実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校 作:Reaflet
新入生が入ったところでずっと練習をしていた俺らは久々に明日は休みを入れることにした。
特に用事も無いので街に出かけようと予定を立てる。
ちょうど気分転換には良い感じだし、一人暮らしとかしていると色々と必要な物があるんですよ。
というか電球切れたから買いに行くだけです。
一人暮らしって本当に大変だよねぇ……すべて自分でこなさなきゃいけないし。
まぁ、大会前は休みが入らないからちょうど良いころだとは思う。他のやつらも休みがほしかったころだろう。
それにしてもやっぱりキャプテン大変だな~。
キャプテンとしてもう少しみんなのことをわかってあげればいいのにって思っている。
おっと、夜のうちにこれからのメニューを決めておかなければ。
「とりあえず夏に向けて体力よりも技術面だな。打撃力強化と連携プレイの確実性を増さなければいけないと思うから、実践練習中心でいいかな。んで、この日は確か時間があまりとれない時間だから・・・」
こういう感じでメニューを決めていく。
とりあえず色々なことをやっていくべきだ。応用力が無ければ相手に対応することができなくなる。
昨年のような結果は絶対に避けたいからな。
帝王実業高校…あいつらは倒さなきゃいけない相手だぜ。
今年の帝王のエースは恐らく山口だろう。
山口は速球も140キロ中盤のストレートにキレのあるフォークが持ち味だ。しかも、フォークは二種類あって、ストライクを取りに行くことができる小さい変化と三振を取りに行く大きな変化のフォークだったはずだ。
昨年のキャッチャーは取れていたが、今年は昨年ベンチに登録されていた猫神が務めるはず。
一年間ひたすらフォークを捕り続けていないかぎり完璧に捕球はできないだろう。
帝王と当たるんだったらそこが狙い目かもしれない。かと言って、フォークは打たなきゃ勝てない。
普通の投手でもフォークが抜ける確率は二割ほどはあるし、高校生となればもっと抜ける確率が増えるだろう。それがストライクに入る確率も関係してくるのだが、それはなしとしたら甘い球は山口とはいえ十分にあるはずだ。
カーブとシュートも投げてくるが、ストレートとフォークの割合が多い。
秋の際見た時は制球力はもう一つっていうところだろう。それでも手強い相手だ。
「まだ、聖はムービングファストボールは捕れないか……」
練習してから一カ月が経つがなかなか捕球できていない。
さすがに130キロ後半で変化するボール…しかも、ベース手元で変化するボールは打つのもつらいのだから、捕球するのだって難しいに決まってる。
ぶっちゃけるとこのボールが使えれば、なんとか打ちとれる相手も増えてくるのだ。
例えば、七井や東條と言った一発を打つことのできる打者。もしくは南や尾崎などのバランスも良くホームランも打てる打者。
前者はつまってヒットにも量産できるからバランスタイプとも言っていいので後者にも当てはまる。
こういう強打者は本当に真っ向勝負で勝てるほど甘くない。
これらの相手は本当に打ち取るのが苦労する。
だが、このボールは芯を外すことのできるボールだ。ヒットは防げなくても、ホールランは防げることができる。
これらの打者が苦労する球をとるには、聖がみせる超集中が必要だ。
あいつの超集中なら捕れるはずなんだ。だけど、聖がそれを発揮したシーンは未だに見たことが無い。
俺の今のMAXの球速は145キロ。
ストレートは簡単に捕れるが、少し球が変化したりしたら反応しにくくなる。
ましてやムービングファストはどういう風に変化するかは分からない。
鈴本のナックルを捕れた聖なら捕れると思ったけれど、軌道が違うからな…。
「捕れないのなら、この夏は使わない。そのつもりで行こう」
投げれるけど、こればっかりはしょうがない。
後、一か月。一か月で捕れなかったら、大会では封印するしかない。
聖だって一生懸命やってくれているはずだ。打撃に守備にと中心選手としてやってくれているから無理はさせたくは無い。
その分俺が頑張らなきゃいけないんだ。今年は…勝つぞ。
俺の武器である、高速シンカーももっと上を目指す。高速シンカーが投球のカギだから。
よし、メニューも決まったことだし寝るか。
「ふわぁ~。眠いな、寝るか」
ちょうど良く欠伸したところで布団にもぐる。
オーダーも自分の中ではほぼ決まったし、後は他のチームの研究も必要か?
いや、練習時間を割いてまではいけないかもしれないが…。
情報さえ取れれば行っても良い。あかつきは進君が入って恐らく捕手の心配はなくなった。
恋恋は外野手がほしいところだが、どうだろうか。良い選手が入ったのか?
っと、敵の心配はやめておこうか。
数分後には自然に俺は眠りについたのだった。
―――――――七回表。
二死ランナー無し。全国大会決勝戦、あかつき大付属中対星刀中の試合。
ここまで全国トップクラスの実力をいかんなく発揮して決勝まで勝ち進んできたあかつき。
相手は超ダークホースで一回戦負け濃厚のチームと言われていたが、決勝まで勝ち進んできた星刀中。
初回から両チーム共に得点をあげられずに最終回までもつれ込んだ。
しかし、内容はあかつき中が不利な状況だったのだ。
強力なクリーンアップを率いているあかつきが打つことができない。
あかつき中が打った安打の数はわずか二本。対して星刀中は六本。
猪狩がなんとかランナーを出しつつも、無失点に抑える投球をしていた。なんといってもあかつき中の全国三連覇が懸かっている試合。
そう、この選手がいなければ。
『四番ピッチャー 水無月君』
この選手さえいなければ悠々で三連覇を成し遂げて、あかつき中はまた名を轟かせるはずだった。
名前の通り水色のロングの髪の毛を結んで、目の色の水色。
体格も細いながらもしっかりとした筋肉がついている。
あかつき中はこの男一人にやられていたのだ。外見に似合わない球の速さ、強靭なスタミナ。投球であかつき中の打線を抑えて、打撃では自ら打ってチャンスを作る。
彼の左手首にはリストバンドがついていてそれが他の人たちと違う雰囲気を出している。
まさに――――――天才。
その男が打席に入る。
この試合で彼は三打数三安打。その男に猪狩は自らの武器であるストレートを投げ込む。
内角高めの威力のあるストレート。
「うぉぉぉぉ!!!」
「……!!!」
ッパカァン!と打球はレフトフェンスを超えてスタンドへ入る。
彼が唯一中学生ながら使用している木製バットは猪狩の138キロのストレートを捉えた。
迷いのないスイングでボールの力に負けずに振りぬいた。
打った打球がスタンドに入ると、右腕を突きだし喜びながらベースを回る。
あかつきベンチと星刀ベンチは対照的な雰囲気だった。
勝ちを呼び込んだ値千金のソロホームラン。これで一対〇。
――――――――――七回裏。
『ストライーク!!!バッターアウト!!!』
「くっ!」
三球三振で一番打者が戻ってくる。かすらせもしない投球だ。
彼の投球の凄さはすべてのレベルが高いということだった。
キレ、ノビ、制球力、そして仲間からの信頼感。大会始まる前は特に異名も無かった彼だが、決勝戦にくるまでにはすでにどの中学にも注目されるような存在になっていた。
そんな彼に付いた異名は”静寂なる竜”。
容姿や名前から静かさを連想させて静かな投球フォームから繰り出される球。だが、球の威力は猪狩にも劣らない凄さ、いや猪狩にも勝っていたのかもしれない。
右腕から放たれた球は右打者の内側へ食いこむように急激に変化する”カミソリシュート”であかつき中を抑え込む。
さらには相手のタイミングを外すサークルチェンジと速くてキレ、変化量も申し分のないスラーブ。
打てない。打ちたくても打てないのだ。
バットからボールがよけるように曲がる変化球の数々。
一度タイミングを外されたらもうバットを振らすことさえ困難になってしまう。
中学生ながら内外を完璧に投げ込み、制球する能力。申し分のない速球。
そして最終回にきてもなお衰えを感じさせないスタミナ。すべて兼ね備えた天才。
ツーストライク。そして最後に二番打者に投げ込まれたのは最後まで誰も捉える事のできなかった”カミソリシュート”。
左打者の外側へ変化する球はバットに当たらず、キャッチャーミットに吸い込まれていった。
ゲームセット。
あかつき中がまさかの敗北を喫し、最強メンバーとも言われた彼らを倒した選手。
―――――――水無月 風。
あかつき中に対して七回無失点十三振という投球で彼らの記憶に植え付け、そのまま姿を消した選手。
打者としても大会最多安打、最多本塁打。
大会最優秀投手、大会最優秀打者、大会MVPを掻っ攫って未だ高校野球界にも姿を現さない。
俺と猪狩がすべてにおいて負けたと初めて感じた相手だった。エースでキャプテンで四番というすべて重要な役目を背負いながら。
絶対努力してもこいつには敵わない選手だと思った。投手でも野手でも、キャプテンシーでも、どれをとっても敵わない相手。
全国トップクラスで、新人大会では大会無失点を記録した猪狩から木製バットで本塁打を放って、俺が三打席連続三振を喫するという信じられないことやってのけた。
そういう夢を見てしまい俺はふと眼を覚ましてしまった。
昔の記憶が蘇ってしまっていた。
水無月 風。
今でも忘れないあの水色の髪の毛、水色の眼、水色のリストバンド。
(あいつは今どこにいるのだろうか)
野球をするために生まれてきたような天才。
仲間にも影響を与えるようなスター性も備えて、監督たちからの信頼度抜群でまさに常に頂点に立っているような選手だった。
そいつが野球してないわけがない。しかし、昨年の夏、今年の春の甲子園に名前も上がっておらず良く見てみれば各地方のベンチメンバーにも名が載っていないようだった。
無論、この地区にもいないみたいだった。
ネットでも調べてみても中学時代の記録やニュースだけだったし、高校進学先もわからずに行方不明。
いつか水無月と戦いたい。前の俺とは一味違うというところを見せつけてやりたいんだ。
猪狩だって、南だって、俺だって、あの水無月にやられたからこそ成長したのだ。
神様はいつも平等だというが、必ずしもそんなことはありえないのだ。
天才と言われた友沢でさえも、肘を壊して野手に転向した。
これまでもそういう選手たちが些細なことで、野球をやめたり、ポジションを転向したりしているのだ。
今まで県大会一回戦負け常連だったチームをどうやって全国優勝まで導いたのか。
どうやって最後まで輝きを見せ続けることができたのか。
知りたかった。あの凄さを。
もしもあいつが今でも成長し続けていたら…そう思うと恐ろしい。
「俺は、俺は……誰にも負けたくは無い」
完全敗北という文字を心に焼き付けられたあの試合を俺は忘れない。
猪狩にだって追いついて見せる。例えどんな相手が立ちふさがろうとも俺は負けたくは無い。
「うっし、飯食って街に出かけるか!」
俺は頭を切り替えて、街に出る準備をする。
買い物リストを持って俺は部屋を出発した。
――――――――――街にて。
相変わらずの賑わいの中、俺は街の中を歩いていた。
電球が切れたり、パソコンが壊れたり、色々あって買うべきものを買う。
パソコンは調べものには必要だし、電球切れると怖いし…風呂の電球は切れないでほしい……。
とりあえず電球とパソコンを買って、適当にぶらぶらする。
今は……十一時か。まだまだ時間はあるな。
どこか何か食べる店は無いのかと探しながら、歩く。
歩く。歩く歩く。歩く歩く歩く。少し止まって駆ける。
「お、あのラーメン屋でいいか」
自動ドアが俺のために開いてくれてくれて、適当に席に座る。
テーブルでいいか…別にあんまり人は入っていないし。
適当にメニューを見て、ラーメンセットに決めて店員が来るのを待ちながら本を読みながら待つ。
(やっぱりこの人の本はものすごくためになるよなぁ……独特な野球の見方してるし、守備と打撃も本当にこの人って感じがする。”守備は守るだけじゃない、攻める一つの手段だ”や”勝つためには打つだけじゃない。自ら犠牲になるときは必要なのだ”とかはわかってるのに意識できない。さすが五年間連続でゴールデングラブ賞獲ってる人だよな。キャットハンズのセカンドだっけ?昨年はゴールデングラブ賞と犠打王に加えて、打率が302で三割も達成している。キャットハンズの不動のセカンドになりつつある選手だよな。高卒で今年が九年目。俺の十歳年上で、確かあかつき大付属高校出身。高校時代はショートで二番。足も速いけど、すごいのは鉄壁の守備で、一歩目がものすごく速い。高校の選手でいうならば、恋恋の南やあかつきの六本木とかと同じ部類だ。どっちかっていうと六本木っぽいな)
そう思いながら本を読み進める。
独特な野球観に吸い込まれそうになりつつも店員が来たので注文する。
「ご注文はなににしますか?」
「ラーメンセット……って友沢!?」
「ん……朱鷺か?どうしたんだ?」
「それはこっちの台詞だろ。バイトしてんのか!?」
「ああ。まあな」
注文を受け取った友沢が厨房の方に伝える。
しばらくすると注文したラーメンセットを持ってくる。
「お待たせしました。ラーメンセットになります」
「おう」
ラーメンをすする。うん、うまい!
やっぱりラーメンは醤油が至高だよな。日本の味!
ちょうど良く友沢が終わったようなので、一緒に座る。
「つか、何でお前バイトしてんの?金に困ってるとか?」
「……ああ、まあな。弟と妹のためだし、親のためだ」
「……?親のため?」
「ああ。俺が医学部志望してるだろ?それも理由なんだ」
「……いいたくねーけど、親が病気なのか?」
「そうだ。俺はプロを目指している理由もそのひとつだが、もしなれなかったときには医学部に進んで医者になるという道を行こうとしている。俺がバイトをしているのは親がなかなか難しい病気にかかっていて、入院費や色々と負担しているうえに、弟と妹を食わせていくためにお金が必要だからだ。親戚とかからは援助してもらっているが、最低限は自分で稼がなければいけない。年々状態は良くなってきてるから良いが、いつ悪くなるかわからない。医学部志望は自分で親の病気を治したいという気持ちから出た夢みたいなものさ。肘壊したときは本当に野球をやめて医学部を目指して勉強しようと思ったが、お前が野球部に誘ってくれて感謝している」
「別に感謝されることなんてないって。確かにポジション変更は俺が勧めたけど、最後に決めたのはお前自身だろ。逆にお前がやっ遊部に来てくれて感謝しているのは俺だ。でも、お前が大変だなんてこと俺はこの1年間全く知らなかったわ。色々と無理させてたみたいだな。ごめん」
「別に、何もかもすべてはプロに行ければ問題ない。それに野球は好きだしな」
友沢は少しふっ、と笑って、今はなんとかなってるから大丈夫だ、と言う。
野球がうまいながらも、バイトして、弟達の世話までやって…どれだけ大変なことか。
「協力できることがあったらする。遠慮なく言ってくれよ。後無理するなよ」
「ああ。わかってるよ。バイトも入ってることはあんまりないからな。安心しろ」
ラーメンセットを食べ終わって俺は店を出た。
友沢は行きたい場所があるらしく、店のところでお互い別れた。
どこに行こうか決めながら歩く。
ウィンドブレーカーとかほしいなぁと思っちゃったり。
俺も後で本屋は行く予定だから…あのスポーツ用品店良いな。入ってみるか。
良い感じのスポーツ用品店に入るときに後ろから話しかけられた。
「朱鷺さん!こんにちは」
「えっと……七瀬さん。こんにちは」
「ちゃんと名前覚えててくれたんですね。うれしいです」
「だから言ったでしょ、覚えましたって。女の子の名前はしっかりと覚えないと後が怖いって言いますしね」
「ふふっ。そうですね。本当に怖い人とか居ますしね」
七瀬さんが微笑む。
こんな形で会うなんて思ってもみなかったな…恋恋も練習休みにしてたのかな。
スポーツ用品店に七瀬さんがくるなんて野球部で何か買おうとしてたのか?
でも、一人で買いにくるなんてはないだろうから、恐らく立ち寄っただけか?
「七瀬さんは何か買おうとしてるんですか?」
「は、はい!買いたいものがあるんです。スポーツ用品店で」
「じゃあ、一緒に行きますか?俺はただウィンドブレーカー買いに来ただけだけど……」
「は、はい。ぜひ、ご一緒させてもらえるとうれしいです」
七瀬さんは優しく微笑んだ後、少し堅くなりながら俺についてきて隣を歩く。
いや、そんなにかしこまられても困るんだけどなぁ。
それにしても誘った俺が言うのもなんだけど男の人と一緒に回っても大丈夫なのかな。
彼氏彼女関係じゃああるまいし。
七瀬さんの方を見る。
顔を赤くしながら、俺の隣を歩いている。
ん?ちょっと待てよ?
(これ他の人たちから見たらカップルにみえないか?)
少し疑問に感じながら歩く。
高校生の男女が私服で二人きりで店内を歩いている。
「どうかしましたか?」
「いや……なんでもないですよ?」
「?」
あー、完全にカップルがデートしている感じに見られるわ。
首をかしげながら七瀬さんはこっちを見たが、すぐに視線を商品に戻した。
この状況…もし他のうちの部員か恋恋の部員(南とか)に見られたらヤバいぞ。
たまたま出くわす可能性は無いわけではない。今日は恋恋もタチバナも両方とも練習が休みなはずだ。
つまり、…かなりの確率で見つかるわけだ。
いや、ただ俺達は偶然会って一緒にいるわけで元々デートしに来たというわけではない。
少なくとも俺はこの状況をデートだとは思っていないぞ!
落ちつけ…俺はウィンドブレーカーを買いに来たんだし、考える必要はない。
「朱鷺さんは今日は何か買う予定とかはあるんですか?」
「えーと、今日はさっき電気屋に行ってパソコンと電球買ってきたんだ。後でまたどうやって運ぶか決めに行って、スポーツ用品店に寄ったのはウィンドブレーカーを買うために来ましたね」
「スポーツするときはウィンドブレーカーって必要ですよね。マネージャーでも必要ですからね、何着かは私も持ってますよ」
「必要ですよね。自主練習するときはほとんど着るかな」
「使い勝手良いですもんね」
いいよなぁウィンドブレーカーは使えるし。
えっと…この列のところにあるのか。
「おっ、あったあった。……えっ」
「ん?」
……いた。いたのだ。
ちょうど俺がウィンドブレーカーを見ようとしたときに。
紫色の髪の毛をしている少女―――――――六道聖が。
「修也?どうしたのだ?……そっちは恋恋のマネージャーじゃないか?」
「あっ、六道さんこんにちわ」
「うむ。それで、何故修也は七瀬と一緒に……?もしかして、デートというやつか?」
「い、いやそういうわけじゃない。たまたま会って一緒に来たんだ」
「そ、それにしては凄く二人の距離が近かったように見えたのだが…?」
「……」
「た、たまたまですよ!私が声かけて、一緒に行こうって話になって……デートなんてそんな……」
そう言って七瀬さんは顔を赤くする。
俺は気まずい雰囲気になって、口を開こうにも開けなくなってしまった。
俺達二人を見て聖は――――
「デートでは無いのなら私も一緒に買い物をしよう。いいだろ?修也、七瀬」
「……あ、い、いいですよ。……はぁ」
どうしたのかな七瀬さん?
少し残念そうな顔をしているし、今ため息もついてた。
それとは対照に聖はかなり嬉しそうだ。
「それで何を買おうとしてたんだ?二人とも」
「俺はウィンドブレーカーかな。自主練習とかのときに使うからな」
「私はちょっとロージンバッグとちょっとしたものを買いに来ました」
「聖は?」
「私はただぶらぶらしていただけだ。家にいても手伝いしかやることが無いのでな」
「手伝いですか?」
「うむ。私の家は神社なのでな―――――」
そこから俺のことをおいてけぼりで二人は歩きながら会話を始めた。
それを後ろから歩きながらついていく。この二人はスポーツ用品店なのにどこに行くんだ。
それにしても楽しそうだな。お互い女子だからすぐに気が合うのかどうなのかは分からないけれど。
「そういえばそっちの新入部員とかはどうですか?」
「ああ、二人しか入らなかったけれどどっちも良い物持ってるやつだよ。恋恋はどんなかんじですか?」
「こっちは五人入りましたけど、実際今レギュラーやリリーフで出れるレベルの人は……三人ですかね……三人ともシニア出身ですから」
「恋恋はリードオフマンとかいなかったからな。嫌な選手とか入ってそうだが」
「初野君とか……って言ったらどうしますか?」
少し笑いながら七瀬さんは言った。
初野君って、あの初野?
「もしかしたら初野歩ですか?」
「はい、そうです」
まじかよ。あいつか…。
初野歩は確かシニア界でも有名なやつだ。
セカンドで足が速く、ミート力もある完全なリードオフマンタイプの選手だ。
それだけではない。有名だったのは守備。
プロも注目しているとも言われた守備は相手チームのヒットを減らして、守備でチームに貢献する選手だ。
南との二遊間を組まれたらそれこそヒットコースがかなり減っちまう。
打者としてももしかしたら守備の方が要注意かもしれない……。
まぁ、得点圏にかなり弱いっていう印象はあったけれど。
「手強いなぁ……恋恋は。去年とは大違いだな」
「そうですよ!去年は負けてしまいましたけど、今年は勝ってみせます!」
「こっちだって負けるつもりはありませんよ!」
俺と七瀬さんがにらみ合う……いや、これは見つめ合うと言った方がいいのか?
少し俺が照れながらも視線を逸らさずにいたが、七瀬さんが顔を赤くして視線を逸らしてしまった。
それと同時に俺も視線を逸らす。
「修也!」
「な、なんだ!?」
聖に呼ばれて大きい声で反応してしまった。
いや、いきなり聖が呼ぶから驚いた……。
「……何でもないぞ」
「いや、そう言いつつも俺と何で腕を組んでいるの?」
「……七瀬に嫉妬した」
「え?」
「何でもない」
いやいや、だから何でもないとか言いつつも俺と腕組むなって。
「朱鷺さん!」
「は、はい!?」
待てよ、七瀬さんまで腕組んできたけどどうすればいいの?
え?俺悪いことしたっけ?
女の子に囲まれている男の子。周りから見たらどのように思われるか。
まあ―――――そう簡単には見つからない―――――
「あ」
「あ、朱鷺だ」
ちょ、南がこんなところにいるのか!?
いや、落ちつけ。南だってわかってくれるはずだ。
なぁ?そうだろ?南―――――
「……モテモテだね。朱鷺」
「うるせっ!お前には早川が居るだろ!!!!」
「え?あおいちゃんがどうしたの?俺になんか関係あるの?」
「七瀬さん、どう思う?」
「……鈍いですね」
「だとよ!残念だったな!お前もモテモテなんだよ!!!」
「……朱鷺さんも。六道さん、大変ですね」
「そう、だな。昔からこんな感じだ」
「え?なんか俺も入っちゃってる感じ?」
「まぁ、そういうことかもね…」
南に見られたのは予想外だったが、今思えば助かったぜ。
矢部君とかだったら、後々大変なことになっていたかもしれないしな。
その後は四人でブラブラして、最後に喫茶店で話すことになった。
特に話題は決まってなかったが、新入部員とかの話をしてお互い解散した。
俺はそのあとは電気屋に行ってパソコンと電球をトラックに乗せてもらい家まで運んでもらって、俺はそのまま家に帰った。
夏はもう近くに迫っている。
どれだけ俺達は成長できるか。どれだけ頑張れるか。
行くぞ、俺達が今年は頂点をとるつもりで……な。