ジョセフィーヌ・ジョースターの奇妙な幻想譚 作:勇(気無い)者
グダグダ書いてたら一万字を超えてしまった…。
紅魔館のとある一室。宙空にスキマが開かれ、中からジョセフと紫が姿を現した。
「…あら?」
紫が小首を傾げる。スキマを玉座の間の隅の方に開くつもりだったのだが、隣の部屋に出てしまったらしい。空間が弄ってある為に目測を見誤ったのだろう。
「ちょっと位置がズレたみたいね」
「別に問題ないだろう。どの壁だ?」
「東側の壁よ」
「そうか」
言われるままジョセフは東側の壁の前に立ち、
「クレイジーダイヤモンド!」
「は?」
「ぶち壊し抜け」
「待ちなさい」
「痛っ」
拳を振りかぶったジョセフの頭を紫がひっぱたいた。
それ自体は大した事は無いが、つんのめったジョセフは壁に顔をぶつけた。痛そう。
紫が呆れた様な声をあげる。
「お馬鹿。いっそ清々しいぐらいにお馬鹿。そんな派手な侵入の仕方をしたら幼女吸血鬼にバレちゃうでしょうが」
「いや、ただのギャグだよ。本気でやる訳ないじゃないか」
「
ツッコミ役として認識されている藍。今頃は
「それに、もし今のがギャグだとして何でつんのめったの? 本当はやる気満々だったでしょ」
「……………」
その沈黙が全てを肯定している。
「お馬鹿。いっそ愛おしいぐらいにお馬鹿」
「いや、つい、な…? シチュエーション的に今だッ! って思ったらつい…」
「お馬鹿」
何処からともなく取り出した扇子でジョセフの頭をぺしぺし叩く。甘んじて受け入れるジョセフ。
「ほら、くだらない事やってないで早く開けてちょうだい」
「解ったよ。スティッキー・フィンガーズ!」
ブチャラティのスタンド『スティッキー・フィンガーズ』の能力で壁にジッパーを取り付け、開く。中は暗い空洞になっている。
「さぁ、行こうか」
「ええ」
二人はジッパーで開いた壁の中へと足を踏み入れる。
因みにジッパーはジョセフの目にしか見えない。スタンド能力はスタンド使いにしか見ることは出来ないからだ。紫の目には、何かの刃物で斬り裂かれた布の様に壁が裂けた、という感じに見えている。
ジョセフが更に中の壁にジッパーを取り付けて開くと、向こう側の景色が広がった。すぐ目の前に大理石の柱がある。玉座の間の隅の方に抜け出た様だ。
能力を解除してジッパーを消し、二人は柱の影に隠れて辺りを見回す。
奥の玉座にレミリアが腰掛けている。
「…げっ」
「どうしたの、ジョセフ?」
慌てて柱の影に頭を引っ込めたジョセフを見て、紫が尋ねる。
「今、あの幼女吸血鬼と目が合った…」
「何だ、そんな事。結界と能力の応用で、私達の姿や存在を認識出来ない様にしてあるから大丈夫よ」
「そ、そうなのか…?」
その割にはジョセフ達の辺りをガン見している。何かしらの気配は感じ取っているのかもしれない。
ただ、本当にジョセフ達に気付いているのなら何か言うなり襲い掛かるなりしているだろう。レミリアはジョセフをかなり嫌っているからだ。
「ほら、そんな事より霊夢のお出ましよ」
「え、どれどれ?」
ガチャリと開かれた扉から霊夢が姿を現した。
ジョセフはレミリアの事などすっかりどうでも良くなった様で、紫の後ろから霊夢の姿を食い入る様に見詰めている。
「しかし、霊夢は本当に堂々としているなぁ。大きな異変はこれが初めてだというのに」
「当然よ。私達の霊夢なんだから」
何が当然なのだろうか。紫の言う事は偶によく解らない。
霊夢がレミリアの近くまで飛んでゆく。といっても、多少は距離を置いている。
何かを話し合っているが、此処までは聞こえてこない。
「なぁ、紫。こんな隅の方じゃなくて、真ん中辺りに移動しないか?」
「今は駄目よ。あの娘、勘が鋭いからバレるかもしれないわ。決闘が始まってからにしましょう」
「そうか…」
話が聞き取れないのは残念だが、此処に居るとバレるのは拙い。
暫くして、レミリアが一枚のスペルカードを掲げて宣言した。彼女の周囲に赤い光球が滞空し、それらがレーザーの様な弾幕を吐き出す。更にレミリア自身も光球の弾を連射。
弾幕となって襲い来るそれらを、霊夢は難なく躱してゆく。
「……決闘に集中し始めたわね。そろそろ移動しましょう」
「ああ」
紫とジョセフは柱の影から柱の影へ、そそくさと移動してゆく。部屋の中央端付近でその足を止めた。
紫が柱の影から決闘の様子を覗き込み、ジョセフがその背後から紫の影に隠れる様に覗き込む。
実際の所、紫の結界によって二人の存在が気付かれる事は無いのだが、弾幕のとばっちりを受けない為に柱の影に隠れている。
「矢っ張り霊夢は凄いなぁ…」
ジョセフがポツリと呟く。傍目にヒヤリとする時はあるものの、弾幕は霊夢に当たるどころか掠りすらしない。
ふと、レミリアの周りに滞空していた光球が消え━━━弾幕を突き抜ける影が走る。レミリアの体当たりである。霊夢は間一髪で回避。
それを目の当たりにしたジョセフが「あっ」と呟き、紫の体をギュッと強く抱き締めた。
ジョセフ決闘を余す事なく見る為に
「ちょっとジョセフ…」
「うん? どうした、紫?」
「…少し苦しいわよ…」
「…あ、すまん」
当然そうなる。
寧ろ、苦しいだけで済んだのは紫が妖怪だったから。もしも人間だったなら、骨が数本は骨折している事だろう。それ程の力。
ジョセフは慌てて紫を離す。
「全く、ジョセフは全く!」
「いや、本当にすまん…」
プリプリと怒る紫。別に本気で怒っている訳ではない。それを見ながらジョセフも「紫は可愛いなぁ」とか思ったりしている。まるでバカップルの様であった。
二人は再び決闘の観戦に戻る。
といっても、霊夢とレミリアは何やら話をしている。
あんたよりずっと強い人に鍛えられた、とか。お前はあの女の弟子か、とか。勿論、二人が言っているのはジョセフの事。当の本人はちょっと嬉しそう。
そして、次のレミリアの一言にジョセフは耳を疑った。
「私はあの女からお前を殺していいと言われている」
それを聞いたジョセフが思わず「は?」と呟く。
「おい、紫。あの幼女、今何て言った?」
「お前を殺していいと言われている、だって。あの女って貴女の事よね? そんな事を言ったの?」
「いやいや、言ってない。断じて言ってない」
否定するジョセフ。しかし、レミリアは殺人許可を得ていると確かにそう言った。
一体どういう事なのか。
だが、考える暇も無くレミリアが霊夢に襲い掛かる。
一瞬の内に背後へと周り、貫手による突き。それを霊夢が避けると、レミリアが更に爪で引き裂かんとばかりに腕を振るう。二撃目の爪は霊夢の腕を掠めた。鮮血が流れ落ちる。
それを目の当たりにしたジョセフの顔から血の気が失せてゆき、再び紫に引っ付いた。
「おいおいおいおい! これ止めた方がいいんじゃないか!?」
「落ち着きなさい。本当に拙い事になったら止めに入れば良いわ。だから離して頂戴」
「いやでもしかしもしも万が一という事があったらどうする!?」
「その時は『
「いやでもしかし…、しかし…!」
「ええい、鬱陶しい!」
「へぶっ!」
ジョセフの顔面に裏拳を叩き込んだ。諸に直撃してしまい、両手で顔を抑えている。痛そう。
「い、痛いじゃないか……」
「私だって痛かったわよ!
「え…すまん…」
鼻血を手で拭いながら謝るジョセフ。
「極符『千本の針の山』!」
レミリアが次のスペルカードを宣言した。赤い針の弾幕が出現し、霊夢へと襲い掛かる。
「夢符『封魔陣』!」
対する霊夢もスペルカードを宣言した。
霊夢を中心として十字架の結界が展開。レミリアの弾幕を全て消し去ってしまった。
「おお! 流石は霊夢だ! なぁ紫!」
「ええ、そうね。解ったから一々くっつかないで頂戴。お願いだから」
子供の様に興奮しながらくっ付いてくるジョセフの顔を手で押しのける紫。かなり面倒くさそう。
そして、レミリアが三枚目のスペルカードを宣言する。
「神槍『スピア・ザ・グングニル』!」
それは、長さにしてニメートルを超える赤い光を放つ槍だった。圧倒的なまでの魔力で形成されており、霊力や魔力を碌に探知出来ないジョセフですら、あの槍は拙いと理解出来る程である。
レミリアがそれを、投げた。
赤い槍は霊夢の直ぐ横を通過し、部屋の壁に巨大な穴を開けた。
圧倒的な破壊力の一撃。あんなものを受けてしまえば、例え人間でなくとも一撃で塵と化すだろう。
「おいおいおいおいおいおいおい! 何だ今のは!? 何だ今のは!?」
紫をガクガク揺らしながらジョセフが言う。霊夢の危機にかなり動揺している様子。
紫はもう面倒になったのか、されるがままだ。ガクガク揺らされながら抵抗の一つもしない。
「助けに入った方が良いかな!? 助けに入っても良いかな!?」
「落ち着きなさい。駄目に決まってるでしょ」
「いいや! 限界だッ! 行くねッ!」
「やめなさいお馬鹿ッ!」
「ぐぅっ!」
透かさずジョセフの頭に頭突きをかまして止める。ゴツンとかなり痛そうな音が鳴った。実際、ジョセフは痛そうに頭を抑えている。
対する紫も、おでこをさすりながら涙目を浮かべていた。痛かったらしい。
「いいこと、ジョセフ。貴女はもう博麗の巫女の代理人ではないのよ。引退したの。異変は霊夢に任せるのよ」
「……しかし、霊夢に何かあったら…」
「いいから、霊夢を信じて見守りなさい」
「……」
紫に説得され、納得していない様子だが決闘を見守るジョセフ。
勿論、紫は何の根拠も無く手を出すなと言っている訳ではない。霊夢の表情に敗北の色は見られないからである。霊夢はこの勝負をまだ捨ててはいない。何かをするつもりなのだ。
レミリアが再び魔力を集中させ、赤い槍を作り出す。
対する霊夢はというと、ポケットから陰陽玉を取り出し、レミリアに向かって投げた。
「あれは…ッ!!」
それを見たジョセフが驚いた様な声をあげる。紫は何故彼女が驚いたのか、まだ解らない。
しかし、次の瞬間にそれは判明する。
陰陽玉がレミリアの右肩辺りに直撃し━━━彼女は自分の作り出した赤い槍を自らの下腹部へと突き立てた。赤い鮮血が飛び散る。
「……今のは…」
紫がポツリと呟く。彼女にも今の霊夢が使った
「今のは、
声を荒げ、ジョセフに掴みかかる。
そう、霊夢が使ったのはジョジョの奇妙な冒険第七部、スティール・ボール・ランに出てくるキャラクター、ジャイロが使っていた鉄球の回転技術である。
陰陽玉にその回転を加え、レミリアの身体の肉を巻き込み、腕を捻れさせたのだ。故に、自らの身体へ赤い槍を突き立てた。
「ジョセフ! 貴女いつの間に霊夢に教えたのッ!?」
「…い、いや…」
紫の言葉に、ジョセフは首を横に振る。
「お、教えていない…」
「……え…?」
「教えていないんだ…! 私はあの娘に回転の技術を教えた事はない…!」
「……何ですって…?」
そう、ジョセフは博麗の秘術以外の技術を霊夢に指南した事はない。スタンドを使いたいと霊夢が言った時も、教えようが無い為に断った。波紋や回転等の技術に関しては何度か見せた事はあるものの、教えを請われた事すらない。教えていないのだ。
それはつまり、
「……あの娘は、自力で回転の技術を習得した、という事…?」
そういう事になる。
紫は霊夢の才能に驚く事しか出来なかった。
確かに霊夢の才能を高く評価していた。しかし、それはあくまで博麗の巫女としての才能を、である。
霊夢は博麗の秘術を、土が水を吸うように覚えていった。過去の巫女を思い浮かべても、これほどまでの才能を持った巫女は、初代を除けば霊夢が初である。
更に言えば、紫が霊夢に期待しているのは、
それは、スペルカードルールによる決闘の技量。
霊夢は博麗の秘術をスペルカードとして昇華させるのが異常に上手いのだ。
人の皮を被った化け物と称されていた初代や、様々なスタンドの異能を駆使して代理を務めていたジョセフとは違う、新しい幻想郷で必要な才能。
だが、今霊夢が見せた回転技術。ジョセフに教わるでもなく、自力で会得したという才能。
紫は思う。
━━━あの娘も初代やジョセフと同じ、英傑の一人なのかもしれない。
「紫」
ジョセフに肩をポンと叩かれ、思考の海に投じていた意識を呼び戻される。
見れば、霊夢とレミリアがスペルカードを互いに取り出した所であった。決着を着けるつもりらしい。
━━━その時だった。
地下から圧倒的な力が膨れ上がった。
霊夢とレミリアは飛び退き、紫も強固な結界を展開する。
次の瞬間、床をぶち抜き光の奔流が走った。それは天井をもぶち抜き、紅い霧の広がる空へと消えていった。
「……な、何だ、今のは…?」
ジョセフが驚きながらも声を発する。
下層へ続く穴は、ジョセフと紫の居る場所の近くまで及んでいる。もう少し位置がズレていれば、巻き込まれていたかもしれない。
恐る恐る穴を覗いて見ると、二人の少女の姿があった。
一人は最近出会ったばかりであり、霊夢の数少ない友人の霧雨魔理沙。
もう一人は、三年前の吸血鬼異変で出会った妖怪。フランドール・スカーレット。
「……何故、あの二人が一緒に…?」
思った疑問をそのまま口にしたが、近くの床に亀裂が走った様な音が耳に届き、直ぐに音源の方へ視線を移す。
すると、まさしくバコンッという音を立てて床の一部が崩れる瞬間であった。
岩盤となった床の落下予測地点は━━━魔理沙の居る場所。
「━━━ッ!!」
それを理解した瞬間、ジョセフは無意識の内に下層へと続く穴へ飛び出していた。魔理沙を救う為に。
しかし、岩盤の方が落下速度は速い。このままでは間に合わない。
「
瞬間、ジョセフ以外の全てが静止した。
落下する岩盤も魔理沙もレミリアもフランドールも、全てが動かない。そして、静止した時間の中で意識を保つ事が出来る筈の霊夢も、この時ばかりは完全に静止していた。
滅茶苦茶に破壊し尽くされ、最早床ではなくなった瓦礫の上に着地。落下の時間だけでも二秒か三秒は経っている。
今、ジョセフは全力全開で時間を止めている為、本来五秒しか止めていられない時間を七秒まで止めていられる。スタンドの能力は本人の精神に強く左右される為、魔理沙の危機に際して全力を振り絞るジョセフは、普段よりも二秒長く止める事が出来たのだ。
しかし、それでも間に合うかは微妙な所。少しでも速く走るべく、サンドマンの走法技術で不安定な瓦礫の上を駆け抜ける。
七秒経過。
時は動き出し━━━ギリギリで間に合った。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ━━━━━ッ!!」
落下してきた岩盤に拳のラッシュを叩き込み、粉々に粉砕した。
「……怪我は無いか?」
魔理沙の方を振り返り、手を差し伸べる。唖然としていた彼女は、ワンテンポ遅れてジョセフの手に掴まった。
グイッと引き寄せ、魔理沙を立たせる。
「怪我は……無さそうだな」
「あ、はい……大丈夫、です…」
何故か出会ったばかり時の様に緊張気味の魔理沙。敬語に戻っている。
と、その時。
「ジョースタァ━━━ッ!!」
頭上から声。見上げれば、レミリアがジョセフ達に向かって飛んできていた。
再び
「そして時は動き出す」
時間は動き出し、先程までジョセフと魔理沙が居た場所が爆発した。レミリアが突っ込んだのだ。舞い上がる硝煙を引き裂く様にレミリアが姿を現す。ジョセフに対し、憎悪とも取れる視線を向けている。
魔理沙はというと、何が起こったのかさっぱり解らず、いつの間にかジョセフに抱き抱えられている事に目を白黒させていた。
レミリアが憤怒の形相で叫ぶ。
「ジョースタァ━━━ッ!! 貴様、よくものこのこと…ッ!」
「駄目だぞレプリカ」
ジョセフが上を指差しながら言う。さり気なく名前を間違えているが、突っ込んでいる隙はない。
「━━━勝負の相手から目を背けるなんて」
「霊符『無想封印』ッ!!」
「ハ…ッ!?」
気付いた頃には、時既に遅し。
霊夢のスペルカードが宣言された。色とりどりの光の弾が幾つも発射され、レミリアへ向かって一直線に飛んでゆく。
レミリアは回避すべく慌てて飛び退き飛翔するが、光の弾は追尾する様に彼女を逃がさない。
「しまっ…!」
幾つかの内の一つがレミリアの足に直撃。瞬間、全身の力が抜ける様な脱力感に襲われた。
それによって飛行速度が落ち、
「URYYYYYYYYY━━━━━ッ!!」
続く連弾が全て直撃。服も身体もボロボロになったレミリアは、力無く瓦礫の上へ落ちた。
「言わんこっちゃ無い」
魔理沙を降ろしながら呟く。
霊夢がレミリアの目の前に降り立ち、ジョセフと魔理沙も近くまで歩み寄る。
「ぐっ……く、そ…」
立ち上がろうともがくレミリアだが、身体に上手く力が入らない。何故だか途轍もなく気怠い。四肢を満足に動かす事すら出来ない。
「な…何故、だ……何故、動けない…」
上層の床が魔理沙のマスタースパークによって破壊され、紅い月の力は失った。しかし、ここまで動けなくなる程のダメージではない筈だ。身体中に火傷を負ったかの様な痛みはあるものの、外傷はそれ程酷くはない。肌が煤塗れになったかの様に黒くなってはいるが、それだけだ。血の一滴も出ていない。
ならば何故、レミリアはここまで弱っているのか。
『無想封印』は初代博麗の巫女が編み出した最強の秘術である。霊力に特殊な練りを加えて撃ち出す事により、妖怪の力を問答無用で封じてしまうという反則的な効果を持っているのだ。対妖怪に関しては無敵の技である。
それを諸にくらってしまったレミリアが碌に動く事も出来ないのは、それが原因であった。
「さぁ、あんたの負けよ。あの迷惑な霧を消しなさい」
霊夢がレミリアに詰め寄る。その後ろにはジョセフと魔理沙。
「ここまで、か…」
身体も碌に動かせない現状、レミリアに出来る事は何もない。誰の目にも勝敗は明らかだ。
「待って!」
と、その時。フランドールが叫んだ。レミリアと霊夢の間に割って入り、レミリアを庇う様に立ちはだかる。
しかし、フランドールが視線を向けているのは、霊夢ではなくジョセフだった。
「お姉様を殺すの…?」
「別に殺しはしないわよ」
フランの問いに答えたのは霊夢である。
レミリアが殺意を持って襲い掛かってきたにも関わらず、彼女はレミリアを殺す事を良しとはしなかった。
「……本当に…?」
フランの視線は尚もジョセフへ向いている。三年前の事が尾を引いているらしい。
ジョセフとしては、代理として務めていた巫女の職務を霊夢に引き継がせたので、異変に関して特に口出しするつもりはない。霊夢の決定にも従うつもりだ。
しかし、霊夢の命を奪おうとした事を許すつもりはない。レミリアに罰は与えるべきと考えている。
どう答えるべきか迷っていると、
「やめなさい、フラン…」
瓦礫の上に横たわったまま、レミリアがそう言った。
「私は負けたのよ。ルールも破った。命を取られても文句は言えないの。これ以上恥をかかせないで頂戴」
「で、でも…」
「殺さないって言ってるでしょ。あんたの命なんて別に要らないのよ」
霊夢は少し苛ついている様だった。さっさと帰りたいらしい。
「あの霧を消すの!? 消さないの!? どっち!? っていうか消しなさい!」
「……勿論、消す……というより、その内勝手に消える」
紅い霧を操っていたのは、主にレミリアである。無想封印によって妖力の大半を封じられてしまったレミリアでは、紅い霧を維持するどころか、動かす事すら出来ない。
自然発生したものでも無いので、時期に風に流されて消えるだろう。
「お嬢様!」
其処へ先程霊夢と激戦を繰り広げたメイド少女、十六夜咲夜が音もなく姿を現した。
といっても、霊夢とジョセフは時間停止中も彼女の動きを全て見ていた訳だが。また、部屋の惨状を見てか、彼女の奇声もばっちり聞いていた。
驚いたのは魔理沙一人である。
「お嬢様、ご無事ですか!?」
「咲夜か…心配いらん、大丈夫だ」
咲夜がホッと安堵の溜め息を洩らす。
そして彼女は霊夢━━━否、ジョセフの方へ向き直り、
「あの、こんな事を言うのは厚かましいと重々承知しております。ですが、どうかお嬢様をお許しいただけないでしょうか!?」
と。懇願する様にそう言った。霊夢ではなく、ジョセフに向かって。
それを聞いた霊夢から、ぶちっという血管がキレた様な音が鳴った。
「しつこいわね! こいつの件はもう終わったのよ! どうするつもりも無いわ! 同じ事を何度も繰り返すのは無駄なのよ無駄無駄! 後から来て蒸し返すんじゃないわよ面倒くさい! 大体、今の博麗の巫女は私よ! 何であんたら揃いも揃ってジョースターさんに言うのよ! おかしいでしょうが! 無視してんじゃないわよ! 私に言いなさいよ私に!」
キレ気味に早口でまくし立てる。
数秒置いて咲夜が、
「……えっ、では、何故ジョースター様が此処に…?」
率直な疑問だった。霊夢と魔理沙、というかジョセフ以外の全員が同じ事を思ったらしく、
「そう言えば確かに。何でジョースターさんが此処に居るの?」
「そうだぜ、神社に居る筈じゃ?」
「あ、うん、えーっと…」
言葉を詰まらせ、上の階層を見上げる。紫はもうこの場に居ないだろう。居たとしても、姿を現す事は無い。
本来ならジョセフも姿を見せるつもりは無かったのだが、魔理沙の危機に身体が勝手に動いたので仕方がない。
「実は、霊夢の活躍を見たくてこっそり後を尾けてきたんだ」
特に言い訳も思い付かないので、正直に話す事にした。勿論、紫の事は伏せて。
そんなジョセフの言葉に、霊夢が胡乱気な目を向ける。
「……本当は私が頼りないから監視しに来たとか?」
「いや! いやいやいやいや! そんな事は微塵も思ってないぞ!」
ジョセフは霊夢の力を十二分に認めている。既に一人前だと確信しているのだ。
その割にはレミリアとの決闘時に、あたふたしまくっていたが。
「本当に?」
「本当だとも。そんな事よりだな、レプリカ」
「レミリアな。レミリア・スカーレット。間違えるな」
「ああ、そうだっけ? まぁ兎に角だ。お前は霊夢の命を奪おうとしたな」
「なんだって!?」
強引な話題転換。魔理沙が食いついたので見事に成功した。
「これは明確なルール違反だ。よってお前に罰を与える」
「いや、待てジョースター。お前が許可を出したんだぞ」
「巫山戯るな。そんな許可出す訳ないだろ」
ジョセフとレミリアがヒートアップし始める。
「いやお前こそ巫山戯るな。三年前、私が『次の博麗の巫女など真剣勝負なら絶対に遅れは取らん』と言ったら、お前が『やれるものならやってみろ』と言ったんだ」
「ああ言ったな。確かに言った。だが殺して良いとは一言も言っとらん」
「いやいやいやいや。真剣勝負と言ったら命の取り合いだろうがよ」
「スペルカードルールは相手の命を断つ様な危険な攻撃は禁ずると言っただろうが人の話聞いてたのか」
「いやその後私が『殺ってもいいのか』って言ったら『お前には無理だ』とか言ったんだぞお前」
「いやお前やるってそう言う意味かよお前巫山戯るなよお前馬鹿かお前」
「そういう意味に決まってるだろうがお前でなきゃ一々聞く訳ないだろお前っていうか馬鹿って何だお前こそ馬鹿だろこの馬鹿」
「何だとコラやるのかコラ!?」
「あぁ!? やったろかコラ!?」
「ちょっ、ジョースターさん、ストップストップ!」
最早チンピラ同士の喧嘩の様相を呈してきた所で、霊夢が止めに入った。ジョセフがこれ程までに怒ったのを見るのは初めてなのである。
レミリアにしても、何も出来ないというのに何故こうも威勢だけは良いのか。それだけジョセフの事が気に入らないのだろうが。
お互いに子供である。
「兎に角! お前には罰を与える!」
「………好きにしろ」
レミリアは何処か諦めた様な態度だった。というより、どうでも良くなった感じ。負けたのだから、どの道文句は言えない。
「あの、罰というのは…?」
「決まっているだろう」
おずおずと尋ねる咲夜に、ジョセフが胸を張って答える。
「悪い事をした子供のお仕置きと言えば━━━お尻叩きだ!」
瞬間、世界が停止した。
いや、時間停止等ではなく比喩表現。
十数秒が経ち、まず霊夢と魔理沙が顔を逸らして肩を揺らし始めた。笑いを堪えている。咲夜とフランドールは呆気に取られた様な表情をしていた。
当のレミリアはというと、
「……、……おい…冗談だろ…」
青い顔をしていた。
「マジだよ」
「…………」
お尻叩き。子供のお仕置き。想像を絶する屈辱。
身体が動かない今、抵抗する事は出来ない。
「さぁ、お楽しみのお仕置きターイムの時間だ」
「うっ━━━咲夜! コイツを止めろ!」
「えっ…あっ…」
「咲夜」
逡巡する咲夜に、ジョセフが声を掛ける。
「屋敷が随分と派手に壊れてしまったな」
「えっ? あ…はい…」
「直すのはかなり大変だろうなぁ」
「はぁ…」
「どうだ? 私が直してやっても良いぞ?」
「……えっ…?」
「クレイジーダイヤモンドの能力なら大した時間も掛からず直せる。直してやってもいい。私の邪魔をしないならな」
「………」
再び数秒の逡巡の後━━━咲夜はレミリアに背を向けた。
「おい!? 咲夜!?」
「すみませんお嬢様。私には何も見えません聞こえません」
「おいィ!?」
従者に裏切られた瞬間であった。
レミリアは次にフランドールへ視線を向けるが━━━彼女はニヤニヤと愉しげな笑みを浮かべている。間違いなく助けは期待出来ない。
「往生際が悪いぞレミリア」
「や、やめろ……来るな……来るな……ッ!」
「さぁ、尻を出せ」
「私のそばに近寄るなああ━━━━━ッ!!」
幼い吸血鬼の悲鳴が幻想郷中に響き渡る。
霊夢と魔理沙は笑いを堪え、咲夜は目を閉じ耳を塞ぎ、フランドールはレミリアが尻を叩かれる様を見て笑い転げていた。
こうして、レミリアの引き起こした異変は後に紅霧異変と呼ばれる様になり、その幕を下ろしたのであった。ちゃんちゃん。
以下、くっだらねーおまけ。仮面ライダーネタ。どう考えても本篇に入らないので此処で。
ジョセフ「藍、また新しいギャグを考えたんだ」
藍「……」
ジョ「いいか、オリジナルだぜ。一回しかやらないからよ〜く見てろよ」
藍「……」
ジョ「サイクロン! ジョースター!」
藍「……」
ジョ「……」
藍「……」
ジョ「サイクロン! ジョー」
藍「いえ聞いていなかった訳ではありませんよ」
ジョ「……どうだった?」
藍「は?」
ジョ「どうだった?」
藍「……えーっと、とりあえず死ぬ程くだらないです。真似するといけないので、絶対に橙の前ではやらないで下さい」
ジョ「……ゆ、紫〜!」
藍「ま た だ よ」
ジョ「紫、紫〜! 藍が、藍がぁ〜!」
紫「ごめんなさい、ジョセフ……今のは流石に私でも笑えないわ…」
ジョ「ガーン!」
数日後。
橙「藍様藍様〜!」
藍「どうしたんだ、橙?」
橙「ちょっと見てて下さい」
藍「うん?」
橙「サイクロン! ジョースター!」
藍「━━━。」
藍「ジョセフのアホはどこだッ!!」
ジョ「えっ!?」
藍「覚悟しろッ!!」
ジョ「うわなにをするやめr」
ちゃんちゃん。