実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校   作:Reaflet

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第十四話 6月2週~7月1週 “vs帝王実業高校 儚いプライドとチームワーク”

6月2週。

―――――――――場所は総合体育館にて。

夏を物語たせる蝉も少しずつだが鳴いているこの季節。

今年の夏もやってきた。

夏の甲子園大会への切符を手に入れるために行われる大会。

我が校野球部、十五名がこの総合体育館に集まっていた。

「昨年ぶりだな。この体育館も」

「昨年の秋はクジを引きに来なかったからな。あれから結構時間が経ったのか経ってないのか」

「でも、昨年よりは緊張しないでやんすよ」

「うむ。成長の証だ」

「へー、ここが総合体育館。来たことないからわかんなかったけど、結構広いわね」

俺達がホールの中に入ると会場がざわっ!と、どよめく。

昨年の夏はベスト8ながらも秋大会は出場しなかったからな。どういう感じなのかをみたいのかもしれないかもな。

さらには新メンバーも入ってるし、注目されるだろうよ。

「これがこの地区の高校野球のチームなのか?お、多いな」

「ぼ、僕、緊張してきましたよ」

「おいおい、これから何時間か居るんだぞ。リラックスしろよ。特に准、お前は注目されているからな」

「な、なんでだ?」

「周り見てみろよ」

他のチームが俺達を見ている。

視線は友沢や俺、聖、猛田などに多く向けられているが、少なからずも准にも向けられている。

聖タチバナの三人目の女性選手だしな。

特に昨年よりも注目度が高まってるし、昨年見なかったみずきちゃんには相手チームも名前と容姿は見たことある人が多そうだ。

だからといって、この地区のチームとの練習試合では登板はあまりさせてないからどの程度のレベルなのかは分からないだろう。

「これほどの戦力が揃ってるからな。どの相手でも退かないで行くぞ」

「そうでやんすね。おいらもうまくなったでやんす。行けるでやんす!」

確かにな。矢部君は全体的にレベルアップしてる。

准が入った後は打撃もうまくなってきている。刺激なってくれてうれしいぜ。

真田も負けじとがんばっているしな。

さっきの発言で他のチームの数人が驚いている。バス停前高校の数人か。

そして俺らが入って後すぐにまたもや、会場がざわつく。

そこには昨年の秋の地区の覇者―――――パワフル高校。

キャプテン尾崎を先頭に続き、手塚と円谷……猿山、生木そして東條。

すぐ近くにいた猛田が視線を向けている。そうして昨年は舌打ちしたが……何も言わずに視線を変えた。

その後ろにいたのは鈴本と……誰だ?

女性選手。いかにも真面目そうな女の子が鈴本と一緒に会話をしながら入ってくる。

それを見た他の選手も視線を向ける。だが気にせずに歩いていく。

聖の近くをそいつが通る時にボソッと声が聞こえた。

それに聖はビクッ!、と反応したのにも気にせずに歩いていく。

なんか言ったのか?まあ、気にしてる暇は無いみたいだな。

もしかしたら昨年の捕手の石原が抜けたから、その抜けたところに入ってきた選手か?後でパンフレットで確認してみるか。

「き、来たぞ……」

誰かがそう呟くとホールに入ってきたのは―――――あかつき大付属高校。

一気に視線を集めながら、歩いてくる。

先頭に七井と三本松、その後ろに六本木と四条と四条の妹であるマネージャーが歩いてきた。

そして最後尾前には猪狩と進君が歩いていた。

「お、おい!あれって猪狩兄弟じゃないか!?」

「あかつき中最強バッテリーが、高校で結成だと!?昨年の秋の借りを返しに来たぞ!!!」

会場が進君を見た途端にそれぞれ猪狩兄弟の話題になる。

その言葉に反応したのか、俺の心に火がつく。

待ってろ、お前には負けねえからな。あかつき大付属高校のメンバーが俺らを見たが、すぐに前の歩いていった。

こっちも注目されているってことか……?うれしいじゃねえか。

いつの間にか立ち上がっていた俺とその俺を見た猪狩だけがその場で立ち止まった。

矢部君が口を開いたままで、猛田は俺と猪狩を見つめる。准が「この人が猪狩守か」と小さくつぶやいて、みずきちゃんもにやけながら見ていたが急に真剣になった。

聖と友沢は視界に入れつつも無反応にしていた。

お互いに睨みつけ合いながら、先に言葉を発したのは俺だった。

「今年は戦うために勝ちあがってやるよ。そして勝つのは……俺らだ」

「秋はふがいない結果だったが……今年は譲らない。勝ちあがってきたら叩きのめす」

「残念だが叩き潰されるわけにはいかねえ。甲子園に行くためには避けて通れない相手だと思ってろ」

「……どこで当たるかわからないが全力で相手してやる。行くぞ、進」

「はい。兄さん」

お互いに相手を威嚇し合って、去っていく。

猪狩は進君を連れて、自分達のチームの場所へ戻っていった。それに合わせて俺も席に座る。

今思えば全国的に有名な投手にライバル宣言したのか?

すげえことしたんじゃねえか、俺。

「朱鷺君やるわね♪あの猪狩にあそこまで言うなんて」

「口で言うだけなら何でも言えるよ。……問題は勝ちあがって行って戦うことだ」

「そのとおりだぜ。気合い入ってきたぜ!!!」

「あんたの強気の顔は初めてなんだけど……すげえよ」

「ふっ、そんなこと言ってたら来たぞ。俺達の壁が」

帝王実業高校がホールの中に入ってきた。

山口と共に猫神、犬河が入ってくる。

そして――――――蛇島桐人が来た。

真剣で相手を刺し殺すような眼をしながら俺達を睨みつけている。

若干違和感を感じる。もっと軽薄そうな笑みを浮かべてくると思ったが……何かあったのか?

相手の心配する暇は無いが、帝王の中でも要注意人物の一人が入ってきた。

今年の一年生でもショートレギュラーが確定との噂の広上 空。

中学時代に俺らが卒業した後のあかつき中を全国大会で倒した男。

恐らく六番ショートに入ってるだろうと思われる。

昨年よりは戦力ダウンはしているだろうが、レギュラーだったやつがどれほど成長しているはずだからな。

手強い相手だとは思うぜ。負けるつもりは無いけどな!

「帝王でやんすね。今年は昨年の借りを返させてもらうでやんすよ」

「あの時の借りはこのバットで返させてもらおう」

全員に気合いが入る。

帝王のメンバーも要注意のチームに入ってるのか俺達を視界に入れるが、すぐに場所取りに歩いていく。その中でもやはり広上が楽しそうに微笑みながら俺達を見る。

中学から上がったばっかりだと思ってたらやられるが……あいつが中学みたいなレベルだと思ってたら逆にやってやる。

「朱鷺!」

「おっす。南。どうよ調子は?」

「良い感じだよ。一年生も良い感じだしね」

そう言って南は一年生だろうと思わせる集団に指をさす。

その中には赤い髪をした少年―――――初野歩。

こいつと南が二遊間を組む男か。要注意選手の一人だ。

「初野か。手強い奴だなぁ」

「いやいや、そっちだって川瀬さんだっけ?」

「ああ、レギュラーは確定してる。えっと……あいつは北条ほくじょう 桜さくらだったっけ?中学出身だよな?……”弾丸少女”っていう噂の」

「そうですよ!!」

「うわっ!でやんす!!ビビるでやんすよ!!」

「ごめんなさーい。ヨロシクです!朱鷺修也さん」

「お、おう」

「六道さんと戦いたいです!」

「……そのときは全力で行くぞ」

聖は動じずに話す。矢部君はさっきのことで驚いているみたいだ。

まあ、俺も驚いたけどな。こんな感じだけど実力は確かの選手だったはずだ。

左打者で俊足でミートもうまい完全なチャンスメイクする選手だ。しかも、守備範囲も広いしこいつも要注意だな。七瀬さんが言ってた通りだな。

俺たちが話していると猛田があのメンバーと話していた。

小井田たちだ。

その中には猛田と共にシニア時代切磋琢磨していて、秋大会に姿を現した樋宮の姿があった。

噂によると肩を壊したがリハビリをして、しっかりと治してきたらしい。

ポジションは捕手らしい。センスはあるみたいだから、打者としても良い選手だな。

「慶次。俺さ……」

「聞いてるぜ。東條からな。……ごめん。あのときは俺も止めときゃあ良かったんだ」

「良いって。それより俺は敵だよ。当たったときは全力で行くよ。な?」

「慶次覚悟してな。去年の借りは返させてもらうよ」

「おう!俺も本気で行くからな!!!ぜってえ負けねえぞ!」

「あっ、けー」

「よう!響。お前もマナカと同じ学校に進んだのか」

「うん。けーのチームにも負けない。こじろー達のも負けないよ。だって、たくとお姉ちゃんがいるから負けない」

「響も言う様になったな!おもしれえな、響も敵かよ。楽しみだぜ!!」

そう言ってさっきまで暗かった猛田の顔が明るくなる。

誰だ、あの女の子は?

「彼女は小井田 響。苗字の通り真奈花さんの妹だよ。ポジションは投手」

「投手か。恋恋は早川以外にいなかったからな……。あれが七瀬さんが言ってたな。三人が戦力になりそうだって。おもしれえじゃねえか」

「あはは。当たったらよろしくね。朱鷺、負けないよ。キミには」

「こっちだって同じだ」

「あおいちゃん、行こう!」

「うん。わかったよ!」

そう言ってみずきちゃんと話していた早川が南のところに行く。

恋恋のメンバーは席に着くために歩いていった。

「響も恋恋か……。戦うのが楽しみだぜ」

「知ってるのか?どういう投手か聞きたい」

「左の 上手投げオーバースローで球の速さはそこまでないけど、変化球にあいつなりの凄さがある」

「凄さ?」

「一言で言うと”スローフォーク”とでも言っておくか」

「”スローフォーク”?」

「球速は遅いけど、キレはフォークそのものの球だ。さすがに実物を見ないとわかんねーけどな」

スローフォーク?凄いなそれ。

ぜひとも打ってみたい球だな。友沢も少し反応したみたいだ。

音楽プレーヤーで音楽を片方で聞きながら、片方を外していた耳で聞いたのか?

「ふっ、どんな球でも打ってみせるさ」

「どうでもいいけど、お前ってとことん相手の話すことをわかってんのな」

「それほどわかりやすい奴らが揃っているってことだ」

少し時間が経つと会場の電灯が消えて昨年と同じように流れだした”栄冠は君に輝く”。

去年はかなり緊張してたけど、今年はその緊張も半分も無い。

それは昨年も居た二年生が感じているみたいだ。准も黒豹も最初ほど緊張していないみたいだ。

聖も昨年の感動していたのが半減しているし、慣れたのかな。

さてと、くじ引きが始まるぜ。

「シード校はあかつき、パワフル、帝王、灰凶でやんすか」

「そういえば去年は秋ではパワフルが甲子園に出て、帝王もなんだかんだ二位で甲子園行ったしな。もう少しで灰凶も出れそうだったんだったんだっけ?」

「そうだ。他の地区の結果で三位が行けるか決まるが、昨年は出れなかった。甲子園では帝王が一回戦で西強高校に当たって一回戦負けだ。パワフルはベスト4まで行ったが負けたな。だが、東條の名を全国に知らしめるには十分だったはずだ」

「てっきり私はあかつきが行ったと思ってたが……四位だったのか」

「確か四対三っていうスコアだったはずよね、友沢?」

「ああ。あかつきがエラーで負けてたな」

「それは相当ショックだったでやんすね。あかつきにとっては」

「それよりもふがいないという感じではないか?毎年甲子園に出ているチームだからな」

あかつきがこの地区で四位だったわけだったからな。

そりゃあ精神的にもきついだろう。もちろん甲子園は逃したのもデカイ。

だが、弱点だった捕手は進君が入ったことで問題は無くなった。

「逆に言えば今年は強いってことか?それは注意だな」

「あかつきの試合とかは中学の頃は見てましたね。去年はすごかったですけど、うちの先輩たちのほうが凄いですよ」

「言うでやんすね、黒豹くんは」

「シード校見ておけよ。パワフル、帝王、灰凶、あかつきだ。左端に帝王、逆があかつき、左内にパワフル、右内に灰凶だ」

ってことは左の方だと帝王やパワフルと戦うことになって、右だと灰凶やあかつきか。

どっちにしろきついもんだな。

『バス停前高校―――――五番!』

「じゃあ行ってくる」

そう言って俺はホールに向かった。

昨年と同じ雰囲気だが、緊張感が違う。

だけど、このクジを引く時に手が震えてしまうのがまだまだってことなのか?

俺はボールを掴んで、引き上げた。

そこに書いてあったのは……二番という字。

『聖タチバナ学園高校――――――二番!!』

この時点で最初に戦うシード校は帝王というのが決定した。

うっし、ちょうどいい。昨年の借りを返させてもらうぜ。

座席に戻り、トーナメント表を確認する。

恋恋は逆のブロックか……ちょうど準々決勝であかつきと当たるのか。

あっちのブロックは灰凶、あかつき、恋恋辺りだろう。

今回はこっちの方が良いチームが固まってるブロックかな?

「昨年の乱打戦みたいな試合は無いと思ったほうが良い。エース山口を攻略するぞ」

「一回戦は比較的簡単に勝てるだろうが、相手は帝王だぜ。しっかりと対策していくしかないみたいだな」

「ラフプレーをされても最終的にスコアが上回っていれば勝ちだ。朱鷺、気をつけろよ」

「ああ。粘り勝つぞ……戦いはすぐそこだ」

全員が頷いてくれる。

一回戦の相手はかぶ高校だし、対策も必要ない。

問題の帝王はしっかりとビデオで研究していくぞ。

ラフプレーをして試合に勝ったっておもしろくもないし、なによりプライドというもんがあるはずだぜ。

ラフプレーをしてまでも勝ちたいなんていうプライドは俺達がぶっ潰してやる。

そのためにもこいつにしっかりとリードしてもらえるようにしておかなきゃいけないな。

そう思いながら聖の肩に手を置く。

それに反応するかのように聖は頷き、俺にウインクをしてきた。

おおっ、初めて見たぞ聖のウインク。可愛いというよりかっこいいぞ、それ。

データはあるからな。先生など(主にみずきちゃんの財力)に協力してもらっているから問題は無いはずだ。

注意する打者は変わらず、蛇島や広上、後は猫神などだな。

二番手の犬河は変化球投手だが、ランナーが出たりすると甘いところに変化球が来たりするし、何より球が軽いからな。ミートすれば問題ないはずだ。

問題はエース山口。

さてとこいつはしっかりと分析しなきゃいけないみたいだ。

フォークとストレートのコンビネーションとカーブとシュートという芯の外してくる厄介な変化球。

さらにはフォークには二種類ある。改めてきついと感じさせるぜ。

「今度の打者等のデータを分析するから、みずきちゃん、宇津、黒豹、それに聖はその時集まってくれ」

四人は頷く。チームも良い調子になっていている。

勝つべき相手がそこにいる。負けるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

                     

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――7月1週。

 

快晴とはいかない天気で、一番プレーのしやすい晴れ模様の中。

聖タチバナは初戦を迎えていた。

一回戦ということもあって観客を見ても、特に観客は入っている様子はない。

試合を見ているのは一、二チーム程度だ。それも負けているチームであり、勝ち進んだチームはこの試合を見には来ない。

ただ、どれにも例外はいる。

シード校である”あかつき大付属高校”がこの試合を見に来ていたのだ。

バックネットに並んで試合を見つめる。

あかつきのエースである猪狩守はこの試合を目を離すことなく見ていた。この試合は絶対に見逃すことはできないという感覚。自ら監督に志願して、自分だけ見に来ようとしたが監督が休養のついでに観戦するということをチーム全体に伝えたのだ。

相手はかぶ高校で今現在は二回の表。聖タチバナの攻撃。一死満塁でバッターは三番の六道。

マウンドに上がっている投手が振りかぶって投げる。

外角低め付近へ落ちるカーブ。

それを六道はフルスイングをして弾き返す。右中間へ鋭い打球で転がって行く。

「っ!」

隣に座っていた六本木が声を漏らした。

その間に六道はセカンドを陥れた。走者一掃のタイムリーツーベース。

昨年に比べて彼女のバットスイングスピード、ミート力共に上がっている。

さっきの球はカーブで、元々変化球に強い彼女にとっては打てる球だったはずだ。

問題は――――――打球の速さだ。

鋭い。

昨年よりも打球が速い。

ミート力がある彼女はボールを捉えるセンスはある。やっかいな選手になったものだ。

『四番ショート 友沢君』

「友沢さんは確か、野手転向した元投手の人ですよね?」

「ああ」

短く猪狩は答える。

それに進は少しつばを飲み込み視線をグラウンドに落とす。

ッカァン!!と快音を残した打球は鋭いライナーで飛んでいく。

ガァシッ!!!とフェンスに直撃して、跳ね返ってきたボールをライトが捕る。

打球が速すぎて、一塁ベース止まりだが十分だ。

練習試合でやったときよりも確実にレベルアップしている。

元投手の経験を生かして相手の球種を読んでの打撃も、球に反応する打撃。

ボールを捉えるセンス、スイングスピード。すべての点において聖タチバナのキープレイヤーなのは間違いないだろう。一死一、三塁。

『五番ライト 朱鷺君』

「修也……」

「朱鷺先輩が五番にいるのは嫌ですね」

そう進はつぶやく。

それに頷いて猪狩は打席を見つめる。他のあかつきの選手も打席を見つめる。あかつき大付属に来るはずだった彼の打撃を。

放られたのはインローへのストレート。

スピードガンは128キロを示した球。

それを―――――――バックスクリーンへ放り込んだ。

「なんだと!?」

「ストライクギリギリの球をあそこまで飛ばすとは……」

「それよりもすごいのはオレが驚いているのはあの”インロー”をセンター方向へ弾き返したことダ。技術もあがっているナ」

朱鷺が右手を掲げながらベースを回る。

このホームランでこの回八点目を入れて十二対〇。

今ホームインをして六道と友沢達とハイタッチする彼を見ながら、猪狩は思う。

(勝ちあがってこい、修也)

かつてのチームメイトで、ライバルの彼に。

「行くぞ進、調整しに」

「え、でもまだ試合は……」

「全打者見たから大丈夫だ。猛田、喜多村も警戒しなければいけない打者だとはわかったし、もちろん二番の原のミート力、八番の川瀬のセンスにも注意しないといけないのはわかってる」

でも、一番警戒しないといけないのは修也だ。

そう呟いてあかつきのエース、猪狩守は球場を後にした。

そのころにはタチバナが追加点を加えていたのだった……。

 

 

 

 

 

                     

 

 

 

 

 

 

 

 

大量得点で圧勝した一回戦から数日後。

二回戦、帝王実業高校との試合がやってきた。

一回戦は二十一対〇。打撃の方は去年よりも成長している。

一回戦はみずきちゃんが三回、宇津が一回、俺が一回で三人で回した。

大丈夫だ。行ける。

すでにバックスクリーンにはオーダーが発表されている。

聖タチバナのオーダーは、

一番レフト    矢部

二番センター   川瀬

三番キャッチャー 六道

四番ショート   友沢

五番ピッチャー  俺

六番ライト    猛田

七番サード    喜多村

八番ファースト  大京

九番セカンド   峰田

となっている。

対する帝王実業は、

一番センター   大矢

二番キャッチャー 猫神

三番ショート   広上

四番セカンド   蛇島

五番ファースト  遠山

六番レフト    小早川

七番ピッチャー  山口

八番サード    鈴田

九番ライト    東

なるほどな。

練習試合では六番だった広上が三番に上がって、三番の蛇島が四番に上がった。

四番だった遠山が五番へ、五番だった小早川が六番になったのか。

調子が良いから打順が上がったのだろう。要注意だな。

審判に呼ばれて俺達がベンチ前に並ぶ。

「行くぞ!!」

全員でホームベース前に集まって、挨拶をする。

俺と握手するのは蛇島だ。しかし、その眼には殺気が込められていた。

だが俺もにらみ返して、握手をする。

そしてベンチにそれぞれ散った。

先攻は聖タチバナだ。

「矢部君!」

「わかってるでやんすよ」

そう言いながらグッと親指を立てる。

最初が肝心だ。頼むぞ矢部君。

『一番レフト 矢部君』

矢部君が打席入ると山口は振りかぶる。

放たれた球はストレート。

ビュ!!!という速い球がミットに収まる。

「ストーライク!」

球場のスピードガンに球速が表示される。

―――――――――144キロ。二年生エースとしては十分すぎる球だ。

山口の球速と俺の球速は同程度だ。

(昨日の作戦忘れないようにな!矢部君!)

矢部君が外角のカーブを見逃す。ストライクだ。

2-1。おそらくここで来るのはフォークだろう。

まだ猫神は山口のフォークを完全に捕球できていない。

さらには山口はフォークを完全には制球できていない。

山口から放たれた球は―――――フォーク。

(そう、作戦は――――――――)

バシッ!!

「ボーッ!」

(”粘って粘って球数を投げさせる”これだ!!!)

ぶっちゃけ言うと今の山口だったら真っ向勝負しても調子が悪くて三点、良くて一点だ。

俺は相手打線に調子が良くても二~三失点すると思うから、点が足りない。

フォークは握力を使う。それをどんどん投げさせれれば良い。

カーブやシュートを決め球にしてきたら、俺達には打てるほどの力はあるはずだ!

カッ!!!とバックネットにボールが当たる。

六球目のインハイのストレートに矢部君はサードフライに打ち上げてしまう。

だが、良い仕事だ。

「ごめんでやんす。塁に出れなかったでやんす」

「おっけーだよ。准、頼むぞ」

「わかった」

『二番センター 川瀬さん』

女で非力だと思ってる准への配給はインコース中心だろう。

山口から投げられる。変化の大きいフォーク。

それを准はしっかりと見逃す。これで1-0。

すぐに振りかぶって山口は投げた。インローへのシュート。

ッカァン!と三塁線への鋭い打球が飛ぶがファールになる。

「うまいな。シュートやカーブはしっかりと打つことで選択肢をどんどん狭くさせる」

三球目は変化の小さいフォーク。それを准は見事に見逃す。

外角低めギリギリ。

「ボーッ!!!」

ナイス選球。四球目のストレートをカットして、五球目のフォークを見逃す。

六球目はインコース高めへのストレート。

「っ!?」

反応できずに准が振りに行くが完全に振り遅れた。

しかし、ガッ!!とギリギリグリップエンドに当ててファールとなった。

威力のあるストレートをガンガン投げてくるな……やっぱり良い投手だぜ。

准には粘り始めると、どんどん集中力がすごくなっていく。いわゆる三振しなくなるのだ。

シニア時代のときも粘り始めた時は三振しない。

それが山口にも通用するか?

もちろん答えは―――――Yes。

一二球目に山口が選択した球は変化の大きいフォーク。

それを准はバットを止めて見逃した。

「ボール!!フォアボール!!!」

「よし!」

「准!ナイス粘りよ!聖!いっちゃいなさい!」

ナイス粘りだ。

さてと、ここで聖なんだが続けて作戦は粘る。

『三番キャッチャー 六道さん』

聖が打席に立って、バットを構える。

さて、どう配球してくるか?

最初の球のカーブを聖はカットした。これで1-0となる。

次の球もカーブだ。だが、外角に外れてボール。

聖は山口の方に集中している。未だストライク先行投球は良いな。

三球目のシュートが高めに抜けて、1-2。

「……」

「……!!」

山口が一呼吸おいて、息を吐く。

再び振りかぶって投げた球は―――――内角へのフォーク。

変化が小さいが、聖なら打てる!!!

ッカァン!!!と快音を響かせて打球はレフト前へ転がる。

その打球にショートの広上は飛びつくが、その横を抜けてレフト前ヒットになった。

「聖!ナイス!」

「続いてほしいでやんすよ!!!」

一死一二塁。

ここでバッターは友沢。先制点をとるか、チャンスで俺に回すか。

『四番ショート 友沢君』

友沢が打席に立つと外野手が全員守備位置を下げる。この辺は去年と同じだ。

やはり警戒されている打者だ。

山口が振りかぶって投げる。ストレートだ。

外角へ決まったストレートを友沢は見逃す。

「ストーライク!!」

146キロの球がミットに収まる。

ネクストサークルから見てもすごく勢いのある球だぜ。

次の球である変化の大きいフォークは友沢のバットが空を切った。

「……!」

「ストーライッ!」

良い球だ。だけどな、友沢は簡単に抑えられない。

フォークの後は他の変化球はなかなか来ない。

友沢だったらなおさらだ。行け、振りぬけ!

山口が投げた球は高めに抜けたストレート。それを友沢は逃さない!!!

ッカァキィン!と打球は快音を響かせた。

一二塁間への強烈なライナー。

が、バシッ!!とセカンドの蛇島がダイビングキャッチをしてファインプレーを見せた。

すぐにファーストへ送球してダブルプレーとなった。

惜しいな~。完璧に抜ける打球だと思ったのにな。チャンスだったが、しゃーない。

「友沢惜しいぞ。ナイスバッティン」

「もう少しタイミングが早ければ抜けてたな。少しだが差し込まれた」

「しかし、蛇島もあういうプレーするんだな。汚れ役は嫌な感じがしていたと思ったが……」

「いや、俺も見たことは無い。蛇島は守備はうまいが飛び込むプレーはしなかったからな」

様子がおかしいと思ったが、やっぱりどっかがおかしいんだな。

それならどこかで付け居る隙はある。

よし、守備だ!しっかり行くぜ!!

「聖頼むぞ!」

「そっちこそ頼むぞ」

「任せろ!!!」

お互いにマウンドへ、ホームベースへ走って行く。

マウンドで置いてあるボールを手にとって、ホームベース方向へ向く。

信頼できるキャッチャーがそこにいる。聖がそこにいる。

負ける気はしない。例え帝王だとしても。

投球練習が終わって、一番バッターが打席に入る。

『一番センター 大矢君』

大矢が打席に入る。

さてと、こいつは三年生で昨年は二番を打っていた好打者だ。

足が速くて、ミートがうまく、守備でも活躍している選手。無論、プロも目を付けている選手。

今年で最後の夏だ。気合い入っているに違いないが、負けてられない。

(まずはコースは問わない。修也の最高のストレートを投げ込んで来い)

振りかぶって思いっきり右腕を振る。

スパァンッ! と投げ込まれた球を聖が捕球する。その球を受けて聖は頷く。

若干、高めに抜けた球を大矢はバットを振るが当たらない。

球場のスピードガンは145キロという数字を表す。自己最速の球。打たれるわけがない。

二球目は外角低めにスライダー。それを三塁線へ大矢は流すがファールとなった。

タイミングは外した。最初の打者だから気持ちよく三振を取りに行こうぜ。

(高速シンカー。思いっきり来い)

サインに頷いて、振りかぶる。

後、これから続く二時間以上の時間。退屈にはさせない。

頭の後ろへ両腕を持っていきつつ、左足を後ろに下げる。下げた足を上げ、その後ろ両腕を持ってくる。ハンカチで甲子園を騒がせた某投手と一年目からプロで沢村賞などのタイトルを独占した某投手の混合フォーム。

腕を持ってきて腕を振って――――――ボールを抜く!!!

ヒュンッ!!!と途中で軌道が変化して、大矢のバットから遠ざかっていく。

「ストラーイク!!バッターアウト!!」

大矢はどれだけ変化したか見たいのか、聖の方を向くがすでに聖は俺にボールを返すために投げる。

―――――どうだ?去年の俺よりもワンランク……いや、ツーランクはアップしてるだろ?

そう自分でも感じている。よし、次の打者だ。

『二番キャッチャー 猫神君』

去年はベンチにいたが、今年はレギュラーになっている捕手だよな。

足が速くて、厄介な選手だが、打撃においてはそこまで良いとは言えない。

聖から、カーブのサインが出る。それに首に縦に振って投げる。内角へ決まる。

「ストーライク!」

猫神は見逃して、1-0となる。

(カーブでストライクだ。次は外角へカーブ。これは外そう)

俺は頷いて、投げる。

猫神はバットを出しかけたが、途中で止めた。スイングは取られずボールとなった。

思ったけど、聖は変化球中心に組みたてるから結構神経使うな。まあ、別に首を振ったりはしないけど。例外以外はな。

ストレートでストライクを取った後、外角低めへのシンカーでサードゴロに打ち取る。

さてと、注意すべき打者がきましたよ。

『三番ショート 広上君』

広上空。アベレージヒッタータイプの打者。足は普通といったところか。肩が強く、守備もそれなりにこなす。逆境に強く、帝王のカラーには合わない精神的支えになる選手だ。

こいつは結構嫌な打者だ。苦手なコースは特にないが、しいていえば内角高めだ。

広上が元気よくバッターボックスに入ってバットを構えた。

(外角のカーブで様子を見よう)

頷いて俺は投げた。

それを初球から広上はバットを振るがボールに当たらない。

初球から振るタイプの打者だし、当てさせてカウントを稼いで行きたいな。

次の球の若干甘く入ったスライダーを一塁線へのファール、内角低めのシンカーを見逃し、そこから外角へのカーブをカットする。カウントは2-1。

変化球でカウントをちょうどいい形にすることができた。ここで投げる球は一つ。

(内角高めへのストレート!!)

サインに頷いて思いっきり腕を振る。

ビュンッ!!と腕が振られて、内角高めにストレートが決まる。

広上はバットを振ることができずに、そのまま見逃す形となった。

「ストライク!!バッターアウト!!!」

「ナイスピッチや!朱鷺!」

「ナイスだ」

「ナイスでやんす!」

みんなからの声に反応しながら聖からボールを受け取って、マウンドにボールを置く。

若干汗を浮かばせながら、ベンチに戻って行く広上を見る。

甘い。高校野球は甘くはない。

そう思いながら俺はベンチに戻った。

そしてすぐにバットを持ち、ヘルメットをかぶる。俺からの打順だし、ここで粘っておきたいところだ。

「カーブとシュートに気をつけろ。なかなか厄介な球だ」

「フォークは落ちるよな?速さはどのくらいだ?」

「そうだな……お前のスライダーぐらいだ。行ってこい」

「よし、わかった。サンキューな、友沢」

そう言って俺はバッターボックスへ向かう。

『五番ピッチャー 朱鷺君』

俺が打席に立ち山口の方を見る。

さてと、俺はクリーンアップとはいえ実質四番も打つことができる打者だ。自慢じゃないが簡単に抑えられる相手ではないということは知っているだろう。

ランナーはいない。ただ次の打者が猛田ということを考えると出したくは無いはずだ。

一番勝負できて、自信のある球を決め球に使ってくるだろう。

フォーク。しかも、変化の大きい方だろう。確かに苦労するし、実際打てないかもしれない。

でも、この試合での俺らの作戦は”粘る”ことだ。

(初球のカーブ。恐らく外角へだと思う)

シュートは昨年にホームランにした記録があるから、それを見逃してなければ確実にシュートは投げてこない。カーブでまずカウントを取りに来るはずだ。

山口が振りかぶって投げる。ゆっくりと外角へと変化していった。予想通りだ、それを俺は見逃す。

次はたぶん山口の配球からすると内角へのストレートでカウントを整える。

これも予想通りだ。

カウントは1-1。

次は恐らく、小さい変化のフォークで打ち取りに来るかカウントを稼ぐはずだ。

だが――――簡単にカウントは稼がせないぜ。

ッキィンッ!と鋭い打球が三塁線へのファールとなる。

「なっ!?」

ふぅ……簡単に稼がせないぜ。できればプレッシャーを掛けてやって後の打者を楽にさせていきたいし、球数も稼がせてもらおう。

山口は外角のボール球で俺を様子見にきて、さらに外角高めのストレートで外す。

2-3となったが、ここから球数を稼がせてもらおう。

山口が投げる。変化の大きいフォーク!……ヒットにするのは難しい。だけどな、

――――――カットだけなら何とかなる!!!

カッ!!!とバットに当たってバックネットへとボールが当たる。

とことん粘らせてもらうぜ?山口!!!

投じられた球を粘る。ストレートだろうが、カーブだろうが、フォークだろうが。

そして十球目。

山口が選択した球は、フォークじゃなくて―――――シュート。

それは甘く、真ん中へと変化した球を俺は見逃さない。

ッキィィン!!!と左中間の真ん中を突っ切っていく。

それを見て俺は一塁ベースを蹴ってセカンドベースへ向かう。セカンドベース手前でセンターが今ショートに中継をするが、俺は迷わずセカンドベースを蹴った。

(攻めろ!この試合は粘って、山口にプレッシャーをかければ勝てるのだから!!)

広上がサードに送球する。

それと同時に俺はスライディングして、サードがタッチする前にベースに着く。

「セーフ!セーフ!」

よっしゃあ!無死三塁!

バッターは猛田だ。行け猛田!

『六番レフト 猛田君』

「このチャンスはモノにしてやるっ!!!」

そう言って猛田が打席に立つ。

サインは特に出していないものの、相手の内野陣は一点もやらない前進守備態勢。チャンスに強い猛田でもスクイズ警戒はしているようだ。

山口から一点を獲るのが難しいってわかっているからこそできる守備だ。さすが帝王というべきか。

(ここは駆け引きだぜ。相手はスクイズも視野に入れて守備をしている。かと言って打ちに行って内野ゴロは怖い)

喜多村は確かにバランスの良い打撃を持ってるが、山口から簡単に打てるわけじゃないし、大京は力はあるがフォークを完璧に捉えるほどのミートも無い。

スクイズはやらない。点はほしいが、今は攻めて獲れなかった時のダメージがでかすぎる。

猛田の力を信じる。

山口が振りかぶって投げた。球は途中で変化してキャッチャーミットに収まる。

ランナーが三塁に居るこの場面でフォークか!?猫神ってやつはずいぶんと攻める配球をしてくるな。

猛田のバットには当たらない。恐らくストレートだと思って振ったのだろう。

二球目のボールは外角へのカーブ。ボールゾーンから変化させるつもりだったのだろうか、ボールは若干外れてしまう。これで1-1。

三球目は内角高めにストレートが決まった。145キロの伸びのあるストレート。それを見逃して2-1となる。

ただ猛田の顔には焦りが見えない。

ひたすら山口に視線を向けて、投げる球を待っている。

山口が投げた球は三振を獲りに行く球の変化の大きいフォーク。

途中で落ちる球は、キャッチャーミットには―――――――収まらない。

バットに当たって、バックネットにガシャ!!!と音を立てて当たる。

「猛田……?」

「っ!!……」

ひたすら甘い球を待つために、ストライクゾーンのボールをカットして粘る姿。

東條には絶対に勝つことができないことをわかっていてこの姿なのか、それとも粘ることに集中してこの打法なのかはわからない。

今日の猛田は今までのフルスイングはしない!

やっとこいつの本領発揮だ。

無駄なフルスイングから一転、無駄のないミート重視の打撃に変わり相手の投手の球をコンパクトに打ち返す。例えそれは山口だとしても、抑えるのは難しいに違いない!!!

四球目も五球目も猛田は何度でもひたすらカットする。

そろそろ猫神も苦しくなっていているだろう。今までの配球がすべて通用しなくなり、簡単に振ってくれていた球が突然振ってくれなくなる。

だからこそ、このバッテリーは選択するんだ。

――――――――――逸らすことを恐れないで投げてくる球である” フォーク”を!!!

バシィッ!!!とキャッチャーミットに収まる音が響く。

130キロを記録したフォーク。鋭く、早く、この二年間で一番最高のフォークを投げたはずだ。

猫神がキャッチして一番驚いている。

これはやっぱり一筋縄ではいかないな。この試合、苦労するのはお互い様だろう。

『七番サード 喜多村君』

喜多村がバッターボックスに入って、さらに揺さぶりを掛けたのだ。

最初っからバントの構えをする。無論内野陣は先ほどと同じ前進守備。

猛田より力において劣る喜多村に対して投げる球はストレートしかない。

それを喜多村は狙い打つ!!!

鋭く三塁線の脇を抜けるが、ファールとなる。

「喜多村!落ち着いて行け!」

そう言うと喜多村はコクンッと首を縦に振って、打席に入る。

二球目は内角への変化の小さいフォークはストライクゾーンに決まる。

そして外角へ二球、カーブとシュートをボールゾーンへ外して、2-2になり次の五球目。

内角高めの144キロのストレートを喜多村は振りぬく!!!

ッカァン!!と打球はレフトへのフライ。

タッチアップするのには十分な距離。しかし、帝王の外野守備陣は強肩揃いだ。

刺すのにも十分な距離。

(行く!)

「走れ!修也!」

「行くでやんす!!」

レフトが捕球した瞬間に、俺はサードベースからスタートを切ってホームベースへと走る。

後ろから助走してとった小早川はそのままホームへと送球する。

(走りきれ!!)

准が「ホームに走れ!」という指示を送ってきたのでそのまま走る。

俺がホームベース付近でスライディングすると同時に猫神が捕球し、タッチする。

それをかわすことなくホームベースに向かって思いっきりスライディングする。

ホームベース付近は砂煙が舞い上がる。審判は砂煙が舞い上がるのが少し収まってからコールをした。

ほぼタイミングは同時……どっちだ!?

「……アウトッ!!!」

「よっしゃあ!!!」

猫神が喜んで、後ろのカバーに向かっていた山口と一緒にベンチに戻る。

その姿を見ながら俺はベンチに戻る。

結局攻略しなければいけない球はフォークとストレートだ。カーブとシュートはカウントを稼ぐまたはボール球にするだけの球だ。

これからプロや大学などで戦っていく上ならば鍛える必要があるが、高校野球の時点では決め球を生かす為ならば十分なボールだ。カーブは良くカウントを稼ぐために使ってくる。

狙い打ちすれば問題ないわけだが、その狙い打ちもどれだけ続くかはわからないのだ。

攻略できるのは三順目以降だな。友沢、聖、俺は二順目から打ちに行けるかもしれないが、この試合の作戦をわすれないようにしないとな。

(耐えろ……この試合は粘れば、絶対にチャンスが来る。そこでたたみかけてやるぞ)

 

 

 

 

 

                     

 

 

 

 

 

 

 

 

二回裏。

四番から始まった帝王実業の攻撃。

蛇島が見逃し三振、五番遠山が三球目のスライダーをセンター前に弾き返して一死一塁。

六番小早川がバントし、二死二塁となるが、七番山口をセカンドゴロに仕留める。

三回表。

聖タチバナの攻撃。

八番大京が山口のフォークで空振り三振、九番峰田も同じく空振り三振。

一番矢部君が粘るが、最後は146キロの内角低めのストレートで見逃し三振となる。

三回裏。

八番鈴田、九番東を連続空振り三振にするが、一番大矢に四球。

二番の猫神にセーフティーバントをされて二死一、二塁にされるが三番広上をカーブでキャッチャーフライに打ち取る。

 

四回表。

聖タチバナの攻撃。

山口のここまでの投球数は61球。

かなり多い球数だし、とりあえず作戦の一段階は成功だな。

さてと、そろそろ次の段階へと行きましょうか。

「みんなちょっと聞いてくれ」

そう言うとみんなが俺の方を向く。

「まずは作戦の第一段階は成功した。今から二段階に移る」

「二段階でやんすか?」

「ああ。今までは球数を投げさせることに集中してきたが、これからは好球必打で行ってほしい。理由としてはこれからは恐らく甘い球が多くなるはずだ。フォークというのは握力を使う球の一つだし、ナックルの次に握力を使う球と言っても良い。幾ら山口とは言え、そろそろフォークが抜けてくるはずだ。そこを狙い打つ」

「カーブとシュートはどうするんだ?俺はともかく、他の打者にはこの二つの変化球が多いぞ?」

「だから、フォークをここから捨てていくんだ」

すると友沢以外の全員の顔がポカンとなったが、すぐに戻って聖がわかったように話した。

「フォークが抜けてくれば、フォークよりも打つのが簡単なカーブやシュートの割合が増えていくということか」

「御名答。聖の言うとおりだ。ストレートはともかく、カーブやシュートをヒットに出来る確率が増えていくからだ。フォークを捨てて、積極的にカーブやシュートを狙っていこう。ストレートもヒットは厳しいかもしれないけど、フォークよりは簡単だろ?」

「投手としては持ち味の決め球がストライクにならないとなれば、使いたくなくなるのよね。私の場合は見せ球にしてストレートとかで決めに行くわ」

「とりあえずフォークよりも攻略しやすい別な球を打てばいいんだな?」

「そういうことだ。准、行ってこい」

はいよと准は言って、ヘルメットを被り打席に向かう。

この回、点取りに行きたいな……ぶっちゃけ俺も今までは全力投球し続けている。

持っても八回、七回が限界か。早めにリードをとって、みずきちゃんに回したいところだ。

『二番センター 川瀬さん』

准が打席に立つ。

さて、狙って行けよ?お前にフォアボールを出したからまずはストライクがほしいところだからな。

山口が振りかぶって投げた。

ッキィン!と二遊間を破ってセンター前ヒットとなる。

セカンドの蛇島が飛び込むが、グローブの右を抜けていった。

打った球は威力のあるストレート。だが、しっかりと芯に当たればヒットにもなる。

今までとは打って変わって初球からヒッティング。

よし、行けるぞ。

『三番キャッチャー 六道さん』

変化球に強い聖にはストレートを決め球にして、いつものフォークは見せ球になるだろう。

一球目は外角低めへのフォーク。ワンバウンドするが、猫神が体で止める。

次の球は外角へのストレート。

それをしっかりと聖は踏み込んで右方向に流し打つ。

快音を残した打球はライトポール右へと切れる。

聖も昨年よりも力がある。だったら、スタンドへ運んでもおかしくはない。

これで1-1。

「あの子、打つわよ」

そうみずきちゃんが言った途端、快音が響く。

打球はファーストの頭を鋭いライナーで抜けていく。その間に准は二塁を、聖は一塁を蹴った。

これで無死二、三塁。かなり相手にはきつい場面だ。

チャンス。ここで打順は頼れる四番友沢だ。

『四番ショート 友沢君』

「よし!!友沢行ってこい!!」

「友沢!!打たないと後で痛い目に合うわよ!!!」

俺達ベンチのみんなが声を出して友沢に声をかける。

ベンチのムード一気に変わって、楽しそうな雰囲気に変わった。

この場面で敬遠は無い。なぜなら、ここからは得点圏打率の高い五番、六番へと続く。

いくら友沢が怖いとはいえ、敬遠して無死満塁というのはリスクがでかすぎる。

もちろんリードしていればあったかもしれないが、今は均衡状態で中盤。

帝王の内野が集まって話し合う。

話しにほとんど参加していない蛇島が俺達ベンチのはしゃぎようを眺める。

その眼がとても久しぶりに見たような眼で、そして過去の自分を見ているような眼。

蛇島。お前はもしかしたら――――――――

『自分がやったことを後悔しているんじゃないか?』

実力でレギュラーをとって、名門帝王のスタメンに名を揃えることができた。

友沢も認めていた守備力、打撃力。でもさ、お前にも帝王にも一つ足りないものがあったはずじゃないか?

”仲間”という最高の味方。

それが俺達と、帝王との差だと思うぜ。

自分が気にくわない相手を傷つけて、自らスポットライトを浴びせる。お前はわざわざそんなことをしなくてもスポットライトが浴びさせられるほどの選手なのにな。

シニア時代に同じくチームメイトだった友沢にケガを負わせて、帝王やあかつきといった名門校のスカウト陣の眼を自分に向けさせた。

そんなことしなくてもお前は実力者なのにも関らず。

そして次には俺にケガを負わせて不利だった試合を有利にし、勝利した。

自分だけ良ければいいのか?それは違うだろ。

サークルから友沢の打席を見届ける。

「無理だよなぁ……無失点で切り抜けるなんてさ。そうだろ?山口」

山口は初球からフォークを連発する。

それを友沢は見極めつつ、ストライクゾーンの球はしっかりと振りに行く。

そして2-3となった六球目。

山口が投じたのは恐らくフォーク。しかし、それは途中で落ちることなく高めに抜けたまま友沢のバットは見事に捉える。

ッカァァァン!!!と快音を響かせ、飛んでいく。

セカンドの蛇島はその打球を見つめて、そして空を見上げる。

――――その顔は嫌悪に満ちてはいなく、清々しい顔。

蛇島は友沢の一打で恐らく試合が決まったと感じた顔をしていた。

俺の投球を見てそう思ったのか、これから点をとられるのを想像したのかはわからない。

「まだ終わってない!守るぞ!」

「俺に打たせてこーい!!」

蛇島はまだ前を向く。今までの姿とは違って、みんなに声を出すように指示を出してチームを引っ張って行く。

その声にショートの広上も反応して、声を出す。

やがて帝王はチーム全体が声を出して盛り上げていく。そこには今まで無かったチームワークのかけらが見えていたのだ。

帝王は実力主義で、さらに帝王という一番実力があるものがキャプテンに任命される。

あかつきも同じく実力主義ではあるが、キャプテンは部員全体で決めるらしくそこには誰が任せられるのか、誰だったら良くなるのかという相談をしながら決めるらしい。

帝王には無かったチームワークが生まれる。蛇島という存在感のある選手が積極的に声を出し、チームを引っ張る。それに続いて実力のある選手はどんどん続いていく。

「ったく手強いな。やっぱり」

「ふっ、そうだな。だがこういうチームも珍しいものだ」

「先に先制できて良かったぜ。助かった」

「行ってこい、朱鷺。相手に止めを刺しにな」

そう言って友沢は俺の肩に手を置いてベンチに戻って行く。

バックスクリーン直撃の先制スリーランホームラン。これで三対〇。

試合はまだまだ白熱していくだろう。

『五番ピッチャー 朱鷺君』

さて行きますか。二者連続ホームランを狙いにな。

 

 

 

 

 

 

                     

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲームセット!!六対三で聖タチバナの勝ち!!」

「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」

 

 

聖 000 400 110

帝 000 011 010

 

 

お互いに挨拶をする。

俺が帽子をとって挨拶すると帝王の選手の眼には涙がこぼれていた。

崩れて泣きじゃくる三年生達。それを見て堪える者もいれば共に崩れる下級生。

夏の高校野球は負けたら引退という過酷な物だ。例え俺らが負けていたとしても、まだ一年あるんだという気持ちですぐに練習できるかもしれない。

でも、三年生は違う。

負けたら高校野球は終了なのだ。だから勝つまで、いつまでも自分たちの高校で野球をするために頑張る。

帝王の選手たちは例年なら三年生だけが涙をこぼしていた。

しかし、最後の試合で一つになったチームは違かったのだ。全員がその場に残り続けて三年生達の姿を見る。

「蛇島……」

帝王という名のキャプテンを務める二年生の蛇島は三年生を見て、涙を零す。

その中で蛇島に声をかける先輩がいた。

プロ注目のリードオフマンの大矢が蛇島のそばに来る。

「ありがとうな、蛇島」

「……俺が打てなくて、先輩らに迷惑をかけてしまって……」

「お前のおかげで帝王というチームがこんな一つになるとは思わなかった。正直最初はお前に帝王を獲られた時はお前のことを憎んでいた。でも、みんなで声を出している風景を見てこいつが帝王で良かったって思ったんだ」

「………」

「楽しかったんだぜ。俺は。たぶん小早川も遠山もな。お前がこれからチームを引っ張って行けよ」

「……はい」

「後、お前が朱鷺したことは許されないことは事実だからな。ここまでやられたというのも仕返しって感じだ。蛇島、お前に託したぞ。甲子園制覇絶対しろよ」

そう言って大矢と小早川と遠山が一緒に球場を去る。

蛇島はその姿から目を逸らして俺達の方へと歩いてくる。

「蛇島」

「……すまなかった。俺がやったことは許されないことだった」

「もう過ぎたことだ。気にするんじゃねえよ」

「……次当たったら、チームワークで上回ってやる。負けない」

「そう、か。でもこっちには頼れる主砲が居るものでね」

そう言って俺は友沢に指をさす。

蛇島は友沢を見て、少し表情が暗くなる。

「……彼にも俺は悪いことをした」

「そう思ってるなら俺は違うぜ?」

「なんだと?」

「あいつがここまで成長したのは、肘を壊して野手転校したからだと思う。元々投手としては実力はあったものの俺がビデオでシニア時代の友沢を見たんだが、あんまり投手としてのセンスは感じなかったな。努力で補っていた感があったし。まあ、また勝負しようぜ蛇島」

「……お前の球を次はスタンドへ放り込んでやる。今日みたいなフェンスダイレクトじゃなくて、バックスクリーンだ」

「そうかい」

「……覚えてろ。また来年会おう」

俺らは握手をしてお互いのベンチを去って行く。

蛇島の背中は大きく、そして輝いていた。

「なあ友沢。蛇島をどう思う?」

「そうだな……帝王っていう選手より、キャプテンという言葉が似合ってるって感じだ」

「え、俺はそんなことを聞いたんじゃないんだけど」

「ふっ、良いから行くぞ」

「早くしなさーい!友沢!」

「修也、早くしろ」

お互いの顔を見て少しため息をついた後に笑う。

行くぞ、夏はまだまだ始まったばかりだ。

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