実況パワフルプロ野球~二番手のエース~聖タチバナ学園高校 作:Reaflet
合宿最終日。
合宿のチーム成績は今のところ全勝し、好調を維持している。
レインボーハイスクールとの試合も苦戦を強いられたものの、粘り強く勝利して激闘第一との試合は六対一と快勝と言っても良かった試合になった。
そして今日は以前に予定していたときめき青春高校との練習試合だ。
このチームを支えている水無月がキャプテンだが、良い選手は他にもたくさんいる。
レギュラーが最上級生というのもあってか、実力者が多く、甲子園出場校にも勝利していたり善戦しているという情報はたくさん入っている。
「朱鷺君」
「おう。今日はよろしくな」
「うん、こちらこそ。結成して日が浅いからチームワークはまだまだだからさ。練習中心だったのが結局、バンバン試合組んじゃったよ」
「へー、経験は積まなきゃいけないしな。良い選択だと思うぜ」
「まあ、ね。ちょうど夏大会の終盤に差し掛かってきた頃に結成したから。試合経験も決して多くはないし……」
「よくそれなのに実力のある高校に勝てるな……」
「今日は僕も投げる。どのくらい通用するか、楽しみだよ」
「こっちこそだ」
お互いに握手して、ベンチに去っていく。
相変わらず試合中じゃない眼は優しそうなやつだ。
それに奥の方では小山が居て、どうやら准のことを気にしているようだ。まあ、その辺はあまり詮索しないようにしているけどな。
「よっしゃ、オーダー発表するぞ」
疲れはみんな溜まっているだろうけど、ここを乗り越えれば一つ上にレベルアップできる。
頑張ってもらいましょうか。かくいう俺も結構きついけど。
「一番レフト矢部君」
「了解でやんす」
「二番センター准」
「任せてくれ」
「三番キャッチャー聖」
「うむ」
「四番ショート友沢」
「ああ。任せろ」
「五番ピッチャー俺。六番ライト猛田」
「おう」
「七番サード喜多村」
「まかせろー」
「八番セカンド峰田」
「はいよっと」
「九番ファースト霧丘」
「おっけー」
「相手は強いからな。先に言っておくが、水無月が出てきたら体で感じろよ――――――?」
「え?なんででやんすか?」
「誘われた高校の数は水無月自身が言ってたが、五十校以上。恐らく素材だけなら、既にプロ級だよ。肘を壊したみたいだがな」
「プロ級……」
聖が何度もその言葉を繰り返す。
肘を壊してでも投手をやる、か。
もしも公式戦で当たったとしたらそこが付け入る隙かな。打撃も友沢とかのレベルともひけは獲らないぞ。もちろん投球に関してはかなりのレベルだ。
相手先発は青葉か。違反投球で一時期、野球をやめていたと聞いていたが復帰してるのか。
確か……雑誌で見たことがある。
違う地区だからこそ、そこまで有名じゃなかったらしいがかなりの凄い高速スライダーと聞いている。
久遠は芯に当てようして空を切るほどの変化の大きいスライダーだからな。違うスライダーを投げるから、簡単に打てなさそうだな。
猪狩攻略のためにもこの試合はいい経験になりそうだ。
「よし気合い入れて行くぞ!」
「「「「「「おおー!!!」」」」」
青葉が振りかぶって捕手の鬼力に投げ込む。
っと……速球は十分速い。しかも、重そうな球だし闘志がみなぎってるのがわかるぜ。
周りに体全体が燃えているオーラを感じる。
矢部君が打席に向かう。
「お願いしますでやんす!」
「プレイボール!」
青葉は少しロージンに手を伸ばして、白くなった手を息でフッと吹くとゆっくり振りかぶる。
若干トルネード気味で沈み込んで投げてくるストレートが、外角高めに決まる。
「ストライクッ!」
矢部君は初球から狙っていたみたいだけど、ちょっと遅れたな。
やっぱり威力がある。コースを狙ったけど、制球は少し甘いところがあるみたいだ。
再び振りかぶって投げ込んできたのはスライダー。
――――――ヒュンッ!!!と音が出るような高速スライダー。
ストレートとはほぼ変わらないスライダーに矢部君は空振る。
すっげえキレと速度。久遠のスライダーよりは変化はないけど、変わりに速度とキレのせいで途中までストレートかスライダーか、わからない変化球だ。
猪狩のスライダーの上位互換というべきか、化け物だ。
三球目も高速スライダーに矢部君は当然のごとく空振り三振。
「……本当にストレートかスライダーかわからないでやんす。ついでに制球は甘いでやんすが、それを補える変化球でやんす……」
「ああ。ベンチからでもわかるほどだったからな」
「左打者なら見やすいんだけど、うちのチームには友沢か霧丘しかいないしなぁ……」
「グダグダいってもしょうがねえよ」
二番の准が打席に入る。
一瞬、ショートに入っている小山が体をビクッとさせたがすぐに構えなおす。
初球、二球目と高速スライダーでカウントを取ると一球外に外す。
四球目の高速スライダーは打ちに行って途中でバットを止めて、見逃す。
「ボーッ!」
おおおっ、よく見逃したな。俺だったら振ってる自信あるぜ。って自慢するわけじゃないんだけどな。
それにしても一球一球間があって、その分タイミングを取りずらいな。
准は、五球目の内角気味のストレートを三塁方向へファールにする。
よく粘っているけど、そろそろか。
青葉が振りかぶって六球目に投げたのはカーブ。外角へ速めに落ちて行く球を准は片手で当てるだけで終わり、ピッチャーゴロ。
「カーブ?」
「そうだと思うんだけどさ、スライダーよりは遅かった。カーブで間違いないとは思うけど……若干揺れたような気が。いわゆるナックルカーブかも知れない」
「一球ごとに変化が変わる球か。縦に落ちるか横に変化するか……」
ったく厄介な球だ。高速スライダーにナックルカーブね。
制球が甘いとはいえなかなか打たせないポテンシャルは持っているんだな。
なんでこの高校に居るのかがわからねえよ……普通だったら強豪校に居るべき投手だろうが。
聖が二球目のナックルカーブに手を出すものの、ショートゴロに終わる。
「まず守りから流れを引き寄せるぞ!」
一言声をかけて、マウンドへ向かう。
聖に肩へポン、とミットで軽く叩かれて少し振り向く。
無表情な顔だったが少し微笑んだように見えた聖に、グーのサインを出すと聖が頷いて守備位置へ向かう。
相手のオーダーはこんな感じになっている。
一番ライト 三森右京。
二番ショート 小山。
三番センター 水無月。
四番キャッチャー 鬼力。
五番ファースト 竜宮寺。
六番サード 稲田。
七番セカンド 茶来。
八番レフト 三森左京。
九番ピッチャー 青葉。
……良い選手が揃ってるな。
こりゃあ、もしかしたら秋大会はあのアンドロメダに対して一波乱がありそうだ。
そういうのを期待させてくれるチームなのかもしれない。
一番バッターの三森右京が打席に入る。
まずは初球ってこともあるし、ストライクがほしいところだ。
(内角へストレート。ストライクゾーンへ)
ゆっくりと振りかぶって球を投げ込む。
ズバンッと威力の感じられるストレートがミットに突き刺さった。
「ストライクッ!」
「ナイスボール!」
さすがに初球は手を出してこないか。
まあ初めての相手だし、そう簡単に打ちに行くほど相手も簡単じゃないってことだ。
(外角へスライダー。ストライクからボールへ)
二球目、聖のサインに頷いて投げると三森右京はバットを振ってくる。
しかし、バットは空を切る。
決め球にはならない俺のスライダーはカウント稼ぎや打たせて取るためならかなり有効なボールだ。当たり前だが、久遠や青葉よりは圧倒的に劣るし、猪狩よりも曲がらないけど制球が効くボールだから投げる割合が多い変化球だ。
三球目の内角高めのボール球の釣り球で三森右京は打ちあげてサードフライに打ち取る。
「ナイスだぞー」
「おう」
「打たせて来いでやんすー!」
「矢部先輩はどうせエラーするんだからやめときな」
「うるさいでやんす!」
ははっ。相変わらずなやつらだ。
っと、二番は確か准の先輩の小山が打席に入るのか。
体の線は細いし、長打は無いもののミートセンスは抜群。守備が堅いのも注意なんだけど、選球眼も良いしな。シュアなバッティングをする打者っていえばいいかな。
「お願いします」
そう言って構えると、バットを揺らして俺の方に視線を向ける。
初球は外角へスローカーブで様子見か。
右腕を振って投げると小山は打ちに行くが、バットを途中でやめる。
「ボーッ!」
外角がやっぱり得意なコースなのか分からないが、あの球に反応するんだったら内角攻めだ。
二球目に内角低めにストレートを投げる。
小山はそれをうまく三塁側へファールにしてカットする。
「ふぅ」
「……っと」
あのコースに反応するってことは嫌な打者だな。
まあ、警戒していたけどもっと要注意な打者だなこいつは。
准にはタイプは似てるけど、甘い球は打ちに来るタイプか。でも、全体的には選んでいくタイプなのはわかる。
恐らく後輩が居るチームだからいつも通りにはいかない感じなのだろうか。
「ピッチャー打たせろ!バッターに負けんなよ!」
みんなが声を出している中、准の声が俺に響く。
いや……小山にも絶対に聞こえたに違いない。……先輩として、後輩の姿を絶対に見ないわけがない。
一度、息を吐いて再び振りかぶる。
サインは外角へスライダー!
思いっきりよく投げ込んだスライダーを小山はしっかりと呼びこんで弾き返す。
ッカァン!と打球は快音を残してセンター方向へ伸びて行く。
「センター!」
「准!」
センターの手前に落ちそうな打球に准はいち早くスタートを切っていた。
それでも打球は若干勢いが落ちてきて、落ちそうなところで准が頭から飛び込む!
砂煙が舞い上がり、その中で准はグローブを上げる。
その中にはしっかりとボールが収まっていた。
「アウトッ!」
「ナイス!准!」
「ナイスだ!」
「センターナイスキャッチ!」
ナイスキャッチ!相変わらず凄い守備範囲だ。お前が居てくれてどれだけ良かったっていう場面があったことか。最高だぜ、本当にさ。
ベンチからもグラウンドからも准へ対する声が浴びせられる。
その反面、とき春ベンチからは残念がる声がところどころ挙げられている。
「サンキューな!」
「任せな!」
俺の言葉に少し笑って守備位置に戻っていく。女子とは思えない思い切りの良さ、打球に対する反応の速度、落下地点への予測の速さ。
まさに外野のスペシャリストにまで成長しつつあるぜ。怖いのがまだあいつが一年生ってとこだよな。
俺がボールを受け取る前に、アウトにされた小山を見る。
聞こえた、俺は聞こえた。
「……ナイスキャッチ」
と小山が呟いて戻っていく姿を見つめる。
なんだかんだ小山にとって、准は大切な可愛い後輩の一人。准が小山に対して、色々とあるだけで小山から准には特に何もないしな。
さてと。続く三番バッター。
――――――水無月 風。
あらゆる野球に関する能力に、絶大なる才能を持ち、その上で努力してきた選手。
その姿は中学時代に戦ってきた俺には今でもわかる。
―――まだ、故障しても終わっていない。
―――再びあのマウンドへ復帰するためにたぶん、相当な努力を積んできたのだろう。
そのため、負担を減らす為に外野というポジションにつき、四番から三番へと本来であれば自らの定位置ではない場所に着く。
たぶん、こいつもエースで四番というポジションに着きたいのだろう。
故障さえしていなければ、今は猪狩以上の怪物と言われ、メジャーへスカウトも来ていた可能性もあったのかもしれない。
そして今、こいつはあのときよりも成長している。
木製バットを持ち、打席に入る。足を大きく上げてスイングする一本足打法で、ブンッ!という音がマウンドまで聞こえてくる。
「朱鷺君」
「水無月」
「「勝負だ!」」
だからといって俺だって成長している。
同じ高校生、あのときのような差は感じられないはずだ。
猪狩の時と同じだ。
――――――負けたくない、こいつには。
聖のサインに頷いて、右腕を振る。最高のフォームで、最高の球を投げ込んだ。
そんな球を初球から水無月は関係無しに打ちに来る。
水無月のスイングは振りだしたのはわかったが、
――――――見えなかった。
完璧な球を、カッ!!!とバックネットにボールが凄い勢いで当たる。
「えっ……?」
「ファール!」
速い。速すぎる。
スイングの速さが予想以上……いや、そんなもんじゃない。
七井も東條も友沢も、確かに速かった。十分、プロでも通用するほどのスイングスピードを持つ奴らだ。
そしてこいつも、同じスイングの持ち主。その上、こいつは相手の球を、空気すらも風の如く、斬り裂いていくような感覚を与える。160キロの球にも捉えられるほどのスイングスピード。
初見で相手投手の球を真後ろにファールにするなんて、尋常じゃない。
キレのいい変化球についてこれる打者は大抵スイングスピードが速い。
最後まで変化を見極められて、芯に当てることができるからだ。ミートは感覚であるが、スイングのスピードは努力とセンスだと俺は思っている。
聖はミートセンスがあるのでスイングスピードが一流打者に劣るが、感覚や眼がかなり凄い分打率を残せる打者だ。俺は感覚に長けている分、打撃はクリーンアップを打てるほど。
こいつは天才かつ努力家。
要するにセンスも努力も感覚もすべて兼ね備えている。
(なんでお前ってやつは……)
かつて、二年前に戦った時よりも完全に成長してやがる。俺も成長していると思ったが、水無月もだ。
ワクワクするぜ、こういう最高クラスの選手と戦えるなんてな。
聖からサインをもらう。
聖もわかったのか、高速シンカーのサインを俺に出した。
それに頷いて俺は振りかぶる。
途中までストレートの軌道を描いていた球が急激に変化し、右打者のインコースへ落ちて行く。
俺特有の決め球を水無月は初見ながらもきっちりとフルスイングする。
木製バットが当たった乾いた音が響き、三塁ベースの左側へ鋭い打球が飛ぶ。
「ファ、ファール!」
「惜しい!」
なんて打球の速さ。喜多村が一歩も動けてなかったぞ。
木製バットの分、芯が金属バットよりも狭いので完璧に捉えないといけない。さらには木製バット特有の打ち方があるのだが、それをしないとプロでは一流にはなれないと言われている。
手首の押し込み、スイングの綺麗さ、鋭さ。
それは木製バットであっても変わらない男。
しかし、俺だって負けられない。
聖からのサインを受け取って頷く。
(さて、抑えさせてもらおうか。水無月!)
俺の様子を見てか、水無月は少し微笑むとバットを構える。
いくぞ、聖。俺が努力して掴んだ武器を。
思いっきり腕を振って、ミットをめがけて投げ込んだ。
コースは、内角低め!ストライクゾーンギリギリに決まる球。
大きく足を上げて、フラミンゴのように立つ姿は獲物のように捉えに行く。
水無月のバットはボールを捉えた。
ッカァン!!と打球はライトへ高々と大空へ舞い上がっていく。
打った後、走り出した水無月は打球を見つめていたが途中で足を止めて、行方を見る。
背後でバキッ!とバットが折れた音が聞こえた。
「ナイスボール……」
「そっちこそ、俺をやっとの想いで作り上げた球を初見で当てるなんてな。ふざけんなよ……まじでさ」
「いいや、その球でやられたんだからね」
手をブンブン振って、話す。
猛田は少しバックしていたが、やがて落下地点に入ったのかグラブを上げて捕球した。
「アウトッ!」
「次は俺がお前の球を打つ出番か」
「投げるときは、ね。まあ、打たせないけど!」
視線が交差するが、すぐにお互いにベンチへ戻っていく。
少し後ろから痛い、という声が聞こえて少し嬉しくなる。
ああ、あいつにも打てない球があるのかー……ってさ。
さて、点を取りに行かないとな。
「「「「「点取っていくぞ!!!!」」」」」
「「「「「任せろ!」」」」」」
行くぜ、ときめき青春学園高校。
これが俺達の野球だ。覚悟しておけ、今に見せてやる。
と、まあうまくいかないもので。
打席に立っていた友沢が見逃し三振してきて戻ってくる。
「っと、高速スライダーで三振か。友沢」
「知らん。あのコースから曲げて入れてくるなんて思わないだろう」
「ぷっ。打てない言い訳ですかー?」
「良いからさっさとマウンド行け」
「はぁ……お前ら。俺も外野に着かなきゃな」
五回までお互いにヒット二本に抑えられて、この回から俺が降板してみずきちゃんがマウンドへ上がる。
結局、ヒットを打たれたのは小山と水無月のみ。それ以外はかわしながらも、ストレート中心の配球で疲労を残さない球数で行けた。
こっちのヒットは聖と准のみだ。お互いに二、三番が出てくれるのに返せないのはちとつらいかな。
とまあ、青葉の球をみんなはそろそろ打ってくれそうな気がするし、期待ができる。
みずきちゃんがマウンドに立ち、俺がライトへ行く。
このパターンは俺達の必勝パターンになるのかもしれない。たぶん、来年の夏まではな。
「しまっていくぞー!」
聖が声をかけて、座る。相手打者は一番打者の三森右京か。
みずきちゃんが振りかぶって、外角低めへ構えたミットに最高のストレートを投げ込む。
「ストライクッ!」
「相変わらずのコントロールの良さだよなぁ。あれぐらい良ければ思いっきり投げれるんだけど……」
と言うものの、あの領域まで行くと才能の問題になるからな。
半個分をコントロールできる投手なんて日本のプロ野球選手入れても両手で数えられるかどうかだ。
早川かみずきちゃんぐらいか。二人とも球の遅さをコントロールで補ってる。変化球もすごいしな。
二球目はインハイのストレート。ギリギリかどうかの球を迷いながら、三森右京はハーフスイングしてストライクを取られる。これで2-0だ。
そして最後は外角へクレッセントムーンで空振り三振。
ふう、つくづく敵だったらって思うと怖い投手だ。恋恋に居られたら早川とみずきちゃんで同じ傾向の投手だけど、まったく違う方向への変化球使い。さらには完璧な制球力。点を取るイメージが全くわかない。
二番の小山にも外角へ変化していくクレッセントムーンを使って、1-0にした後内角へストレート、低めへスクリューと1-2にした後に外角低めへ決まるストレートでファーストゴロに打ち取った。
「外野バック!さっき打たれてるぞ!」
三番の水無月が打席に入る。
さっきは外角の高速シンカーをセンター前に運ばれたからな。ミートに徹してきたら、ヒットを打つのも簡単な打者だろう。
聖はここでインコース高めにミットを構えた。
恐らく一個分ボール球にして、あわよくばファールにさせようって作戦か。
その答えは――――――間違いだと思うぜ?
内角高めに放られたストレートを水無月はフルスイングで迎え撃つ。
ッカァンッ!、と音が響く。
凄まじいスイングスピードはボールを完璧に捉えて低いライナーで飛んでいき、フェンス直撃。
矢部君がすぐに処理して友沢に中継するものの、すでに二塁へ到達していた。
「水無月!ナイス!」
その声にグッ!、と拳を掲げて、ヘルメットをかぶり直す。
畜生、なんだあのバッティングは。ストライクゾーンで勝負してたら、スタンドインだったはず。
ボールゾーンで勝負したのは正解だったが、ある意味で間違いだな。
水無月は広角に打ち分ける打者で、ロングヒッターでもないし、アベレージヒッターでもない。まあ、高めは得意らしいっぽい。どう表せばいいかわからないがミドルヒッターと言えばそれにあてはまる。
けど、あいつはただのミドルヒッターじゃない。
友沢はどっちかと言えばアベレージヒッター(普通にホームランも打つけどな)だ。
水無月は”スーパーミドルヒッター”と言えばいいかもしれない。
甘いボールは完璧に捉えて、長打にする能力を持つ。
ヒットもホームランも両方打てる嫌な打者。それに加えて、強肩、俊足と外野をやっていく上での能力は十分すぎるほどだろうな。
みずきちゃんは打たれたものの、その後の鬼力を外角のストレート、内角へスクリュー、外角低めへのボール球の後、真ん中付近から変化していくクレッセントムーンで三振に切って取る。
「ナイスピー!」
「当然!」
「……ふっ、打たれたけどな」
「うっわ……嫌味なやつ」
またやってるよこの二人……。
俺は二人から眼を逸らして、グローブを置いてヘルメットをかぶって打席へ向かう。
球数は八十九球。制球が定まんないのだろうか、青葉はボール球を良く投げていた。
しかし、どんなカウントになってもツーストライクになったら投げてくる高速スライダーはうちの打線は全く打てていない。
友沢でさえも「久遠から打ったスライダーとは別物だ」と言うほど違うらしい。
打席に立って、バットを構える。
一度沈み込んでから投げ込んでくるフォーム。そこから繰り出される高速スライダーを思いっきりフルスイングする――――だが、バットには当たらない。
(打てねえな。140キロ前後の高速スライダー。切れ味抜群だ)
しかし、毎試合継投するということはスタミナには自信がないということになる。
そこさえ付ければ……もしかすると、だ。
二球目、外角へゆっくりと変化していくナックルカーブ。それを見逃して1-1。
ここまではほとんど猛田、友沢の配球と同じ。読まれても打てないってのがわかってるからこんなリードだけど、このキャッチャーはリードはうまくないな。
なかなか読み打ちしない友沢でさえ、読める配球だって言ってたしな。……それでも打ててないけど。
よし決めた。次は絶対に振る。ストレート、内角高めだ。
――遅い球の後の速い球。
――外角からの内角。
――低めからの高め。
すべてが揃ったみたいだ。
青葉が投じる。
俺は瞬時で投げられた球を理解した。
コースは内角高め、球種はストレート!
――――――ッキィン!と打球はショートの左横を鋭く抜けていく。
「よっし!」
俺はガッツポーズして、ベンチに向けて声を出す。
少々喰い込まれたが、思いっきりスイングしたからセンター前に抜けて行ったぜ。
躊躇してたらフライだったな。我ながら打てて良かった。
うん、球威は落ちてる。
さて猛田、打つなら今だぞ!
――――――ッキィィン!と快音が響く。
猛田の打球はセンター前へ抜けて行く。
うまくスライダーについて行けてる。眼も慣れたころだし、スライダーのキレも衰えてきてるし俺たちなら打ち崩せるぞ。
青葉が肩で息し始めたし、うちは下位打線だけど最近、みんなバット振れてる。青葉を攻略して、水無月をマウンドに上げさせたいな。
(ははっ。……たぶん、うちの打線は水無月が出たら一巡するまでは打てないけどな。……無論、俺含めてだけどなぁ)
続く喜多村が外角気味のストレートをライト前へ運んで、無死満塁。
峰田は思いっきりフルスイングをしてプレッシャーをかけるだけだ。高速スライダーを三つ投げられて三球三振に打ち取られる。
そして、霧丘。久遠からも打てたやつが同じスライダー使いなら打てる。
こいつはバカだから、どうせ高速スライダーと変化の大きいスライダーは同じもんだと思ってそうだからな。でも、左打者だからボールが見やすい上にビビらないで向かっていくこいつの打撃フォームスタイルは絶対に打ってくれる。
一年の夏の大会以来、レギュラーを外されてベンチ。悔しさがあるだろう。
――――――”才能開花”。誰もが有るわけじゃない。
けど、こいつはその時期が来たんだからな。
「しゃーす」
「霧丘!初球狙うでやんすよ!」
ナイスアドバイス!そう、初球を狙って行け。
六割方高速スライダーを初球に放ってきてるし、霧丘なら――――――
―――――ギュオッ!と高速スライダーがものすごい変化をする。
青葉がここにきて、気合いを入れ始めたか。いや、気合いと言うよりはまあ……気持ちが入ったな。
良い球だ。もちろん、霧丘はストライクゾーンをかすめるスライダーを空振る。
二球目は外角へナックルカーブ。ゆるやかに落ちてくる球をしっかりと見逃す。
「ふぅ……。俺もまだまだだな」
次の球種がわかってて、尚且つ期待ができそうなこの場面。
どうして緊張してしまうのだろうか。それが野球なのかもしれない。
霧丘がバットを構える。
青葉が振りかぶって投げる。
すでに球威は落ちているものの、140キロ前後の快速球を内角高めへ決めようとしてくる。
その球を霧丘は思いっきり振り切った。
ッキィン!とファーストの左横を鋭く抜けて、フェンスにぶつかる。
打球が速くて、一塁止まりだったが俺と猛田がホームに帰ってきて二点入る。
「どうだ!!!俺に続けよ!矢部!」
「ナイスバッティング!霧丘!」
「おいらも続くでやんすよ!」
「友沢、あんたも打ちなさいよ!」
「もちろんだ。お前のためにも打ってやる」
「ふ、ふん。どうだか!」
その後も打線は爆発し、矢部君、准のタイムリーに加えて聖が 右方向への進塁打。その後の友沢のスリーランホームランでこの回一挙7点。
そして、打者一巡し打席に俺が入るところでタイムがかかった。
「ピッチャー青葉に代わって水無月。センターに三森右京が入って、ライトに青葉が入ります」
「少しスタミナ不足だった。後は頼んだぞ」
「任せてほしい。ここからは一巡、ノーヒットだからね」
……来たか。”静寂なる竜 水無月風”。
青葉から水無月は笑顔でボールを受け取って、マウンドに上がる。水色に包まれた髪の毛、眼の色。いかにも技巧派か軟投派の投手だと思うだろう。
振りかぶって己の右腕を振る。
ズドッッ!!!と弾丸のような、もしくはレーザービームのようなストレートがキャッチャーミットに突き刺さる。
「は、速いでやんす!あんな球、猪狩君に匹敵するレベルでやんすよ!」
「……当たり前さ。俺らあかつき中が三連覇のかかった全国大会決勝で当たったチームのエースで四番。さらにあかつき中を完封に抑え込んだんだからな」
「あ、あのあかつき中をか?」
「シニアのやつはあんまり知らないかもしれないけど、当時の球速は138キロ。猪狩と同じ球速だ。その上、制球力に優れ、変化球の一つ一つのキレも凄い。特に、カミソリシュートはな。ま、しっかりと見といてくれ」
「ふっ、面白い奴だな」
「同じだぜ。打ち砕いてやんよ」
「むっ、目に焼き付けておこう」
おもしれえ。試合が決まって投げないのかもと思ってたが、そんな心配は無用だったか。
来いよ、水無月。打ち砕いてやる。
水無月がポンポン、とロージンバックを手の上で跳ねさせて、ポンッとマウンドに落として俺の方へ視線を向ける。
そして水無月は俺を見て―――少し笑った。
いらつきはしない。こいつも俺も勝負するのが楽しみだったんだからな。
水無月がキャッチャーにサインを出す。このタイプは投手がすべて配球を考えて、球種を決めるタイプのバッテリーだ。捕手の力が圧倒的に離れてるか、捕手のリードが悪いのがわかっているか、それとも投手が相当我が儘な性格かのどれかだ。
恐らく、水無月は鬼力がリード下手なのを知っていてこのタイプを使っているはずだ。
某剛腕投手で高速スライダーが武器の投手のフォーム。
顔の前にグローブを持ってくると同時に力をためて、右腕をガバッ!と開くと同時に勢いを解き放つ。胸のマークがまったく見えないフォーム……完璧なフォームだ。
そこから繰り出されたのは投球練習の際に放られたのと同じく、ギュュル!!!と音が出るほどの回転数が凄まじい球。
その球が俺の近くを横切って、ミットに突き刺さる。
「ストライクッ!」
―――――手が出なかった。というより、打てなさそうな球だった。
「……なんでやんすか、あれ」
「猪狩よりも速いんじゃない……?」
「雅先輩のチームの真のエースはあの人ってこと、か……」
一瞬、うちのベンチが沈黙する。
そんな中、ボールを受け取って水無月はマウンドを均す。
(猪狩の時と同じ。本気で立ち向かうんだ!)
水無月の外見に似合わない豪快なフォームから球が投げられる。
コースはど真ん中!球種は――――――ストレートだ!
俺は思いっきりフルスイングするものの、完全な振り遅れだ。ミットに入ったところでようやくスイングが始動する。
「ストライーク!ツー!」
っお……速ええええ……140後半。いや、150出てるかもしれねえな。
猪狩のライジングショットは浮き上がるが、水無月の場合はストレートのノビが猪狩のストレートのノビよりも上だ。ってことはこいつは、高校史上最強のリリーフ投手。そう考えた方が良いレベルだ。
水無月が俺を見て、またもや笑う。
そしてあいつは口で何かを言ってきた。
いや、多分球種を言ったんだろう。
―――――”ストレート”。
分かっていて尚且つ、打てないのならば相手が上ってことだ。
だが、簡単には終わらない。
水無月が投げてくる。
風を切ってくるそのストレートを寸分の狂いもなく、外角低めへ投げ込んできた。
それに対して俺は思いっきり踏み込んでフルスイングする。
しっかりとボールの上を意識し、通過するであろう球筋を予測し、完璧に捉えた。
―――――はずだった。
「嘘だろっ……!!」
水無月が投げ込んだ球はミットに突き刺さる。
「ストライクッ!バッタアウト!」
くっそ!あたらねーじゃん!。というよりまず眼で追えてなかったのが現実だ。
まったく、これだからな。これが本気だったのかよ。
恐らく、150キロオーバーに違いない。さらにあれだけノビのある球を投げるんだったらそりゃあ一打席やそこらじゃあ打てないわけだ。
「どうだった?」
「どうもこうも完璧にやられたりだ。猪狩よりもノビのあるストレートを投げられたら手も足も出ねー。その上加えて」
猛田が打席に入って、バットを構えた。
それに対して水無月は振りかぶって投げ込む。途中までストレートと思わせていた球はいきなり方向を変えて右打者の内側へ切り込んでくる。
当然、猛田は手が出ない。
「カミソリシュート、スラーブ、緩急のサークルチェンジまできたら。絞っていくしかないよな」
「そうか……あたしにはつらいな」
「まあ、これも良い経験だろ」
ズドッ!とストレートが突き刺さり、猛田は空振り三振に倒れる。
悔しそうな顔でヘルメットを脱いでバットを置く。
「ちっ、制球も完璧じゃねーか。あんなシュート、歴代のプロ野球選手でも一人いるか居ないかのレベルだろうが。おまけに常時140キロ後半となりゃあ、打つ手がないってのも納得だぜ」
打席には喜多村が入る。
初球に外角へスラーブをストライクゾーンギリギリをかすめて、ストライク。
水無月は少しホッとしたような顔になるが、すぐに投球フォームに入る。
「あのスラーブもキレ、変化共に一級品だ。スラーブの後に、シュート投げれば手も足も出ねえ」
「なるほどな。俺でも打てるかどうか怪しくなってきたが……せめてフルスイングして、前には飛ばせるだろう」
「友沢なら、友沢ならやってくれるはずだ!」
「バカだな。いいから守備に着くぞ」
喜多村が三球目にサークルチェンジに振らされて、三球三振。
水無月が登板してから三者三球三振に取って、ゆっくりとマウンドを降りて行く。
チームメイトを軽く談笑している水無月はやはりチームの中心選手なのだと思い知らされた。
そして水無月の登板によって、流れが一変する。
相手打線がみずきちゃんに食らいついていく。
さすがに高校トップレベルの変化球であるクレッセントムーンにもヒットにはできないものの、持ち味のコントロールで隅に決めたとしてもカットされたり、威力が平均を下回るストレートやスクリューをヒットにされて、ピンチを作ってしまう。
七回までみずきちゃんは失点せずにいたが、ついに八回に失点する。
二点タイムリーを浴びた後、小山に四球を与えて水無月に走者一掃のタイムリースリーベースを与えてこの回に五失点。
みずきちゃんは捉え初めると止まらなくなる。特にコントロ-ルがいくら良くても高校野球だったら、130キロ前後の球はレベルの高い高校にとっては打ちやすい球に分類される。
改善策は山ほどあるが、上げられるのは二つほどだ。
一つはストレートの球威を上げること。
しかし、これはなかなか難しい。成長期に入っている俺らは一年間で10キロ上がれば”覚醒”したと言っていいレベル。中には5キロしか三年間で上がらない選手もいるほどだ。さらに女性であるみずきちゃんに球威は上げにくい。
もう一つは新たな変化球を覚えること。
クレッセントムーンもスクリューも結局は同じ方向への変化球。反応できる甲子園出場校レベルの主軸打者は一度見たら対応できる。そこで、新たな変化球を覚えることでストレートで裏をかくこともできるし、武器のクレッセントムーンも生きる。
コントロールは抜群だから、少し変わるだけで一気に打ちづらい投手へと分類されると思う。
(かと言って、俺がどうこう言えないしなぁ……。俺も決め球は利き手方向へ落ちる変化球だし)
教えられることはないからな……。そこんとこはみずきちゃん次第だ。
ここで先生がみずきちゃんから宇津へとスイッチをする。ついでにセカンド、ライトに原と大京が入り、俺がベンチへ戻る。
ベンチに戻るとさっきまでマウンドに上がっていたみずきちゃんがアイシングをして一人で奥の方に座っているのに気づいた。そこに俺はみずきちゃんの隣に座る。
「最近、打たれてばっかだよね。私」
「……そうだね」
最近とは夏以降の練習試合でのことだ。先発での登板はないものの、うちの二番手……リリーフエースはみずきちゃんに決まっていることはうちの野球部の中では決定事項だろう。
先ほど上げた点が原因となっている。それはみずきちゃんも分かっているはずだ。
分かっていて尚且つ打たれる。それはどんなに辛く、苦しいことなのか。
「分かってるよ。変化球だって、スクリューとクレッセントムーンの二種類しかない。同方向変化球への変化球だもん、速度は違うからって言っても変化球は必ずそっちにしか曲がらないってわかっていれば、打者は絞れる」
「同意はしたくないよ。でもその通りだと思う」
「ありがとう。私には、朱鷺君みたいに多彩な変化球に加えて球威のあるストレートがある万能型の投手じゃない。鈴本君みたいなストレートを速く見せるための変化球なんてない。猪狩君みたいな最高の決め球に、最高のストレートがあるわけじゃない。あおいだって、マリンボールとシンカーの他にもカーブがある」
少しどこか寂しげに笑ってみせるとグラウンドを見る。
青空に囲まれて、マウンドに居る宇津が聖に向かって持ち前のストレートを投げ込んで空振りを取っている。
「練習はしてるんだよね。制球力だけじゃ駄目だから、スライダー投げれるように頑張ってる。でも、一人でできることは限られてるってわかったから、協力を友沢に頼んでおいたから分からないけど……」
「……」
「違うの、違う。弱いってわかってる。結局、投手としての仕事が果たせてないだけ。夏大会もリリーフの時は全部リードした展開。先発の時も先制点を与えてしまった。『二番手だから、エースじゃないから』ってどこかで安心してたのかもしれないから。……もう、自分がわからないの。悪循環に陥ってる自分を修正できないから打たれる」
「みずきちゃんは投手として忘れていることがある」
「?」
「確かにみずきちゃんは足りないものがある。でも、投げるときに重要なのは”勇気”じゃないのかな?」
「……”勇気”?」
「うん。甲子園だって見てれば、最後の年の三年生が打たれても打者に向かって投げてる。いくら差がついても投手だけは投げなきゃいけないから、打たれても投げ続ける。その行為には”勇気”が必要だ。どんな打者でも、立ち向かっていかなきゃいけないのが投手だよ」
「勇気、か。……うん、私には無かったのかもしれない」
「それに投げているときのみずきちゃんはマウンド上でも王様気分で投げた方が、みんなは安心するよ。そういう性格だってわかってるからさ」
「そうか、そうよね。自信満々の私じゃないと、いけないもんね」
「うん。……さあ、チェンジだから応援しようよ」
「ありがとね、朱鷺君。おかげで私を取り戻せたよ」
「それに俺の二番手であって、うちの守護神だからね。俺が崩れた時はもちろん、先発したときは俺がフォローするからさ。高校最高左腕の名を奪っても良いんだからね?」
その言葉にみずきちゃんは少しクスッ って笑って立ち上がる。
その眼にはすでに自信に充ち溢れ、水色に光る美しい眼があった。
その様子を見て俺は心配は必要ないな、と思って攻撃の応援を始める。
「こらー!点取ってきなさいよ!」
この様子だと、大丈夫だな。
秋大会への不安も一つ消え、チームは前へ少しずつ進んで行けると俺は確信した。
結局、試合は七対五で俺達の勝利に終わった。
八回まで投げ切った水無月は、九回に再び青葉に代わってセンターに着いた。
水無月には九人の打者すべてをパーフェクトに抑えられた上に、三振を六つ喰らったもののこんなもんだろと思う。
しかし、水無月側もあれが限界と感じたのだろう。
友沢にライトまで運ばれたストレートはやはり、軽い球だったらしくスタミナが不安要素みたいだった。だが、アンドロメダ学園と言った常連校にも対抗できるほどの戦力は揃っていると思う。
「ありがとうな、水無月。お前が投げてくれて良かったぜ、打てなかったけどな」
「いやいや、こっちだって。君が四番じゃないのも納得できた部分もあったしね。友沢君だっけ?彼は本当にすごい選手だよ。すべてにおいて完璧に近いレベルの選手だ。来年の上位のドラフト候補には確実に入ってくるよ」
「あいつはな。お前の投球もすげえな。……肘は大丈夫か?」
「……あはは、バレちゃってたか。まあ、なんとか。三回までしか投げれないし、医者には投手としては投げることを禁止されてるけど……チームのためだったら投げるよ。それが僕だからね」
「ははっ、そいつはすげえや。こっちはあかつきや帝王、パワフル、恋恋と強豪がいるけどそっちは激闘第一とアンドロメダしかいないな。お互いに頑張ろうぜ、そして甲子園で会おう」
「うん、甲子園で会おう」
そう言ってお互いに握手する。
水無月の手は素振りでマメがつぶれて、堅くなっている。努力している証拠だった。
甲子園で当たったら、絶対苦労する相手だ。今日なんて試合はめったにないだろう。
あっちでは准と小山が話している。
うん、俺が特に突っ込むことはないみたいだな。
あいつら次第だ。俺がどうこうする問題じゃないんだ。
「聖」
「どうした」
「秋大会。勝って甲子園行くぞ」
「ん、もちろんだ」
この相棒と一緒に。
あの舞台へ、絶対に行く。
あかつき大付属高校に勝つ、猪狩に勝つ。
そう誓いながら俺は気合いを入れたのだった。