実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校 作:Reaflet
では今回は恋恋の選手と、その幼馴染のお話です。
―――――場所は甲子園にて。
甲子園大会決勝。
他のチームとは圧倒的にカラーの違く、一年生が七人がレギュラーのあかつき大付属高校が強豪たちを倒して決勝にコマを進めた。軟投派の一ノ瀬と本格派の猪狩の圧倒的な投手力でここまでの試合は失点”一”で凌いできたあかつきに対して、決勝に進めたのは栄光学院大学付属高校。
打撃力、走塁力は甲子園トップクラスという評価でありながら、近年甲子園に進められなかったチームだったが一昨年と今年に良い投手が入り課題となっていた投手陣の改善により甲子園出場。そして決勝に来ていたのだ。
まずは一昨年、投手力が予選でも平均レベルと言われた栄光学院を救った救世主。背番号1を付けたプロ注目の速球派の石嶺。MAX153キロの直球で”ドクターK”という異名をとっていた。スタミナはあるものの、制球に難があり今までの試合では与死四球が平均六という波のある投手だった。
だが今年、彼をサポートし甲子園へコマを進める原動力の一人となった投手。
背番号10をつけた一年生投手、久遠ヒカルだ。制球力、球速、スタミナすべてが平均よりも上というバランスだが、それを甲子園で活躍するレベルまで引き上げたのは武器のスライダーだ。
キレも変化も申し分がなく、猪狩よりも上と言われるスライダーは数々のバッターを苦戦させてきた。
一年生対決とも言われて久遠と猪狩が先発という予想もあったが、結局は一ノ瀬と石嶺ということになったのだ。
初回にあかつきが石嶺の立ち上がりに付け込んだ。
一番の八嶋が四球で出塁し、二番の六本木がバントで送って三番のプロ注目の捕手である二宮が打席に。
初球の150キロの高めに浮いた球をフェンスダイレクトのタイムリーツーベースヒットで先制点を取った。
六回にもあかつきが四番に座っている七井がホームランで追加して二対〇。
六回を二安打に抑える一ノ瀬に変わり、七回から猪狩が登板。
八回に二番からの打順で連打を浴びるものの抑えた。
『さて甲子園の決勝もいよいよ大詰めです!!、二対一!わずか一点差ですが、栄光学院大付属最後のバッターとなりました!甲子園のマウンドには怪物投手猪狩守が上がっています!八回には連打を浴びて点数は取られたものの、七回からここまで投げています!』
甲子園は後一人!というコールが鳴り、あかつきの勝利を確信しているスタンド。
そして猪狩から最後の打者への一球が投げられた。
149キロのストレート。バットには当たらずにキャッチャーミットに収められた瞬間、甲子園はものすごい歓声に包まれた。
マウンドの猪狩に野手陣は集まり、二宮と一ノ瀬が握手する。
猪狩が甲子園のマウンドで拳をあげて喜ぶ。
その姿を高校野球ファンはまた見られるのを期待してこう呼ぶ。
”怪物投手猪狩守”と。
―――――――――――10月2週。
夏の甲子園大会が終わり、しばらくたった後に秋の大会が始まっていた。
春の甲子園を掛けた予選大会。また夏と同じく死闘が繰り広げられている。
そしてこの試合はただの予選試合では無い。
恋恋高校対パワフル高校の準々決勝の試合だ。
夏では見られなかった姿にパワフル高校のメンバーは驚いていた。一番驚いていたのは――――東條小次郎だ。唯一猪狩守からタイムリーを放った打者であり、彼のスイングは未だ進化をつづけている。
それとこれは関係あるのかないのか。
恋恋高校のスターティングメンバーはほぼ夏とは変わらない。
ただ一人を除いて。
『三番キャッチャー 樋宮』
彼は恋恋高校のエースである早川の球を受けていた。
パワフル高校のエースの鈴本も見たことない顔に少し驚き、東條に至ってはバットを握ったまま手が震えていた。
「……樋宮。俺はお前を……」
東條の言葉は隣に居る鈴本にしか聞き取れなかった。
あの事件から一年。あの事件で幼馴染である東條、猛田、樋宮、小井田の四人はバラバラになってしまったのだ。
あの事件さえなければ今頃、彼らは同じチームで野球をしていただろう。
そうして樋宮の苦しみなんて誰もわからない。
それでも彼は絶望から這い上がってきたのだ。
―――――今から約一年前の五月下旬。
練習が終わり、日も暮れてもまだバットとボールの当たる音が響いていた。
そこにいるのはバットを持った二人とマウンドからひたすら投げ続ける一人。
そしてそれをベンチで見ている一人がいた。
俺はそのバットを持った一人で、バッターボックスに入りひたすら投げられた球を打っていた。
「小次郎、もう少しタイミング遅らせてみたらどう?」
「……いや、そうするとどうしても芯に当たらなくなってしまう」
「じゃあ、フォーム変えてみろよ。お前はオープンスタンスだから、外角の球に反応できないじゃねえか?」
「……猛田にしては良い意見だな」
「なんだよ!俺にしてはって!」
「……すぐ熱くなるからお前は駄目なんだ」
「いいから、行くぞー?ふっ!」
ッカァン!とボールはセンター方向へと転がっていく。
だめだ。まだこの程度では友沢打つどころか、一回戦の投手からも打てないだろう。
それと同時にまた俺が素振りをする。
樋宮が心配そうに俺を見る。そうだろうな。自分でも思う。
最近の俺は打撃が崩れていて打順が四番から五番に落とされている。当然だろう、結果がすべての世界だ。いくら元の能力が高くても、結果が出せなければ意味は無い。
そのかわりに四番に入っているのは俺の隣で素振りをしている猛田だ。
こいつはチャンスをモノにする男で、不調の俺の代わりに入っている。
俺は打撃に関しては何もかも自分の力で見つけ、そして実践する理論派だ。
だが、猛田はただひたすらバットを振り、自分に合った打撃を見つける男。
たまにだが、こいつのセンスには嫉妬してしまう。
だからと言って、こいつが天狗になっているわけではない。
いつも猛田と樋宮がシニアでは隣に居る。
そして自分たちで出た課題を協力し合いながら無くしていっていた。
「おーい!三人ともいつ帰るんだ??早く帰ろうぜ」
「真奈花もうちょっと待ってくれない?小次郎のためにもさ」
「ったく早くしてね。もう」
男勝りな口調で話しているのは小井田だ。
シニアには行かずに、中学野球でプレーしている。最近は中学野球が終わってしまい、一緒に帰るために
グラウンドに寄ってくる。
この四人は小さいころからの友達……幼馴染だ。
一緒の時期に野球を始めて、みんなで成長してきた。
野球はチームワークが重要だと誰かが言ったが、自分でもそう思っていた。
「振り子も駄目なら、神主打法で行ってみようぜ!!!」
「……何でも遊び感覚でやってみるのが一番なのかもな」
「行くぞ!」
初めて数十球。またそう言って投げたボールは神主打法から振りだされたバットに当たって快音とともに飛んで行った。初めてライトフェンスを越して、草むらへ行った。
遊び感覚というのが気に入らないが、猛田には感謝でもしておきたい。
何せこいつのおかげで良い打撃フォームを見つけることができた。
後は自分の力で完成させるために振り込むだけだ。
「!」
「良いじゃねえか!」
「おっけーじゃん、小次郎」
「ああ」
そう言ってその日の居残り練習は終わった。
そしてある日。
毎日のように居残り練習を行って、帰り道、四人で帰っているときに高校の話題が出た。
「あんた達はどこの高校行くの?」
「へっ、俺らは一緒の高校に行ってこの三人で甲子園目指すんだぜ!」
「……まあそういうことだな」
「そうか。もう少しで高校か~。今度の大会こそ帝王に勝って気持ち良く高校に行きたいな」
「……そうだな。俺もやっとだが、調子も上がってきたと感じるところだ」
「俺だって負けねえぞ。コジロー、今度の試合は俺が友沢を打ち崩してやる」
「……お前の前にはランナーは居ないはずだからな。俺が本塁打を打っていて、だ」
「ふふっ、あんたら三人が行くんだったら、あたしもみんなと同じ高校に行こうっと」
「おお!ノリいいじゃねえかマナカ!」
「そしたら四人で甲子園行きたいもんだぜ」
「……だな」
そう言って四人はみんな甲子園に行こうとそれぞれ思っていただろう。
俺もいつも騒いでいる猛田も常に二人の仲介役の樋宮もそれを見守る小井田も。
「指きりでもしようぜ。四人で一緒に甲子園に行くって約束をみんなで守ろうってことでよ」
「……ふっ、樋宮はいつもわからないことをするな。だが、決意するにはいい」
「おっけー。約束すれば、いつも思い出して頑張れるからね」
「指きりなんて子供っぽいことしたくはねえが、お前がそう言うならいいぜ」
約束はこのとき四人にとって絶対破られることは無いと信じていた。
俺もずっと思っていた。
だが、それは果たされることは無かった。
そして大会一週間前となった。その日居残り練習でいつものように打撃練習をしていた。
しかし、いつもより長く、大会前近くというのもあって猛田も俺も気合いを入れていた。
猛田が大丈夫となったところで、俺はもう少しで打撃のコツがつかめそうだった。
時間が長引きながらもいつも練習に手伝ってくれるこいつらには感謝しなければならない。
そう思いながらひたすらコツをつかむためにバットを振る。
「もう少し、もう少しだ!」
「内角高めだから、振りだしを早くしてみろコジロー」
「ああ、わかってる」
「……。」
「どうした?タクミ?」
「あ、ああ。何でもないわ。行くぞ!」
打球はセンターのフェンスを越して、草むらへ入る。
よし、後もう少しで行ける。自分ではそう思っている。
肘の角度、腕の振り、バットの出す方向。すべてが範囲内で振らなければならない。
「……もう少しでコツがつかめるんだ。頼む、樋宮!」
「っ、よし、行くぞ!!」
樋宮が振りかぶって投げたときにその悲劇が起こった。
投げたボールはバットが完璧に捉えて、フェンス越えした。
やっと、できた。完成した。これであの帝王も倒せる。友沢も倒すことができる、久遠のスライダーだってスタンドインも可能なぐらいだ。
そう思って樋宮のほうへ近づく。こいつがいつも練習に付き合ってくれたおかげだ。
そしてマウンドに居た樋宮は打球の方向を向いて、倒れた。
バタッ!!!
「やっ、と、良い、打球だ、ぜ。小次、郎」
「どうした!?樋宮!!」
「巧!どうしたの!?」
「タクミ!どうした!!!!」
「悪、いな。ちょ、っと、無理しち、まった、みたい、だわ……」
「樋宮!!しっかりしろ!!!」
「マナカ!救急車!!」
「肩なのか!?どうして言わなかったんだ!!!」
「何、言ってん、だ、よ。お、前だ、から、だよ……」
「もうしゃべるな!!」
「やべ、も、う、意、識が……」
そうして一人の野球少年の悲劇が起こった。
四人……俺達にとって忘れられない事件。今までの想い出をすべて破壊されたような感覚だった。
それからは小井田は帰りにグラウンドへ寄ることは無かった。
責任を感じた俺と猛田も責任を感じたのかシニアをやめ、学校に来てもどこか集中できずに日々を送っていた。学校でも話すことは無い。全員がすれ違っても何も話さないのだ。
あの事件で、俺らの約束は破れてしまった。誰のせいではない。
ただ、誰のせいかといえば四人のせいだ。
練習を中断しなかった俺が一番悪い。そう思いひたすら家であの事を思い出しては責任を感じていた。
樋宮は学校をやめて、アメリカへと発った。もちろん、普通の生活を送るために手術をするのだ。
猛田はどの高校に行くのかもわからず、小井田は推薦で恋恋高校に進学。
俺は近くの高校であるパワフル高校へ進学した。
高校を選べば、この地区でもトップで大学へ行くための高校にも行けただろう。
だが、その時の俺には何も感じられなかったのだ。
高校生活でも最初のころ、野球を離れていた。
ある日、あの言葉を思い出した。
樋宮が小さいころから言っていた『甲子園に行くんだ』という言葉を。
あいつの夢を俺は背負わなければいけない。
俺があいつの夢を壊した。だから、俺はあいつの代わりに甲子園に行く。
そうして俺は野球部に入った。自分の夢と樋宮の夢を二つを背負って。
―――――――――――5月1週。
俺は未だリハビリに通っている。
肩を壊して野球をやめて以来、週3~4日ぐらいの割合で通っている。
アメリカに治療しに行った後に日本に帰ってきて、恋恋高校に入学した。特にアメリカ帰りというものがあったのかわからないが、校長先生などは歓迎してくれていたのだ。元女子高で男子がほしいってのもあったみたいだけどな。
あの事件。俺があの事件で肩を壊していなかったら、小次郎達は離れ離れにならなかっただろう。
「巧」
「……」
「た・く・み!!!」
「え?なんだ、真奈花か」
「なんだってなんだよ」
「いや、別に。じゃあ俺教室行くから」
「おい!、ちょっと・・・」
そう言って真奈花と別れて、俺は階段を上がって教室へと向かった。
何もない日々、肩のリハビリに専念する高校生活の一日がまた始まる。
「お前あんまり食べないよな」
「そうか?パン一個と牛乳で十分だけどな俺は作るの面倒だし」
「女子じゃないんだからもっと食おうぜ~」
「いいじゃん。運動部じゃあるまいし、食ったら太っちゃうし」
「独特の考えを持ってるのがお前らしいよな。一か月しかたってないけどお前のことわかるようになってきたわ」
「ははっ。まあな」
いつものように俺は中庭で隣の席の藤堂と一緒に食べる。
ぶっちゃけると真奈花が一緒に食おうとか誘ってくるからそれを断るためなんだけど。
色々と藤堂には世話になっている。
「ん、ああ。そういえば今週の土曜日に野球部が試合するらしいよ」
「野球部が試合?」
「ああ。なんか校長先生が組んだらしいって噂」
「ふーん」
野球部がねぇ…。あんまり興味ないけど。
たぶん、真奈花が辺りが観に来いとか言いそうだけど断っとこう。
南紘人っていう人が部長になっているらしいけどな。
「俺、教室行くわ。予習してないし」
「予習は家でやるもんですよね」
「うわっ!お前が言うと変だわ。お前頭いいもんな~。英語とかこの前の模試でも1位だっけ?」
「アメリカ帰りなめんなよ?しばらく俺はここで寝てるわ。どうせ授業出ても寝るだけだし」
「英語で寝るとかお前…いつかそれ返ってくるぞ。じゃ」
「おう」
そして俺は寝転がる。
そろそろ寝そうになったときに誰かが話しかけてきた。
「ねえ」
「……」
「君、樋宮君だよね?」
「……そうだけど?誰?」
「南紘人って言います。小井田さんが樋宮君のことを野球部に入れたがってるのを聞いて、どんな人なのかって気になって」
「で?感想は?」
「真面目っぽそうなのかなって思ったけど、微妙なラインかなーって」
「そう。で野球部の部長が俺に用?」
「うーん特にないかな。小井田さんが樋宮君のことよろしくって言ってたけどね。そろそろ教室に戻ろうかな。じゃあ」
「はいはい」
そう言って南っていうやつは校舎内に戻っていく。
野球部が俺に何か用か?……別にねーだろ。
そうして俺はしばらく休み時間と授業時間の半分を睡眠に費やしていたのだ。
一週間後。
野球部が練習試合をして見事勝利したらしい。かと言って俺には関係ないのだが。
また、リハビリに行かなければならない。
最近はリハビリと体育の授業と睡眠が楽しい時間だ。そのほかは面倒くさいし、疲れる。
肩の方はだいぶ良くなって、今は六割方は治ってきているらしい。
ただ、昔のように投げすぎたら元も子もない。次は本当に生活に支障が出るぐらいの怪我になるかもしれないという診断が出ている。
『投げすぎたら?』『元も子もない?』
はっ、笑わせる。
誰が投げると言った?誰が野球をやるといった?もう俺には野球は必要なんてない。
放課後になり、いつものように家に帰ろうとする。
河原のところを通ると待っている奴がいた。
「巧」
「……」
「そうやってまた無視するのか?」
「別に、お前と、話すことなんてない」
そう言いながら歩く。
一言一言かみしめるように言う。
もう俺らは違う。ただの幼馴染……だ。
「巧が野球やらないのは私たちのせいだから?」
いつもの元気な感じではなく、真剣でそれでもどこかせつなそうに真奈花が聞く。
んなわけない。小次郎だって慶次だって、一度も恨んだことなんてない。
「そんなわけがない。お前らのことなんて一度も恨んだことなんてない。たまたま、たまたまあの事件が起きたんだ。運がなかったんだ、俺には」
「じゃあ、野球やろう。また野球やるのに理由なんてないでしょう!?」
「……だめだ」
「どうして!?」
「……」
「前に言ったよね。あたしは一回逃げたってこと」
「ああ」
「シニアの連中のレベルが高いと思って、中学野球に逃げた。そして結構たった後気付いた。みんなと野球出来ないっていうことを。そしていつかみんなと野球出来たときに迷惑をかけないように努力するって決めた。だけど、もうそれは、無くなった」
「お前は努力した。それは今のお前を支えているんだ。俺は今の俺を壊さないように生きていく」
もう壊れないように。壊さないように。
もしかしたら次は本当に終わってしまう。それを避けるため。
それから逃げるために――――――。もう、だから俺は。
「―――――――逃げちゃだめ!」
「!?」
「壊れる!!!?壊される!!!?じゃあなんで今まで熱心に肩を直していたの!!!?本当は心のどこかでまた野球がしたいって思ってたんじゃないの!!?」
顔を赤くして泣きながら真奈花が叫ぶ。
俺に対して、何かを訴えるように。その言葉に俺の心が動かされたような気がした。
「普通野球したくないと思うならアメリカに行って治療なんかしない!!!!ただ手術するだけだったら日本にいくらでもあるはずでしょ!!?」
「……っ……お前に何がわかる!!!まだ残された希望があったお前に!!!」
「っ!!?」
「動かしたくても動かない!!やっとの思いで動いたと思ったら激痛が走る!!やっとの思いで努力して、回復してきて、それでも少しでも無理したら壊れてしまう肩にお前は耐えられるのか!!!?」
「……それは……」
「俺は、もう、嫌なんだよ!!!もう、俺は野球がしたくてもできないんだよっ!!投げたい!!また、あのマウンドに立ちたいんだよ!甲子園に行きたいのに……もうかなわないんだよ!!!」
お互いの眼が赤くなって、涙をこぼす。
互いの想いをぶつけ合って、やっと今本当の姿が見えたのだ。
『輝いていた姿と影に隠れていた姿』がいつの間にか逆転していたということが。
小井田は希望があって努力して、そして今の自分が居る。
それに対して樋宮は希望がないのにも関らず努力した。その姿が小井田は思い浮かんだ。
「なんで、何でこんなに理不尽なんだよっ……!勝負したいんだ、友沢達と!それに高校だったら猪狩守や鈴本大輔、朱鷺修也とかの凄いやつらとも戦えたのに!!」
「た…くみ?」
「好きなんだよ!野球は!……でも、逃げるか立ち向かうかなんて、俺には選べないっ!教えてくれ!!俺はどうすればいいんだ!?」
「……それでも逃げたら駄目だと思う。なおさら、『野球』がしたいなら」
「でも、俺、は。まだ肩が治っていないのに、チームに迷惑をかけたくない……」
「大丈夫」
そう言って未だ泣き崩れている樋宮を小井田抱き寄せる。
こんなにも強くて涙を見せなかった幼馴染が今まさに誰かに支えてもらいたいのだ。
一年間近く苦しんでいた自分を助けてもらいたくて、何もなかった空っぽだった自分を。
「まなかぁ……」
「大丈夫。少なくともあたしは迷惑じゃない。待ってる、ずっと」
「うわあああああああああああぁぁぁ……」
溜め込んだものをすべて吐き出すような感じで樋宮は泣く。
それを小井田は優しい表情で見守る。いつの日か共に輝ける場所で『野球』をできるように願いながら。
「「行くぞ!!!」」
共にキャプテンが声を出して、整列しに行く。
両チームがホームベースを境にして並ぶ。もちろん共に眼があったのは東條と樋宮。
そこに復活した樋宮を見て東條は何も動じない。
そう、もう東條が何も背負う必要が無くなったのだ。
樋宮の夢である『甲子園に行く』ということを。
そして東條は自分の夢を追うことだけに向かう。
『甲子園に行く』という夢に向かって。
「小次郎」
「……樋宮」
「さすがだな。俺的には頑張ってリードしたんだけどな。やっぱりキャッチャーは甘くない」
「お前、肩は……俺のせいで。お前の投手生命を終わらせてしまった……」
「ははっ、小次郎も案外馬鹿なんだな」
「何!?」
「誰もお前のせいじゃないよ。そんなに後悔することじゃない。確かに俺は投手じゃないけど、今度は小次郎達が投手を助けていたような選手になれるって思うと楽しいんだ」
「……お前は変わらないな。いつも楽しく何事もやろうとしている」
「おう。じゃあいつかまた勝負だ」
「ああ!」
俺は自然と眼から涙が出そうになった。……俺らしくない。
だが、顔を下げて手で涙をふく。
あいつは後ろ姿のまま手を振って歩いて行く。
俺、樋宮、猛田、小井田はこれからも色んな場面で戦うことになるかもしれない。
それでも俺はあいつらと戦えるだけで嬉しく思う。
そしていつか俺はあいつらと共に戦いたいと不思議に思ったのだ。
彼らは決して一人じゃない。
そうして歩いて行く。それぞれのShining Roadへと……。