実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校 作:Reaflet
第一話 4月2週 “バッテリー”
「さてと、今年のあかつき大付属中の一軍選手の進学先は…と」
彼は影山スカウト。
スカウト陣の中でNo.1の腕を持つと言われ、彼の凄さは情報収集力、人脈、そしてなにより観察力が凄い。
彼が目を付けた選手は大学、社会人……そしてプロへ進み、活躍した選手や才能を開花した選手はほとんどだと言われている。
彼の専門は中学~高校だ。
まれに大学、社会人の選手にも注目するが良い選手は彼が目を付けていた選手が多い。
影山は名門中学や、注目選手の一覧が乗っているリストを見る。
もちろんあかつき付属中も名門中学の1つである。スカウト陣の中でもいい選手は注目される。
「南君は恋恋高校か。良い遊撃手だったがもったいないな。まあ若いうちは冒険したくなるだろう……」
良い選手などはD~Sでランク付けされて、割り振られている。
恐らく強豪校から誘いが来ているだろうというのも予想してあるため、その高校に視察するときにしっかりマークするのだ。
もちろんあかつき付属中のレギュラー選手のほとんどの進学先を知っている彼は、捕手から順に見ていき遊撃手である南に目をつける。
スカウト陣の中でも有名な選手だ。
あかつき付属中の遊撃手。
そのランクはA+で、武器は守備範囲の広さと打撃力だ。
あかつき付属中で三番を務め、打率も良く、長打力もあって、足も速い。
5ツールプレイヤー、もしくは走攻守揃ったプレイヤーという選手で認識されている。
しかし、他のスカウト陣には認識されていないところがある。
内野安打の多さと、チャンスの強さだ。
「まあ、恋恋高校にもシニアや強豪中学から行っている選手も多いし、多分彼中心に野球部を作るだろう。期待したいな」
そう言って影山はページをめくる。
そして彼はもっとも目を付けていた選手のところを見る。
「朱鷺君か」
影山は彼を野手としてのセンスよりも投手としてのセンスに注目していた。
何と言っても影山は修也を、野手ではA+ランク、投手ではSランクとしていた。
他のスカウト陣は野手をSランクとしか評価していないのだが、影山だけは投手としての評価を猪狩と同じSランクとしていた。
「キレのあるシンカーとスライダー、遅いカーブ。それにノビのある速球。制球力も及第点。スタミナ抜群。体が柔らかく、怪我しない。素晴らしい要素がたくさんあるが・・・」
猪狩君にエースを奪われてしまったかとつぶやく。
影山は修也をとても評価していた。
中学3年生の春の大会で猪狩が三連投禁止ルールで投げられなかったときに修也が投げた試合を影山は観ていた。
ノビの速球を低めに集め、カーブでタイミングを外し、スライダーやシンカーで打ち取ったり、三振を取る。
こんな投手が居たのかというくらい影山は驚いた。
打撃や守備で良く名前が挙げられていた修也の評価を変え、投手としての彼を評価した。
ちなみにその試合、修也は7回を5安打1失点12三振で勝利を収めた。
「しかし、彼が聖タチバナ学園高校行くとはな。そういえばあの娘も同じ高校に行く噂を聞いたが」
女性選手の一覧のリストを開く。
捕手のところの欄の一番上に載っている名前を見る。
「六道 聖。天性のキャッチングセンスとバッティングセンスが売りか……」
彼女のランクはA。
スカウト陣ではたまに話題に挙がることがある。
女性選手の中ではトップクラスだ。
この二人があの高校に行くというのならば、チェックしておかなければいけない。
「南君と朱鷺君……それに猪狩君。あかつき出身はこの三人が注目の選手だな」
影山は違うリストに目を通しながらつぶやく。
そしてチェックする高校のリストに書き込んだ。
「恋恋高校、聖タチバナ学園高校。要チェック……っと」
スカウト影山の忙しい三年間が始まる。
この世代の選手は良い選手が多い。それを彼は認識していた。
やっと、この時代が来たか。
この世代、未来のプロ野球を背負う選手たちが出てきてくれたことに彼は嬉しさのあまり笑ってしまう。
さんざん使われたメモ帳を片手に、彼は自宅を出た。
高校の入学式は第1週目に行われる。その後一週間は部活見学や仮入部期間となる。
それはどこの高校も同じで、入学式が終わった俺は休部してると言われている野球部を立て直そうとしていた。
そのため、この学校に来ているシニア出身者や強豪校出身の人物を、名簿を見てチェックしていた。
だが、それらのメンバーとは接触を図れず一週間が過ぎていた。
クラス発表や入学式と言えば隣の席が女の子で、その女の子に話しかけられてこれからの高校生活頑張るぞ!という気持ちになるのだが、残念ながら俺の隣は男だったみたいだ。
「矢部君だっけ?」
「そうでやんすよ。そっちの名前はなんていうんでやんすか?」
「おいおい、さっきの自己紹介聞いとけよ。俺は
「おいらは
そう言いながら大きなメガネが目印の矢部君が机の上でガンダーロボを弄っている。
俺はそれを見たり、窓の外から見える景色を見たりしていた。
校門の入り口付近に桜の木が植えてあって、今の季節にぴったりな桜が満開になっている。
空は蒼く、若干雲を残しながら、春一番と思わせる風も吹いている。
今来ている自分が着ている制服は黄色を主体としたブレザーがいかにも金持ちの雰囲気を出している。
ネクタイは赤で女子も赤色のスカートになっている。
(まあ、うちも金はあったりするしな・・・あかつき付属中に行かせてくれたぐらいだし)
「そうだ。矢部君部活は決めた?」
「うーん、中学に野球やってたからどうしようと思ってたでやんす」
「じゃあ俺と野球やらない?」
「野球部は休部になっているって聞いたでやんす。3人以上居ないと部活出来ないでやんすよ?」
「へー、そうなんだ。まあでも、実はもう一人居るんだよ。今日の放課後昇降口に集合かけている」
「・・・わかったでやんす。でもおいらはあんまりうまくないでやんすよ?」
「大丈夫だって」
そういう会話をしたりして、矢部君と俺は友達になった様な気がする。
授業もほどほどに受けて、ついに放課後になった。
「じゃあ、矢部君行こう」
「わかったでやんす」
教室を出て、俺達は昇降口へと向かう。
聖タチバナ学園の校舎は広く、大きい。
私立の中でもお金持ち高校として名を知らしめているのだが、学園長がかなり多い資産を持っているので学費などは普通の私立と変わらない。
購買なども豪華で、いつも人がいっぱいでパンを買うのに争いが起きている。
といっても争いが起きているのは限定のパンなのでいつも売っているパンなんかは争いが終わった後に買いに来る人が多い。
学食ももちろんのこと豪華だ。
美味しいメニューがたくさん並び楽しくワイワイガヤガヤしている。
噂によるとこの学校は生徒会長が学園長の娘らしい。
生徒会もその会長が選んだ人たちで構成されているらしく、生徒会は全員が1年生らしい。
生徒会長はかなりの気まぐれで、日に日に学食のメニューを追加してるだとか。
「相変わらず大きい校舎でやんすね。まだ慣れないでやんす」
「俺もだよ。まだ慣れないや」
そういう会話しているとすぐに昇降口に着く。
昇降口では、紫色の髪の毛でハーフアップされている結びの女の子が居た。
(聖・・・)
俺は心でつぶやいた後、聖に声を掛ける。
「聖。待たせたな」
「遅いぞ。修也」
「ごめんな。それにしてもお前身長伸びたな、中学三年の時より伸びてるな。昔は小さかったのに」
「う、うるさいぞ。お前は相変わらずだ」
「そうかそうか」
俺達の会話に入りずらそうな矢部君が口をはさむ。
「あのー、朱鷺君。この女の子は誰でやんすか?彼女でやんすか?」
「いやいや、違うよ。こいつが野球してくれるやつ。
「六道聖だ。よろしく頼む。メガネ・・・?」
「ムッキー!ちがうでやんす!おいらはメガネじゃなくて、矢部明雄でやんす!」
「そ、そうか」
「おいおい、矢部君怒んなよ。メガネが割れちゃうぞ」
「割れないでやんすよ!ていうかこんな女の子に野球ができるんでやんすか?」
「おっとそれは失言だな矢部君。とにかく俺が保証するよ。かなりうまいから。と言ってもポジションは捕手だけどな。それより生徒会長に同好会申請しに行こうよ」
「わかった」
「おっけーでやんす」
俺達は部活動の同好会申請をしに生徒会室へ足を運んだ。
生徒会の部屋は校舎の最上階である5階にある。
エレベーターか階段で行くという手段しか使えず、仕方なく俺達はエレベーターを使うことにした。
五階は主に資料などが置いてあり、新学期の時期は良くこの階に先生達が来る。
その階の中で唯一、生徒会室がある。
この学校ではご要望会議というのがあるらしい。
各部活が生徒会に要望をして、その要望は生徒会が許可されたら通るシステムらしい。
今はそのご要望会議は開かれていない。
放送でご要望会議ができるのを伝えるらしいので、ご要望会議はまた今度にして、申請しに行った。
コンコン。
「何?」
中で声が聞こえる。
ガチャ。
「失礼します」
「失礼する」
「失礼しますでやんす」
俺達は生徒会室に入った。
生徒会室には校長先生が座るような机に女の子が座っていて、その前・・・俺たちの目の前にソファーが置いてあってそこに背の小さい男とゴツイ男が会話している。
左の壁に寄り掛かっているバラを持った男も居て、それぞれが自由にしていた。
恐らく、生徒会長が女の子だろう。
この状況で誰が見てもそう思う。彼女だけがいかにも違う雰囲気を出していた。
しかし、あまりにもフリーダムの状況に俺達は黙り込んでしまった。
冷蔵庫、キッチンなどもあってここで暮せそうな設備がそろっていた。
(おいおい……生徒会ってこんなに自由なのか?)
(少なくとも生徒会って感じじゃないでやんす)
(だが、生徒会だというのは間違いないぞ)
「あんた達何の用?」
突然、生徒会長らしき女の子に話しかけられる。
それにびっくりしながらも、俺が彼女に用件を伝えた。
「野球部が休部になってるというのを聞いて、新しく俺達3人揃っているから野球部を同好会として復帰させようとして申請に来たのですが」
「ふーん、野球部ね・・・」
女の子が俺達をジロジロと見る。
しばらく見た後、彼女が1枚の紙を出した。
「これにそれぞれ一人ずつ名前書いて。そうすれば同好会許可しておいてあげる」
言われたままに俺、聖、矢部君の順で紙にそれぞれ名前を書く。
女の子はそれをニヤニヤしながら見ていた。
「あんた女の子なのに野球やってるんだ」
恐らく聖のことだろう。
聖は少しうなづいて、言葉を発さなかった。
その様子を見ていた女の子は、聖のことをずっと見ていたがやがて眼をそらした。
「じゃあ、帰っていいわよ。グラウンドの使用許可も取ってあげるから、明日からでも使っていいわよ」
「ありがとうでやんす」
矢部君がそう言った後、俺達は生徒会室を後にした。
さっきあの三人に書かせた紙を見つめる。
上から順に名前を見ていく。
朱鷺 修也
六道 聖
矢部 明雄
と。
私が思い出す限り、上二人は強豪校に行ってもレギュラー獲れるはず・・・。
なぜこの高校に来たのか。
「みずきさんどうしたんですかい?」
原君が私に話しかけてくる。
「あの三人・・・いえ、この紙に書かせた上の二人の名前見たことある」
「まさか・・・有名な選手だと?」
大京君が問う。
それに答えるように私は話した。
「まあね。上の朱鷺修也って人はあかつき大付属中のレギュラーの外野手でさらに2番手の投手だったわね。名門あかつきの4番を務めて、確か中学通産打点2位だったわ。その下の六道聖は鈴本大輔すずもと だいすけとバッテリーを組んでいた捕手。惜しくも県大会準決勝で負けたけれど、彼女の能力はかなりのもの。天性のキャッチングセンスに加えてバットコントロールが凄いって聞いたわ」
「まってや、みずきさん!。あかつき付属中って全国優勝を何度もしてる名門中の名門じゃあ!?」
「しかも、鈴本大輔とは……聞いたことがあります」
「あかつき付属中と言えば猪狩守っていう選手が居ましたよ」
みんなに説明するとそれぞれに驚く。
「やっと理事長を説得できる材料がきましたね」
宇津君がそう言いながら、バラを見つめる。
それを私は呆れながらも見ていた。
「……でも、これで」
でも、これでやっと野球ができる。
おじいちゃんから野球やっていい条件であるこの条件。
『甲子園に行けるほどの戦力を集めること』
私達だけじゃあ証明できなかったのが、彼らのおかげで何とかなりそう。
よし、証明するために色々動かないといけなくなってきたわね。
「忙しくなるよ!みんな!」
みんなが返事する。
野球を出来るうれしさだろうか。私はいつまでも笑顔のままでいた。
「そういえば朱鷺君のポジションはどこでやんすか?」
生徒会室から出て、エレベーターに乗っているときに矢部君が話しかけてきた。
おっと、そういえば教えてなかったな。でもどうしようか。
「中学は外野と投手だけど、高校では投手やろうと思ってる。聖に誘われてこの高校来たし、俺も聖とならバッテリー組みたいと思っていたからな」
「わ、私も修也とバッテリーが組みたかったから誘った」
「そうなんでやんすか」
「でも修也・・・大変だっただろう」
「聖・・・大丈夫だ。俺は、俺の問題は俺で解決したからさ」
「修也・・・」
聖が誘ってくれなかったら俺は野球をやめていたかもしれない。
猪狩だけ注目されて、投手が出来ない日々が続いて、いつまでも外野手止まり。
中学野球が終わって、どれだけふて腐れたか。
もう猪狩とかあかつきとか野球とかもういい。
猪狩から離れよう。野球から離れよう。
そう思っていた時期を一つの言葉で救ってくれた聖に感謝したい。
『私と一緒にバッテリーを組まないか』
この言葉のおかげだ。
しかもそのあとにあの言葉は追い打ちすぎた。あの頃の俺には。
『修也はエースだ。だから私は修也とバッテリーを組む』
……はは。今思い出したら笑っちまう。
意味わかんないよな普通。
でも、あの頃の俺にとっては救いの言葉だったんだ。
どれだけあの言葉が心に響いたか。
だから俺はいつか聖にお礼をしたい。
そう思っている。
「んじゃあ、少しだけ投球練習でもして矢部君に俺の実力を見せようかな」
「見てみたいでやんす!もしかしたらおいらにも打てるかもしれないでやんす!」
「おっと、その言葉後悔するなよ?矢部君」
「グラウンドへ行こう。少しだけなら使っても大丈夫だろう」
聖が提案する。
俺と矢部君はそれに賛成した。
俺は気合いを入れ、少しだけ聖がどれだけのキャッチングが出来るかの意味も込めて投球練習をすることにした。
どうなのかね。実力は。
後、どういう配球をするのかも見たい。
……まあ、矢部君をひねりつぶす意味もあってね。
肩慣らしのキャッチボールも終わると俺は聖を座らせて、矢部君を打席に立つように言った。
聖がマウンドに寄ってくる。
「んじゃあサイン決めるか。使ってたサインはあるか?」
「うむ。これが……」
それぞれの球種のサインを決める。
「俺の変化球はスライダー、カーブ、シンカー、高速シンカーだ。一回受けなくても大丈夫か?」
「なんとかする。終わった後、取れなかった球は練習すればいいことだ」
「だな。よしじゃあ行くか」
「うむ」
聖は頷き、マスクをかぶりながら戻って行った。
昔はあんな弱かったのに、頼りになるやつに変わったな……。
さすがお寺仕込みの精神がある。まあ、その精神が絶体絶命やぎりぎりの場面で発揮するかどうかはわからないけどな。
「こーい!でやんす」
矢部君が打席に入る。
聖は、矢部君のバッティングフォーム、立ち位置などを見てサインを送ってくる。
(スライダー、外角低め、ボール球)
いきなり難しいところ要求してくるな。
外角低めにストレートならわかるんだが、そこにスライダーかよ。
なるほどやっぱりリードの面は投手を苦労させるな。
聖のリードはレベルが高い投手じゃないと要求にこたえられねーな。俺は要求にこたえるけどな!
コントロールはあんまり良くないけど……。
俺が振りかぶって投げる。
「やんすっ!」
「!」
バシッ!
途中で軌道を変えたボールは矢部君のバットは空を切る。
いきなりのぎりぎりのコースに変化球で、矢部君も驚いた顔を隠せない。
若干ボールがずれたがフルスイングしたバットには当たらず、聖のミットに収まる。
「ナイスボールだ」
そう言いながらボールを返してくる。
おいおい、いきなりスライダー取りやがったな。
普通じゃあ考えらんねーぞ。
一度も受けたことのない投手の変化球を一発で取るなんてよ。
聖が返したボールを取り、プレートに脚を入れる。
(ストレート 内角)
次はボールかストライクの指定なしか。
そこのところは俺任せにするって言ってたっけ。
じゃあ、ボール球だな。どうせぎりぎり狙って入るほどの制球力は今の俺には無い。
俺が振りかぶって投げた球は内角のストライクゾーンの一個分外に外れる。
矢部君はバットを振らずにそのまま立っていた。
バシッ!
「ボ、ボールでやんすか?」
「ああ」
どうやら手が出なかったみたいだ。
しかし、今のボール下手したら140キロ出てたかもしれないな。
結構縫い目にかかってたから、矢部君も手が出なかったんだろうけど。
(カーブ)
聖からサインが送られる。
なるほどな。
次はタイミング外すだけか。
だったら、ストライクでもボールでも矢部君は手を出してくるだろう。
さっきの球を見せられたら、打てないはずだ。
俺が投げたカーブに矢部君はタイミングが合わない。
バットは空を切る。
(シンカー 低め)
俺の得意球でもある変化球のサインが送られる。
俺はそれに頷き振りかぶる。
オーバースローの俺にとってはシンカーは投げづらい。
だが、俺は必死に努力してしっかりとした変化球に仕上げた。
誰であろうとこの球を初見で打たすことは絶対にない。
薬指と中指で挟み、右腕を思いっきり振る。
ビシュ!
ククッ!
投げたボールは急に軌道が変わり、矢部君のバットは空を切る。
喜びも束の間、俺は思った。
この球を聖が取れるのか。
(聖。取ってくれ!)
「!」
かなりの集中力だろうと思う。
体を寄せて、ミットを動かし、ボールを取るだけに集中している。
バシッ!
聖は初見で俺のシンカーをキャッチして、ボールを取った音が響く。
まさかな……。
猪狩の弟の進君だって初見で取れなかったシンカーを取りやがった。
「聖、ナイスキャッチ」
「凄い変化だった」
「くっそーでやんす!打てなかったでやんす!」
「はは。そうだ矢部君ストレートどうだった?」
俺は手が出なかったストレートについて聞いてみた。
今までに無いくらい良い感じのストレートだったからな。
「速かったでやんす。140近くは出てたと思うでやんすよ」
「うむ。かなりの速さだったな。おかげで落としそうになったぞ」
そうか。
やっぱり今まで投げた最高の球だったわけか。
俺も前より成長してるってわけか。
やっと実感できたな。投手としての実感できた。
「そう言えば聞いてなかったでやんす。どこの中学校でやんすか?二人とも。おいらは多分聞いたことないところだったから言わないでやんすが。中学の部活ではやってなかったでやんすが、ボーイズクラブでやってたでやんす」
「ん?俺はあかつき大付属中の野球部」
「私はパワフル中学だ」
「二人とも強豪でやんす!しかもあかつき付属中なんて名門じゃないでやんすか!」
「ああそうだな。でも、エースじゃなかったんだぜ」
「そうなんでやんすか・・・。世界は広いでやんす。140近く出てるのにエースじゃないでやんすって・・・エースってどんなやつだったでやんすか?」
「ああ、猪狩守ってやつだよ。聞いたことないか?」
「聞いたことあるでやんす!かなり有名でやんすよ!」
「……」
そんな会話をしながら俺たちはまだキャッチボールなどをしていた。
まあ、結局聖は俺のシンカーを初見で取って、さらには高速シンカーを投げたところ、一球目こそは弾いたものの、二球目で取った。
化け物だな。さすが天性のキャッチングセンスって言われるほどだ。
しかも中学出身かよ。俺と同じで春休みとかにはもう硬式でキャッチボールとかしてたんだろうな……。
俺は聖のセンスに驚いていた。
やっと俺は投手が出来る。
俺はチームのエースになれる。いや、なる。
そしたら俺は猪狩達のあかつき付属高校に勝つんだ。
次こそはっきりしてやるんだ。
どっちが上だったのか。だから猪狩・・・お前は俺のライバルだ。
この地区ははっきり言って強豪揃いだ。
帝王実業高校、あかつき大付属高校の名門高校に加えて、古豪のパワフル高校、球八高校だってある。
さらには南が行った、恋々高校だって入ってくるし他にも色んなチームがあったりする。
そいつらを倒さないといけないんだ。
逆にいえばこの地区を制した高校は甲子園でも上位に入るということになると考えてもいい。
こんな地区に居ることは幸か不幸かわからない。
だけど。
「聖。これからよろしくな」
「ああ。よろしく頼む、修也」
俺と聖は握手をする。
手の大きさは普通の女の子とは変わらない手。
細い体で捕手を務める姿なんて、普通の人ならば頼りなく感じるだろう。
だけど、俺にとっては頼りになるやつだ。
聖が居れば何とかなりそうな気がするんだよ。
俺をエースだと言ってくれた聖となら、何とかなりそうな気がするんだ。
俺はこいつを信じる。
聖の手を強く握ると、聖も強く握り返してきた。
聖だって俺を信じてくれている。
だったらやるしかないな。
手を離すと聖は微笑んだ。
それにつられて俺も微笑んでしまう。
「よし明日から野球部の勧誘しなきゃな!」
「やんす!」
「うむ」
みんなで気合いを入れる。
まずは甲子園に行く、あかつきを倒す第一歩として勧誘だ。
目標は今年の夏大会でまずは一勝だな!
『よろしくな、聖。お前が俺の初めてのパートナーだ』