実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校   作:Reaflet

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第二十一話 8月2週 “光のゲートとちょっとした想い”

『あっーと!猪狩守、この回三者三振!神帝学園高校、この回も〇点です!六回表終了して未だ〇対〇!これは延長戦もあるか!?』

 

 白熱する試合。

 猪狩の投球は凄まじく、相手打線を沈黙させてまだ一安打しか許していない。

 一方のグラビトンの投球も素晴らしく、あかつき打線を二安打に抑える投球を展開していた。

 六回表。

 八番、九番、一番を三者三振に切ってこれで十一奪三振。

 マウンドから降りてベンチに戻るその顔に疲れは感じられない。

 MAX153キロのストレート、キレのあるスライダー、打者を翻弄するカーブ。

 怪物にふさわしく、さすがと思わせる投球内容だ。

 しかし、驚きなのが

 

――――――ここまで一度もフォークを使っていないということだ。

 

 フォークはある意味で猪狩の最終兵器だ。

 ライジングショットと組み合わせたら、ほとんどの打者はついてこれないほどの球だ。ライジンッグショットは軌道が浮き上がるのに対して、フォークは落ちる球だ。

 打者の眼をだますことのできる組み合わせなのだ。 

 

「ここまでの投球数はどのくらいですか?」

「七十三球です。相手が早打ちして助かっています。一方相手は九十八球です。そろそろ球威も落ちてくることだと思います」

「ありがとうございます」

「……ふぅ」

「兄さん、この試合はこのままフォークを封印しますか?」

「そうだな……握力もあまり使いたくない。このままで行くぞ、進」

 

 わかりました、と進が頷いてベンチに座る。

 猪狩は水分補給をしながら、打席に立っている八嶋を少し見た後相手チームのエースグラビトンを見た。

 二安打、一四球に抑えられているあかつき打線は一番の八嶋から。

 三順目ということで監督も指示を出し始めている。

 

(MAX155キロの剛腕投手。高速スライダーとチェンジアップをうまく使い分けている投手だ。……だが、投球の七割、八割がストレート。その傾向さえ分かればうちの打線は捉える)

 

 2-2に追い込まれた八嶋は外角へ落ちて行くチェンジアップをライト前へ弾き飛ばす。

 初めてノーアウトでの出塁。

 

「六本木!しっかり頼んだゾ!」

「もちろんだよ」

 

 打席に立った六本木はバットを寝かせてバントの構えをする。

 そして、六本木が三塁方向へきっちりとバントを決める。

 俊足の八嶋に盗塁をさせず、無理に野球をしないというところもあかつきの堅実な野球を表しているだろう。

 ここから相手にとっては嫌な打順になってくる。

 一死二塁というチャンスで三番、四番、五番とクリーンアップ。

 さらには一点差とこれをピンチと言わずに何と言うのか。

 球場全体もゲームが動きそうな展開にざわざわし始め、そして三番の七井が打席に入った。

 

『三番レフト七井君』

『一死二塁!このチャンスに打席に立つのは……今や誰も文句は言わないであろう、あかつきナンバーワン打者!七井!今日は完璧な打球を打つものの、不運にも正面をついています!しかし、ここ一番で信頼できる打者と言えば彼しかいません!』

 

 わああああああああああっ!!と一気に歓声が沸く。

 百球を超えたグラビトンにとって、この打者は試練としか言いようがないはずだ。

 二打席とも完璧な当たりでレフトフライと一塁への鋭いライナーで抑えているものの、運が良かったの一言にしか過ぎない。

 一振り、七井はスイングをする。

 ブンッ!とマウンドまで聞こえる音に再びグラビトンを震え上がらせた。

 並みならぬスイングスピードと圧倒的な威圧感。高校トップクラスのスイングスピードを誇る彼にとって150キロの速球を当てることなんぞ容易だ。

 駆け引きさえなければ七井はストレートは五割はスタンドに運んでもおかしくはない、と猪狩は思っている。猪狩は絶対に敵にはまわしたくない味方の一人に思っている。

 高校トップクラスの打者。グラビトンにしてはそこまでの相手思えない。 

 しかし、近年は高校野球のレベルは上がっている。

 世界標準で比べてもアメリカ、キューバなどの強豪国と比べても引けを取らないレベルまで上がってきている。

 それは間違いなく彼らの世代が出てきたからだろう。

 世代代表とも言われる猪狩守の存在が一番大きいのは言えること。

 さらに、あかつきが勝ち上がってきた地区には少なくともこのレベルと同じ打者が二人いるのだから。

 ”あの”猪狩が失点するレベルの地区だ。頭一つ抜けている地区を制してきたチームに油断はしてならない。ましてや舐めてかかってしまったらやられるのはわかっている。

 一死二塁。一塁は空いている。

 しかし、グラビトンにとって敬遠はプライドが許さない。

 

(ここは勝負ダ!こんな相手はひねりつぶしてやル!)

 

 サングラスの奥から、視線を外してこない七井に対して睨みつける。

 力強く感じられるフォームから左腕を振る。

 ノビがあり、威圧感をむき出しにしたストレートがミットへ突き刺さる。

 時速――――――154キロのストレート。

 

「ス、ストライクッ!!」

『グラビトン!!154キロのレーザービームのようなストレートがキャッチャーミットへ突き刺さる!!!速い!七井も手が出ません!』

「……なるほどナ」

「打ってみろよぉ。七井=アレフト!!!」

 

 お互いの視線がぶつかり合う。

 マウンドには今大会最速左腕。対してバッターボックスにはあかつき最強四番打者。

 互いに一歩も譲ることのない戦いが続く。

 

『六球目!七井!高速スライダーをカットします!!カウントは未だ2-1!グラビトンのストレートは未だ150キロ台を記録しています!!!』

「ハァハァ。なかなかやるナ。さすが、あっちでみたときよりも凄い打者になっているようだナ」

「ッ……。オレにはわからないガ……グラビトン、最高の球投げてこイ」

 

 お互いに肩で息をし始めるも眼の鋭さは変わらない。

 ここが試合を決める場面だとわかっているからだ。

 グラビトンが振りかぶって投げる。

 七井は148キロのストレートを持ち前のバットスイングで球を捉えるも、ライトスタンド方向へのファールになる。しかし、その打球はかなり鋭かった。

 ファールになってグラビトンは少し安心したような顔になるが、すぐに七井へ視線を向ける。

 七井は打球の方向を見た後、二度スイングして再び打席に立った。

 

(……良い投手だったが、ここで落ちたな。今日の七井には初めての140キロ台のストレート。148キロとはいえども、球威が落ちてきた。さて、打ってやれ七井)

 

「七井先輩!お願いします!」

「あア!」

 

 猪狩がベンチから対決の様子を見守っていたが、やがてベンチ裏に引っ込む。

 少し涼しむためでもあるが、それ以外にも意味はあった。

 もう、この対決決着は着いた、とわかっていたからだ。

 

 グラビトンが振りかぶって投げた。

 コースは内角高め。七井の得意なコースだ。

 球種はストレート。バックスクリーンに147キロという文字が表示された。

 その球を七井はバットを一閃する。

 

―――――七井のバットはグラビトンの球を完璧に捉えた。

 

 ッキィィン!!!と打球は若干前進守備のセンターの頭を超えてフェンスにぶつかった。

 その間に悠々と八嶋が俊足を生かしてホームインし、七井はセカンドへ到達した。

 

『ついに、ついに!この試合の均衡が破れましたああああああああ!!七井のタイムリーツーベースヒット!!!あかつき大付属、先制点です!!!』

「七井!」

「ナイスバッティング!!!」

 

 スタンドから様々な声援が送られる。

 その人たちへ七井はガッツポーズをして、次の打者の三本松へ拳を突き出す。

 それに三本松は若干笑って、打席に入った。

 グラビトンが投げる。まだ、まだ一点に抑えれば。

 

――――――まだチャンスはあるはずだ。なんて思っていただろう、神帝学園ナインの希望を。

 

 たった一つの希望。”一点で抑えること”という希望を砕いた。

 

 甲子園に響いたその快音とともに打球はレフトスタンドへ。

 初球の高速スライダー。七井にストレートを運ばれて、一度落ちつかせたかった結果選択したボールだ。その球は要求したコースである低めではなく、高めへ甘く入った。

 

『入った!入りました!三本松の追加点となるツーランホームラーン!!!これでこの回三点を入れましたあかつき大付属高校!』

 

 しかし、崩れていくグラビトンにあかつきは手を緩めない。

 続く五十嵐がサードライナーに打ち取られるものの、進のセンター前ヒットの後の猪狩がライトスタンドへ突き刺さるツーランホームランでダメ押し。

 

 ライトスタンドへボールが行くのを眺めて、神帝学園ナインは敗北を予感した。

 あかつき大付属はこんなところでは終わらないということを示しながら。

 ダイヤモンドを一周する猪狩を、グラビトンは見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の試合で疲れていた俺は飯を食べた後、すぐに部屋に戻って休んでいた。

 幸いにも風呂(露天風呂とかいろいろある)の時間までかなり空いている。

 持参してきた本を読みつつ、ベットへ寝っ転がる。

 ちなみに今回は二人部屋で、友沢と同じ部屋。良くも悪くもお互いの事には気にかけない組み合わせで助かっている部分はある。

 まあ、矢部君とかと同じだったらそれはそれで良いかもしれないけど……。

 体力が持たないんだよなぁ……ガンダーロボの話をどれだけ聞かされることか。

 嫌いではしないけど……寝させてほしいよね。本当に。

 

「え、あたしは別に無いけど……六道先輩は?」

「いや、私もないが……みずきは?」

「もちろん私もだけど」

「さんざん日ごろからそういうことにはうるさいのに、自分が無いのはどういうことなんだ……みずき」

「ただの気まぐれよ。だって、そういうのには私疎いし」

「いや、容姿から見たら絶対過去にはありそうなのだが……」

「同感」

 

 隣りから話し声が聞こえるが、恐らく三人娘の声だろう。

 だだ漏れの声は読書中の俺にも意識せずとも入ってきており、現在視線に入っている本の文章が頭に入ってこない。

 本の内容はスポーツに関するものなのだが、三人娘の会話の内容はなんというか……。

 

――――――年頃の女の子がするような会話だった。

 

 後から何か言われたら困るので、音楽プレイヤーで音楽を聴く。

 イヤホンを自分の耳に入れて、音楽を流す。

 おっ、パワプロ14のオープニングテーマだ。この曲かっこいいよな。

 

「や、やめろみずき!」

「ふっふーん、聖ー覚悟!」

「……あーあ、またやっちゃってるよ」

 

 アカン、誰か壁を張り変えなきゃアカン。

 壁のせいで声がダダ漏れじゃねーか!大事なことだから二回言ったけど、駄目じゃねーか!

 

「おい、声が漏れてるぞ。橘、やめておけ」

「と、友沢!勝手に部屋に入ってこないでよ!」

「お前のせいで六道と川瀬が困ってるじゃないか。……言っておくが、隣の部屋は俺と朱鷺だからな。あまりにうるさいと、朱鷺がキレるぞ」

「!?……わかった。静かにしておく」

「!?……オ、オッケー。友沢先輩に感謝しておく」

「え、ふ、二人どうしたの?」

「じゃあな」

「ちょ、友沢!ど、どうしたの二人共?」

「だ、大丈夫だ。さて、何の話だったっけ?」

「た、確かなぜきんつばは美味しいのかという話だったような気がするぞ」

「違うし!あーもう、どうしちゃったのよ!」

「や、やめろみずき。修也が……」

 

 友沢が注意しにいってくれたのはありがたいけど、なんか俺ヤバい人見たくなってるじゃねーか!

 そこまできつくはおこらねーよ!つか、聖と准はなんでそんなに焦ってるんだよ!?

 

「……注意しに行っておいたぞ」

「ありがたいんだけど、何で俺が怖い感じの人になっているんですかねぇ……」

「知らん」

「俺だってわからないんだけど……」

 

 友沢はベットの上に座ると、キャリーバックから服を取りだして着替え始めた。

 青いシャツと、黒いジャージを取りだして服を脱ぐ友沢。

 俺は本を読みつつ目線を友沢の方へ向けると、いかにもしまった筋肉がついている体が眼に入った。

 

「お前って投手用の筋肉のつき方だったよな?野手用の打撃に合った筋肉に変わりつつなくないか?最近、またスイングが鋭くなったのもわかるんだが、腰の回転もうまくなったよな」

「まあな。野球部に入ってからは筋肉を野手に変えようと毎日トレーニングは続けているからな。打撃もそうだが、投手から野手に代わるとショートのポジションだからな。取ってからすぐ投げる意識を体から変えようとしている。案外一連の動作というものは難しい」

「そりゃあな。捕ってから、肩の位置まで持ってきて投げるってやつをスムーズにしなきゃいけないもんな。峰田とかにやっぱり習ってるのか?」

「ああ。あいつは中学の頃ショートだったらしいからな」

「そうだったっけ?高校標準ではショートやるには肩が弱い方だからなー。まあ、あいつには捌きと捕ってからのスピードが段違いだもんな。プロ顔負けだよ本当に。六本木と比べても引けを取らねーよ」

 

 そんな会話をしつつ、明日に向けて考える。

 明日は練習かな。今日は強豪校との戦いで色々と課題も見えたし、何より去年以来の大量失点した試合だ。予選決勝のときみたく、奇跡のような好プレー連発は無かった。

 じゃあ、明日はケースを考えての練習か?

 ったく、メニューも色々と面倒くさいんだよなぁ……キャプテンってのはだから苦手だ。 

 

「おい、朱鷺」

「ん?どうした。今メニューを考えていて忙しいんだよ」

「テレビ見てみろ」

「……!」

 

 俺がテレビの方へ眼を向ける。 

 そこに映っていたのは今日の試合で行われた甲子園の結果だ。

 灼熱の太陽に照らされて、暑い甲子園では夏の王者を決める戦いが行われていた。

 もちろん、我が地区の代表あかつき大付属高校も出場している。

 

『今日の結果です!ご覧ください……。やはり今年の優勝候補のあかつき大付属高校!エースである猪狩守が神帝学園を九回完封に仕留め、さらには十七奪三振という記録を打ち立てました!二試合で奪三振数は三十四です!!このペースで行けば歴代トップである八十三を抜かすでしょう!!さらに去年のエースである一ノ瀬の記録は歴代三位の六十九!これを超すことはほぼ間違いないありません!!さらに自らのバットでも援護!五対〇で三回戦進出しました!』

 

 映像が流れる。そこに映ってたのは猪狩が振りかぶって、最後の打者へ投げ込んだストレートが内角へ決まっていた。スピードガン表示は152キロだった。

 この試合のMAXは153キロだったらしく、俺達と戦ったときの154キロは未だ甲子園で出してはいない。

 猪狩にとってもあの試合は実力以上を発揮した試合だったのではないかと少し思ってしまい、口元を緩ませてしまう。

 あいつにとっても特別な試合だったってことが嬉しい。

 

「奪三振記録か……勢いだけなら更新するな」

「そりゃあ、猪狩だしな。一ノ瀬さんもプロに行ってからは打たせて取る形に変わりつつあるけど、昨年はバンバン三振獲ってたしな。しかも、見逃し三振が圧倒的に多かったらしいし」

「コントロール良い上にあの球種の多さ。変化球のキレもストレートのキレも良い。ルーキーながら防御率も2点台で今季は26セーブだろう?」

「だよなぁ。二宮さんも打率3割に到達してるし、新人王確定だよ。……俺達が高校卒業したら、プロももっとすごくなるんだろうな。猪狩世代なんて呼ばれているらしいし」

 

 友沢が少しフッ、と笑い、グローブの手入れをする。

 俺自身も後でグローブの手入れをやっておこうと思いながら矢部君らが「風呂に行くでやんす」という声に対して「後で行く」と言ってメニューづくりを再開する。

 友沢が先に行ってるぞ、と言って部屋を去る。

 少し俺は窓の外をのぞくと、二匹の蛍が交わりながら飛んでいるのを見た。

 

――――――最終日にはときめき青春高校。

 

 楽しみでたまらない。あの個性のあるメンバーに対して、俺達がどれだけ戦えるのか。

 少し気合いを入れつつ俺は風呂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間がずれてしまったけれど、大丈夫だよな。

 俺はメニュー作りに時間がかかってしまって、風呂から友沢が帰ってきた時ぐらいに作業が終わってしまった。

 心のどこかでは行かないと駄目だと思っていたのにもかかわらずメニューづくりに熱中してしまい、みんなができるだけ合宿でケガせずにどれだけ潜在能力を引き出せるかというところで詰まってしまった。

 投手陣は今回の合宿で何か投球に関するものを得てほしかった。

 本当は俺と猪狩の投げ合いの場面で勇気を持ってスイッチできる投手が居なかった。

 みずきちゃんは東條にホームランを打たれているのもあって、あかつき戦では投げさせられなかった。

 圧倒的に相性が良いわけでもないし、なによりもクレッセントムーンの球筋を完璧に見破られたくはなかったのもあったけれど、物足りない部分があった。

 宇津はコントロールに不安があった。強豪校ともなれば一つのミスが得点に結びつく。

 それが怖い。すごく怖い。

 

「とは言っても、まだ成長するはずだしな」

 

 服を脱いで俺はタオルを腰に巻いて、露天風呂の扉を開ける。

 若干、肌寒かった外に驚き、その前に湯気がすごくてよく見えなかった。

 

「うおっ!湯気すげえな……え?」

「誰だ……え?」

 

 俺の眼に映ったのはまさしく――――――裸。

 年相応に発達した体があり、スポーツ選手にしては白い方と思われる肌色の肌が俺の眼に映った。

 若干目線を下に落としてしまうとそれなりに発達したが、高校生にしては普通よりも小さめに膨らんでいる二つの球体はスタイルの良い方だと思われる体の細さのせいもあって、眼を向けてしまう。

 しかし、筋肉はやはりスポーツ選手。

 無駄のない筋肉がついており、腰回りも細いものの力強さも感じられる。

 顔立ちの良い紫色の髪の毛をした少女は一瞬で顔が紅潮する。

 その様子を見て思わず……いや、しょうがないと言うべきか自分の顔が赤くなってしまうのを感じた。

 相手は生まれたての姿、ましてや俺も同じ。

 お互いの年齢は思春期である、高校生……さらには二年生。大人になりきれない年頃にとってはまだ速い。いや、速すぎるのではないのか。

 

――――――このような姿を見られてしまうのは。

 

「し、ししししし修也!!!!!!!?」

「なんでひ、聖が!!!!?」

 

 聖はすぐに湯につかりなおしたらしく、俺はすぐに後ろを向く。

 ああああああ!!時間ずらしたのが失敗だったああああああ!!!やべえよ!

 お、落ちつけ。こ、こういうときはあれだ。素数を数えるんだ……いや、自分的には自然数の方が良いかもしれない……!

 

「って、自然数とか意味ねえよ!」

 

 未だ若干熱くなっている顔を感じながら去ろうとする。

 

「し、修也!い、今出ると誤解を招くかもしれない……出たら危険だ」

「い、いや駄目だろ!」

「も、もしみずき達が私が入ってることを知っていて、修也が出てきたら事件になる!そ、それだけは避けたいのだ!」

「な……た、確かに」

 

 自分で納得する。

 確かに、みずきちゃん達に知られたと思うとかなり怖い。

 もしかしたらみずきちゃん達に知られて部員に知られたら、それこそヤバい。矢部君らにぼこぼこにされる可能性がかなり高い。

 

「そ、そうだな……じゃ、じゃあ普通に入る……」

「そ、そのほうがいいぞ……」

 

 そして何も見なかったかのように俺はシャワーのある方へ歩き始めた。

 まだ、顔が赤くなっているのを感じる。

 

(しかし、なんで聖が居るんだ?時間ずらしてしまったせいなのか……!?)

 

 少し罪悪感に包まれてしまいながら、ただひたすら頭を洗い始める。

 しかし、さっきの映像が頭の中でアンコールを呼んでしまって何度も映ってしまう。

 頭を洗いながら俺は記憶からさっきの映像を抹消しようとするがなかなか抹消ボタンが見つからずに頭をぶんぶんと振る。

 とりあえず頭を洗って、体も洗う。

 洗った後、俺は湯に入るか入らないか迷ったが入ることにした。

 もちろん聖の方は向かないで、背中を向けている。

 

「ひ、聖。なんでこんな時間に入ってるんだ?」

「さ、さっき私たち三人でいた時に私だけ少し入るのが遅れてしまって」

「そ、そうかー……」

 

 やべ、うまく話せない。

 湯は十分に熱くて、体が温まるがいかんせんさっきの出来事のせいか顔が熱い。

 うーん……。

 

「修也」

「どうした?」

「予選決勝の際、すまなかった。私のせいで修也に迷惑をかけてしまった」

「いや俺も悪かった。ピンチを作らずに、プレッシャーを与えることのない投球をしてやればよかったんだ……」

「修也が責任を感じてしまったのが一番嫌だった。……私は」

 

 聖がどこか、何かを絞り出して声を出す。

 俺はそれを背中越しに感じた。

 

「私は修也のパートナーだ。迷惑はかけたくないし、責任を感じてほしくない。すべてはキャッチャーの私に責任があるんだ。選んだ球種も、コースも、投手の調子と打者との相性……すべてを考慮してリードする……」

「?」

「修也は私のこと信頼してくれてたのに、私のせいで、負けてしまった。修也は私に物足りなさを感じたかもしれない」

「そんなことは」

「だから、だから……」

「だから?」

 

 

――――――また、修也は私のことを信頼して投げてほしい。

 

 

「もっと、修也に頼られたい。ずっと頼られていたい。いつでも私に頼って、信頼して、迷いなく投げてほしい。唯の我が儘かもしれない。でも、これが今私が修也にお願いすることだ」

 

 そう言って聖は俺の背中に、自らの背中をくっつけて寄り掛かる。

 少し聖の体の熱を感じつつも俺は少し想った。

 

(俺が思っている以上にあのミスで責任を感じていたのか。確かに、まあ最後の方は俺は聖じゃなくて自分の力のみで抑えに行ってたからなー……)

 

 少し笑みがこぼれて、声が出てしまう。

 聖は少し体をピクッ!とさせて、驚いた。

 

「ど、どうした?」

「バカ。いつでも俺は聖のこと頼ってるし、信頼してるよ。でも、聖がそう言うんだったらもっと俺は聖を頼るし、信頼するからさ。これからも二人で頑張っていこうぜ」

「……ありがとう。そうだな、頑張っていこう」

「聖、絶対秋の大会、来年の夏の大会。甲子園に行こう、俺達が高校史上最強バッテリーって呼ばれるくらいにまでさ」

 

 そう、”来年”まで。

 俺は高校卒業したらこの日本を離れなきゃいけない。プロ野球に進むという道を選ぶことができなくない。

 プロ野球の道に進めれば、他のやつらとも一緒に野球をすることができるかもしれないがそれすら閉ざされている。

 だからせめて、

 

――――――この、いつも小さい頃から一緒にいた可愛い幼馴染と共に。

――――――高校球児のだれもがあこがれるあの聖地へ。

 

「もちろんだ。修也と甲子園を目指す為に私はこの高校を選んで、誘ったのだからな」

「っ……ぉ……」

「?」

 

 うお、改めて言われると恥ずかしい!

 いや、実際この台詞は反則でしょ!というか、昔から聖は天然な部分があるからなぁ。

 慣れていないから、ちょっとまたもや顔が熱くなる。

 聖のほうはちょっとご機嫌っぽい。少し可愛いし。

 その後、しばらく二人とも湯につかっていたがのぼせないようにしたのか聖が立ち上がった。

 

「そ、そろそろ上がるぞ」

「おー、じゃあな」

 

 そう言ったものの、聖は立ち止まる。

 少しどこかためらった後に、たぶん俺の方を向いた。

 

「し、修也!」

「どうした?」

「……ま、また明日。おやすみ」

「おう。おやすみな」

 

 そう言って聖は湯からあがって入口の扉を開けて帰っていった。

 俺は一度ため息をついて、外を見上げる。

 ……みんなは入学当初に比べたら、変わったように成長している。

 レギュラーだけじゃない。ベンチメンバーもいざとなったときに頼れる人材だ。

 だけど、成長しているのは俺達だけじゃないってことを頭に入れて置くんだ。

 

―――――秋大会。

 

 そろそろ迫ってきたな。

 俺達と当たるとしても、強いところは恋恋、帝王、パワフル、あかつき辺り。

 特に恋恋高校。

 あいつらは俺達と同じで一番下から這い上がってきたチームだ。

 あかつきに対して一点差で負けている。

 スコア的に見れば俺達と同じ実力。だけど、明らかに違うのは勝負強さだ。

 チーム全体のここぞって場面での強さは怖い。だけど、うちのチームも勝負強さだったら負けていないさ。

 パワフルの打線は相変わらずだし、鈴本を打ち崩すのも一苦労だ。

 帝王はさらにハイレベルになったあげく、チームワークもよくなった。

 絶対に勝つぞ、秋大会。

 甲子園に出れればもっとみんなが成長できる。

 もう負けるなんて――――――嫌だからな。

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