実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校 作:Reaflet
―――――――――――――――――10月4週。
秋大会準決勝。
あかつき大付属高校対パワフル高校。
昨年の甲子園優勝校が準決勝に挙がってくるまでにかなり苦労をしていた。
それは――――捕手の実力不足。
レギュラーの捕手の実力が圧倒的に足りず、ここまでの三試合で二桁を超えるような回数でパスボールをしており、捕手のエラーも五個と明らかにチームの足を引っ張っていた。
三年生の捕手レギュラーの二宮が抜けて、チームにも焦りもあったのかもしれないがそれにしてもひどい試合が多かったのだ。
あかつきの前の試合は八対六という危ない内容だった。相手打線も打撃が良かったが、エースである猪狩の実力なら一点を取れるか取れないかの予想だった。
しかし、予想に反して初回からあかつきが先制点を取られる展開に。持ち前の打線のおかげで点は取ったものの、失点も多く重ね最後の一人まで息がつまる試合だったのだ。
やはり一番痛いのは猪狩の全力投球を捕球できないところだった。
140キロ台前半のストレートをはじいたり、低めギリギリに決まるようなカーブでさえも後ろにそらす場面もあった。
一方の相手はパワフル高校。
夏よりも進化し続けている持ち前の打線に加えて、エース鈴本の安定度が増してこの試合まで許した失点はわずか”一”。すべての試合に完投していて、スタミナも十分あるというところだ。
ここまで鈴本と尾崎は打率も四割を超え、東條は五割を超えるというクリーンアップはどのチームも驚くような打線でさらにそれが一年生と思うと怖いはずだ。
さらにはリードオフマンも居て、六番の猿山もパンチ力もあって簡単に打ち取れる打者ではない。
爆発力のある打線と安定した投手力。それはどんな強豪校でさえも襲いかかる。
現在、七回の表。
パワフル高校の攻撃、三番の尾崎からだ。
猪狩が振りかぶって投げる。
「ふっ!!」
地区予選では十分な速球。恐らく140も出ないぐらいの球。
だが、パワフル打線は容赦なく打ち砕く。
尾崎が直球をフルスイングする。
ッキィン!と鋭い打球は三遊間を抜けてレフト前ヒットとなる。
『抜けたー!!レフト前ヒット!これで尾崎は今日猛打賞です!そしてここで打席に立つのは天才スラッガー東條です!!今日は二本の二塁打と本塁打で四打点の活躍をしています!!!』
闘志がみなぎっている東條の姿はすでにスイングに迷いは見えていなかった。
猪狩には夏では打たれたものの、四打数一安打という成績にそこまで目を向けていなかった。
だが、今の東條は相当やっかいな打者だ。
スイングには迷いが消え、並はずれたバットスイングで狙った球は確実に捉える。
140キロ近くの球でコーナーを突いたとしてもカットするどころか、それを広角に打ち分けてファールながらもポールのわずか横に切れる打球をかなり飛ばしている。
猪狩が思わず帽子を取って、スコアボードに目を向けた。
まさに、あかつきにとっては悲劇。そして弱点が丸見えのスコアだ。
そしてまさに今、パワフル高校にとって追加点のチャンス。
パワフル高 301 210
あかつき大 101 001
スコアはすべてを物語っている。
――――猪狩のレベルについて行ける捕手が居ない、と。
恐らく一番効いたのは最初の回での東條のスリーランホームラン。
完全に流れを持っていき、追加点を加えてこの結果だ。
「……お前の能力が猪狩に追いついていない」
「何っ…!?」
この捕手もわかっているだろう。猪狩を生かせてあげられないのは自分の責任だということを。
東條の言葉にあかつきの捕手は言葉を詰まらせる。
「……出直してこい。この程度の捕手では猪狩を生かすことができないということを教えてやるっっ!!!!」
内角高めのストレート。
昔を思い出させるようなコースを東條は容赦なくフルスイングする。
ッキィィン!!!!と打球は球場のフェンスを超え、場外へと消えていった。
『入ったー!!!!なんと打球は高々と舞い上がり、球場のフェンスを超えて場外ホームラン!!!これで九対三!!!あかつき大付属、これは痛すぎる失点!!!まさに希望をへし折るホームランと言っても良いでしょう!!!』
まだ、彼らは終わらない。あかつき大付属だろうと相手を倒す能力を持っている。
この回の下位打線も打ちまくって、とうとう十二対三というスコアになってしまった。
ましてや、この試合はすでに決着はついてしまった。
まさかの猪狩守が十二失点。いや、自責点は四という結果にはなっている。
この試合のエラーが四個。パスボールも非常に多く、すでに守備陣はボロボロだ。
あかつきを応援しに来た観客も、スカウト陣もこれでわかっただろう。明らかに守備陣をまとめあげる選手がいないことがここまで影響するのだと。
”怪物投手猪狩守”と騒がれたが、まさに”怪物”はこの地区にたくさん存在するのだ。
その内の怪物の一人となった、東條小次郎。
そしてマウンドに上がるのは鈴本大輔。
夏のときよりもスタミナ、制球も付き安定した投球であかつき打線を三点に抑えているのだ。
九番の四条を空振り三振、一番の八嶋をセカンドゴロ仕留める。
二番の六本木が打席に入る。
当たらない。当てることができないのだ。
鈴本の武器で、代名詞とも言われる”ナックル”がキャッチャーミットに収まる。
二球目のスライダー、三球目のシュートを六本木はなんとかカットするものの前に飛ばせない。
カウントは2-0。
鈴本が振りかぶる。
(聖と生み出して、今もなお生き続けているこの球は打たせないっ!)
右腕から繰り出された球は幻惑のナックル。
不規則に揺れるボールは六本木のバットを避けるようにして収まる。
試合終了。
『ストライク!!!バッターアウト!!!!まさかのあかつき大付属、十二対三でパワフル高校に大敗!!!猪狩守、まさかの十二失点です!!!』
十二対三。
――――――甲子園を制した高校がまさかの準決勝敗退という結果になった。
―――――――――――――――――――11月4週。
秋もそろそろ終わりに近づいてきた頃。
俺達聖タチバナ学園高校野球部はひたすら練習と練習試合をこなしていた。
体づくりをしっかりと行って基礎能力を上げ、それぞれの弱点を洗い直す時期が始まっていた。
「あかつきが負けたらしいな」
俺がランニングしている隣に友沢が一緒についてくる。
こいつは相変わらずの野球センスで、ショートの守備も夏とは比べ物にならない。
「友沢か。あかつきは明らかに捕手の実力が足りなすぎた。打線も二宮さんが抜けて、弱くなったしな。パワフル高校にもワンチャンあると思ったけど、まさか十二得点には驚いた」
「猪狩も最初に俺達と練習試合で戦ったときと同じくらいの力の投球だったはずだ。パワフル高校は爆発力で言ったら、この地区でも一位二位を争う。それにしても……」
「どうした?」
「東條か・・・。シニア時代と同じ感じだ。あいつだけがはっきり言えば厄介な打者だったからな。もちろん得点圏では猛田もだったが、それ以上に注意すべき打者だった。今でもスイングスピードはかなり速い」
「こっちとしても戦う時になったら対策はするが、厄介だな。ぶっちゃけると打撃に関しては南よりも気をつけなきゃいけないやつだ。だけど、刺激になるぜ。あういう選手がいると、な」
東條か。確かに秋大会は優勝に貢献したからなぁ。
チーム最多の七本塁打で今大会の本塁打王だし、打点王。
そして、鈴本もあかつきを九回三失点完投と好投を見せて、夏よりも安定さがあるというところを見せ付けたし。ナックルのキレも良くなってるからな。
だからと言って、あいつらだけが成長しているわけじゃない。
俺たちだって成長している。きっと、俺達だけじゃない。
恋恋のメンバーだって、あかつきのメンバーだって…みんな少しずつ成長しているはずだ。
そう思いながら視線を聖に向ける。
聖はもっと肩力と筋力が必要と感じた。特に盗塁されたときに弱肩の聖は盗塁されやすいのだ。
俺はクイックが(なぜか)うまいので、ある程度はカバーできるが、変則投手のみずきちゃんや力投派の宇津が投げる際に盗塁されたら今の状態ではフリーパスになってしまう。
特にみずきちゃんとは組む機会が多くなるはずだし、女の子同士で連携を図ってもらいたいものだ。
「そういえば甲子園決勝は栄光学院だったよな。久遠がまさかあの高校に行ってたとは驚きだな……どうした友沢?」
「……いや、何でもない」
「?」
最近、いや、甲子園が始まったくらいか。
友沢の元気がない。練習中は問題ないのだが、いかにも後悔している感じがする。
だからと言って俺が何するわけではない。
友沢自身の問題は友沢が解決しなければいけない。
さて、来年はどうなることやら。
准が入って恐らく、外野のポジション争いが始まるしもしかしたらコンバートも考えなけばいけない。
幸いにも俺らの学年はポジションが良い具合にハマっていたから、無かったけれど。
友沢が先を走って姿が遠くなる。速いなあいつ。
「おーい、朱鷺君。盗塁のやつやるでやんす!」
「わかった!」
このように最近は聖の練習とみんなの練習も兼ねて盗塁の練習をしている。
聖と俺のバッテリーは強豪校の俊足を盗塁を刺せる確率は十%も無い。ましてやみずきちゃんや宇津だったら五%も無いだろう。
聖はリードとキャッチング、バッティングが優れているから通用しているし、例えば普通の聖レベルのキャッチャー……進君と比べたらどうだろうか。
大半は進君を選ぶだろう。キャッチング、リードは劣るがその他では同等かそれ以上。
肩が良いし、捕ってから投げるスピードも上だし常に落ち着いて投手を引っ張ることができる進君のほうが信頼できるだろう。普通ならな。
だが、俺だったら聖を選ぶ。
なぜなら、聖はほとんどキャッチングでのミスは無い。それに加えて進君には悪いかもしれないけど。
――――――幼馴染だから。
俺は聖に救ってもらった。そして俺にとって今、一番信頼出来る捕手。
だからこそ、もっと成長させてあげたい。
―――――――高校史上最強捕手といつか呼ばれるくらいに。
『一ノ瀬選手!カイザースからの一位指名ですがどう思いますか!?』
「自分を評価してもらえてとてもうれしいです。一位で指名されるとは思いませんでした」
『二宮選手!バスターズからの一位指名です!!』
「どのチームでも指名されたら行くと決めていましたが、一位指名は自分も思ってませんでした。次は一ノ瀬とは敵同士ですがとても楽しみです」
そう言って二宮と一ノ瀬はお互いに少し微笑する。
それを見ていた記者陣も少し微笑する。
ドラフト会議。
今年の注目選手がどんどん指名されている中で、高校生ながら一位指名で競合になった選手が二人。
一ノ瀬塔哉と二宮瑞穂だ。
一ノ瀬はパワフルズとカイザースからの二チームから指名を受けて、見事交渉権を取ったカイザース。
二宮はバスターズ、キャットハンズ、バルカンズから指名を受けて、バスターズが見事に交渉権を獲得した。
影山はテレビを見ながらため息をつく。
今年はだめだった。社会人などでなんとか良い線をいっている選手を指名したが、しばらくは戦力にはなりそうもない。
軟投派ながらもキレのあるストレートが魅力の一ノ瀬。
打撃、守備共に球界を脅かせることになるだろう二宮。
どちらも指名できていれば即戦力だろう。
首脳陣は野手陣を強化したいと考えていたらしく、二宮を指名しに行った。
確かに今年は投手陣が結構頑張ってくれたおかげでなんとか投手陣はなったが、得点力が壊滅的だった。
勇村が今年から先発に転向して十二勝。その他の先発陣は微妙なラインだ。
野手陣に至っては手も足も出ていない。打率がリーグ最下位の214という打率五位のキャットハンズと比べても一分八厘も違う。
打率一位のパワフルズを見れば289と一目瞭然。投手陣の強化を図るのも当然だろう。
今年のリーグ優勝はバスターズ。二位はカイザースと上位にチームが交渉権を獲得できたのは大きいだろう。
『一ノ瀬選手、二宮選手!今年のプロに入っての目標は!?』
「とにかく一軍で出番を貰って、活躍したいです。先発にこだわらず、中継ぎや抑えでもとにかくがんばりたいです」
「開幕一軍でレギュラーです。新人王を獲れるように頑張っていきたいです」
おおっ!と記者陣からの声があがる。
一ノ瀬は二宮の背中をトントンと叩いて微笑する。
新人王は投手と野手両方から選ばれるようになったのは五年前からだ。
一人だけでは投手が選ばれ、野手も同じくらい活躍した選手がいたりして、選ばれないのはもったいないという意見が出た。
投手と野手にわけることで、二人ずつ選出されるようになったのだ。
記者達は恐らくこの二人に新人王を獲ってもらいたいと思っているだろう。
今年の高校最強バッテリーが、一足先にプロの舞台へ上がる。
そう一足先なのだ。彼らが一足先に高校生の実力を見せていく。
『二年後。このドラフトでは何人の高校生が選ばれるのかが楽しみだ』
そう呟いて、影山は会見を見続ける。
高校野球の革命はまだ終わらない。むしろ始まったばかりなのだ。
ドラフト会議も終わり、とうとう冬に入った。
合宿が終わった後練習試合を申し込んでもらったチームは結構あった。
激闘第一は合宿の後、練習試合を組んでほしいと言われ恋恋にも組んだらしい。
激闘第一高校、海東学院高校、球八高校、近代学院高校、竹ノ子高校、流星高校など実力のあるチームと練習試合を組み実戦経験を積んできた。
そして練習試合もそろそろ入らなくなった時期。
みんなの課題も少しずつ解消されていっているがまだまだ。
でも、焦らない。時間はあるんだ。気持ちを切らさずに頑張ってく。
「修也。帰ろう」
「おう」
無表情で俺に話しかけてくる聖。
それに俺は答えて一緒に帰る。ここ最近はずっとだ。
だいぶ、合宿の後は色々と大変だった。
練習試合が大量に組まれ、みんなも試合に慣れる感じになったのは良かったけど。
最近、休日には聖名子先生が居ないことが多く、どうしたのやらと思っている。
プロ野球界も少しずつだが、騒がしくなっている。何と言っても日本のエースである神童さんがどうやらアメリカでプレーするという噂が入っているのだ。
まだFA権を使行しては無いものの、実力的には十分すぎるのでぜひとも俺的には行ってもらいたいものだ。
しばらく歩いていると聖が口を開いた。
「私たちは勝てるだろうか。来年、色んな高校に」
「簡単に勝てたら面白くは無い……でも、勝てると良いな」
そう言って聖の方に顔向けて笑う。
それを見たのか聖も少し顔を赤くして、笑う。
聖は筋力強化に加えて最近はランニングをしている。体力が少ないのも夏の大会になると厄介だ。
連戦続きで体力が無いと食事も取れなくなってしまう。そうして食事までとらなくなると体力が落ちる。そのリサイクルは一番痛い。
そのことをわかっているかのように毎日走り込んでいる聖。
自分の欠点を見つけてそれを直そうと頑張っている。
「パワフル高校……鈴本たちが甲子園出場した。私たちはそれを眺めているだけなのか…?」
「眺めるために秋大会出なかったんじゃないぞ?」
「うむ。それはわかっている。でも、」
「もしかしたら俺を選んだことを後悔してるか?」
「そんなことはない!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ。
若干俺は驚きながらも聖を落ち着かせる。
「ごめん。変なことを言ってすまなかった」
「すまない。私も大声を出してしまった。でも、もうそんなことは言わないでくれ……修也がそういうこと言ったら私とバッテリーを組みたくない感じに聞こえてしまうんだ」
「…ごめん」
「鈴本達とは戦ってないからわからない。こっちが上なのかあっちが上なのか」
「そう、だな」
そうだ。戦ってみなきゃ分からない。
あいつらは強いかもしれない。でも、俺達の実力は他のチームと戦わなきゃ分からないんだ。
弱点なんてどのチームにもあるはずだ。いかにそれを補っていくか。それが強いチームだ。
待ってろ・・・夏の大会。
俺達が頂点をもぎ取りに行くからよ。
「修也」
「ん、どうした?」
「こ、これからもよろしくだ。その、バッテリーとして、幼馴染として」
「こちらこそよろしくな。聖とバッテリー組めてよかったって思ってるから」
「私はまだ未熟だ。だけど、修也と居れば強くなれる」
「ったく…。いつもお前はそう言うけどさ。もっと自分に自信を持ちなさい!」
「は、はい!」
「あははっ!いつも通りで良いだろ?」
「修也と居るといつも通りの自分じゃなくなるんだ……」
「ん?なんか言ったか?」
「い、いや何でもない」
どうした?聖。顔が赤いぞ。
とは言っても何て言ったのか聞き取れなかった……。
よし!切り替えよう。
来年が勝負だ。あんな負け方はしたくないぞ。
絶対に自分たちの力を出し切るんだ。
強くなった俺達で夏にまた会おう。強豪校達よ!
後二年、いや一年半だ。
タイムミリットが迫っているんだ。俺もチームも。
「……む!」
「お、おいどうした?」
「何でもない」
「何でもないと言いつつ、俺の腕に引っ張るなよ……。一緒に腕組みするなよ……」
「私がしたいのだから良いだろう?」
もう少しゆっくりで良いよな。
みんなも俺らも。まだこれからなのだから・・・。