実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校   作:Reaflet

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第十五話 “あかつき大付属高校vs恋恋高校 意地のぶつかり合い”

市民球場にて。

 俺達が三回戦を見事に極悪久高校に十二-〇でコールド勝ちで突破し、明後日に準々決勝控えたある日。

 俺と聖、そして猛田が共に試合を観戦しに来ていた。

 友沢や准らは別球場で行われているパワフル高校とそよ風高校の試合を見に行った。

 

 あかつき大付属対恋恋高校。

 市民球場だとはいえ、かなり客が入っておりいかに注目されているかを物語っている。

 先発はあかつきは猪狩、恋恋は早川という両エースとなっている。

 ネットではどういう試合になるのかを予想されていた。

『あかつきが圧倒的な力で圧勝』『恋恋高校が接戦を制して勝ちもある。だけど、あかつきが有利』

『両エースの調子次第。猪狩は調子が悪くても恋恋を一点以内には抑える。早川がどれだけ抑えられるかだと思われる』

『樋宮、南、小井田姉がどれだけ打てるか。初野も北条も猪狩からはさすがに打てない』

『あかつきは早川をしっかりと攻略してくるはず。小井田妹があの魔球に近いボールで抑えるかもしれない。早川が六回、小井田妹が三回が理想だな。猪狩?無論完投』

『あかつきは早川の新ボールを打てるかどうかなはず。恋恋はまじで点が獲れない。一点をもぎ取って無失点で勝つパターンしかない』

『早川可愛いよな』『小井田妹クール可愛い』『小井田姉はかっこいい』

 最後の三つは除いて、やっぱりあかつき有利の評価だ。恋恋が点が獲れないっていうのがネットでの評価だ。

「修也はどう思う。この試合」

「そうだな……。俺としては恋恋が不利というのだけしかわからない」

「私としては……恋恋に勝ってほしいのが本心だ。あおいに抑えてほしいが……」

 聖は早川のことを呼び捨てで名前で呼ぶことしたのか。合宿での影響かな。

 さてとそれはどうだかな。

 猛田は……やっぱり恋恋に勝ってほしいのかね。ずっと黙っている。

 過去に不運な事故で復活してくれた幼馴染らが居るチームだからなのかね。三人が幼馴染でチームを引っ張っているのもこの恋恋カラーだな。

「さて始まるぞ……試合が」

 そう呟いた時に試合開始のサイレンが鳴り響いた。

 

 

 

 

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 現在八回表。

 恋恋高校の攻撃。

 バックスクリーンのスコアボードには見事にゼロが並んでいて投手戦というのが一目でわかった。

 猪狩はこの回まで打たれたヒットが四本。早川の打たれたヒットも五本と両エースがしっかりと押さえこんでいるのがわかる。

 でも、違うのは球数だ。

 猪狩はこの回までわずか七十七球。対する早川は――――百二球だ。

 いかに樋宮が慎重にリードしているのかわかる。

 新たに覚えたらしく、カーブとシンカーの他に高速シンカーが良い味を出している。

 しかし、それだけに頼らずストレートを生かす配球もしている。

(だけど、そろそろつかまりかけているんだぜ?先制点獲らないと負けるぞ……南)

『八番レフト 増田君』

 猪狩が振りかぶって投げる。

 おおきく振りかぶって投げるその姿に疲れを感じさせない。

 ッズバァァン!!!と149キロのストレートがキャッチャーミットに突き刺さる。

 増田も手を出そうとするが内角低めへのコースはさすがに手が出ない。

 二球目は左打者へに対して外へ逃げていくスライダー。手を出しても当たらない。切れ味鋭いスライダーが決まる。

2-0からバッテリーが選択したのは容赦ない球。

―――――切れ味の鋭いフォークだった。今大会から投げているフォーク。

「体が震えるほどすげえ投球だぜ。猪狩守は」

「ああ。あいつは本当に一流の投手だぜ」

 猛田の言葉に反応する。

 そう言って視線をグラウンドに戻す。

 九番の早川も投球のためか見逃し三振。そして一番の北条が打席に入った。

 猪狩は初球からフォークを投じる。

 それにギリギリ北条は喰らいついていく。三塁線へのファール。

 今日の北条はわずかだが、ヒットを打っている。

 しかし、積極的に攻めていこうと思ったのか盗塁をしたが進君が見事に外して刺されていた。

 二球目の外角のカーブを見逃して、1-1となる。

「まだ可能性はあるからな。この回は我慢だな」

 北条が内角高めの150キロのストレートを空振る。完全な振り遅れだった。

 2-1に追い込まれたが、そこから粘る。二球ファールとなったが、最後はスライダーに反応できずにピッチャーゴロとなってしまった。

「打てないのか……迷ってしまったのかわからない。とりあえずこんな投球されたら一点も獲れないぞ……恋恋は良く粘っている。良い試合してるな」

「確かに。タクミ……しっかりリードしてくれ……」

 聖と猛田がつぶやくがはそれに答えれずに目線を恋恋の散って行くショートを見つめる。

 南はここまで二安打を放っている。小井田も樋宮も猪狩にしっかりと喰らいついて一安打だ。

 次の回……つまり確実に回る、初野、樋宮、南。

 こいつらで点をとらなければ……絶望的だ。

「この回もしっかり抑えてくれないとな……」

 この回はあかつき打線は一番からだ。

 点を二点以上獲られたらそれこそ絶望だ。

『一番センター 八嶋君』

 早川をこの回まで引っ張るか、小井田妹に交換するか。どっちにするんだ―――南?

 早川ならなんとか抑えられるかもしれない。しかし、失投というものがつきものなのだ。ましてや疲れが出てきているのならなおさらだ。

 小井田妹は残念だがスタミナが持っても切り札と呼ばれる”スローフォーク”を連投させたら四回以上は持たないぞ。

 理想としては九回まで早川を引っ張って……後を小井田妹に任せる。これが理想なはずだ。

 この回さえ早川で乗り切れればチャンスがある。

 

 

 

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 マウンドでタイムを掛けて靴ひもを結ぶあおいちゃんの元に僕は寄った。

 それと同時に内野全員が集まった。どうやら樋宮君がタイムを掛けたようだ。

「あおいちゃん」

「はぁ……はぁ、南くん。どうしたの?……はぁ、はぁ」

「行けるかな?あおいちゃん」

「はぁ、はぁ、なんとか大丈夫、だと、思うよ」

「いや、球が軽くなってる。きついはずだ。制球も若干乱れてるし、響に交換したほうが良い」

「樋宮くん、大丈夫」

「真奈花さん。どう思う?」

「……」

 手のひらであおいちゃんを指す。

 あおいちゃん次第だって言いたいのかな。再びあおいちゃんを見る。

 眼がまだいけるって物語っている。

「行こう。このまま。がんばって、次の回に点を取るから」

「はぁ、はぁ。うん、わかった」

 そう言ってあおいちゃんはニコッと笑った。

 真奈花さんは黙って自分の守備位置に戻る。グローブを自分の拳で叩きながら、外野に指示を出している。

 樋宮君も早川の肩に手を置いて、まかせたぞと言い戻る。

 初野君も、先輩頑張ってくださいと言って戻って行く。

「守るからね。絶対。守る」

「うん、南くん。信じてるよ。信じてる」

 そう言って僕は守備位置に戻った。

 声を出してチームを盛り上げる。こんなに頑張ってくれているエースに迷惑はかけられない。

 絶対にあかつきを倒して、甲子園に行くんだ。

 僕らがこの地区の頂点に立つんだ。逆ブロックで戦って勝ちあがって行くチームを倒したいんだ。

「みんな!!守るぞ!!!」

 僕の声に反応してみんなが声を出す。

 バッターは一番の八嶋くんだ。足のある選手だから注意しないといけない。

 あおいちゃんが振りかぶって投げた初球。

 外角低めのカーブを見事に踏み込んで弾き返してきた。

 ピッチャーの右の足元を鋭く抜ける打球に僕は反応した。

 飛びつけっ!!と体が自然に飛びついた。グローブに収まった途端に座ったまま一塁へスローイングした。八嶋君の足も同時にベースを踏む。

 どっちだっ!?

「アウトッ!!!」

『これは、ファインプレーが出ました!!あかつき打線が無失点なのも守備が堅いのも一つの理由でしょう!!南のファインプレーです!!』

 よしっ!!これでワンアウトだ!

 まだまだ僕らは負けられないんだ。喰らいつく!

『二番ショート 六本木君』

 あおいちゃんが振りかぶって投げる。

 内角高めへのストレート。それを六本木君は見逃す。1-0。

 二球目のシンカーが甘く入り、それを六本木君が捉えた。

 セカンドの頭上の強烈なライナーが飛び、それに初野君はジャンプしてキャッチしようとする。

 グローブを出したが、それは弾き飛ばされてボールがセカンドベース付近に落ちていく。

 それに僕は飛び込んでキャッチする。

 届けっ!!!

――――ボールは見事にグローブへ収まった。

「アウトッ!!」

『またもや南のファインプレーです!!しかし、初野も良くグローブに当てましたっ!!!』

 審判がコールをして、観客がわああっと沸く。

 良かった、捕れて良かった。

 あおいちゃんに返しながら声をかける。

「もっと打たせていいよ!」

「ナイスプレー!」

「おし!ツーアウト!守るぞ、この回!」

 みんなの声も止まらない。

 よし、この回もゼロに抑えれる。抑えれるはずだ。いや、抑える。

『三番レフト 七井君』

 ここで東條君、友沢君にも並ぶ超高校級打者、七井君が打席に入る。

 威圧感。サングラスをかけ、バットを構えた。

 あおいちゃんが初球に投げた球は――――――マリンボール。

 夏大会前に完成した武器であるオリジナルボール。高速シンカーにも近いボール。

 それを七井君は完璧に捉えて鋭いライナーで僕の方向へ飛んでいく。

 ジャンプすれば届く球。その打球はギュルル!!!と音を立てて飛ぶ。

 怖い。でも、捕りに行く!!!

 グローブに収まった瞬間僕の体は打球に押されて、吹っ飛んだ。

 それでも僕はグローブを離さない。

 地面に体が強く打たれて、痛みを伴いながらもグローブを上げて審判にアピールする。

「アウト!!」

『またもや、ファインプレーです!!!このような選手がどこにいるのでしょうか!?すごすぎる!!!名手、南!!』

 観客の声援は僕の名前に包まれていく。

 そのスタンドを見つめると、朱鷺、六道さん、猛田君の姿が見えた。

 僕らとあかつきの試合を見に来ていたのかな。良かった、恥ずかしいプレーをしなくて。

「南、早く戻れ」

 そう言ったのは猪狩。

 あかつき中のエースであり、そしてあかつき付属高校のエース。

―――――そして元チームメイト。

 マウンド上で僕を見つめる。猪狩も僕を見つめて、お互い同時に目を逸らした。

 打つ、絶対に点をとってあげるんだ。あおいちゃんに完封勝利をプレゼントして、甲子園に行くんだ。

 僕がベンチに戻ろうとしたときに猪狩の声が聞こえた。

「……左手首。テーピングしておけ」

「えっ?」

 小さな声で僕に伝えたみたいだ。そして僕は自分の左手首を見た。

 すると――――――――――赤く、そして腫れあがっている手首があった。

 打撲なのか、骨折をしているのかわからない。でも、強く痛めたのはすぐに理解できた。

 それほど七井君の打撃力がすごかったということだろう。自分でもキャッチできたのは不思議だった。

 アドレナリンが出ているから痛みは感じない。

 でも、明らかにプレーに支障が起きるのはわかる。

 バットを振ったら、絶対に痛みが走るに違いない。振らなくてもわかる。

 ……大丈夫、絶対に心配はない。そう自分に言い聞かせてベンチに戻った。

 みんなの視線に入らないように救急箱からテーピングをとりだして、左手首に巻く。

 若干痛みを感じてしまった。そうとう痛い怪我なのだろう。アドレナリンが出ているのが助かったように感じた。

 その間に二番の初野君が三振に倒れて戻ってくる。

 さすがだね、猪狩は。容赦のない投球だ。

 バットを持って僕はネクストサークルへと向かった。

 負けられない戦いだから。朱鷺、見てて。

 あかつきと恋恋。どっちが勝つかの戦いを。

 

 

 

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「……すごい、どっちもすごいぞ」

 そう言って聖が感嘆した。しかし、俺とそして……猪狩は気づいているのだろう。

 さっき、南と話した時に教えたな、あいつ。

 先ほど手首には巻いていなかったテーピングを俺は見逃さない。

「バットを振らないで、ネクストサークルに座った。南は恐らくファインプレーの代償として、左手首を痛めたな」

「え?」

「なんだと?」

「当然だ。あれほどファインプレーをして痛みが無いわけがない」

 俺がそう言うと二人は驚く。そんな二人に反応せずに俺はグラウンドを見る。

 どんな選手だって、体にダメージを与えるようなプレーをすればどこかで異常が起きる。

 高校生は体がまだ未完成だし、その分ダメージも大きいんだ。

 南は中学の時から自分の体を大事にしてきた。少しの怪我にも注意して、最高なプレーでチームをサポートした。

 でも、あいつは中学の時よりもかなり変わってる。

 守備範囲は広いことはわかってる。でも、高校になってからなぜファインプレーをあそこまで何度してチームを救うのか。チームの中で格が違うのは誰が見ても当然だし、早川や樋宮、小井田らも良い選手だが今の彼らはまだ良い選手の枠でしか収まらない。

 あいつの中で何かが変わったんだ。俺が知らないどこかで、猪狩が知らないどこかで何かが変わったんだ。そういう超一流の選手は対策を立ててもそれを打ち破る能力を持っている。

 南はそういう選手まで上がってきたんだ。

 打順も三番から四番というさらにプレッシャーがかかるようになったし、中学のキャプテンと高校のキャプテンはかなり変わってくる。

(戦いたい……猪狩も南も……超一流の選手たちと)

 なあ、南。お前には猪狩から”打てる”か?

――――――――――それを見せてくれ。

 樋宮が初球、二球目と変化球をカットして、三球目の釣り球をしっかりと見逃して2-1。そして四球目の内角低めの150キロのストレートを捉えて、レフト線へのツーベースヒットを放った。

 うまく低めを引っ張ったな。しっかりと振りぬいた結果だろう。

「ナイスバッティンだ!!!」

「これで一死二塁。あかつきバッテリーはどのような選択をしてくるか、だな」

「聖はどうする?この場面」

「む……投手によるが、猪狩をリードするならば敬遠する。だが、修也や鈴本だったら勝負に行く」

「俺や鈴本?」

「猪狩には左打者に対して外に逃げていく変化球しかない。その分150キロ越えのストレートがあるが、南はミートもうまいしチャンスに強い打者だ。逆方向にうまく打たれる可能性の方が高い。それならば、次の真奈花で勝負したほうが良い。確かにチャンスには強いが、猪狩のスライダーやフォークで併殺が取れる」

「なるほど。まあ、猪狩は勝負しに行くだろうけどな」

「だろうな。タクミを返したいし、怪我しているのわかっているならなおさらだぜ」

 お前の実力を見せてみろ。南!

 

 

 

『四番ショート 南君』

 

 

 

 

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 僕は大きく息を吐く。

 そして屈伸をして、バットのグリップを強く握りしめる。

 ひるむな。ひるんだら絶対に負ける。

 自らの左手首が痛んでも、この回は点数を入れなきゃいけない。点を取るのが、僕の役目であり四番の役目だから。

 僕がバッターボックスに入り、均していると進くんが話しかけてきた。

「南先輩。左手首大丈夫ですか?」

「大丈夫。そんなこと言ってたら、負ける」

「さすが南先輩ですね。そう言うと思ってました」

「打ってやる。負けられないんだ。勝って、絶対朱鷺たちと戦う」

 そう言って、僕はバットを構える。

 マウンド上には猪狩。一死二塁だから、ワンヒットで樋宮君の足なら帰ってこれる。

 今のこの左手首でヒット狙いだったら間違いなく外野には飛ばない。せいぜい内野ゴロが関の山だ。

 初球からフルスイングしていく!

 猪狩が投げた球は149キロのストレートが内角低めに決まる。

 スイングするが当たらない。

「ストライークッ!!」

『猪狩守、ここで149キロのストレートを投げてきました!!威力は衰えません!!南、バットに当たりません!!』

 あんな球今の僕に打てるのか?150キロ近い球は僕に打てるだろうか?

 そんなのきまってる。

『フォークで空振りを取りました!2-0!ここで猪狩は勝負に来るでしょうか!?猪狩守、振りかぶって投げた!!!』

 猪狩だから打てないのか?甲子園で完全試合した投手だから打てないのか?

 朱鷺だったら、東條君だったら、友沢君だったら打てるのか?

 違う。努力をしてきたんだ。聖タチバナに負けて、パワフル高校に負けて。

 あかつき中だった時だって、朱鷺が四番だった。でも、今だったら負けない。

 絶対に打てる!ここまでスタミナが切れても投げてくれているあおいちゃんに、エースに援護しなきゃだめなんだ!

―――――――――――――打てる!!!

 ッカァキィィン!!!!

 僕が振りぬいた打球はぐんぐん伸びて、右中間のフェンス直撃。

『伸びる!!伸びる!!!惜しくもスタンドには入らず、しかし、南は三塁ベースを陥れました!フェンス直撃のタイムリースリーベースヒットです!一対〇!恋恋高校一点リードです!』

「南くん!!!ナイスバッティング!!」

「南!」

「紘人君!ナイス!」

 痛んでる左手ではなく、右手を空に挙げる。

 ナイスバッティング!自分でも驚いている。151キロのストレート。それを僕は捉えたんだ。

 左手首もかなりまずいところまでいってるかもしれないけど、そんなのは関係ない。

「ナイスバッティング」

「六本木君」

「でも、僕らは負けない。あかつきはこんなところで負けられないんだ」

 その後は真奈花さんが敬遠されて、香川くんがセカンドゴロで併殺になる。

 さて、最終回しっかり守ろう。勝ちに行くために。

 

 

 

 

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 スコアボードには1-0と書いてあり、それを見る。

 猪狩の151キロのストレートをフェンスダイレクトへ持っていく南の打撃力。それは左手を痛めながら捉えた力。馬鹿力ともいえるし、火事場力ともいえる。

 コースは若干真ん中寄りの内角高め。

 さすが、と言わざるを得ない。成長している。

 昨年の南だったら、打てても内野の頭を超えるぐらいだっただろう。だけど、それでもここまで成長してきた。

(だけど、成長したのはあかつきも同様だぜ?)

 ここで早川を下げたら、勝ちが掛かっている場面での経験の浅い一年の登板。

 ここで早川で引っ張ったら三本松、五十嵐、進君、猪狩という強力な打者がたちはだかる。

 もう、失投は許されない。

「例えば早川並みの精神力の強さを持っていれば別だが、控えにはそんな投手はいないだろう」

「早川がむしろ立ち向かっていく性格だからこそ、あかつきにここまで良いピッチングで来てたんだ。小井田妹にそんな強さは感じない」

「確かに。あおいの精神力の強さは凄いわ。でも、スタミナ切れのままじゃあ抑えられるかしら。私的には交換したほうが良いと思うわ」

「だけど、響に任せるのは結構つらい部分がある。あいつはあんまりプレッシャーには強くはない。平常心というかいつも通り投げられればあかつきだって五回は抑えられるはずだぜ」

 パワフル高校のほうへ偵察を行っていた友沢達が戻ってこの試合を見に来たようだ。

 友沢の言ったとおり、早川並みの精神力の強さを持った選手は恋恋の投手陣にはいない。樋宮が投げられるのならまだしも、小井田妹はどう考えても不安なのだ。

 俺でも選択を迷うところなのに、南は簡単に決められるのか?

 エースを下して控え投手を投げさせるかエースを続投させるか。

 すでに投球数は百十球近く超えている。失投はあるだろう。制球の良い早川に失投は無いと考えた時点で負ける。

『ここで恋恋高校タイムを掛けます』

 内野陣が集まって話し合う。

 それにしてもメンバーが凄くなったな。

 ファーストはシニアでもそこそこ良かった香川、セカンドは俊足堅守で有名だった初野、サードは女性ながらも守備は堅く、打撃も良い小井田、ショートはスーパープレイヤー南。

 守備力は相当凄い。エラーもこの大会では一つもない。

 キャッチャーは転向した樋宮。投手経験しているからか、うまく投手を生かせている。

 外野陣だってセンターの北条を筆頭に、守備も堅い。

 打線だって一~五番だったら点は取れるし、早川はなかなか攻略できないだろう。

『四番ファースト 三本松君』

「代えないみたいだな。これが吉と出るか凶と出るか」

 友沢がそう言った。

 確かにそうだ。どっちにでるのかがわからないんだ。早川が抑えるか、抑えないか。

 早川が振りかぶって投げた。

「あっ!!」

 みずきちゃんが声を漏らした。

 早川は先発タイプであるかもしれないが、スタミナは足りない。それでも内角高めのストレートはかなり有効で友沢などの打者も手こずる球なのだ。

 しかし、その球は球威があまりない。その分、アンダースローからノビがある球が出てくるのだ。

 その球がもしも内角高めに行かないで甘く入ってしまったら?

 球質は重い球では無い。

―――――――――――――――失投。

ッカァァァン!!!

 早川の失投は虚しくもレフトスタンドに入ってしまった。

 早川は打球を目で追いかけずに、そのままひざから崩れた。

 チームでもぎ取った一点。それをあかつきは簡単に取ったのだ。これがホームランの多い四番の怖さであり、甲子園を経験しているか、していないか。

 渡されたボールをゆっくりとプレートの上に置いて、ベンチに早川は戻って行った。

 戻って行く早川に観客から拍手が沸く。

 一人であかつき打線を八回まで〇に抑えたんだ。しかも、女の子でここまで抑えたのは観客もすごいとわかったのだろう。

「あおい……ナイスピッチング」

 みずきちゃんが呟くと、それに聖も頷いて拍手を送る。

 打たれてはいけない一球を打たれてしまったのだから、ショックだろう。

 未だにベンチに戻っても後ろの方で下を向いている。 

『恋恋高校、シートの変更を申し上げます。ピッチャー早川さんに代わりまして、小井田響さん』

 ブルペンからそのままマウンドに上がる小井田妹。

 投球練習を行って、プレイボールが掛かった。

『五番サード 五十嵐君』

 小井田が振りかぶって投げた。

 ゆっくりとした軌道は途中で角度を変えて、キャッチャーミットに収まった。

 無論、五十嵐のバットは空を切る。

 

「ストライークッ!」

『何でしょうか!?今の変化は!遅くてまるでフォークのような変化をしました!』

 まじかよ……。あの変化はシャレにならねーだろ……。

「さらには響にはスローカーブ、サークルチェンジ、カットボールがある。制球力も良いし、この回は抑えられるだろうよ」

 スローカーブと”スローフォーク”はまったく違う。

 スローカーブは初速と終速が激しいため、タイミングを外すことができるし遅い分、変化量も大きくなる。回転多くかかるしな。

猛田によるとスローフォークは初速から遅くて、終速との差があまりない。回転も少なく、特殊な回転をしているから、ノビがありながらも球速が落ちずに途中で切れ味のあるフォークで落ちる。

 小井田妹はリリースの位置もまったく同じで、フォームも同じ。さらには球持ちも良いし、かなり打ちづらい球になっている。

 二球目は内角低めへのストレート。左投手特有のクロスファイヤーでストライクを取り、2-0。

 その後、外角へ逃げていくサークルチェンジで五十嵐をファーストゴロに打ち取った。

 続く進君を2-3からのカットボールでセカンドゴロ、猪狩を初球のスローカーブでレフトフライに打ち取ってチェンジとなった。

 

「この後はたぶん試合は動かないだろう。どちらも上位打線に回れば変わるが」

「同感」

 友沢と准の言葉通り、試合は見事にどちらの投手も三者凡退だった。

 そして、十一回の表。打順は一番の北条から。

『一番センター 北条さん』

 その北条に対して猪狩は初球にスライダーを投げた。

 それを北条はしっかりと踏み込んで逆方向へと弾き返した。三遊間への深いゴロ。

「抜けた!」

「いや、六本木が追い付く!」

 六本木がうまくさばいて、素早く一塁に送球した。

 それと同時に北条がファーストベースを駆け抜ける!どっちだ!?

「セーフ!」

『セーフです!!北条の足が勝りました!!!これで無死一塁!恋恋高校チャンスです!』

 これで無死一塁。二番の初野は初球にサード方向へのバントをして、一死二塁とする。

 三番の樋宮がバッターボックスへと入って、バットを構えた。

 どう出てくる?バントか?それともヒッティングか?

 投じられた球はストレート。内角へのストレートは見事に決まった。148キロのストレートはキャッチャーミットに吸い込まれた。

 すぐに猪狩は振りかぶってカーブを外角に決めて、最後に樋宮へ投じたのは

 

――――――ライジングショット。

 

 浮き上がる球を樋宮が捉えきれずに空振りをした。

「っ!とうとう完成させやがったか……」

「ライジングショット……朱鷺が言ってたやつか」

 初見でヒットを打てと言われたら打てる選手は世界でも一人居るか居ないかの球だ。

 なんせ浮き上がるんだからな。

 前に未完成のやつを見せてもらったが、その時よりもすべてが違う。キレ、スピード、回転数。

「ストライク!バッターアウト!!」

『い、今の球は何でしょう!?バットの上を通過したような気がしました!!しかし、これで二死二塁!バッターは今日大活躍の南です!!』

 観客の歓声が南へと向けられる。

 もうこれで打てる打者がこいつしか限られたのだから。

 はっきりと言えば、ここで南が打ったら恋恋の勝ち。打てなかったら……あかつきの勝ちという可能性が高くなる。

 

「ライジングショットかストレートだ」

「なんでだ?タクミには最後にしか使わなかったのに」

「別にスライダーとかフォークでも良いだろ?」

「じゃあ、この場面でフォーク投げたとして、怪我してて弾き返したやつがしっかりと弾き返せる能力を持ってるやつになぜその球を投げる?すでにあいつの手首は限界に近い。ストレートとライジングショットで攻めてくるに決まってる」

 息をのみながら南へと視線を送る。

”打つ”か”打てないか”。

 初球、球種はストレート。外角低めへのボール球。

 それをしっかりと見逃した。0-1。

「来るぞ……!」

そう呟いて、猪狩が投げた球は――――ライジングショット。

それを思いっきり上からフルスイングした。

ッカァァン!!!

『打ったああああああ!!!ライトへの打球!!』

 ライトの九十九がバックする。

 しかし、フェンスの手前で手を上げてキャッチした。

 南の予想上回ってバットは上を通ったんだ。だから、あんなフライになった。

 これでほとんど勝てる見込みはなくなった。

 さっきの回にはエラーが絡んでいたから、この回打順は―――七井から。

 小井田妹が振りかぶって投げた球はサークルチェンジ。

 それをしっかりとミートした打球はセンター前へと抜けていく。

 次の打者の五十嵐は四球。そして打者は進君。

 その初球。

 スローフォークを当てて、三遊間へのゴロとなったが、南は反応できずに抜けていった。

 七井はストップして、無死満塁。

 そしてここで猪狩がバッターボックスに入った。

 ボールを二球続けて、三球目にカットボールを投げた。

 それをしっかりと打ち、打球はマウンドの左横を鋭く打球が転がる。

 南はそれに飛びついたが―――――――グローブの脇を打球が抜けていった。

 『抜けた!!!サヨナラ、サヨナラ勝ちです!!あかつき、準決勝にコマを進めました!!!』

 この試合で一番仕事したのは間違いなく南だった。

 しかし、早川のあの一球。あれが間違いなくダメージが大きかったはずだ。

 最後に投げた小井田妹は悪くはない。あくまで自分の仕事はしっかりと果たしたのだから。

 投手力も打撃力もあかつきが上回っていただけのことだ。

 猪狩は最後の最後は打たれなかった。しかし、早川は打たれた。

「お疲れ様、あおい」

 そうみずきちゃんが呟いた。

 とりあえず、あかつき相手にここまでの試合をするとは思わなかった。

 俺達が次は戦う番だ。

 負けない。決勝にコマを進めてやる。

 準決勝の相手は恐らくはパワフル高校だからな。準々決勝はサクッと勝ちに行こうぜ。

 ナイスゲーム、南。

 

 

 

 

 

                     

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、南くん。本当にごめん」

「俺こそごめん。怪我なんかしてなければ僕は4打点だったんだ。そうすれば勝てた」

 早川が泣きながらあやまる。

 自分のせいで、失点したまま降板してしまったのが悔しかったのだろう。

 南はそれを聞いて同じく涙を流す。

 努力してここまできた結果が負け。それが南にとって受け入れられなかった。

 他のメンバーは全く手を出せなかったが、南だけは猛打賞という結果。それでも南は悔しかったのだ。最後打てていれば、まだ結果は変わっていたかもしれない。

 左手首を冷やす氷が入っている袋を握りしめる。

「南。俺らがしっかりしなかったからこの結果なんだ。お前らのせいじゃない。小井田以降の打者はまったく打てなかった」

「打つのが四番の仕事だから。最後の打席が打てなくて、それが悔しくて……」

「また秋に来よう。それまでは練習して、秋では俺達が一番になれるように頑張ろう」

 そう言った樋宮君の言葉に頷いて、恋恋ナインは球場を去った。

(また来るから。待っててみんな。頑張ってくれ、朱鷺)

 チームのキャプテンは後ろを向かない。

 前を歩いて行った……。

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