤慨する様に叫ぶ。それを聞いた紫が何となく思い出したらしい。
「あー、そういえば何かそんなのが居た様な気がするわ」
「そうなのかー」
と、ジョセフが唐突に両腕を広げた。
「何それ? 新しいギャグ?」
「いや、この前会った妖怪の少女がやっていたから、何となくやってみた」
「うーん……三点ね」
「それって何点満点?」
「百」
「きびしー」
紫の酷評に頭を掻くジョセフ。そもそも
「じゃあ行きましょうか」
「ああ、行こう」
「いや、ちょっと待ったぁー!」
謎の流れで紅魔館へ侵入しようとする二人を美鈴が止める。
「何か用かしら?」
「私達は急いでいるのだが」
「門番だって言ってるでしょうが! 何無視して入ろうとしてんの!? 通す訳ないでしょ!」
門の前で仁王立ち。その表情からは絶対に通さないという覚悟が伝わってくる。
面倒な事になったなと顔を顰めるジョセフ。
「とか言ってるが。どうする、紫?」
「うーん、面倒ねぇ。張り倒して行きましょうか」
「させるか! 先手必殺!」
美鈴が飛び上がり、あびせ蹴りを放った。
それに反応したのはジョセフ。
「オラァッ!」
「ぉぐっ!」
目にも留まらぬ速さで美鈴の腹部に拳を叩き込んだ。強烈な一撃に美鈴の体はくの字に曲がり、彼女の意識を刈り取った。しかも、僅かながら血を吐いている。
ジョセフが「あ、ヤベ」と小さく呟いた。攻撃するつもりは無かったのだが、美鈴の気迫に中てられてつい反撃に出てしまったのだ。受け止めるなり取り押さえるなり出来た筈なのに。
「……やっちまった…」
「まー、いいんじゃない? そんなのはその辺に放って早く行きましょうよ」
「あー……そうだな」
ジョセフは美鈴を門の横に寝かせると、クレイジーダイヤモンドで彼女の傷を治した。何しろ血を吐かせる程の一撃だ。内臓が損傷している可能性がある。
流石に今度は美鈴も意識を取り戻す事は無く、ジョセフと紫は悠々と館へ侵入するのであった。
★
「……広いなー…」
霊夢と共に邸内へ侵入した魔理沙の第一声はそれだった。
二人は玄関ホールに居るのだが、中は兎に角広かった。というか広すぎる。明らかに外から見た構造と釣り合っていない。
この玄関ホールだけでも館の面積より広いというのに、更に二回へ続く階段や奥へ繋がる通路があるのだ。異常である。
これではまるで巨人の家だ。入り口は通常サイズだが。
「しっかし、薄気味悪い所だなぁ…」
そして薄暗かった。玄関ホールの光源は天井に吊されたシャンデリアだが、通路の光源は蝋燭であり、それらが等間隔で設置されている。広さに対して量が足りていない為か、若干薄暗い。
「まぁ、妖怪の住処なんだし、そんなもんでしょ」
「うーん、まぁそうだが…」
「何よ魔理沙、怖いの?」
「そんな事はないが……嫌な雰囲気だぜ」
「私は何とも思わないけどね。それより早く行きましょ」
「あ、待てよ霊夢」
宙に浮かび上がった霊夢を呼び止める。
「何よ?」
「こっからは競争しないか?」
「…競争?」
「ああ、どっちが先に異変の首謀者を懲らしめるかを競うんだ」
魔理沙が不敵な笑みを浮かべて霊夢を挑発する。その表情は確かな自信の現れであった。
「……いいわよ」
対する霊夢も魔理沙の提案に乗った。彼女も自分が負ける訳がないという、自信に満ち溢れた表情を浮かべている。
互いに自分の力の方が上だという自信があるのだ。
「負けた方は勝った方の言うことを一つ聞く事」
「あら、いいの? そんな条件付けちゃって。後悔するわよ?」
「そっちこそな」
そこで会話を区切り、霊夢と魔理沙は二手に別れた。
★
霊夢と魔理沙が二手に別れた少し後、ジョセフと紫も邸内へ足を踏み入れていた。
「……相変わらず馬鹿みたいに広いな」
ジョセフが呟く。三年前と構造が全く変わっていない。
「ほんと、無駄よねぇ。お掃除だって大変でしょうに。理解に苦しむわ」
「それは同意だが、この空間を歪めて広くしているのは、
「ああ、あのメイドね。でもジョセフの方が凄いわよ」
「いや、私にはこんな事は出来ないぞ? 止めていられる時間も彼女の方がずっと長い」
「それでもジョセフの方が凄いのよ!」
珍しく子供じみた感情論を口にする紫。何故かムキになっている。これにはジョセフも肩を竦めるばかりである。
「まぁ、そんな事より霊夢だ。あの娘が何処に居るか解るか?」
「ちょっと待って……」
紫が霊夢の霊力を辿って位置を探る。妖怪である紫は霊力を敏感に感じ取る事が出来るのだ。霊力も妖力もないジョセフには出来ない芸当である。
数秒後、霊夢の位置を特定した紫は手に持った扇子を振り下ろし、スキマを開く。
「この先に居るわ」
「そうか。なら、行こうか」
そして、二人の姿はスキマの中へと呑み込まれて消えた。
文だったら「あやややややァ━━━━━ッ!!」か?
本当にどうでもいい疑問だった。