プロローグ
耳の奥に響き続ける雨音。冷たく、悲しく、虚しく、果てることなく降り続ける雨。その雨はこの世界全ての悲しみの涙その物の様で、長い間俺を深い、深い曇り空の下に縛り続けていた。
そこから抜け出る方法は知っていた。知っていたが、どうしてもそこから離れることなんて出来なくて……だってさ、その雨は確かに悲しみと痛みばかりだったけれど、それでもその中には小さくとも、何よりも温かい愛しさがあったんだ。
俺の生涯を捧げてでも、ただ雨の中で立ち尽くしていたかった。
だが、そんな俺の身勝手な自傷とも言えなくもない日常は、周りの大切な人達を少しずつ傷つけていった。目に見えない形で、けれども確実に、俺の中の雨は周りまでも浸食していったんだ。
あの、忘れえぬ秋雨の季節。俺は掛け替えのない存在……恋人以上家族以上。あいつを……桧月彩花を失った。
今でも明瞭に思い出せる。紅が膠着(こびりつ)いたアスファルト、虚しく揺れる落ちた真っ白な傘。
その傘は彩花のお気に入りで、転がっているソレがそうだって気付いた俺は、なんて叫んだだろう?なんて怨嗟を神に叩きつけたんだろう?それとも、獣のように哭いていただけかもしれない。
ありふれた交通事故だった。でも、そんな交通事故が俺から唯一を奪った。
あれから、あの日の雨が俺の中で止むことなく降り続けた。
俺はずっと、この雨を感じながら生きていくんだと思っていたんだが、時間ってのは残酷だよな。
彩花を失った中学三年から、もう五年も月日が流れてしまった。子供が大人になるには十分な時間だ。
いつまでも子供のまま、我侭に浸っていられる時間は終わり、冷静に昔の自分と現在の自分を見れるようになった。
身勝手に殻に閉じこもり、平気な振りして馬鹿やって……彩花への想いを言い訳に、度々思い出しては涙を堪えて……そんな馬鹿を演じ切れてない馬鹿を見て、周りが平気なわけないんだよな。
信も、唯笑も、みんなが雨の中にいたのに、俺は自分の中にある彩花を愛している……その想いだけしか見ていなかった。そんなの、さ……彩花が許してくれるわけねぇんだよ。
彩花は、俺と同じように唯笑を大事に想っていた。だから、唯笑の涙を拭えずにいた俺を、あいつはきっと辛い思いをして見ていたに違いない。
愛している女の子を傷つけて、大切な幼馴染を泣かせ続けて……そんな自分に気付いてしまった俺は、もう彩花と笑っていた頃の俺のままではいられなくて、自分と周りの大事な奴等の為に、顔を上げて進まなければいけなかった。
そうして、高校卒業と同時に、俺は彩花への執着を卒業したんだ。もちろん、彩花の眠る墓まで行って、それまでの自分の身勝手さをひたすら謝ったけど……そんな俺を見て、彩花がしょうがないなぁって、笑ってくれた気がするんだ。
そして、千羽谷大学文学部二年となった現在、俺の中に降り続けていた雨は、もう悲しいだけのものじゃない。悲しさも愛しさも優しさも温もりも、全ての雨粒が宝石のようにキラキラと輝いて、俺をそっと濡らし続けてくれている。
だから、もう大丈夫だよ彩花。俺はお前への変わらない想いを抱いたまま、ちゃんと顔を上げて笑って歩いていくから……だからさ……
――また、いつか幼馴染以上、恋人以上、家族以上って関係をしような……――
九月になり、夏はとっくに終わったというのに、どうして女々しく夏は残暑なんて形に変わって残るのだろうか?そんなだから春に捨てられるわけだよ。男だろ?男なら潔く、立つ鳥跡を濁さず去れよ。ていうか、もうほんと勘弁してくれ。俺の灰色の脳細胞が沸騰してしまう。
「そうだね~、沸騰しちゃうね、この暑さ。でもね智ちゃん、捨てられたのは夏じゃなくて、智ちゃんだよ。ついさっき、見事にかおるちゃんに捨てられたもんね」
「お前は黙ってこれでも喰らえッ」
近くでへばっているニン猫を唯笑の顔に押し付けてやる。
「うわぁ~、ニンニン猫ぴょん、ふっかふかで気持ち……良くないよぉ~ッ!ジメジメしてるのに余計に不快に~」
「いつものようにぷいぷいやってろ貴様は」
今は唯笑の相手をしている場合ではないのだ。
じっと、テーブルの上にある奴を睨みつける。
「正直さ、大学生なんてお気楽なもんだと思ってたんだよ俺は。夏休みと春休みがやけに長いし?普段も適当に遊んでバイトして、講義サボって?超余裕じゃんって。適当に講義に出て、単位取って、そんで卒論はコピペで?みたいな?」
「智ちゃん智ちゃん、その喋り方なんかイラってするよ。大学どころか人生も舐めてそうだもん」
「それが現実はどうだよッ!講義ではレポートの嵐!ノートを提出しないと単位は上げませんって……倫理学概論ってなんじゃい!語るなら自分の言葉で語れよッ!リーディング?英語もあやふやなのにドイツ語なんざ喋れるかよ!ビール旨いわ!」
「ああ!ダメだよ智ちゃん!せっかく途中までかおるちゃんが教えてくれたのに、めちゃくちゃにしちゃあ!」
「うっせぇーッ!」
真っ白なそれを、あらん限りの握力で握り潰し、猫のおトイレへシュートッ!
「ちっくしょ~。せめてかおるがいれば……海外系は詩音も欲しい」
「詩音ちゃんは仕方ないよぉ」
「……つうかお前、いつから名前を呼び合う仲になってんの?」
「結構前からだよ?なんてことはどうでもいいんだよう!詩音ちゃんは今大変なんだよ?普段は調理師学校に通って、休みの日はお父さんのいる国の紅茶の研究して、休んでる暇なんてないんだから」
そりゃ、あいつの夢の為だから大変でもなんでもないだろう。むしろ、そこそこの紅茶さえ与えておけば大概のことは許してくれるという、わりとやす……心の優しい奴だ。
詩音は高校を卒業後、調理師学校に進んだ。なんでも、将来は紅茶専門のカフェなんつうオサレな店でフィーバーしたいそうな。
そんなわけで、長期休暇の時は遺跡発掘してる親父さんの下で、紅茶発掘している。なんてブルジョアな休日でせう。
「ええい!俺が呼んだらエジプ~トからでもその日に戻って来いってんだ!」
「何様なんだろ」
「大体よぉ、かおるも俺を見捨てるなんて酷いと思わないか?」
つい数分前までいた俺の信より頼れる友人は、非情にも俺をあっさり見捨てやがりました。
音羽かおる、俺様の友人になれたという栄誉を賜る内の一人。
現在は都内の大学に進学し、主に映像関係を学んでいる。将来の夢は、ハンバーグに似た名前の映画監督と肩を並べること。夢は大きく、胸は慎ましやかにって感じの友人だ。
そんなかおるが、こっちに戻ってきていると知った俺は、レポートの手伝いを頼んだわけだ。
こんなタイミングで帰ってくるなんて、俺の為に戻ってきたようなものだろ?神と俺がそう決めた。
それでだな、まあ途中までは和気藹々としてたのだが……
「酷いのは智ちゃんだよ」
「ぬわぁにぃ?」
俺の絶対的味方である唯笑の反抗に対し、俺は唯笑の頬をぷいぷいしてやる。
「いふぁいいふぁい~!」
「俺の何が酷いって?」
教えられた範囲を終え、それをかおるに見直してもらっている間、朕は非常に暇であった。故に、奴が脚本を書いてみたというので、それをわざわざ読んでやったのだ。そうしたら……
『あ~、これアレだろ?実はヒロインは幽霊でしたってオチ』
『え、なんでわかったの智也?まだ最後まで読んでないよね?』
『ん?だってこれ、使い古されてもはやテンプレ脚本過ぎだろ』
『……へ、へぇ~、そうかなぁ?あ、あたしは、ちょっとだけ自信あったんだけど』
『マジか?だとしたら一から書き直したほうがいいぞコレ。まず、主人公のすったもんだ君の幼馴染、ボッコちゃんが一週間の失踪。そんで、一週間後に家族旅行だったっつって帰ってきて、その辺りから街では誘拐事件が多発と。主人公の周りでも被害が広まり、主人公は意図せずその事件に関わっていくことに……なんてストーリーはもう腐る位あるだろ。最近では、似たような作品でレインボーなんたらってゲームもあったしなぁ』
『……そうなんだ』
『んなわけで、もうオチまでわかって、ラストは感動も何も無し。泣くのはスィーツなハニーガール共だけで、男にとっちゃ拷問だなこの作品』
『ご、ごう、も……』
『そうだなぁ。いっその事カンフー撮ろうぜ!カンフーならそこまで金は掛からないし、脚本が悪くても痛快なアクションでいくらでも客のテンションを……って、かおるさんかおるさん。もしかして顔引き攣ってます?』
『ひひひひ、引き攣ってなんかないって~。そ、それにさぁ~、別にそれは候補ってだけでぇ、撮ろうなんてしてないから』
『だよなぁ~。かおるさぁ、俺を試すつもりでこれを読ませたんだろ?俺が手放しで賞賛したりなんてしたら、お前のことだ。指差して俺様の審美眼を馬鹿にしたんだろ?』
『は、はは……あはははは!さすが智也!よくあたしのことわかってるね!』
『当然だろ、俺はお前の親友、だろ?』
『もう、心が繋がり過ぎて携帯いらずねあたし達~』
『うはは!この俺と親友になれたことを神に感謝するがいい!……ところで、なんで涙目になってんだ?』
『え~?泣いてないよ?ほんと……ぜん、ぜん……』
『か、かおる……さん?』
『泣いてないったら、泣いてないもんね!』
『か、かおるーーーー!?』
まさか、甲殻類の名言を叫びながら走り去るとは思わなかった。
「アレはかおるちゃんじゃなくても泣いて逃げるよ」
「嘘はいかんだろ嘘は。それに、まさか本気で書いた脚本だとは思わなかったんだ」
「……だから、何様なのかな?」
「あれでも柔らかく伝えたつもりなんだがな」
「最近コミュ障って病気が流行ってるから、智ちゃんも気をつけてね」
「さっきから一々うるさいな。というかだな、唯笑よ。お前はなんで家にいるんだ?」
「ほえ?」
「俺と違ってお前は看護学校なんだから、今日は学校だろ?」
そう、こいつは何をとち狂ったか、看護学校に通っている。ま、まあ、唯笑のナース服姿はその……あれなんだな。ちょっといいなとか思っちゃうんだな。怪我したら絶対男はこいつの勤務する病院に殺到するんだな。そして殺倒(さっとう)されるんだな!ちなみに造語だ。
頭お花畑が出来る仕事じゃないと、俺は心配で仕方ないんだよ。頭の中だけじゃなくて、患者さんをそのお花畑に取り込むに違いない。
「んん、今日は休みだよ……智ちゃんと二人きりになんてしてあげないもん」
「そうなのか……なんだって?」
「なんでもないなんでもない」
「む~、詩音とかおるがダメとなると他に頼れる奴は……」
信はダメだ。雑学しか使えない赤点野郎だし。小夜美さんは……最近、入社した会社の上司にセクハラされている所為で、ストレスの捌け口としてすぐに俺を利用しようとするから却下。もう、あの人の作った料理で救急車に乗りたくない。白河とととはすぐに漫才を始めるからこれも使えない。そもそも白河の頭は唯笑級だ。頭は悪くないが、俺の理解の範疇外の行動を起こす。
むむむと頭を捻っていると、ちょんちょんと俺の肩をアホが突いてくる。
「ん、んッ」
人差し指で自分を指している。なるほど、つまり……
スッとレポートを唯笑の前に滑らせて俺は立ち上がる。
「あ、あれ?智ちゃん智ちゃん、これはどゆこと?」
「どゆことも何も、お前が後は任せろって言ったんじゃないか」
「どんな手話の解釈してるの!?」
「いやぁ~、持つべきものは可愛い唯笑だなぁ」
「か、可愛い?」
「俺が困ってるとき、いつも助けてくれて……もう、唯笑無しじゃ生きていけないな俺」
「ゆ、唯笑と結婚する未来しか見えない!?」
誇大解釈しているようだが、今だけだしとりあえず放置。
「それに、最近少し大人びたんじゃないか?……コーヒーがブラックで飲める位には」
「そんなぁ~。美人になったなんてぇ~」
「そうだ!いつも世話になってばかりじゃあれだしさ、なんか冷たいもの食べたくないか?俺買ってくるからさ」
「ええ~、そんなのいいよぉ。それより~、智ちゃんが唯笑のことどう思ってるのか聞きたいな~」
手の掛かるお花畑頭の妹としか思ってねぇよ。
「そりゃあ……その、少し照れるし、なんだったらその事について長く話したいしさ、やっぱり少し何か買ってくる。唯笑はレポートを持って俺の部屋で待っててくれよ」
「とととととと、智ちゃんの部屋で二人きり!?」
「ああ、二人で勉強しような」
「……お、大人の?」
ハハハハハ!何言ってんのこいつ?頬赤らめての上目遣いは禁止だぞ~。マジになってんじゃね~。
「それはどうかな?とにかく、すぐ帰ってくるから、俺が戻ってくるまでレポート進めといてくれ」
なんて適当に言っておけば、お人好しのこいつは確実にレポートをやっていてくれる。頼れる幼馴染だよ。彩花……俺達の唯笑はこんなに頼もしく成長したぜ。
「う、うん……いってらっしゃい」
「おう」
ぽけ~っとしている唯笑を残して玄関へ。今日は何処で暇つぶししようか考えていた。夏季休暇は今日までだがな。
いざ行かんと扉を開こうとしたら、後ろから慌てて俺を呼び止める声が。
……チッ、まさか唯笑のくせに俺の逃走に気付いたわけではあるまいな?
「ど、どうしたんだ?」
「あ、あのね智ちゃん……こんなこと、ね?言いたくないんだけど……そのね?一応確認するね?」
「お、おう」
くっそッ!高校時代から唯笑の頭は成長していないと踏んでいたのは甘かったか!?これで誤魔化せなければ他にどうすれば……
なんて考えを巡らせていたが、俺の心配は杞憂だった。確かに唯笑は成長していた……
「えっとね?あの……ひ、避妊具も買って……き、きききき、きて……な、な~んて」
「……はい」
まさかの唯笑の発言に、俺は俺らしからぬ返事をして家を出た。
そっか、唯笑ももう子供じゃないんだな……彩花、唯笑のこんな成長を俺は喜ぶべきだろうか?
彩花がいたら確実に殴られているだろうな、なんて想像をしてしまい、苦笑してしまった。
本日の俺の任務が今決まった。コレしかない!
いつも利用させて貰っている個人経営の書店。そこの新刊コーナーには、想い出に変わる君の作者の最新作『祝福の雨』が売られていた。
これは買うしかない。
少女漫画を買うときだけこの店を利用する。他の大型店だと知り合いに会う可能性があるからだ。かおるとかかおるとかかおるとか。
「そういや、俺がこの店を利用するようになったのって、間接的に彩花の所為だよな」
元々は彩花に面白いからと無理矢理読ませられたのがきっかけで、それ以降は俺自身すっかり嵌ってしまい、この作者の作品は絶対に買い揃えるようになった。
端の方ではたきでぱたぱたしている、ぽたぽた焼きを焼いてそうなおじいちゃん店主と目が合う。
あの爺さんは俺と彩花に感謝するべきだな。この店が潰れないのは俺の力によるものに違いない。
新刊なのに一冊しかないそれを手に取り会計を済ませる。
財布の中身が少し寂しくなったが仕方ない。明日は親父から生活費が振り込まれる日だし、別に少しくらいの散財は構わないだろう。
さて、家に帰って読みたいところだが、生憎と今は少し大人になった面倒な子供が俺の部屋を占拠している。となると、他に読める場所は……ならずやしか思い浮かばん。
あそこはな~、静流さんがいるから癒されたい時はいいんだが、店員が変な国の言葉を話す女の子と、イケメン学生一匹の所為で落ち着いては読めないだろう。男のくせに少女漫画読んでるとか馬鹿にされたら、あのイケメンに静流さんと二人でダブルブレンバスターしてしまう。……イケメンくたばれとか思ってなんかないぞ?
仕方ない。あまり人が来ない公園でゆったり読むとするか。
家の近くはまずいから、少しそこら辺でもぶらつこう。
そうして、なるべく知り合いに会わなそうな公園を探す旅へと出ることにした。
その日、私は一蹴がならずやでのアルバイトの日だから、夕食を作って帰りを待っていようと、買い物袋を両手に提げて公園の中を歩いていた。
まだ残暑が厳しくて、夕方になってもジメジメとして、汗が頬を伝って地面に落ちる。
もうちょっと体力をつけたほうがいいかな?朝にジョギングとか……一蹴と一緒に。
二人で朝にジョギングする姿を想像すると、自然と頬が緩んでしまう。これじゃあ、校内でバカップルと言われても仕方ないよね。
疲れて帰ってきた一蹴が喜んでくれるような料理を腕によりをかけて作ろう。
よしっ、と自分に気合を入れて、暑さで少し俯いてしまう顔を上げると、少し先に私を真っ直ぐに見ている男の人がいた。
……な、に?私を見てるの?
試しに後ろを振り向いてみるけれど、後ろには誰もいない。
「…………ッ!?」
彼の視線に息を呑む。暑くて流れていたさっきまでの汗とは違う、冷たい汗がつーっと流れる。
どう、して?
心臓の音が耳の奥で鳴り響いて、呼吸が乱れそうになる。
別に、そこまで取り乱すようなことじゃないのに、それでも今すぐに逃げ出したくて堪らない。
だって、彼の眼が雄弁に語っている。少なくとも私に友好的ではないということを。
敵意剥き出しの視線で睨まれて、足が竦んで動けない。
「……い、いっ、しゅう」
恐怖のあまり、最愛の人の名前を知らずに呟いていた。
「……よお、随分と久しぶりだな」
ゆっくりと大柄なその人は私に近づいて来て、そして……
「なあ?――ちゃん」
もう、聞くことのないはずの名前を、彼は口にした。
「あ、あなた……は……」
この日、この瞬間、私の中で贖罪の雨が窓を叩くように心を叩き出した。
「ふう、やっぱり良い話を書くよなぁ」
アイドルの彼と牛丼屋の娘の恋、そして恋のライバルの豚丼屋の娘。そうだよな、牛よりも豚にぐらって来る気持ちわかる。わかるけどさ、そこはすきやきでも大活躍の牛を選ぶべきだよ。しょうが焼きとか、ポークカレーは最強だし、とんこつの素晴らしいコクもわかるけどなぁ。次巻予告にラム屋の娘も出てくるらしいけど……その前に鶏から屋の娘も出そうぜ。
「眼が離せない素晴らしい作品だ……」
独特の世界観の余韻に浸りつつ、ぼ~っとしていると……
「テメェ、アイツのこと忘れて随分幸せそうじゃねぇか」
どっかで聞いたことのある声が聞こえた。つうか僕等のゆるキャラのトビーじゃん。
「わ、忘れてなんて……」
「忘れてないとでも言うつもりか?まんまとアイツの居場所を奪って笑っているお前が?」
「――ッ!?」
「俺は許せねぇ……許せねぇんだよ。あの野郎の相手がお前じゃなけりゃまだ許せた。だが、テメェと付き合ってますだ?どういうことだ……なあ、おい?」
「そ、それ、は……一蹴は…………ちゃんのことを覚えて……」
なんかトビーが美少女に言い寄っている。どうしよう…………動画でも撮って信に送ろう。
即座に撮影を開始しながらコーヒーを一口。加賀にも送っておくか。
「あ?今なんつった?」
「だ、だから……一蹴は覚えて……」
「……ざけてんのか?」
「キャッ!?」
お~っと!飛田選手!相手の左手を掴んだぁ!そこからどう相手を押さえ込むのか……見物ですね~。てか、あんなキレそうなトビーも珍しいな。なんだかんだ言いつつ、ただのツンデレだったりするのに、今回はマジっぽいな。
「それでも、信には送るけどな~」
俺と信の間に隠し事は無しだし~。面白いこととか面白いこととか限定で。
「じゃあ何か?覚えていないあのクズに、これ幸いとテメェは近づき、見事に恋人になりましたってことかよ……あ~、そいつはおもしれぇ。面白すぎんぞ、ああッ!?」
「ひっ!?」
「上等だ……上等だよテメェ等」
トビー、トビー。お前がマジでキレちゃうから、彼女上手く泣けなくて呼吸も危ういんですけど。ヤンキーだけど良い子に育てたつもりなのにな~。信が。
「はっ、良い事思いついたぜ?……おい、アイツは今何処だ?」
「あ、アイツって?」
「テメェの愛しい彼だよ、馬鹿なのかテメェ?」
「あ、会って、どう、するんですか?」
「あ?そんなもん決まってんだろ?」
何やら一際残忍な笑みでトビーが彼女に言い放つ。
「お前等二人まとめて潰してやる」
「そ、んな……」
ああ、ダメだこりゃ。こりゃ、トビーの完全勝利。十ラウンド保たなかったか、残念。
やれやれと立ち上がった時……
「……せない」
「……あん?」
「そんなことさせないッ!!」
先程までの怯えきった彼女とは違う、確固たる意思を持った声が公園に響き渡った。
涙で濡れているであろう眼は、真っ直ぐにトビーへと刺すように向けられている。
「わ、私はもう一蹴から離れません!離れたくない!」
彼は一蹴って名前なのか。蹴散らされそうな名前だな。
「だから、あなたを一蹴には会わせません……絶対にッ」
強い声、強い言葉。その声と言葉にトビーは……
「は~ん……なるほどなるほど……そこまで……」
ギリギリまで抑えていた理性を手放し、完全に怒りを爆発させた。
「舐めたことを言うなんてなッ!!」
振り上げる腕、襲いくるであろう衝撃に身を硬くして目を瞑る彼女……
「……テメェ、関係ねぇ奴が何してんだ?」
そして、その腕を押さえつつ間に入るイケメンな俺。
「おいおい、ここは俺に感謝する場面だろ?婦女暴行で捕まる寸前で止めてやったんだからな」
「は?え?」
背中から間抜けな声。どうやら状況が掴めていないらしい。
「チッ、余計なことしてんじゃねぇよ」
「そうじゃないよな?ありがとうございます三上様だろ?」
「ぶっ飛ばすぞ」
「お~、怖い怖い」
俺の腕を振り払い、トビーが決まり悪く顔を背ける。
「ん~、何があったか知らんが、少し頭冷やせよ。なんだったら信を殴って憂さを晴らして来い」
「親友を売るお前に頭を冷やせとか言われたくねぇな」
「あいつは限りなく親しい顔見知りだ」
「あ、あの……」
いきなり割って入った俺がなんなのか気になるらしいが、今は彼女のことは置いておこう。
「ま、詳しいことは聞かないが、もうちょっと紳士にスマートにを心掛けろ。良い子にしてたら、来月にはかきこおろぎを奢ってやるから」
「やっぱ殴っていいか?」
「おまわりさ~ん!犯人ここで~す!」
「……クソッ!テメェと話してると頭いてぇ。今日は帰る」
「俺と手を繋いで?」
「マジで口を利けなくするぞ」
「わりぃわりぃ。じゃあ、またなトビー」
溜息をついて背中を向けて去るトビーは、一度も彼女に視線を向けることは無かった。
俺の前でキレてるとこ見られるのはさすがに嫌だったんだろうな。信と俺と加賀とマグローとでたまに遊ぶし。伊波もたまに混ざるけど。仲間を大事にするって優しいとこがあるんだけどなぁ。
「あ、あの!」
「お、おう、悪い忘れてた」
俺の優先度的にトビーのが優先度上だったから忘れてた。
後ろを向くと、彼女は深々と頭を下げていた。……つむじ押したい。
「その、助けていただいてありがとうございました」
「いや、別にいいよ。てか、頭上げてくれ。その態勢だとつむじを押したい衝動に駆られてしまう」
「……は、はあ」
相手が唯笑だったら泣くまで押してやるのに……なんて無駄なことを考えつつ、彼女と初めてまともに目を合わせた。
逢って、しまった――
「ッ!?……あ、え?」
夕暮れの公園っていうのも悪かったのかもしれない。それでも、涙を目に溜めた彼女の顔はあいつに……彩花にとても良く似ていた。
「あの、どうかしましたか?」
どうかしたか、だって?それは俺が聞きたい。
「あ~……その……」
指通りの良さそうな綺麗な長い髪、柑橘系の懐かしい匂い、大きく澄んだ瞳、スッと筋の通った鼻。整った綺麗な唇。どこもかしこも似ている。あいつの妹だって言われても不思議に思わないレベルだ。
似てないのは……まあ、胸だけか。彼女のが大きいな。
にしてもだ、動揺しすぎだろ。さすがに詩音と話したときのような失態はもうしないけどな。彩花は彩花で、この子は他人。
ただ、夕暮れの公園と、彼女の涙があの日の、想いを確かめ合った時の事を思い出させて仕方ない。
と、とにかく何かアクションをスタートしないと!ルーなんとかさんちゃうで。
「と、とりあえずだな……」
ポケットからティッシュを取り出して……
「これで鼻水拭きなよ」
見事に初手を誤った。
「あ~……なんか、悪い」
「い、いえ……ふ、ふふ……気にふ、してませ……」
「無理に我慢しないで笑っていいからさ。逆になんかきついんだけど」
とりあえず、俺が本を読んでいたベンチに二人で座り、缶コーヒーを奢ったのだが、さっきから笑いを堪えるので辛そうだ。
そりゃあ、俺はそこまで女慣れしてるわけじゃないし、でも笑うことは無いんじゃないか?だって、鼻水出てたし?むしろ鼻水たらしてた君のがギャグだし。
「す、すみません。なんだか、さっきまで怖くて怖くて仕方なかったのに、いきなりあの雰囲気が壊れちゃうなんて……」
壊れちゃうっていうか、壊しちゃうの間違いじゃないか?目は口ほどに語るとはよく言ったものだ……だって、目が垂れ下がってるし。爆笑必死だろ。
「ま、まあさ、トビーとは知らない仲じゃないしね」
「トビー?」
「飛田扉。扉だから、トビー。俺のしんゆ……限りなく親しい顔見知りがつけたあだ名」
「そうなんですか」
え~?こっちでは笑わないのかよ!?
ちくしょう、なんかあいつのフォローしてやろうと思ったけど止めようかな。実はロリとか言いふらしてやろうか?信発信ってことで。
そんなことしたら本気で絞められそうだから言わんが。
「それでさ、何があったかは知らないけど、トビーってわけも無くあんなこと言ったり、手を上げたりする奴じゃないんだよ。普段はクールぶってるけれど、本当は優しいし。俺が金に困ってたら、文句言いながら貸してくれるし。俺の友達が金に困ってても貸してくれるし。あと!自販でコーヒー買おうとして、小銭無いときとかもさりげなく出してくれるし!」
「全部お金絡みなんですね」
あれ~?なんか金に汚い奴に思われてる?てか、俺も金にだらしない奴に思われてない?
「いやいやいやいや!それだけじゃなくてだな!あとは~……あと、は……そ、そうだ!あいつといると、ヤンキーとかに絡まれず、しかも問題が起きても解決してくれるぞ!」
「……ヤンキーって、暴力振るうんですね。怖いですね」
ふむふむ……これはあれだな。フォロー不可能。トビーのインプリンティング失敗が悪いんだよ。俺の所為じゃない。
「よし!あいつの話は止めよう!」
いたいけな彼女を怯えさす存在はダストシュートで眠っとけ。
「そういえば君って、浜咲学園なんだな」
「はい、そうですけど」
「じゃあさ、伊波健って知らない?あのスカしたイケメンで、白河の彼氏の」
白河関連なら浜咲で知らん奴はいないだろうと振った話題だが……
「ほ、ほたる先輩を知ってるんですか!?」
めっちゃ食いついてきたッ!
「知ってるも何も、たまに遊ぶが……」
「たまに遊ぶ……奇抜な言動と行動……信?」
なにやらぶつぶつ呟いて考え込んだ。
コーヒーを飲みながら少し待つとするか。
「どうかした?」
「あの~、間違ってたらすみません。もしかして、稲穂さんの親友の三上智也さん……でしょうか?」
「ブゥゥゥゥゥッ!!」
「きゃあッ!?」
コーヒーを噴射し、咳き込んでしまう。
あの野郎顔が広いな!じゃない、俺の何を話してんだよ!?
「ま、まさか信のこと知ってるのか?」
「えっと……私の彼が住んでいるアパートに稲穂さんも住んでいまして」
世間が狭いわけじゃない。信がいるから狭く感じるんだ。あいつの無駄に広い顔を整形してやりたい。
「それで、よく稲穂さんとお話しするんですけど、何度も三上さんのことが話題に出るんです」
「あ~、そうなの?ち、ちなみに何を信は話してるのかな~?」
「え~と……その~……あは、あはははは」
明日あいつを絞めよう。具体的には、あいつの後ろ髪を縛ってるゴムの隙間に線香花火を差し込んで火を点けてやる。
「あ!でもですね、実は私ピアノを習ってまして、ほたる先輩にたまに教わりながらお話をしたりするんです。そこで三上さんの話をほたるさんがしたりするんですよ」
「ほぉ~、あのほわほわ女はなんと?」
「えっと、伊波さんにトラウマを植え付ける凶悪犯で、いつも周りを振り回す奇行ばかりをする変な人って……って、三上さん?どこに電話してるんですか?」
「ちょっとな…………よぉ、久しぶりだな頭ほわほわ女郎。今何処だ?ウィーン?おいおい、誰も自動ドアの真似なんて求めてねぇよ」
「ほたる先輩に電話してるんですか!?それにウィーンは地名です!」
「今な、お前の後輩の……名前は知らん。お前のピアノと学校の後輩に会ったんだが、お前俺のことなんて言ってた?」
「す、すみません。自己紹介がまだでした。私は」
「何が正直に事実を伝えただぁ!遠くに離れてるからっていい気になるなよ!こっちには伊波っていう人質がいるんだからな!」
「みささ……はい?人質って、三上さん!?」
「ふははははは!貴様は海外にいることを悔やむがいい!俺が直々に伊波にお前の罪を償ってもらうからなぁ!ふは、ぶひゃひゃひゃひゃ!」
「ちょ、あの!電話変わってください!」
何やら横から手を出してくるので、携帯を持つ手を上に伸ばして回避する。こっちの彼女もあっちの彼女もピーチクパーチク。先輩後輩共々うるさい小娘共め。
電話の向こうから智ちん智ちん!とうるさい声をシャットアウト。海の向こうで心乱すがいいわ!
「あ、ああ……ごめんなさい、ほたる先輩」
「口は災いの元って勉強したか?」
「そう、ですね。助けてくれたからって良い人とは限らないって学びました」
「なんだとう!ようし、そんなことを言う悪い小娘にはお仕置きが必要だな。特別にトビーを召喚してやろう」
「すみませんすみません!もう言いませんから!」
トビーの名前を出しただけで泣きそうになられた。トラウマになってんじゃねぇか。
「ふぅ、冗談だ。別に伊波に何かしようだなんて思ってない」
信には報復はするがな。
「良かった……」
心底安心したように胸を撫で下ろす。
どうやらもう大丈夫だな。トビーめ、俺にアフターケアさせやがって。
「よっと」
立ち上がり、飲み終わったコーヒーをゴミ箱に投げると、奇跡的に綺麗に入った。はずしたら恥ずかしかったぜ。
「なにわともあれ、君にどんな事情があるのかもわからんし興味もないんだけどさ、ごちゃごちゃ悩む必要は無いんじゃないか?」
「……そう、ですか?」
「そうさ」
手の中で缶を揺らしながら、小さな声で悩みを滲ませながら応える。
「ま、何も知らん俺が言っても仕方ないかもしれないけどさ、君がそうやって悩んでる姿ってか?辛そうな姿を見て君の大事な彼はどう思うかね」
「…………」
「そりゃあさ、一緒に悩んで解決するならそれが一番だけど」
脳裏に過去の自分が蘇る。
傷を抱え、それを隠して笑い続ける自分。そんな俺をずっと見てきた奴等がどれだけ傷ついたか……
「もし、今すぐに解決する問題じゃなくて、しかも二人だけじゃ重いならさ、あいつ……信にも背負ってもらえば良い」
「そんな……稲穂さんにまで甘えられませんよ。だって、全部私が悪いんですから」
彼女の抱える気持ちを軽くしたくて言ってみたが、余計に追い込んでしまったか?
なんつうか……少し前の俺に似てるんだよな。一人じゃどうしようもないくせに、無理して笑って……馬鹿だよな、ほんと。
「だ~か~ら~!」
俯く彼女の頭をわしわしと乱暴に撫でる。
「わわわッ!?や、止めてください!」
「うっさいわ!その顔を止めろってんだ!どうにもなんない問題なら開き直れ!どうしようもないんだから仕方ないってな!それでどうにもなんないんだったら、少しでも良くなるように前向いて笑うんだよ!」
「そんな、何も解決しないじゃないですか」
「そうか?少なくとも、今みたいに鼻水垂れ流して泣くよりは何億倍もマシだろ」
「鼻水なんて流してません!」
「流してるかどうかの問題じゃない!」
「……最初に言ったのは三上さんじゃ」
「小さいことに拘る女は良い女にはなれないぞ」
「大雑把過ぎるあなたよりはマシかと」
「とにかく!自分を追い込んでも、良くなることなんざ何もないんだよ!人生の先輩の言うことには黙って頷いとけ!これ社会の常識!」
「暴論ですけどね」
グチグチと細かいなこいつ。彩花のがもっと……おかんみたいに細かかったな。うん。
「んだよ……人がせっかく……」
「せっかく、なんですか?」
「なんでもない。もう勝手に追い込まれて泣き叫べば良いだろ!お前の母ちゃんで~べそ!」
「……稲穂さんから聞いてた通りの子供です」
「毎日微妙な不幸ネタはがき送ってやる!そんでもっと悩め!」
「励ましてくれてたんじゃなかったんですか!?」
「だって、文句ばっかりで腹立つし。信と二人で君と君の彼氏で遊んでやるからな」
「一蹴がストレスで倒れちゃうので止めてください」
「はん、知ったことか。だが、止めて欲しいならな……」
困り顔の彼女に手を伸ばすと、髪をぐしゃぐしゃにされると思ったらしく、頭を両手で抑えて目を瞑った。
……っとに、こういう頑固な馬鹿は生き辛いだろうに。見た目は彩花で、馬鹿なとこは俺っぽいって?俺とあいつの子供かよ。
労わるように優しくゆっくりと、その柔らかい髪を撫でてやる。
「……へ?」
「自分の問題から目を逸らさないで、それでも笑うんだよ。雨はさ、冷たいだけじゃないんだって……そうすれば、時間が経てば気付くはずだから。そういうふうに出来てるもんだ。そんでな?今度俺が君と会ったらこう聞くよ……」
それは、俺を救ってくれた馬鹿の言葉で、一人泣く奴みんなに言ってやらなきゃいけない言葉。
あいつがくれた言葉を、俺は目の前のこの子にも言ってやろう。いつか出会う道の先で……
「雨は上がったか?って。その時はさ、笑顔で君なりの答えを聞かせてくれるか?」
「それって……どういうことですか?」
「さてね、それは後に分かるさ。じゃ、その時までに答えを用意しておけよ小娘」
最後に乱暴にわしゃわしゃしてやって手を離す。なにやら悲鳴を上げたようだが、聞こえな~い。
「うう~……小娘じゃないです。私は」
何かを言おうとした小娘だったが、俺の携帯の着信がそれを遮った。
なにやら唯笑からお怒りメールが届いた。騙されたと気づくまでそこそこに時間が掛かったな。
「ん?なんか言ったか?」
「……なんでもありません」
大人しそうな子だと思ったが、頬を膨らませて苛ついている。情緒不安定な小娘め。
と、いつまでも小娘で暇潰ししているわけにはいかないな。唯笑にはダッツでも買ってご機嫌を取っておこう。ダッツがあれば戦争も終わる。俺の財布も終わる。
「そんじゃあ、またな。精々青春しろよ小娘」
ひらひらと手を振って歩き出す。後ろから、小娘じゃありませんって抗議があったが、どうせしばらく会うことはないんだ。名前を覚えても仕方ない。
この先、問題と向き合って自分なりの回答を出した小娘が、少しでも笑ってれば良いなと、柄にもなく願いつつ、公園を後にした。
「小娘じゃありませんッ!」
立ち去る背中に抗議をしたけれど、能天気に笑うだけで私の話をちゃんと聞いてくれないままいなくなってしまった。
「……もう、変な人だったなぁ」
飛田さんから助けてくれたと思ったらむちゃくちゃなことばかりして、私の話は全然聞いてくれないし、髪の毛はぐちゃぐちゃにするし……
「だけど……なんだろ?」
少ししか話してないのに、思い出すとなんだか笑っちゃいそうになっちゃう。
本当におかしな人だったなぁ。めちゃくちゃなのに、憎めなくて、どこかあったかくて……
「お兄ちゃんがいたら、こんな感じなのかな?」
う~ん、もうちょっと賢くてカッコいいお兄ちゃんがいいかな。三上さんはやんちゃ過ぎて私がお姉さんみたいになったりして。
「でも……」
三上さんに髪を撫でられた時、なんでか泣きそうになっちゃった。
何もかも包んでくれる毛布のようにあったかかった。とても優しくて……嫌じゃなかった。
私の髪に触っていいのは一蹴だけ……そう、思ってたのに。
三上さんのおかげで、不安だった気持ちがふわりと軽くなった。それは間違いなくて……
「今度会うときは、笑って会いたいな」
それが今日の恩返しになる気がするから。
ふと、ベンチに置いてある小さな袋が目に止まった。
「……あれ、これって?」
この神奈川には夢か絶望しかない。しみじみ感じつつ、ならずやでアールグレイを嗜む。所謂アフタヌーンティー。ついでに俺は夢側じゃなく、間違いなく絶望族だ。
きっと今の俺は誰よりもセンチメンタルに違いない。
「どうしたの智也君、なんだか元気がないようだけれど」
ならずや店長代理であり、天才ピアニスト白河ほたるの姉であり、更には全国の疲れた男性を癒してくれる菩薩様。静流さんが優しく声を掛けてくれる。
「……いえ、なんだか神奈川の風が少し冷たいなと……そう、感じてしまったので」
「……そ、そうなの?」
「だからかな?静流さんの淹れてくれた紅茶がやけにあったかくて……いけね、涙が……」
「ほんとにどうしちゃったの?相談ならいつでも乗るわよ?」
後光が!静流さんの頭上から後光が射していらっしゃる!菩薩って言うか女神?むしろアフロディーテ?
なんて、静流さんの果て無き慈愛に癒されているところに無粋な横槍が入ってきた。俺のすぐ右隣と、左隣の両方から。
「静流さん、あまりこいつを甘やかさなくていいんだって。心底自業自得なんだから」
「そうですよ。だって智也君はただ単に、因果応報でお金がすっからかんってだけなんですから」
右のなんちゃってポニテと、左のムカつく程に爽やか優等生君がいらんコンビネーションを発揮しやがる。
「うっせぇ、黙れ、くたばれ。お前等に俺の深く傷ついた心わかってたまるか!我が深淵を覗いてみるかゴラァッ!」
「大分底が浅い深淵だね」
「だよなぁ」
情け容赦ない奴等だな。幾度となく助けてやった恩も忘れて、仇だけを返してきやがる。
「ん~と、なにがあったのかしら?」
「それがさ、つい二日前だっけ?唯笑ちゃんにレポートをキラーパスして、そんで自分はサボって出歩いたんだけど、途中ちょっとした修羅場に巻き込まれて、まったくサボった気がしないまま唯笑ちゃんを怒らせてしまったんだよな?」
「そうそう。そして、今坂さんならダッツ一個で機嫌が直ると安く見た結果、アメリカのお得パックのアイスを五個買わされて無一文になったんだよね」
ま、まあ信が俺が少女漫画を買って、それを無残にも置き忘れてきたってことを隠したことは褒めてやる。褒めてやるが、伊波め……
「はぁ~、智也君らしいと言えばらしいわね。唯笑ちゃんに甘えているところなんか特に」
ぐむぅ、静流さんに呆れた目で見られてしまった。
そりゃあ、俺が悪かったところも確かにある。それは認めよう。だが、唯笑の仕打ちもあんまりじゃないだろうか?俺の財布事情を知っていて、ギリギリ出せる金額の物を買うなんて。誰がそんな賢しい子に育てたんだ?……彩花だな。そうだ、そういうことにしよう。
そ、それだけならまだいい。しかし悲劇は次の日にも起きたんだ。
そう!なんと、次の日に入るはずの生活費が一切振り込まれていなかった!読まなくて良い空気でも読んだの親父様?美味しくもなんともねぇよ。腹がちょっとも膨れねぇもん!
連絡しても電話が通じないし、親父からの連絡を待つしかない状況だ。
というわけで、唯笑の会心の一撃により無一文となった俺は、昨夜の晩飯は恥を偲んで唯笑に土下座し、今坂家の食卓に加わらせて貰う事に……おばさんの飯、マジで天にも昇る美味しさでございました。どっかのビューリホー女子大生に是非爪の垢を飲ませて頂きたい。ノット世界をどっきり料理!
さすがに唯笑に土下座したなんて、静流さんにはかっこ悪くて言えねぇよな。
「……てわけでさぁ~。これ証拠画像」
「あははははははッ!」
「お前は本気で俺のプライド粉々にするの大好きな!つうかこの画像唯笑の野郎撮ってたのかよッ!」
静流さんと、その妹の彼氏揃って大爆笑。静流さん、俺はあなただけは信じてたのに……
「も、元はといえばお前の後輩の所為だろうがッ!」
「ふひひ、さーせんww」
「何キャラだよお前!俺を馬鹿にする時だけキャラ崩壊してんじゃねぇ!」
お互い大学生になった途端に俺を苛つかせる才能を開花させ、今ではサッカー以上の才能にまでなってしまった。
「ああ、後輩っていのりちゃんだろ?」
「ん、お前の知り合いの彼女らしいな」
「いのりちゃん?彼女がどうかしたの?」
いのりという名前が気になったらしい。そういや白河のピアノの後輩でもあるなら静流さんが知らないわけないか。
でもなぁ、さすがにトビーの婦女暴行未遂を話すわけにもいかないし……ここは人心掌握術に長けた彼にお願いしよう。
瞬き五回『頼んだぞ』の合図。それにすぐさま彼は対応してくれた。その対応力に惚れてしまいそうだ。
「実は、レポートをサボった智也君が公園に立ち寄ったんですけど、そこであることに陵さんが巻き込まれちゃってたんです」
さすがだな伊波。そのシリアスな声と顔で何人の女性を泣かせてきたことか……ところで信よ、真剣に誤魔化そうとしているのに、隣で俺が送った動画観て笑い堪えるの止めろ。
「巻き込まれたって……何か危ないことなの?」
「そう、ですね。危ないといえば危ないし、危なくないといえば危なくはないことです」
ん、ん~?アドリブに定評のある伊波家の健君?ちょ~っと怪しい雲行きじゃないかい?
「健君、それってどういうこと?詳しく聞かせて。いのりちゃんはほたるの大事な後輩なの。だから、私も心配なのよ。だからもっとわかりやすく教えてくれないかしら」
「それは……こ、これ以上僕の口からはなんとも……ただ、危ないようで危なくないとしか」
「健君!私は真剣に聞いてるの!はぐらかさないで!」
「え~……その~……」
静流さんの剣幕にだらだらと脂汗が流れ始める。だから信、笑うならトイレに行って笑え。
お化け屋敷に放り込まれた子供のように、健が俺を潤んだ瞳で見つめてくる。
やっべ、心底放置してぇ。
「健君!」
「智也君!」
「お前はもうリア充止めちまえ!」
この程度で挫けやがって!浜咲至上最強のプレイボーイの影が微塵もねぇな!
「智也君……何があったのか話して」
ほら来たよ。アフロディーテの純心に目を背けられるわけねぇじゃねぇか。
ここは腹を括るしかないか。
「あ~、静流さん。本気で言いにくいんですけどいいですか?」
「ええ」
怖い怖いッ!その真っ直ぐな瞳は止めて!罪悪感でぎゅんぎゅんしてしまう。
「実はですね、公園で彼女……カササギ」
「陵」
「そうそう。陵がですね、砂場に座り込んで泣いていたんです」
「す、砂場で?どうしていのりちゃんは泣いていたの?」
「……あの、この話は絶対に白河には言わないで下さいね。ブササギの名誉のためにも」
「陵ね」
「そう、その陵のために。俺も不思議に思いましたよ。大人になろうかという彼女が砂場で泣いているんですよ?これはただ事じゃないと俺は彼女に駆け寄りました」
「それで?」
「そしたらですね、なんかちょっと嗅ぎ慣れた臭いがしたんですよ、砂場から。その匂いは彼女が座っている場所から漂ってきて……よく見ると……ッ!その……その場所だけ濡れていたんですッ!」
「まさか……そんな、いのりちゃん、が?」
信じられないという表情で、でもそれがどれほどの屈辱か想像して、静流さんは口元を抑えて肩を震わせた。
おいおい伊波。お前は別な意味で俺のことを信じられねぇって目で見るなよ。お前の尻拭いしてんだぞ俺は。クササギの沽券を代償になッ!
「ここまで言えばわかるでしょう?あの年でそんなことがあったなんて……もしも俺だったら言えません。言えるわけないじゃないですかッ!」
「そう、ね……ごめんなさい。そんな事情があったなんて……智也君達は必死に彼女の心を守っていたのに……無理に聞き出すなんて、最低ね私」
静流さん……お願いですから、そのままショックを受けていて下さい。決して、コーヒー片手に持ちつつ、ナプキンで鶴を折っている奴と、トビーの衝撃映像をリピート再生して腹抱えている奴には目を向けないで!
「……彼女、泣いてました。俺がコンビニで下着を買って渡しても、ずっと泣いてたんです。それなのに、俺……俺、はぁッ!」
「ごめんなさい。ごめんね智也君。本当にごめんなさい」
顔を伏せて表情を見せない俺の頭を、静流さんはぎゅっと包んでくれた。
俺の頬に一つ、また一つと落ちてくる雨。それが誰が降らせているかなんて、見なくてもわかる。
……こんな俺の大根芝居に騙される純粋な彼女からだと。
「おい智也!そこ俺とかわぐふほぉッ!」
余計なことを口走ろうとする奴を全身全霊の拳を腹に喰らわせ黙らせる。
「ちょっ、智也君!本来はそこは僕ッとんへー」
もう一匹も駆除完了。
逃げ出した敗残兵が一端の口を利くんじゃねぇ。
勝者の特権を数分堪能した俺は、きっと誰より幸せな顔をしていただろう。母性サイコー。
そうして、うささぎの問題を上手くうやむやにし、本日の本題に議題は突入。
つまり、俺の今後の生活費!
「とりあえずバイトしろよ」
「そうね。……今日のここの御代はどうするのかも気になるわ」
「財布ならここに」
「それ僕の財布!いつの間に抜いたの!?」
お前がおねんねしてる間にだよ。
「というわけで、あと二、三日は平気です」
「ここの支払いだけじゃないんだ!?普通に窃盗だからね!」
尻の穴の小さい男だな。あ、財布の中に四千円しかないじゃん。
「そうねぇ~、とりあえず今日は健君に奢ってもらうとして」
「し、静流さん?なんか智也君に甘くありません?具体的には高校卒業辺りから」
「……じゃあさ、いっそのことここでバイトしたら良いんじゃないか?」
ならずやでバイトだと?あの電波娘と青臭いイケメンと……超絶美しい静流様と?
いいな、それ。
静流さんと二人で皿を洗って、二人でコーヒーと紅茶を淹れて、仕事が終わったら二人で窓際の席でまったりと……いらんビューリホー女子大生というコブ付きだが、それさえ目を瞑れば天国じゃないか。
「そ、そうか?なら俺」「それは駄目よ」
俺の妄想瞬殺。クイズ王より速いですね。
「どどど、どうして?」
「だって、小夜美に智也君を取った~って文句を言われるもの」
「庶民の戯言です。スルーして結構です」
「だって、小夜美ってば、拗ねると長引くんだもの。そうだ!それなら小夜美のとこで雇ってもらうのがいいんじゃないかしら?」
「その提案は棄却されました~」
小夜美さんは、大学を卒業後、小さな出版社で営業の仕事をしている。ただ、営業とは名ばかりで、実際は添削、編集、校正、その他全般やらされているらしい。
そんな激務の会社で俺に彼女の奴隷として働けと?社畜より悲惨な未来しか見えない。
「となると、あとはファミ」
「そこも棄却な。お前等の息の掛かった下僕共と働く気は皆無だ」
毅然と言い放つと、二人は無言。一人は苦笑を浮かべて、なんとも言えない空気が店内に蔓延した。
俺は悪くありません~。俺の労働意欲を掻き立てない職場が悪いんです~。
「もういいよ。バイトしなくても俺には頼りになる親友がいるし。金なんかじゃ切れない、タフな縁のさ」
ちょっと良い顔で両隣に視線を送る。そんで、微笑み(怒りマックス)の爆弾を返された。
「いやさ、真剣に友達として言うけど、智也君さ……世間舐めすぎじゃね?」
「最後に黒さが隠しきれてないなおい」
「健の言う通りだぜ智也。お前さ、今まで何を学んできたんだよ」
主にお前と二人で悪巧みしか学んでませんが?
「智也君……あなた、少しは将来を見据えないとこれからが大変よ?」
お、おう……ガチに心配されると、かなり刺さるんですけど。何一つ汚点のない人生を送ってきたと自負しているのに。
ジーッと三人の視線がずしゃずしゃ刺さってきて、俺は思わず視線を逸らしてしまう。
あ、あれ?ギャグのつもりが、経点を超えたらしいぞ。大分アウトな人間として俺の名前が歴史に刻まれてしまう勢いだ。
ど、どうしよう?
頭をフル回転させて、どうにか言い訳を考えていると、俺を救うかのように携帯が震えた。
「お~っと!こいつはいけねぇ、着信がきちまったい。ちょいと失礼するよ」
落語家のように言い放ち、店の外に出る。
誰かは分からないが、今この瞬間最大の感謝を着信の主に捧げたい。魂を込めて感謝するぜ!
「もしもし」
『おう、残念ながら息災のようだな愚息』
神様神様、この世界の天敵に最大級の罰を与えて下さい。大至急!
「ふはっ、ふははははは!これはこれは、テメェ様の息子を餓死させようと、生活費を与えなかったお方じゃありませんか。なんの用だ貴様」
『ちょっと食えないくらいで文句を言うなよ。水で食い凌げるだろうが』
「それ食ってないじゃねぇか!飲んでるって言うんです~!や~い、や~い、バ~カ!」
『お前、年末年始どうなるかわかってんだろうな?』
「貴様の顔が福笑いになるとか?」
『……やはりお前に頼み事をしようと思った俺が愚かだったらしい。初期装備の木の鎧でB○TAに挑むレベルだった』
「あん?頼み事だ?んなことよりせいか」
『週四日で日給6000円の簡単なバイトの依頼だったんだが、もういい』
「いやいや、だからせいか……なんだって?」
『お前がここまで使えないとなると後は……』
「お父上、お父上。誕生日にバラを年の数贈るんで待って下さい」
『俺をショック死させる気かお前は』
「いえいえ、今までの僕は間違っておりました。ちょっと前の僕死ね。これからの僕こんにちわ」
『ははははは!言動が狂ってるのは変わってねぇのな』
「そんなことよりもですね、その~……今、なんとおっしゃったのでしょうか?」
『いいよもう。お前以外に頼むから』
「僕がやらなきゃ誰もやらないです!ハロー天職!カモン親父!」
『俄然頼む気が失せたわ』
「そんなこと言わずにぃ~。お、と、う、さ、ま♪」
『きもいきもいきもい惨い!ちょ、話すから普段の慇懃無礼なお前に戻れ!ろくでなしの俺の息子だろお前は!』
「あ、そう。んじゃ、ろくでなし。俺になんだって?」
『……マジで人生潰すぞ?』
「オーケー。ちょっとマジになるわ。このモードは数分しか保てないから時間には気をつけろ」
『お前が言葉遣いを気をつけろ』
「それで、もう一度詳しく説明してくれ」
『あ~、あのな?俺の古い知り合いから頼まれたんだがな……』
大半を無駄な会話に費やした俺は、まさかのろくでなしから救いの手が伸ばされたのだった。
今度帰ってきたら親孝行してやるからな。コーヒーに擬態した何かを淹れてやるから、感謝しろよ親父。
なんてお気楽で賢い俺様だったが、一つ欠点があったことは否めない。
俺の欠点、それは……
「ここ、かな?」
手に持った地図を頼りに辿り着いたのは、閑静な住宅街に建つ一軒のお家。二階建ての綺麗なお家で、庭も十分な広さで、バーベキューなんかも出来るかもしれない。
難点は隣のお家とくっつきそうな位に近いことだけど、隣のお家からは人が生活している気配が感じられない。空き家なのかな?
お父さんとお母さんが仕事でしばらく海外に行くことになって、自分達がいなくてもちゃんと勉強をするか心配だということで、二人の共通の友人であるお宅の息子さんに家庭教師を頼んだと、一方的に言われた。
普通なら私の家まで来て頂くのだけれど、子供だけでは心配だということで、こちらのお宅の今まで海外にいたお母さんが、わざわざ私の為に戻ってきてくれて、面倒を見てくれるのだという。帰りも送ってくれるのだという。
た、確かに男女が二人っきりっていうのは私も困る。見知らぬ男性と二人だなんて、想像しただけでも怖くなってしまうし、なにより最愛の恋人、一蹴に申し訳なくて仕方ない。
「はぁ~」
一蹴のことを想い、溜息一つ。
そもそも、なんで家庭教師を頼むことになったのか……その原因は私にある。
高校に入って、一蹴と恋人になれてからというもの、一人暮らしの一蹴の家に毎日のように通い、勉強をする時間が必然的に減って、一年生の頃は上位にいたのに、今では成績は上位に入れなくなってしまった。
それでも文句を言われない成績ではあったのだけれど、今回の両親の出張で私が一蹴に感(かま)けてばかりになると、二人は危惧して今回の件を友人に頼んだわけで……
「……う~、確かに私が悪いところもあったし、二人の心配も分かるけど」
それでも週四日は多いよぉ。一蹴はちゃんとご飯食べてるかな?とか、ちゃんと宿題してるかな?とか心配だし。そ、それにキスだって、抱き合ったりだって……髪だって触ってくれる回数が減っちゃう。
見る人が見たら、私はきっとふらふらしていて、ゾンビにだって見えちゃうかもしれない。
と、とにかくなんとかして週三日にして貰うようお願いしてみよう!そうしよう!
勉強とは別な目的を持って、意を決して私はその家……『三上』と表札の書かれた家の呼び鈴を押した。
もし、この日をもう一度やり直せるなら、私は絶対に呼び鈴を押したりなんてしない。
あの玄関を跨がなければ……ううん。扉さえ開かなければ……わたし、は……
この日、あの扉が開いて、あの人と目が合った瞬間、きっと開けてはいけない扉まで開いたんだって……後に知って、打ちのめされる事になるのだから。
俺は想像もしてなかった。
親父から彼女の苗字を聞いても、何一つ思い浮かばなかったのだ……散々ならずやで話していた彼女がまさか、あの公園にいた彼女で、俺の収入源になるなんて。
呼び鈴が鳴り、仕方無しに玄関のドアを開けて、彼女と目が合った瞬間、二人同時に驚きで硬直し……そして、第一声。
「……は、初めまして?」
「……は、はあ。どうも」
俺の欠点……それはだな……
人の名前すら覚えられないクソッたれなこの出来損ないの脳みそだよ!ちくせうッ!