実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校   作:Reaflet

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第十九話 “敗者と勝者、始動と新たな好敵手”

「ゲームセット!」

『試合終了!!最後はまさか、まさかの幕切れえええええええ!!!!二死二三塁の場面で、三本松を空振り三振に打ち取り、振り逃げとなりましたが捕手の六道がまさかの暴投!!そのまま六本木がホームに帰ってきてあかつき大付属高校サヨナラ勝ちいいいいいいいい!!!!』

 

 ホームにあかつき大付属のメンバーが集まって、六本木を囲む。

 ホームカバーに入っていた俺がその風景を後ろから見る。

 

(負けた、か……)

 

 涙はまったくといって出ないし、自分の力を出し切った結果……いやそれ以上の実力を発揮して負けがついたんだ。ただ、実力どうこうじゃなくてあかつきが勝ったのだから、あかつきが強かっただけだ。

 

 一つもミスが無しで試合を運んでいたあかつきと

 最後に痛恨のミスをしてしまったタチバナの差はとてつもなく大きい。

 

 ミス一つで勝敗がきまるスポーツはたくさんある。野球もその例に当てはまるんだ。

 たった、一球。

 たった、ワンプレイでのミスで。

 

 試合は変わる。

 

 目の前には、膝を落として涙をこぼし立ち上がれない、聖が居た。

 

「聖、整列だ。立とう」

「私のせいで、私のせいで……」

「整列だ」

 

 ごめんな、聖。お前に負担をかけ過ぎてたよ、俺……いや、俺らはさ。

 

「聖、お前は悪くないよ」

「そんなの、嘘に決まっている……」

「絶対に悪くない。悪いのはこの俺だ」

 

 そう言いながら聖の体を支えながら、整列しに歩く。聖だけじゃない。

 他のメンバーだって、目を赤くしながら涙を我慢している。みんなが涙を堪えながら整列をした。

 今日のみんなは最高のプレーをしてくれた。全国トップクラスの実力を持つ相手に、真っ向から立ち向かってくれたんだ。

 聖を支えながら俺は心を落ち着けようと上を見上げて、そのあとにスコアボードを見た。

 

タ 000 020 000

あ 000 000 012x

 

 勝者と敗者を完全にスコアボードは表していた。

 そしてこの時点で甲子園に出場する高校は決まったのだ。

 

――――――あかつき大付属高校。

 

 ヒット数はあかつき大付属が十本、タチバナが四本しか打てていない。

 投手力の差もあるかもしれない。俺と猪狩は投手としては俺が甲子園出場校レベルよりも下の投手だけど、猪狩は甲子園優勝校のエースレベルだ。

 打線が弱すぎたのもあるかもしれない。四本で二点を取れたのはほめられることかもしれないが、細かく見てみればまったく打てていないということになる。

 しかも、四本の内訳は友沢、俺、猛田、矢部君。

 友沢や俺はともかく、猛田と矢部君はヒットとは言い難い当たりだった。

 実力の差はやっぱりスコアに表れる。エラーの数はタチバナが二個、あかつきが〇だ。

 

(やっぱり実力で負けていたんだな……)

 

『甲子園に出場するのはあかつき大付属高校!!中盤までは聖タチバナ学園高校ペースの試合でしたが、終盤に流れをモノにして勝利をもぎ取りました!』

 

 あかつきのメンバーがホームベースからすぐに整列をして、俺達と対峙した。

 三時間前まではお互いににらみ合っていたのも今ではそんな気分ではない。

 俺はあかつきのキャプテンである四条と握手をして、礼をした。

 

「頑張れよ、甲子園」

「ああ。君たちよりも強い高校なんて無いということを証明してくるよ」

「そうか。期待してる」

 

 四条はそう言って整列しているところに戻る。そして、審判の声が響く。

 

「ゲーム!あかつき大付属高校!礼!」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

 俺達は一斉に礼をして、みんなで顔を上げた。

 そうして涙を流す人も居れば、堪える人もいる。

 よし!また練習だー!、なんてすぐに切り替えられない。それほど神経をすり減らし、体力を使いきって、全員野球で戦った結果がこれだから。

 猪狩が俺の様子をみながら、話しかけてきた。

 

「……ナイスピッチだったな。やっぱりお前ら、あかつきは強かった」

「いや、ここまで苦しめられたのはあかつきとしては初めてだ。個人的には水無月と戦った時以来だけだね」

「……お世辞は良いさ。負けは負け。甲子園でしっかりと勝ってこいよ」

「分かっている。でも、僕はこの試合内容は納得してないぞ。秋、もしくは来年の夏また勝負しよう。……六道のミスで勝った試合だが、勝ちは勝ちだな」

「……そうか。ミスってのはやっぱり大きいもんな。俺は応援してるからな」

「ああ」

 

 お互いに握手して、俺はベンチの方へ戻っていった。

 たくさんの学園の生徒、観客が俺達の健闘に拍手してくれていた。みんなで並んでその人たちに挨拶をする。

 

「良い試合だったぞー!!!」

「良く頑張った!!」

「あかつき相手にあそこまで戦えるなんてすげー!!」

 

 違う、あと一歩で甲子園だった。そう、あと一歩。

 

――――――もっと俺がちゃんとしていれば、勝てたのに。

 

 その想いが俺の胸に重く突き刺さった。

 ごめんな、みんな。俺のせいで、俺のせいで甲子園の土が踏めなかった。

 俺達はスタンドに一礼をして、ベンチに戻っていった。

 さっきの言葉が心に響いて、目から涙があふれてきた。そうして泣き崩れる俺をみんなはたぶん、見つめていたと思う。

 キャプテンとして、エースとして、みんなを安心させられなかった。

 プレッシャーに押しつぶされそうなチームの状態を見切れなかった。

 

(――――――ごめん、みんな。俺のせいで、甲子園が……)

 

「朱鷺君」

「……すみません、先生。俺のせいで、負けてしまって……チームのキャプテンとして引っ張っていけなくて、本当にすみません。みんなが頑張ってくれたのに、甲子園に行けなかった……!」

「大丈夫。まだチャンスはあるのよ」

 

 みんながどんどんベンチに去っていく間、俺と先生だけが残った。

 俺の肩を支えながら、聖名子先生がベンチに誘導してくれて、グラウンドに頭を下げる。 

 

――――――そして俺は、猪狩ドームを去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、あかつき大付属高校対聖タチバナ学園高校の試合のハイライトが流れて、新聞には大きく一面で乗っていた。

 

”あかつき大付属高校、サヨナラ勝ちで甲子園出場!聖タチバナ学園高校、痛恨のミスが響く”

 

 テレビでは甲子園出場を決めたあかつき大付属高校の代表として猪狩がインタビューに答えていた。

 エースで自ら点を獲った活躍として、弱冠一六歳で甲子園で完全試合を達成して注目を浴びていた”怪物”猪狩守。

 

「勝った気分はどうでしたか?」

「嬉しいです、と言いたいところですが正直に言うとイマイチでした。最後のミスがなければ、聖タチバナ学園高校の勝ちだったので僕自身もっと磨かなければと思いました」

「あの試合での相手投手である朱鷺君の投球どう思いますか?」

「修也は素晴らしい投球を見せていました。恐らく、数字では自分が上だったかもしれないですけど試合全体を見ていれば彼の方が上でした。そういう点では彼に負けました」

「甲子園ではどのような気持ちで?目標はなんですか?」

「もちろん優勝を狙います。夏二連覇を狙いに行きます。個人的な目標としては奪三振記録をこうしたいと思っています」

「楽しみにしています!ありがとうございました!」

「はい」

 

 猪狩はひたすらインタビューを受けていた。

 明日からも練習が始まるというのにも関らず、昨日から休み暇もなかった。

 バックの中に入れていたパワリンを一本開けて、飲み干す。

 

(決勝戦……修也が七井に放ったあの球……)

 

 ストレートにしては遅く、変化球にしては速かった。

 僕に投げ込んだストレートはMAX149キロ。しかし、それ以外は145キロ辺りの球速表示されていたはずだ。疲れが残っているとはいえ、あの状況で相手は七井だ。139キロのストレートで抑えられるわけがない。

 ベースの手元で変化する球。ストレート系を曲げた変化球かもしれない。カットボールやツーシームなのかと思ったが、ビデオを見る限り持ち方は違かった。

 むしろ握りはほとんどストレートに近く、リリースポイントもほど同じ。

 

(七井が言ってたのは”ストレートだと思って振ったら、いつのまにか芯を外されていた”と言ってたな。フルスイングしていたからかもしれないが……)

 

 可能性としてはシンキングファストだが、ただのミスで投げられた球なのかもしれない。

 ムービングファストの可能性が最も高かったが、今まで修也はクセ球なんてことはなかったしフォームからして投げるわけがない。

 

(ストレートとムービングファストを使いわけしている投手なんていないだろう。考えすぎかもな……)

 

「猪狩守選手!月刊パワフルスポーツです!取材お願いします!」

「はい、わかりました」

 

 あかつきのエースはこの僕だ。

 甲子園では昨年とは全く違う僕を見せつけてやろうじゃないか。

 

―――――――――――見てろ、修也。僕が全国で見せる最高の投球を。

 

(僕は進む。修也も必ず這い上がってこい……それまでは僕は頂点で待っていよう)

 

 あかつきのエースは一人、燃えている。

 彼は覚えたフォークとライジングショットで甲子園制覇に加えて、高校野球にさらなる”革命”を起こそうとしている。

 

 まだ、彼らは二年生だというのに。

 どうしてそこまで先を見ているのかはわからない。

 ただ一つ言えることは、

 

――――――彼らは本気で野球をしているということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだな、私のせいで負けた。

 あの状況、あそこで私が一塁へ投げれば。猛田の元へ送球していれば、甲子園に行けたのに。

 私はあの状況で、私は

 

――――――緊張《プレッシャー》に負けたんだ。

 

 あかつきの選手たちに負けたんじゃない。ただ、負けてはいけないものに負けてしまった。

 あの時の私は、修也にサインを出したくないと言っていた時点で負けていたのだ。

 そう、最後の最後で私は修也に頼ってしまった。

 投手に任せてしまったのだ。

 リードするんじゃなくて、リードしてもらうようにしたのだ。

 

「私は……私は……何のための捕手なんだ……」

 

 たった一つのミスじゃない。

 私は捕手という仕事を最後の最後で放棄したのだ。

 

「最低だ……私は捕手をやる資格なんてない……才能がなかったのか?」

 

 こんなんじゃあみんなに合わせる顔なんて、修也に合わせる顔なんて、

 

 

――――――ないよね。聖からしたら。

 

 

 その声が聞こえた方向に振り返りながら、反論しようと私は口を開けた時、

 そこに居たのは中学時代に私がそいつを救ってあげた人物。

 

「な……っ!」

「聖。君がそこまで簡単につぶされる人間じゃないと思っていたのにな」

 

 パワフル高校のエース鈴本大輔。

 私たちが今年の夏予選で準決勝の際に当たり、私たちが三対二で下したチームのエース。

 私が河原の草が生えている斜面に座っている後ろに方に立っていた。

 

「鈴本……」

「あのとき救ってくれた君は言ってたよね。『才能で決めるな、努力しろ』って」

「大輔……?」

「まるで今の君はあの時の僕だ。あの時の僕は度少しでも前に出ようと思っていた。行動に移すことができて、聖がそれを後押ししてくれた。どこかで自分自身に怯えてた僕を君が後押ししてくれた」

「そう、だな……」

「今の聖はどこかで自分におびえているんじゃない。もうすでに怯えているというのがわかっているから、行動に移せてないんだ」

「……そうかもな。怯えているんだ、あのことが、あの映像が私の頭の中で何度も繰り返されて……」

「怖いんだね?」

「ああ……」

「だけど、僕は敵だ。救ってあげたいけど、救えない。それに誰かに救って、無くなるほどその恐怖は抜けないよ」

 

――――――自分自身で乗り越えなきゃいけない。

 

 そう鈴本の言葉が私に響いた。

 わかってる、わかってるのに。体が動かない、まるで誰かに支配されているがごとく。

 嫌だ、嫌だ。

 

「六道 聖」

 

 パワフル高校の現レギュラー捕手である新田桃が居た。

 その鋭い眼光は私の心の中を完全に読んでいるということがわかった。

 

「私たちは貴方達に負けて悔しかった。できれば、いますぐにリベンジしたい。でも……」

 

――――――今のあなたの状態で、勝ってもつまらない。嬉しくもない。

 

「……」

「私が戦いたいのはあなたが最高の状態で捕手をやっている聖タチバナ学園高校と戦うこと」

 

 なんで私にそんな期待をする?弱い私に、強くない私に。

 敵なのにも関らずなんで私にそこまで望むんだ。

 私は修也が居ないと弱いんだ。強くないんだ。

 

 

――――――「あー、大輔、新田。そこまでしといてくれない?」

 

 

「ちょっとうちの捕手、落ち込んでいるみたいだからさ」

「峰田。聖、ごめん。少し言いすぎたところとかあるかもしれない」

「……大丈夫だ」

「さっきチームの方で呼ばれてさ。集まんないといけないんだ。じゃあ、六道行こうぜ」

「え……?」

「じゃあな、大輔。秋大会会おうぜ?」

「そうだね。戦えるように頑張るよ。じゃあ」

「六道聖。期待してる……」

「……」

 

 私の腕を峰田が引っ張って、私の家の方へ歩く。

 鈴本達は私たちの方を見ないで、そのままパワフル高校の方へ歩いていったみたいだ。

 しばらく歩いたところで、私は腕を解いて峰田に聞いた。

 

「……なんで河原に来た?」

「いや、本当は家に行ってみようかなと思ったけどいなかったからさ。その調子だと朱鷺も六道のところに来てないみたいだな」

「……ここに居たからな」

「六道。一人で背負いすぎだ」

「一人で背負うも何も私のミスで負けたのだ。普通のことだろう」

「確かにお前のミスで負けたし、俺達は甲子園に行くことができなかった。でもさ、そのミスは本当に六道のせいだったのか?」

「……?」

「朱鷺の投球も、俺達野手陣の守り、攻めにもミスがあったから負けたんだ。一点差を争うような接戦じゃなくて三点差をつけていたりしていれば違う結果だったかもしれない」

「……猪狩からあれ以上点を取るのはほぼ無理に近いだろう」

「だからだよ。俺達みんなの実力が足りなかった」

 

 

――――――だから、みんなで成長するんだ。

 

 

 峰田の言葉は一瞬で私の頭に入ってきた。

 そうか、私は……ただ結果を受け入れられないで立ち止まっていたのかもしれない。

 みんなで成長する、私が立ち止まってたらみんなで成長できない。

 

「……ありがとう。峰田。お前の言葉は私も進むことができるかもしれない」

「ははっ、同じチームなんだからさ。遠慮なく言ってくれよ」

 

 前に進めれば、こんな自分じゃなくて投手に、修也に完全に信頼されるような捕手になれれば。

 もっと投手に苦労させないような捕手になりたい。いや、なる。

 

――――――誰が誰であろうとも私は私だ。

 

『なぁ、聖。野球って何のためにやってる?』

『ふふっ、修也。いきなり変なこと言うな』

『じゃあなんだよ』

『もちろん私自身のためだ。修也も同じだろ?』

『もちろんだ。でも……自分のためにやることの延長線上に他人のためになっているっていうことにもなるんだよな。そう考えると自分のためにやっているということは間違いなのか?って思ったりしてな』

『そうとも言えるのかもしれないな……』

『高校生の三年間ってすぐ過ぎるらしい。部活をやっているとさらに速くなるらしい』

『そうかもしれないが、私たちはまだ一年生だぞ』

『それもそうか……』

『修也』

『ん?どうした?』

『私は……甲子園に行きたい。修也と一緒に』

『ああ。俺も聖と一緒に甲子園へ行きたいな。……だから、一度やり終えたことに俺は絶対に後悔しない。今まで後悔し続けてきたから、次は後悔しない。どんな結果でも次は前に進めるように、その結果を受け入れるんだ』

 

 一年前辺りにこんな会話をしたような気がする。

 もう修也は前に進んでいる。

 私も前に進んで、修也と肩を並べられるような選手になる――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八月一日。あの日から四日後。

 大雨の中、漆黒の闇に包まれている夜なのにも関らず走り続けていた。

 

――――――朱鷺修也。

 

 成長を続けているエースが、たった一年で球速を9キロ近く伸ばし制球、変化球共に急成長しスカウトの注目を集めるほど能力を持つようになった彼だが決して油断はしていなかった。

 

(決勝に残れたからなんだ。負けては意味がない。……進め)

 

 顔の作りは恐らく、高校生では良い方な彼だが今はその顔の影はない。

 汗が顔中についていて、耳に付けているイヤホンからは自分の応援曲や好きな歌が入っている。

 それを聞きながら彼はひたすら走っていた。

 

 その後ろを着いていくのは川瀬准だった。

 彼のランニングする姿を見てからはこっそりと彼の後ろを着いていくのが日課になっていた彼女だが、彼女なりにも目的はあった。

 

――――――女性に不足がちのパワーだった。

 

 彼女の打撃は技術で勝負するタイプだが、甲子園に出るような投手からはある程度のパワーはないと打てないと考えた彼女は下半身強化に努めたのだった。

 彼女の守備力は甲子園に出てトップクラスだが、足の速さもそこまでずば抜けているわけではない。もっと足が早ければ、自分の長所を伸ばせるということを信じてランニングを続けていた。

 結局、朱鷺に見つかってしまったが一緒に走ろうということで毎日のように走っている。

 

「少し休むか。ちょっと飛ばし過ぎたな」

「そうだね。いつもよりも早かった感じがする」

 

 お互いに自販機でパワリンを買って、一本開けて飲む。

 その二人が休んでいるとと先から誰か人物がやってくるのが見えてきた。

 

「雅ちゃん、飛ばし過ぎ……」

「風くんは遅すぎだよ。もっと体に負担掛けなきゃだめだよ」

「軽い運動目的なのにさ……」

 

 前から走ってきたのは金髪の女の子とこの辺の地区ではあまり見られないユニフォームを着ている人物が居た。

 男の子の方は細身でさわやかそうな顔つきで水色のロングの髪の毛を結んでおり、目の色が水色の持ち主。しかし、ただならぬ雰囲気を醸し出している姿に朱鷺が反応した。

 

 

 そう、あのときの相手の姿が居たから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「水無月……?水無月!」

「……元あかつき中の朱鷺くんじゃないか」

「忘れない、お前の顔は忘れないぞ」

「僕もだよ。僕のストレートをファールとはいえ、ライト方向へ流し打ちをしてあわやホームランの打球を打たれたのは自分としては悔しかったから。そういえば、そっちの地区の決勝で猪狩くんを擁するあかつきに一点差で負けたというニュースを聞いたよ」

「まあ、な。ていうか、水無月はどこ高校行ってるんだよ」

 

 俺は一年間以上わからなかった水無月について、最初に疑問に思ったことを聞いた。

 どのチームかもわからないアンダーシャツを着ているので、この辺の高校じゃないということはわかった。

 だが、こいつが今でも野球をしているということはわかる。

 体つきは中学の時以上に鍛えられているのがわかり、身長も俺よりも上なのは変わらないが180センチ近くまで伸びているだろう。

 目付きは普段は優しそうな眼だが、投手や打席に立つと東條のような鋭い眼に変わる。

 

「えっと……死闘を繰り広げた君たちには教えたくなかったんだけど……」

 

 いかにも話しにくそうに水無月は口を開く。

 死闘って……まあ、水無月が思っているのなら別に良いけど。

 一度唸ってから戸惑いながら水無月が言った。

 

「『ときめき青春高校』なんだ」

「……は?」

 

 俺はその高校を聞いたとき、一瞬ポカンとなった。

 まったく聞いたことのない高校なわけじゃない。別な地区に居てもかなり有名な高校だ。

 

――――――不良が全校生徒の半数以上を占めると言われている高校だからだ。

 

「いや、だってお前ほどの選手だったら有名な高校に特待生として誘われる高校なんて二十以上あっただろ。栄光学院大付属とか帝王とか、あかつきや西京とか来なかったのかよ?」

「もちろん、来たよ。確か五十校ぐらいから来たんだけれど中学三年で全国終わった後に肘を壊しちゃったんだよ。なんか調子おかしいと思いながらも、投げていたら見事にやっちゃってね。海外で手術を行った後、こっちに帰ってきた頃には入る高校がなかったからね」

「とき春でも野球やってるのか?」

「うん。一応ね、外野手と投手を兼用してやってるよ。主にリリーフだけど」

「お前が先発やらねーと負けるんじゃないか?」

「いやいや、あのシニアで有名だった青葉くんがね。投手やっているから。今年の夏は出てないけど、秋からは出場する予定だよ」

「あの不正球を使った投手とか言われてた奴か?あれは明らかに変化球だよ。中学レベルでは曲がりすぎだけどなんだけどな。じゃあ、今度練習試合しようぜ?お前の打撃もそうだけど、投球みたいからな」

「うん、いいけど……。雅ちゃ……ん?」

 

 俺と水無月が話していると、准と雅という人が話していた。

 少しお互いに距離は離れているが、会話自体は聞こえる。

 

「雅先輩、野球やってたんですね」

「もちろん。准ちゃんもその様子だとやってるんだね?」

「もちろんですよ。先輩とあたしは戦いたいです。あのとき、私は認められなかったけど先輩は認められた。その差がどこにあったのか。あたしが下手だったからなのか、それとも先輩がうまかったのか」

「ううん。僕と准ちゃんは認められてたよ。だから、お互いにレギュラーだった」

 

 もしかして雅というあの女の子は准の先輩だったのか?

 認められてたということは最後まであのシニアで三年間プレーしていた実力者だったということか。チームメイトからも信頼された女性選手。

 いや、まてよ……あの容姿。どこかでみたことある……。

 准の情報を集めるときにビデオで――――――

 

「……そうか!あいつ、准が二年生のときに一つ上で俺達と同い年でショートを守っていた女の子だ。准が二年生で七番センターだったときに三番ショートに入っていた女性選手だ!」

「朱鷺くん良く知ってるね。彼女は小山 雅。うちのショートを守ってる守備の達人だよ。さすがの僕も守備では負けるかな……。南くん、六本木くんとかと良い勝負かな。打撃もミート力抜群だよ」

 

 そうだよ、妙に見たことのある女の子だと思ったんだよ。

 バントもうまくて逆境にも強い選手だったような……そして、負けているときの打撃が凄かった。打撃スタイルも守備スタイルも准と似てる。

 

「あたし、先輩に負けないですから。先輩に教えてもらったこと、今ではチームのために自分のためにすべて生かせてます。だから、次は先輩にも見てもらいたいです」

 

 強気で准が言うが、それに小山が戸惑っている。負けず嫌いなのはわかるんだが、こんなに熱くなるなんて初めて見るな。

 いや、初めてというよりは俺が准と出会った頃みたいな感じだ。

 えっと……とき春って確か男子校だよな?でも、何で女子が居るんだ?

 俺は小声で水無月に聞いた。

 

「水無月、とき春って男子校だよな……?」

「えっと……野球をやりたかったんだけど、女子だからという理由で他の高校は見学の段階で断られたんだ。そっちの地区は遠いから行けないし。でも、女子じゃなかったら大丈夫だって思ったらしくてとき春に来たんだ。とき春は書類とかもまったく見ないし、過去の事件とかも関係なく入学できるほど気軽に入れる高校だからね。性別を変えて男として入学したんだよ……野球部にはばれてるけど」

「ばれてんのかよっ」

「そのせいで彼女は苦労しているからね……そっちの地区は女の子が出場してるから羨ましいっていったから」

「なるほどなぁ……苦労している奴もいるんだな。そういえば、俺達合宿行くんだけどお前らも行く予定あるか?練習試合だったらその時に組みたいんだけど」

 

 そう言って去年行った場所のところを伝えると、准の様子が変なのか焦っている小山と相談して何かしら確認していた。少しすると戻ってくる。

 

「実は僕たちも来週合宿なんだよね」

「今決めたんじゃないだろうな……?」

「違うよ。元々決めていたことなんだけど、うちの場合練習中心に組んでいてね。試合は無い方向だったんだけど……最終日に組めるんだったら良いけど?」

「おっけーだ。俺達は最終日まで試合を結構組んでる予定だからな」

「それじゃ、合宿で会おう」

「ああ。じゃあな」

 

 小山と水無月は俺達に挨拶した後、ランニングしながら帰っていく。

 小山は若干、「どうしよう……」と焦っている顔で准を見たが「さようなら。先輩」と言われたからか微笑んで帰っていった。

 そんな様子を准はみていたが、目をそむけた。

 

「なぁ、小山と何かあったのか?」

 

 准はムスっとした顔で、それでもどこか儚そうな顔で話し始めた。

 

「……先輩はあたしの目標だった。あの日までは、たぶん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『小山先輩、キャッチボールしませんか?』

『うん、いいよ』

 

 そうあたしは最初っから雅先輩にくっ付いた。

 唯一の女の先輩であって、チームメイト。実力もかなりのもので新人大会には一年生ながらもレギュラーを張ってチームに貢献していた。

 姉妹のように、姉のようにいつでもくっ付いていては遊んでいた。

 いつの間にかそれが普通になってきて、先輩のスタイルを目標にしては同じように成長していった。

 守備がうまくて、バットコントロールが抜群。

 でも、あたしと先輩には色々と差があった。

 先輩の打撃は技術だけじゃなくて、平均程度のパワーもあってここぞというところでは長打も打てる打者でもあった。特に接戦で負けているときや打ってほしいときに打ってくれる打者。

 でもあたしは打ってほしい時に打てなかった。パワーも最低限程度だから、得点圏打率で圧倒的な差が出ていた。

 

『雅ちゃんと准ちゃんはね……確かにタイプは似ているのかもしれないけど、絶対に同じ選手にはなれないよ。お互いに良さはあるけど、准ちゃんは守備がうまいほうなんだ。雅ちゃんは打撃もうまい選手。まあ、どっちも居てくれて僕的には嬉しいよ』

 

――――――それって……あたしは打てないっていうんですか?

 

『そういう意味じゃないよ。でも、雅ちゃんみたく打者としては主軸には張れないっていうこと』

 

 そう、あたしたちのキャプテンは言った。

 あたしは反論はできなかった。先輩との差はあたし自身が感じていたことだから。

 それでもあたしは雅先輩にいろいろと教えてもらった。

 二年生になり始めた時から、周りはあたしを陰でありながらも批判し始めていった。

 先輩も最初は批判されていたかもしれないけれど、実力で周りを認めさせた。

 

――――――私は認めさせられなかった。

 

『私はね……プロ野球選手になりたいとは思わないよ?』

『え?何でですか?』

『この大好きな野球をいつまでも続けていきたいんだ。この場所(フィールド)で、この遊撃手(ポジション)駆け抜けたい。ただそれだけだよ』

 

 この人には一生追い付けないって思ったのかもしれない。

 ただ純粋に野球を楽しんでプレーをしているこの人とはたぶん、対等な立場まで上がれない。

 あたしは一生この人には敵わない。目標のままなんだって思った。

 試合でも、練習でも楽しんでいる姿は私とは違う。

 何かを目標にしているわけじゃなくて、ただ野球を楽しんでいる。

 

『ねえ、准ちゃん。また今度一緒に野球しようね……私と約束。その時に准ちゃんの実力見せてね?』

『…はい。先輩は野球をやるんですよね?』

『私の地区じゃたぶんできないかな。違う地区に行こうにも親に駄目って言われてるから。……でも、私は野球出来る場所さえあればそこに居続けるよ』

『あたし、雅先輩のこと目標にしてますから。絶対、みんなに認めてもらって堂々とプレーできるような選手になって見せます』

『准ちゃんならできるよ。君なら……』

 

 認めてもらいたかった。チームメイトに。

 だけど、それがかなわなかったからあたしはやめてしまった。

 

――――――先輩の期待を裏切った自分には何が残るのか。

 

 ねえ、あなたにとってあたしはどのような存在だったんですか?

 ただのチームメイト、後輩だったんですか?

 

――――――その疑問の数々と悔しさと苦しさだけが残っていたんだ――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしはあんたに救ってもらった日から、迷わないって決めたんだ。どんな結果でも迷わないで前に進む。進もうと努力する。それを雅先輩もしてたことだと思うから」

 

 

 准は小山とは違う。それでも准は小山に追いつこうとしている。

 大雨で濡れた顔と髪の毛で表情は見づらくてわかりにくかったが、たぶん准は何かしら感じているのかもしれない。

 負けたことで、このような出会いもあった。

 進めるか、前に。

 進むんだ、前へ。

 

(……合宿、か。今年は少し波乱がありそうだ)

 

 俺は大雨の中、頬をぬらしながら思った。

 今年の合宿は大変なことになりそうだ、と。

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