実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校   作:Reaflet

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第十七話 7月3週 vsパワフル高校 エースと四番とキャッチャー。

 何年ぶりだろうか。

 ここ、猪狩ドームで高校野球が行われるのは。

 普段は高校野球でなんかは使われる事なんかなく、プロ野球の猪狩カイザースの本拠地として使われる立派な球場だ。確か観客収納数五万人までなのにも関わらず、現在の時点では四万人入っているという噂だ。

 第一試合目の対戦は聖タチバナ学園高校対パワフル高校で二試合目があかつき大付属高校対球八高校。

 本命のあかつき大付属高校の試合を見たがっている人が多いだろう。だけど、俺たちだって負けてはいない。あかつき?うるせえ、俺らはそいつらを倒しに行くんだ。

 帝王を倒した俺たちにとって、今は強豪校とも対等に戦えると信じている。

 

「試合が始まるけど、準備はできてるか?」

 

 そう言うと全員が頷く。

 見ると、それぞれ気合いが入った眼をしている。ただ一人、気合いが入っているように見えるが俺からしたら入ってない奴が居る。

 

―――――聖。

 

 やっぱりな。気合いを入れていたから大丈夫だとは思っていなかった。

 なんせ、あっちにはあいつがいるもんな。

 だが、そうも言ってられないぞ。集中していこう。集中。

 

『さて、この猪狩ドームで今この地区の夏の甲子園大会予選準決勝の第一試合が始まります。なんと猪狩ドームで開催される準決勝、決勝です!両高校のスターティングメンバーを発表しましょう!まずは先攻のパワフル高校から!』

 

 ドーム内はすでに大盛り上がり。

 この世代の中でもレベルの高い選手たちが揃っているのだから。いや、すでにプロ注目の選手だっている。観客も楽しみでしかたないだろう。

 スカウト陣も大量に揃っていて、恐らく俺達の代の選手に注目しているはずだから来年のドラフトへの視察かもしれない。

 

『パワフル高校は何と言っても注目は、エースの鈴本大輔、四番の東條小次郎でしょう!しかし、今年からバッテリーを組んでいる、女性選手の新田桃にも注目でしょう!。打線はクリーンアップが非常に強力で、さらには守備も十分に堅いチームです!

 一番セカンド円谷!パワフル高校の一番バッターといえばこの人!俊足を生かした守備と打撃に注目です!

 二番ショート生木!ミート力もあって、足も速く守備も堅い選手です!円谷とのコンビネーションを見せてほしいです!

 三番ファースト尾崎!クリーンアップの最初を打つ彼ですが長打力も巧打力も両方兼ね備えた打者です!キャプテンとしてチームを引っ張ります!

 四番サード東條!この地区でも三本の指に入る彼の打撃は相手チームにとって脅威な打者!春の甲子園では四本の本塁打を放っている強打者です!今日もバットに火が吹くか!?

 五番ピッチャー鈴本!外見の甘いマスクに似合わない本格派投手!武器であるナックルで今日も相手打線を抑えるか!?打者としても高いミート力を誇ります!

 六番センター猿山!非常にパンチ力のある打者です!尾崎よりもパワーだけなら上で、守備でも堅い面もあり、外野を引っ張ります!

 七番ライト遠藤!フルスイングが売りの強肩強打の選手です!小技もできる器用な一面もあります!

 八番レフト瓜生!冷静な一年生な彼は驚異の得点圏打率を誇ります!東條の後釜としての期待も高く、油断のならない打者です!

 九番キャッチャー新田!マスクをかぶっている女性選手です!リード面、キャッチング、スローイングどれをとっても期待のできる選手!打者としても粘りがあります!

以上がパワフル高校のスターティングメンバーです!

絶対的な四番とエースに加えて、他の選手たちのレベルも高いチームです!

続きまして後攻の聖タチバナ学園高校のスターティングメンバーを紹介しましょう!

注目はプロ注目の友沢、六道、朱鷺でしょう!!一年生ながらも出場している川瀬も気になるところです!

 一番レフト矢部!彼と言ったら足でしょう!身体能力は非常に高い選手です!ここ最近は出塁率も高くなってきています!

 二番センター川瀬!驚異的な守備範囲でチームをサポートします!打者としても粘りに定評のある女性選手です!

 三番キャッチャー六道!ミートセンスとキャッチングセンスが素晴らしい女性選手です!リード面にも注目です!

 四番ショート友沢!彼に言う言葉はただ一つ、スーパープレイヤーの一言でしょう!打撃に守備に期待がかかります!

 五番ライト朱鷺!今日はライトに入ってますが、普段はこのチームを引っ張るエース!打者としても勝負強く、友沢にも劣らない打者です!

 六番ファースト猛田!フルスイングでチームに勢いを与えます!勝負強さが光るプルヒッターです!チャンスに回れば期待できる打者でしょう!

 七番サード喜多村!安定した打撃と守備でチームを支えます!

 八番セカンド峰田!堅実な守備はチーム一!バントのうまさも光る器用な選手です!

 九番ピッチャー橘!変則横手投げの軟投派投手です!制球力も抜群で変化球のキレも抜群!普段は朱鷺の後に投げる守護神ですが、今日は先発です!

クリーンアップの勝負強さが光る打線で、エース朱鷺も恐らく後半になれば登場するでしょう!非常に期待がかかります!今ベンチから両チームの選手たちが出てきました!』

 

 俺達が整列をする。無論、パワフル高校の面子も同じく並ぶ。

 秋の地区頂点のパワフル高校。その主力である鈴本と東條が並ぶ。

 クールな表情でただ審判の指示を待っている東條、さわやかな笑顔で並んでいる鈴本。

 だが、その二人にははっきりと戦う意思が見えている。負けられない相手なんだ。

 

「お願いします!」

「「「「「「お願いします!!」」」」」」

 

 帽子を外しお辞儀をする。

 恐らく東條は猛田を、鈴本は聖を見た後にすぐ自分のベンチに戻って行った。

 始まる。決勝戦へ進むことのできる試合が。

 

 

 

 

 

 みずきちゃんがマウンドに上がって投球練習を行う。

 その様子を俺はライトの位置から見ていた。

 

「みずき!あと一球だ!」

「おっけー!」

 

 みずきちゃんには悪いが、スタミナを考えて良くて七回。悪ければ五回程度でマウンドを降りると考えている。しかし、これは俺の予想だ。

 パワフル高校の打線を考えて、七回一失点は上出来すぎるし下手したら五失点とかも頭には入れている。ただ、みずきちゃんをそう簡単に連打できるチームでは無いはずだ。一巡までなら無失点に抑えられるはず。いくら打線が強いチームでも一巡目で捉えられるほど、みずきちゃんは悪い投手じゃない。むしろスタミナの部分を抜けば早川とも良い勝負だし、上の部分だってある。

 やはりパワフル高校の打線で注意すべきはクリーンアップ。特に東條だ。

 甲子園で四本のホームランというのは四試合での結果。さらに当たったチームはほとんどの投手が地区大会を防御率二点以下の投手。打点も十三という成績。どれだけ凄いかわかるだろう。

 七井と並ぶほどの打撃力の持ち主と言われても無理はない。

 尾崎も鈴本も甘い球が来たらスタンドにもっていく力はある。油断できないな……。

 

『一番セカンド 円谷君』

『パワフル高校のリードオフマンが打席に立ちます!まもなくプレイボールです!』

「プレイボール!」

 

 円谷が打席に立ち、バットを構える。

 身長は小さいが、素早いというのが特徴だ。セーフティも警戒しているし、甘い球さえ行かなければ初見では打てないはずだ。

 

『マウンド上の橘!振りかぶって投げた!』

 

ビュンッ!!と腕が振られて、インコース低めへのストレートが投げ込む。

それを円谷は見逃した。

「ストライク!」

 

 ナイスボールだ。あの球だったら恐らくは大丈夫だろう。

 二球目は外角へ変化していくスクリューを円谷はバットに当てるが、バックネットに当たる。

 うーん、配球は悪くはない。あくまでセオリー通りってのが聖にしてはめずらしい。

 三球目のボールは内角への半分外したストレート。コースぎりぎりへと投げられたボールを円谷は空振った。ナイスピッチ!ぶっちゃけ、円谷はミートはあまりうまくはない。だから、しっかりと組み立てすれば危なくはない。

 っと、次は生木か。こいつはミートがうまい分。足は円谷よりも早くはない。だが、速い方だし嫌な打者だな。

 内外に散らしても、外角の球はうまく流してくるのが特徴だ。

 聖は内角へとミットを構えた。みずきちゃんはそこにしっかりと制球する。

 二球連続で内角へのストレートで追い込んだ後、シンカーでセカンドゴロに打ち取った。

 

『生木!セカンドゴロに倒れました!そしてここからパワフル高校が誇るクリーンアップ!三番の尾崎です!』

 

 プルヒッターでありながらも、ミート力もある良い打者だ。うちに来たら攻撃的の二番として使ってるぜ。小井田姉の強化版と考えて良いくらいだ。小井田のミートに南以上のパワーを持った打者。

 基本的に外中心でも良いが……初球の入りに困る打者だぜ。

 みずきちゃんが投げた球はクレッセントムーン。内角に食い込む高速スクリューは尾崎の膝もとへと変化した。尾崎はどんな投手でもうまく対応できる能力を持っている。初球を獲れたのはデカイな。

 二球目は外角へのストレート。

 それを尾崎はフルスイングしながらも捉えた。

 

「レフト!」

 

 聖が指示を送るが、打球は鋭くレフト線上へと転がって行った。

 矢部君が捕球して友沢に返すが、尾崎は二塁に到達して二死二塁となる。

 ちっ、嫌な展開だな……聖のリードも何にもひねりもない常識に囚われたリードだが、尾崎レベルになるとしっかりと打ってくる。聖のリードは悪くない。だが、ランナーを出したくなかった。

 次の打者はどうするんだ?聖。

 パワフル高校史上最強打者―――――――――東條小次郎。

 

『尾崎がレフト線のツーベースヒット!そしてこの先制のチャンスに打席を迎えたのは!』

『四番サード 東條君』

 

 そいつの名が呼ばれた途端、パワフル高校の方のスタンドからおおおおおおおお!!と歓声が上がる。

 これほどの歓声を浴びながらも冷静でいて、さらに集中できる打者はそうそういない。

 

――――――東條小次郎。

 

 打席に入るとひしひしと伝わってくるぜ。こいつの雰囲気が。

 東條がバットをファーストの猛田に向けて、バットを構えた。

 

「うっしゃあ!!!来い!!コジロー!!」

 

 それに感化されたかのように猛田が声を出す。

 

(さて、聖。東條に対して安易にストライクを取りに行ったら持ってかれるぞ。ボール球先攻でいい。落ちついて配球していけ。敬遠は無しだ。鈴本はチャンスに強いし、そのあとの打者は打ち取りやすいものの、先制点を与えてしまう可能性の方が高い)

 

 聖は敬遠を選択はしなかった。しっかりと外角に構えている。

 初球は外角のストレートで外したが、東條はピクリともしない。

 確かにボール球だが選球眼が良いせいか、半個分外した球に反応しないってことは相当なやつだ。

 二球目はクレッセントムーン。東條の膝元に落ちるボールはミットに収まった。

 またしても東條はビクともしない。

 聖が三球目に要求した球は外角へのストレート。

 一球目よりも半個分内側にみずきちゃんは放った。

 ほとんどの打者は絶対手が出ない―――――――はずだった。

 

 東條がそれを捉えた。

 打った打球はグングンと伸びていく。

 バットからは快音が響いて鋭い打球は惜しくもレフトポールの左に切れていったが、東條はすぐにバットを構えた。その姿に動揺はない。

 ボールを捉えるセンス、スイングスピード。ホームランを打つための要素はすべて揃っている打者だ。甘い球は確実に長打にして、厳しいボールでもちゃんとカットで逃れることもできれば打つこともできる。選球眼もずば抜けていて、聖といい勝負かもしれない。

 友沢よりはミート力は無いが、スイングスピードは上だ。だからと言ってミート力がないわけではない。スイングスピードが速い分、球が引き付けられるから実際のミート力は俺よりも低いだろうが、打率は東條の方が良いはずだ。

 いっちまえ。三振取りに行くのならみずきちゃんの最高のボールで!

――――――クレッセントムーンで。打ちとれるはずだ!

 東條の背中越しから来る球は急激に内角へと変化していく。

 みずきちゃんは完璧なボールを投げ込んだ。ストライクゾーンギリギリ、見逃しても三振だ。

 完璧に制球されたその球は東條の体に向かって角度を変えていく。

 東條はその球を打ちに行く。

 俺達は確信していた。”打ち取った”と。

 

―――――――カァキィィン!!!!

 

 「え?」

 

 快音が響き、思わず俺は声を漏らす。

 完璧な球。それを東條は完璧に打ち返して、ライトスタンドへ見事に運んだ。

 まるで俺達には勝てるわけがないと言わんばかりの打球。

 俺達の勢いを鎮圧させるようなスイングは、一気にパワフル高校へと勢いを与える一打となった。

 

『は、入ったー!!東條小次郎の先制ツーランホームラン!二対〇!パワフル高校二点リードです!!!』

 

 甘かった。俺の見積もりも、聖の見積もりも、みずきちゃんも。

 クレッセントムーンはクロスファイヤーからみずきちゃん特有のフォームによって投げられる魔球とも言っていいくらいの球なのだ。

 初打席で簡単に打てるはずがない変化球。そう思っていたのが甘かった。 

 

「何だと……?」

 

 猛田がそう呟くのも無理はない。

 普通の打者ならあれは完璧に打ってライトフライ。だが、東條は腰の回転をうまく利用して三球目よりもさらに速いスイングで見事にスタンドへ持っていった。

 聖もその打球を見つめる。自信を持って投げさせたその球をスタンドにもっていかれてしまった。

―――――敬遠の選択が正解だったのかもしれない。

 畜生。まだだ。二点リードなんて範囲内だ。

 

「みずきちゃん!切り替えていこう!」

「橘!自信もっていけ!」

 

 俺と友沢の言葉にみずきちゃんは頷いて、また打者に向き合う。

 戦わなきゃ負ける。それは俺達が一番わかっていることだ。

 

「声出すぞ!」

「うむ!次の打者警戒だ!外野バック!」

 

 聖と猛田からの指示が出る。

 負けるな。気持ちで負けたら、その時点で終わりだ。

 みずきちゃんは鈴本をレフトフライに抑える。

 よし、良い投球だ。

 でも、二点リードされている。すでに不利な状況だからな。

 東條に二度目はやられたらいけないぞ。

 

「聖。リードが普通すぎる。どうした?いつもの調子じゃないぞ?」

「いや……大丈夫だ」

「一つ言っておくけど、この調子じゃあ負けるからな」

「!」

 

 驚いたように聖は表情を変えた。

 ヘルメットを被りながら、聖は表情を隠す。

 

「聖、お前の力が必要だ。鈴本が相手だろうが、引いちゃあ駄目だ」

「……」

「深く考えなくて良いんだよ」

 

 そう言って俺は聖の頭を軽くたたく。

 負担を掛けて悪いけど、お前が一番頼りになるんだ。頼むぞ。

 そんな思いを乗せて俺は聖の肩を手を置く。

 

「集中しろ。相手投手は凄いぞ」

「……ああ」

 

 そう。相手投手は凄い。

 鈴本が投球練習をする。ノビのある速球がキャッチャーの新田のミットに収まる。

 ここまでのMAX146キロ。制球力が抜群で、十分なスタミナもある。

 変化球もスライダー、シュート、そして”ナックル”。

 

『ここから一回の裏!聖タチバナの攻撃です!』

『一番レフト 矢部君』

 

 ここ最近で一気に成長してくれた矢部君はバットを構えて鈴本を見つめた。

 鈴本が振りかぶって、右腕を振るって投げた。

 ズパァァンッ!!と内角低めにストレートが決まる。

 

「ストライーク!」

「オッケー!ピッチャーナイスボール!」

 

 新田の言葉に微笑みながら鈴本がボールを受け取る。

 すでにドラフト候補に乗り上げているだろうその球は144キロだが、実際は150キロ近くに感じるだろう。リリースポイント、球持ちも良く、ノビもある。案外山口よりも嫌な投手だぜ。

 二球目に鈴本が投げた球は外角低めへのシュート。

 ベースをかすめた球を矢部君は手を出すことができない。

 

「ストライクツー!」

「かなり厄介な投手だぜ……あのコースに投げられたら簡単に捉えられない」

「ああ。制球力があるせいで、しっかりと内外に分けることができる。これまでの試合は球数をしっかりと抑えられている理由も、制球力が結構効いているな」

「それもあるが……来るぞ」

 

 友沢が呟く。

 鈴本から投げられた球は不規則な軌道を描きつつ、揺れて落ちた。

 角度も急で、矢部君はバットを振るがボールに当たらない。

 

「ストラックバッターアウト!」

『でました!鈴本の伝家宝刀のナックル!!!』

 

 三振を取ると、鈴本に歓声が浴びる。

 ……っ。あのナックルは打てないぞ。少なくとも一巡目で簡単には打てない。

 友沢で二打席、俺、猛田、准で三打席見ないと打てない代物だ。

 ナックルだけじゃない。スライダーも一級品だし、シュートだって芯を外すレベルの球だ。

 

『二番センター 川瀬さん』 

 

 准に対して鈴本は内角高めのストレートを投げ込む。

 それを准はカットするが、完全な振り遅れだ。

 

「っ!?」

 

 二球目のシュートに詰まってサードゴロに打ち取られる。

 さっきの球だって142キロのストレートだったけど、体感的には150キロ近くなはずだ。

 

「リリースポイントがなんか普通の投手と違う……!ナックルもあるんだったらちょっと狙い球が絞れない。球持ちも凄く良い。初めてだあんな投手は」

 

 確かに。准が言うのも間違っては無い。

 だが、唯一鈴本の球筋を知っている選手が居る。

 聖!頼むぞ!

 

『ここで打席には六道!鈴本振りかぶって投げた!!!』

 

 ズトンッ!!!と弾丸のような球がキャッチャーミットに収まる。

 その球を聖は見逃した。

 右腕と右足が大きく上がって、勢いが出ているかのように見える。ついでに帽子も天高く舞い上がって、マウンドの横に落ちる。

 

『147キロのストレート!!!ここで最速を出してきました!!!元同中学のキャッチャーへ、最速のストレートです!!!』

 

 速いっ!!速いだけじゃない。それをしっかりと内角低めへ制球しているのが凄いんだ。

 元キャッチャーに対しても全力で対抗する。本気だ。そして二球目に投じたのは同じくストレート。

 外角低めへきっちり制球しながらも147キロとスピードガンが表す。

 その球を聖は打ちに行く―――――がバットに当たらない。

 

「ストラーイクツー!」

「大輔君!ナイスボール!」

 

 新田が鈴本に声をかける。

 それに微笑んで、すぐに振りかぶる。

 三球目はストライクゾーンの外角低めからボールゾーンへ変化するスライダー。

 切れ味がすさまじい球を聖はかろうじてバットに当てた。

 キレがある分、判断しにくい。フォームに癖がないからわからないんだ。何が来るかもわからない。ナックルを生かす為か、わからないが長袖のアンダーシャツを着ている。

 筋肉の変化によって投げる球を判断できるがそれを防ぐためだろうか。それほどの武器にしているんだ。

 

――――――この”ナックル”を。

 

『空振り三振!!!六道!ナックルをバットに当てることができません!!三者凡退!』

 

 これが聖の元パートナー。

 だけど、簡単に三振したわけじゃない。タイミングは完璧だったし、聖のバットの予想以上の変化をしただけだ。次は打てるはず。

 鈴本と聖の視線が合う。この二人にはお互いにどんな想いが込められているのか。

 片方は強豪校のエース、片方は無名校の正捕手。

 もしどちらかがどちらかについていったとしたら、どうなっていたのだろうか。

 

――――――新田が座っているポジションに聖が居たとしたら。

――――――普段俺が居る場所に鈴本が居たら。

 

 聖がバッターボックスから戻ってきて、防具をつけ始める。

 俺は聖の肩に手を置いて、ライトに走って行く。

 

(お前にとって鈴本はなんだ?聖。俺はわからないけど、お前はわかるはずだよな?)

 

 そう思いながら俺は守備位置に着いたのだった。

 無様なプレーはしない。

 みずきちゃんならもう大丈夫だ。後はしっかりと抑えていくだけだし、リードもちゃんとしてくれれば大丈夫だ。

 頼むぞ―――――聖。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴本さんも六道さんもやっぱりすごいです……」

「桜ちゃん知ってるの?」

「六道さんはあんな風に無関心でしたけど、私はあの二人と同じ中学ですよ。まあ、怪我で二年の中総体は出れなかったんですけどね。だから朱鷺さんもわかってなかったと思います」

「僕も知らなかったよ……。でも、六道さんと鈴本君って仲が良かったんだよね?」

「はい。同じ中学のみんなが揃えて言うほど仲が良かったです。私も最初は六道さんがパワフル高校に行くと思ってましたけど、最後の大会が終わった後に鈴本さんが六道さんをパワフル高校に誘ったのは聞いていたんですが……」

「修也が誘われたというのはそういうことだったのか」

 

 樋宮、南、北条、小井田姉が振り向くとそこにはあかつき大付属のエース猪狩守が隣に座っていた。

 驚いた様子で南は猪狩に質問した。

 

「え?朱鷺が?ていうか、猪狩アップとかは良いの?」

「別に相手はそこまで手強いわけではない。灰凶が負けた時点で決勝は貰ったもんだ。僕が全国終わった後に朱鷺の進路先を聞いたんだが、あるやつに誘われたと言っていたからな。それが六道だったんだろう。北条の話を聞いた限りでは、鈴本が六道を誘ったがそれを六道が断って、六道が修也を誘ったってところだろう」

 

 そう言いながら猪狩はグラウンドに視線を落とす。

 今は三回の表。新田がバッターボックスに入っていた。

 

「それが合っているとしたら、六道は複雑だろうよ。そして鈴本は相当気合いが入っているはずだよ」

「……なるほど」

「そうか。考えてみればそうかも」

「同じくな」

「?」

 

 北条はわからないと?マークを頭に浮かばせている。

 それに他のメンバーはため息を吐きながら、猪狩が説明した。

 

「北条、考えてみろ。本当はお前が一番理解しておかなければいけないのだが……。鈴本には六道が何故修也を選んだのか、そしてそいつの所属しているチームにはかなり興味を示しているだろう。六道と戦うため、修也と戦うため。そして選んだ意味を知るため」

「……わかったような、わかっていないような」

「鈴本は六道に対して相当意識しているということだ。まぁ、要するに僕が修也に対して抱いている感情みたいなものだ」

 

 立ちあがりながらそう言って猪狩は弟である進に呼ばれて戻って行った。

 その姿はまるで、

 

―――――――――勝ち上がってくるチームがわかっているような感じだった。

 

 小井田が試合を見つつ、冷静に分析していた。

 樋宮もそれにうなづいたり、指摘しながらつぶやいていた。

 

「いつまで橘を引っ張るつもりだ?」

「……六回までかな。ピンチになれば、修也君が投げるだろうけど。打線も打てなきゃいけないね。パワフル高校は結構有利な状況だけれど、タチバナの集中打を浴びせる打線には要注意しないといけないね」

「いずれにしろ次に点を取った方に流れが出るな」

「そうですね」

 

(僕は……朱鷺達が勝つことを祈るだけだ。頑張ってくれ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストライク!バッターアウト!」

「またナックルか……」

 

 矢部君が空振り三振に倒れる。

 これで三振は七つ目だ。

 現在、五回裏。

 得点はお互いに一回から変わらず、二対〇。

 みずきちゃんは一回からはパワフル高校打線をヒットを四本に抑え、得点を許さなかったが鈴本は俺達の打線をヒット三本に抑える投球を見せていた。

 ヒットを打ったのは俺がショートへの内野安打や喜多村のバントヒットなど。友沢は惜しい打球こそあったが、ことくごとく正面を突いていた。聖も良い当たりを打っていたが、やはり鈴本は良い投手だというのがわかる。

 ナックルは上位打線の手強い打者に使い、下位打線などは十分武器になるスライダーやシュートで打ち取って行く。なによりも、

 

――――――ズドォォォン!

 

「ストライーク!」

 

 このノビがあって、キレのあるストレートが打ちにくいにもほどがある。

 どうしたら打てる?どうやったら打てる?

 

「ストライクツー!」

 

 粘るのが持ち味の准でさえも、苦労しているほどなんだ。簡単にツーストライクに追い込まれたら、スライダーやシュートをカットできてもさすがの准でもナックルは打てない。

 このナックルが相手打者を襲う。

 

「ストライク!バッターアウト!」

 

 143キロの後の103キロのナックルじゃあ当たらない。

 球速差40キロなんて打てたら楽ってものじゃないし、まずタイミングを外されたら捉えることは難しい。

 間違いなく負ける。このままじゃあ、俺達は負ける。

 俺も焦っているが、他のやつ――――――友沢までもが焦りを感じているくらいだ。

 絶対的な四番とエース、さらには投手をうまくリードする捕手。

 俺達とチームカラーは結構似ているはずなのに、と思ってしまう。

 

『三番キャッチャー 六道さん』

 

 聖が打席に入ってバットを構える。それを見て鈴本は微笑んで振りかぶる。

 外角低めに146キロのストレートがミットに突き刺さる。

 ズトッ!という音が球場に響き、それが鈴本の調子を表している。

 間違いなく今日の鈴本は絶好調だ。ここまでの投球だって、聖にはストレートとナックルがほとんどで、スライダーは一打席目だけ。完全に抑えに来ていることがわかる。

 二球目のナックルを聖は見逃す。ボール球となり、2-1となる。

 

「タイム!」

 

 聖が審判がタイムを掛ける。すると、聖がベンチに向かって歩いてきた。

 聖は自分のセカンドバッグから黒のリストバンドを取りだして、自らの右手に付けた。

 初めて見たリストバンドだった。少なくとも俺はわからないし、聖にしかわからないものだということしが伝わった。

 

「どうした?」

「……負けない。私は、私たちは負けない」

「……六道。大輔に流されたら駄目だ」

「峰田。わかってる、敵だ」

「じゃあ、そのリストバンドの意味はなんだ?」

 

 俺が聞いた質問には答えないで、峰田と聖の会話は続いた。

 

「鈴本に、みせるためだ」

「……成長した自分を、か?」

「なっ!?」

「わかってる、六道の気持ちはわかる」

「……峰田」

「?」

「今回だけは許してくれ。私が感情に任せて今回の打席に入るんだ。お前になら分かるはずだ。私の気持ちがわかるお前になら」

 

 真剣な顔で峰田は止めていたが、聖の言葉に峰田は大きく息を吐いた。

 そして笑い出した。聖はベンチから出ようとして、峰田の声に止まった。

 

「……大輔相手に感情で動く、か。六道は本当にわからないよ」

「ああ、それはほめ言葉として取っておこう」

 

 何の話かは分からないが聖が気合い入っているということは分かった。

 再び聖が打席に入っていくのを俺は見つめる。

 初めて聞いた。聖が打席で大声を出すのを。

 六道聖にとっての最高の投手に、そして元恋女房として。それに応えるかのように鈴本は仲間に声を掛けた。

 リストバンドを見て、鈴本は微笑むが若干真剣な顔を見せたような気がした。

 大きく、力強く、鈴本は振りかぶった。

 球種は―――――147キロのストレート。

 恐らく自己最速であり、最高の球を投げ込んだ鈴本は投げた後に吠えた。それほど真剣ということだ。

 低めに制球されたその球はキャッチャーミットに向かって走る。

 聖はその球を見てどのような感情を抱いただろうか。でも、やることは変わらない。

――――――――――――フルスイングするだけだ。

 ッカァアンッ!と快音が球場に響き渡った。

 ボールは高く放物線を描き、ピンポン玉のように飛んでいく。引っ張った打球はまるで空を飛ぶ鳥のように飛んで行ってフェンスを超えて、スタンドへと入った。

 

『は、入りました!!!三番六道の反撃のソロホームラン!!二対一!!!鈴本の147キロの低めに投げ込まれた球をスタンドへ運びました!!!負けられない!負けない!という想いが込められたような打球です!!!』

 

 ガッツポーズしながら聖はベースを回ってくる。

 途中で自ら付けていたリストバンドを外して、三塁コーチャーである真田に渡した。

 

「すげぇ……」

 

 猛田が呟いた。

 今のは聖の打撃じゃない。いつもよりも大きなスイングで感情任せに振りぬいたのは当たること自体がおかしい。

 でも、結果はホームランだった。

 非力だからこそ、ミートすることに長けていた聖が、自らの武器を捨ててフルスイングしたのだ。

 すごい、本当にすごいよお前は。

 ネクストサークルに入る俺とベンチに戻って行く聖はお互いにハイタッチをしてその場所に行く。

 

「頼むぞ」

「バカ。無理するな」

「少し馬鹿だったな、私は。でも、今日はこのくらいがちょうどいい」

 

 このくらいの感情に流された精神状態が今日は良いと言い直して、ベンチへ戻っていった。

 これで一点差だ。まだ勝負はわからないぜ。

 

『四番ショート 友沢君』

『ここで聖タチバナ学園の四番友沢です!今日は良い当たりがあるものの、運が泣くすべて正面を突いています!』

 

 先ほどホームランを打たれた鈴本は決して動じないで、内角高めに141キロのストレートを投げ込む。

 友沢はそれを思いっきり引っ張るが、ライトスタンドへのファールボールとなる。

 良い球だ。凄い投手だよな、鈴本。感心してしまうほど鈴本は安定している投手だ。

 俺みたいな失投が行く投手ではないし、猪狩みたいな全国トップクラスのストレートを持っているわけではない。けど、自分のやるべきことがわかっている。

 こいつが三年生と言われても俺は驚かないだろう。

 そんな思いを抱いているのを知らずに鈴本は振りかぶって投げる。

 外角低めへボールからストライクへ入ってくるスライダーを友沢は捉えた。

 打球は右中間への鋭いライナー。友沢はセカンドへ走り、ツーベースヒットとなった。

 

『友沢の右中間を破るツーベースヒット!二死二塁!ここでバッターは五番の朱鷺です!!!』

 

「大輔君!腕の振りが甘くなってる!」

「わかった!ありがとう!」

 

 顔に似合わず、熱血で野球バカ。

 そんなやつの球を俺は打ち砕いて見せる。

 

『五番ライト 朱鷺君』

 

 歓声が俺を包む。

 ああ、やっぱり俺は期待されているんだって感じてしまう。

 二対一。負けている状況で救うのは誰だ?

 

―――――――――打席に立っている俺だけだろ――――――――――。

 

「修也!打てるぞ!」

 

 その言葉に頷く。少しだけ、少しだけ気持ちが楽になったような気がする。

 鈴本は少しだけ上を見上げて、構えなおした。

 何を想ったのだろうか。

 聖のことだろうか。

 それとも、今この状況のことだろうか。

 俺は審判にタイムを掛けてもらい、打席の外で大きく息を吸って吐いた。バックネットの方を見ると南達の姿が見えてしまった。この試合見に来ていたのか……。

 すでにスタミナが限界が来ているだろうみずきちゃん、好判断で何度も抜けそうな打球を捕ってくれた准、ショートでいつも攻守に渡って活躍してくれた友沢。そして他のみんなも、応援していてくれている生徒のみんなも。

 みんなは今この瞬間、一番得点圏打率の高い俺に期待しているのだろう。

 そう思うと力が自然と抜けていく。

 

 

 集中。超集中。

 

 

 そしていつの間にか音が聞こえなくなっていた。歓声も、ブラスバンドも何もかも。

 

 

 これが聖が最高の状態の時になっている感覚なのだろうか、と思う。

 鈴本が投げこんできた球は―――――――ナックル。

 無回転で揺れて、曲がり、落ちる、その球を自然と俺のバットは完璧に捉えていた。

 バットが自然に手から離れて飛んでいく。ボールも同じく飛んでいく。

 振りぬいただろうその打球はセンターの頭上を通っていって

 伸びて、

 伸びて、

 

 

 

 

―――――――バックスクリーンへ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 ポーン、とボールが弾んだ瞬間に歓声に包まれた。

 わああああああああああああああっ!!!という音が広がって、俺は気づいた。

 逆転ツーランホームラン。三対二。

 

『入った!!!入った!この回二本目のホームラン!!!五番朱鷺のツーランホームラン!!!聖タチバナ学園高校逆転しました!!!』

 

 鈴本はやられた、というような顔だが決して悔しそうな顔はしない。

 俺がホームベースを踏んだ途端、聖が抱きついてきた。

 ふわりという感触が感じられない体。もしかしたら今までは体が思い通りに動かなかったのかもしれない。だからこそ、先ほどのホームランは本当にそれを利用したものなのかもしれない。

 

「修也……ナイスバッティング」

「……そうだな」

 

 

 まだ歓声に包まれながら、その声だけはしっかりと聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『八回表!パワフル高校、一番から始まる打順ですが三者凡退!リリーフの朱鷺、前の打席センター前に運ばれた尾崎を見事三振に切ってとりました!!!』

 

 スカウトの影山はバックネットで試合を見ていた。

 途中でリリーフに入った朱鷺を見て、成長してきたと感じていた。

 昨年までの不安定さは消えかかり、球威、変化球のキレ、制球、スタミナ。すべてが成長していたからだ。

 

(朱鷺君だけじゃない……このチームは試合ごとに成長してくる厄介なチームだ。スカウトとしては楽しみなチームだが)

 

 リードオフマンの矢部にしろ、外野の守備の要の川瀬、投手陣を支える六道、攻守の要の友沢、クリーンアップの後に打つ猛田、守備職人の峰田やいつもは守護神の橘。

 他のメンツも特徴があり、去年とは変わり物にならないくらい成長がみられる。

 矢部が鈴本の球を弾き返したが、パワフル高校の東條が飛び込む。

 これでチェンジとなる。

 

(かと言って、東條や鈴本だって成長している。東條は今日はすでに猛打賞、鈴本は二安打、尾崎も二安打。今大会から入っている捕手の確か、新田と言ったか。彼女は常識にとらわれ過ぎているな。配球自体は良いのだが、もう少しひねりが必要だ。とはいえ、良い捕手。スローイングにしろキャッチングにしろ良い物を持っている。一年生のセンターを守っている川瀬も良い選手だ。打撃では二番という役目を果たしており、それ以上に守備でチームに貢献している。まさにシニア時代に”警察犬”と呼ばれていた実力はタダものじゃないな。動きが確かにそう見えている)

 

 そしてマウンドに上がるのは朱鷺。

 それを受けるのは六道。このバッテリーは来年もみることができるだろう。

 九回の表。

 打順は四番の東條からだ。

 影山はそれでも抑えてくれそうな気がしていてたまらなかった。

 

『朱鷺の初球のストレートは自己最速の145キロです!!!しかし、東條もそれを当てます!』

 

 実況の声を聞きながら球場へ眼を向ける。

 良い球だ。気持ちも乗っていて、ノビもある速球。

 簡単には打てない球だろう。それに彼の変化球はレベルが高い。

 高速シンカーは東條のバットを空に切る。しかし、東條に焦りは見えていなかった。

 二球続けてボールにした後、内角低めへスライダーを投げると東條は思いっきり引っ張る。

 一二塁間へ打球は抜けていく。ライト前へのヒット。

 

『五番ピッチャー 鈴本君』

 

 朱鷺は振りかぶって外角へスライダーを投げる。それを鈴本はカットしに行く。

 鈴本はバッティングも良いが、この場面で打てるかどうかと言われれば微妙だ。

 内角へのスローカーブで、タイミングを外した後、六道が出したサインは恐らく、ストレートだ。

 結果はキャッチャーフライ。完全に詰まってしまっていた。

 鈴本が何か六道に話しかけただろうか。

 

(同じ中学で切磋琢磨し合ったバッテリー。努力と努力のバッテリーか)

 

 コキッと音が鳴って、打球はファーストへ。

 猛田がすぐさまセカンドへ送球して、友沢がファーストへ送球して、ゲッツー。

 それと同時に試合終了となった。

 結果は三対二で聖タチバナ学園の勝ち。

 これで決勝戦は決まったものだろう。

 

 

 

――――――――あかつき大付属高校対聖タチバナ学園。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……鈴本」

「聖、負けたよ。聖のホームランで一気に逆転されてしまったね」

「たまたまだ。あんなあたりは恐らくこれからは出ないだろう。それにしても小学生以来かもしれないな、感情に任せてプレーしたのは」

「また、秋の大会か夏の大会で会おう。その時は敵だけど、この夏が終わるまでは応援するからがんばってほしい」

「ありがとう」

「後さ、これ。あげるよ、もう使わないからさ。というより、使えるんだけど自分じゃあもったいないからさ。聖にあげようかなって思って」

「これって……私たちがお互いに一つずつ付けていた片方のリストバンド?」

「そう。お互い、もう違うからさ」

「……いらない」

「え?」

「持っておいてくれ。鈴本もそのリストバンド持っておくべきだ。過去は……捨てるものじゃない。今の私が居るのはお前が居たからだ。それもまた逆だから」

「……その通りだね」

「私はこのリストバンドは再戦のために残す」

「僕も、残しておくよ。じゃあ、がんばってね。聖」

「ああ、任せておけ。修也となら私は勝てそうな気がするから」

「次は負けないよ。朱鷺君にもよろしく言っておいて」

「わかった」

 

 そう言って六道は去っていく。

 今まで負けても涙を流さなかった鈴本の眼から涙があふれていた。

 彼女と組めなかったことよりも自分が打たれてしまって負けたということが、今さらになって彼の心に響く。

 涙をこぼさないように、誰にも見せないように大空を見あげた。 

 

 

 

――――――――次は負けないよ。

 

 

 

 再び彼は自分の心の中でつぶやいた。

 鈴本は球場の外の芝生に座っていた。視線の先に見えてきたのはパワフル高校の四番である東條だった。

 

「……鈴本。負けたな」

「そうだね。あっちのチームは強かった」

「……お互いにミスした場面はあるかもしれないが、俺は全力でやったつもりだ。相手が上だったな」

「僕は勝負に負けたし、試合にも負けた。完敗だよ。猛田君とかどうだったんだい?」

「……別に俺はあいつをほめるわけじゃないが、お前のナックルを打ったときに見えたあの姿。ミートしているあいつは良かったとは思っている。あれは……あいつの武器だ」

「なんか楽しそうだね」

「そういうわけではない。負けたということには変わりはないからな。それに四番として友沢にも絶対に負けない。傍から見れば俺が勝ったように思えるが、六道のホームランの後に続いていた。その結果、朱鷺のツーランホームランに繋がった」

「いつもは素直じゃないんだから、少しくらいは素直になったら?……集中力っていうのかな。ここぞのところでたたみかけてくるチームだったね。次はリベンジしないと。新田さんも久しぶりの強い相手との公式戦だったみたいだし、良い経験になったかもね」

「……そうだな。次はリベンジだ」

 

 彼らにも夏が終わった。

 そして次の秋の大会へと進んでいく。

 エースと四番とキャッチャーは再びチームを仕上げるために、成長してくるだろう。

 

 

 

 

 

パ 200 000 000

タ 000 030 00x

 

 

 

 

 決勝戦はあかつき大付属高校対聖タチバナ学園高校。

 予想先発はここまで無失点を誇るエース猪狩対粘り強いピッチングで相手を苦しませるエースの朱鷺。

 甲子園をかけた戦いは明後日、行われる。

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